まさか歯を一本抜くだけで、身体面にここまでダメージがくるとは思いませんでした。
ともあれそんな中で再び一月程かかってしまいましたが、何とか一話を書きました。
では・・・どうぞ。
――龍一郎サイド――
一番隊舎執務室。
十日前にバウスが現れたこの場所に山本総隊長とその総隊長の右後方に雀部副隊長が立ち、そして更にその後方に俺とずっと姿を見せていなかったエルフィがステルスモードを解除して立っている。
その中で皆が誰一人声を発さずにただ黙しているのは、これから起こるであろう戦いを予期しているからだろう。
それに先程から俺は・・・いや、おそらく俺だけでなくバウスと実際に対峙した山本総隊長も感じ取っている筈だ。
肌を刺すようなビリビリとした覚えのある独特の感覚。
間違い無くバウスの冥力だ。
――既に近くにいる――
それを察し、才牙を取り出そうとオケアヌスの輪を掴んだ次の瞬間――
バガァッ!
俺とエルフィの遙か前方。丁度総隊長の目前にある床が割れて穴が開き、そこから禍々しい紫色をした光の柱が天井へと立ち上る。
そしてその光の柱の後に続くかのように、穴から見覚えのある黒い巨体がゆっくりと浮かび上がって来た。
「・・・よぉ」
文面だけを見れば気軽な言葉に思えるが、その口から発せられた声色は言葉とは裏腹に恐ろしく低く、重いものだった。
そのバウスに対し、総隊長は微動だにせずにその場に立ち、雀部副隊長は刀の柄に手をかけていつでも抜刀出来るように体勢を作り、俺はオケアヌスの輪からエクセリオンブレートを取り出して、バウスに切っ先を向けて正眼に構える。
そんな警戒心を剥き出しにしている俺達を一瞥し、バウスは総隊長に視線を向けた。
「十日前の答えを聞きに来たぜ。山本元柳斎」
バウスは総隊長を悠然と見下ろして口を開いた後に右手の掌を上に向け、総隊長に差し出し続ける。
「鬼道砲を俺に寄越せ」
――ゴウッ!!
刹那。バウスの黒い巨体が突如として起こった爆炎の奔流に呑み込まれた。
(な!?)
喉元まで出掛かった驚愕の声をなんとか押し留めた俺は、突然の事態に混乱しながらも総隊長へと視線を向けて、其処で一体何が起こったのかを察した。
何故ならば俺の視線の先にいる総隊長の手には、斬魄刀の外皮となる杖は無く、その刀身に炎を纏った抜き身の斬魄刀が握られていたからだ。
おそらく総隊長は、バウスが言い終わったと同時に外皮を消し、流刃若火を一閃して爆炎を放ったのだろう。
それも俺の目に止まらない程の速さで。
もしも写輪眼を発動していればその動きを捉えることが出来たのかもしれないが、今の俺ではそれは適わなかった。
だが俺は唐突にある事実を思い出し、惚けた頭を切り替えて警戒態勢へと移行する。
思い出したのは奴等の力。才牙で力を弱めた上で卍解した一護さんの月牙天衝を受けても、その生命を断つことが出来なかった防御壁。
「おいおい。いきなりかよ」
爆炎の中から聞こえる呆れた様な声に対し、山本総隊長はただ黙し、雀部副隊長は抜刀し、俺は写輪眼を発動して警戒のレベルを上げる。
「これがお前の返答か?山本元柳斎」
その黒の巨体に焼け焦げ一つ付くことなく、爆炎から歩み出て冷たい目で見下ろすバウスに、総隊長は――
「無論」
一言で明確な拒絶を示した。
「貴様に鬼道砲を渡すつもりなど毛頭無い。これは儂個人ではなく、護廷十三隊の総意である」
「・・・そうか。なら仕方無ぇな」
バウスが溜め息混じりにそう呟き、パキンと指を鳴らした。次の瞬間。
・・・ドォォンッ
重く響く爆発音が瀞霊廷に木霊した。
「テメェ等全員を潰して・・・鬼道砲を頂いていこう」
「そのような事をさせると思うか」
ゴウッ!!
総隊長の目がスウッと細くなると同時に流刃若火の力を解放され、辺り一帯が炎に包まれる。
だがバウスはその炎を目にしても欠片程の動揺も見せず、寧ろ余裕を感じられる笑みすら浮かべていた。
「忘れたのか元柳斎?テメェ等死神の力は、俺達ヴァンデルの命には到底届かない事を」
突き付けるのは十日前に起こった事。
炎熱系最強にして最古である斬魄刀、流刃若火が通用しなかったという事実。
だが総隊長はその言葉を――
「甘いのぅバウス」
容易く一蹴した。
「この十日間。儂等がただ安穏と時を過ごしていると思うたか」
総隊長が言った刹那――
ドン!!
瀞霊廷の上空から『壁』が降ってきた。
この現象はコミックやテレビ越しではあるが、俺も見たことがあった。
瀞霊廷の外側にある街。流魂街から許可無く瀞霊廷内に入ろうとする時に降ってくる『壁』。
そう。一護さんがルキアさんを助けにソウルソサエティに入った時に、じ丹坊と戦う前に降ってきた物だ。
だがバウスは瀞霊廷を一周するように降ってくる壁を一瞥するのみで、余裕の色を崩してはいなかった。
「これが俺への対策か?」
ドドドドッ!
見下す様に問うバウス。だがその表情は――
ドドドドッ!
瀞霊廷を囲う壁が完成したその瞬間に――
ドン!!
消え去る事となる。
東に位置する青流門から青い光線が。
西に位置する白道門から黄色の光線が。
北に位置する黒隆門(こくりょうもん)から緑の光線が。
南門に位置する朱洼門(しゅわいもん)から赤い光線が。
それぞれ瀞霊廷の中心部へと伸びていき、その四つの光線を迎えるかのように、中心部から白い光線が天に上がる。
そして赤、青、黄、緑、白の光線が瀞霊廷の上空で一点に合わさり、それと同時に四つの門にある光源から更に光線が放たれ、壁を沿ってそれぞれの光源にぶつかり、瀞霊廷全体を包み込む円錐形の結界が完成する。
「・・・ぐっ!」
この時。初めてバウスの顔に苦悶の色が浮かび、俺は「よしっ!」と内心ガッツポーズをとった。
これこそがエルフィと総隊長。そして浦原さんが立てた作戦の要だ。
瀞霊廷の東西南北にある門と中心部に、エルフィと浦原さんが作った天力の属性である火・水・風・雷・光の天力の力を持つ特殊な珠をそれぞれ設置する事で結界を作り上げる。
冥力を減衰させる特殊な結界を。
この策の元となったのは俺やエルフィ。総隊長の情報ではなく、実は浦原さんの疑問のこの一言が始まりだった。
『元々ヴァンデルがいる世界では、力の無い人達はどんな風に身を守っているんスか?』
確かに死神と比べて基本的にスペックの低い冒険王ビィトの世界で、どのようにヴァンデルやモンスターがウヨウヨしている中で生き残っているのか疑問に思うのは当然といえば当然だ。
そしてそこからエルフィが話した『門』の存在が、今回の作戦の要である結界の重要なヒントとなった。
門。
『冒険王ビィト』の世界で各地の国や里、村落などを守るための防護壁であり、力の無い人々を守る最後の砦である。
その強固な防壁と上空にドーム状に展開された不可視の防壁が、ヴァンデルやモンスターの侵入を防いでいる。
外側の攻撃に対して特化されている為、内側の攻撃には脆く、門の内側に入った者に対しての対策が殆ど施されていない等の欠点はあるものの、冒険王ビィトの世界ではこの門の存在によって力の無い人々が生き長らえていると言っても過言ではない。
そしてこの門の存在を話し、浦原さんは今回の結界の作成を思い立った。
それもただ単にオリジナルの門を真似る訳でなく、藍染惣右介を迎え撃つ為に作った転界結柱の技術と併用し、この結界を作り上げたという訳だ。
それでも目の前にいる存在に確かな効果があるかどうかは正直分からず、その辺りは半ば賭けに近かったが、バウスが苦悶の表情を浮かべた様を見ると、どうやら賭けには勝ったようだ。
「き・・・貴様等これは・・・まさか・・・」
何をしたのか自らの身体で悟ったのか、今までの余裕の表情とは明らかに違い、憎悪を纏って俺達を睨みつける。
「主等の力の源となる冥力を減衰させる特殊な結界を展開させた。この結界の中にいる限り、主等の優位に立つ事は無いと思え」
「・・・甘ぇな」
優位を覆した事を言い渡す総隊長に、バウスは憎悪を表に出しながらも口の端を歪めて一蹴した。
「さっき結界が完成する直前に東西南北の門から出た光。あそこに重要な物があると言っているようなもんだぜ」
そう言って指をパキンと鳴らす。
確かにバウスの言う通り、この結界は四つの門と瀞霊廷の中心部にある特殊な珠によって形成されている。
それはつまり五つの珠の内どれか一つでも欠けてしまえば、結界を維持する事が出来なくなるのに他ならない。
そしてこの結界が消え去ってしまえば、此方側の優位性を完全に失ってしまう事となる。
つまり一つの珠の存在が此方の死活問題となるのだ。
だが山本総隊長を始め、俺も雀部副隊長も図星を指されながらも全く動揺する事もなく、ただ目の前の戦うべき存在に目を向けていた。
――三人称サイド――
バウスが指を鳴らした正にその時。四つの門の付近では地面が一斉に揺らぎ始め、各所にいる死神達に動揺を与えていた。
「うわっ!何だ!」
「地震か!?」
「違う!地面の下から何かが出ようとしている!!」
動揺が広がる中で、一人の護廷隊士が真実に気付き声を張り上げるのと、地中から黒い巨躯が現れたのはほぼ同時だった。
「グオォォォン!!」
雄叫びを上げて地中から這い出して来たのは、巨大なカブトムシだった。
現世で黒崎一護や吉波龍一郎が戦った中甲虫に非常に似たフォルムではあるが、明らかにそのスケールが異なっていた。
全長五メートルはある巨躯に、その身体に見合う手足。大人でも容易く食い千切れそうな顎。そして中甲虫とは決定的に違う点。頭部に生えた一本の立派な角がその存在の最終進化形態である事を如実に物語っていた。
大甲虫
冒険王ビィトに登場するモンスターの一種で、その名の通り中甲虫が成長し変態を遂げた形態だ。
「うっ・・・うあぁぁっ!!」
突然現れた大甲虫に隊士達はパニックになりながらも、斬魄刀を抜いて一斉に切りかかる。
だが・・・。
ギギギギィンッ!
大甲虫の柔軟でありながらも堅牢な外甲は、その斬撃の全てを受け止めても傷一つ付く事は無かった。
その事に動揺し、死神達が動きを止めた瞬間。
「グオォォォッ!!」
咆哮と共に振るわれた大甲虫の丸太の様な腕が隊士達を薙ぎ払い、地に叩き伏せる。
そして大甲虫は倒れ伏した隊士達に一瞥もせずに、一点を目指してズゥンズゥンと地響きを立てて歩を進めて行く。
その目指すには光り輝く珠を取り付けた門があった。
大甲虫の狙いに感づいた隊士達が、少しでも歩みを止めようと斬魄刀で斬りつけるが、時折煩わしげに巨腕を振るうだけで、大甲虫の歩調を止める事も鈍らせる事も出来ず、とうとう門の前にまで接近を許してしまった。
そして大甲虫は門ごと珠を破壊しようとするかのように巨腕を振り上げた・・・その瞬間。
ザンッ!
振り上げた腕が根元から断たれ、黒い巨腕が宙を舞い、地に落ちる前に霞の様に溶け消える。
「グオォォォッ!!!」
地から這いだしてきた時のほうこうとは明らかに違う苦しみの叫びを上げ、大甲虫は己の腕を斬り落とした者に複眼の全てを向けた。
「何だぁお前等情けねぇぞ!それでも護廷十三隊最強の十一番隊か!!」
解放した斬魄刀。鬼灯丸を肩に乗せ、腕を斬り落とした者。斑目一角が周りの隊士を叱責し――
「全くだ。こんな奴に手こずるなんて、美しく無いね」
一角の横に立つ綾瀬川弓親が同意する。
一角は隊士達を一瞥して「ふん」と鼻を鳴らし「まぁいい。お前等!全員下がれ!」と怒鳴り「隊長からの命令だ!」と続けると、皆がこの後に起こる事を察したのか一斉に下がる。
そして隊士達が下がると同時に――
ドッ!!!
門の方から放たれた剣圧が一直線に大甲虫に向かい、そして体を唐竹割りに両断した。
「グ・・・オ・・・」
大甲虫は自らの身に何が起こったのか理解出来ないのか、断ち切られていない腕で数度空を掻く様に動かしていたが、やがて斬られた腕と同じ様に音も無く消滅した。
「けっ・・・見せかけだけのデカブツか」
門の前で立つ眼帯を付けた護廷十三隊最恐の男。十一番隊隊長・更木剣八は、消滅した大甲虫を見てつまらなそうに吐き捨てた。
「きゃははっ!大きな虫さ~ん」
剣八の肩に乗る同副隊長・草鹿やちるが桃色の髪をフワフワと揺らして笑う。
それとほぼ同時に――
ドォンッ!!!
此処とは異なる三つの門のある場所から轟音が鳴り響き、それぞれの場で土埃が舞い、氷柱が聳え立つ。
その場には十番隊を率いた日番谷冬獅郎、二番隊を率いた砕蜂、そして六番隊を率いた朽木白哉の姿があった。
「他の皆もやっつけたみたいだね~」
「どの門でも同じような奴しか来ねぇか・・・」
剣八は落胆を表に出して一番隊舎のある場所に視線を向け――
「期待外れだな・・・これならジジイの所に行った方がよかったぜ」
不満の呟きを漏らした。