大変お待たせしました。
何だかんだで約一ヶ月かかってしまいました。
ボーナス支給日が近かったおかげで、少しの間我慢して纏まったお金を手に入れ、新品のノートパソを購入できました。
これから頑張って投稿していきたいと思います。
そして凍結中に感想を書いてくれた皆さん。有難う御座います。
気が付くと、俺は見覚えの無い天井を見上げていた。
体の感覚から察するに、どうやらベッドに仰向けで寝ているようなのは分かるのだが、一体何故俺がこういった状態になっているのかがさっぱり理解できずにいた。
(確か恋次さんと戦って、狒骨大砲を破ったんだよな。それで恋次さんの懐に入って……)
記憶の糸を手繰り寄せて先程の戦いを思い起こすが、恋次さんに斬り付けた所でぷっつりと記憶が途切れていた。
「知らない天井だ…」
「何を使い古した台詞を言っている」
何気なく漏らした俺の呟きに、聞き覚えのある声でツッコミが入る。
声のした方に首を回して顔を向けると、其処には信頼している相棒が呆れた顔で此方を見ていた。
「エルフィ。此処は一体何処なんだ?」
「四番隊にある総合救護詰所の病室だ」
筋トレの腹筋の要領で体を起こして左右を見る俺に、エルフィは簡潔に答えてくれた。
そこで俺は自分が何故此処にいるのかを察し、少し顔を俯かせた。
(そうか…結局負けたのか。俺は)
副隊長相手に始めから勝てるとは思っていなかったが、それでもやはり全力を出しても敵わなかったというのは少しショックではある。
「何を暗い顔をしている?」
「いや、やっぱり力及ばなかったか……って思ってな」
「何?」
訝しげに聞いてきた相棒に自嘲するように答えると、エルフィはぴくりと眉を動かして不審そうな顔をした。
「俺も全力で戦ったけど、恋次さん相手には「ちょっと待て龍一郎」…ん?」
反省の言葉を突然遮った相棒に首を傾げると、そんな俺を見て何かを察したのか、エルフィは合点がいったとばかりに「あぁ」と言って首を何度も細かく上下に動かした。
「何なんだ?一体?」
一人で勝手に納得しているエルフィに訝しる。
「龍。汝は誤解している」
「誤解?」
鸚鵡返しに返す俺に、エルフィはこくりと頷いた。
「あぁ。汝は阿散井恋次に敗北してはいない」
「…へ?」
エルフィのその一言に、俺の口から間の抜けた一声が漏れる。
「かといって、勝利した訳でもない」
「…はい?」
もはや間の抜けた声しか出す事が出来なかった。
「汝と阿散井恋次の戦いは引き分けに終わったのだ」
「…………一体どうしてそうなったんだ?」
少し間を置くことでなんとか呆けた頭を元に戻し、相棒に詳しい説明を求める。
「それは…「よかった。目を覚ましたのですね」」
エルフィの話が始まる前にそれを遮ったのは、何時の間にか音も無く扉を開けて部屋に入っていた四番隊隊長・卯ノ花烈さんだった。
「傷の具合は如何ですか?」
俺とエルフィに全く気取られる事無く現れた事に驚きはしたが、いつも唐突に現れる相棒の存在で慣れていた事もあり、俺はなんとか仰天の声を上げる事無く肩や首を回して体の具合を確認し、「はい。もう大丈夫です」と自然に返す。
一方エルフィは俺と違って珍しく目を丸くして驚愕の表情をしていたが、卯ノ花隊長はそんな事など一切気にせずに「それはよかったです」と微笑んでエルフィを見た。
「あなたの治癒能力は素晴らしいですね。本当にこの短時間で彼の傷を癒せるとは、正直思いませんでした」
「あ、あぁ」
まだショックが抜けていないのか生返事で答えるエルフィに、卯ノ花隊長は「では、面会謝絶の札は外しておきますね」と言い、再び音も無く歩いて扉を開け、部屋の外に出て行った。
「…なぁエルフィ。卯ノ花隊長がこの部屋に入ってきた時に、足音や気配って感じたか?」
「いや。全く」
まるで狐か狸に化かされたような気分になり、俺とエルフィは卯ノ花隊長が出て行った扉をただ見つめていた。
「流石は初代剣八といったところか」
「そうだな」
相棒の呟きに同意したが、いつまでも呆けているのもどうかと思い、俺は話題を戻す。
「ところでエルフィ。俺と恋次さんの戦いは引き分けだったって言っていたけど、一体どうしてそうなったんだ?」
突然話題を変えられてエルフィは「あ…あぁ」と戸惑いを露わにして曖昧な返事をしたが、空咳を一つ吐いて俺の方に顔を向けた時には、呆けていたそれからいつもの表情に素早く切り替わっていた。
この切り替えの早さは流石は元がゼフィリスだなと感心する。
「確認に聞くが、先程の戦いで龍はどこまで記憶に残っている?」
「ん……と……卍解弐式で恋次さんの狒骨大砲を砕いて、懐に入って切り上げた所までは覚えているんだが……」
記憶を辿って答える俺に、エルフィは一拍間を置いてから口を開く。
「その一撃を振るい、阿散井恋次に当たる直前に龍は気を失い倒れたのだ。
切り上げの一撃が阿散井恋次に当たるよりも僅かに早く卍解の保持時間の限界を超え、卍解の力とそれまでの肉体的ダメージが纏めて来たことによってな」
「そうか…」
ある意味予想していた結果に、俺は小さく吐いた溜め息混じりに呟いた。
しかし其処で、俺の斬撃が当たっていないにも関わらず引き分けになった事に引っ掛かりを覚え、「じゃあ恋次さんはその後どうなったんだ?」とエルフィに聞く。
「阿散井恋次もある意味汝と似た状況だ。
龍が卍解弐式で狒骨大砲を打ち砕くのを防ぐべく霊力を込めて狒骨大砲を強化していたが、その為に瞬間的に大量の霊力を消費したが故に気を失い、結果は引き分けに終わったという訳だ」
「それはなんとも…」
やっと全てを理解して、俺は思わず「ははは…」と乾いた笑いを上げた。
双方共に程度は違えど、限界を超えて自滅しての引き分け。
なんとも情けない結果だ。
「出来る限り全力でやったんだがな…」
「結果はそうなったが、隊長達に力を見せるという点に置いては悪くはなかったと思うぞ。
中でも卍解弐式と参式の存在にかなり注目していた」
「それなら使った甲斐があったな」
実は恋次さんとの戦いで卍解弐式と参式を立て続けに解放したのは、戦局を有利にする為だけでなく、戦いを見ている隊長達の興味を引く為という目的もあった。
尤も卍解の新たな解放形態を扱えるという事で、隊長達の興味を引くだけに留まらずに危険分子と見なされてしまう可能性もあるのだが…。
そんな頭に浮かんだ不吉な考えに軽く身を震わせた俺の耳に、先程閉じられた扉の向こうから複数の足音が聞こえてきた。
その足音は扉の前で音を止めた後に、僅かな間を置いてコンコンと軽く扉が叩かれた。
「どうぞ」
一体誰だろう?と思いつつ返すと、開かれた扉から顔を出した面々に、俺は軽く目を見開いて驚いた。
なんと扉を開けて入ってきたのは、一護さんに恋次さんにルキアさん。そして総隊長と更木隊長に先程来た卯ノ花隊長と現在治療している涅隊長を除く全ての隊長達だった。
(いつか来る事は予想していたけど、まさかこんな一遍に来るとは思わなかったな…)
「よぉ、目が覚めたんだな」
「はい。まぁ…」
軽く手を挙げて歩み寄る一護さんに、俺は隊長達から感じる重圧に気圧されて曖昧な返事を返す事しか出来なかった。
「正直驚いたぜ。まさか恋次と引き分けるなんてな」
決して褒められた結果ではないと思っていたのだが、予期せず受けた一護さんの賞賛に、俺は急に照れ臭くなってカリカリと頬を軽く掻く。
「いえ、あそこまでいけたのは卍解弐式や参式といった、恋次さんの知らない事をやったからです。
でもそれも先程見せてしまいましたから、もし次に戦うことになったら、まず敵いません」
端から聞いたら謙遜しているように聞こえるかもしれないが、言っていることは全て俺の本心だ。
先程の戦いで俺と恋次さんの一番大きな差は『知っていた』事と『知らなかった』事だ。
俺は前世で見ていた漫画やアニメで、恋次さんの性格や戦法。斬魄刀の能力や特性、始解時と卍解時の技など、戦いに有利となる情報をかなり知っていた。
逆に恋次さんは現世やソウルソサエティで、俺の斬魄刀の始解や才牙などは見ていたが、卍解弐式や参式などの此方の切り札となるものは一切知らなかった。
この差があったからこそ、俺は不完全な写輪眼でも恋次さんの狒々王蛇尾丸による攻撃を避けれたし、卍解弐式や参式を解放した時の動揺を突いて攻撃を当てる事も出来たし、性格を利用して狒骨大砲を撃たせることも可能だったのだ。
だが先程の戦いを通して、恋次さんも俺の情報をかなり知っただろう。
そうなると、もしまた戦う時になったら同じ手はまず通用しない。
双方共にある程度手の内が知られている者達が戦えば、純粋な実力でのぶつかり合いとなる可能性が非常に高くなる。
そうなるとまだまだ未熟な俺が圧倒的に不利なのは火を見るよりも明らかだ。
そんな俺の内心はさて置き、見た目は親しげに話をしている俺と一護さんの会話をルキアさんが「こほんっ!」とわざとらしく咳払いを一つして寸断し、注目を集める。
「話の腰を折ってすまないが、吉波。貴様に聞きたいことがある」
「卍解弐式と参式の事についてですか?」
予め予想はできていた事だったので先んじて返すと、ルキアさんは「あぁ」と深く頷いた。
「エルフィから何処まで聞きましたか?」
「貴様が卍解を起点として派生させ、想像し、神の力によって造り上げたという所までだ。詳しい話は貴様から聞けと言われた」
(ふむ……となると一から全部を話さなきゃ駄目だな)
俺は頭の中で素早く要点を纏め、こほんと軽く咳払いを一つして間を空けた後に口を開いた。
「卍解弐式と参式はエルフィの言った通り、皆さんが使っている卍解――俺は壱式と呼んでいますが――から派生した解放形態です。
まぁ正確に言えば、弐式と参式の他にもう二つ存在するんですが…「なんだと!?」うわっ!!」
突然説明を遮って俺に詰め寄ったのは、今まで話していたルキアさんではなく、ルキアさんの後ろにいた日番谷隊長だった。
今にも俺に掴み掛らんばかりに血相を変える日番谷隊長を、両隣にいた浮竹隊長と京楽隊長が肩に手を置いて無言で静止する。
自らを止めた両隊長に日番谷隊長は鋭い目で睨み付けたが、やがて冷静さを取り戻したらしく体の力を抜いてふぅっと息を吐いた。
日番谷隊長が落ち着いたのを確認し、二人の隊長は肩に置いていた手を退けた。
「すまなかった。話を続けてくれ」
冷静になった日番谷隊長に促され、俺は戸惑いながらも説明を続ける。
「は、はい。さっきも言いましたが、卍解の解放形態は通常の壱式と先程俺が使った弐式と参式。そして四式があります。そして壱式を除いた3つにはそれぞれ長所と短所が存在します」
「へぇ。それは一体どういうふうなんだい?」
興味深げに眉をピクリと動かして聞く京楽隊長に、俺は頷いて弐式から順番に説明していく。
「まず卍解弐式は、恋次さんの狒骨大砲を切り裂いた事から分かる通り、絶大と言っていいほどの攻撃力・破壊力を長所としています。
ただその攻撃力故に使用者の力を爆発的に消費してしまうので、維持時間が極めて短く扱いが難しいんです。
そして卍解参式ですが、実はこの解放は一護さんの斬魄刀・斬月の卍解のある特徴を参考に想像しました」
「俺の…天鎖斬月のか!?」
いきなり自分の斬魄刀の名が出た事に、思わずといった様子で声を上げる一護さんに皆の視線が集まるが、俺は構わず話を続ける。
「卍解参式は一護さんの卍解の特徴である『纏う』という点を参考にしました。だから解放すれば、斬魄刀を衣の様に纏った形態になるんです。
長所は弐式に比べて扱いやすくて維持時間も長く、攻守のバランスが取れているという事。
短所は刀剣の姿ではなく自らの肉体に纏う姿なので、基本的に攻撃方法が白打一択のみだという事です」
「成程な。せやから阿散井と戦った時に拳を使った接近戦しかせぇへんかったんやな」
俺の説明に納得した様子で平子隊長が頷く。
しかし俺は納得している平子隊長よりも、その隣で顎に手を当てて何やら考え込んでいる砕蜂隊長の方が気になったのだが、特に何も聞いてはこなかったので俺は話を先に進めることにした。
「そして卍解四式は四つの解放形態の中で最もリスクが高いです。
斬魄刀と一体となる形態であり、最上級の死神の力を一時的に得る事が出来ますが、解放が解けた時に死神の力の全てを失います」
「「「「「「「「「「「(ちょっと待て)!!!」」」」」」」」」」」
その場にいるほぼ全員が息を呑む中で、ただ一人。一護さんだけが俺に待ったをかけた。
どうやら一護さんは気付いたようだ。卍解四式の正体に。
顔を強張らせて此方を見ている一護さんに、俺はゆっくりと頷いた。
「はい。卍解四式は、またはこう呼ばれています『最後の月牙天衝』と」