インフィニット・ストラトス ~迷い込んだイレギュラー~   作:S-MIST

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第138話 妨害工作(中編)

 

 チャーター機が作戦領域に到着する10分ほど前、一夏は護衛対象に通信を入れた。

 

『こちらカラード所属の織斑一夏。登録IS名“白式・雪羅”。エクソンモービル社所属タンカー、オセアン号、応答願います。繰り返します。こちら――――――』

『こちらオセアン号船長、ロバルト・ヘイローだ。待っていた。到着までどれくらいだ?』

『あと10分くらいです。認証の為に船体コードと現在位置の送信をお願いします』

『了解。今送った』

『確認しました。2日間宜しくお願いします』

『こちらこそ。ところでISは2機と聞いてるが、もう1機は?』

『登録IS名“リップハンター”、パイロットはルージュ・リップです』

『専用機を貰ったばかりの新米か………状況は聞いていると思うが、襲撃が相次いでいる。新米だろうが、働いてもらうぞ』

『元々そのつもりで来ました。では交信終了します。次は直接会いましょう』

 

 妙に手慣れた感じで通信を切った一夏は、次いで操縦室のパイロットに繋いだ。

 

『一夏です。合流ポイントに変更無し。このまま護衛対象の上空をフライパスして下さい。その時に後部ハッチを開いて、直接降ります』

『了解』

 

 パイロットは返事をしながら進路を微修正し、機をランデブーポイントへと向けた。

 続けて、3年生(ルージュ)に声を掛ける。

 

「もう少ししたらタンカーに直接降ります。準備は良いですか?」

「ISを展開するだけだもの。問題無いわ」

「分かりました。ならこっちも準備しますね」

 

 言うなり一夏は、無人機仕様のパワードスーツを(F-5 フリーダムファイター)を起動させ、機体を固定していたロープを解除した。

 すると無人機は自律行動で立ち上がり、不意の衝撃に備えて、貨物室内の取っ手を掴み機体を固定する。

 それを見た3年生(ルージュ)が感嘆の声を上げた。

 

「へぇ。何も言わなくても、ちゃんとその場に合わせた行動が取れるのね。AIもチューンされているの?」

「聞いてないけどカラードで使ってたやつだっていうから、もしかしたら手は入ってるかも」

 

 専門的な事など聞いても分からないので、初めから聞かなかったのだ。

 なおAIについては束の手が入っているが、魔改造されている訳ではない。

 ベースが他社の製品だったのでバックドアを警戒して、プログラムが洗い直されただけである。

 なので自律的に動けるという事を褒めるなら、元々のプログラムが優秀だったということだろう。

 

「そう。あ、荷物、私が持つわね」

 

 一夏の足元にあったバッグ―――2日分の水と食料―――を、3年生が持とうとする。

 

「重いからいいですよ。自分で持ちます」

「駄目よ。このチームのボスは貴方。私が部下。ボスに荷物を持たせるなんて、どんな礼儀知らずよ」

 

 そう言って持ち上げ………。

 

「意外と、重いわね」

「食料以外にも色々入ってますから。やっぱり俺が持ちますよ」

 

 言いながら一夏は優しく、それでいて有無を言わせず、3年生の手から軽々と荷物を取り返した。

 軍用レーションは1食で約500g。2日分なら2人で6kgだ。これに飲料水を含めると10kgを超える。紳士な一夏が女性に任せるには、ちょっと重量があるだろう。

 

「あ、もう。ボスらしくないわね」

「ボスだなんてむず痒いからやめてくれ」

「じゃあリーダー?」

「普通に一夏でいいよ」

 

 この時、バックアップの晶から通信が入った。

 

『こちらカラード00(薙原晶)ナイト01(織斑一夏)、聞こえるか』

『こちらナイト01(織斑一夏)。聞こえてる。どうしたんだ?』

『未確認だが怪しい情報があるので伝えておく。護衛タンカーの予定進路上に、不審な熱源を発見した。反応自体が小さい上にすぐ消えたから、正確なところは分からない。が、少なくとも自然な反応じゃなかった』

『反応が小さくてすぐ消えた? 潜水艦かな?』

『わからん。海中からの反応だし可能性としてはありだけど、他に情報が無い以上判断のしようが無い。もしかしたら今回のミッションとは完全に無関係な、何処かの海軍の活動って可能性もある』

『その可能性もあるけど、敵の可能性もあるから注意しろってことだろ。座標は?』

『いま送った。発見したのは2日目に通る予定の海域だけど、相手が動かないとも限らない』

『分かった。注意する』

『また何か分かったら連絡する』

『了解』

 

 こうして話している間に、機は降下ポイントへと近づいていた。

 

「そろそろかな。ルージュさん、準備はいい?」

「OKよ。一夏」

 

 2人同時にISを展開し、一夏がチャーター機のパイロットに告げた。

 

『ハッチを開けて下さい』

『了解だ。good luck!!』

 

 機体の後部ハッチが解放されると、2人と無人機は大空に飛び出した。天候は快晴。どこまでも続く海に太陽の光が反射し、キラキラと光っている。地球の大きさが感じられる光景だ。

 そうして眼下に視線を向ければ、船が見えた。距離があって小さく見えるが、アレが今回の護衛対象、30万トン級オイルタンカーのオセアン号だ。

 ここで一夏は、少しだけ遊び心を出した。

 

『このまま船橋前まで自由落下。急制動して挨拶しようか。出来そう?』

『そのくらいならね』

 

 ISに乗り始めたばかりの頃は、たったこれだけの事が凄く大変だった。

 だが今では、慣れたものだ。

 無人機仕様のパワードスーツが途中で減速していく中、2機のISは重力に引かれて加速していく。

 そうしてタンカーが迫ってきたところで急制動。一般常識で考えられない挙動で、船橋前にピタリと静止してのけた。

 

『こちらカラード所属の織斑一夏。登録機体名“白式・雪羅”。隣にいるのは今回のパートナーでルージュ・リップさん。登録機体名は“リップハンター”。オセアン号船長。応答願います』

『派手な登場だな』

 

 船橋の中で、マイクを片手にした男性が答えた。

 焼けた肌と短く刈り込まれた白髪。口元の整えられた白い髭。歳は50過ぎくらいだろうか。半袖の白いワイシャツから覗く逞しい二の腕が、荒波を乗り越えてきた海の男を連想させた。

 

『貴方がロバルト船長ですか?』

『そうだ。これから2日間、君達に守ってもらう船の船長だ』

 

 強い視線が一夏を射抜く。

 品定めしている目だ。

 

(確かに相手からしてみれば、不安だろうなぁ)

 

 一夏は極々一般的な感性から、そう思った。

 護衛部隊が半壊しているところに来た増援が、こんな若造2人なのだ。如何にISという超兵器とはいえ、それだけで安心して任せられる、と判断する船長はいないだろう。

 なので一夏は相手に安心感を持ってもらえるように、プロっぽく振る舞う事にした。

 友人に恵まれたお陰で、この手の話を聞く機会は幾らでもあったのだ。

 

『はい。これから2日間、自分達が護衛します。ただ元々いた護衛部隊の指揮権は求めません。指揮系統も運用方針も違う自分達が口を出したところで、良い事は何も無いでしょう』

 

 戦場において、ISは間違いなく強者だ。

 まして専用機ともなれば、圧倒的強者と言っていい。その強さ故に軍や企業では、ISパイロットに他部隊への命令権を認めているところもあるらしい。

 しかし命令系統が複数あるというのは、(主にラウラから教わったことだが)不測の事態を招きかねない。

 だから一番初めに命令系統をハッキリさせておく事で、後のトラブルの種を潰しておくそうだ。

 

(向こうもこんな若造にいきなり指揮権を要求されたりしたら、良い気分はしないだろうしな)

 

 なので今回は、あっちはあっちで勝手に動いてもらう事にしたのだ。

 

『了解した。彼ら(護衛)には伝えておこう。他に何かあるかね?』

『後は休憩用の部屋を貸して下さい。緊急時にすぐ出られるように、外に近い方がいいです』

『問題無い。既に準備してある』

『ありがとうございます。あと今回、無人機仕様のパワードスーツを持ってきてます。警戒用に外に置いておきますけど、気にしないで下さい』

『本船は危険物を運搬している。無人機が勝手に動いて、その辺りの機材を弄る可能性は無いのかね?』

『警戒用機材と割り切って、定位置で固定すれば問題ありません。こちらとしては、船首か船橋がいいです』

『なら船首で頼む。頭の上に得体の知れない物がある、というのは落ち着かん』

『分かりました。でもISは船橋の上に居させてもらえませんか。そこが一番見晴らしが良いので』

『有人なら構わんよ』

『ありがとうございます。っと、そうだ。最後に一つ。今回、水と食料は自前で持ち込んでますので、差し入れは無用に願います』

『どういう意味かね?』

『言葉通りです。あなた方を疑う訳じゃないんですが、こちらとしては毒殺も警戒しなければならないので』

『少し大袈裟ではないのかね?』

『かもしれません。でも俺の師匠が言ってました。ISという強大な戦力を、毒殺で無力化できるなら安いものだって』

『師匠? そうか、確か………』

『はい。束博士の守護者。世界最強の単体戦力(NEXT)。薙原晶』

『なるほど。歳に見合わぬその態度は、最強のあり方を近くで見てきたせいか。分かった。部下達には言っておこう』

『ありがとうございます』

 

 こうして一夏達一行は、護衛ミッションを開始したのだった――――――。

 

 

 

 ◇

 

 

 

 時間は進み、時刻は深夜の1時頃。

 2人が到着してから17時間が経ち、一夏が2回目の見張りに立っていた。

 

(綺麗な星空だなぁ………)

 

 襲撃が無ければ、やる事は何もない。

 彼は波の音しか聞こえない船橋の上で、1人星空を見上げていた。

 生身の歩哨であればサボりと言われてしまうかもしれないが、ISのセンサー系は周囲360度全てをカバーする。加えて、例え一条の光すらない暗闇の中であっても、各種センサー系が拾い上げた情報が統合され、パイロットにクリアな視界を提供してくれる。

 だから空を見上げる、という行為は気分的なものだ。

 今この瞬間も、一夏には周囲全ての光景が見えている。

 そんな中、センサー系が船員達の会話を拾い上げた。

 

『なぁ、あのISパイロットみたか?』

『どっちのだよ』

『勿論女の方だよ』

『見た。すっげぇ美人だったよな。小顔でさ、胸なんかボンッだし、腰もキュッと細くてさ、足もスラッと長いの』

『今休憩中みたいだしさ。ちょっと会いに行ってみないか』

『やめとけよ。船長に言われたろ』

『でもさぁ。ISパイロット、しかも専用機持ちになんて滅多に会えないんだぜ。サイン貰うくらいいいじゃん』

『お前、サイン以外にも狙ってるだろ』

『そりゃ健全な男として、あんな美人口説かないなんてどうかしてると思うけど』

『お前じゃ釣り合わないっての』

『釣り合う釣り合わないじゃない。美人がそこにいるから行くんだよ』

『哲学っぽく言ってるけど、命令違反だからな。後で船長にどやされても知らないぞ』

『専用機持ちって言っても、まだ所詮学生だろ。幾らでも言いくるめられるって。お前も来いよ』

『1人でどうぞ』

『ちぇっ。腰抜けめ。俺が美人ISパイロットとあつ~い一夜を過ごしても、後で羨むなよ』

『寝言は寝て言え』

 

 熱源反応が1つ、3年生(ルージュ)が休む部屋に近づいていく。

 

(はぁ………晶から聞いてた通りだな)

 

 美人揃いのISパイロットは、この手のトラブルに巻き込まれやすい。ある程度経験があれば適当にあしらえるのかもしれないが、初ミッションの3年生(ルージュ)には難しいだろう。

 それに一夏自身、自分のミッションでパートナーに嫌な思いはして欲しくなかった。

 しかし今の自分には見張りという仕事がある。注意しに行っている最中に襲撃など許したら目も当てられない。

 なので代わりに無人パワードスーツを向かわせようとして………様子を見る事にした。

 元々いた護衛部隊の隊員が、船員の行く手を阻んだのだ。

 ネイビーカラーのパワードスーツ(F-4)を装着しており、所々に残る弾痕が、これまでにあった襲撃の激しさを物語っている。

 

『ここから先は通行止めだ』

『硬いこと言うなよ。ちょっと話すだけだって』

『駄目だ。我々はISパイロットの体調には、細心の注意を払うよう命令を受けている』

『5分話すくらい良いだろ』

『駄目だ。どうしても話したければ、ミッション終了後にしろ』

『あんな美人と話す機会なんて滅多にないんだ。なぁ、良いだろ』

『駄目なものは駄目だ。今なら聞かなかった事にしてやるから部屋に戻れ』

『チッ、分かったよ』

 

 船員は悪態をつきながら去っていく。

 どうやら護衛部隊の士気とモラルは高いらしい。

 一夏は今の隊員に、指向性の通信回線を開いた。

 

『対応、ありがとうございます』

『聞いてたのか』

『仲間のことなので』

『さっきも言ったが、命令だからな。じゃなきゃ俺だってお近づきになりたい』

『正直ですね』

『あんな美人なら、誰だってそう思うさ。しかもISパイロット。それも専用機持ち。話せる機会なんて普通は無いからな』

 

 世間一般的に、ISパイロットは高嶺の花なのだ。

 まして選び抜かれた専用機持ちともなれば、例えルーキーであっても偶像(アイドル)と言って良い。

 お近づきになりたいと思うのは、至って普通な男性心理だろう。

 そこを知ってか知らずか、一夏の返答は隊員を喜ばせるものであった。

 

『起きたら、安眠を守ってくれた人がいたって伝えておきます。ええっと、名前は?』

『本当か!? 俺の………』

 

 この時、白式のセンサーが警告を発した。

 

 ―――高速飛来物接近。

 

 ―――数3。

 

 ―――放物曲線。

 

 ―――弾道計測。

 

 ―――命中2。至近着弾1。

 

 ―――着弾まで2秒。

 

 一夏の反応は早かった。

 左腕にある雪羅の荷電粒子砲を、広域拡散モードにセット。センサーのはじき出した弾道予測空域を薙ぎ払う。

 3つの爆光が闇夜に輝く。

 同時に、発射地点を探す思考に白式が答えた。計測弾道から発射地点が逆算され、計算結果が脳内のMAP情報に表示される。

 場所は水平線の向こう。直線距離30km。

 

(嘘だろう!?)

 

 歩兵の個人用装備で届く距離じゃない。

 パワードスーツ用装備でも恐らく無理だろう。

 移動にヘリや輸送機が必要な、本格的な砲が必要になる距離だ。

 

(しかもこの場所、陸じゃない!? 海だぞ!!)

 

 本格的な砲というのは、強力な反動故に地面に備え付ける必要がある。

 船の上でも使えなくはないだろうが、命中精度が大きく下がるのは間違いない。ましてセンサーの観測情報が正しければ、弾種は榴弾だ。揺れる船の上で使うようなものじゃない。

 

(なのに初弾で命中コース? どんな冗談だよ!!)

 

 驚きながらも一夏は、速やかに次の行動に移っていた。

 30km先は水平線の向こう側だが、100mも上昇すれば水平線の向こうではなくなる。センサーで直接確認できるのだ。

 そして闇夜というのは既存兵器にとって相当な悪条件だが、陸海空宙の全領域を無換装で活動可能なISにとっては違う。光源があるに越したことはないが、無くても索敵は可能なのだ。

 だが………。

 

(反応が、小さい?)

 

 まず逆算された位置に、光源が全く見当たらない。熱源反応も殆ど無い。あるにはあったが数秒で消えてしまった。観測されたレーダー反射波も小型船程度。その反応すら数秒で消えてしまった。

 

(おいおい。嘘だろう)

 

 空を逃げた形跡も、海上を逃げた形跡もない。

 なら残るは海中のみ。単純な消去法だ。

 しかし潜水兵器というのは、とにかく金がかかる。

 榴弾砲クラスの砲を搭載して、撃って十数秒で急速潜行可能となれば、間違いなく最新兵器の類だろう。

 一夏はため息をついた後、バックアップに通信を繋いだ。

 

『こちらナイト01(織斑一夏)カラード00(薙原晶)、応答されたし』

『社長はいまお休み中よ』

『誰ですか?』

ハウンド1(エリザ)。社長のお供よ』

 

 一夏は、一瞬息を呑んだ。

 コールサイン“ハウンド”と言えば、薙原晶(NEXT)が唯一直接の配下としている部隊のものだ。

 そして束博士に与えられたオリジナルISで、世界中の賞金首を狩る猟犬達でもある。

 

『来てたんですか』

『社長にこんな雑務をさせる訳にはいかないでしょう。感謝なさい。で、本題は?』

 

 上から目線だが言う通りなので、一夏は感謝の言葉を述べて続けた。

 

『カラードの兵器データベースを使わせて下さい』

『へぇ、理由は?』

『こっちの情報はそっちでも確認していますよね? 榴弾砲クラスの砲を搭載している潜水兵器に思い当たる節がありません。だけどカラードなら、何か情報を持っているかもしれないと思って』

『接続は許可出来ないけど、社長がバックアップに入ってるから教えてあげる。でも確実ではない、ということは言っておくわよ』

『分かってます』

『ならいいわ。あり得るのはロシアの軍需企業、セヴマシュが開発中の“ルサールカ”(※1)ね。コンセプトは水陸両用。湾岸施設への強襲能力と単独での生還が求められているだけあって、海上・海中・陸上の全てで移動可能な上に、攻撃完了後十数秒で潜行可能らしいわ』

『厄介ですね。武装は?』

『固定でマシンガンとミサイル。そしてウェポンベイに入れるオプション兵装の中に、榴弾砲装備があるわ。今回使われたのは、多分これね』

『分かりました。後は――――――』

『甘えるんじゃないの。本当なら、あなたでは知り得ない情報よ。情報料を貰ってもいいくらい。だけど社長がバックアップに入っているから、特別にタダで教えてあげたの。これ以上は情報料が必要よ』

『なら1000万円で、インドネシア・アナンバス諸島付近で活動している海賊の根城を全て教えて下さい。多分ですけど、そのどこかが今回使われた兵器の拠点になっていると思います。カラードなら、多分掴んでいるんじゃないですか』

『随分簡単に払うのね。そんなに払ったら、今回の報酬殆ど無くなるんじゃないの?』

『俺みたいな若造が、あんな大金貰っても使い道がありませんよ。なら、仕事を成功させる為に使ってもいいでしょう』

『なるほど。思い切りの良い判断ね。でもその前に1つ確認。あなた、海賊を殺せるの?』

 

 織斑一夏の情報は、ハウンド1(エリザ)も知っている。

 今まで幾度かミッションを受けた事があるようだが、人を殺した経験は無い。

 そんな人間が、対人戦を出来るのかという問いだ。

 これに対し、一夏はハッキリと答えた。

 

『誰も教えてくれなかったけど、晶だけは教えてくれたんだ』

『何を?』

『俺が責任を取らなくても良いってこと。仮にミッションに失敗しても、“俺は”責められないだろう。世界でたった2人の男性ISパイロットの片割れとして、周りは優しくしてくれるだろう。優しい嘘で固めた綺麗事で、居心地の良い場所をくれるだろう。でもその代わり、俺の大事な人達が針の筵になる。千冬姉は色々な人に言われなくてもいい事を言われ、俺自身が泥を塗ることになる。箒も、鈴も、同じだ。そんなのは、誰より俺が許せない。だから仕事は必ず果たす。このオイルタンカーは必ず護り抜く。あいつらが誇れる俺でいたいんだ』

『なるほど。気概はあるようね。いいわ。受け取りなさい』

 

 その言葉と共に、白式にデータが送られてきた。

 脳内に表示されていたインドネシア・アナンバス諸島付近の海域図に、幾つかの光点が追加で表示される。

 

『ありがとうございます。支払いはミッション終了後に』

『さっきはああ言ったけど、今回あなたからふんだくるつもりは無いの。やったら、私が叱られてしまうわ』

『なら何でさっきは?』

『社長のバックアップがあって当然だなんて、思って欲しくないのよ』

『自分が大事にされているのは知っています。でもいずれは、逆に助けてやれるようになりたい』

『若造が言うじゃない』

『あいつが背中で教えてくれたんだ。世界最強の武力と最高の頭脳があっても、手が足りない事がある。でも仲間がいれば、手が回る』

『大きく出たわね。なら、頑張りなさい』

 

 通信が切れる。

 次いで3年生(ルージュ)に通信を繋ごうとしたところで、当人が船橋の上に上がってきた。

 こちらが通信中だったので、直接状況を確認しに来たのだろう。

 

「今の、何だったの?」

「攻撃されたから迎撃しました。今情報を送りましたけど、もう休んでいていいですよ」

「え、なんでよ」

「索敵範囲内に敵影無し。二次攻撃も無いですし、休める時に休んでいて欲しいんです」

「でも、もしかしたらまたすぐに攻撃が来るかもしれないし」

「その時はまた俺が対処します。それよりも次の交代の時にルージュさんが消耗していたら、俺も安心して休めません。だから休んでいて下さい」

 

 ハッキリと告げる。

 一年前なら、こんな判断は出来なかっただろう。

 だけど今は出来る。

 何故って? 現場を知る晶の訓練プログラムは、とにかくシビアな判断を求められるからだ。

 確実な事など何もない。事前情報が正しいとも限らない。手持ちの情報と現場にあるものだけで、あらゆる状況に対処しなくてはいけない。

 そんな訓練を、ずっと仲間達としてきたのだ。

 今更この程度の事で、狽えるはずもない。

 

「本当に、出てなくていいの?」

「はい。今のルージュさんの仕事は休むことです。だから休んで下さい」

「分かったわ。でも何かあったら、すぐに呼んでね」

「勿論」

 

 3年生(ルージュ)が部屋に戻るのを見届けた後、一夏は船橋に通信を繋いだ。

 

『一夏です。船長はいますか?』

『私だ。要件は今の事についてかね?』

『はい。放物曲線を描く高速飛来物が3つ接近していたので迎撃しました。ISが弾き出した計算では、内2つが直撃コース。残り1つも至近距離への着弾でした』

『着弾と言ったが、弾で間違い無いのかね?』

『速度と飛来コースから言って、間違いなく飛行機の墜落ではありません。センサーの観測情報が正しければ、弾種は榴弾です』

『そうか。いや、分かった。船を護ってくれたこと、礼を言う』

『まだミッションは終わっていません。お礼は終わった時に』

『若いのに、随分堂々としている。年齢を誤魔化していないかね?』

『まだハイスクールも卒業していない若造ですよ』

『信じられんな』

『そんなに老けて見えますか?』

『安心できるという意味だ。引き続き宜しく頼む』

『分かりました』

 

 こうして話し終えた一夏は、反撃方法について考え始めた。

 遠距離攻撃を仕掛けてくる相手に守勢に回っていては、いずれ直撃弾を許しかねない。もしも30万トン級オイルタンカーに榴弾砲の直撃など許したら、比喩でも冗談でもなく、本当に船が吹っ飛ぶだろう。

 だから、被害が出る前に叩く。

 

(でも、偵察が先か。多分海賊を隠れ蓑にしてるんだろうけど、ちゃんと証拠が無いと無差別暴力になっちゃうからな)

 

 今回のような場合でも、逸ることなく冷静な判断ができる。

 仲間達との訓練が、彼に根付いている証だった。

 そして護衛ミッションという経験(肥料)が、根付いたものを芽吹かせ始める。

 一夏の今までの努力の結果が今、花開こうとしていたのだった――――――。

 

 

 

 ※1:ルサールカ

  元ネタはACMoA登場の水陸両用オーバーテクノロジー機のマーマンです。

  製造元をロシア企業にしたので、マーマン(人魚)をロシア語にしてみました。

 

 

 

 第139話に続く

 

 

 




今まで鍛えに鍛えられてきた一夏君。
ついにミッションという場で、その実力を披露する時が来たのです。

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