現在ちょっとスランプに入って『これで大丈夫かな?』という心情です。
ではどうぞ。
――龍一郎サイド――
「盾が鉄甲にだと・・・」
戸惑いと動揺、そして怒りを綯い交ぜにした呟きを漏らすバウスに、俺は自らの両腕に付いたクラウンシールドを縦に両断したかの様な鉄甲をチラリと流し見た後に、敢えて不適に笑って見せた。
このクラウンシールドの新たな変形形態は、今までのように事前に考えていたりしていたものではなく、水破爆裂を収得している途中で偶発的に発見したものだった。
だが俺はこの偶然に心から感謝した。
何故ならば、以前にも言ったとは思うが、俺は前世では徒手空拳で戦っていたからだ。
つまり俺は刀剣で戦うよりも、拳で戦う方が遥かに熟練されているという訳なのだ。
ん?ならば何故始めからその形態で戦わなかったのかって?
その理由は至極簡単。ただ純粋に攻撃力のみで見れば、この形態よりもエクセリオンブレードの方が強いからだ。
無論ただ単純に攻撃力・破壊力だけならばボルティックアックスが最強なのは比べるまでもないのだが、素早いバウスを相手にアックスの一撃を叩き込める確率は極めて低い。
だから俺はスピードにも攻撃力にも信頼のあるエクセリオンブレードを第一に使っていたのだが、そのブレードを取りに行くのが困難となった為、この鉄甲を使う事に決めたのだ。
「すぅ・・・はぁ・・・」
視線をバウスに向けたまま、俺は笑みを浮かべていた顔を引き締めて深くゆっくりと呼吸をし、体の隅々にまで酸素を行き渡らせる。
同時に軽くステップを踏んでダメージの具合を確認する。
(・・・よし。まだ頭部のダメージは多少残っているけど、一番の問題だった腹部のダメージは回復した。足も問題無く動く!)
己の状態の把握をほぼ終え、俺は腰を落として重心を下に下げ、左右の拳を側頭部に付けたインファイトスタイルの構えをとったと同時に――
ダッ!
力強く地を蹴り、先程の一撃が効いているのか、その場から動いていないバウスに接近する。
それもただ直進的に突っ込むのではなく、ジグザグに動いて肩でフェイントをかけながら懐に踏み込む。
そして右のボディブローを当ててバウスの意識を腹部に集中させ、左のショートアッパーで顎をかちあげ、先程のお返しとばかりに鳩尾に渾身の右ストレートを叩き込んだ。
「がっ!」
3つのコンビネーションブローが綺麗に入り、バウスの黒い巨躯がよろめきながら後ろに下がる。
俺はバウスが退くと同時に前に出て再度懐に入り、左右のボディの連打を打ち込む。
「・・・っ!」
声にならない呻きを漏らし、バウスは俺のボディ攻撃を防ぐべく両の腕を下に下げた。
だがそれは俺の予想通りであり、狙っていた行動でもあった。
ガードを下げるという事は上の。頭部のガードが開くという事だ。
俺は左のボディブローを態と防御している腕に当てて更に注意を腹部に向け、がら空きとなった頭部に右フックを叩き込んだ。
「ぐぁっ!」
拳に残る手応えと呻きにクリーンヒットを確信し、俺は一気に決める為に弾ける様に吹っ飛ばされているバウスを追う。
そして再び懐に入ったその時――
ガンッ!!
俺の右腕に鈍い衝撃が走った。
チラリとその衝撃のした方に視線を向けると、其処には右腕に付いた鉄甲がバウスの左膝蹴りを受け止めていた。
俺は自らの読みがズバリ当たった事にニヤリと笑みを浮かべた。
実は俺がシールドを鉄甲化して後に、わざわざ足を使って戦うスピード重視のアウトボクシングではなく、インファイトスタイルでバウスを攻めていたのには理由があった。
それはバウスの弱点を突く為だ。
バウスの出てきた『冒険王ビィトエクセリオン』で主人公達がバウスと戦っているのを見ていた俺は、ある状況の時にバウスを相手に優位に戦っている時があるのを知っていた。
それは自らよりも小柄な相手が懐に入って攻める時だ。
現にシャンティーゴの領主であるパドロとの戦いの時は、かなり一方的に攻撃を受けていた。
更に言えば、例に挙げたこの人物は最終的には敗北したのだが、一通り攻めた後で間合いを取る為に退いた時に反撃を受けて負けている。
ならば常に前に出続け、インファイトに徹すればどうなるのか?
答えは今見た通りだ。
バウスは強化した肉体のパワーとスピードを生かした格闘戦に秀でてはいるが、懐に入られたらその巨躯が変えって邪魔になってしまう。
俺はそう思っていたからこそ、インファイトに徹して攻めていたのだ。
更に言えば、アウトボクシングと同等な程に多彩なディフェンステクニックがあるインファイトスタイルならば、エクセリオンブレードで戦っていた時にも、バウスが使っていたアッパーカットや頭突きといった接近戦の攻撃にも充分に対処できると踏んでいた。
その読みはズバリ当たり、重心を下げて体勢を低くして体を小さく丸くし、左右両側面に構えた鉄甲の盾によって体のほぼ全体を覆い隠す事によって、懐に入った時を狙ったバウスの不意打ちを防ぐ事に成功したのだ。
「残念だったな」
笑みを浮かべて言う俺に、バウスは目を憎らしげに細めてギリッと歯を鳴らす。
俺は懐に入ったこの好機を逃さず一気に決めようと、才牙と魂を通わして力を引き出して天力を解放する。
鉄甲が水の天力を帯びて蒼く輝き、自らの奥底から力が湧き出してくる様に感じた。
「・・・いくぜ」
俺はそう言って大きく息を吸った後に止め、蒼く輝く拳で怒涛のラッシュを叩き込む。
水破爆撃乱舞。
水破爆裂に使う天力を鉄甲に集約して叩き込むラッシュ。
鍛錬の末に編み出した俺の十日間の成果だ。
その総合的な破壊力はゼノンウィンザードと肩を並べる程に高い。
左のリバーブロー、右フック、左アッパー、右ボディブロー。
バウスの顔がピンボールの如く上下左右に弾ける。
五秒・・・十秒・・・。
まだ息は保つ。拳は打てる。ラッシュは続く。
十五秒・・・二十秒・・・。
段々と自らの拳が重くなり、意思と同時に動いていた体にズレが生じている様に感じる。
二十二秒・・・二十三秒・・・
視界が霞み出し、体が酸素を欲しているのが分かる。
だがそれでも俺はラッシュを止めずに打ち続ける。
二十四秒・・・。
目が霞む中で放った俺の左アッパーがクリーンヒットし、バウスの黒い巨躯が仰け反った。
(ここだ!!)
俺は其処を最大の好機と見て、軽くバックステップをして距離をとり、両腕の鉄甲に集約した全ての天力を捻って溜めを作った右拳に集中させる。
そして仰け反って無防備となったバウスの鳩尾に、水の天力を纏った渾身のコークスクリューブローを打ち込んだ。
カアアァァン!!
鉄板に重いハンマーを叩き付けた様な撃音と共にバウスの体が宙を浮き、そのまま重力に従って床に倒れた。
ズゥン!と重い音を立てて大の字で倒れるバウスを見て、俺は止めていた息を吐き出し、貪る様に呼吸を繰り返した。
「はぁっ・・・はぁっ・・・」
倒れているバウスを視界の内に留めながら、体の隅々にまで酸素を行き渡らせる。
ピンボケしていた視界の焦点が徐々に合い、世界がクリアになる。
「はぁー・・・すぅー・・・」
体内に酸素が行き渡り、ただ空気を取り込もうと必死だった呼吸も落ち着きを取り戻し、大きく吸って吐く深呼吸へと変わる。
「・・・まさか、ここまでやるとはな」
「・・・っ!」
重い低音の声にピクリと反応した俺の目に入ってきたのは、先程倒した黒い巨躯がゆっくりと立ち上がる姿だった。
「痩せ我慢は良くないぜ。結構ダメージあるんだろ?」
「確かに、今のはかなり効いた」
挑発の意を込めた俺の言葉をあっさりと認めたバウスは、俺の拳打を受けて口の中を切ったらしく、手の甲で口の端から伝う血を拭い取って笑みを見せる。
更木隊長を彷彿とさせる。戦いに狂った者が強者と巡り会った時に見せる笑みだ。
その笑みを見て、優位に立っている筈の俺の第六感が警鐘を鳴らしている。
危険だ!注意しろ!と警報を出し、体全体を強制的に緊張状態にする。
「まさかお前を相手に、『こいつ』を使う事になるとはな・・・」
そう言ってバウスが懐から取り出したのは、先程四体のヴァンデルを呼び出したのと同じ形状の鍵と錠前だった。
ただ先程と違うのは、先刻は鍵と錠前の穴の数が4つだったのに対し、今取り出したのは一つだという事のみだ。
無論原作を知っている俺は、バウスの取り出したそれに見覚えも心当たりもあった。
だが、もしもバウスが取り出したのが俺の予想通りの物ならば、それを使った所でバウスにとってマイナスにはなっても、プラスにならない事の筈である。
その疑問が戸惑いとなり、俺の動きを止めてしまう。そして・・・。
カチャッ
鍵は鍵穴へと入り――
カチン!
回された次の瞬間。
バウスの両手首と首に付けられた幾つもの棘がある皮製のリストバンドが回した鍵に呼応する様に輝き出し、形を変えていく。
皮の姿から黒い体を縛る金属製の鎖へと変わり、丁度心臓の上に当たる部分に丸い円盤状の金属板が取り付けられていた。
「わざわざ力を押さえつける物なんかを付けて、どうするつもりだ?」
「その言いようからすると、お前はこいつが何なのかを知っているみたいだな」
バウスは俺の問いには答えず、心臓の上に付いた拘束具に手を置いて納得した様に呟いた。
「確かにこいつは冥力を押さえつける為の物だ。だが、使い道が無い訳でも無いんだぜ」
バウスが再び錠前に鍵を入れて回すと、心臓の上に付いている円盤状の金属板が左右に開く。
その開かれた中には、冥力を思わせる禍々しい紫色の輝きがあった。
そしてバウスは四肢に力を込めて、己の冥力を高めていく。
「はああぁぁぁ・・・」
まるでバウスが力を高めていくのを恐れるかの様に大気が震え、俺の肌をビリビリと刺す。
徐々に増していく力に威圧され、前に出ようとする足が止まる。
「ああぁぁぁ・・・」
高まっていく冥力に連れて、バウスの肉体自体にも変化が生じていく。
オーラとなって立ち上る冥力が炎の様にバウスの纏っている赤黒いマントを掻き消していき、元々筋肉質だった身体が更にビルドアップされていく様をまざまざと見せつける。
耳を隠す程に伸ばされた白い髪が重力に逆らい、逆立っていく。
「あああぁぁぁっ!!!」
ドンッ!!!
全ての冥力が解放され、大気が一際大きく震える。俺はその力に圧されて、無意識に目を閉じてしまった。
だが俺はバウスを視界に納める為に慌てて目を開ける。
そして目を開けた俺の視線の先にいたのは、全くその場を動かずに俺を見下ろす変貌したバウスの姿だった。
マントが消えた事によって露わとなった。先程よりも更に全体的に筋肉が増幅され、一回り大きくなった体躯。
髪が逆立った事でより険を増した顔立ち。
対面しているだけで肌をチリチリと焦がす程の禍々しく強大な冥力。
そんな外観も内側から出る威圧感も、先程のバウスとは比べ物にならない程に強くなっていた。
ついでに言えば、俺はこの姿のバウスの事も知ってはいた。
『冒険王ビィトエクセリオン』の最終決戦。バウスはグラウモンスターを生み出す魔銃器グーランガの弾丸を自らの身体に撃ち込み、今目の前にいる形態へとなった。
そして主人公のビィトと激闘を繰り広げ、圧倒的な強さで優位に立っていたのだが、最終的には敗北を喫した。
(まさか、グーランガ無しで変われるとは思わなかったがな・・・)
完全に予想外だったバウスのパワーアップに、俺は苦い顔をして睨み付ける。
一方バウスはそんな俺の思いなど露知らぬと言わんばかりに、胸に付いている拘束具に手を置く。
「有り難いな。これだけ冥力を高めても暴走を抑え込んでいる。本当に大した物だ」
「っ!」
バウスの発したその言葉に俺は耳を疑った。
何故ならば原作のバウスにとって、拘束具は忌むべきもの筈なのだから。
原作のバウスは最後の戦いの直前で、魔賓館の館長・シャギーによって自らが改造ヴァンデルだという事実を知った。
そしてその後にビィトを死闘を演じ敗れた。
これは原作を見た俺の推測なのだが、自らの全てを縛り、絶望を与えた相手に施しまで与えられたバウスは、自らの存在を残そうとしたのではないか。
たとえそれが戦いという方法でも。
たとえその相手がヴァンデルバスターでも。
たとえそれが、シャギーの思惑通りのだと分かっていても。
だからこそバウスはビィトとタイマン勝負を申し込み、戦う事でビィトの力を限界以上に引き出そうと己を強化したり、挑発したりしたと俺は思っている。
だから俺は原作のバウスに誇り高さを感じ、嫌いになれなかった。
だが目の前にいるバウスは、ただ力を高める為だけに拘束具を利用した。
ただただ己の力を高める為だけに。
其処には誇りも矜持もなく、醜く貪欲に力を求める愚者がいた。
「・・・違うな」
「あ?」
漏らした呟きに、バウスは拘束具に触れていた手を止めて俺に目を向けた。
「確かにお前はバウスと同じ姿だが・・・バウスとは違う」
「ふっ・・・それじゃあお前から見た俺は、一体何なんだ?」
「お前は本来ならばこの場に存在しない者。
あらゆる世界の歪みによって生まれた存在。
イレギュラーズだ!」
鼻で笑うバウス・・・否。イレギュラーズに俺は吠えて地を蹴り、鉄甲に天力を込める。
それに対して奴は振り上げた右拳に冥力を纏わせて対抗する。
「ならそれを証明してみろ」
懐に入り込んだ俺に放った打ち下ろしの拳と――
「やってやるよ!」
突進の勢いと自らの体重。そして天力を込めた俺の右拳がぶつかり合い――
ガゴオォォォン!!!
執務室に轟音が轟いた。