そこには全てを防ぐ盾があった。
ある者はそれらを疑った。
ある者はそれらを互いにぶつけ合えと論じた。
ある少年は――それらを持つことにした。
全てを貫き、全てを護る。
少年は戦う道を選択した。
――そこは地獄だった。
燃える大地。
崩れた文明。
炎に飲まれる人の営み。
あまりにも凄惨であまりにも無残。
地獄、そう言い表すことしかできないほどの場所。
人理を修復すべく降り立った『冬木』とかつて呼ばれたその都市は、もはや地獄となってしまっていた。
その事実に押しつぶされそうになる。
人理焼却、その言葉を俺は理解していなかったのだろう。
世界の終焉という言葉は理解していた。
――だが、その現実の重さを何一つ理解できていなかった。
吐き気がこみ上げてくる。
かつてそこに在ったであろう人の営みが、平穏が、何一つ残っていない。
ここにあるのは肺を焦がす熱と、瞳を乾かす炎の勢いだけだ。
これが、人理焼却。
これが、世界の終焉。
ようやくその現実を理解し、重圧が襲ってくる。
恐怖に体が震える。重みに膝が震える。
――けれど、屈することはない。
俺が一人ならば重責に耐えかね、心は砕けていただろう。
しかし、この地獄において俺は一人じゃない。
この終焉を覆すべく、現実に立ち向かう仲間がいるのだ。
俺を先輩と慕う少女がいる。
世界を救うべく呼び声に応えてくれた英霊がいる。
なんだ、ならば問題はない。
こんなところで立ちすくんでいる場合じゃない。
俺の心は負けちゃいないんだ。
だから、行こう。
この地獄を覆すべく、前へ進もう。
意思は高らかに、鼓動は熱く。
もはや迷いはどこにもない。
俺には心強い仲間がいるのだから――!
「■■■■■■■■■――!」
「血ッ! 血ッ! 血ヲヨコセェ!」
「まよえ……さまよえ……!」
「ははははは!圧政が満ちている。ならばようやく戦場だ。ここはもはやコロッセオ。我が叛逆を知るがいい!ははははは!」
「先輩!コミュニケーションができません!」
――俺には心強い仲間がいるのだから!
「目を逸らさないでください!」
「うぅ……ひどい目にあいました……」
お疲れ、マシュ。
「ありがとうございます……って、この混沌とした状況は先輩のせいです!」
あっはっは。
「笑って誤魔化さないでください」
マシュのツッコミが板についてきたようで嬉しいよ。
「嬉しくないです。それで、あの偏った編成はなんとかならないのですか?その、会話できないのが少々辛いのですが……」
うん、それは心苦しい。
けど、あのバーサーカーチームは必要なことなんだ。
これまでに幾度かの戦闘を経験し、俺はいくつか戦闘において気付いたことがある。
「それはいったい……?」
相性ってやつだな。
サーヴァントにはクラスが存在する。
セイバー、ランサー、アーチャー、ライダー、キャスター、アサシン、バーサーカー。
基本はこの七つ。
他にもマシュのクラスのように基本七種に該当しないものもあるが、それはひとまず置いておく。
とにかく基本七種のクラスにはそれぞれ相性ってやつがある。
セイバーはランサーに有利。
そのランサーはアーチャーに有利、といった具合に。
相関関係のようなものがあるわけだ。
「はい、それは私も気になっていました。サーヴァントにも敵対者がいる以上、クラスの相性は非常に重要だと思われます」
その通りだ。だからこそ、チームの編成にはクラス相性をよく考えなければならない。
「あの、言いにくいのですが……バーサーカーチームではクラス相性をあまり考慮していないような……」
そんなことはないぞ。
このチームは俺が考え得る中でも最強のチームと言っても過言ではない。
なぜなら――このチームの要は、マシュ、君だからだ。
「私が、要?」
そうだ。
マシュ、君のクラスはシールダー。
基本七種に該当しないエクストラクラス。
その特性は、あらゆるサーヴァントに有利不利を持たないというものだ。
それゆえ、敵に対して有効打を与えることが難しい。
が、逆にいえば敵から致命的な攻撃を貰うこともないということ。
なによりクラス名が表すようにマシュは防御に特化している。
君は、全てのクラスに対応できる守護者なんだよ。
「私が、守護者……」
守りに関してマシュは頭一つ抜けている。
ならば防御はマシュを基軸にすべきだと考えた。
防御はこれでいい、そうすると次に気にすべきは攻撃になる。
そう考えると自然に湧き上がってくるだろう?
攻撃とはすなわち――バーサーカーだと。
彼らは全てのクラスに対し有効打を放てる攻撃特化だ。
だがその反面、全てのクラスから致命打を受ける可能性がある。
その弱点を防御特化のマシュが支えてあげれば――
「なるほど、理想的なチームですね!」
あぁ、最攻の矛と最硬の盾が合わさり最強に見えてくるだろう?
「はい!理解できました!」
理解してくれたようで嬉しいよ。
そういうわけで、彼らとは会話に関して難儀するだろうが我慢してくれ。
なに、コツを掴んで慣れさえすれば割とコミュニケーションできるものだぞ。
「コツがあるんですか?」
あぁ、例えばあそこで雄たけびを上げている呂将軍だが――
「■■■■■■■■■――!」
――彼は放っておけ。
「え!?」
大陸にその名を刻む天下無双の呂布奉先だが、彼は敵対者を容赦なく倒してくれる。
こちらが指示せずとも突貫殲滅してくれるだろう。
敵に囲まれて手が足りなくなったらフォローしてあげてくれ。
――問題は時々敵を追って勝手にどこか行ってしまうことだが。
「それ大問題ですよね……」
お腹が減ったら帰ってくるから大丈夫だ。
次に向こうで斧を振り回しているエイリークだが――
「ヌハ、ヌハ、ヌハハハハァ!」
――彼は本当に危なくなったら自動制御装置が働く。
「ハハハハ――おぉ、グンヒルド。すまない、また暴走していたようだ……」
あんな感じで彼の奥さんが理性を戻してくれるから大丈夫だ。
ただ問題は――
「あぁ、此度の戦、私は世界を護るために――血ヲヨコセェ!」
電波の通りが悪いのかすぐにもどる。
「それ、解決してませんよね?」
アンテナを増やすなどして対処しよう。
それから次にアステリオスだが――
「ます、たぁ……ますたぁ!」
どうしたアステリオス。
「ここ、には……はながない!むしも、とりもない!だいちが、ないている!」
あぁ、その通りだ。
だからこそ、アステリオス、俺たちは戦うんだ。
失ったモノを取り戻すために。
「うん……うん!ぼく、は、たたかう!うおおおおっ!」
――とまぁ、こんな感じでしっかり目を見て名前を呼んであげれば割と会話できる。
アステリオス自身も純粋で接しやすいぞ。
「初めてまともなコツだったような気がします。それで、最後のスパルタクスさんですが――」
「私を呼んだか、可憐なる少女よ。圧政が呼んでいる。今こそ叛逆の時来たれり」
「会話できるようでできません。助けてください、
「マスター!マスターと言ったか!主を名乗る圧政者め、今こそ虐げられし叫びを聞け!ははははは!」
「あぁ!?す、すみません先輩!スパルタクスさん、違うんです!」
いや、これでいいマシュ。
スパルタクス、俺がマスターだ。
「そこにいたか圧政者!おぉ、なんたることだ、私を呼びし少年の姿を真似るとは、厚顔無恥にもほどがある!」
そう、俺がマスター、主であり……お前もまた主だ、スパルタクス。
「なんと、私が主――圧政者だと?なんたる侮辱、なんたる圧政か!」
そうとも俺もお前も、誰も彼もが主なのさ――己のな。
人は皆、自分という人生の主人であり歩む道を主導する。
それを主と言わずなんと言う!
お前が叛逆を旨とする人生を選んだように、俺が戦場で戦うことを選んだように!
人は己の生き方を決めることができる!
己が己の主たる証明だ。
「なんと、人は皆、圧政者だったのか。ならば全てに叛逆せねばなるまい。この世界全てがコロッセオである!」
そうだ、もはや全てが闘技場、誰も彼もがそこにいる。
だが、その闘技場を支配するものがいるとすればどうなる?
「闘技場の支配者――すなわち、圧政者か!」
あぁ、俺たちのいる闘技場、世界に対する圧政者がいる。
そいつは人理焼却なんていう方法で、人の生きる時間を奪いやがった。
それを圧政と言わずなんという?
もはや人は圧政者である前に虐げられし者となった。
ならば叛逆するしかないだろう?
「然り、然り!圧政者はそこにいた!ならば叛逆あるのみだ!おぉ!我が筋肉が我が傷が震えている!」
だが、俺は叛逆することができない。
「なぜだ、少年よ。道を知る君が何故叛逆できない。それでは君は圧政者ではないか」
なぜなら俺は――
立ち向かうにはあまりにも矮小すぎる。
だからお前に言わねばならない。
――叛逆するために力を貸してくれ、
「おぉ!我が意を得たり!君は
あぁ、行こう
俺達の叛逆は始まったばかりなのだから――!
「ははははははは――!」
……
…………行ったな。
「すごいです先輩!スパルタクスさんを説得するなんて――!」
ふっ――
適当にそれっぽいことを言ってみたが助かって良かった。
「コツ掴めてないじゃないですか!?」
バーサーカーチームこそ最強。
そう思っていた頃が私にもありました。