「やってくれましたね獅子劫界離…」
本来ならここでセンパイを捕らえ永遠に逃げられないように私の空間に閉じ込めるつもりだったのですが…まあいいです。
予定外なんてよくある事。
それより今は…
「……私に人質の価値はありません。 特別な情報を持っている訳ではありませんし拷問の類はあらかた知っています。 何をしても無駄ですよ」
沖田は壁に磔にされていた。 捕らえられて磔にされ連想するのは十中八九拷問だ。
沖田は拷問の類は生前の縁で経験があった。だからと言って拷問に耐性がある訳ではなく出来れば痛いのは嫌だった。
もちろん口を割る気は無いしもしもの時の覚悟はしていたが。
「拷問? そんな事しませんよ。 帰りたいというならセンパイの下へ帰してあげます」
不可解だった。 自分を捕らえておきながら何もせずに帰すという行為に一体何の意味があったのだろうか。 と気を抜いてしまったその時の事だった。
「…ただし、帰るのは貴女ではありません」
一瞬、自分の腹部に何か違和感を感じた。 自分の腹部には何か細い棒のような…違う。 あれは腕だ。呆けていた頭が全てを理解し遅れて痛みがやってくる。
「くぁ、ぁがあぁぁぁぁあぁぁぁあ!」
痛い。痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い。 何かが、何だかわからないが確実に何かを入れられた。 それが自分の体に入り暴れている。
自分の内側からの痛みを味わったことのない沖田は想像を絶する痛みに驚愕した。 体中の血管からは血が吹き出し、止めたくとも体の痙攣が止まらない。 喉からは叫び声を上げすぎて血が出ている。
BBが沖田に使った何かは確実に沖田の肉体、そして精神を蝕んでいた。
…どうしてこんなに痛い思いをしないといけない?
生前、悪いことをしたから? 確かに人を斬った。 人を殺した。 だがそれは必要な事だった。 沖田総司という一人の人間の存在価値を皆に示すために。 そして自分の仲間を守る為に必要だった。 人を斬った。 だが結局は仲間を守れなかった。 だから今度は、今度こそは間違えないように、最後まで命を賭して主人を守る。
最後まで戦い抜きたい。私は、私の願いは最後まで仲間と共に在りたかっただけ…
いや、それは違うな。正しくは昔はそうだったが今は違う、だ。
戦い続けたい…確かに最初はそうだった。 命尽きるまで戦えれば、自分が何も出来ない役立たずな状態で終わらなければ、それで良いと思っていた。 だがマスターと、岸波白野と触れる内に私の願いは変わっていたのだ。
…ああ、私は…私の、願いは…
”岸波白野と共に在りたい”
いつの間にか願いは変わっていた。 一緒に笑い合ったり、触れ合ったり、一緒にご飯を食べたり…一緒に、隣に居られるならどんな形でもいい。
…近くにいたい。
…ただ、それだけだったのだ。
「痛いでしょう、苦しいでしょう、でも安心してください沖田さん。 もう少しの辛抱です…あと少しで…もう、何も思い出せなくなりますから」
血溜まりの中でBBは不敵に笑う。 沖田の両手両足を打ち付けていた杭は外れ拘束されていた沖田がべちゃりと血溜まりの中に落下する。
沖田は動かない。 消滅してはいないという事はまだ生きているという事だろう。 沖田の生命力…というか精神力に呆れながらもBBは内心喜んでいた。
これで準備は整った。 これを見たら岸波白野はどんな顔をするだろうか、 私の事を憎悪するだろうか。少なからず絶望するだろう。 そんな顔をしているセンパイを見てみたい。
以前は絶望した顔など見たところで特に何も思わなかった。 それどころか悲しく思うだけだった。 だがこの間の戦いで岸波が見せた恐怖している顔。
気分が良かった。
もっと大切なものを壊してやりたい、 そう思った。 狂気の笑みを浮かべBBは作業に戻る。
”あれ? 何でこんなことしてるんだっけ?”
ふと、奇妙なことを思ったが次の瞬間には忘れていた。
これが本当に自分の意思かどうかなど気づきもしていなかったし、次の瞬間にはどうでもよくなっていた。まともに考えることすら今のBBには出来なくなっていた。
それ程までに、何かに追い詰められていた。
〜〜〜〜
体が…浮いている。
いや、物理的に浮いているわけではないがフワフワしている感覚がある。 この感覚は前にも感じたことがある。 …ああ、これは夢だ。
夢など自分で覚めることも出来ないのだし、前のような悪夢でないことを願うばかりだが…さて、どうか。
〜〜〜〜
…少女がいた。だが、少女がいる部屋には他に何もなかった。 いや、何も無いわけではない。 生活に必要なものはあった。 布団、お茶、食べ物…etc。 だが、食べ物には一切手を付けていなかった。 時折その少女は苦しそうに呻きタオルを口元に当て吐血する。
…見ているこちらが痛々しい。 それにこんなに苦しんでいるのに他の人はどうして助けに来ないのか、そう思っていると一人、体格のいい男性が部屋に入ってきた。 手のつけられていない食器を片付け、何か話をしている。
少女は自分の体が徐々に弱っていくのがわかっていたのだろう。 だがそんな素振りは見せないよう明るく振舞っていた。
”もうすぐ大きな戦が来る、お前の力を借りたい”
何を言ってるんだ、この男は。 明らかにこの少女はボロボロで戦える状態じゃないことなんて見るだけでわかるはずだ。
”任せてください、最近は調子がいいんですよ”
やめてくれ。
それ以上無理をしないでくれ。 調子が良いわけがないんだ。 現にさっきまでは血を吐いて、呻いて、苦しんでいたんだ。
そんな思いを他所にその少女は戦いへと赴いてしまった。 案の定その戦いで症状が悪化してしまったらしく、またも寝たきりの生活が始まっていた。
あの体格の良い男もめっきり来なくなり、代わりの人が来るようになったが最早少女は隔離されているような状態で会話も最低限しかされず腫れ物のような扱いをされていた。
そして特に何があったわけでもない。 ただこれは当然だったのだ、と言うように普通の、何もない平穏な日に少女は眠るように息を引き取った。
ただ一つ、気になったのは、最後の最後まで涙を流さない日が無かったと言う事だろうか。
…これは、総司の過去だ。 最後の最後まで何もする事が出来ず仲間の状態も知らされずに命尽きてしまった。
そんな総司の望みは一体何なのだろうか。
考え込んでいる所で、落下するような感覚が俺を襲った。 夢が終わるのだなと感じた。
〜〜〜〜
目が覚める。 まだ完全に覚醒していない頭を回転させここが保健室である事を認識する。 確か俺は…獅子刧さんに投げ飛ばされて…。 そこまで考え、全てを思い出した。 朧げな記憶を思い出した。 自分一人だけ助かってしまったこと。みんなを見捨ててしまったこと。
「おはようございます、168時間も寝たきり何てニートもびっくりの睡眠量ですね」
落ち着いた声。 そこには褐色の眼鏡を掛けた少女がいた。 遠坂とも桜とも違う女の子。 …そしてさり気無くオレに毒を吐くこの子は誰だろうか。
「おはよう…ってか、疲労困憊で倒れてた相手に初対面でそれかよ。 普通こんな時はお互いに名乗りあうもんなんじゃないの?」
「いえ、これはミス遠坂が岸波さんは罵られて喜ぶ体質と言われていたので…」
なるほど、いきなりおかしいとは思っていたがやはりヤツの差し金だったか。 あのツンデレツインテ…ツンツイはいつもいらないことしかしないな。
「オレは岸波白野だ。君の名前は?」
「私はラニと言います。 私を助けてくれたのは貴方だそうですね。 …ありがとうございます」
なるほど、どうやらこの子はサクラ迷宮でオレが助けた子のようだ。 あの時は魔力も殆ど無くなっており顔色も悪かったがこうしてみると少し元気になっているように感じる。 何はともあれ、元気になったなら何よりだ。
「早速ですが生徒会室に同行を願います。 みなさん、貴方を待っているので…」
その時だった。 大きな破壊音が校舎内に響き渡った。 何か大きなものが校舎に激突したかのような凄まじい音。 一体何が…。
「敵襲です! 校舎の結界が破られました! 今レオさん達が迎撃に向かっています…が、あの数を一人で相手にするのは流石のレオさんでも厳しいと思われます。 至急戻って遠坂さんと結界の修復に取り掛かってください!」
血相を変えて保健室に現れたのは桜だった。 どうやら敵が来たらしい。 急いで敵の迎撃に向かわなければ…。
「貴方はこのまま回復に努めていて下さい。 今の貴方にはサーヴァントもいないのですから出来ることはないと思われます」
サーヴァントが、いない…? そこまで言われて自身の令呪に光が宿っていないことに気づいた。 …総司との契約が切れている。
…まさか、総司が死… いや、そんなまさか、そんなはずは…。 でも、そうじゃないなら何故令呪が…。
「…岸波さん?」
「…行かないと、ソウジのところに、行かないと」
「貴方はここを動かないで下さい。 今の貴方はとても危険な状態です。 今の貴方が助けに行っても足手まといになるだけ… 大人しく休んでいて下さい」
大人しく休んでいろ…? 出来るわけがない。 オレは敵に聞かなければいけないんだ。 オレの相棒のソウジの事を。
「断る。 オレには目的ができた。敵が来てるんだって? 丁度いい、そいつらに聞きたい事がある」
こっちは急いでるんだ。 どんな事になってでも確認しなければいけない事がある。 敵が都合よくこちらに来てるのなら尚更だ。 ラニには悪いがここは通してもらう。
「…駄目です。 どうしても行くと言うのなら力づくでも…ウッ!?」
「…ごめんな、後で謝るから許してくれ」
ラニを気絶させ、保健室を後にする。 正直ここまでうまく行くとは思っていなかったが今日は何故か体の調子がいい、まるで自分以外の力も加わっているような…まあそんなことはどうでもいい。…早く行かなくては。
〜〜〜〜
表の聖杯戦争。 それはムーンセルによって集められた選ばれた魔術師が参加することの出来る月での聖杯戦争。 そこにはどんな常識も通用しないような規格外の魔術師達が願いを叶えるためにやってくる。 その中でも正面からの戦いを強いられる表の聖杯戦争において最強と謳われるコンビ。 それがレオ、ガウェインという最高のスペックを持つ二人であった。
「満身創痍、ですね」
だがそれは表の一対一での戦いに限っての話でありここはムーンセルの監視も届かない裏の世界。 いかに表で最強だとしてもルールも何もない裏では基本何をしても良しであり英霊本来の多彩な攻撃にレオ達は苦戦を強いられていた。
「ごめんなさい、貴方達は特に危険人物だから殺さなきゃいけないんです…でないとお母様に怒られちゃうので…」
加えて防御をする事も出来ない規格外の存在、アルターエゴ。 その攻撃も脅威だが間を縫って攻撃して来る英霊達もまた厄介だった。しかもここでは太陽の加護が受けられずガウェイン本来の実力が発揮できない。 レオの力を持ってしてもこの数を相手にするのは無謀というものだった。
「…仕方ありません。 ガウェイン、宝具の開放を許します」
まだ早い、まだ撃つべきではない。 そう本能が言ってはいたものの手段は最早これしかなかった。 今撃ったところで決定打にはならないだろうがこのままでは自分達が殺される。 ダメージを与えられれば良し、そうでなくても撤退させるだけならば今の魔力でも可能なはず…
「…御意。 我が聖剣は太陽の具現。 王命のもと、地上一切を焼き払いましょう」
「こんなところで宝具の開放を…!?」
急速な魔力の高まり。 この宝具はまずい、いくら日中で無いとはいえ食らえばタダでは済まない。 ここは逃げるしか無い…
逃走を図ろうとしたその時、周りには炎の壁が逃走などさせないと言わんばかりに聳えている事に気がついた。
「”
「この剣は太陽の映し身。 もう一振りの星の聖剣……”
決まった、確かに手応えを感じ相手に逃げる暇も与えなかった。 ガウェインの宝具はランクAの対軍宝具。 例え相手が不撓不屈の英雄達だとしても直撃を受けて生き残ってはいられまい。
…煙が晴れる。 倒れていたのは二人。 どちらもサーヴァント。アルターエゴは全くの無傷だった。
「ヌウ……」
「テ、メェ…やりやがったな…」
つまり、敵はあの二人を盾代わりとして宝具を防いだのか。 …卑劣な。
「ガウェイン、敵はあと一人。 一気に畳み掛けますよ」
敵が一人になったならば先程よりは事態は好転したはず。 防御不能の腕は厄介ではあるが対処できない程ではない…
「死ね」
これは…剣。 剣が自分の胸から飛び出している。 敵が接近していたのか。 全く気配が読めなかった。 意識が朦朧とする。 心臓を貫かれたからか。
「レオ! よくも…貴様…何者だ!」
「…お前のマスターはじき死ぬ。 お前と話すことは何もない」
暗殺者の気配が消える。 このままではレオが死んでしまう…急いで保健室へ連れて行かなければ。
「…どうやら僕はもうダメなようです。 ガウェイン、凛さんかラニさんと再契約を…」
レオの声がどんどん弱まっていく。 当たり前だ、心臓を潰されたのだから。 どんなに優れた医療でも心臓を再生などはできない。 分かっていてもガウェインは己が主人の死を認めることが出来なかった。
「ならば、最後は共にいさせて下さい。 一緒にいてこれ程楽しいマスターは貴方だけでした。 最後まで我が身は貴方と共に」
かつて最強と呼ばれた二人は敵の猛攻の前に沈んでしまった。リップは厳しい戦いになるとは思っていたが案の定楽に倒せた事に正直ホッとした。 こちらも被害は出たがそれ以上に戦果の方が大きい。 後は校舎の結界を破り岸波白野を捕らえるだけ…っとその前にきちんとトドメを刺さなくては。 万が一にも復活してしまわないように。
その瞬間、リップの本能が叫んだ。 後ろに跳べ、逃げろ、と。
「ほう、躱したか。 だが分かるな? こちらを見るな喋るな踏み込むな。 それ以上踏み込めば次こそ殺す」
黄金の輝き。 無限の剣。 そして溢れるような王の威光。 向けられている殺気だけで殺されてしまいそうな威圧感。 奴は…
「ギルガメッシュ…!!!」
「女神風情が、我の名を呼ぶか!」
この世の全てを統べ、ありとあらゆる宝を所持する英雄の中の王。 英雄王。彼が空中に展開している無限とも呼ばれる武器は全ての宝具の原点に属するものでその一つ一つが一撃必殺の力を持つ。 それら全てが、自分に向いている。
躱す?出来るわけがない。
防御する?死にたいのか。
「”
「そんな…イヤ、嫌ぁぁぁぁぁぁぁ!」
圧倒的な力の前には、少女の力など無意味だった。