インフィニット・ストラトス ~迷い込んだイレギュラー~   作:S-MIST

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第10話 茶番の終幕

 

 大気を切り裂き断熱圧縮で赤熱化する、円錐状に展開されたエネルギーシールド。

 その遥か先に見えるのは美しく青い海。

 

「・・・・・こんな状況で無ければ、もう少し景色を楽しめたんだろうけどな」

 

 ミサイルアラート。

 眼下から迫る数十のミサイルが、空気抵抗で減速した俺(=薙原晶)を墜とそうと迫る。

 

「チッ」

 

 舌打ち。

 肩部装備063ANEM(ECM)を起動。

 ミサイル誘導用電波を根こそぎ無力化。

 目標をロストしたミサイル群はあらぬ方向に飛んでいく。

 

「高高度迎撃用パトリオットに、大気圏突入中のミサイル迎撃。そこまでして俺を博士の元に行かせたくないか。――――――博士、無事か?」

 

 通常無線と違いコアネットワークを使った通信なら、大気圏突入中であってもクリアな通信が可能だ。

 

「うん。まだ無事だよ。でも、アジト内の防衛システムがもう幾つか破られている。ちょっと急いでくれないと厳しいかな? まさか盾殺し(シールド・ピアース)なんてレアな装備を持っているなんて」

「残っている隔壁は?」

「後4つ。いや、今3つになった」

 

 通信に、何かが破壊された音が混じる。

 アジトに突入されてからの時間と、破られた隔壁の枚数及び到達時間を計算。

 微妙な時間だが、恐らく間に合うだろう。

 問題は、如何にして博士を安全に脱出させるかだ。

 さっきから考えているが、良い手段が思いつかない。

 このまま戦闘に入れば、下手をすれば泥沼の殲滅戦だ。

 どうする?

 正規軍相手にそんな事をすれば、仮に、万一勝てたとしても一生日陰者だ。

 盛大に啖呵は切ったが、出来ればそれは御免被りたい。

 何か方法は無いか?

 脳裏に渦巻く思考。閃きが走る。

 待てよ。正規軍が動いているなら、それを可能とするだけのお題目があるはずだ。

 

「博士。質問がある」

「なにかな?」

「正規軍が動いている理由は分かるか? 裏側からのプッシュがあったとは言え、表の、それも正規軍をこれほど大々的に動かすなら、それ相応のお題目があるはずだ」

「うん。さっき調べたよ。呆れる位単純な理由だった。どうやら私が、誰かに軟禁されてここに閉じ込められているから助け出すって理由みたい。その為に、近くで演習していた艦隊を丸々動かしたみたいだね」

「なるほど。万人受けしやすい内容だな」

「やっぱりそう思う?」

「思うとも」

 

 Sound Onlyで話しているが、何となく博士がニヤッと笑った気がした。

 

「ならやる事は単純明快よね」

「ああ。方法は幾つかあるけど、どんなシチュエーションがお好みかな?」

「やっぱりこういう時は、誰が見ても分かるシチュエーションじゃないと。囚われのお姫様を助けにくる騎士様じゃないの?」

「自分の事をお姫様とか言うなよ。言って欲しけりゃもう少し服装に気を使え」

「君がそれを言う? 民家に隠れている間の台詞は聞かせてもらったんだよ?」

「なっ!? おい、送ったのは戦闘データだけだったはずだぞ?」

「戦闘データだけだよ。ああ、君は勘違いをしている。ISにとって戦闘とは、敵と戦っている時だけを指すんじゃないんだ。重大なダメージを受けてからの再生も、広義の意味では戦闘に含まれる。生存競争という戦闘にね。つまり自己修復中の君の行動も、ばっちり見せてもらったよ。中々可愛い子だったね。ああいうのが好み?」

「・・・・・助けに行くの止めようか?」

「ああ、ゴメン。ウソ。冗談だから。そしてこういう事を起さない為には、ちゃんとコアを教育してあげなきゃダメだよ」

「ご忠告どうも。今後はじゅーーーーーぶんに気をつける」

「捻くれない捻くれない。見ていて中々好感の持てる態度だったよ」

「帰ったら覚えてろよ」

「楽しみに待ってるよ。まずは、ここから助けだしてね」

「必ずな。言いたい小言が山のように増えた」

 

 通信終了。

 悪友同士が交わす悪巧みのような―――いやこんなやり取りをしている時点でそうだろう―――楽しい会話。

 思わずニヤリと笑みを浮かべてしまう。

 そして、もう少しで到着というところで、オープン回線で通信が入った。

 

「こちらはドイツ・フランス・イギリスの3国合同IS部隊隊長。クラリッサ・ハルフォーフ大尉だ。こちらに接近中の未確認IS。応答願う」

 

 性別を知られる訳にはいかないのでマシンボイスON。

 Sound Onlyで応じる。

 

「・・・・・何の用だ?」

「素直に返事をしてくれて嬉しいよ。率直に聞こう。そちらが、こちらに向かっている理由を尋ねたい」

 

 数瞬の思考。

 逆に尋ね返す。

 

「そっちこそ、何故ソコにいる? その海域に、そんな大部隊が展開する理由など無いはずだが?」

「・・・・・」

「答えられないのなら、それで構わない。無理に聞く必要も無い。只、邪魔をするな。そっちが武器を向けなければ、こちらも攻撃するつもりは無い」

「いや、答えよう。匿名で、この海域にある無人島に、ISの生みの親である束博士が軟禁されているという情報があった。よって救出の為、近くで演習中だった3国合同艦隊に出撃命令が下った次第だ」

「ほぅ」

「こちらの質問にも答えて欲しい。君が此処に向かっているのは、博士の救出の為か?」

「そうだ」

「なら我々が争う理由は無い。共に――――――」

 

 俺は言葉を被せる。

 

「共に、というのであれば信じるに足るものを見せて欲しい。正直なところ、こちらはそちらを信用していない」

「それは、こちらも同じだと思うが?」

「こちらは博士と直接コンタクトが取れる。これ以上の説明が必要か?」

 

 一瞬、無線の向こうで、息を呑んだのが分かった。

 

「それは、本当か?」

「嘘だと思うなら、証拠を見せよう。――――――博士。貴女を助ける為に正規軍が動いていたらしい。映像を出して良いかな?」

「いいよ。折角助けに――――――」

 

 直後に響く爆発音と破砕音。

 響く悲鳴。

 途切れる映像。

 秘密裏に送られてきたアジトのステータスはレッド。

 複数用意されていた電源系統は非常用の1つを残して全滅。

 侵入防止用の警備システムも7割ほど無力化されている。ISが相手なら仕方が無いとも言えるが。

 だが問題なのは、特殊装甲とエネルギーシールドを組み合せた隔壁が既に5枚破られ、博士のいる部屋まで残す隔壁は後2枚のみという事。

 これはマズかった。

 万一先に博士の身を押さえられたりしたら、話の主導権を向こうに握られてしまう。

 

「共に、ね」

「待て、今の爆発は違う。救出部隊が内部でガードメカと戦闘をしている。決して博士を害そうとしている訳じゃない」

 

 数瞬の思考。

 ここで裏切られたと言い敵対するのは簡単だが、それは余りにも短慮だろう。

 話してみた感じ、向こうの指揮官は理性的な人物のようだ。

 なら、交渉次第ではこちらの要求を呑んでくれるかもしれない。

 まぁ、呑まないなら呑まないで方法はあるんだが。呑んでくれた方が楽なのは間違いない。

 

「そちらに敵対する意志が無いというなら、道を空けてくれ。武装解除の要求はしない。そしてもう1つ、呑んで欲しい話がある」

「理性的な判断に感謝する。そして呑める話であるなら呑もう」

「突入している人員を下がらせてくれ。仮に、そちらが博士を共に救出する仲間だったとしても、こちらの火力ではフレンドリーファイアをやりかねない」

「その火力を、博士に向けないという保障は?」

「1人だけ同行を許そう。それで見張れば良い」

 

 さてどう出る?

 1対1における戦力差は向こうも認識しているだろうから、数の優位を捨てたくないのが本音だろう。

 だが、こちらも時間をかけてはいられない。

 相手が自分達の手での博士確保に拘るようなら、ここで交渉を打ち切るつもりだが・・・・・。

 

「・・・・・いいだろう。突入部隊は一旦外まで撤退。別命あるまで待機。そして私が同行しよう」

 

 乗ってきた!!

 交渉が決裂した場合のリスクを考えたか?

 まぁとにかく、これ以上の隔壁破壊を心配しなくて良くなったか。

 後の問題は、博士と接触した後の事だな。

 アジトへの突入に備え、武装の一部変更をAIにコマンド。

 

  ―――ASSEMBLE

    →L ARM UNIT  :ER-R500(レーザーライフル)ACACIA(アサルトライフル)

    →SHOULDER UNIT :063ANEM(ECM)051ANAM(フレア)

 

 両肩と左手に鮮やかな緑色の光が集まると、装備が分解されるように消えていき、拡張領域に格納される。

 代わりに、同じように光の中で装備が形作られていき、光が消え去ると同時に使用可能状態へ。

 更に前進する事のみを考慮して、大気を切り裂く為に前方に鋭く尖った円錐状に展開していたエネルギーシールドを、従来の球形状に戻していく。

 すると空気抵抗に押されて急激に速度が下がっていくが、それでも速度計は時速4000kmオーバー。

 これでは速過ぎる。

 更に速度を時速1000kmまで落とすと、1機の黒いISが流れるような綺麗な機動で接近、平行軌道に入る。

 

「こうして直接顔を合わせるのは初めてだな。改めて自己紹介をしておこう。3国合同IS部隊隊長。クラリッサ・ハルフォーフ大尉だ。所属はドイツ軍IS配備特殊部隊シュヴァルツェ・ハーゼ」

 

 緊張しているのだろう。やや硬質な声でだが挨拶をしてきた。

 

「・・・・・マシンボイスのままで失礼する。残念ながらこちらには名乗るべき名前も階級も無い。只、束博士の護衛とだけ覚えていてくれれば良い」

「だが、名が無いというのは不便だな。それでは緊急時の意志疎通に問題が生じてしまう」

「なら、NEXTとでも呼んでくれ」

 

 そんな会話をしながら、俺達はアジトに突入していく。

 すれ違い様に、突入していたIS部隊が出て行くのを確認しながら。

 

 

 

 ◇

 

 

 

 NEXTと名乗った、自称束博士の護衛と共に軟禁場所に突入した私(=クラリッサ・ハルフォーフ)は、驚きの表情を隠せなかった。

 

「・・・・・報告は聞いていたが、これほどとは」

 

 破壊された通路。無数に穿たれた弾痕。

 散乱する、物言わぬ鉄屑となったガードメカの数々。

 突入部隊からガードメカと戦闘になっているという報告はあったが、なるほど、時間が掛かった訳だ。

 このIS本来の機動力を生かせない場所で、数に任せた面制圧攻撃。

 そして各所に降ろされていた特殊装甲とエネルギーシールドが組み合わされた隔壁。

 

「人間1人閉じ込めるのにここまでするのか。外道というのは何処にでもいるのだな」

「・・・・・」

 

 隣に立つ黒い全身装甲型のIS。コードネーム“NEXT”は何も答えず歩いていく。

 歩いて?

 ISの移動はフロートが基本だが、このISは違うのだろうか?

 いや、フロートに必要なPICを搭載していないはずがない。無ければあの速度は絶対に実現出来ないはずだ。

 そんな事を考えていると、人間味を感じさせないマシンボイスで声をかけられた。

 

「ここまでの警備システムは全滅しているようだな」

「突入部隊が頑張ってくれたようですから。それよりも問題は――――――」

 

 視線を、眼前にある隔壁に向ける。

 そしてクラリッサの愛機、シュヴァルツェア・ツヴァイク(黒い枝)のハイパーセンサーは隔壁の向こうにいる無数のガードメカを既に捕捉していた。

 

「――――――コレをどうやって破るのかという事と、破った直後に放たれるであろうガードメカの攻撃をどうするかです」

「問題にする必要も無いだろう。こちらの火力はある程度把握していると思うが?」

「そちらからの開示があるならまだしも、それほど情報は集められていませんよ」

 

 情報部から既に情報は得ていたが、正直に言う必要は無い。

 向こうもそんな事は、とっくに承知しているだろう。

 事実NEXTは、

 

「そうか」

 

 と素っ気無く答えると隔壁に向き直り、右背部に装備していた、折り畳まれていたキャノンを展開する。

 

「ところで1つ確認しておくが、ECM対策は万全か?」

「仮にも第三世代機だ。そのへんのポンコツと一緒にしてもらっては困る」

「そうか。なら良い」

 

 直後に放たれる閃光。

 私は自分の返答を、すぐに後悔する事になった。

 

(何だ!? このECM出力は!!)

 

 シュヴァルツェア・ツヴァイクが高レベルのECM攻撃があったと判断し、オートでセンサー系を閉鎖・保護するが、明らかに稼動効率が落ちていた。

 

「貴様!! 今何をした!!」

「何と言われても困る。プラズマキャノンで隔壁を破壊し、発生した電磁波でガードメカの内部回路を焼いて、稼動不能にしただけだが?」

 

 事も無げに言うNEXTだが、この返答にクラリッサは言葉を失う。

 隔壁を一撃で破壊した火力については、情報部から既に話があったから、それほど驚いてはいない。

 だが、第三世代機レベルの対ECM防御を突破するようなアレは何だ?

 しかもキャノンの形をしている以上、本来は純粋に敵を攻撃する為のものだろう。

 あの高威力と相対しながら、センサーを封じられるなど、どんな悪夢だ。

 内心の心配が表情に出てしまったのか、

 

「軍人として仮想敵機の事を考えるのは分かるが、そちらが裏切らない限り今は味方だ」

 

 NEXTはそれだけを言うと、先に進んでいく。

 

「ま、待て!!」

 

 慌てて追いかけ隣に並び、しばらく互いに無言のまま進んでいく。

 すると、

 

「ところで1つ確認したいんだが、博士を確保した後どうするつもりだ?」

「それは・・・・・」

 

 私は答えられなかった。

 いや、政治家がよく使うような「しかるべき手順を踏んで、しかるべき場所で働いてもらう」というのは簡単だが、この守護者が望んでいる答えでは無いだろう。

 むしろ迂闊な事を言えばコレが敵に回る可能性すらある以上、即答できる話では無かった。

 

「・・・・・まぁ、現場の指揮官が知らされる話でもないか」

「むしろ、そっちはどうする気なの? 既存のISを遥かに凌駕するソレを、個人が持つなんて許される話ではないわよ」

「博士はISの生みの親。その能力を世界中の組織が狙っている。そんな人間に、自衛手段すら持つなと?」

「そうは言ってない。なら何処かに保護してもらえば」

「仮にそれで、ドイツに保護してもらったりしたら、世界は何ていうかな? ――――――分かるだろう? 結局のところ、博士は自分の身は自分で守らない限り籠の鳥と変わらなくなる」

 

 反論出来ないままに、次の隔壁の前に到着する。

 ハイパーセンサーは、隔壁の向こうで座り込んでいる人影を捉えていた。

 隣に立つNEXTも同じ情報を得ているのだろう。

 右腕に装備している盾状のパーツが展開されたと思ったら、展開された部分からレーザーブレードが形成され、隔壁を焼き切り始めた。

 そして隔壁が焼き切られ、博士とこちらの視線が交わる。

 直後、

 

「薙原!!」

 

 駆け出した博士が、隣に立つNEXTに抱きついていた。

 それを優しく迎えるNEXT。誰がどう見ても知り合い同士だった。それも強固な信頼で結ばれた。

 何せ身内以外をロクに認識しないという事で有名な束博士が、無邪気に抱きついているのだから・・・・・。

 

 

 

 第11話に続く

 

 

 

 

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