――龍一郎サイド――
「「「「平子(隊長)」」」」
一護さんとルキアさん。恋次さんに雀部副隊長に肩を貸している花太郎さんの声がハモる。
「やっ、ルキアちゃん。さっきは報告有り難うな。お蔭でどの隊も素早く対処に踏み切れたで」
手を挙げて朗らかに答える平子隊長を見て、その内にある隊長格の実力を感じ取ったのか、一護さんとルキアさんにそれぞれ鍔迫り合いをしていた鉄騎貝が後ろに跳んで距離を置き、目の前に居る相手と平子隊長を交互に見て、明らかに迷いの感情を見せている。
「一護、お前は総隊長の所に行きや。ルキアちゃんは一護の案内頼むで。此処は俺と阿散井が引き受けるわ。……それと」
先程までの朗らかな表情が消え去り、真面目な顔をして隊長らしく一護さん達に指示を出した後に、値踏みをするような目で俺を凝視した。
「お前がルキアちゃんの報告にあった吉波龍一郎か?」
「は、はい」
じぃっと見られて問われ、俺は戸惑いながらも返事をする。
「味方と思って…ええんやな」
「はい!」
今度は即答で力強く返した俺を見て、ふっと小さく笑い。
「目の前のそいつ…お前に任せたで」
そう言って平子隊長が指差す先には、先程まで俺と鍔迫り合いをしていた鉄騎貝がいた。
『お手並み拝見』
平子隊長の顔にありありと書かれていたその意に闘志が湧く。
「任せてください!」
エクセリオンブレードの切っ先を鉄騎貝に向けて吠える俺を確認し、平子隊長は一護さんとルキアさんの方に顔を向ける。
「という訳や一護。ここは俺らに任せて総隊長の所に行き」
「ちょっと待て平子!」
「あん?なんや?」
纏まりかけていた話に慌てて待ったをかける一護さんに、平子隊長がどこか間の抜けた口調で問い返した。
「花太郎と怪我人はどうするんだ!護る奴がいるだろ!」
「あぁ。それやったら心配は無用や。吉波の後ろにいる譲ちゃんがさっきからそこの2人に障壁張って護っとるからな」
「よく気付いたな」
「「「「!!!」」」」
突然俺の後ろから上がった聞き覚えのある声に、俺に一護さん。ルキアさんと恋次さんは声にならない驚愕と共に、俺は背後を振り向いた。そして皆も其処に視線を向けると、そこには浦原商店にいる筈の俺の相棒であるエルフィがいた。
「な、何でエルフィがここにいるんだ!?浦原商店で留守番している筈だろ!」
錯乱気味に叫ぶ俺に、エルフィは小首を傾げた。
「何を言っているのだ龍、最初に言っただろう。普段はステルスモードで姿を消して常に側にいると」
いや、まぁ確かに浦原商店に向かって歩いている時にそう言っているのは覚えているけど…俺が聞きたいのは転移符を使ってもいないのに、どうしてエルフィがここにいるかという事なんだが…。
「龍一郎達がソウルソサエティに転移したすぐ後に我も転移したのだ」
「心読んで答えるなよ」
「手間が省けるだろう」
…周りに原作キャラがいる状況でメタ発言を言うなよ。
内容が内容だけに心の中で突っ込みを入れる俺。
「でも転移出来るんなら、わざわざオケアヌスの輪から転移符を出して使わなくてもよかったんじゃないか?」
「正確な座標を特定するのにはかなりの時間が必要となるからな。龍一郎達が転移符で先に行き、その航跡を辿って転移をした方が遥かに速いからその方法をとっただけだ」
成る程な。
「お~い。もう話は終わったか~?」
間延びした平子隊長の呼び掛けに、俺はこの場が戦場であることを思い出し、慌てて気を引き締めて「は、はい!」と返事をする。
「ちゅう訳や一護。この譲ちゃんが2人を護っとるさかい。心配は無用や」
「エルフィは防御や回復といった補助系のエキスパートです。実力は俺が保証します」
渋る一護さんに言う平子隊長を俺がフォローする。
実際に浦原商店の勉強部屋で鍛錬をしていた時にエルフィの力を確かめてみたくて、障壁を張って貰って攻撃してみたのだが、とんでもないほどの硬度だった。
(最後の方には意地になって影分身を2体出し、最大威力の雷吼砲×3を障壁の一点に集中して撃ち込んでも傷一つ入らず、少し凹んだのは余談である)
「花太郎達を…頼む」
俺のフォローもあってか、一護さんは僅かに逡巡の間を空けてエルフィに言い、俺の相棒は無言で頷いて一護さんに答えた。
「行くぞ一護。付いて来い」
「あぁ」
一言のみの会話を終え、ルキアさんと一護さんは俺達に背を向けて空へ跳躍した。
――!!――
「おっと」
「させるかよ!」
2人が跳んだのを見た鉄騎貝達が後を追おうと動くが、瞬歩を使い目の前に立ち塞がった平子隊長と恋次さんによって出足を止められた。
「一護達は追わせへんで」
刀を抜いて肩に乗せた平子隊長が――
「どうしても追いたいのなら」
エクセリオンブレードの切っ先を向けた俺が――
「俺達を倒すんだな」
名を呼ばずに蛇尾丸を解放した恋次さんが――
「「「お前等の相手はこの俺だ(や)!」」」
異口同音に鉄騎貝達に言った。
☆
――一番隊舎執務室・三人称サイド――
「なに…」
己が放った燃え盛る炎を背に平然と立つ黒い影を目にし、元柳斎は驚愕に声を漏らした。
「たいした炎だが……この程度じゃあ俺の命は焼けねぇぜ」
流刃若火の爆炎を浴びたにも拘らず、その身に纏うマントにすら焦げ跡一つ付かないことに目を見開く元柳斎に、バウスは口角を上げて邪悪な笑みを浮かべた。
「ならば…」
元柳斎は即座に驚愕から立ち直り、バウスに再び流刃若火の炎を放つ。
「無駄だぜ」
先程と同じく炎に飲み込まれても、バウスは笑みを浮かべたままでその場に立っていた。
しかし同じ事を二度三度と繰り返す元柳斎ではなかった。
流刃若火の炎の波でバウスの視界を遮り、瞬歩で一気に懐へと入り込み刃を一閃する。
ギィン!!
バウスの左側。生物としての絶対的な急所の一つ。幾重にも血管が通う首筋を目掛けて振るわれた斬魄刀の刃は、見えない壁に阻まれて黒い皮膚に触れることなく止まった。
(これが朽木ルキアの報告にあった不可視の障壁か)
天廷空羅での報告にあった、現世で戦ったムガインも使っていた不可視の冥力壁。バウスもそれを使い、元柳斎の攻撃を完全に防いでいた。
「なに止まってんだよ」
元柳斎が思惟(しい)に入っていた一瞬のうちに、バウスは元柳斎の方に顔を向け、同時に腹部に狙いを定めてのボディアッパーを打ち込んだ。
しかし黒い拳が腹に入るよりも僅かに早く、元柳斎は瞬歩を使って後方に移動して間を開くことでバウスの一撃を避け、再び瞬歩を使い自らが元々立っていた場所に舞い戻った。
「へぇ」
空振りした拳を戻し、バウスは元の場所に戻った元柳斎を見て感心したように呟きを口に出した後に、獲物を見つけた肉食獣のような獰猛な笑みをみせた。
「速いな。涅マユリとは段違いだ」
「その障壁…涅を殺したのもその力故か」
バウスの言葉に敢えて答えずに自らの考えを語る元柳斎に、バウスははぁっと溜め息を吐いて後頭部を軽く掻く。
「こっちの話に答えるつもりは無ぇって訳か」
「瀞霊廷に攻め込んできた貴様に、儂が悠長に話し合うと思うたか」
「ま、そりゃそうだな」
あっさりと認めたバウスに元柳斎は流刃若火の剣先を向けて、一挙一動に反応できるように構えた。
(さて…あの障壁を如何様にするか)
切っ先を相手に向けて構えながらも、元柳斎は思案を巡らせていた。
朽木ルキアからの報告で現世に現れたムガインの使っていた冥力壁と、今現在バウスが張っている不可視の障壁が同じものだということは既に確信していたが、問題はその対処法だった。
報告によると現世に現れたムガインの障壁は当時その場にいた吉波龍一郎の特殊な武器で切り裂き消滅させたとあったが、今この場に吉波龍一郎が居ない以上、同じ方法は使えなかった。
流刃若火の炎を完全に防いだ所から、流刃若火よりも威力の劣る鬼道による攻撃は通じないと考えるべきだろう。斬魄刀による斬撃にも平然とした以上、打つ手が無いというのが現状である………が。
じつは元柳斎の切り札に、バウスの冥力壁を打ち破れる可能性を持つものが存在した。
流刃若火の卍解『残火の太刀』。
その技の一つ。残火の太刀”東””旭日刃(きょくじつじん)”。
流刃若火の莫大な炎の全ての熱を剣先に集中させ、切りつけたものを跡形もなく消失させる技だ。
いかなる堅牢な防御をも無意味とするこの技なら不可視の障壁を貫き通し、バウスに決定的な一撃を通すことが可能やも知れなかった。
しかしそれを実行するには一つ問題があった。
それは残火の太刀を解放するとそのあまりの高温のために、ソウルソサエティ中の水分が失われる程の異常乾燥を起こしてしまう事だ。
現在バウスの放ったモンスター達によって多数の重軽傷者が出ているこの状況で残火の太刀を解放し、水分を失わせることは多くの怪我人に止めを刺すことに等しい行為だ。
更に今現在ソウルソサエティには、護廷十三隊の者以外に黒崎一護と吉波龍一郎がいる。
護廷十三隊の隊士達なら『一死以って大悪を誅す』の意気を知り、いつ何時でも命を落とす覚悟をしているだろうが、この2人は違う。
護廷十三隊でもない者達を巻き添えにする訳にはいかなかった。
「おいおい。考え事なんかしている場合か」
元柳斎が思案に耽った一瞬の内にバウスが一気に間合いを詰め、こめかみを抉る様な左のハイキックを放った。
しかし元柳斎は即座に思考回路を切り替えて戦闘状態に戻し、軽くバックステップをしてバウスの蹴りを避け、がら空きになった左腹部に始解を戻した斬魄刀でカウンターの薙ぎ払いを打ち込むが、今までと同じく障壁に防がれ『ギンッ!』と刀身がぶつかり音が鳴る。
「効かねぇぜ」
蹴りを放った事で僅かに揺らいだ体勢を素早く直し、バウスは間髪いれずに先程のハイキックとは対照的な右のハンマーフックを振るうが、既に元柳斎は瞬歩で移動しており、その場にはいなかった。
ブォンッ!と重い風切り音と共に拳が空を切るのを、元柳斎はバウスから少し離れた場所でただ静かに見てるのみだった。
(カウンターも弾かれたということは、障壁は常時展開型。更に張り巡らせたままでの攻撃も可能…か)
「厄介じゃのう」
情報を纏めて出た結論に、元柳斎の口から呟きが漏れる。
(…やむを得ぬか)
元柳斎は静かに決意を固め、自らの霊圧を上げる。
ほんの一瞬。僅かな時間だが、卍解をするために。
しかし――
「破道の四!白雷!」
霊圧を高めるべく集中した刹那。聞き覚えのある女性の声と共に執務室の外から放たれた一条の雷撃がバウスに命中し、障壁に阻まれ四散する。
バウスがその雷撃が放たれた方向に視線を向けたその時――
「うぉぉぉっ!!」
咆哮と共にオレンジ色の髪を揺らし、身の丈程の大刀をバウスに叩きつける者がいた。
ギィンッ!!
「ちっ!」
耳障りな音を立てて弾かれる刃に舌打ちをした後に元柳斎の元にまで瞬歩で移動してきたのは、死神代行の黒崎一護であった。
「総隊長!ご無事で!」
同じく瞬歩で元柳斎の側に朽木ルキアが現れる。
「やれやれ。面倒だな」
2人を見てうんざりした口調で言うバウス。
そして元柳斎は援軍が来たにも拘らず、内心歯噛みしていた。
黒崎一護がこの場に来てしまった時点で、卍解を封じられたも同然となってしまったのだから。