桜セイバー in Fate/EXTRA   作:日向辰巳

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十四話

俺たちは今、戦いの傷が癒えていなかったため、保健室へと向かっていた。

 

「また一人、マスターが消えました。ですが、一回戦の時ほど動揺はしていないようですね。むしろいい顔をするようになりました。

…覚悟が決まったのかそれとも迷いが消えたのか…どちらにせよいいことですね」

 

覚悟が決まった…そうかもしれない。ダン興に教えてもらったことは倒した相手に恥じない戦いをするということだ、ならばくよくよしている場合ではないだろう。

 

「そして私に言わせて貰えばですね、マスター、迷いなんてものは心の余裕の表れなんですよ。なのでそんな贅沢な悩みを持つのはもっと強くなってからにしてください」

 

そんなセイバーの言葉に自分はハッとした。

そうだ、自分はまだ未熟だ。 迷いを持つ、なんで立派なことができるのは自分を強く持てるものの特権だ。 ならば、 まだ自分は迷っている場合ではない。 今はただ強くなる。 …それだけだ。

 

「ありがとね」

 

「いえいえ、お役に立ったのなら幸いです。この次も頑張りましょうね、マスター」

 

いつもながら危なっかしい戦いだが、こんな自分にセイバーは付いてきてくれる。

セイバーが来てくれなかったら俺はここまで来れなかっただろう。

今回もセイバーには頑張ってもらったし、あとは霊体化してもらって休んでもらおう。

 

「霊体化して休んでいてくれセイバー、必要になったらまた呼ぶよ」

 

「わかりました。ではお言葉に甘えさせてもらいますね」

 

〜〜〜〜

 

「まさかダン・ブラックモアを倒すとはな…岸波白野」

 

!?…さっきまで人の気配は全くなかった。 いつの間にか自分の背後に立ち殺気を放っている者がそこにはいた。

 

「やはりただの雑魚ではないということか。 危険分子はここで始末するに越したことはない」

 

周囲の立ちこめる殺気に気圧され、セイバーを呼ぶことも構えることもできない。

ああ…自分は本当に運がいいのか悪いのかわからなくなってくる。

せっかく命がけで二回戦を突破したというのにこんなところで…

周囲の殺気が鋭敏なものに変わり自分の首へと向けられる。

動かなければ、セイバーを呼ばなくては。…だが、動かない。恐怖で唇が上手く言葉を発さない。 …死ぬ。 このままでは確実に。

 

「ふうん…二回戦のマスターが行方不明だったのはこういうことだったのね…放課後の殺人鬼さん?」

 

誰もいなかったはずの教室から出てきたのはいつも自分を助けてくれた遠坂だった。

 

「…ちっ、遠坂凛か。敵を助けるとは随分と気が多いな、この男を仲間に引き入れるつもりか?」

 

「まさか、そいつは私の仕事とは無関係よ。殺したいのなら勝手にしたら?」

 

「ふん…危険分子は始末するに越したことはない。この場で貴様から始末してやろうか?」

 

「あら、サーヴァント二人を相手にして始末されるのはどちらか…試してみる?」

 

「ふん…テロ屋め。 岸波を始末する際に後ろから刺されたのではたまらんな…いずれ二人とも排除してやる」

 

そして暗殺者は去っていった。

 

「遠坂…ありがとう、助かったよ」

 

あのままだったらサーヴァントも呼び出せずに殺されていただろう、遠坂が来てくれなかったらどうなっていたか…

 

「別に?あいつらのやり方が気に入らないだけよ、ほら見て 僅かだけど壁にハッキングしたような痕がある。 おそらく不正な行為でマスターをアリーナに引きずり込み、そこで間引きしているのね」

 

「じゃあこの倒れてる人達は…」

 

「十中八九、さっきの暗殺者…ユリウス・ベルキスクに殺されたんでしょうね」

 

さっき遠坂が助けてくれなかったら…想像するだけでも恐ろしくなる

 

「そうね…あなたはまだまだ戦闘経験が足りないわ、まだ戦いは続くんだしもっとアリーナで鍛錬してみたら?」

 

そうだ、自分には余所見している暇なんかない...さっき決めたばかりじゃないか、命を奪った相手に恥じない戦いをすると。

 

「さっきはありがとな、遠坂。このお礼は必ずいつか返すよ」

 

「別にさっきのは助けたくて助けたわけじゃないしお礼なんていいけど…そうね、じゃあいつか返してもらうとするわ」

 

「じゃあね、岸波くん」

 

そう言い残して遠坂は去っていった。

 

〜〜〜〜

 

「先程は危なかったですね、マスター」

 

「うん、これからは気をつけるよ」

 

校内でも襲ってくる敵は必ず存在する、いつもというわけにはいかないができるだけ気を張っていて間違いということはないだろう。

 

「そんなことがあったんですね…」

 

自分達は今、保健室にいる。

アーチャーから受けた矢の毒は解除出来たとしても、宝具の毒は抜けきっていなかったからだ。

 

「今回の聖杯戦争は、いつもと雰囲気が違いますね…よしこれで大丈夫ですよ、先輩」

 

「いつもありがとうね、桜」

 

そういえば桜にはいつもお世話になっているのにこちらからは何もしていない気がする…よし!

 

「桜」

 

「はい、何でしょう先輩?」

 

「これあげるよ」

 

そう言って渡したのは購買部で買ったこんぺいとうだ、セイバーにあげるつもりだったのだが、買いすぎてしまったので桜に日頃のお礼ということでプレゼントする。

 

「わあ…ありがとうございます!先輩、私甘いもの好きなのですごく嬉しいです!」

 

うんかわいい。

桜も喜んでいるみたいだし、プレゼントしてよかったな。

 

〜〜〜〜

 

「それでセイバー…何で不機嫌なの?」

 

「別に!私は不機嫌なんかじゃありませんよ?…ただ桜さんが羨ましいなーって思っただけです!」

 

ははーん、まったく可愛いなあ、セイバーは。

恐らく桜だけにあげたから羨ましく思っているのだろう。 そんなこと気にしなくてもセイバーの分を俺が持っていないわけがないじゃないか。

 

「勿論セイバーの分もあるよ」

 

「本当ですか!?…あ、いえ! 別に私そんなお菓子で釣られる程甘くありませんしぃ? ま、まあマスターがどうしてもと言うのなら? まあ貰ってあげてもいいですよ?」

 

「じゃあ、どうしてもあげたい。 受け取ってくれないか?」

 

「…う、そんなストレートに言われると照れます…では…有り難く頂戴しますね」

 

「ほら、じゃあ口を開けて」

 

「え、いやいいですよマスター、それくらいは自分で食べれますし…何より恥ずかしいですし…」

 

「いや!セイバー、これは別に恥ずかしいことじゃない…これは信頼関係の証なんだ、マスターのことをどれ程信頼しているか、それを証明するための儀式でもあるんだよ…」

 

うん、自分でも何を言っているのかわからない、ちょっと悪ノリしすぎたかな、というかこんなんじゃ流石に…

 

「へ、へぇ?すみません、勉強不足でした、そういうことなら」

 

騙されたぁ!?ちょっと大丈夫ですかセイバーさん!?ち、ちょろすぎない? だがこれはチャンスだ、教育次第では…おっと、セイバーが余りにも可愛いから変なことを考えちゃったよ。

 

「ごめん、セイバー。さっきのは嘘だよ。こんなことしなくても俺はセイバーを信頼してるさ」

 

「やっぱり嘘だったんですか?おかしいとは思っていたのですが」

 

そしてセイバーにもこんぺいとうを渡し、ふと気になったことを話す。

 

「そういえばセイバー、宝具を失くしたって言ってたけど」

 

「いえ、失くしてはいませんよ?どこかに落としてしまいました、といっても心当たりはないのですが…」

 

そうか、自分はてっきり失くしたのかと思っていた。

それならばまだ希望はある、こつこつと地道に探すしかないだろう

 

「というか最近マスターは私を馬鹿にしすぎじゃないでしょうか…」

 

「ごめんごめん、じゃあ明日はアリーナでセイバーの頼りになる所を見せてくれる?」

 

「はい!このまま順調に私のステータスを上げて次の敵をボッコボコに…こふっ!?」

 

今日はいつも以上に精神的にきつかった、だが今はとにかく目の前の敵を倒すことに集中しよう、明日になればまた三回戦の通知が来るだろうし、今夜は体をゆっくり休めるとしよう。

 

「おやすみなさい、マスター 今日も疲れましたね…よい夢を」

 

 

 

 

 


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