インフィニット・ストラトス ~迷い込んだイレギュラー~   作:S-MIST

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地球側の戦力大幅増強!! そして2年1組もついに!!!


第156話 第二世代コアとクラスメイト達の進路

 

 篠ノ之束にとって2年1組の一般生徒27名は、晶の親衛隊候補である。だが全面的に信用・信頼している訳ではない。

 彼女から見れば一般生徒達の実力など、辛うじて及第点という程度なのだ。*1ある程度のミッションなら任せても良いかもしれないが、強敵と戦える程ではない。

 忠誠心の方も、クラスの様子を見る限り裏切りの可能性は低いだろう。だが立ち位置を考えれば、謀略の対象になるのは間違いない。そして謀略は人の情を利用し、容易く関係を壊していく。本当の謀略に、一般生徒達が抗えるとは思えなかった。

 よって束は、彼女らに専用機を与えようと考えていた。勿論、一般生徒達の為では無い。一般生徒達が無様を晒せば、晶の名に傷がつくからだ。また謀略による裏切りを防ぐため、与えた専用機と管理者用AI*2をリンクして、24時間状況をモニターする事も考えていた。こうしておけば、あらゆる謀略に対応できるだろう。そして最悪の場合、精神的に揺さぶられて正常な判断が下せない状況になったとしても、専用機に首輪の機能を仕込んでおけば、電脳ダイブを応用したマインドハックで対処できる。

 世間一般の人間が聞けば非人道的というかもしれないが、知った事ではない。“世界最高の頭脳”と“世界最強の単体戦力”に使ってもらえるのだから、受け入れて当然だろう。

 だが1つだけ問題があった。専用機を与えるタイミングだ。

 

(う~ん。ISコア倍増計画で数が増えてるし、今後も絶対天敵(イマージュ・オリジス)戦と宇宙開発の為に大きく増やす気ではいるけど、カラードにだけ27機も配備したら凡人共が煩いのは目に見えてるよねぇ。強行すると宇宙開発に問題が出そうだし、かと言って表で動く晶の親衛隊だから数を非公表にする訳にもいかないし、何か適当な名目ないかなぁ)

 

 自室のベッドでゴロゴロしながら考えていると、シャワーを浴びた晶が入ってきた。

 

「何してるんだ?」

「晶の親衛隊にどうやって専用機を渡そうか考えてた。流石にカラードにだけ27機も配備したら、ちょっと面倒な事になるからね」

「ああ、それか。一番やり易いのは、試験とか、データ収集って名目なんだけど、問題は内容なんだよなぁ」

「うん。27機も用意するんだったら、よっぽどの内容じゃないと」

 

 ベッドに腰掛けて暫し考えた晶は、ふと思いついた。

 

「なぁ、ちょっと確認なんだけどさ」

「なぁに?」

「いや、今のISってさ、コアに外装パーツを馴染ませるのにそこそこ時間かかって*3、馴染む前だと性能もガタ落ちになるじゃないか。だからアーマードコア規格を転用して、直ぐに馴染ませる事が出来ないかと思ってさ。もし出来るなら多分革新的な内容だろうから、こっちでデータ収集してその後改良型コアを各国に配るっていう流れなら、文句も出辛いんじゃないかと思う。相応の数を配る事にはなると思うけど」

「………………」

「どうした?」

「それだよ!! そうだよ。何で思いつかなかったかな。外装パーツを馴染ませる時間が掛からなくて済むなら、アーマードコアと同じように、桁違いの汎用性を手に入れられる。でも、ちょっと悔しいな」

「何が?」

「紅椿」

「ああ、なるほど」

 

 世界唯一の第四世代IS“紅椿”。

 装備換装無しで全領域・全局面展開運用能力を持つこの機体の汎用性は、アーマードコアすら凌駕する。しかし、幾つかの弱点があった。まず機体が学習する為の時間が必要ということ。蓄積経験値により性能強化やパーツ単位での自己開発が随時行われるが、逆を言えば経験値を蓄積できる状況で機体を使う必要、イコール使用状況に最適化されていない機体を動かす必要があるということ。普通の空戦程度なら腕や装備でカバーできるが、専用装備が必要となるような局地での使用となると………パイロット的にはかなり厳しい。

 加えて超々々々々々高性能機であるが、お値段も超々々々々々高額である。現状では作れるのが束だけなので値段はついていないが、もし企業が作れるようになったとしても、必ずコスト問題が持ち上がるだろう。分かり易く言えば、まず製造コストが超高額、通常メンテナンスコストも超高額、戦闘で損傷など負おうものなら、パーツ費用も超高額。文字通り運用コスト度外視の体制が求められる。つまり篠ノ之箒が“紅椿”を何も気にせず自由に使えるのは、篠ノ之束というバックアップがあるからだ。

 これに対してアーマードコア規格をISに転用できるなら、パイロット的にも企業的にもかなり美味しい。まずパイロット視点で見て機体特性を自由に変更出来るという事は、ミッションに対して柔軟な運用が可能になるということだ。今までのように武装を変えるだけじゃない。高機動型、汎用型、重装甲型、機体特性そのものを変更できる利点の大きさは、アーマードコアが証明している。そして企業的には、周辺パーツの販売チャンスでもある。アフターフォローまで含めれば、相当な商売チャンスではないだろうか。

 

「でもまぁ、第四世代の技術は補給のきかない深宇宙探査とか、超長期間運用する物にも使えるし、いいかな」

「なら?」

「そのアイデア貰った。すぐに作ってあげる」

「ありがとう」

「良いの良いの。でも晶」

「ん?」

 

 彼女はニヤニヤしながら指折り数え始めた。

 

「私に、更識家に、クラスの専用機持ちに、ハウンドに、カラード。これにクラスメイト全員って、そろそろ本格的に後宮を作った方がいいんじゃないの?」

「全員一ヶ所に纏めたらドロドロしそうだから、俺から出向く」

「マメだね。呼びつければ良いのに」

「俺的に、それは何か違う感じがするんだよ。何故って聞かれると上手く説明出来ないんだけど」

「ま、そこは晶に任せるよ。でもクラスメイトが入る社員寮は、作っておいた方が良いんじゃない」

「それもそうだな」

 

 因みに、ちょっとだけ未来のお話。

 これからも多くの伝説を残していく彼だが、女性関係についても伝説となっていた。

 特に彼の愛の巣が幾つあるのか、というのは世の男共が嫉妬と羨望混じりに話のネタとしていた。

 篠ノ之束の自宅。更識姉妹の自宅。カラード本社。欧州三人娘が日本に持つ別荘。IS学園時代を共に過ごしたクラスメイト達が住まう社員寮。ドイツから引き取った子達が住む家etcetc。彼の周囲にいるのは美しい女性ばかりであるため、話題には事欠かないのだ。そして有名どころだけでこれだけあるのだから、他まで含めれば本当に幾つになるのか、というやつであった。

 

 ―――閑話休題。

 

 こうして晶は、クラスメイト達の受け入れ準備を始めたのだった。

 

 

 

 ◇

 

 

 

 後1ヶ月程で2年生が終わる頃。とある週の土曜日。

 束博士から世界に向けて発表があった。

 会場はIS学園近郊のホテル。

 多くのメディアが駆け付け、博士の言葉に聞き入っている。

 

「――――――という訳で、外装パーツとISコアが馴染む時間の劇的な短縮に成功しました。改良型コアなら全外装パーツを交換しても、自己診断プログラムを走らせてコアに外装パーツを認識させることで、今まであったパーツ交換後の性能低下なく使用可能です。そして勿論、改良型コアにも自己進化能力がありますので、専用機設定をする事でより深くパイロットの事を学習して、いずれはセカンドシフトするでしょう。ただし外装パーツを変えれば変えるほどコアが学習する内容も増えていきますので、セカンドシフトにかかる時間は長くなっていくと思って下さい。あとこの改良型コアですが、既存のコアと100%の互換性があります。つまりISを扱っている各企業の開発リソースを100%流用できる作りとなっています」

 

 彼女は一息ついてから、更に続けた。

 尤もらしい理由を付けて、改良型コアの配備予定を述べていく。

 

「この改良型コアは、先んじて発表していたISコア倍増計画とは別扱いで各国に配る予定です。ですが私としても稼動データが欲しいので、私が最も信頼するパートナーのいる2年1組に先に配り、ある程度のデータ収集をしてプリセットを作ってから、そのデータと共に配ろうと考えてます。私からは以上ですが、何か質問のある方はいますか?」

 

 多くの者が一斉に挙手をして、運良く当てられた者が質問した。

 

「素晴らしい発表でした。ただ未だ学生である2年1組に先に配る、というのはどういう事でしょうか? データ収集が行いたいなら、各国の協力を仰いでも良いと思うのですが」

「当然のご質問ですね。先に配る理由ですが、私のパートナーはこの手の武装や機体パーツの組み合わせ、扱い方について多くのノウハウを持っています。そして2年1組の面々は、その彼に直接指導を受けている者達です。色々と試してもらうには丁度良いのですよ」

「何処の国や企業でも、開発に関わる者達は精鋭揃いです。それよりも、ということでしょうか?」

「単純な戦闘能力では劣るかもしれませんね。ですが多種多様な装備を使う事は、能力的に別と私は考えています。無論、どんなパイロットも万能ではありません。得意な状況、装備、色々あるでしょう。だからこそデータ収集段階においては、活発な意見交換をして欲しいのです。2年1組には、何処よりもその土台があると判断しました」

「出来れば貴女が何処よりもと判断した、客観的な理由を示して頂きたい」

「ええ。これです」

 

 束が手元のコンソールを操作すると、背後にある大型モニターに何らかのリストが表示された。

 

「それは?」

「2年1組が行っている放課後の訓練については、恐らく皆さん噂でご存じでしょう。その一部をリスト化して、訓練時の映像データを見れるようにしてあります。2時間程休憩にしますので、その間に目を通してみて下さい。私の言った理由が分かると思います。あと一般的なサーバーにアップすると恐らく大変な事になってしまうと思いましたので、専用サーバーに繋がる閲覧用タブレットを用意しました。そちらでご覧ください」

 

 束が席を立ち控室に戻ると、ホテルマン達が会場にいる者達に端末を配り始めた。

 そしてこの時点では、多くの者は2年1組の実力について懐疑的であった。確かに英雄たる彼が直接指導し、2年生も終盤となった今では高い実力を持っているだろう。企業経由である程度の情報も降りてきている。だが“天才”篠ノ之束博士が特別扱いする程ではないと思っていたのだ。しかし、すぐに理解した。理解させられた。

 

「おいおい。冗談だろう?」

「これは………いや、まさか」

「本当に学生か?」

 

 至る所から、驚きの声が聞こえてくる。

 特に軍事を知る者達の驚きたるや、相当なものであった。

 

「嘘だろ。量産機で第三世代の専用機と連携できるって、どんだけだよ」

 

 言うまでもなく、第三世代機は実戦配備されている量産機とは隔絶した性能を持っている。無論量産機もアップデートで性能向上されているが、その程度で基本スペックの差が埋められるはずもない。まして専用機持ちに与えられている第三世代機は、各国が威信をかけてカスタムしている一点物のハイエンドマシンだ。それを選びに選び抜かれた専用機パイロットが使っているのである。専用機持ちに合わせる意思があるとは言え、脚を引っ張らないで合わせられるという時点で実力が分かる。更に専用機と相対している時も、多対一で短時間ながらとは言え戦えているのだ。

 これに加え、ありとあらゆる状況を想定したシチュエーションがあった。

 徹底的に敵の立場に立ち超兵器たるISと如何に戦うのかという考えの元、如何に相手の長所を封じ、如何に有利な状況を作り上げ、その状況を如何に凌ぎ、生き残り、勝利をもぎ取るかという内容だ。増援に次ぐ増援など可愛いもので、受けたダメージはそのままでの連戦。補給無し。減っていく残弾。削れていくシールドと装甲。焦りはミスを生み、拡大していく被害。機体制御系にダメージが入れば当然動きは鈍くなる。ハッキリ言って、学生が行うような内容ではない。正規パイロットですら厳しい内容だ。

 そんな中で一般生徒達は、あらゆる手段を使うようになっていた。武装を使い分けるのは当然のこと。場合によっては戦闘中ですら機体の出力配分を切り替えて、遥かな格上(専用機持ち)やシミュレーションに挑んでいく。イグニッション・ブースト(瞬時加速)など、基本技能扱いだ。

 

「………なるほど。博士が推す訳だ」

 

 映像やログを見れば見るほど、他のパイロット達との違いは明らかだった。

 文字通り機体の隅から隅までに意識を張り巡らせ、性能を引き出し、量産機ですらここまで出来るという事を見せてくれている。

 そうして瞬く間に2時間が経過したところで、再び束博士が姿を現した。

 

「さて、皆さん如何でしたか? では引き続き質問を受け付けたいと思います」

 

 再び多くの者が一斉に挙手をして、運良く当てられた者が質問した。

 

「F-TVのロバートです。博士が2年1組を押す理由は分かりました。では各国に配るコアはどれくらいの数になるのでしょうか?」

「元々の保有数と同数を考えています」

「コア倍増計画発表前の保有数の同数、という認識で間違いありませんか?」

「はい。それで間違いありません」

 

 ISコア倍増計画発表前の(公式の)コア総数は467機。コア倍増計画により934機となり、元の保有数と同数が追加されれば、総数は1401機となる。

 次いで、別の者が質問してきた。

 

「G-ラジオのキャンベルです。元々保有していなかった国には配られないのでしょうか?」

「今のところは、私の方でそこまで調整する気はありません。ただ混乱も望みませんので、IS委員会が調整出来ないようであれば、こちらでの調整も考えます」

 

 意訳するなら、「私の手を煩わせるな」である。

 因みに世界の何処かでTV中継を見ていたIS委員会の議長様(クソじじい)は、予測される苦労に卒倒しそうになったとか………。

 更に別の質問が飛んできた。

 

「H-放送の静先です。便宜上改修前のコアを第一世代コア、改修後を第二世代コアと言わせて貰いますが、第一世代コアを改修して第二世代コアにする事は可能なのでしょうか?」

「可能です。ただ私としては先にコアの配備数を増やしたいので、第二世代コアの配備完了後、第一世代コアを私の方に送ってもらって順次改修という形になるかと思います」

「全て博士の所に送るとなると、博士が何かを仕込むのでは、と邪推する輩もいると思います。それについては?」

「思わせておけば良いと思いますし、それなら送らなくて結構です。大体、全てのコアは私が作ったものなので、そう思う輩は使わなければ良いと思いますよ」

 

 終わると、すぐに別の質問がきた。

 

「I-チューブのローランドです。博士には改修よりも、もっと大きな事をして欲しいと思っている人も多いと思います。コアのブラックボックスを開示して、改修を他人に行わせるというお考えはありませんか?」

「ありません。最低限アレを地力で解析出来るくらいの土台が無いと、幾ら教えても安全に改修なんて出来ませんので」

 

 次々に手が上がっていく。

 

「J-ニュースの佐藤です。今博士は土台という表現をされましたが、博士が教える事で早く土台を構築できるという考えもあるのではないでしょうか?」

「かもしれませんね。ですが………そうですね。仮に教えるとしたら、その最中に多くの危険性も一緒に伝える事になると思います。ですが必ず、私の忠告を無視する者が出るでしょう」

「そこは厳密な管理をする事で対応出来るのではないでしょうか?」

「その厳密な管理がどれほど信用ならないか、私は良く知っていますので」

 

 国家に対して面と向かって「信用ならない」と発言している訳だが、反論出来る者などいなかった。

 束博士はIS発表後に世界中から狙われた結果、一時的に雲隠れを余儀なくされているのだ。逆説的に国家が信用できるなら、雲隠れなど必要無かったと言える。再び表舞台に立てたのは、“世界最強の単体戦力(NEXT)”薙原晶との出会いがあったからに他ならない。だが、別の切り口から開示を求める者もいた。

 

「K-プライムのリュンです。絶対天敵(イマージュ・オリジス)という現実的な脅威があってもでしょうか?」

「はい。地球以外に住む場所がない現状でブラックボックスを開示して、想定しうる最悪の事故をおこせば、先に地球が滅びるでしょう」

「そんな物を、貴女はばら撒いているのですか?」

「その程度の認識だから、開示出来ないのですよ。アレは元々広大な宇宙で活動する為に作ったものです。分かりますか? あらゆるスケールが人の尺度とは違う宇宙で、安全に活動する為のものです。使われている技術で、良くも悪くもどれ程の事が可能になるか想像出来ない人間に、開示出来る訳がないでしょう」

 

 ISコアの基幹技術には、空間制御系の技術も含まれている。

 現在の技術でもある程度は制御できるが、コアに使われているのは遥か先を行く技術なのだ。オーバーテクノロジーと言い換えても良い。もし開示して危険性を認識しないまま、或いは何らかの利益の為に乱用されて制御を失えば、文字通り地球が壊れる。

 このため束は、どれだけ言われようとブラックボックスを開示する気は無かった。地力で解析出来る頃には、人類は地球から巣立ち恒星間国家を樹立しているだろう。

 K-プライムの人間に周囲から冷たい視線が降り注ぐ中、別の人間が質問をした。

 

「L-ペーパーのロベルトです。今回の増産分を含めれば、コア数が初期の3倍となりかなり増える訳ですが、やはり絶対天敵(イマージュ・オリジス)戦を見据えてのことでしょうか?」

「それもありますが、今後人類が宇宙で生き残っていく為には、宇宙開発の加速が絶対に必要となります。なので大幅な増産に踏み切りました。どうか、力の使い方を間違わないで欲しいと思います」

 

 質問は終わらない。

 

「M-ネットのバーンズです。第一次絶対天敵(イマージュ・オリジス)来襲の後、コアの配備で区別された国がありましたが、今回の増産分についても区別されるとお考えですか?」

「どうでしょう? 配備数については、委員会にお任せ致します」

 

 ニッコリとイイ笑顔の束さん。

 TV中継を見ていたIS委員会の議長様(クソじじい)は、これから行われる折衝の面倒臭さに、思わず天を仰ぎ見たという。

 そしてこの会見により2年1組は、明確に他の生徒達とは別格の扱いになったのだった。

 

 

 

 ◇

 

 

 

 束の会見が終わった後、カラードの地下格納庫。

 予めこちらに集められていた2年1組の面々を前に、晶は口を開いた。

 

「さて、ここのテレビで会見は見ていたと思うけど、降りたい人はいるかな?」

「晶くん。それ今更」

 

 軽く返してきたのは相川清香だった。

 

「そうだよ。学園で私達、何て言われてるか知ってる? 晶くんの親衛隊だよ」

 

 次いで言ってきたのは鷹月静寐だ。

 

「そーそー。もうとっくに、クラスみんな運命共同体。むしろ降りろって言われる方が困るの」

 

 更に乗ってきたは赤坂由香里(あかりん)だ。

 

「だから、これからも宜しくお願いします」

 

 宮白加奈(かなりん)の言葉に、皆が肯いている。

 そして賢い彼女達は、全員分かっていた。もう確実に、普通の人生には戻れない。例えこれから先どういう選択をしたとしても、2年1組にいたという事実は生涯ずっとついてまわる。仮にここで降りたとしても、退学したとしても、ずっとだ。だが悲観する者はいなかった。この人は自分達を迎える為に、ここまでの事をしたのだ。何があっても、最後まで面倒を見てくれるだろう。不安が無いと言えば嘘になるが、ISに関わっていくならこれ以上のところは無い。皆、そう思っていた。

 

「分かった。なら、話を進めよう」

 

 晶は全員を引き連れ、格納庫の奥へと進んでいった。辿り着いた先で、分厚い隔壁が開いていく。

 中の照明が点灯し、皆が認識した第一印象が広い空間。次いで複数のISメンテナンス用ベッドがあり、機体が安置されている。打鉄やラファールなど訓練で使っていたお馴染みの機体達で、色は全て学園の練習機と同じ色だ。馴染み深いと言えば馴染深いが、“世界最強の単体戦力(NEXT)”の親衛隊というには、少々寂しい感じがする。

 だがそんな思いは、すぐに吹き飛ぶのだった。

 

「此処にある機体は全て、これまでの訓練データを元に束が個人個人に合わせて調整してある。で、メンテナンスベットに書かれているナンバーは出席番号で、用意してある機体は今までの訓練で一番乗っていた機体だ。そして外見こそ量産機だが………いや、詳しくは乗って貰った方が早いか。各自、乗り込んでみてくれ」

 

 皆が格納庫内に散っていき、手慣れた様子で乗り込み機体を起動させていく。

 すると、すぐに驚きの声が上がり始めた。初期の起動シーケンスがいつもと違うのだ。

 

 ―――パイロットのバイオメトリクススキャン開始。

 

 ―――事前登録情報と一致。

 

 ―――専属パイロットとして登録。

 

 ―――コアとパイロットのハーモナイズ開始。

 

 ―――完了。適正値“A”

 

 ―――以後は運用データにて随時修正。

 

 ―――パイロットに機体情報開示。

 

 ―――機体出力。原型機より50%上昇。

 

 ―――ブーストエネルギー効率。原型機より40%上昇。

 

 ―――旋回性能。原型機より20%上昇。

 

 ―――シールド出力。原型機より40%上昇。

 

 ―――拡張領域(パススロット)。原型機より40%上昇。

 

 ―――パワーアシスト機能。原型機より30%上昇。

 

 パイロット的な感覚で言えば、最早別の機体と言って良い。世間一般に公表されている情報を元にするなら、実戦配備されている第三世代機でも上位レベルの性能だ。*4

 

「皆、起動と専用機設定は終わったみたいだね。じゃあ、続きの説明しよう。これらの機体は基本性能だけを向上させていて、AICやビットのようなイメージインターフェース系の特殊装備は積んでいない。使いこなすのにそれなりに訓練が必要ってのもあるけど、基本が強い方が何かと応用が利くと思ったからだ。でも使ってみたいって希望があれば、適性検査は出来るから後で教えて欲しい。こんなところかな。あ、待機状態なんだけど、シンプルなペンダントにしてある。何か質問はあるかな?」

 

 クラスメイトの1人が尋ねてきた。

 

「機体カラーって、皆で決めても良いのかな?」

「奇抜な色じゃなければ、皆で決めて良いよ」

「ピンクとか?」

「ちょっと勘弁して欲しい」

「分かった。見栄えの良い色にするね」

 

 別のクラスメイトが聞いてきた。

 

「学園の実機授業も、これを使って良いの?」

「勿論。もう話はつけてある」

「やった。大事に使………あ、訓練で壊れた時はどうしたら良いのかな?」

「学園に修理用の機材を持ち込んでおくから、その機材を使って修理して欲しい。ついでに言っておくと、メカニック志望の子達の専用機には、拡張領域(パススロット)に修理用ツール一式を入れてある。使ってみて「こんなのがあったら良い」とかって希望があれば言って欲しい。使い勝手の向上は大事だからね」

 

 更に別の子が口を開いた。

 

「第二世代コアって、パーツが馴染むまで凄く早いんだよね? なら打鉄とラファールのキメラとかも出来るのかな?」

「やろうと思えば可能だよ。ただ機体挙動がかなり変わるから、やる前にシミュレーターで念入りに確認しておく事をお勧めするかな」

「それは勿論。でも可能なんだ。楽しみ」

 

 次に尋ねてきたのは相川清香だった。

 

「機体を与えられたっていう事は、今後もしかしたらミッションに参加する事もあるってことだよね?」

「その通りだけど、いきなり1人で放り出す気はないよ。ちゃんとサポートを付ける予定。ただ注目されるのは間違いないから、下手を打てば色々言われると思う」

「それは承知の上。サポートがあるだけ有り難いよ」

 

 今度は赤坂由香里(あかりん)が聞いてきた。

 

「そう言えばカラード指定の制服はあるけど、ISスーツってあるのかな?」

「特に無いけど結構業者から営業が来てて、カタログとか試供品を置いていくんだ。後で衣装室に案内するから、見てみると良いよ」

「やった!! あ、でもハウンドの人達が着てるのって何処のメーカーにも無かったような………?」

「アレは束が作った1点物で、何処にも売ってないんだ」

「凄い!!」

 

 確かにISスーツとして破格の性能を持っているが、肌色面積がかなり多い上にクラスメイトには言えないゴニョゴニョな機能が盛沢山という、如何わしい一品である。なので晶はササッと話題を変える事にした。

 

「大体質問はこんなところかな? なら次に、今後の大まかな予定について話していこうと思う。まず会見で束が言っていた通り暫くの間、色々やってデータ取りをして欲しい。とは言っても、やる事は今までと余り変わりない。違うのはさっき言ってたキメラの機体を使ってもらったり、キメラの機体に色々装備を搭載して、動かして貰ったりっていうところかな」

「キメラの機体って、そんなに試すほど価値があるんですか?」

 

 クラスメイトの1人が質問してきた。

 

「ある。ちょっとコレを見て欲しい」

 

 晶が全員の前に空間ウインドウを展開させ、数種類の量産機データを表示させた。

 

「例えば安定性に優れる打鉄の脚部パーツは、多少の衝撃程度じゃバランスを崩したりしない。でも汎用性を重視しているラファールだと、衝撃に対する限界値が打鉄より低いんだ。代わりに打鉄よりも軽快な運動性能を持っている。これがどういう風に機体構築に影響するかと言うと、大火力武装を使う時、打鉄の方が安定性が高くて狙い易くなる。だけど機動戦闘をするならラファールの方が軽快に動ける………といった感じさ。まぁ今のは極端な例だから全部その通りって訳じゃないけど、パーツの組み合わせによって、機体の方向性がガラッと変わるんだ。既存の市場に出回っている機体データは全てシミュレーターに入ってるから、色々試してみて、これだと思ったら実機でもやってみると良い。組み合わせによっては、本当に面白い機体が出来上がるから」

「へぇ~。うん。やってみる」

 

 こうして晶は、クラスメイト達に機体構築について教えていった。

 そして少しだけ未来のお話。IS業界に、アセンブル(機体構築)という言葉が定着していくのだった――――――。

 

 

 

 ◇

 

 

 

 2年1組のクラスメイト達に専用機を与えた翌日。日曜日のIS学園。

 面談室で晶と織斑先生が話していた。

 内容はこれから2年1組―――もう少しで3年1組―――が行っていく実機授業についてだ。

 

「教師としては基礎を高める為に、量産機ベースのノーマルな機体構成にして欲しいと言うべきなんだろうが、既にその段階は過ぎたと言ってもいいか。ふむ………」

 

 織斑先生は顎先に指を添えて暫し考えた後、ニヤリと笑った。

 

「生徒が頑張っているのに、教師が頑張らない訳にもいかないか」

 

 晶は首を捻った。織斑先生は常に先生として色々見てくれている。全幅の信頼を置くに足る人間だ。何を言っているのだろうか?

 そして次に出てきた言葉は、彼をして予想を超えるものだった。

 

「薙原。これからの実機授業は、私もISを使おう。2年1組には、全身全霊を掛けてアセンブルしてこいと伝えておけ。あとついでに、束にも伝えておいて欲しい。2年1組に渡した打鉄モドキと同じ機体を用意しておいて欲しいとな。念を押しておくが、同じ機体だからな。最高性能機とかじゃなくて、あ・く・ま・で、同じ機体だからな」

「因みに、その心は?」

「性能差があっては楽しめないだろう」

「程々でお願いしますね」

「お前な。私を何だと」

「重度のバトルジャンキー」

「何を言う。肉体言語ほど相手を理解できるものも無いだろう」

「教師なんですから、肉体言語の前に言語で理解して下さい」

「同類が何を言う」

「違います」

「違わんね。理性的に見えても、お前の本性は獣だよ。――――――という訳で、体を動かしたいから付き合え」

 

 織斑先生の言う「体を動かす」は、学園配備のパワードスーツ“武御雷”を使った模擬戦だ。

 最高速度が精々時速300km程度とISに比べれば遥かに遅いが、ハイパーセンサーによる思考加速や慣性制御無しという中で、己の肉体と精神を駆使して、先の読み合いとフェイクの掛け合いを行い、相手の一撃を避わし、凌ぎ、逆に一撃を叩き込む事に全力を尽くす時間は、彼女にとって他では決して味わえない至高の時間であった。

 

「無理矢理話を繋げましたね」

「知るか。誰かさんのお陰で最近運動する時間が中々取れなくてな」

 

 言うまでもなく、誰かさんとは晶の事だ。そして今回の一件でも学園側の事を色々とお願いしているので、正当な取引と言えなくもない。

 

「分かりました。じゃあ、束も呼びますね」

 

 武御雷のメンテナンスは、彼女でなければ出来ない訳ではない。むしろ高性能とは言えパワードスーツ程度を扱うのに彼女を呼び出すなど、あらゆる意味で能力の無駄遣いと言える。だが彼女自身の強い希望であった。

 以前、晶が理由を聞いてみたところ――――――。

 

「2人の戦いって………う~ん。なんて言ったらいいかな。私は格闘戦なんて素人だけど、それでも見てて思うんだよね。ラフファイトな一面があるかと思えば、一手一手に意味がある詰将棋みたいな一面もある。獣のような荒々しさと理性が融合していて、見てて楽しいっていうのかな。あと2人の使う機体のメンテは、私がしたいっていうのもあるね」

 

 という返答だった。このため2人がやり合う時は、必ず束に連絡を入れているのであった。因みに一回だけ「忙しそうだったら」という理由で連絡を入れなかった事があったのだが、その時の束さんの不機嫌っぷりといったら凄まじく、機嫌を直してもらうのに晶はとても苦労したのであった。

 

 ―――閑話休題。

 

 こうして2年1組の面々は薙原晶の指導に加え、“ブリュンヒルデ(元世界最強)”織斑千冬の直接指導をも受ける事になり、益々その実力に磨きをかけていくのだった――――――。

 

 

 

 第157話に続く

 

 

 

*1
織斑千冬や薙原晶を知る彼女の及第点である。

*2
ここではない別の世界(AC世界)で企業間抗争をコントロールしていたAI。あの世界の企業間抗争をコントロールしていただけに、謀略に対する性能は折り紙付きである。

*3
コアと外装パーツが馴染むのに時間がかかるというのは原作設定です。かなりざっくりとした設定なので普通の損傷程度であれば本作では適用していませんが、例えば機体を自爆させてコア以外の全パーツをロストした、或いは脚部や腕部パーツを丸ごと交換していた場合は、馴染むまで1~2数週間程度かかっていた、という扱いにしたいと思います。

*4
なおヒロインズが駆る専用機は一部の例外を除き、これを軽く凌ぐレベルでフルカスタムされている正真正銘のモンスターマシンである。




絶対天敵(イマージュ・オリジス)の第二次来襲まで、あと5ヵ月。
そして今回で地球側の戦力が大幅増強されましたが、
作者的にはこれでギリギリのラインかな………という感じです。
地球人類が知らない絶対天敵側の戦力の最低ラインは以下。
・4メートル級の小型種で7200体。
  ⇒降下船が地上に降りて巣が出来たら、地球の資源で生産開始。
・巨大兵器と同等レベルのエネルギー反応を示す20メートル級108体。
  ⇒巣がステージⅡになったら生産開始。
・巨大兵器の十数倍のエネルギー反応を示す50メートル級36体。
  ⇒巣がステージⅢになったら生産開始。
・戦艦39隻(内3隻は5000メートル級)
  ⇒第一次来襲時に使われた攻撃のエネルギー反応は、
   オリジナル・ヒュージキャノンのおよそ1万倍。
 
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