読者の皆さん有難う御座います!
――三人称サイド――
ズシャッ・・・ズシャッ・・・
人とも死神とも明らかに違う足音を通路全体に響かせ、バウスは歩を進めていた。
「・・・近いな」
己の根源たる力と相反する力の存在を自らの肌で感じ取り、声を漏らす。
暗い廊下の向こうから射し込む光の先へと視線を向け、バウスは其処へ向かい歩き出す。
そして光の先へと出たバウスの視界に入ってきたのは、以前入った技術開発局の研究棟とは違い、眩いばかりの光に溢れた広いドーム状の空間だった。
その場所が瀞霊廷の中心部であることを証明するかの様に、空間の四方八方にはそれぞれの場所に赴けるように通路の入り口が設けられており、天井に張られているステンドグラスを思わせる色彩豊かなガラスが、瀞霊廷の上空に浮かぶ太陽の光を受け、空間全体に光を届けている。
「・・・此処か」
差し込んでくる光に目を細め、この空間内に天力の源があることを肌で感じ取ったバウスは、掌を開いた右手を掲げて冥力を集中させる。
すると右掌の中心から禍々しい紫色をした球体が現れ、その大きさを見る見るうちに増大させていく。
やがて最初に現れた時はビー玉程の大きさだったそれは、運動会で用いられる大玉程の大きさまででその成長を止め、そこからゆっくりと宙に浮かび上がっていった。
「この辺り一帯を吹っ飛ばすのなら、この位だな」
誰に聞かせる訳でもない絶望へと誘う言葉を紡ぎ、バウスは掲げた右手の親指と中指を合わせて『溜め』を作る。
その仕草の一つ一つが、媒体が破壊され、瀞霊廷を混乱へと追い落とすカウントダウンに思えた。
そしてバウスは『溜め』を解放し、宙に浮いた冥力球を爆裂させるべくパキンと指を鳴らす。
――――よりも速く、一つの黒い影が幾つもある通路の一つの向こうから飛び出し、バウスの浮かべた冥力球へと疾る。
「おおおぉぉぉっ!!」
その黒い影。黒崎一護は目前に捉えた冥力球に向けて、天鎖斬月を大上段に振り上げて一気に振り下ろす。
「はああぁぁぁっ!!」
一護の渾身の一撃によって冥力球は両断され、大気に霧散する。
「なっ!」
突然の一護の登場に、バウスの顔に動揺の色が浮かぶ。
「ああぁぁぁっ!!」
その隙を突き、一護の後から通路の奥より飛び出した龍一郎が雄叫びを上げ、携えたエクセリオンブレードを袈裟斬りに振り下ろす。
ガッ!!
響いたのは刃が肉を切り裂くのとは明らかに違う音。
「くっ・・・」
振り下ろした翼の刀身の行方を見て、龍一郎は唇を噛んで悔やむ。
龍一郎の視線の先。其処にはエクセリオンブレードの刀身を拳の甲で受け止めているバウスの姿があった。
バウスは動揺の中にありながらも咄嗟に拳の甲に己の冥力を集中させ、龍一郎の一閃を防御したのだ。
「残念だったな」
挑発ともとれるバウスの憐れみの言葉に、龍一郎は何も返さぬままで後ろに跳んで距離を置く。
その隣に冥力球を破壊した一護も降り立ち、二人はバウスに向けて剣を構えた。
――龍一郎サイド――
(・・・浅いけど、一応傷は付けられたか)
距離を開けて間合いを取り、先程俺の一撃を受け止めて傷付いた手の甲にチラリと視線を向け、俺は冷静に状況を整理する。
(力勝負は論外。となるとやっぱり一護さんとのコンビネーションとスピードで攪乱するしかないか。基本はヒットアンドアウェイだな。それにはまず・・・)
俺は基本方針を固めて写輪眼を発動し、他の才牙に持ち替えずにエクセリオンブレードを構える。
スピードタイプである一護さんにある程度でも付いて行く為のスタイルだ。
そのスタイルを見て意図を悟ったらしく、一護さんは俺に小さく頷いて天鎖斬月の切っ先を左下に下げた下段の構えを取る。
奴と対峙した事で先程の戦いで心に植え付けられた恐怖が、自然と呼吸を荒くしていく。
だが俺はその恐怖を無理矢理押さえつけ、逸らしたくなる視線をバウスに向けて、意識して呼吸を整える。
「一つ聞きたい」
不意にバウスの口から出た問いに、俺と一護さんの動きが一瞬強張る。
「何故お前は俺に立ち向かってくる?俺との力の差はさっきの戦いで嫌という程分かった筈だ」
視線を俺に向けて問い掛けるバウスに、俺は頷いて返す。
「確かに。正直こうやって向かい合っているだけで怖くて震えがくるし、逃げたい気持ちで一杯だ」
自らの内にある恐怖を隠さずに吐露し、僅かに間を置いた後にエクセリオンブレードの切っ先を向けて「だがな」と続ける。
「今この場で逃げ出せば、俺は後で絶対に後悔する事になる。そんな想いはもう二度としたくねぇ!」
吠える俺に、バウスは驚いたかのように一瞬目を見開いたが、すぐにそれを苦笑に変えて、どこか懐かしそうに「そうか」と呟く。
「それで今度こそ死ぬ事になってもか?」
その問いに、俺は奴の目を真っ直ぐに見据えて無言で正眼の構えをする事で答え、一護さんは脚に力を込め、いつでも切り込める体勢を作る。
そんな俺達を見てバウスは右足を前に出し、左足を後ろに下げた右半身になり、右手を前に出して掌を上にしたブ○ース・○ー式の手招きをした。
「いいぜ。来な」
ダンッ!!
バウスの言葉を合図に俺と一護さんは同時に地を蹴って別々に行動する。
俺は天高く跳躍し、一護さんは手招きをする事で存在するバウスの右斜め前方にある死角の中に瞬歩で入り込み、右に切り上げる。
ガツンッ!
完全に死角の内から放った一撃を、バウスは伸ばした腕を折り曲げ、肘で刀身の腹を叩き落とす事で迎撃した。
だがそれは予想の内。一護さんの攻撃に対処し、俺に対する意識が緩む一瞬の隙を狙い、俺は落下の勢いを乗せた大上段の斬撃を一閃する。
しかしそのバウスも俺の一閃に対し、左の拳腰だめに構えて迎撃の体勢をとる。
が。それも俺の想定通り。
俺は写輪眼でバウスの振るう拳の軌道を見切り、その軌道にぶつからない場所。つまりバウスの眼前にある空間に刃を振り下ろした。
当然一閃はバウスに届かずにただ空を切るのみに終わる。
そう。『刀身』は。
「がっ!」
バウスの苦悶の呻きがドーム状の空間に響く。
狙い違わず。刃の軌跡に添って放たれた光の天力を宿した斬撃の波動は、斬撃を迎え撃つ為に放った拳を空振りさせ無防備になったバウスにまともに入った。
「はあっ!」
防御する暇も与えずに至近距離で放たれた光刃に押されるバウスに、一護さんが裂帛の気合いと共に追撃で月牙天衝を放つ。 光刃と黒刃が十字を描き、バウスを更に押しやっていく。
しかしバウスは足に力を込めて地を踏みしめて二つの刃を留め――
「があぁぁっ!!」
冥力を込めた渾身の咆哮で弾き散らす。
だがそれも此方の想定内。
俺と一護さんは渾身のほうこうを上げた事で隙のできたバウスの懐に瞬歩で潜り込み――
ザンッ!!
それぞれが左右に切り上げた強烈な斬撃をその身に受け、バウスはその巨大を浮かせた後に地響きを立てて大の字に倒れた。
だが俺も一護さんも気を緩めずに倒れているバウスに剣を構える。
「・・・立てよ」
「・・・ふっ」
低く静かに威圧する様に言う俺に、倒れているバウスは口の端を緩めて、先程受けた斬撃な
ど何事もなかったかの様に立ち上がった。
だがその腹部には白と黒の斬撃痕が刻まれ、俺達二人の攻撃が確かに当たっていた事を証明していた。
「痛ぇなぁ。えぇおい」
文面だけを見れば怒り狂っている様に聞こえるその言葉を、バウスは穏やかな口調で言った。
「どこがだよ?すぐに治せるんだろ」
確信を持って言う俺に、バウスは「まぁな」と軽く肯定し、腹部にあるその傷を労るようにゆっくりと撫でる。
すると、まるでチョークによって黒板に書かれた文字を黒板消しで消していくかの様に、腹部にある白と黒の斬撃痕が消えていった。
「なっ!」
それを目の当たりにして一護さんは動揺の声を漏らすが、俺は原作でバウスがエクセリオンブレードによって受けた傷を軽く撫でるだけで癒やす光景を見たことがあったので、大して驚きはしなかった。
「テメェら中々やるじゃねぇか」
そう言って再び右半身に構えるバウスを見て、俺はエクセリオンブレードを握る手に力を込める。
そんな緊張感を高めていく俺を見て我に返ったのか、動揺から脱した一護さんも天鎖斬月を構えて集中力を上げて常にバウスが視界の中心に入るようにを見据える。
「今度はこっちから行くぜ」
そう言うと同時にバウスは地を蹴って俺達二人に肉薄し、薙払うような左のフックを俺に振るう。
俺は斧を思わせるそのフックの軌道を写輪眼で見切り、バックステップをしてギリギリで躱す。
拳が空を切り裂き、巻き起こる風が俺の髪を揺らし、肌を撫でる。
「はあっ!」
バウスが俺に攻撃してきた事によって必然的に出来る隙を突き、一護さんが裂帛の気合いと共に天鎖斬月を逆袈裟に振り下ろす。
だがそれを予め予測していたのか、バウスは素早く右手の甲に冥力を込め、一護さんの一撃を防御した。
ギィンッ!と独特な金属音がドーム状の空間に響き渡る。
ならばと俺はバウスが意識を向けている所とは逆の場所。つまり一護さんと挟撃になる場所に瞬歩で移動し、バウスの背を袈裟斬りに斬りつける。
――が
ドスッ!
「がはっ!」
まるで俺がそういう行動に出るのが分かっていたかの様に放たれたバウス後ろ蹴りが俺の鳩尾に綺麗に入り、苦痛の呻きと共に肺から空気が漏れると同時に俺の体が後方へと吹っ飛ばされた。
「吉波!」
「心配してる場合かよ」
思わず俺に声をかけてしまう一護さんにバウスは薙払った左拳を戻して腰溜めに構え、天を突かんばかりの左アッパーを一護さんの腹に見舞った。
「があっ!」
苦悶の声を吐き出し、一護さんの身体が宙に浮く。
だが俺も一護さんも吹っ飛ばされながらも空中で体勢を立て直し、俺は地に。一護さんは霊子で足場を形成し、其処に足を着けて踏みとどまった後に瞬歩でバウスに接近し、一気に切りかかった。
俺はバウスの左半身に。一護さんは右半身に連続で斬りつける。
しかしバウスはその全ての斬撃を冥力を込めた両の腕で防御し、受け流す。
そして――
ギィィンッ!!
俺の逆袈裟の一撃を左腕で。一護さんの袈裟斬りの一閃を右腕で受け止めたバウスは――
「があぁっ!!」
両腕に込められた冥力を解放し、受け止めた二つの刀身を跳ね上げた。
その結果。俺と一護さんは両腕を上に上げた所謂『万歳』の状態となってしまう。
「なっ・・・」
「しまっ・・・」
致命的な隙を晒してしまった事に気付いた時には既に遅く、バウスは俺に左手の。一護さんに右手の掌を眼前に向け、即座に冥力球を生み出しその場で爆裂させた。
ドゴオォンッ!!
轟音が空間を揺るがし、突き出したバウスの掌の前で黒煙が立ち上る。
「ふぅ・・・」
小さく息を吐いて突き出した手を戻し、バウスはその爆発力を物語る様に立ち上る黒煙を見ていた。
確かにこの爆発を防御も出来ない無防備な状態でまともにくらえば、大ダメージは避けられないだろう。
そう。『まともに』くらえば。
「はあっ!!」
「うぉおおっ!!」
黒煙の中からバウスの左側面に飛び出してエクセリオンブレードを左に薙ぐ俺と、天高く跳躍して天鎖斬月を振りかぶる一護さんが姿を現す。
外傷のない俺達が雄叫びを上げて切りかかるその姿に、バウスの眉がピクリと動く。
バシッ・・・ギィンッ!
僅かな動揺を表に出しながらも、バウスは冷静に俺の薙払いの一閃を左手の五指で摘み取り、一護さんの振り下ろしの一撃を冥力の込めた右手の甲で受け止めた。
「意外だな。まさか二人共あの攻撃を避けるとはな」
まるで世話話でもしているかの様な口調で話すバウスに、俺も一護さんも剣を握る力を込めて押し返そうとするが、幾ら力を込めても刀身を止めているその手はびくともしなかった。
そんな俺達にバウスは「だが・・・」と続け、俺に視線を向けて口を開く。
「どうやらお前は避ける為に代償を支払ったようだな」
「・・・何のことだ!?」
「惚けるなよ。パワーもスピードも、さっきと比べると段違いに落ちてるぜ」
「・・・っ!」
バウスの指摘に図星を指された俺は、奥歯をギリッと強く噛んで睨む。
実はバウスの言った通り。俺は先程の爆発から逃れる為に少々無茶をしていた。
爆発に飲まれる刹那。俺は支配眼(グラスパー・アイ)を発動して周りの動きを超スローにし、霊子の足場を即座に成形。
瞬歩を使って後方に下がり、爆発から逃れたのだ。
だがそれと引き換えに、己の体の限界を超えたスピードで動いた事による反動が襲い掛かり、身体の彼方此方が痛みと軋みに泣いていた。
その為バウスの指摘した通り、先程と比べてパワーもスピードも明らかに減退していた。
勿論俺もそうなる事は覚悟の上で支配眼を使ったのだが、まさか五指で摘まれるだけで止められる程にまで力が落ち込むのは予想外だった。
(・・・拙いなこれは)
自らの力の減退ぶりに、内心冷や汗が流れる。
「うぉおおっ!!」
バウスが此方に視線を向けて話していたのを隙と見たのか、一護さんが雄叫びを上げて天鎖斬月を握る手に力を込める。刀身に黒い霊圧が纏われ、徐々にだが冥力が込められた右手が押されはじめていた。
「・・・ちっ」
流石に拙いと思ったのか、バウスは舌打ちを一つして右手を薙払う様に振るって一護さんを振り払い、距離を離す。
その間に俺は五指に挟まれたエクセリオンブレードを引き抜き、一護さんの方に意識を向けているバウスに袈裟斬りに切りかかる。
だがその一閃は軽く後ろに下がる事で容易く避けられ、次いで振るった右薙の一閃も仰け反ってあっさりと躱された。
「遅くすぎて欠伸が出るぜ」
ガッ!
「っ!」
失望を込めた言葉と共にバウスは一息で間合いを詰め、天を突かんばかりの左のアッパーカットを一閃。
その一撃は俺の顎を正確に捉え、身体を浮き上がらせる。
更に――
ドスッ!!
「ぐはっ!」
宙に浮いた俺に間髪入れずに右のボディアッパーを鳩尾に叩き込み、肺の中にあった空気を吐き出させる。
「吉波っ!!」
「うるせぇよ」
俺の名を呼び一護さんが地を蹴って駆けつけようとするが、バウスは左腕を振るい冥力の火球を幾つもばらまいて牽制する。
一護さんもそれを瞬歩で避けるが、火球自体は避けれても彼方此方で起きる爆発や爆風に足を止められてしまう。
そうして一護さんが足を止めている間に――
「はあぁぁ・・・」
バウスは俺の鳩尾に突き刺さっている拳に冥力を込め――
「かあぁっ!!」
一気に解放した。
ドンッ!!!
解放された冥力が火柱の様に空へと向かい一直線に吹き上がり、俺を天へと押し上げる。
「―――!!」
奇妙な浮遊感と体中に走る痛みに俺は絶叫を上げるが、冥力が吹き上がる轟音に掻き消される。
バガアアァァン!!!
冥力の奔流によって押し上げられた身体がドーム状の天井をぶち破り、今まで感じていた痛みとはまた違う鋭い痛みが全身に走る。
「が・・・あ・・・」
口から意味をなさない呻きが漏れ、痛みに意識を保つことも困難となり朦朧となっていく。
そんな俺の耳に――
「吉波ぃぃぃっ!!!」
俺の名を叫ぶ一護さんの声が辛うじて届いた。
はい。という訳で主人公ボッコボコパート2でした。
誤解しないように書きますが、これは作者がそういうのが好きだという訳では無く、今後の展開を考えるとこうした方が良いと思ったからです。
次回は瀞霊廷各門の隊長達の戦いの後編を書こうと思っています。