「…手合わせしてわかったわ、あなたの対戦者のこと。私は最初は固有結界を使うって聞いてたから私はてっきり魔術に特化したキャスターだと思っていたの」
自分も初めはそう思っていた、そう、あのバーサーカーを見るまでは。
「その通り、彼女達が呼び出したあのジャバウォックという怪物の凶悪な性能はまさにバーサーカー並だったわ」
「つまり、彼女たちのサーヴァントはキャスターとバーサーカー...ってことか?」
「違うわ白野くん、サーヴァントは一人に一つ。これは聖杯戦争のルールよ、簡単に覆すことはできないわ」
そういえば…ありすはあの巨人のことをサーヴァントじゃないと言っていた、じゃああの巨人はどういうことだろうか?
「おそらく怪物はあの黒い方の少女が使役しているんでしょうね、そして固有結界も展開できるなんてかなり破格のサーヴァントよ」
つまりはありすのサーヴァントはキャスターであの怪物はキャスターが使役している、ということだろうか。
「そしてそのサーヴァントに魔力を供給しているマスターも規格外よ、あんなことは私にはもちろんレオにもできない。
サーヴァントが使う魔力の負荷はマスターにかかる、あれほどの魔力は人間の脳や魔術回路程度じゃ身体が持たない、生きた人間じゃ脳が焼き切れてしまうわ」
生きた人間じゃあれほどの出力を持つサーヴァントを使役できない、まさか...
「そう、あの少女の肉体はすでに死んでいて霊子化した精神だけの状態ならあれほどの魔力を生みだせるのも頷けるわ。
脳が焼き切れることがないからリミッターが存在しなくなるってことね」
じゃあつまり…俺はもうこの世にいないはずの少女と戦わなければいけないのか…
「あまり気持ちのいい話ではありませんが…それが事実ならあの少女は魂だけの存在ということですか。
マスターには悪いですがこれは戦い…それに相手はもう死人、情けなどするだけ無駄です」
「岸波くん、少しは覚悟ができたと思ってたけど全然できてなかったのね。
倒す相手がとっくに死んでいたくらいでへこむなんて…自分の手を汚さなかっただけでもラッキーだと思いなさい」
普段は温厚な物腰のセイバーが厳しい言葉を突きつける、普段の振る舞いを見ると忘れかけてしまうがセイバーも英霊だ。
その言葉からセイバーが過去の戦いでどれだけ血生臭い戦いをしてきたのかが分かる。
遠坂もセイバーも彼女達なりに励ましてくれているのだろう、だがなぜ既に死んでいるはずの少女を聖杯は利用して対戦相手に選ぶのだろうか…
「マスター、お気持ちは分かりますが今はあなたが勝つことに集中してください。…情けをかけてその果てに貴方が死ぬ、なんて笑い話にもなりませんから」
「わかってる、わかってるんだよセイバー…でも俺は何だか割り切れないよ…」
「…ま、後は私にできることは無いわね、図書室で調べるなり何なりして対策を練るかしなさいよ。
…それじゃあね。白野くん、セイバー」
図書室…そういえばありすはあの怪物を倒すにはヴォーパルの剣が必要だと言っていた、図書室に行けば何か手がかりが見つかるかもしれない。
「相変わらずリンさんはお人好しですね。ではマスター、明日は図書室に行きましょうか」
現状ではそうするしかない、自分は戦うしかないと頭では分かっているのに俺には素直に割り切ることができなかった。
〜〜〜〜
「何かお探しですか?」
俺は今、図書室に来ていた。
すると図書室を管理しているNPCが声をかけてきた。
「えっと、ヴォーパルの剣って知ってますか?」
「ヴォーパルの剣ですね、それなら普通の小説ではなく”鏡の国のアリス”にでてくるジャバウォックの詩というものに出てきます」
なるほど、いくら探してもヴォーパルの剣なんて本は出てこないわけだ。
なら、その本を探せばいいのだろうか?
「ごきげんよう、岸波さん」
そう言って現れたのはラニだった。そういえばラニは図書室によく来ているらしいし鏡の国のアリスの場所などもわかるだろうか?
「鏡の国のアリス…ですか。読んだことはあります、何か調べものですか?」
「うん、ヴォーパルの剣っていうのがその本に出てくるらしいから…」
「ヴォーパルの剣ですか…師から聞いたことがあります、特定対象にのみ有効な魔術礼装ですね」
「その剣が必要なんだ、どうやって作るかとか分かる?」
「錬金の素材さえあれば錬成することも可能ですが…よろしければ私がお作りしましょうか?」
「作れるのか?」
「はい。素材さえあればすぐにでも」
ヴォーパルの剣は作ることができるのか、ならば素材を集めてラニに渡せばいいということだろうか。
「何が必要なの?ラニ」
「マラカイトという宝石です、購買部でも売っていましたしお金に余裕があるのならそこで買ってみてはどうでしょう?」
ありがとう、とラニにお礼を言って購買部に走る お金ならこれまでの戦いでかなり貯まっている、これなら例え宝石でも買えるはずだ。
〜〜〜〜
…そう思ってた時期が俺にもありました。
何だこの値段!こんなの誰が買えるんだ?
すると後ろから聞き覚えのある声がした。
「おや?そこにいるのは岸波白野かね?」
…しまった。見つかった。この人を人とも思わないどす黒いオーラを放っているような人物なんて俺は一人しか知らない。
「どうしたのかね…ククク、そういえば最近マラカイトを仕入れたのだが少々高くてね、誰も買ってくれなくて困っている、今なら大サービスで君にあげてもいいが?」
「やったー!これで宝石をゲットすることができますね、マスター」
「おやセイバー、私はタダでやるなんて一言も言っていないぞ?www」
いつになく言峰神父は嫌らしい笑みを浮かべそのマカライトをあげる条件を言う、その内容は…
「激辛麻婆豆腐を十杯食べてもらおうか」
「無理です、諦めましょうマスター」
即答である、ここまで麻婆が苦手だったのか、まあ麻婆豆腐自体は量も少ないし二人ならばいけるだろうと自分は思うのだが…
それに何より美味しい。今の俺ならペロリと食べることができるだろう。
「無理です!マスターは良くても私が無理です!私あれ嫌いです!」
「何せ作りすぎてしまってね、このままでは品質が悪くなり麻婆豆腐が腐ってしまう。まあ、量がどうしても多いというのであれば八杯でもかまわないが、どうする少年?」
ぜひやります、と答えて嫌々セイバーも隣に座る、そしてとてつもない大きさの皿に麻婆豆腐が八杯分注がれた…セイバーの方に。
「なんで私の方だけ!?」
「おっとすまないww手が滑ってしまったようだwww」
「絶対嘘だ!顔が笑ってますし!」
流石にセイバーが可哀想なので半分くらい自分が貰う、そして四杯目を食べ終わった時ふとセイバーの方を見ると…
…目が死んでいた。
「あはははは〜みなさん、私のお見舞いに来てくれたんですか、何か懐かしいですね…」
まずい、今にも昇天しそうになっている。
このままじゃまずいと思い、慌ててセイバーを起こし残りの麻婆を食べる、うえっ…流石に食べ過ぎて吐きそうだ…そして約束の品を言峰神父から受け取る。
「ちっ…貴様が食べるとはな。まあいい、これが約束のマカライトだ」
今舌打ちしなかったかこの神父!?…やはりこいつは捻くれているな。とても神父がする行動じゃない、まあこいつの性根が悪いと言うことくらいわかってはいたが。
〜〜〜〜
俺たちは貰ったマカライトをラニに渡し、休憩してからアリーナへと向かっていた。
「また酷い目に遭いました…あの神父め…絶対許さん…」
「セイバーは辛いものが苦手なんだね」
「あれは辛すぎです!あれは言うなら災害です…代わりに食べてくれてありがとうございました、マスター」
「大丈夫だよ、それにセイバーはいつも俺を助けてくれるからな、たまには俺もいい所を見せないと」
「そうね、お姉ちゃんは隙がありすぎるものね」
確かにセイバーは戦い以外では結構抜けているところが…って!
「ありす!?っていうか何?その格好…」
ありすの服装はいつもと違っていた、いや、いつもとは同じだったのだが上に何か羽織っていた。サイズが合っていないのだろうか、ズルズルと引きずりながら歩いている。
「久しぶり、お兄ちゃん。これはね、わたしがここに来る時に上から落ちてきたの」
「へー、でもそれありす用じゃないよな?袖のサイズとかあってないし」
「そうよ、それに使うことないから捨てようかと思って…「返して下さい!!!!!」
ん?セイバー?珍しくセイバーが取り乱している、セイバーの言動から察するに余程大切なものらしい。
「それ私のです!返して下さい!」
「へぇー、これお姉ちゃんのなんだ…じゃあ私を捕まえてみて!じゃあおにごっこスタートね!」
「な、待って下さい!あ、アリーナに…追いますよ!マスター!」
「待ってセイバー!そんなに引っ張らないで!そんなに走ったら麻婆が…ウッ!」
セイバーに引っ張られ無理矢理走らされる。その時俺はまずいと感じていた。何故なら俺は先程麻婆を9杯食べたのだ、間髪入れずにこんなに走ったら…戻してしまう。
「待ってください!くっ、すみませんマスター!お許しください!」
うおおおお、とセイバーは俺を放り出しありすをものすごい速度で追いかけていく。
くそ…俺は…こんなところで…吐くわけには…
「ごきげんよう、岸波さん。頼まれたものが出来上がったのでお届けに来たのですが…」
あ…ラニ…ありが…と…
そういって俺は我慢の限界が来て窓から綺麗な虹を口から放出することになった。
……帰ったら仕置きだぞセイバー。