スランプかなぁ・・・。
でも折角ここまで書いたので、やっぱり書き切りたいなぁとは思っています。
ではどうぞ。
――三人称サイド――
「よぉ・・・来たのか」
部屋に入り、その光景を見て呆然としてしまっているルキアに、バウスはまるで親しい友人に声をかけるかの様な言葉を紡いだ。
「・・・貴様っ!!」
「よしな」
バウスの声に引き戻されたルキアが自らの斬魄刀の柄に手をかけるが、それを抜くよりも早く放ったバウスの制止がルキアの動きを止めて、視線を倒れている龍一郎に向けた。
「テメェじゃ俺には勝てねぇぜ。それに良いのか?そいつを放って置いて?
速く治さねぇと手遅れになるぜ」
「・・・っ!」
バウスの指摘にルキアはギリッと奥歯が鳴るほどに強く噛み締めて、倒れている龍一郎をチラリと流し見た。
かなり手酷くやられたらしく、仰向けに倒れたままで起き上がる素振りを見せようとはしておらず、弱々しくだが呼吸をしている所を見る限り、意識の有無の判別は出来ないが、死んではいない事は確かな様だった。
だが時折苦しげに咳と共に血を吐き出し、徐々に失われていく顔色。か細くなっていく呼吸が龍一郎の命の灯火が消えかけている事を如実に物語っていた。
「俺も色々とやる事がある。テメェが俺に手を出さねぇのなら、俺は何もせずにこの場を去るぜ」
悪魔との契約を思わせるバウスの『取引』にルキアの心は揺れ動き、それを表すかの様に斬魄刀の柄を握る手が細かく震え、カタカタと刀が音を立てる。
「どうした?迷ってるうちにそいつが死んじまうぜ」
「・・・っ!」
バウスの言葉に一瞬斬魄刀の握る手に力が込められるが、ルキアは大きく息を吐いて柄を握る手を離した。
「いい子だ」
バウスはその一言のみを残し、ゆっくりとした足取りでルキアが潜ってきた扉を通り、執務室を後にして行った。
「吉波っ!!」
バウスが部屋から出たのを確認し、ルキアは龍一郎へと駆け寄る。
間近で見ると龍一郎の状態の深刻さは、救護専門である四番隊ではないルキアでも理解できた。
体全体につけられた火傷や打撲痕。それに擦過傷が痛々しく見えるが、写輪眼を発動して防御や回避をしていたらしく、外傷は全て浅い所で済んでいる。
どうやら体全体。それも特に喉に強烈な爆裂系の攻撃を受けたらしく、全身の中で最も酷い火傷を負っていた。
それでも比較的傷が浅く済み、生命活動が辛うじて維持されているのは、ルキアは知らないが攻撃を受ける前に龍一郎が霊圧とチャクラを同時に全力で放出し、瞬間的に防御力を高めたからこそであった。
そうしなければ、恐らく龍一郎はルキアが扉を潜ったその時に既に息を引き取っていただろう。
だがそれでも、バウスの強烈な攻撃の衝撃は人体急所の一つでもある喉に深刻なダメージを与えていた。
それも外ではなく内に。
バウスの強烈な衝撃は龍一郎の喉の血管を出血させ、気道に血液が流出していた。
このままの状況が続けば、龍一郎血液が龍一郎の肺に入り込み、窒息死してしまうだろう。
いや。その前に出血多量で死ぬ方が遥かに早い。
ルキアは仰向けになっている龍一郎の喉に手を当て、霊力を流し込み治療を始める。
だが血管の傷は予想以上に深く、塞いで治そうとしても隙間から血が漏れ出し、傷口が開いてしまう。
「・・・くっ!」
ルキアの顔に焦りが浮かぶ。
(焦るな・・・冷静に・・・慎重に・・・)
自らに言い聞かせ、ルキアは送り込む霊力をコントロールして龍一郎の治療を続けるが、内にある焦りは確実にルキアの手を鈍らせていった。
次第に龍一郎の出血は酷くなり、顔色が青から死を思わせる白へと変わっていく。
「死ぬな・・・死ぬな吉波!!」
治療を続けながら、ルキアは内に呼び掛けようと声を張り上げるが、龍一郎からの反応は無く、ただ張り上げた声のみが執務室に虚しく響いた。
だが――
「「ルキア(さん)!!!」」
その声に応え、ルキアの名を呼ぶ者達が――
執務室の外から躍り出た。
ルキアが声に反応し、目を向けた先。其処には卍解した姿の黒崎一護と、一護に手を引かれている山田花太郎がいた。
――龍一郎サイド――
黒い。
果てしない黒い闇の空間の中にいる様な感覚を俺は感じていた。
浮いているのか沈んでいるのかも分からず、どんなに意識を向けても目を開く事も指一本動かす事も出来ずにいた。
(俺は・・・また死んだのか)
俺の頭が自然にその結論に達し、最初に沸き上がった感情は――
(通用しなかったな・・・何もかも・・・)
『悔しさ』だった。
自画自賛と言われるかもしれないが、俺はこの十日間で出来うる限りの鍛錬をして己を高めていた。
100%とまでは言わないが、少しは手応えもあったつもりだった。
しかしその全てをぶつけても、バウスの圧倒的な力を前に全てをねじ伏せられてしまった。
クラウンシールドの鉄甲形態でインファイトを挑んでも、バウスの強烈な攻撃を受け止めきれずに体勢を崩され、接近戦に徹する事が出来ずにパワーで押し切られた。
ならばと武器をバーニングランスに変え、中距離での戦いに戦法を切り替えたのだが、徒手空拳の格闘戦よりも錬度が低い槍の攻撃に、バウスはすぐさま対応してしまい、簡単に懐に入られるようになってしまい、最後にはランスを手から弾かれてしまった。
それならとサイクロンガンナーに変えて徹底的な遠距離戦へと移行したが、弾丸を装填する僅かな隙を突かれて接近を許してしまう。
だがその劣勢は俺の策の内だった。
その策とは隙を突いて接近してくるバウスに対して瞬時にクラウンシールドの鉄甲形態を纏い、突進してくるバウスにカウンターの一撃を当てた後に間髪入れずに水破爆撃乱舞を叩き込むというものだ。
その為に俺はバーニングランス、サイクロンガンナーと武器を変えて、距離を取る攻撃をする事でバウスに懐に入らせるタイミングを覚え込ませていたのだ。
だがその策も、バウスの力の前に脆くも打ち砕かれる事となる。
カウンターの一撃は綺麗に入れることは成功したのだが、バウスはその後瞬時に崩れた体勢を立て直し、水破爆撃乱舞を繰り出す俺に対して同じ様に両の拳に冥力を集中させ、真正面からぶつけてきたのだ。
冥力と天力。
相反する力を込めた互いの拳がぶつかり合い、力負けしたのは俺の方だった。
込められた力も、純粋な拳打の力も、全てにおいてバウスが上回っていたからだ。
そして体勢の崩された俺は間髪入れずに放たれたバウスの連打を受け、最後に腕をクロスさせた状態で首を掴まれ、そこから一気に冥力を解放された事によって起こる強烈な爆撃を叩き込まれた。
ハウリングドプレッシャー
両の拳に冥力を込めて連打した後に腕をクロスさせて俺の首を掴み、止めに一気に冥力を解放して強烈な爆撃を叩き込む技で、各々のヴァンデルが自らの力を磨き作り上げた最強の技である『魔奥義』と呼ばれる類の技だ。
そしてバウスが原作の主人公であるビィトとの最終決戦時に使い、ビィトに大ダメージを与えた技でもある。
無論俺はその技の存在を知っていた。
だからこそ最後の爆撃を炸裂させる為に冥力を込める一瞬の溜めの時間の間にチャクラと霊圧を全力で解放し、防御したのだ。
それでも防ぎきれずに甚大な被害を受けてしまったのは、俺の未熟さが招いた結果だ。
――ぬな――波――
・・・?
どこか聞き覚えのある声が聞こえた気がしたが、俺はその声の主を思い出すのも億劫になる程に微睡み始めていた。
周りにある闇の気配も、どこか強くなっている様な気がする。
そして微睡みも段々と強くなって・・・
―――吉波!!―――
『!!』
今度ははっきりと聞こえた声。
俺はその声に引き戻されるかの様に上へと浮かんでいく確かな感覚を感じ、先程まであれ程強かった微睡みも、まるであの声に吹き飛ばされたのかと感じる程に無くなっていた。
そしてどんなに意識を向けても動かす事の出来なかった指に再度を動かしてみると――
ピクリ
確かに動く感覚が伝わり、今度はゆっくりと瞼を開けていく。
意志に従い開かれていく瞼の間から、差し込んでくる光に一瞬目が眩む。
そして光に慣れた俺の視界に入ってきたのは、俺の喉に手を当てている花太郎さんとルキアさん。そしてほっとした表情で俺を見下ろしている一護さんの姿だった。
――一護サイド――
「あ・・・」
「喋るな。傷が開くぞ」
意識を取り戻して口を開こうとする吉波をルキアが制して口を閉じさせるが、吉波は『なんでこの場に?』と言っているような視線で俺と花太郎を見ていた。
「しかし一護。何故ソウルソサエティに来たのだ?空倉町はどうした?」
吉波の治療する手を止めないままでルキアが聞いてきた。
吉波もルキアの疑問について気になるらしく、俺の方に視線を向けている。
「あぁ~。そういえばまだ話していなかったな」
吉波の治療を優先して未だに事情を話していなかった事を思い出し、俺は後頭部を軽く掻いた後に口を開く。
「吉波の相棒のエルフリーデから心話で連絡があったんだよ。吉波が危ない感じがするから、救援に行って欲しいってな」
俺の言葉にルキアは「そうか・・・彼女が・・・」と納得の様子で頷き、吉波は自分の相棒が関わっていたのが意外だったのか、目を見開いて驚いている。
「しかしどうやってソウルソサエティに来たのだ?穿界門が開いたという報告は無かった筈だ」
「もしもの時の為に浦原さんに転移符を渡していたのを教えて貰ったからな。急いで浦原商店に行って転移符を使って来たんだ」
転移符の使い方を知っているのが俺だけだから、多分それが俺にだけ心話を繋げた理由じゃねぇのか?と続けるとルキアは「では、何故花太郎と一緒にいたのだ?」と言ってきたが、それに答えたのは花太郎だった。
「あ、それは総隊長から遊撃隊を募った時に、治療要因として僕が立候補したんです。でも誰とも合流出来なかったので、一人で向かっていたんです。その途中で・・・」
「この場に向かう一護と出会い、共に行く事になった・・・という訳か」
「はい。・・・あ、吉波さん。もう大丈夫ですよ」
事情を察したルキアに苦笑して頷き、花太郎は吉波の喉に当てていた手を離して「まだ治したばかりなので、あまり叫ばないで下さい。傷が開いちゃいますので」と注意する。
「あ・・・有り難う御座います。花太郎さん」
まだ微妙に掠れた声で花太郎に礼を言う吉波に、俺は問いを投げた。
「で、一体何があったんだ?」
俺の問いに一瞬顔をしかめながらも、吉波は自らの身に起こった事を時折咳き込み、声を掠れさせながらも語った。
「そうか・・・奴の姿が以前とは違っていたのはそういう事だったか」
この中で吉波を除いて、唯一強化したバウスの姿を見ているルキアが険しい顔をする。
「で、バウスの奴は一体何処に行ったんだ?」
「おそらく鬼道砲の所へと向かって「いえ。違います」吉波?」
俺に答えるルキアを遮った吉波に、俺を含む全員が怪訝な顔をして吉波を見る。
「奴は瀞霊廷の中心部へ向かっています」
「中心部に?・・・そうか。結界を形成する媒体を破壊する為か。しかし吉波、何故それが分かった?」
「奴の冥力を感じ取って、移動する方向から予測したんです」
「じゃあお前は、あいつの居場所が分かるのか?」
ルキアとの会話に割り込んだ俺に吉波は「大体ですけど」と言ってコクリと頷いた。
ならばやる事は一つだと、俺は胸の前で自分の掌に拳を打ち込んで気合いを入れる。
「うっし、吉波。治ったばっかりで悪ぃけど案内してくれ」
「大丈夫です。花太郎さんのお蔭でもう動け・・・あ、あれ?」
俺に応えて立ち上がろうとした吉波は、まるで産まれたばかりの小鹿の様に転んでしまった。
「吉波!」
「大丈夫ですか!?」
突然の事態に思わずといった感じで声をかけるルキアと花太郎に、吉波は「大丈夫です」と返して再び立ち上がろうとするが、その足はまるで立つのを拒絶するかの様にカタカタと震えだしていた。
吉波はその震えを押さえつけるように手を当てるが足の震えは治まらず、寧ろ振幅の幅が大きくなっていく。
「あ・・・あれ」
自らの身に起こった事が理解出来ていないのか、吉波は戸惑いを露わにする。
そんな吉波の姿を見て、俺はその原因を何となくだが察した。
吉波は立ち上がらないのではなく、先の戦いで折れた心と身体がバウスと戦うのを拒絶して、立ち上がれないのだということを。
何故なら吉波のその姿は嘗ての俺と重なって見えたからだ。
断界で最後の月牙天衝を体得する前に、藍染の圧倒的な力を前にして心が圧し潰されていたあの時の俺に。
あの時の俺は親父が叱り飛ばしてくれたから、折れかけていた心を取り戻せた。
それなら今度は、俺が此奴の心を取り戻させる。
そう思い、俺は震えている吉波の胸倉を掴んだ。
「「一護(さん)!?」」
ルキアと花太郎が非難と驚愕を綯い交ぜて俺の名を叫ぶが、俺は無視して吉波に目を向ける。
「そんなんでまた後悔するのかよ!」
「・・・え?」
「お前は浦原商店で言ったじゃねぇか!『後悔したくなかった』って!だから戦う事を選んだんだろ!」
未だに胸倉を掴まれた事による動揺から脱していない吉波に、俺は続ける。
「お前にどういった事情があってそういう決意を持ったのか俺は知らねぇ!けどなぁ!そう思う位に後悔した事があるんだろ!」
「・・・!」
俺の言葉に吉波が目を見開いて反応する。
「ここで動かなくってどうすんだよ!また後悔するのかよ!!」
「・・・」
黙して俯く吉波に俺が胸倉を掴んでいた手を離すと、はっと我に返った花太郎が「一護さん!傷が開いちゃったらどうするんですか!」と強い口調で責めてきた。
そう言われると確かに、病み上がりの奴の胸倉を掴むのは流石に拙かったかと思い、俺は吉波に頭を下げて「すまねぇ」と謝った。
だがルキアは胸倉を掴み上げてでも俺がしたかった事が分かったのか、何も言わずに苦笑していた。
そして花太郎に謝っていた俺の肩に軽く手が置かれる感触を感じて振り返ると、其処にはさっきまで震えていた吉波が立ち上がって、俺の肩に手を当てていた。
「一護さん・・・有り難う御座います」
礼を言う吉波の目には、震えていた時には無かった『光』があった。
「行くぜ」
「はい」
たった一言の会話。其れだけで充分だった。
吉波は屈んで地に片手を付け、吠える。
「吉波龍一郎の名において命ず!出でよ走鱗(ツォウリン)!!」
吉波の手の付いていた地面が光り出し、スケボー位の大きさをした魚の鱗を彷彿とさせる形の生き物が現れる。
「な、なんですか!それはぁっ!?」
「これですか?これは獸魔術という、一種の召還術です。
こいつは走鱗といって、召還者を載せて移動してくれる移動系の獸魔です」
吉波はその生き物の上にスケボーに乗る感覚で躊躇い無く乗り込み、パニックになっている花太郎に説明する。
ルキアはルキアで「一体貴様は幾つ能力を持っておるのだ」と呆れと諦めを綯い交ぜにした顔をしていた。
「行きましょう一護さん。案内します」
「おう。いくぜルキア。花太郎」
俺は吉波に応えて頷き、ルキアと花太郎に呼び掛けるが、2人は黙って首を左右に振った。
「すまぬが一護。私と花太郎はこの場に残って下に向かおうと思う」
「下で戦っている人達にも治療をしなくてはいけませんし・・・」
「それに奴と相対して分かったが、今のバウス相手では私では足手纏いだ。貴様と吉波の2人でぶつかった方が勝率が高い」
そう言うルキアの顔には悔しさと歯痒さがあった。
だがそれらを全て飲み込んで託してくれた想いを受け止め、俺は深く頷き吉波に顔を向ける。
「行くぞ、吉波!」
「はい!」
吉波もルキアの想いを受け止めたらしく、顔を引き締めて応え、鱗型の生き物を走らせる。
そして俺はその後を追い、地を蹴った。
この話の一護が主人公を叱咤するのは、割と始めの方から考えていて、絶対に書きたいと思っていたワンシーンです。