――龍一郎サイド――
気がついたら、俺は卓袱台を挟んで初対面の爺さんと対面していた。
辺りは文字通り「真っ白」で、白い色以外に何も見えはしない。白い闇と言い換えれば、今の状況を一応は表すことができるだろう。
「えーと、名前は吉波龍一郎(よなみりゅういちろう)君。△□高校に通う高校生。
身長は170センチ、体重は約62kg。
家族構成は父親と母親のみで、一人っ子……と。間違いはないね?」
目の前の爺さんがどこからともなく紙を取り出し、すらすらと俺のプロフィールを言ってきた。
(この爺さん、何で俺のことを……というか、どうしてこうなった?)
俺は戸惑いながら、ここで気がつく前に何があったのかを思い返した。
――回想――
ライトノベルを読みながら、俺は電車を待っていた。
一応は本を読む以外にやることはあるのだが、正直気は進まないし、なにより本を読んでいたほうが百倍は楽しいのだから仕方がない。
『間もなく一番線に、快速○○行きが到着します。黄色い線までお下がりください』
ほぼ毎日聞いているアナウンスを耳に入れ、俺は黄色い線に触れるか触れないかギリギリの所まで前に出た。
あまり前に出ると危ないし、後ろに下がると横入りをしようとする馬鹿がいるからだ。
その牽制の甲斐あってか、横に入ろうとする者が一人もいないままで電車がホームに入ってきた。
―――ドンッ!!
唐突だった。突然俺の背に衝撃が走り、俺の足にある地を踏みしめている感覚が消失した。
(……え?)
俺はいきなりの出来事に頭がついていかず、文字通り思考停止状態となった。
そしておれが最後に見た光景は、電車の先頭車両の眩しく光る前照灯だった。
――回想終了――
「つまり俺は死んだのか」
「ほぅ。呑み込みが早くて助かるのぅ」
思わず出した呟きに、爺さんが感心の声を出す。
「冷静に考えたらそうなるさ」
「自分が死んだというのにえらく冷めているのぅ。もっとこう…驚いたり慌てたりすると思うが」
「勘違いしないでくれ。これでも結構動揺している。それに驚いたり慌てたりして事態が好転するとは思えないしな」
実際顔に出ていないだけで、さっきから頭の中がパニックになっているのだ。
頭の中が真っ白になるとむしろ冷静になるタイプの人間がいるとは聞いたことがあるが、どうやら俺もそのタイプらしい。
今知ったのだが。
「まぁそれもそうか。で、改めて確認するが、君は吉波龍一郎君で間違い無いか?」
目の前の爺さんが話を戻す。
「間違いは無いよ。神様」
「おっ!よく分かったのぅ!」
「まぁパターンだろ」
「身も蓋もないのぅ」
「話が早くて済むから助かるだろ。で、どこに転生させるんだ?」
だいたいお決まりのパターンではあるが、このまま天国か地獄に逝くよりは、新しい人生を生きた方がいい。
「あぁすまん。おぬしの考えているのとはちょっと違うんじゃ」
……は?
「どういうことだ?」
「おぬしは儂か儂の部下が手違いでおぬしを殺してしまったから、お詫びで転生させる。と考えているようじゃが、そういう訳ではない」
………はい?
「まずおぬしが死んだのは、私が強制的におぬしの寿命を変えたからじゃ」
………こいつ今なんて言った?
「ぶっちゃけると、儂自らがおぬしを突き飛ばして殺したんじゃ」
……ふ
「ふざけんなぁぁぁぁぁっ!!!」
俺は憤慨して卓袱台を蹴飛ばし、爺さんに殴りかかるが軽々と避けられる。
「話はまだ終わっとらんぞ」
「うるせえっ!」
爺さんの飄々とした態度が俺の怒りの火に油を注ぐ。
左フック、右アッパー、返しの左ストレート。
俺のラッシュをヒョイヒョイと避ける爺さん。
「やれやれ、少し大人しくせい。縛道の一・塞」
ビキィン!
「な!」
爺さんが言った刹那。俺の両腕はまるで見えない手錠にかけられたかのように動けなくなっていた。
「なんであんたがブリーチの鬼道を使えるんだ!?」
「阿呆。儂は神じゃぞ。これ位出来ないでどうする」
殺気立つ俺を横目に蹴り飛ばされた卓袱台を戻し、爺さんは最初にいた位置に腰を下ろした。
「大人しく座れ。話はまだ終わっとらん」
せめてもの抵抗に口をへの字に曲げて、殺気混じりの視線を爺さんに当て、手を固定されたままで腰を下ろし「で」と話を進めるように促した。
「まず少し過去の話になるんじゃが、一昔前に死んだ人間を別の世界に転生させるというのが儂等神の間で大流行してのぉ。かなりの数の人間を別の世界に送っていたんじゃ」
「ふーん」
「じゃがそれが原因で全世界のバランスが除々に壊れてきてしまったんじゃ。
まぁ普通転生する確立なんぞ滅多にないからのう。それがあちこちで起これば異常が出てくるのは当然じゃ」
「へー」
「それに気付いた儂等神々は転生行為を一切禁止して、全世界のバランスを修復する事に専念したんじゃ。その甲斐あって、転生者達は皆転生した地で天寿を全うし、バランスも修復されたという訳じゃ」
「苦労話を聞かせる為に俺を殺したのか?」
苛立ちの為か言葉に棘が出る。
「ここからが本題じゃ。確かに全世界のバランスは修復されたが、過去にバランスが崩れた影響がごく一部の世界で出てきてしまってのう」
「影響?」
「そう影響じゃ」
重々しく頷く爺さん。
「バランスが崩れたことにより、儂等神々でいう「歪み」というものが生まれてしまってのぅ」
「あぁ大体分かった。ようはその「歪み」をなんとかする為に俺をここに連れて来たと?」
「話が早くて本当に助かるわい。じゃがもう少し話を聞け。まだ続きがある」
「まだ続くのかよ」とため息混じりに呟く。
「本当にあと少しだけじゃ。それでその「歪み」のせいで、ごく一部の世界に本来ならその世界に存在してはならない破壊を招く存在が生まれてしまってのぅ。儂等はその存在を『存在してはならない者達(イレギュラーズ)』と呼んでいる」
「イレギュラーズか。安直だな」
話の大筋が見えてきた。
「ほっとけ。それでその各世界に現れたイレギュラーズを消滅させてもらう為におぬしを呼んだという訳じゃ。以上で説明は終わり。何か質問はあるか?」
俺は挙手……は出来なかったので「4つだけ」と言った。
「1つ。なんで神様が直接イレギュラーズを倒しに行かないんだ?その方が手っ取り早いだろう?」
「神が直接世界に干渉することは絶対の禁忌とされているんじゃ」
どうやら神も万能ではないらしい。
「2つ。そのイレギュラーズが現れた世界にも強い奴の一人か二人はいるだろう。わざわざ俺を送らなくてもいいんじゃないか?」
「確かにそうかもしれん。じゃが、念の為の保険も欲しいんじゃ」
打てる手はうっておきたいというわけか。
「じゃあ3つ目。なんで俺を送るんだ?さっきの話だと、他の世界に送り込むのは禁止されたんだろ?」
そんなに簡単に禁止事項を曲げていいのか?
「大事の前の小事じゃ」
あ。心読まれた。
「最後の質問。なんで俺が選ばれたんだ?」
これで適当に選んだとか言ったら本気で殴り飛ばす。
しかし俺の思惑と違い、爺さんはなにも言わずにその場で土下座した。
「すまぬ。それだけは言えないんじゃ」
「言えないって…殺した相手にそれを言うか!」
額に青筋が浮かぶ。
「確かに理不尽だということは重々承知している!じゃが、決して適当でおぬしを選んだ訳ではない。それだけは信じて欲しい」
絞り出すように出した爺さんの戯言に、俺は怒りのあまりぎりぎりと音がするほど奥歯を噛み締め、土下座した爺さんを睨み付けた。
………はぁ
「………顔を上げてくれ」
怒りを吐き出すように深々と溜め息を吐いて爺さんを促すが、なかなか顔を上げようとはしない。
「イレギュラーズに対抗できるように、能力はつけるんだろ?」
俺のその言葉に爺さんはやっと顔を上げる。
「やって……くれるのか?」
「俺がやるしかないんだろ」
友人からよく言われていたが、やはり俺はお人好しらしい。
「…すまん」
再び頭を下げる爺さん。
「ただ条件がある」
「出来るだけ善処しよう」
(二つ返事でOKするとはな…思ったよりも状況は切迫しているということか)
「まず一つ目。行く世界で一々説明するのが面倒だから、あらかじめ事情を知っている奴がいるようにしてほしい」
「うむ。それなら大丈夫じゃ」
「二つ目。俺一人だけだとやっぱり不安だから相棒が欲しい」
「相棒というと、どういったのがいいんじゃ?」
「防御や回復といった補助系に特化したやつがいい」
「容姿などで希望はあるか?」
「特に無い。任せる」
俺の希望に爺さんは「ふむ」と短く考え、「あいわかった」と了承する。
「三つ目。俺に付ける能力だが、俺自身で決めさせて欲しい」
「オッケー。それ位はお茶の子さいさいじゃ」
軽い返事に頭痛を覚える。
「最後の条件。この件が終わったら、思い切り殴らせろ」
「…分かった」
若干顔を青くし、不承不承といった感じで頷く。
「よし。それならイレギュラーズの一件。引き受けよう」
「すまんのぅ」
「もういいさ。で、能力のことだが…」
詫びを軽く流して、話を返る。
「あぁ、それならこれに書いてくれ」
そう言った爺さんの手には、どこから出したのか白紙とボールペンがあり、同時に俺の両腕を縛っていた鬼道も消え去っていた。
「んじゃ…」
両腕に残る痺れを払い落とすように軽く手を振り、俺はペンを走らせた。
――十分経過――
「書けたぞ」
「ほぅどれどれ……
魔力はスレイヤーズのリナ=インバースの5倍
チャクラはNARUTOの九尾の3倍
スレイヤーズの全魔法と魔術師オーフェンの音声魔術が使用可能
血継限界関係なしに全忍術・幻術が使用可能
サザンアイズの全獣魔術使用可能
NARUTOの写輪眼・永遠の万華鏡写輪眼・白眼
BLACK CATの予知眼(ウ゛ィジョンアイ)・支配眼(グラスパーアイ)
召還教師リアルバウトハイスクールの神威の拳。属性は火
スレイヤーズのガウリイ=ガブリエフクラスの第六感
BLEACHの虚化可能
修行や鍛錬をすればするほど強くなる無限成長能力
ナイトウィザードの月衣のような効果を持った持ち運びしやすいマジックアイテム
そしてその中に入れておく物が……全ての斬魄刀とおぬしの考えたオリジナル斬魄刀が7本(更にオリジナル解放形態付き)
冒険王ビィトの五つの才牙
家庭教師ヒットマンREBORNの全ボックス兵器&リング
生活雑貨用品
調味料(山ほど)
その他便利道具……か。いいじゃろう」
「…へ?」
いや、自分で言うのもなんだが、結構滅茶苦茶なチートを書いたんだが…まさか二つ返事でOKされるとは。
「さて、では早速じゃが旅立ってもらおう。覚悟はいいか?」
「あ…あぁ」
未だに呆けて生返事しか返せない。
「ではのぅ」
爺さんの「ぅ」の字が終わると同時に俺の足元に穴が開き、一気に落下していった。
「やっぱりこれはお約束かよぉぉぉぉぉっ!!」
――神サイド――
「頼むぞ…吉波龍一郎」
龍一郎が落ちていった穴を見つつ、儂は祈るように呟いた。
(……それにしても)
先程龍一郎が書いた紙に再び目を通し、
「あやつ分かっているのかのぅ?いくら優れた能力があっても、それをコントロールできなければなんの意味もないというのに……まぁ一応サービスはしておいたが…大丈夫かのぅ」
彼の落ちていった穴を、今度は不安な目で見つめた。