インフィニット・ストラトス ~迷い込んだイレギュラー~   作:S-MIST

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ついに主人公勢が2年生になりました。
色々と原作から乖離している本作ですが、これからも宜しくお願いします。





第118話 2年生になりました!!

 

 世界同時ダーティボム(汚い爆弾)未遂事件から時は進み、同年の4月。

 IS学園の1年生は、全員無事進級し2年生となっていた。余程日常生活や成績に問題がない限りは、例年通りである。だが教師陣の方は、例年通りとはいかなかった。新2年生のクラス編成が、新学期開始ギリギリまでズレ込んでいたのだ。

 その理由は、言わずと知れた()の存在である。

 束博士のパートナーにして世界最強の単体戦力というだけなら、或いは大した実績が無ければ、学園は「例年通りにクラス編成を行いました。何もやましいところはありません」と対外的に押し通しただろう。しかし、()には実績があり過ぎた。

 何せ指導を行ったISパイロットから、2人もセカンドシフト者が出ている。セカンドシフトマシンが世界に10機と存在しない事を考えれば、驚愕以外の何ものでもない。これに加え、ISを6機抱える民間軍事企業(PMC)の社長なのだ。そしてごく当たり前の事実として、PMCにISが所属しているという事は、超兵器たるISを傭兵として雇えるということ。彼とのコネクションがどれほど強力な手札となるかは、想像に難くなかった。このためIS学園に対し、“寄付金”という名の“お願い”が、相当数行われていたという。

 その結果、2年生の専用機持ちは全員、同じクラスに纏められることとなった。

 また、旧1年1組の一般生徒達の扱いについても、教師陣は頭を悩ませる事となった。

 厳密に言えば、特別扱いする理由は何も無い。だが一般生徒達の存在が、薙原晶の日常生活を守っているのは、無視できない事実だった。クラス編成で人間関係を入れ替えてしまえば、少なくない時間を人間関係の再構築に取られる事になる。色々なものを抱えている彼に、そんな事で時間を浪費させるのは、学園側としても避けたかった。故に旧1年1組の生徒は全員2年1組となり、専用機持ちと同じクラスとされた。

 なおIS学園の教育システムは、全員同じ事を学ぶ基礎課程の1年生。2・3年生は、パイロットコースとメカニックコースの専門課程に分かれる。コース分けは2年生への進級時に、本人の希望と適正を考慮した上で行われるのだが、クラス編成は別コースの生徒を混ぜる混合編成とされていた。これはコース別にクラス編成を行う効率性よりも、パイロットとメカニックの意思疎通を行い易くした方が、将来の為になると学園が考えている証だった。このため両コースで共通した座学は教室で、専門課程を学ぶ際は教室移動を行う、という形が取られていた。

 

 閑話休題。

 

 そんな中で始まった、2年生最初のホームルーム。

 1年生から引き続き担任を受け持つ事になった織斑先生が教壇に立ち、これからの注意事項などを伝達している。隣には副担任の山田先生も立っていた。

 

「――――――という訳だが、ここまでで質問のある者はいるか?」

 

 一度言葉を区切り、教室内を見渡す。

 特に無いようなので、織斑先生は2年生最初のイベントについて話す事にした。

 

「では次だ。明日、新入生の入学式がある。まぁ今更特に言う事も無いが、明日は新入生の家族や来賓が多く訪れる。IS学園の生徒として、恥ずかしくない行動を心掛けるように。後はそうだな………全員に、改めて言っておこう。このクラスは色々と注目度が高い。外野の声が五月蠅い事も多いだろう。だが各自、それに負けず頑張って欲しい。何か悩みがあれば、私でも、山田先生でも、クラスメイトでも、誰でも良いから相談すると良い。決して、1人では抱え込まないようにな。以上だ」

 

 織斑先生が話し終えると、丁度ホームルーム終了を知らせる鐘が鳴った。

 そして次の授業は両コース共通の座学であるため、教室移動は無し。

 必然的にクラスの皆は、お喋りに興じ始めるのだった――――――。

 

 

 

 ◇

 

 

 

 時間は瞬く間に過ぎて行き、昼休み。

 食堂でご飯を食べるいつもの面子(専用機持ち)。そんな中で、ラウラが口を開いた。

 

「なぁシャルロット」

「どうしたの」

「最近服が合わなくなってきたみたいでな。良ければ今度、買い物に付き合ってくれないか」

 

 昔のラウラであれば、こんな事は口にしなかっただろう。

 だがシャルロットと同室になり、ことある毎に着せ替え人形にされているお陰か、最近は少しだけオシャレ方面も気にするようになっていた。とは言っても“普通”とか“可愛い”という感覚がイマイチ分からないらしく、着せ替え人形なのは相変わらずらしい。

 

「いいよ。太ったの?」

 

 シャルロットの冗談めかした問いに、ラウラはコーヒーを一口飲んでから答えた。

 

「何を言う。体調管理は軍人の基本だぞ。単純に身長が伸びてきて、服のサイズが合わなくなってきただけだ」

「そう言えばこの前、ISスーツが少しキツイって言ってたもんね」

 

 この会話を聞いていた晶は、ラウラのISスーツ姿を思い出していた。

 確かに初めて会った頃に比べると、身長が伸びていて、割と平面的で薄かった胸部装甲にボリュームが出てきている。それでいて腰回りの装甲は増えていないので、このまま成長していけばスラッとした感じの美人になるだろう。

 1人こんな事を思っていると、鈴が会話に加わり始めた。

 

「え、アンタも合わなくなってきたの?」

「その言い方だと、お前もか?」

「うん。最近少し身長が伸びてさ、服が合わなくなってきたんだよね。買いに行く時、一緒に行っていい?」

「断る理由はないな」

「なら今度――――――」

 

 会話を聞きながら、今度は鈴のISスーツ姿が思い出された。

 こちらも1年生の初めの頃と比べると、身長が伸びてきている。胸部装甲の増加具合はラウラより慎ましいが、腰から足にかけてのラインが綺麗だ。このまま成長していけば、さぞかしチャイナドレスが似合うようになるだろう。

 ちなみにこの場にいるシャルロット、セシリア、簪については、短い間隔で頻繁に直接確認しているので、その素晴らしいスタイルは鮮明に脳裏に焼き付いている。

 こんな風に思考が横道に逸れたせいか、晶は2年生になる前の、春休みの事まで思い出してしまった。

 

(そういえば束の奴。「いっくんが男になった!!」とか言って赤飯炊いてたっけ。あの日は「箒ちゃん可愛すぎる」って一日中ニヤニヤしてたな。――――――しかし一夏もやるな。その1週間後には鈴と………だもんな)

 

 正確には、箒に先を越された事を知った鈴が、負けじと一夏を押し倒したらしい。

 真面目な一夏は二股という事実に暫く悩み、晶も相談を受けていた。そこで幾つか助言したところ、2人とも大事にする、と決めたようだった。結果、最近(一夏)の両隣は、2人にガッチリキープされている。偶に………ではなく結構な頻度で火花が散っているように見えるが、後は男の甲斐性の問題だろう。内心で「頑張れよ」等と気楽なエールを送っておく。

 そんな事を思っていると、食堂にある大型テレビに、カラードのニュースが流れ始めた。

 

『――――――それでは次のニュースです。先日ISの受け入れを表明したカラードから、新たな発表がありました』

 

 この瞬間、食堂に満ちていた喧騒が、何故かピタリと止まった。

 受け入れを表明した当初に発表したのは、所属する専用機持ち(欧州3人娘)への直接依頼は受け付けていないという事のみで、欧州から提供された残り3機のISを、どのように扱うかが注目を集めていたのだ。

 

『――――――発表によりますと扱いの決まっていなかった3機のISは、それぞれ戦闘用、宇宙開発、レスキュー分野に振り分け、それぞれパイロットを公募するとのことです。これは、凄いことですね。こんな形でのISパイロットの公募なんて、前代未聞じゃないですか?』

 

 隣に座るキャスターの相方が、肯いて答えた。

 

『そうですね。しかし現実問題として、公募したパイロットに持ち逃げなんて、されたりしないんでしょうか?』

『それについてはカラードの報道官から、次のようなコメントがありました。「この3機については公募したパイロットの搭乗を前提としているため、持ち逃げ対策として、遠隔操作で全機能をシャットダウンできるようにしている」ということでした。また社長の方針として「依頼における虚偽は一切認めない」ということらしいです』

 

 この言葉に、キャスターの相方は随分と気楽なコメントを返した。

 

『まぁ、当然の対策でしょうね。でも虚偽は認めないって、それはどんな職種でも同じでしょうに』

 

 恐らくこの者は、表側の綺麗な世界しか知らないのであろう。

 しかし裏側の人間に、その意図は間違いなく伝わっていた。

 すなわち、偽の依頼で呼び出してのISコア強奪は絶対に許さないということ。それが行われた場合は、報復するという宣言だ。

 何せかつて旧デュノア経営陣を地獄の底に叩き込み、ドイツでは粛清の嵐を巻き起こした男の言葉だ。本物の悪党と破滅願望の持ち主以外は、これで尻込みするだろう。

 そしてお気楽なコメントを返した相方は、更に続けた。

 

『ところでカラードって、民間軍事企業(PMC)でしたよね? ISを戦闘用に使うのは分かるんですが、宇宙開発とレスキュー分野というのは、どういうことでしょうね?』

 

 視聴者の為の分かりやすい疑問に、キャスターが答えた。

 

『カラードの社長である薙原氏のパートナーは、ISの生みの親である篠ノ之束博士です。博士がISを作ったのは宇宙開発のためという事ですから、何ら不思議な事ではないでしょう。むしろようやく、本来の使われ方をするようになった、という事ですね。また報道官の発表によりますと、衛星の修理や研究用宇宙ステーションへの物資搬入など、従来のコストの十分の一以下で行えるという事ですから、他の宇宙開発企業も、相当なコスト圧縮に迫られるでしょうね』

『それは凄い。でも考えてみれば当然ですね。巨大なロケットを打ち上げるよりも、ISに追加ブースターをくっつけて打ち上げる方が、元の重量が小さい分、荷物の積載量は稼げるし、宇宙に上がってからの自由度が従来のロケットとは段違いですからね。では、レスキュー分野というのは?』

『そちらの方は迅速な救助活動を必要とする大規模な事故や災害にISを派遣する、というもののようです。こちらも発表によりますと、通常のレスキュー部隊では到着に時間のかかる、或いは到着の難しい場所に、ISを派遣して初期対応を行う、というもののようです』

『初期対応という事は、後続がいるということですか?』

『今のところはISの投入のみを予定しているようですが、需要がありそうなら後続となるパワードスーツ部隊を編制する、と報道官はコメントしていましたね』

『なるほど。カラードってPMCなので、ISは全部戦闘用に使うと思っていましたが、どちらかと言えば平和的な側面が強いですね』

『そうですね。これは恐らく、束博士の意志でもあるんじゃないかと思います』

『束博士の意志、ですか?』

『ええ。これは私の勝手な推測ですが、博士はISを開発した当初思い描いていたように、ISを扱い始めたのではないかと思いまして』

『宇宙開発にレスキュー ――――――ああ、なるほど。確かにIS発表時の論文の中に、「それらの分野で、大きな力となるであろう」という一文がありましたね。ですが、何故今なのでしょうか? 博士の知名度なら、もっと早くに出来たと思うのですが』

『ISが軍事転用された経緯もありますから、信用・信頼できる人がいなかったのだと思いますよ』

『そして任せられる人材が、パートナーである彼(薙原晶)、という事ですか?』

『本人からのコメントはありませんから、想像でしかありませんけどね』

 

 キャスターのこの言葉を最後に、CMが流れ始めた。

 だが、誰も言葉を発しない。TV音声だけが、食堂に響いている。

 そんな中でクラスメイトの1人、相川清香が晶のところまで来て尋ねた。

 

「ねぇ晶くん。今のニュースって本当なの?」

 

 周囲から、無数の視線が突き刺さる。

 皆が固唾を呑んで見守る中、晶は答えた。

 

「ISの使用方法については本当。キャスターの推測についてはノーコメント。想像に任せるよ」

「そ、それならさ、会社見学とかって出来るのかな? レスキュー分野とかさ、ISがそういう方面で使われたら凄い役立つと思うんだ」

「熱意は買うけど、まだ無理かな。何せ出来立てホヤホヤだからね。他人を見学させられるほど余力が無いんだ」

「じゃあ、いつかはできる?」

「時期は確約できないけど、いずれはね」

「その時は、申し込んでも良い?」

「いいよ」

 

 ここでようやく、食堂にざわめきが戻った。

 そして今の会話は、瞬く間に学園全体に広がっていき――――――。

 

 

 

 ◇

 

 

 

 ――――――時は進み、放課後。殆どの教員が帰った教務室。

 

「あいつめ。いきなり仕事を増やしおって………」

 

 織斑先生は机に肘を付き、額に手を当てながら、ヤレヤレとばかりに呟く。

 これにもう一人だけ残っていた教員、隣に座る山田先生が答えた。

 

「でもいいじゃないですか。ISが、本来の使われ方をするんですよ」

「まぁな。束の奴も喜んでるだろうよ」

 

 嬉しい反面、予想される仕事量に気が重い千冬である。

 ことの発端は、言うまでもなく昼のニュースだった。ISを宇宙開発とレスキュー分野に投入するというニュースは瞬く間に学園内を駆け抜け、各クラスの先生方は、生徒からの質問攻めに会っていたのだ。だがこれだけなら、千冬もここまで投げやりにはならなかっただろう。問題はこの次。IS学園に協力している国や企業から次々と入る、事実確認への対応だった。本来ならカラードへ直接行われるべきものなのだが、ニュース放送から1分と経たずにカラードの通常回線がパンクしたため、社長が在学しているIS学園に確認の電話やメールが殺到したのだ(なお、カラードの仕事用の回線は別に存在している)。

 そして学園側としても、ISで宇宙開発やレスキュー分野に貢献したいという学生の声は無視できなかった。

 このため早急に今後の方針を纏めて発表する必要に迫られていたのだが、その方針を決めるという仕事が、非常に面倒くさかった。

 簡単に思いつくだけでも、PMCであるカラードに生徒を就職させて良いのか? カラードで実習は可能なのか? 宇宙開発やレスキュー分野というなら、学園で教えておく事はないか? 等々。しかもこれらに加え、各方面への説明や提出用書類の作成という、地味で膨大な量の仕事があるのだ。

 そして教員の中で晶と最も近いのが担任である織斑先生であったため、学園側はこれ幸いと、彼女に仕事をブン投げたのだった。

 勿論、全てを1人でやれという訳ではない。大枠が決まれば、今度は織斑先生が他の教員達に、仕事を割り振っていく形になる。

 なので楽をしようと思えば出来なくもないのだが、織斑先生の心情としては、生徒達の今後に関わるだけに、不安要素は可能な限り潰しておきたかった。となれば必然的に考えなければいけない事は多岐に渡る。つまり、仕事が雪だるま式に増えていく。

 

(………まずは薙原の奴が、どう考えているのかを確認するか)

 

 予想される仕事量は膨大だが、1つずつでも片付けていけばいずれ終わる。

 そう思い直して行動を起こそうとした矢先、教務室の扉がノックされ、たった今話を聞こうと思っていた生徒が入ってきた。

 

「薙原か。どうしたんだ?」

「昼のニュースで先生方の仕事が増えていると思いまして、カラード側が提示できる条件を持ってきました。実習受け入れとか、就職とか、その辺のです。渡すのは織斑先生でいいですか?」

 

 そう言いながら晶は、懐からデータディスクを取り出す。

 メールで送らなかったのは、情報漏洩を嫌ってのことだ。

 

「ああ、私で良い。しかし、仕事が早いな。いま話を聞こうと思っていたところだ」

 

 ディスクを受け取りながら尋ねる織斑先生。対する晶の答えは単純だった。

 

「発表前から、カラードに準備させてましたから」

「ほう?」

「だってあんなニュースが流れれば、最終的にどうなるにせよ、IS学園も動くでしょう。だから、初めから準備させていたんですよ」

「手回しの良いことだ。だが本音を言えば、ニュースで流れる前に教えて欲しかったな。発表後、学園事務の方は問い合わせ対応で大変だったみたいだぞ」

「意地悪な事を言わないで下さい。発表前に提供されているISの使用方法が漏れたりしたら、どうなるか分かるでしょう」

「まぁな。機密保持の点で言えば理解できるが、事務方の苦労を思えば、希望の1つくらい言っても良いだろう」

「善処はしますが、出来ないものは出来ませんよ」

「なに、無理にとは言わんさ。――――――では、本題に入ろうか。まずカラードは、生徒の受け入れが可能なのか?」

 

 織斑先生らしい、無駄は省いた問いだった。

 そしてこの回答次第で、今後の対応が変わる。

 

「可能です。ですがこちらとしても、但し、と条件を付けなければなりません」

「その条件は、何の為にある?」

「お互いを守るため、ですね。今は世間が良く言ってくれてますが、どれだけ取り繕おうとカラードは民間軍事企業(PMC)。つまり暴力が商品です。そして今回宇宙開発やレスキュー分野に投入するISにしたって、偽の依頼で呼び出されてのIS強奪が考えられる以上、ある程度戦えるパイロットである事が最低条件です。IS学園がこちら(カラード)に生徒を送るなら、その辺の現実を教える事になります。それでも構いませんか?」

 

 基本的に教育機関というものは、“こうあるべき”という理想を教える。正しいものを正しいと教える事で、将来道に困った時の道標とするためだ。

 だが晶は、来た生徒には理想でなく現実を教えるという。

 これは民間軍事企業(PMC)という性質上、下手な夢を持って来られた場合、生徒の夢、しいては本人そのものを潰しかねないからだった。

 これに対し織斑先生は――――――。

 

「………お前の言い分は分かった。その上で言おう。そっちが受け入れ可能なら、2年次の実習ではカラードに生徒を送ろうと思っている」

「何故、と聞いても?」

「確かにカラードは民間軍事企業(PMC)だ。血生臭い仕事もあるだろう。だがな、考えてみてくれ。今のIS業界では、例え何処に就職したとしても、血生臭い世界に首を突っ込む事に変わりはないんだ。お前の言葉を借りるなら、例えどれほど取り繕おうと、ISは兵器として扱われているんだよ」

 

 確かにその通りだった。

 現在殆どのISは、その超性能故に国防の要として扱われている。宇宙開発やレスキューに全く使われていない訳ではないが、扱いの主導権はあくまで軍や軍事企業にある、というのが現実だ。

 世界最大のIS保有数を誇る米国ですら、宇宙開発専用とされているのは2機しかない。そしてレスキューで使用される場合は、常に軍への派遣依頼が必要となれば、どれほど軍事部門に偏って運用されているか分かるだろう。

 そんな中で行われた、宇宙開発やレスキュー分野専用の機体として扱う、という発表だ。

 危険が全く無い訳ではないが、生徒達に血生臭くない未来を用意できる可能性が出来たのだ。織斑先生としては、このチャンスを逃したくなかった。

 何より親友である束の夢に続く人間が、この先出ないとも限らない。その時の為に、IS学園からも宇宙開発に進める、という道を作っておきたかったのだ。

 

「だからISを平和的に使える道を開拓しておきたい。織斑先生は、そう考えているんですね?」

「そうだ」

 

 数瞬思案した後、晶は答えた。

 

「………考えとしては理解しました。でも今日は、ここまでにしておきましょう。細かい話は、先生がカラードの条件を読んでからに」

「分かった。近いうちに呼ぶ事になると思う」

「了解です。では、失礼します」

 

 晶が一礼して教務室を後にすると、織斑先生と山田先生は早速データを読み込み、ファイルを開いてみる。

 そうして条件を読み込んでいくと――――――。

 

「ふふ、あいつめ」

「晶くんも、素直じゃありませんね」

 

 教師2人の表情が、揃って綻ぶ。

 先程、()は現実を教えると言っていた。信用できる相手なのでそれほど心配はしていなかったが、資料を読む限り、IS強奪が行われている現実と、それから自身とISを守るため、自衛能力の必要性について教える気らしい。

 何も知らない人間がこの資料を読めば、恐らく疑問に思うだろう。

 IS学園では、「IS強奪が行われている現実を教えていないのか?」と。

 結論から言えば、IS学園では「テロリストがISを狙って暗躍している。だから不審人物や身辺には注意しなければいけない」というところまでしか教えていない。実際にはどのように強奪されているか、というところを、実例を交えて教えている訳ではないのだ。

 何故か?

 それはISを強奪された国が、奪われた事実そのものを隠蔽しているからだ。

 国防の要たるISが強奪されたなど、一般公表できる訳がない。そんな事を行えば、貴重な戦力が無くなったと世界中に宣伝するのと同じ。つまり国際的影響力や発言力の低下に直結してくる。

 だから強奪された国は、決して事実を公表しない。そして公表されていない事実を、学園で教える事など出来ない、という訳だ。

 面倒臭い理論だが、表の世界などそんなものである。

 認められていない事実は、存在しない事と同義なのだ。

 しかしカラードに来た生徒については、それを教えるという。他の研修先では出来ない事だが、あそこには実際にIS学園を狙い、(最終的には取り戻したが)強奪を成功させた奴らがいる。

 現実を教えるという意味では、これ以上ない教材だろう。

 そして教師2人がファイルを読み進めて分かってきたのは――――――。

 

「晶くん。ちゃんと生徒達の事を考えてくれているんですね」

 

 山田先生が呟く。

 示されている実習時の内容は、生徒達に十分な配慮がされたものだった。

 勿論、甘くするという意味ではない。

 カラードでしっかり学ぶ事が出来れば、将来において必ず役に立つだろう内容だ。

 

「そうだな。後は細かい部分の確認を行えば、そのまま職員会議に掛けられそうだ」

 

 織斑先生も、肯きながら答える。

 なおこの時点で教師2人の評価は非常に高かったのだが、もう1つ、2人にとってとても嬉しい気遣いがあった。

 それは実習先の新規開拓が行われた場合、膨大な量の書類提出が必要となるのだが、そのほぼ全てが既に揃っていることだった。

 単純な仕事量で言えば、8割方終わっていると言っていい。

 

「そうですね。なら明日………はちょっと早すぎますね。他の先生方にも内容を見てもらって、1週間後の職員会議にかけますか?」

 

 山田先生の提案に、織斑先生は再度肯く。

 

「そうだな。あと対外的な発表については、「現在カラードと今後の関係を協議中」という形で良いだろう。――――――ああ、そうだ。真耶、この資料を配る時、くれぐれも取扱いには注意するように含めておいてくれ。恐らくこの内容そのものは漏れても問題ないだろうが、情報が漏れたという事実は、カラードにこちらの管理能力を疑わせる事になる。今後を考えれば、それは避けたい」

「分かりました。部外秘扱いにして、取り扱いには注意させましょう」

 

 答えるなり山田先生は、開いていたファイルを一度閉じ、データを学園サーバーの部外秘扱いのフォルダに移動させた。

 ここに入れたファイルは、正規の手続きを経なければコピー出来ない上、アクセス情報は全て記録に残る。最重要機密という訳ではないが、学園の教師ならば、ここに入っている時点で取り扱い注意というのは分かる話だった。

 

「そうしてくれ。さて、これから忙しくなるぞ」

「ですね。でも、こういう忙しさなら歓迎です。ISが本来の使われ方をする。その為の人を育てられる。小さいけど大きな一歩を、自分達の手で出来るんですから」

 

 こうしてIS学園とカラードの関係は進み始め、後日のこと。

 本日のニュースに対する回答が示され、また世間を賑わせるのだった――――――。

 

 

 

 ◇

 

 

 

 一方その頃。

 教務室を後にして校舎を出た晶は、のんびりと自宅に向かって歩いていた。

 その途中、ふと思う。

 

(そう言えば、クロエはもう寮に入っているのかな?)

 

 以前引き取った女の子達の1人、クロエ・クロニクル。

 遺伝子強化試験体(アドヴァンスド)の失敗作であり、漆黒の眼球と金色の瞳を持つ少女。

 遺伝子的にラウラの姉妹であり、その姿は似通っていた。

 腰まで届くクセの無い豊かな銀髪。美しい氷の彫像とも言えるような、整った容姿。同年代に比して、高くない身長。均整の取れた四肢。総じて美少女といえる要素が揃っている。

 そして引き取った際に、束が遺伝子強化試験体(アドヴァンスド)の遺伝子情報を解析したところ、大変興味深い事が分かった。

 将来は身長も伸びて、もっと女性らしいスタイルになるらしい。所謂、クール系の美女というやつだ(なので、ラウラも同様の可能性が非常に高い)。

 さぞかし男共にモテるだろう。

 ここで、晶の想像力がせっせとお仕事を始めた。

 

(………アレ? 引き取ったのが俺って事は、俺が親代わりだよな。ってことは、もしもクロエが彼氏を作ったりしたら、その彼氏は俺のところに挨拶に来るのか?)

 

 とんでもない妄想が脳裏を過ぎり、更に広がっていく。

 

(という事は、だ。他の引き取った子達が彼氏を作っても同じだよな?)

 

 ドイツの一件で引き取った子達は、クロエの他に7人いる。

 いずれも更識のサポートを受けて、慣れない異国の地(日本)での生活を始めていた。

 そして今年の春からは、私立の中学や高校に進学する事になっている。楯無によれば結構な名門らしく、資産家の親も多いとか。

 

(………むぅ。本当に彼氏とか連れて来たら、何て言ってやろうか)

 

 定番なのは「俺より弱い奴に義娘はやれん!!」なのだろうが、それだと余りに捻りがない。

 そんなどうでも良い事を考えながら歩いていると、前方にキャリーケースを引いて歩く女の子が見えた。見た事のある後ろ姿だ。

 少しだけ歩く速度を速めて追いつき、声を掛ける。

 

「クロエ。随分遅い到着だな」

「え? あれ、晶さん。はい、一緒に引き取ってもらった皆と、ギリギリまでお話していました」

「送別会でもしてくれたのか?」

「と言うほど立派なものでもないです。ただ皆で他愛の無いお喋りをして、最後に、それぞれの場所に行っても頑張ろうっていうお話です」

「なるほど。これから、頑張れよ」

「はい。そして必ず、貴方と束博士の役に立てる場所まで行きます」

「前にも言ったが、お前の人生はお前のものだ。自分の為に使っても良いんじゃないかと思ってる」

「なら、あの時と同じ言葉(第111話)を返しましょう。私は私の為に、御二方の力になりたいのです」

 

 迷いの無い返答。今更と言えば今更だが、意志は固いようだ。

 

(それにまぁ、仕方がないか)

 

 晶はクロエが表の世界でも生きていけるよう、真っ当なルートで戸籍を取得させている。

 遺伝子強化試験体(アドヴァンスド)の失敗作という情報のみ、ドイツ側が隠蔽しているが、他の情報は隠蔽されていない。

 つまり調べようと思えば、誰に引き取られたのかはすぐに分かる。

 加えて本人の身体的特徴―――漆黒の眼球と金色の瞳―――は、常人にはありえないものだ。そこを調べられたら、すぐに機密情報(隠蔽)という壁に辿り着く。ドイツ絡みで金色の瞳と機密情報というキーワードが揃えば、遺伝子強化試験体(アドヴァンスド)関係というのは、分かる奴にはすぐに分かるだろう。

 そして非常に下種な考えだが、遺伝子強化試験体(アドヴァンスド)の女性体であるという事は、子を生せるという事でもある。

 最悪を考えるなら、実験用の母体として狙う奴がいないとも限らない。

 

(だから自衛策として、俺のところに来ようってのも分からなくはないんだが………)

 

 晶としては手駒とする為に引き取った訳ではないので、どうしても後ろめたさのようなものを感じてしまう。

 かと言って突き放すのが正しいかと言えば、そういうものでもない。ではどうするべきかと言えば、本人が不幸と感じていないなら、本人の意見を尊重するべきなのだろう。

 

(結局は、コレに行き着くんだよなぁ………)

 

 そんな事を考えながら、言葉を返す。

 

「それがお前の目標なら、俺のところまで駆け上がってこい。ただ自分で言うのもアレだが、大変だぞ」

「それでも、です。それにカラードの職場環境って、私にとっては結構魅力的なんですよ」

「どの辺りが?」

「世界中を飛び回る辺りが、ですね。私は多分、気ままな1人旅みたいな事は出来ませんから」

 

 今の言葉に、どれほどの思いが込められているのだろうか?

 それは本人にしか分からない。

 だが少なくとも本人の希望であり意志であるなら、晶は安心して進めるように、背中を押してやるだけだった。

 

「俺には頑張れっていう月並みな言葉しか送れない。だがお前の努力は必ず見ている。だから、安心して取り組むと良い」

「私にとっては何よりの言葉です。引き取ってくれたこと。絶対に後悔はさせません」

「気負い過ぎないようにな」

「はい」

 

 こうして話しながら歩いていると、寮が近づいてきた。

 そろそろ離れた方が、クロエの為だろう。

 このIS学園で、晶の立ち位置は特殊過ぎる。近しい関係が良い事だとは限らないのだ。

 

「じゃあな」

「はい。ありがとうございました」

 

 クロエは立ち止まり、去っていく晶の後ろ姿に向かい、頭を下げた。

 ここから先は、赤の他人同士。

 学園にいる間、クロエから接触する事はない。

 

 ―――なぜなら、自分の立場を良く分かっていたから。

 

 この学園において、否、世間的に見てもあの人(薙原晶)に引き取られた、というのは大きな意味を持つ。下手をすれば並大抵の難題程度なら、問題の方から避けてしまうほどに。だからこそ、言動には注意しなければいけない。生体パーツとしてバラされるはずだった運命を変えてくれたあの人(薙原晶)に、迷惑をかけるなどあってはならない。

 だから必要の無い限りは接触しない方が良い。ここには、頼る為に来たのではないのだから。

 そんな思いがあったからだ。

 しかし現実というのは、ままならぬもの。

 予期せぬトラブルというのは、何処にでも転がっているものなのだった――――――。

 

 

 

 第119話に続く

 

 

 




原作11巻を読んで、色々と叫びたい気分に………チェルシーさんがIS持ちってどういうことやーーーーーーーーー!!!!!!!

しかもBTシリーズって、イギリス奪われ過ぎだろう。
むしろ国ぐるみで亡国機業に加担していると思われてもおかしくないレベルじゃありませんかね!!!

と叫んでも仕方がないので、本作は本作で行きたいと思います。
でもメイド+ISパイロット+主を裏切りってまた戻ってくる娘って、何ともイケナイ妄想が進む進む………。(ゲスい作者です)
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