桜セイバー in Fate/EXTRA   作:日向辰巳

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最初ユリウス視点です



二十九話

……あの人は俺にとっての救いだった。

癒しだった、俺が一族の中で失敗作と蔑まれていた時も優しく微笑み話を聞いてくれた。

俺の名を呼んでくれた。

あれは俺がまだ幼かった頃…

 

〜〜〜〜

 

「どうしたのユリウス?そんなにボロボロになって…さてはまた獅子劫さんに挑んで返り討ちにされたんでしょう」

 

「……だってお前は組織の失敗作だって言われて…僕…悔しくて。 少しでも大人達を見返したくて」

 

俺は母体にいた頃から様々な強化剤や薬物を投与されていて生まれた時の能力が期待されていた。

だが期待とは裏腹に全ての能力値が低く、薬物などにより老化する速度も常人の二倍という欠陥を抱えていた。

それによって俺は生かす価値の無い存在として組織に消されるはずだった。

だがあの人…アリシアが俺を守ってくれた。

 

「アリシアは…なんであの時僕を助けてくれたの? 僕に生きる価値なんて無いのに…

知ってるよ、 失敗作の僕なんかを助けたせいでアリシアの肩身が狭くなってるって」

 

「何言ってるのユリウス、貴方はここにいる時点で私の家族よ?家族を守るのは当たり前でしょう?」

 

「でも…」

 

「いいから、それに生きる価値ならあるわよ?」

 

「ほ、本当に!?それって何!」

 

「ふふふ…それはね、貴方の淹れる紅茶はとても美味しいの! だから密かに私の楽しみになってるのよ?それに私の話相手になってくれてる、これじゃ生きる価値にならない?」

 

「はあもう…そうじゃなくて…」

 

彼女はいつも俺を励ましてくれた。 俺は生きるかわりに定期的に薬を投与され続けた。

激痛で何度も死を覚悟したが何とか耐え切れた。 こんなことに耐え切れたのも彼女の励ましがあったからだろう。

そして何年か過ぎ、薬の効果で成人の体に成長した俺は生存価値を認められ対テロ部隊に身を置くことになった。

そして最初に俺に課された任務はレオの地位を完璧にするための暗殺…

彼女…アリシアを殺す事だった。

 

「あらユリウス、今日は遅かったのね……おいで、ユリウス」

 

俺は訓練や薬でどんどん大きくなったが、逆に彼女はどんどん痩せていった。

彼女は少量ずつだが毒を投与されていたのだ。

……殺す時に抵抗されないように。 楽に殺せるように。

…俺はゆっくりと彼女の背後に回り、彼女の頭に拳銃を突きつけた。

 

「…そう、それが貴方の任務なのね」

 

「…すみません」

 

そして引き金を引こうとする、だが何故か手が震えてしまい涙で視界が滲み思うように撃つことができない。

 

「ユリウス、貴方は優しい子、貴方を助けた時からずっと貴方は私の家族よ。 …そしてこれからも。

…最期に私のわがままを聞いてくれる?」

 

 

「……はい」

 

「レオを…レオのことを守ってあげて。 あの子には親として何してあげられなかったから……お願いね?ユリウス」

 

〜〜〜〜

 

何だ…今のは? 今のは…ユリウスの若い頃の記憶?

何故だ?ユリウス、お前はこの記憶を俺に見せて一体何を伝えたいんだ。

…先程から流れ込んでくる彼の怨念。そのそこで感じた殺意ではない何か。 ……確かめなければ。

もし、ユリウスが俺に救いを求めているのだとしたら…

 

「岸波…お前は俺と同じ路傍の石だったはずだ。 這い上がらなければ生存できない、脆弱な存在だったはずだ!

そんなお前に、俺は、負けるわけにはいかんのだ!」

 

ユリウスはアサシンと融合するという暴挙までして俺を殺そうとしている、さっきまでならそう思っていた。

だが今わかった、ユリウスは俺に救いを求めている。

俺に救いを求めているのなら俺にできる事はこれしかない。

 

 

「俺と友達になってくれ、ユリウス」

 

「…………は?…友だと? 何故だ、何故そうなる、何故涙を流す!

俺はお前などに憐れまれる覚えはない!」

 

「ユリウス、俺は君の心に触れた」

 

「…………!!!!」

 

俺はユリウスの心に触れた。そしてわかったことはユリウスは人に飢えているということだ。

ユリウスには組織の仲間はいても友達はいなかったのだろう。

なら、俺はユリウスと友達になりたい。…だから俺はユリウスに向かって手を伸ばす。

 

「…友達になろう…か…そんな事を言われたのは生まれて初めてだ。

これまで俺に近づいてくる者は俺を利用しようと考えている者か、恐れ、へりくだるかのどちらかだった。

だが、お前は真っ直ぐに俺を見つめていたな… どんな闇の中でもその瞳には強い光が宿っている… 俺はそんなお前が羨ましかったんだろう… お前ならきっとアリシアを救う道を諦めなかったのだろう」

 

「ユリウス…じゃあ」

 

「ああ…これが俺の…答えだ」

 

しっかりとユリウスと手を握る。

そしてユリウスの体が割れていく、今までアサシンとの融合という反則で逃れ続けていたがもう限界が近かったのだろう。

最早ユリウスの体温を感じ取ることもできなくなっていた。

 

「…可笑しいか?決して褒められた人生ではないが一人も友人がいないまま逝くのは情けない話だと思ってな。

……面倒な男に付き合わせた」

 

「まったくだよ、少し怖かったけど……でも俺も友達が出来た、俺は満足だ」

 

「ふっ、いいものだな…自分のために涙を流してくれる者がいるというのも」

 

「また会おうな…ユリウス」

 

そしてユリウスは消滅し…俺の五回戦は終わりを告げた。

 

〜〜〜〜

 

…そのはずだった。

五回戦は終わった、この勝負は俺たちの勝ちで決着が着いたはずだ。

…なのにどうしてだ。

 

帰還することができない。

…いつもなら帰還する扉が開いているはずなのに今は開く気配すらない。

 

「…どうしたんですかマスター」

 

「大丈夫か沖田。いや、何故かわからないけど校舎に戻れないんだ」

 

おかしい…それにこの空間が徐々に崩壊してきている。

このままじゃ呑み込まれてしまうんじゃ…

 

「ふうっ!ユリウスさんが壁を破壊してくれたおかげで簡単に侵入できちゃいました!

まあ万能可愛い系後輩キャラのBBちゃんなら壁なんて破壊されなくても一部の空間くらいなら乗っ取れましたけど!」

 

………………?

……………………?

…………………………?

な、何だこれ!?

急に空から声が聞こえてくる、BB…? 一体何のことだ?聞いたこともない名前だ。 いや、そんなことはどうでもいい。

あいつが俺たちをこの空間に閉じ込めている犯人なのか!?

 

「…君が俺たちを閉じ込めている犯人なのか!?」

 

「はーい!そうですよ、セ、ン、パ、イ」

 

相手の目的は分からないが一つだけ分かることがある。 これは聖杯戦争のイレギュラーだと言うことだ。

相手はこの空間を乗っ取ったと言っていた。

つまりはこの空間はもう相手の支配下にあるということだ。

…空間を支配する理由…つまりあいつは俺たちの敵だ。だが沖田はもう限界だ、早く休ませないと。

 

「頼む、沖田だけでも休ませてあげてくれ!もう限界なんだ!」

 

「…ふーん、沖田さんだけでも、ですか。じゃああなたはどうなってもいいと?」

 

…少し希望が見えてきたかもしれない。こいつは話を聞くタイプと見た。

なら話し合いで沖田だけでも脱出できるかもしれない。

 

「何を馬鹿な事を言ってるんですかマスター…私なら全然平気ですから…」

 

「何言ってるんだ、こんな時くらい俺を頼れ、いつも沖田に助けてもらってるんだから恩返しくらいさせてくれ」

 

「だめ…です…ウッ!」

 

くそ、沖田は苦しんでるのに俺には何もできない。できる事といったら奴に助けを懇願することだけだ。

…なんて情けない。

 

「えーっとー………考えてあげなくもないんですけどー……やっぱり嫌です。お断りです。

…そんなにサーヴァントのことが大好きなセンパイは二人仲良く死んじゃって下さーい」

 

その瞬間、辺りが暗くなり無数の黒い触手の化け物や小さな粒が蠢きだす。

こちらにどんどん近づき、取り込もうとしている。アレに触れてはならない、近づいてはならない。

アレに捕まればどうなるかは想像するまでもない、必ず死ぬ以上の苦しみを味わうことになるだろう。

 

「…もう私は大丈夫です、今は逃げましょう。マスター」

 

「………そうだな」

 

〜〜〜〜

 

もう何分走っただろうか。

どこまでいっても景色が変わらない。

それどころか化け物達の数は増えていく一方だ。

………ここまでか。

 

「沖田、聞いてくれ」

 

「はぁ…はぁ…な、何でしょうか…」

 

「このままじゃ俺たちは二人まとめて呑み込まれる、そして死ぬ」

 

「…そうかもしれませんね、ですが貴方が諦めることをしない人だというのは知っています、希望を捨てずに頑張りましょう」

 

……そうだ、俺は諦めることをしない。いやしてはならない。それが俺が奪ってきた命に対する俺が出来るせめてものことだった。

でも今回ばかりは、いや今回だけは諦めなければならない。例えそれが自身を裏切る結果になったとしても。

 

「沖田!俺の目を見てくれ!」

 

「は、はい!?いきなりなんです?こんな非常時に」

 

「沖田…好きだ!俺は沖田の健気なところとかこんぺいとうを美味しそうに食べるところとか激辛麻婆を食べて悶絶しているところとかそれでも精一杯食べるところとかしっかりしてるように見えてドジなところとか凛々しく戦ってかっこいいところとかその後マイルームで見せてくれる笑顔とか

……もうとにかく大好きだ!」

 

「………………………………え?ええええええええええええ!?

何言ってるんですか何言ってるんですか! こんな時に冗談はよして下さい! どこか頭でも打ったんですか!?」

 

「…俺は本気だ、こんな時に冗談は言わない」

 

「ほ、本気…ですか///ほ、本当に…?」

 

「ああ…だから…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さよならだ、沖田」

 

 

 

 

 

 

 

「……………え?」

 

こんなものはただの自己満足、そんなことはわかっている。

だが俺は自分の好きな人が目の前で傷つくなんて我慢できない。奴が狙っているのは俺だ。これは俺の問題。

好きな人を巻き込むわけにはいかない。

……ここに残るのは……俺だけだ。

 

「岸波白野が最後の令呪をもって命じる! 座に戻れ沖田総司!」

 

「う、うあああああ!いやあ!いやです!私も最後までマスターと一緒に居たい!いやだ!」

 

沖田は必死に令呪の縛りに抗おうとしている、だが俺はずっと沖田と戦ってきた、沖田の弱点など分かっている。さらには弱っているという事もあり今の沖田では令呪の縛りに抗うことは不可能だ。

 

「対魔力Eじゃ令呪の縛りには抗えない……ごめん、沖田。

…本当に、君を愛している」

 

「マスター…私も…」

 

…消えた。 長い間俺の隣を歩き、一緒に成長してくれた相棒が…消えた。 俺が、消してしまった。

後悔はしてない、好きな人を守れたのだから。…でも何故だろう、涙が溢れて止まらない。

好きな人を守れたのに…何でだろう。

 

ははっ、わかったよ、怖いんだ。 あんなに強がっていたのに情けない。 俺は一人じゃ何もできないんだ。

今まで上手くいったのは隣に沖田がいたからだ。

…もう周りには化け物達が捕食しようと俺を囲んでいる。

 

「(最後…泣いてたな.…沖田…いつかまた会えたなら…今回のことを謝らせてくれ、そして…)」

 

「…そして、もしももう一度会える時が来たら…その時は君の事を名前で呼んでもいいかな…」

 

…そして一斉に呑み込まれる。

埋め尽くされる、腕や足が千切られている。 だがもう痛みを感じない。 侵食される。 体が怠い、何をされているのか分からないが意識がある事が辛く感じる。

もう光は見えない。 何も見えない。

一瞬、何かの姿が見えた気がした。とても温かくて眩しいかけがえのない人。 自分にもそんな人がいた気がする。

…思い出せない。 あの人は…

…そこで俺の意識はプツンと途切れた。

 

 




ちょっと強引でしたかね?
はい、ここでextra編はいったん一区切りです
ですがまだ終わりません!そしてここまで読んでくださった皆さんありがとうございます!そして次も宜しくお願いします!

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