龍の軌跡 第一章 BLEACH編   作:ミステリア

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今までの不調が何だったんだと思える程にさくさくと書けました。

この話で第一章は完結です。

これまで読んでくれた読者の皆様!本当に有難うございます!

ではどうぞ!


第四十一話(第一章最終話)

――龍一郎サイド――

 

気が付くと、俺は見覚えのある天井を見上げていた。

 

「・・・また此処かよ」

 

恋次さんと戦って気を失った時と全く同じ状況に、全く同じ部屋で寝ているという事に気付いた俺は思わずフッと苦笑して呟き、身を起こして軽く肩を回して体の状態を把握する。

 

「目が覚めたか。体調はどうだ?」

 

「あぁ。取り敢えずは大丈夫だ」

 

何の前触れもなくかかった相棒の問いに、俺は肩を回したり、身体の彼方此方を軽く動かしながら普通に返した。

 

「取り敢えず・・・という事は、全快ではないか?」

 

「そうだな。身体の彼方此方がギシギシ言っている感じだ。なんだかグリスが切れた機械の気分だな」

 

「そんな冗談を言える位に回復したのは、間違いなさそうだな」

 

呆れたように溜め息混じりに返した後に、エルフィは安心したのか僅かだが確かに微笑んだ。

 

俺もそんな相棒に微笑んで返し、問う。

 

「あの後俺が眠ってから、どうなったんだ?」

 

「破滅の恒星は山本総隊長と雀部副隊長によって破壊された。散らばった欠片も、我が結界を瀞霊廷全域に張っておいたのが幸いし、全てを防ぐことが出来た」

 

「そうか・・・良かった」

 

安堵の息を吐く俺に、エルフィが続ける。

 

「それからは総隊長の指示の元、瀞霊廷と現世に残っているモンスターの討伐をしている。我がサーチでこの世界全てを調べたが、もう殆ど全てのモンスターを倒したようだ」

 

「殆ど全て?俺は一体どれ位眠っていたんだ?」

 

「丸三日間だ」

 

即答したエルフィの言葉に、俺は思わず苦笑してしまった。

 

「丸三日間眠っていた自分を恥じるべきか・・・たった三日間で殆ど全てのモンスターを倒した護廷十三隊の手腕に感心するべきか・・・」

 

「複雑だな」

 

二人揃って苦笑していると、コンコンッと扉がノックされた。

 

誰だろうと疑問に思いながらも「どうぞ」と応え、扉が開かれると、其処には女物の着物を羽織り、網笠を被った京楽さんと、慈愛の笑みを浮かべている卯ノ花隊長がいた。

 

「いやぁ~目が覚めたんだねぇ~。よかったよ」

 

朗らかに笑う京楽さんに、俺はつられるように笑みを向けた後に「ご心配をおかけしました」と言って二人の隊長に一礼した。

 

「もう身を起こしても大丈夫のようですね」

 

「まだ全快時の六割か七割位です。激しく動くのは一寸しんどいですけど、普通に動くのなら問題ないです」

 

自らの体の状態を卯ノ花隊長に報告し、俺はまた肩を軽く回してある程度は回復した事をアピールする。

 

そんな俺に「あまり無理をされないように」と微笑んで釘を差す卯ノ花隊長の声を遮る形で、京楽さんが「あぁ、そうだ」と今思い出したと言わんばかりに『ポンッ』と手を打った。

 

何だろうと思い視線を向ける俺とエルフィに、京楽さんが口を開く。

 

「君が目を覚ましたら、エルフィちゃんと2人で一番隊舎の隊首会議場に来るようにって山爺が言っていたんだ」

 

「総隊長がですか?」

 

「うん。今後の事について色々聞きたいんだって」

 

成る程と俺は内心納得した。

 

そもそも俺とエルフィがこの世界に来たのは、イレギュラーズを倒す為だ。

 

その殆どを倒した今、俺達の今後の動向を知っておく必要があると思っても不思議ではない。

 

「場所は僕と卯ノ花隊長が案内するよ。動けるかい?」

 

「はい。直ぐに行きます・・・ととっ」

 

京楽さんに答えてベッドから降り、地に足を着けると、3日も横になった弊害か、足が軽くよろけてしまった。

 

だが横にエルフィがいてくれたので、すぐに支えてもらいバランスをとることができた。

 

「ありがとう」

 

「少しは衰えている事を自覚してくれ」

 

苦言を呈する相棒に、俺は「あぁ」と頷く。

 

そんな俺を見て卯ノ花隊長が「肩を貸しましょうか?」と言ってくれたが、俺は「大丈夫です。いきなり立ったから一寸よろけただけなので」とやんわりと断った。

 

肩を貸りて総隊長の前に行くのは、流石に少し恥ずかしいという本音は隠して、俺は京楽さんと卯ノ花隊長の後に続いて病室の扉を出た。

 

 

                  ☆

 

 

一番隊舎。隊首会議場。

 

山本元柳斎総隊長の左右に涅マユリを除く全ての隊長達が偶数、奇数に分かれて居並ぶ。

その二列の真ん中に立ち、俺はその壮観な光景に萎縮してしまっていた。

 

そんな俺を見て、横にいるエルフィがやや呆れた顔をして「しっかりしろ」とでも言う様に軽く肘で小突く。

 

相棒の気付けに俺は我に返り、軽く深呼吸をした後に足を肩幅に広げて自然体で立つ。

 

「吉波龍一郎。此度の戦い、大儀であった」

 

俺が落ち着くのを待っていたのか、今まで黙していた総隊長が口を開く。

 

重厚な声で伝わる労いの言葉に、俺は「恐縮です」と返した後に「でも――」と続けた。

 

「俺一人の力だけじゃありません。護廷十三隊の皆さんがいなければ、今回の一件を片付ける事は出来ませんでした。だから俺からもお礼を言わせて下さい」と頭を下げて礼を言う俺に、総隊長は「うむ」と頷いた。

 

「まぁそないに固くなるなや。お前も助かったが俺等も助かった。お互い様や」

 

「そうだよ。君がいなかったら、相手の正体も解らず終いだったかもしれないんだからさ」

 

「てめぇはてめぇの出来る全力を尽くした。それは誇れる事だ」

 

軽い口調で口を開く平子隊長に続き、京楽さん。そして日番谷隊長が同意する。

 

まさか日番谷隊長がそう言ってくれるとは思わなかったので、俺は軽く目を見開いて驚いた。

 

そんな俺を見て険のある顔で「なんだ?」と不機嫌そうに聞く日番谷隊長に、俺は「い・・・いえっ!何でもないです!」と、どもりながらも返す。

 

素直に言おうものなら、日番谷隊長の逆鱗に触れる事になるのは分かり切っていたからだ。

 

そんな会話で若干緩んだ空気を、総隊長が床を突いた杖の一突きによって響いた音が皆の気を引き締めた。

 

「労い合うのは大いに結構。だが主等をこの場に呼んだのは、只労いの言葉を贈る為ではない」

 

総隊長の言葉に、俺達を含む全員の表情が真剣なものに戻し、視線を総隊長に向ける。

 

「全てとは言えぬが殆どのイレギュラーズを討伐した今。主等は今後、如何様にするつもりか?」

 

「それについては我が答える」

 

総隊長の問いに一歩前に出て答えたのは、俺の横にいたエルフィだった。

 

「これは龍にもまだ話していない事だが、先程神より連絡があった。

殆どのイレギュラーズの消滅を確認し、僅かに残っているイレギュラーズもこの世界にいる実力者の力で充分に対処が可能であると判断され、我と龍はイレギュラーズが生まれ出た別の世界へと移動することが決まった」

 

エルフィの言葉に京楽さんは「そりゃあ随分と急だねぇ~」としみじみと言い、砕蜂隊長が「後始末を我々に押し付けるか・・・」と苛立ちを露わにして呟く。

 

しかし総隊長は「・・・ふぅむ」と唸って少し考えた後に「世界を移動するのに、どれ程の時間を要する必要がある?」とエルフィに問いた。

 

「5日後。双極の丘にて『門』を開くと聞いている」

 

即答したエルフィに、何も返さずただ黙している総隊長に、左右に並ぶ隊長達が不審げな顔を向ける。

 

「総隊長?如何されましたか?」

 

狛村隊長が一歩前に出て、皆が気になっている事を聞く。

 

総隊長は口に出すのを躊躇う様に間を空けた後に、口を開いた。

 

「先日中央四十六室より、異界より現れし旅禍。吉波龍一郎、エルフリーデ・クライスト両名を拘束せよとの命が下った」

 

「・・・なっ!」

 

「・・・そんな」

 

「っち」

 

「勝手やな・・・」

 

総隊長の言葉に、狛村隊長と浮竹隊長が驚愕の声を上げ、日番谷隊長と平子隊長が怒りを含んだ舌打ち と失望の言葉を吐く。

 

その他の隊長達も、殆どの人達が怒りと失望の表情を浮かべていたり、気配を漂わせていた。

 

だが俺の心の内に怒りは無く、あるのは四十六室の思惑を察した納得の意と、隊長達が俺を思って怒りを浮かべてくれた事による喜びの感情だった。

 

共通の敵であるイレギュラーズを倒した今、四十六室にとって俺は危険な存在以外の何者では無くなったという事なのだろう。

 

(これで俺を捕まえようとしたら、影分身の術で攪乱させている間にエルフィと逃げて、5日後まで身を潜めていよう)

 

心の内で逃走計画を練り、俺は反応を見る為に敢えて挑発的に聞く。

 

「それで俺を捕まえますか?総隊長?」

 

俺の問いに総隊長の眼がスゥッと薄く開かれる。

 

「!・・・元柳斎先「浮竹!」」

 

叫び出す浮竹隊長を、京楽さんが強い口調で遮る。

 

「まだ山爺は全部言い終わっていない。そうでしょう山爺」

 

どこか確信を持って見る京楽さんに、総隊長は「うむ」と鷹揚に頷き続けた。

 

「されどこの命は地獄蝶にて通達された正式なものではなく、更にイレギュラーズの襲撃によって多数の地獄蝶が錯綜し、それらを選別するのに最低でも『5日』は時間がかかると見られる」

 

「!」

 

総隊長の言葉に、俺を含む会議室にいる人達全員が目を見開いて驚愕する。

 

詭弁と言われても文句の言えない屁理屈を、護廷十三隊の総隊長が口にしたのだ。

 

しかしその詭弁の意味する事を知り、各々が肩の力を抜き、笑みを漏らす。

 

「中央四十六室の『正式な』通達があるまで、主等は護廷十三隊にとって恩人であり客人。新たな世界に通じる門が開かれるまで、ゆるりとしていくがよい」

 

総隊長の言葉に、俺の目頭が熱くなる。

 

「・・・はいっ!有り難う御座います!!」

 

左右から温かい目で見てくれている幾人の隊長の視線を感じながら、目から溢れ出る雫の存在を見られない様に、俺は体を直角に曲げて万感の思いを込めて感謝の言葉を口にした。

 

 

                  ☆

 

 

それから5日間。俺とエルフィは御世話になった隊の人達に挨拶に行き、様々な時間を過ごしていった。

 

――山本総隊長と雀部副隊長。そして朽木隊長とエルフィの四人で茶会を堪能した(その時エルフィは今まで見たことが無い位に緩んだ顔でお茶を飲んでいた)り――

 

――何時の間にか気紛れで来ていた夜一さんに歩法を見て貰っていたら、砕蜂隊長に殺気をぶつけられたり――

 

――吉良副隊長と檜佐木副隊長と一緒に四番隊で足ツボマッサージを受けて、その激痛に悲鳴を上げたり――

 

――一護さんに審判を頼んで恋次さんと模擬戦をしていたら、更木隊長の闘争本能に火をつけてしまい、「殺りあおうぜええぇぇぇっ!!」と叫びながら追い掛けられ、三人揃って全力で瀞霊廷中を逃げ回ったり――

 

――平子隊長と一緒にジャズを聞いたり――

 

――祝勝会でベロベロに酔っぱらってしまった京楽さんに無理矢理酒を飲まされて酔い潰されたのを、浮竹隊長に介抱されたり――

 

――日番谷隊長に呼ばれて乱菊さんの書類整理を手伝わされたり――と。

 

そしてあっという間に5日間の時は流れ。俺は今、双極の丘に開かれた『門』の前に立っていた。

 

尤もその『門』は、瀞霊廷の四方に建つ物の様に巨大なものでも、穿界門の様に扉が現れ左右に開かれるものでもなく、ただ何も無い空間に穿界門が現れる直前の様に白く強いが放っているだけであった。

 

正直エルフィが認めなければ、これが異世界に通じる『門』だとは到底信じられなかっただろう。

 

そんな『門』を前にして、俺は一息吐いて振り返り、わざわざ見送りに来てくれた人達に顔を向けた。

 

護廷十三隊の隊長・副隊長達や気紛れで来た夜一さんだけではなく、現世から一護さんに石田さん。井上さんに茶渡さん。そして浦原さんも来てくれていた。

 

「これが・・・異世界へと通じる『門』か」

 

「確かに我々の知る力とは全く違う力みたいっスねぇ」

 

ポツリと漏らす狛村隊長の呟きに、浦原さんが技術開発局初代局長ならではの視点で同意する。

 

「涅がいなくて良かったな。こんなものを見せたら解析させろと喚き散らすに決まっている」

 

俺に語る日番谷隊長の言葉に、周りの人達全員が『確かに』といった感じで苦笑する。

 

「身体に気を付けて」

 

「有り難う御座います」

 

数歩前に出て卯ノ花隊長が差し出した手を俺は握り、握手して礼を言う。

 

そしてそれを皮切りに、他の人達も俺に激励の一言をかけていく。

 

拳を突き出して「負けるんじゃねぇぞ」と力強い言葉をかけてくれる恋次さんに一角さん。

 

「元気でね」と優しい言葉をかけてくれた京楽さんと浮竹隊長。

 

「じゃ~ね~」と明るく手を振ってくれる井上さんに乱菊さん。そして更木隊長の肩に乗っている草鹿副隊長。

 

無言ではあるが、穏やかな目で確かに見送ってくれている石田さんに狛村隊長。そして檜佐木副隊長と吉良副隊長。

 

そんな一人一人に俺とエルフィは礼を言い、会釈を返して応えていく。

 

そして最後に顔を会わせたのは、一護さんとルキアさんの2人だった。

 

別れの悲しみなど全く無く、微笑みを浮かべている2人に俺は頭を下げて「お世話になりました」と礼を言う。

 

「世話になったのは俺達も同じだ」

 

「貴様と私達が力を合わせなければ、恐らく今回の一件を解決する事は出来なかったであろう」

 

礼を言う俺に一護さんは穏やかに返し、ルキアさんは俺を高評価してくれた。

 

だがルキアさんはその後に「だから・・・」と言って一度区切り、「何時までも頭を下げておるな!」と叱咤と同時に頭を下げている俺の尻に蹴りを叩き込んだ。

 

ドカッ!

 

「がっ!」

 

「貴様も立派に戦ったのだ!いつまでも頭を垂れておるな!胸を張って行け!」

 

尻に走る痛みに思わず頭を上げる俺に、ルキアさんの叱咤激励が飛ぶ。

 

少々乱暴だがルキアさんらしいやり方に、俺は「はい!」と快活に応えた。

 

そんな俺を見て、一護さんは俺の胸板を軽く小突いて口を開く。

 

「お前が俺達と培っていった時間は無駄じゃねぇ。それだけは絶対だぜ」

 

「!」

 

ルキアさんに同意した様子の一護さんの言葉に、俺は目を見開いて驚いた。

 

何故なら一護さんの言葉は、この世界で出会った心強い仲間と別れ、異世界へと向かう一抹の不安を抱えていた俺の内心を見抜かれてかけられた言葉の様に思えたからだ。

 

そしてそれを払拭させる最高の言葉でもあった。

 

真っ直ぐに俺を見る一護さんの目からは、俺の力を疑う色など微塵も無く、俺を信じているという意志が目を通して伝わっていた。

 

ただの一言と目。

 

それだけで俺の内にこびりついていた物を乗り越える覚悟を与えてくれた。

 

なにより、憧れている人の信頼に応えなければ男が廃る。

 

俺は微笑んで小さく頷き、見送りに集まってくれた皆を流し見て、横にいる相棒の手を握って身を翻し、光の『門』に向き直り、地を蹴って一気に駆け出した。

 

相棒から若干の戸惑いを感じたが、それはすぐに消えて俺と共に駆けていく。

 

振り返りはしない。

 

ただ前を見て進む。

 

別れの言葉も感謝の言葉もこれ以上は必要無い。

 

だが、ただ一言。

 

「行ってきます!!!」

 

『門』に入る直前にその言葉だけを残し、俺は光の中へと飛び込んでいった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

                  ☆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・失敗したか・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・まぁいい。あの世界ならば、無理もない・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・世界はまだ他にもある・・・・・・

 




どうも!ミステリアです!

まずは処女作であるこの物語を読んでくださって有り難う御座います!

アットノベルズさんで書き始めてから四年と二カ月と四日。ハーメルンさんに投稿を始めてから一年八か月と二十五日の月日が経ち、ここに第一章が完結しました。

これも今日までこの物語を読んでくれた全ての人達のお蔭だと思っています。

BLEACH編はこの話で終わりますが、主人公の物語は世界を変えて第二章として投稿していくつもりです。

無謀かと思われるかもしれませんが、これまで二次小説で数々の名作を生み出してきた『あの』世界に主人公を放り込みたいと思っています。

この物語を見た読者の皆さんが、第二章でも主人公を温かく見守ってくれたら、これ程嬉しい事はありません。

では!願わくば第二章でお会いしましょう!!

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