――龍一郎サイド――
「…っ!」
「…くっ!」
突進の勢いを乗せた互いの斬撃が激しく合わさり、俺と恋次さんはぶつかり合った衝撃によって弾かれ、距離が開く。
(…力は向こうの方が上か)
衝撃の影響で斬魄刀の柄のを握る掌に感じる痺れから確信を得た俺は、即座に戦法を切り替える。
「舞い上がれ!飛燕!!」
俺が飛燕を解放するのとほぼ同時に――
「咆えろ!蛇尾丸!!」
恋次さんの声が重なり、七つの刃節に分かれた蛇腹剣。蛇尾丸が解放される。
どうやら恋次さんも至った結論は違えど、俺と同じ事を思ったようだ。
俺は力比べで分が悪いと判断して速度と回避を重視して飛燕を解放し、恋次さんは力で優位に立っている事を確信してこのまま力でねじ伏せようと蛇尾丸を解放をしたと。
ならば恋次さんと蛇尾丸の攻撃速度と俺と飛燕の回避速度。どちらが上かという事が勝負の分かれ目になる。
「おらあっ!!」
最初に仕掛けてきたのは恋次さんだった。蛇尾丸を伸ばして一点を貫くような突きを放ってくる。
飛燕で速度を上げた俺は唸りを上げて迫るその一撃を跳び越える形で跳躍して躱し、空中で即座に霊子の足場を形成。その足場を力強く蹴って瞬歩で一気に恋次さんに接近し、袈裟斬りに斬り付ける。
だが恋次さんは素早く蛇尾丸の刃節を戻して俺の一撃を受け止め、刃と刃が合わさったままで強引に薙ぎ払って俺を弾き飛ばす。
そして恋次さんは弾き飛ばされて体勢の崩れた俺に蛇尾丸を振り下ろした。
俺は反射的に刃節を伸ばして襲い掛かってくる蛇尾丸の刃を飛燕で受け止めようと構えるが、ぞくりと背筋を走る嫌な予感を感じ、俺は自らの右側に霊子の足場を作り、それを思い切り蹴って飛ばされる軌道を僅かでも変える。
そして俺は蛇尾丸の左側。七つに分かれている刀身の一つに鎌鼬を放ち、蛇尾丸の攻撃範囲を出来る限りずらした。
避けるのも受け止めるのも無理なら、攻撃をずらすしかないと思ったからだ。
その目論見は当たり、俺に向かって振り下ろされた蛇尾丸の刃は、何もない俺の右側の空を裂いていった。
「ちっ!」
「ふぅ」
仕留めたと思っていたのか、一撃を外した恋次さんが悔しそうに舌打ちし、その一撃をなんとか凌いで地に降りた俺は安堵の息を吐く。
(危なかったな…)
今になって頭が回りだし、俺は先程の恋次さんの一撃を受け止めていたらと内心想像し、冷や汗を流した。
もしあの一撃を飛燕で受け止めていたら、俺は受け止めきれずに蛇尾丸に押され、そのまま岩壁か地面に受身も取れずに叩きつけられていただろう。
いや、最悪蛇尾丸の力に耐え切れずに飛燕が折れてしまう可能性もある。
耐久性に秀でた一護さんの斬月とは違って飛燕は速度を重視した斬魄刀である為、耐久性はそれほど高くはない。折れる可能性は充分にある。
神から貰ったガウリイ並みの第六感に感謝し、俺は恋次さんを視界に納めて飛燕を正眼に構えた。
「成程な…てめぇの斬魄刀の能力は、使用者の速力を上げる類のものだな」
確信を持って言ってくる恋次さんに、おれは「正解です」とあっさり認めて補足する。
「まぁ正確には使用者の速力を上げるだけでなく、上昇したスピードに比例して反射神経や動体視力も向上しているんですよ」
「ほぅ…確かにてめぇのスピードは上がってはいる。だがその程度じゃあ、せいぜい五席位といった所だ……ぜ!!」
恋次さんは吠えると同時に蛇尾丸を振るった。
刀身がその名の通り蛇のようにうねりながら伸び、迫りくるその一撃を俺は瞬歩で避ける…が。
「甘ぇっ!!」
恋次さんは蛇尾丸の刃節を伸ばしたままで、間髪入れずに先程の一撃を避けた俺に、横に薙ぎ払う一撃を放ってきた。
「っ!」
俺は連続攻撃を仕掛けてきた事に一瞬動揺したが、すぐに頭を切り替えてその薙ぐ一閃を跳躍して躱す。
「甘えって言ってんだろうが!!」
しかし恋次さんは即座に空振りに終わった蛇尾丸を戻さずに左に切り上げ、先程よりも更に速度を上げて追撃する。
その予想外の速度で迫る蛇尾丸の刀身に、俺は鎌鼬を撃ち込んで僅かでも斬撃の勢いを弱めようとしたが、加速の付いた蛇尾丸の刃は鎌鼬の斬撃を受けながらもその勢いを緩める事無く俺に迫り――
「…がっ!!」
咄嗟に受け止めようと構えた飛燕ごと弾き飛ばされ、俺は一直線に落下し、まともに受身を取る事も出来ずに地面に叩きつけられた。
「ぐはっ!!」
その衝撃で肺の中にあった空気が呻きと共に全て吐き出され、意識が遠のくのと共に目の前にちかちかと星が瞬く。
次いで体を強かに打ち付けた痛みが全身を襲い、遠のいた意識が強引に引き戻される。
俺は全身に走る痛みに顔を顰めながらも立ち上がり、恋次さんを視界内に捉えて、地に叩き落されても決して離さなかった飛燕を強く握って再び正眼に構えた。
「ほぅ。根性はあるみてぇだな」
俺は感心した恋次さんの評価にも答えずに、荒い息遣いを繰り返して体内に酸素を行き渡らせる。
「だけどもう分かってんだろう?てめぇじゃあ俺の相手にならねぇって事をな」
無慈悲に告げられたその言葉に、俺は反論もせずにただ呼吸を繰り返す。
「てめぇの斬魄刀の能力から察するに、向上したスピードで相手を攪乱して優位に立ち、懐に入り込んで攻撃力のある技を叩き込むってのが基本的な戦闘法だろう。だがその速さを封じられると為す術もなくなっちまうんだよ」
飛燕の弱点を看破し、恋次さんは更に続ける。
「それに吉波。てめぇ…剣を振り始めて日が浅いだろ」
恋次さんの指摘に、俺の眉がピクリと動く。
「確かに体捌きは鋭く、打ち込みは力強ぇし、反撃に転じる速度も速い。
だがな、それに反して踏み込みは乱雑で、攻めるのも引くのも直線的、太刀筋も甘い。そんな素人剣術で俺の相手をしようなんざ……二千年早ぇんだよ!!」
恋次さんの一喝に、俺は飛燕を構えたままで俯いて奥歯を噛み締めた。
恋次さんに言われた事は、俺自身もずっと感じていた事だった。
なにしろ前世で習った剣術と呼べるものといったら、せいぜい学校の剣道の授業程度だ。
軽い竹刀に安全な防具を身に付けての『競技』など、虚との戦いを念頭に置いて鍛錬をしている死神達から見ればチャンバラごっこも同然だろう。
浦原さんとの鍛錬は剣術を学んでいた訳ではなく、あくまで実戦に必須な身体能力や反射神経を伸ばす事が目的だった。
恋次さんとここまで打ち合えた所からその成果はあったといえるが、やはり『剣道』の域を出てはいない。
そんなもので恋次さんを相手に通用する筈もないのは当然といえた。
だがそんなことは俺自身重々承知している。
確かに剣技では恋次さんに到底及ばない。ならば剣技以外のもので恋次さんに挑めばいいだけの事だ。
「引く気は…無ぇみてぇだな?」
俺の目を見て恋次さんの目がすぅっと細くなり、落胆を綯(な)い交ぜにした問いを投げる。
その問いに俺は、己の霊圧を高める事で答える。
――当たり前だ――と。
「そうか…なら吉波。てめぇの身体に教え込んでやるぜ。己の力量を弁えねぇ奴は大抵早死にするって事をなぁ!!」
忠告とも取れる警告を発して蛇尾丸を構える恋次さんに、俺は飛燕を正眼の構えから眼前に刀身を横一文字にした構えに変え、荒く吐いていた呼吸を整えていく。
(いくぜ)
己の相棒呼び掛け、俺は一気に力を解放する。
「卍!!解!!」
俺の咆哮に応じて飛燕の刀身から霊力が溢れ出し、俺を中心に旋風が巻き起こり砂塵が舞う。
そして旋風が収まると俺の相棒は真の姿へと変わって、俺の手に握られていた。
それは一護さんの斬魄刀。斬月の卍解・天鎖斬月よりも更にシンプルで原始的な形をしていた。
柄頭から刀身の切っ先まではおよそ普通の日本刀と変わらない長さ。
微塵の反りも無い直刀の刀身。
その刀身と柄を隔てる鍔は無く、柄の先端にある特徴的な丸い柄頭が際立っていた。
円頭太刀(えんとうだち)
長い時代の中で実用品から儀礼用へと変化していった多くの古代日本の直刀の一つだ。
だが俺の手にしているのは儀礼用ではなく、完全に実戦を想定した一振りだった。
「『天翔飛燕(てんしょうひえん)』
真の姿となった相棒の名を静かに紡ぐ俺を見て、恋次さんは目を見開いて驚いていた。
まぁそれも無理は無い。卍解は斬魄刀戦術の最終奥義段階。その卍解を素人剣術の域を出ていない俺が使うなど、到底納得できる事ではないだろう。
だが俺は神から得た特典によって制限時間という区切りの中で卍解を扱う事が出来る。そして『今ならば』そこから派生した形態も解放し扱える。
実は俺は、初めから天翔飛燕で恋次さんに挑むつもりは毛頭無かった。
天翔飛燕ならば恋次さんと対等に戦う事は出来ると思うが、せいぜい良くて善戦止まりだ。
それに俺は先程言った筈だ。剣技以外のもので恋次さんに挑むと。
この戦いが始まる前に、俺はエルフィから聞かされていたのだ。
気を失っていた時に『サーチ』をかけて貰い判明した事を。
浦原さんとのテストの時よりも卍解の保持時間が延びている事を。
神に頼んだオリジナルの解放形態が『2つ』は出来るようになっている事を。
俺は天翔飛燕を正眼に構えて集中し、解き放つ。
「卍解!!参式!!」
俺の声に応え、吹き上がった霊圧の衝撃波が波紋の様に辺りに広がり、大気を震わせた。
――恋次サイド――
「参式…だと?」
次から次へと起こる予想外の事に、俺はただ呆然として奴の発した言葉を繰り返すことしか出来なかった。
奴が卍解をしたまでは一応だが納得はいった。
神とかいう存在から色々な力を与えられていると予め聞かされていたから、卍解が出来ても不思議じゃなかった。
もっとも、頭では理解しても感情的には到底納得など出来はしねぇのだが……。
だが吉波がその後にやったことは、俺の内にあった苛立ちすらも消し飛ばす位に衝撃的なものだった。
卍解参式と叫び、吹き上がる霊圧の奔流が晴れた後、吉波の姿は今までと全く異なっていた。
現世で見た剣道で使われている胴着と袴を身に纏い、胸部には同じく剣道で使われている黒色の胴の防具を。
両腕には手の甲から肘関節までを覆う漆黒の手甲を。
両肩には手甲と同じ色をした肩当てを身に付けた姿となっていた。
「…行きます」
奴の静かな宣言に呆けていた俺ははっと我に返り、反射的に叫ぶ。
「卍解!!」
俺の声に応えて蛇尾丸の刀身が赤く光り輝き、白骨化した大蛇へと姿を変える。
「狒狒王蛇尾丸!!」
大蛇が顕現し、奴に向けて蛇尾丸を振るおうとした手を、俺は思わず止めてしまった。
消えたのだ。吉波が。
一挙手一投足を見失うことのないように視界内に収めていたのにも関わらず、俺の視界から忽然とその姿が消えていた。
そして呆気に取られて動きを止めた刹那、俺の腹に強烈な衝撃が走った。
「がはっ!!」
突然の事に、一瞬目の前が真っ白になる。
足から地を踏みしめる感覚が消失し、身体全体に奇妙な浮遊感を感じる。
そしてこの時俺は理解した。吉波は俺が卍解すると同時に俺の懐に入り込み、腹部に一撃を当てたのだという事を。
主人公の卍解の設定は斬魄刀設定の所にこのページを投稿した後に書き足します。
卍解参式は詳しい説明を21話位に入れる予定ですので、その後に斬魄刀設定の所に書き足す予定です。