インフィニット・ストラトス ~迷い込んだイレギュラー~   作:S-MIST

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第106話 地下都市への視察と観光

 

 冬休みに入り予定通りフランスへと向かった晶は、デュノア社社長アレックス・デュノア(シャルのお父さん)により、建造中の地下都市(アイザックシティ)を案内されていた。

 そして案内しているアレックスも、案内されている晶も、己の役割を良く理解していた。

 そもそも実務的な面で言うなら、晶が視察に来る必要は全く無いのだ。

 デュノア社は束に対してあらゆる情報を開示しているし、派遣されて来ている如月重工―――実質的には更識―――の人間にも細大漏らさず伝えられている。晶自身が建築工学に明るい訳でも無い。にも拘わらずこのような事が行われている理由は、多分にアピール的側面が強かった。

 束側(更識含む)としては晶を派遣する事で、束博士がどれだけこの地に注目しているかを対外的に示し、受けるデュノア側としては、社長自ら案内している姿を見せ付ける事で蜜月ぶりをアピールする。両者の思惑が一致した結果、2人は極々親しげな雰囲気で、工事現場を歩いていた。

 

「――――――という訳で、工事の進捗は予定通り進んでいます。パワードスーツ様々ですよ」

「元々こういう用途を想定して作られたものだからな。じゃないと困る」

 

 今までの工事の常識から言えば、地下都市建造には多くの困難が予想された。だが以前発表されたパワードスーツ(激震)は人間サイズでありながら、生身の人間では持ち運び不可能な重量物の運搬を可能にし、如月重工が持ち込んだガンヘッドは状況によるオプション換装で、1台で重機何役分もこなしていた。そしてフランス政府からの潤沢な資金投入と、発電衛星試作三号機による豊富なエネルギー供給が、世界初の地下都市建造計画を下支えしていた。

 

「束博士からしてみれば、予定通りの性能を発揮して当然というところでしょうが、使う側からしてみれば革新的ですよ。従来の方法で工事を行っていれば、同じ工事を行うのに2倍、いや3倍の時間はかかったかもしれません」

「束には喜んでいた、と伝えましょう。ですが、くれぐれも安全第一でお願いしますね。ここは彼女()も注目していますから」

「勿論です。かの束博士が差し伸べてくれた手を、我々が汚す訳にはいきません」

「世の中、不慮の事故を演出するのが大好きな連中もいますが?」

日本から派遣された人員(更識)は、その辺りとても優秀で助かっていますよ。ウチの警備部門と協力して、上手く働いてくれています。それに政府もかなり力を入れてくれていて、この近辺にISを常駐させている他、『警察からの要望でISを動かす用意もある』と非常に協力的です」

「至れり尽くせりだな」

「束博士と貴方の名前があればこそです。デュノア単独で、ここまでの事は出来ません」

「持ち上げても、何も出ませんよ」

「これ以上は貰い過ぎです。それに貰いっ放しという関係は、決して長続きしない。社としてそれなりの誠意は見せなくては、見捨てられてしまいます」

「そう思うなら、事故なくキッチリこの都市を作って、滞りなく人が住めるようにしてくれ。それが何よりの誠意だ」

 

 アレックスの言葉に、晶は周囲を見渡しながら答えた。

 現在2人がいる場所は、地下都市の下層ブロック。都市のライフラインたる水の浄化装置や予備電源などが設置されるブロックで、現在急ピッチで設置作業が行われていた。なおライフラインは全て正・副・予備の3系統が分散配置され、厳重なリスクマネジメントが行われていた。

 そして食糧生産プラントも設置される予定だが、ここで作られるものは、万一外部との交通が遮断された際、内部の人間を最低限餓えさせない為の非常食的な意味合いが強い。作られる物のイメージは、カロリーメイトやウィダーインゼリーなどが近いだろう。

 だが外部との交通が完全に遮断される事態など、そうは無い。よってある程度の備蓄が済んだら、外部に販売され都市の収入源にされる予定だった。

 

「分かりました。――――――しかし貴方も欲が無い。他のビジネスマンが先ほどの言葉を聞けば、これ幸いと何かしらの交渉を始めたでしょうに」

「俺が何て答えるか、殆ど予想出来てたから聞いたんだろう?」

「娘から、貴方の話は良く聞きますからね。変な事を言われないとは、思っていましたよ」

「だろう。あとついでに言えば、俺はビジネスマンじゃない。本職の社長相手に、交渉で何かをもぎ取れるなんて思ってない」

「何を言っているんですか、貴方もPMC(カラード)の社長でしょうに」

「アレは設立経緯が特殊だ。俺の社長としての実力なんて、これっポッチも関係無い」

「それこそ嘘でしょう。カラードの面々(元IS強奪犯)を使ってIS学園に現役パイロットを招いた手腕は、中々に見事でした。アレを売り込みと考えた場合、最小の労力で最大の宣伝効果を上げたと言える」

「本職の社長にそう言って貰えるのは嬉しいが、織斑千冬っていうビッグネームを使えたからこそ出来た、ただの力技だ」

「そのビッグネームを使えるのも、貴方の力ですよ。一体どれだけの人間が、彼女の名を使いたがっていると思いますか?」

「さぁね。考えた事もない。俺にとって織斑千冬は担任で信頼できる教師だ。今回は沢山の生徒が絡む事だから、偶々協力してくれただけ。そう思っているよ」

「なるほど」

 

 こうした雑談を適度に挟みながら、晶は下層ブロックを視察していった。そうして一通りの視察を終えた後、送迎用のリムジンに戻ったところで、アレックスが口を開いた。

 

「しかし、申し訳ありませんな」

「急に、どうしたんですか?」

「国の恩人が来ているのに、宴の1つも開いていないことがですよ」

「なんだ、そんなことですか。バイオテロで相当な被害が出ているでしょう。今そんな事をしたら口の悪い連中に、恰好の口撃材料を与える事になる。開かなくて正解です」

「そう言って貰えると助かるのですが、実は貴方が来ると知らされた時、「国を救った恩人が来るのに、歓迎の宴すら催さないのは失礼ではないか?」という意見もあったのですよ」

「その気持ちだけで十分です。それに、そこに金を注ぎ込むくらいなら、都市ナンシーをテロで追い出された人達へのフォローを充実させて下さい。この人達への対応を誤ると、都市計画そのものが狂いかねませんから」

「お任せ下さい。避難されている方々には生活だけでなく、近隣に仮設教室を作って遠隔地まで行かなくても教育を受けれるように、健康面についても仮設診療所を立ち上げてフォロー、働ける人間には仕事の斡旋など、多方面からサポートしています」

「頼もしいですね。お願いしますよ」

「はい。ですがここまで出来るのは、束博士から借り受けた、発電衛星試作三号機があってこそですよ」

「ほう?」

「アレのお陰で、電力コストを大幅にカット出来ました。その分を支援に回しています」

「役に立ってるようで何よりです」

 

 こうして話している間に、リムジンは出発していた。

 熟練ドライバーによる振動を感じさせない巧みな運転が、2人を雑談に興じさせる。

 そして車が高速道路に乗ったところで、アレックスは話題を切り替えた。

 

「――――――ところでこの後、何か予定はあるのですか?」

「今日ですか? いいえ、後はホテルに帰るくらいですね」

「なら、一緒に夕食でもどうですか。折角フランスに来たのに、美味しいお店の1つも知らずにいるのは勿体無い。それに、学園での娘の話も聞きたいですしね」

「分かりました。では、食事でもしながらお話します」

 

 こうして晶はアレックスと一緒に夕食を摂る事になったのだが、交渉人ではない()に、アレックスが一瞬口元に浮かべた笑みを見抜く事は出来なかったのだった――――――。

 

 

 

 ◇

 

 

 

 そうしてとある高級料理店に案内された晶は、早々に嵌められた事を理解した。とは言っても、悪い意味ではない。案内された席に、ドレスアップしたシャルロットがいただけの話だ。

 

「………アレックス社長?」

「私は2人で、と言った覚えはないよ。ああ、いや正確には、この店で食事をするのは2人だな。君と娘の時間だ。そして若者の時間を邪魔する訳にはいかないからね。私は帰る事にするよ」

「え、ちょっ!?」

 

 そしてアレックスは晶の返事を聞く前に、店から出て行ってしまった。

 一瞬その場に立ち尽くす晶だが、シャルロットを放り出す訳にもいかない。

 彼女のいる席に着くのだった。

 

「こんなに鮮やかに騙されたのって、初めてな気がするよ」

「僕がお父さんに頼んだの。怒った?」

「まさか。ドレスアップしたシャルを見られるなんて、騙されて良かったっていうところかな」

 

 今のシャルの姿は、ワンピースタイプのパーティドレスだった。落ち着いたベージュ色が、彼女の雰囲気と良く合っている。そして両耳には小さなルビーのイヤリング。

 

「あと、月並みの言葉だが似合ってる。俺にもうちょっとボキャブラリーがあれば、もっと良い言葉が出てくるんだけどな」

「ううん。飾り立てた言葉より、そっちの方が嬉しいよ。そして晶もそのスーツ似合ってる。格好良いって言った方が良いかな」

「ありがとう。でもこういう席があるなら、もう少ししっかりと選べば良かった」

「そしたら今度、何か選んであげる」

「なら頼もうかな」

 

 そうして話している間に、給仕が食前酒をグラスに注いだ。但し2人とも未成年(フランスの飲酒可能年齢は16歳だが、一部18歳の酒あり)なのでノンアルコールだ。

 2人がグラスを軽く打ち合わせると、小さな小気味良い音が響く。

 一口飲むと、晶が口を開いた。

 

「何だか不思議な感じだな。最近よく思うけど、IS学園に入学した時、自分がこんな事をする立場になるとは思わなかった」

「僕もだよ。晶に会わなければ、僕は性別を偽って生きていたかもしれない。何よりお母さんの事を認めて貰えて、お父さんをお父さんと呼べる日が来るとは思わなかった」

「お互い、色々あったな」

「多分、これからもあるよ」

「言えてる。来年はどんな年になるかな?」

「まずは2年生になるね。どんな後輩が出来るのかな?」

「シャルはどんな後輩が出来て欲しい?」

「仲良くやれるなら、どんな子でも良いよ。――――――あ、そう言えばこの前、一夏が知り合いが受験するって言ってたね。何か知ってる?」

「ああ、聞いたよ。確か五反田蘭って言ったかな。成績も簡易適正検査も随分良いみたいだから、多分後輩になるんじゃないかな」

「そっか。ねぇ、晶にはそういう後輩になりそうな知り合いっていないの?」

 

 一瞬とある姉妹の、妹のことが脳裏を過ぎる。

 だが、表に出せる関係ではない。

 

「いいや。いないよ。シャルは?」

「親しい友人とかはいないんだけど、お父さんと付き合いのある人の娘さんとかかな。ただ、ちょっと苦手かな」

「打算的に近寄ろうとしているのが見え見えだけど、立場上無碍には出来ない、というところかな?」

 

 シャルが濁した部分を晶が言葉にすると、返事は苦笑だった。

 どうやら、セレブ特有の悩みらしい。

 

「お嬢様で有名人になると、大変だな」

「それを言うなら、晶はどうなの? 学園外でも色々お付き合いがあるんでしょう?」

「あると言えばあるけど、俺の場合は選べるから、少しは楽かな」

「どういうこと?」

「束の代理人として会う場合は、本当に面倒なら「束に話を伝えない」と一言言えば大体の奴は黙る。IS指導教官として声を掛けられた場合も、束が首を縦に振るくらいの条件じゃないと受けないからね。実際は選り好みし放題さ」

 

 尤も実際にはそれほど単純な話でも無いのだが、晶はあえて大雑把に話した。ここで事細かに説明する必要も無いだろう。

 

「良いなぁ。あれ? でもカラード(PMC)の方は? 依頼を受けて動くなら、無茶な事を言ってくるお客さんとかいるんじゃないの?」

「幸い実戦要員は腕が良いし、事務方も優秀でね。そういう問題が俺のところまで上がってきた事はないかな」

 

 今までにも、カラードの仕事ぶりに文句を付けて、社長()を引きずり出そうという輩はいた。

 だが成功した輩はいなかった。

 更識から借りている事務方は、いずれも法律や契約、交渉事のスペシャリストばかり。本当なら、設立したばかりの民間軍事企業(PMC)が雇えるような人間ではない。契約の裏をかくような形で文句を付ける事は、不可能に近かった。ならば単純に、武力で依頼を失敗させて文句を付けようという輩もいた。しかしカラードの実戦要員は、元IS強奪犯。並の罠など、力ずくで食い破る連中だった。

 

「晶って部下にも恵まれてるんだね」

「う、ま、まぁな。人材を大事にしているからかな。ところでさ―――」

 

 一瞬カラード3人娘(元IS強奪犯)の事が脳裏を過ぎり、晶は挙動不審に陥りかけた。だがどうにか取り繕い、別の話題を口にするのだった。

 

「―――明日は時間あるのかな?」

「大丈夫。ちゃんと空けてあるよ。どこかに行く?」

「とりあえず観光の有名どころは行ってみたいかな。シャンゼリゼ通り、ベルサイユ宮殿、エッフェル塔、セーヌ河………色々あるな」

「どこもじっくり回ったら、そこだけで1日終わっちゃうよ」

「ならそうだな………いや、でも迷うな」

 

 普段は即断即決の多い晶だが、初めての観光のせいか、旅行初心者のように迷ってしまう。

 そんな意外な一面を見せた彼に、シャルロットは助け舟を出した。

 

「ならセーヌ河、エッフェル塔、ベルサイユ宮殿の順で行って、最後にシャンゼリゼ通りでお買い物なんてどうかな?」

「じゃあ、それで。名ガイドの案内に期待しようかな」

 

 晶がおどけて言うと、シャルも「期待しててね」と笑いながら答えた。

 そうしてこの後2人は運ばれてきた料理を楽しみながら、ゆったりとした時間を過ごすのだった――――――。

 

 

 

 ◇

 

 

 

 翌日、午前中から観光―――という名のデート―――を始めた2人は、誰にも邪魔される事なく予定のコースを回っていた。

 勿論、普通の姿で動いてはすぐに発見されて、観光(デート)どころではなくなってしまう。なので、少しばかり変装をしていた。

 今のシャルロットは、スリムタイプの青いジーンズに白いセーター、黒のサイドゴアブーツとベージュのトレンチコートという出で立ちだ。これにダークブラウンのロングヘアーウイッグと、細いシルバーフレームの眼鏡。いつもと雰囲気が大きく変わっているため、余程近しい人間でなければ、彼女だとは気付けないだろう。

 そして晶は、黒のスラックスに淡い青のデニムシャツ、ブラウンのレースアップブーツと黒のチェスターコートという出で立ちだ。これにオロビアンコの無地のマフラーと自己主張の無い黒縁メガネ、ダークブラウンのショートカットウィッグで変装していた。

 

「ふふ。僕達の変装も、中々捨てたものじゃないみたいだね。ここまで、誰にも気付かれなかったよ」

「良かった。気付かれたら、せっかくの観光(デート)が台無しになるところだった」

「うん」

 

 今2人は、どこにでもいる普通のカップルのように腕を組み、シャンゼリゼ通りで買い物をしている最中だった。

 時刻は夕刻。時に揃ってウィンドウを覗き込み、店に入って商品を手に取り、似合いそうなものをお互いにプレゼントする。

 本当に何も無い、平和な観光(デート)だった。

 しかし今まで何も無いからといって、無事に終わるという訳ではない。

 2人の予定が崩れた切っ掛けは、本当に些細な事だった。

 

「―――ねぇ、あれってテレビだよね」

 

 シャルロットが視線を向けた先にいたのは、日本人のテレビスタッフだった。

 道行く人にインタビューをしている事から、旅行系の番組か何かの取材だろうか? それともドキュメンタリーだろうか? だがどちらにしろ、関わりたくないという点で2人は一致していた。

 

「別の道から行こうか」

「そうだね」

 

 極々自然な動作で角を曲り、厄介事を回避する。だが逃げた先が、安全であるとは限らなかった。

 

「………ねぇ、ちょっと近くのお店に入らない。どこでも良いから」

 

 どこか切羽詰った声音のシャルに。晶は「どうして?」等と野暮な事は聞かなかった。

 すぐさま手近な店に入り、そこで尋ねる。

 

「えっとね。前の方から、昨日言った少し苦手な子と、その取り巻きが来てて」

「ああ、なるほど。ならこの店で、適当に時間を潰して――――――」

 

 と言いながら周囲を見た晶は、固まってしまった。

 そして前言撤回。

 

「――――――え~~と、適当にじゃなくて、しっかり選んでいかないか?」

「もう、何言ってるのさ。エッチ」

 

 晶は入った店の名前など知らなかったが、この店は、女性下着専門のブランド店Valege Paris(ヴァレ-ジュ パリ)だった。

 そして男がこういう店に入ると恥ずかしがってしまうものだが、彼は欲望に実に忠実な男だった。

 自分が脱がせる(或いは脱いでもらう)最後の1枚を、彼女自身に選んでもらうという案は、とても魅力的に思えたのだ。

 

「男はみんなドスケベだから問題ない」

「絶対真面目な顔して言う事じゃないよね?」

「今真面目にならずに、いつなるんだ?」

「もう!! 暴走し過ぎ!!」

「はっはっはっ。選んでくれるなら、幾らでも暴走しちゃうよ」

「本当にもう、エッチなんだから。………い、1枚だけだからね」

 

 晶が内心でガッツポーズをした時、シャルが突然、晶の手を引っ張って歩き出した。

 

「どうした?」

「さっきの子達が、お店に入ってきた」

 

 一瞬チラリと入り口の方を見ると、身なりの良さそうな女の子達が数人入ってきていた。

 美人・可愛い・クール系と一通り揃っていて、皆スタイルも良さそうだ。恐らく同年代の中では、さぞかし人気のあるグループだろう。それにアレックスと付き合いのあるところの娘となれば、社会的には相当な上流階級。今まで他人の羨望を独占し、注目されなかった事などない人種だろう。

 

(………シャルが苦手にするくらいか。ちょっと情報収集してみるかな)

 

 NEXT(IS)のセンサーを限定的に起動。女の子達の会話を盗み聞きしてみる。

 すると聞こえてきたのは――――――。

 

「まったく、やれやれですわ」

「どうしたの?」

「何でこの私が、あんな愛人の子(シャルロット)なんかよりも格下に見られなければいけないのかしら? どこのパーティに出ても、男共は彼女の話で持ち切り。今まですり寄って来た馬鹿()共まで、あの子の話ばかり」

「今は仕方ないって。今をときめくデュノアの社長令嬢様だよ。バイオテロの時だって、自分で新型ISを駆って出撃しているんだもの。人気が出るのも仕方がないよ」

あの子(シャルロット)が結果を出せたのは、束博士の下僕(NEXT)が一緒に出撃していたからでしょう。世界最強の単体戦力(NEXT)と一緒なら、誰だって結果を出せるに決まってるわ」

「だね。後はアレかな。IS学園の、専用機持ちの集まりにいるからかな」

「あと1年早く生まれていたら、あそこに居たのは私だったのに………」

「ホントにね。各国専用機持ちの代表候補生と繋がりが持てた上に、2人もセカンドシフトさせた薙原晶(NEXT)の指導。上手く取り入れば、束博士とのパイプまで出来る。それにもう1人の男のISパイロットとも顔見知りになれる。本当に夢のような集まり」

「だからこそ、悔しいわ。その場に私がいないなんて」

 

 随分と都合の良い部分しか見えていない、俗物の凡人だ。

 そう思い、晶はセンサーをOFFにしようとした。だが続いて聞こえてきた会話に、少しばかり彼の顔が引きつった。

 

「でもIS学園の入学、本当に大丈夫なの?」

「大丈夫よ。パパがちゃ~~んと手を回してくれたもの。欧州圏に割り振られている席のうち3つは、私達のものだわ。大した教養もない下級市民が入学するより、私達の様なエリートが入学した方が欧州のためだもの」

 

 薙原晶という人間は、決して善人ではない。だが束を見ているせいか、才能ある人間が俗物の我儘でその夢を叶えられない、というのには嫌悪感を抱く人間でもあった。

 よって晶はシャルに数種類のランジェリーをプレゼントし、健全な観光(デート)を終えて、宿泊先のホテルで1人になった時、とある場所に電話を掛けた。

 

『お久しぶりです。IS委員会議長殿(クソじじい)

『オヌシからそんなに丁寧な言葉を聞くと、何故か寒気がするの。で、何のようじゃ』

『まず確認です。IS学園入学について、各国に割り振られている合格枠の取り扱いについては、各国にある支部に一任されていましたよね?』

『そうじゃが。誰か入学させたい女子でもいるのかの? 君の推薦なら一発で合格に――――――』

『いねぇよ!! 今日の話は、良くない話を聞いたから確認だ。金で試験結果が歪められている事はないですよね?』

『いつもこの時期はそんな噂が流れる。君が気にするような事でも無いと思うがの』

『それもそうか。いや、すみません。俺とした事が、噂に踊らされてしまったみたいです。――――――才能ある子が、俗物の我儘でチャンスを奪われるかもしれない、なんて考えてしまうと気になってしまって。そうですよね。貴方が議長を務めるIS委員会で、そんな事がある訳ないですよね』

『勿論じゃ、公平公正に行うように、常日頃から言っておるよ』

『安心しました。では、失礼します』

 

 この電話が終わった後、IS委員会議長殿(クソじじい)は――――――。

 

「おい!! 誰かおらぬか!!」

「ここに。どうされましたか?」

「IS学園の入試に関わる人間を、今すぐ全員洗い直せ」

「これから、でしょうか? 関わる人間は、身辺調査を済ませてから入試に関わらせていますが」

 

 IS学園はその特殊性ゆえ、入学試験が不正の温床になり易いのは、設立当初から懸念されていた。

 その為、組織の健全性を示す意味でも、入試に関わる人間には身辺調査が行われていた。

 

あやつ(薙原)から電話があった。「金で結果が歪められている事はないか?」とな。もしかしたら、調査を潜り抜けた者がいるかもしれん。早急に全員――――――いや、待てよ。今あやつ(薙原)がいるのは欧州だったな。欧州圏から順に洗っていけ。万一調査を潜り抜けた者がいて、それがあやつ(薙原)にバレれば、今後に差し支える」

「人員と予算は?」

「使える人間は全て使って構わん。予算も限度は設けん。確実に調べろ」

「了解しました。では、失礼します」

 

 この後、IS委員会内部で抜き打ち調査が行われ、少なくない人間に賄賂が疑われる事となった。

 そしてIS委員会議長殿(クソじじい)は、その結果を躊躇い無く公表。IS委員会が自浄作用のある組織とアピールすると共に、自身の影響力を高めていくのだった。

 

 閑話休題。

 

 こうしてフランスで数日を過ごし、視察と観光(デート)を行った晶は、次は高速鉄道でドイツへと向かうのだった。

 なおその際、移動に使用した列車は個室が完備されたのもので、シャルロットが国境付近まで同行。ギリギリまで、2人だけの時間を楽しむのだった――――――。

 

 

 

 第107話に続く

 

 

 




平和な日常が書けなくて、今までで最高に難産でした。
ボツ分含めたら多分、今回投稿した量の3倍くらい書いてる………。

そして晶くんは自分の欲望に実に忠実で、デュノアパパは押せ押せモードでした。

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