どのくらいそうしていたのかは分からない...ただ、呆然と立ち尽くしていた
「一回戦、終わったみたいね」
そういって自分を出迎えてくれたのは遠坂だった
「あなただけが出てきたってことは…勝ったのはあなただったのね。おめでとう…って言いたいところだけど今はそんな余裕なさそうね」
「…覚悟は…していたつもりだったんだ…」
たとえ仮だったとしても友人をこの手にかけたのだ、何も思わない方がおかしいというものだろう。
「あなたがそんなに落ち込まなくてもゲーム感覚でここに来たあいつにも責任はあるのよ? …ま、あなた今日はマイルームで休みなさい」
「…ありがとうな遠坂、そうするよ。また今度改めて礼を言わせてくれ」
遠坂なりに気を遣ってくれたんだろう、今はその心遣いがたまらなく嬉しい。 言われた通りその場を後にしてマイルームへと向かう。
「お疲れ様…よく頑張ったわね岸波くん」
〜〜〜〜
俺は、自分が生き残るためにシンジを殺してしまった。
他の人はこのことをどう思うのだろうか?仕方がなかった、必要な犠牲だった、と割り切れるものなのだろうか。
「優しいんですね、マスターは」
そういえばセイバーは自分とは違ってライダーを斬る時なども何も思っていないように見えた…いったい何を思って戦っているのだろう。
「私ですか?…私が人を斬る時に思うことなどありません。 私はそんな感情など忘れてしまいました。 …私には人を斬ることしか存在価値がありませんでしたから。
…主に斬れと言われれば斬る…ただそれだけです。斬り合いの場での主義主張など何の意味もありませんからね」
「…セイバー」
セイバーは何も考えていないということだった。いや、最早そんな感情など無意味だったと言わんばかりにセイバーは冷たい過去を告白する。主に言われれば例え知り合いだったとしても斬り捨てる…その時に感情はいらない。
…その時のセイバーの顔、そしてその在り方には、寂しさが垣間見えた。
「何はともあれお疲れ様でした、マスター。私はマスターがご無事で何よりです。 う〜ん、 そうだ!ご褒美…というほどでもないのですがお疲れのハグでもしましょうか?」
これは…からかわれているのだろうか?それでも少しでも自分を励ましてくれようとするセイバーがとても愛らしく感じる、ここはわざとこの誘いに乗るのもアリかもしれない。
「お気になさらずに、マスター。あなたが進むのは辛く、険しい道のりですが私があなたの剣となり、命に代えてもお守りします」
「ありがとうね、セイバー」
油断していたセイバーを抱きしめる。 まさか本当にするとは思っていなかったのかセイバーは驚いた表情を浮かべている。
…うん、 少し恥ずかしいけど安心する。 少し気持ちが明るくなったよ。
「セイバーは…なんだかいい匂いがするね」
「…は? ……ハ? な、ななななな何ですかいきなり!変態ですか!?何なんです…コフっ!」
やってしまった。
ていうか何であんなことを言ってしまったんだ!これじゃあただの変態じゃないか!
「ご、ごめん思ったことが口からでちゃって...」
ドンガラガッシャン
ものスゴイ音が響いた。
ちなみに今の後はセイバーが足を滑らせてマイルームにあった机や椅子に突っ込んでしまった音だ。
「な、何なんですかあなたは!Sですか!戦いで疲れたサーヴァントにこれ以上のダメージを与えようとするなんてドSですかぁっ!コフっ!」
まずい、このままではセイバーが吐血しすぎて死んでしまう。…でも赤面しているセイバーは可愛くてもっと見ていたいと思ってしまっている自分がいた。
「もうマスターなんて知りません!マスターなんて激辛麻婆豆腐の食べ過ぎでお腹を壊してしまえばいいんです!うわーん!」
セイバーは怒っていてこちらを罵倒?しているのだが全然痛くもかゆくもないのはセイバーの顔が真っ赤になっていたからだろう。
さて、たしかにいつまでもうじうじ悩んではいられないし食堂にいって気分でも紛らわそう。
「あ、あのー、できればこの机と椅子をどかしてくれるとありがたいなー…なんて」
「さて、楽しい夜の始まりだ」
こうして俺はその後も霊体化を忘れていて動けないセイバーとの信頼を深めつつ仲良く一緒に食堂へ向かったのであった。
〜〜〜〜
「で、そのせいでセイバーはそんなに怒っているのね?S波くん?」
「わ、わざとじゃないんだけど何ていうか…無意識だったというか…いや意識はあったんだけどあれはセイバーが誘ってたから…」
「いや、誘ってませんから。 勝手な理由の捏造はやめましょうね、S波さん」
「で、もちろんセイバーには謝ったのよね?S波くん?」
「は、はい。それはもちろん…そして反省しているのでいい加減普通の名前で呼んでください…」
二人の言葉が胸に刺さる。 だってしょうがないじゃないか、セイバーが可愛いのが悪い。 ボク、ワルクナイヨー。
…はい、ごめんなさい。
「もう怒ってはいませんが簡単に許してしまったら私のプライドがですね…」
「セイバーは優しいわねー。私だったら地の果てまで追い詰めてボロボロにしてやるのに」
「じ、じゃあ今度セイバーに何かおごるよ、それでいい?」
どうだろう、セイバーも許してくれそうな雰囲気だし条件をつけたらそれなりに許してくれるかもしれない。
「わかりま…」
「あらよかったわねーセイバー、岸波くん、セイバーに何でもするって言ってるわよ」
ち、ちょっと遠坂さん!?いったい何を言ってるんですか?せっかくセイバーが許してくれそうだったのにこれじゃあ…
「では貸し一、ということでよろしくお願いしますね!マスター!」
「よ、よろしくね…セイバー…」
因果応報、ということである。
〜〜〜〜
「で、シンジとの戦いはどうだったのか、教えてもらえる?」
俺は遠坂にシンジとの戦いの内容を話した。
「なるほどね…運がよかったわね岸波くん、ライダーの宝具の威力が弱かった理由は二つ考えられるわ」
「一つは、シンジの魔力供給が充分ではなかったため」
シンジの魔力供給か。確かに普通のサーヴァントなら十分だったのかもしれないがライダーの宝具の出力ならその可能性も考えられるかもしれない。
「そして二つ目は、私のアーチャーとレオのガウェインと戦ってライダーが消耗していたため。 もちろんシンジの魔力供給もあるだろうけど…主な理由は後者でしょうね」
「シンジはレオとも戦っていたのか?」
「ええ、私も見たのはたまたまだけどアリーナで二人が戦っているのを見たわ」
なるほど…確かにライダーは宝具を打つ前に腹に血がにじんでいた。あれはセイバーの突きではなく、二人との戦闘のダメージが残っていたからだったのか。
「レオがケンカになったって言ってたのはこのことだったんだな」
「へぇ、岸波くんレオと知り合いなのね」
?何故だろう、レオの名前を出したら遠坂は突然不機嫌になった、遠坂はレオのことが嫌いなのだろうか?
「おや?あなたが遠坂 凛さんですか?」
噂をすれば、というやつだろうか。 そこには友人だったレオがいた。
「久しぶり、レオ」
「お久しぶりです、岸波さん、そういえば直接お会いするのは初めてですね、遠坂さん。 あなたの行動力にはハーウェイのアジア支部も手を焼いていましたよ」
「あなた自らご出陣するとはね、いいじゃない、地上での借りを天上で返してあげるわ」
二人の間で火花がなっている。
あれ?
………俺、空気じゃね?
S波くんが出現しました、いや、こんなつもりはなかったんですがセイバーが可愛いすぎてこんなになってしまいました...いや、わけわからないですね、ハイ