インフィニット・ストラトス ~迷い込んだイレギュラー~ 作:S-MIST
ハウンドチームの専用ISの外見
ハウンド1。フライトナーズ専用機(AC2のOP機)
ハウンド2。ミラージュのC01-GAEA。アセンはVIキットそのまま。(NXのOP機)
ハウンド3。クレストのCR-C90U3。アセンはVIキットそのまま。(LRのOP機)
束と晶の自宅の居間には地球の立体映像が映し出され、周囲にはアンサラーを模したアイコンが3つ表示されていた。
「どうにか、間に合ったね」
「ああ。これで第三次来襲があっても、易々と惑星圏内に侵入されずにすむ」
第三次来襲をアンサラー3機体制で防衛したシミュレーションの結果は、第二次来襲の10倍程度の戦力が相手でも、十分に撃退可能というものだった。だがイコール安全という訳ではない。星々の海を渡ってくるような奴らを相手に、地球に閉じこもっていてはいずれ必ず押し切られる。宇宙進出による勢力圏拡大は、生存戦略上の必須条件と言えた。
そして幸いな事に2人が後押ししている、日本主導のクレイドル計画とフランス主導のマザーウィル計画は、第二次来襲の被害を免れている。
このため両計画には更なる資本投下が行われ、宇宙進出の為のインフラ基盤として開発が進められていた。
なお、
「うん。これで少しは安心できるかな。ところで晶。ちょっと相談なんだけど、
「唐突だな。急にどうしたんだ?」
束も晶も、これまで亡国機業の情報を積極的に集めてはいなかった。だが晶直属の部下であるハウンドチームは、元亡国機業所属のISパイロットだ。故に一通りの情報は彼女達から聞いていた。またハウンドチームが行っている賞金首狩り活動の中でも、その手の情報は自然と集まっていた。
「いやね。これまでは宇宙開発に害が無かったから放置していたけど、中国のクーデターでは随分と暗躍してたみたいでしょ。そして最終的には中国政府の判断だったみたいだけど、対衛星兵器群が使われてケスラーシンドロームが起きた結果、既存の衛星ネットワークが全損した。これって間接的にだけど、十分に宇宙開発の足を引っ張ってるよね。だから一度身の程を分からせて、大人しくさせた方が良いんじゃないかと思って」
束自身が言っている通り、既存の衛星ネットワークが全損したのは、亡国機業だけのせいではない。クーデターは数多の組織の謀略の結果であり、対衛星兵器群の使用を決断したのは中国政府だ。では亡国機業が既存の衛星ネットワーク全損について無実かと言えば、決してそんな事は無いだろう。奴らの暗躍という後押しがあったからこそ、クーデターが起きて対衛星兵器群が使用されるような事態になったのだ。そして既存の衛星ネットワーク全損は、各国に莫大な復旧コストとして圧し掛かり、宇宙開発の足枷となっていた。束が保有している中継衛星ネットワークである程度の代用が利くとは言え、全機能を代用可能という訳ではないのだ。
晶は相槌を打ちながら考えた。
相手の規模が規模だけに、末端まで残らず身の程を分からせる、というのは現実的ではない。ならば中枢である最高幹部を叩いて組織として分裂させ、活動規模を縮小させるのはどうだろうか。その考えを束に話すと、彼女は肯いた。
「その方法が、多分一番手間がかからないかな」
「なら最高幹部とその側近を数人ずつ捕らえて、情報を吐かせながら進めていこうと思う」
「うん」
この時、最高幹部会を狙って一網打尽にする、という案を晶が出さなかった理由は2つあった。1つ目は最高幹部会を開かせるに足るだけの情報を流す、という情報工作が必要になるためだ。今の2人が持つ組織力なら不可能ではないが、個々人を狙うのに比べて情報工作が必要な分手間が増えてしまう。2つ目は仮に情報工作が成功したとしても、都市部で最高幹部会を開かれたら、一般人の存在が邪魔で逆に襲撃し辛いのだ。1人2人程度ならNEXTとハウンドチームでかかれば瞬時に押さえ込めるが、流石に専用ISを持つ最高幹部12人とその側近を都市部で相手取るのは、周辺への被害という点で高リスクと言わざるを得ない。そして襲撃に都合の良い開催場所まで誘導するような情報工作をするくらいなら、個々人を狙った方が遥かに少ない労力で目的を達成できるだろう。
束の返答を聞いた晶は、気になった事を尋ねた。
「ところで確認なんだが、間接的な原因となった亡国機業を叩くなら、より直接的な原因を作った中国はどうする? 対衛星兵器群の使用を決断した責任はあると思うぞ」
「そっちはもう色々な国が、あらゆる方法で責任を取らせようとしているから、私達が改めてアクションを起こさなくても良いかなって思ってる。懲りずに何かをするようだったら、流石に考えるけどね」
「なるほど。なら俺は、最高幹部を叩く方に集中しよう」
「私もバックアップするから、サクッとやっちゃおうね」
こうして“
◇
時は1週間ほど進み、メキシコ合衆国カリフォルニア半島の南端にあるロスカボス。
何処までも続く青い空に海という誰もが思い描く南国の楽園で、2人の白人女性がビーチチェアに横たわっていた。
1人は腰まである甘栗色の髪に切れ長な瞳を持ち、妖艶な表情が印象的な女性だ。身を包む黒いモノキニタイプの水着*2は胸部や下腹部の布地が大胆にカットされ、均整の取れた四肢に豊かな双丘や臀部とが相まって、強いセックスアピールを放っている。*3彼女の名はシルヴィ・ラーシア。亡国機業最高幹部の1人であり、スコール・ミューゼルと同じく武力によってのし上がってきた武闘派だ。
もう1人は銀髪の長髪で、容姿の第一印象は清楚で綺麗なお姉さんだろうか。だが身を包む白いホルターネックタイプの水着面積は異性を惑わせるかのように小さく、肉感的で豊かな女性的曲線は、シルヴィと同じく強いセックスアピールを放っている。*4彼女の名はサフィーア・レイクル。シルヴィの最側近として名をはせる女性であった。
そして此処はシルヴィ・ラーシアのプライベートビーチ。最側近のサフィーア・レイクル以外は誰もいない。
常人なら恐れおののいても良いような状況だが、流石は裏世界の住人と言うべきか。2人は平静な態度を崩さず、シルヴィが尋ねてきた。
「まさか噂に名高いNEXTとハウンドが直接出向いてくるなんて。今は忙しいと思うのだけど、案外暇なのかしら?」
「いいや。やる事は色々あるし、お前達が大人しくしているなら見逃していても良かったんだが………ハッキリ言って、お前らは少々調子に乗り過ぎた」
晶が答えると、シルヴィが会話を続けた。
「そちらの動向には常に注意を払っているわ。宇宙開発の邪魔になるような事はしていないし、近しい人間にも手は出していないと思うのだけど」
「確かに直接的な邪魔はしていないし、近しい人間も狙ってはいないな。だがお前ら、中国のクーデターでは随分と暗躍していただろう。そして対衛星兵器群が使用された。お陰で既存の衛星ネットワークが全損して、莫大な復旧コストが宇宙開発の足枷になっている」
「言わせて貰えるなら、クーデターも対衛星兵器群の使用も私の管轄外なのだけど」
「それならそれで構わないさ。お前達から引き出した情報を元に、次の幹部を狙うだけだ」
瞬間、2人は決断を下した。ISを緊急展開。エネルギーシールドを干渉させて目の前の敵を吹き飛ばすと同時に、
勝負にすらなっていない、一方的な蹂躙劇だ。
「ぐっ………あぁ、わ、私達を、どうするつもりなの?」
サフィーアの言葉に、
「決まってるじゃない。知っている事を洗いざらい全て吐いて貰うだけよ。ああ、先に言っておいてあげる。隠し事が出来るとは思わないことね」
普通なら時間をかけて尋問、痛みを与える拷問、自白剤を使うなど色々な方法が考えられるだろう。だが彼女らに使われる方法はそのいずれでもない。ハウンドチームに使われている首輪を応用したもので、深層心理まで丸裸にされるものだ。抵抗など不可能である上に、深層心理に直接アクセスするという特性上、意識改変まで行えてしまう。つまりこの2人の未来は、もう決まっているのだ。だがそんな事はおくびにも出さず、晶は降伏勧告をする。
「面倒な事はしたくない。武装を解除しろ」
抵抗は無意味と悟っていても、素直に肯けるものではない。しかし2人に肯く以外の選択肢は無かった。
「………分かったわ。サフィーアも、良いわね」
「分かりました」
2人は大人しくISを解除して、待機状態となったISを
「聞き分けが良くて何よりです。では、お休みなさい」
こうして晶とハウンドチームは、亡国機業の最高幹部と側近を1人ずつ確保したのだった。
◇
時は更に進み2週間後。
アメリカの某所。亡国機業最高幹部の1人であるスコール・ミューゼルは、亡国機業が何者かの攻撃を受けていると自覚せずにはいられなかった。
何せこの2週間で、最高幹部の半数とその側近までもが行方不明になっているのだ。
専用ISを持つ最高幹部12人と側近達が、である。コアネットワークまで繋がらないとなれば、どう考えても異常事態と言って良いだろう。
(これは一体どういうこと? いえ、こんな事が出来る勢力なんて1つしかない。でも何故? 宇宙開発の邪魔なんて――――――まさか!?)
対衛星兵器群。ケスラーシンドローム。莫大な復旧費用。宇宙開発の足枷といった単語が脳裏を過ぎっていく。
(でも、なんで? アレの使用は中国政府の決断じゃない。こちらのせいじゃ………いいえ。違うわね。向こうにしてみれば、暗躍した結果として宇宙開発の足枷となるような事態になった。それだけで十分な理由でしょう)
悪党として明晰な頭脳を持つ彼女は、束の真意をほぼ正確に推測出来ていた。だが推測出来たからといって、解決策がすぐに導き出せる訳ではない。
(どうするべきかしら?)
彼女は様々な可能性の検討を始めた。
まず武力でどうにか出来るだろうか? 最悪の悪手だろう。NEXTを擁する束の一派と武力でぶつかって勝てる訳がない。では亡国機業の組織力を使って、経済的に締め付けるのはどうだろうか? こちらも無理だろう。アンサラーによる電力事業で現代文明の根幹たる電力を握っているのだ。しかもアンサラーは地球防衛の要でもあり、
他にも幾つかの案が脳裏に浮かんでは消えていく。
(………まずいわね)
敵対的な行動で事態の打開は望めないと考えたスコールは、考えを変えてみる事にした。和解や手打ちという方向でならどうだろうか?
(これが普通の組織戦なら、お金とか相手が納得する人間の首なのだけど………)
どちらを持っていっても、束博士や薙原晶は攻撃の手を緩めないだろう。
良い案が浮かばない。だが何かをしなければ、確実に詰むという確信があった。故に彼女は考え続ける。そして、ふと束博士の昔の言葉を思い出した。いつだったかの会見で、軌道エレベーターのような物を作ると言ってなかっただろうか? 確か重力制御を使った、上下移動に特化した空飛ぶ巨大な円盤と言っていたはずだ。*5だがどういう理由かは知らないが、まだ建造が開始されていない。束博士の実績から考えて技術的な問題とは考え辛いので、恐らく純粋な作業リソースの問題だろう。
(亡国機業のフロント企業を使って、軌道エレベーターの建造を後押しする。これで手打ちに出来ないかしら?)
確証はないが、
スコールは暫しの間考え、決断を下した。
(他に方法は無さそうね)
こうして彼女は束博士一派の手が及ぶ前に、生き残りをかけて動き始めたのだった。
◇
数日後、アメリカの某所。
亡国機業最高幹部会の席でスコール・ミューゼルは、今までであれば決して言わなかったであろう発言をしていた。
他の幹部が彼女を睨む。
「本気で言っているのかしら?」
「ええ。本気よ」
「あのスコール・ミューゼルが狗になるっていうのかい?」
「狗ではないわね。難しい事はない単純なギブアンドテイクよ。宇宙開発の邪魔になりそうな勢力はこちらで排除する。代りにあちらはこちらの行動を見逃す。たったこれだけのことよ」
「NEXTの猟犬どもがテロ屋のお前を見逃すと、本気で思っているのかい? それ以前にそんな危険な取り引き、向こうが受ける訳ないでしょう」
「取り引きなんて危険な真似はしないわ。ただお互いが高度に行動を読みあった結果、そうなるというだけのことよ」
今のは言葉通りの意味だった。スコールはカラードに連絡を取る気など無い。だがあちらは情報収集能力もあれば頭が切れる人間も揃っている。なら宇宙開発の邪魔になりそうな勢力が次々とダメージを負っていけば、背後にどういう存在がいるかを必ず推測するだろう。そして束博士と薙原晶のこれまでの傾向からして、宇宙開発の促進というメリットがあれば、多少の事には目を瞑る可能性が高い。ラインの見極めは必要だが、今回のように最高幹部を直接狙ってくる事は無くなるだろう。
スコールは他の幹部連中を見回した後、問いかけた。
「それとも貴女達は、このままあちらさんと全面戦争をする気なのかしら?」
全員が押し黙る。この場にいる面子は全員専用機持ちであり、同時に組織力も併せ持っている強者だが、束博士と薙原晶の一派はそれを軽く上回る。そして必要とあれば最高幹部であろうと狙い始末すると証明して見せた。
今ここで亡国機業としての行動方針を纏められなければ、あちらは最高幹部を全員始末するまで行動し続けるだろう。
「………分かったわ。確かに他に方法は無さそうね」
1人が賛同したのを切っ掛けに、他の面々も賛同し始める。次いで最高幹部達は、行動案を出し始めた。
「まず手始めに傘下のPMCを使って、宇宙開発の邪魔になりそうな勢力を叩きましょうか」
「宇宙開発に関わる企業に投資するのも良いわね」
この他にも幾つかの案が出て検討されたところで、スコールは温めていた案を出す事にした。
「軌道エレベーターはどうかしら?」
「軌道エレベーター? よくSFに出て来る、巨大な塔みたいなアレ?」
「いいえ。束博士が何時かの会見で言った言葉を覚えてないかしら? 確か博士は、重力制御で上下移動に特化した空飛ぶ巨大な円盤を作ると言っていた。でもまだ作られていない。博士の技術力を考えれば技術力不足というのは考えられないから、恐らく純粋に作業リソースの問題だと思うの。その開発をフロント企業を使って後押しするというのはどうかしら?」
全員が脳裏で損得勘定を弾き出していた。今後宇宙開発には莫大な国家予算が投じられる。先手を打って軌道エレベーターを建造して、宇宙開発の物流拠点に絡む事が出来れば、投資以上のリターンが見込めるだろう。
幹部の1人が乗った。
「悪くないわね。とりあえずフロント企業から、10億ドル程度を出させるわ」
すると他の幹部も乗り始め、亡国機業のフロント企業だけで計60億ドルの支出が決まった。
そしてこの動きは、表側の真っ当な企業にも影響を与えていくのだった。
◇
数日後、カラード。
捕らえた
「社長。亡国機業に面白い動きがありました」
「面白い?」
「はい。こちらをどうぞ」
社長室に来た秘書が晶の眼前に空間ウインドウを展開して、幾つかの情報を表示させる。
内容を見ていくと世界有数の
そして音頭を取った企業名を見ていくと、亡国機業のフロント企業がズラリと並んでいる。
「………へぇ」
「こちらに敵対する気はないというメッセージとも取れますが、如何致しますか?」
ここで晶は少しばかり考えた。
亡国機業最高幹部12人とその側近達のうち、既に半数がこちらの手中にある。やろうと思えばこのまま全員を手中に収めて、首輪をつけて配下にする事も出来るだろう。そして亡国機業の組織力をそっくりそのまま頂く、というのも可能かもしれない。
だがその一方で、別の考えが脳裏を過ぎった。
最高幹部12人とその側近達は首輪をつけて管理出来たとしても、その配下のテロリスト達まで管理出来るだろうか? 答えは否だろう。まず管理する為に首輪を嵌めるという時点でひと手間必要であり、更にISのシステムを応用した首輪は、ISのコア数以上には作れないという物理的制限がある。束がテロリストを本気で管理する気なら首輪を量産するだろうが、恐らくその気は無いだろう。またISのシステムを使わない廉価版の首輪を作って配下のテロリスト達に使用するという考えもあるが、こちらはISのシステムを応用した首輪と違い、色々と抜け道がある。ハッキリ言ってしまえば自勢力に加えたところで、足を引っ張られる可能性の方が高い。
なら相手がこちらの意図を察して宇宙開発に前向きな態度を示した、つまり身の程を分からせたという事で、手打ちにするのもありだろう。こちらとしては、宇宙開発の邪魔さえされなければ良いのだ。
このように考えた晶は、束の意見も聞いてみる事にした。コアネットワークを繋ぐ。
(束、ちょっといいか)
(どうしたの?)
(亡国機業のフロント企業が、軌道エレベーター建造の後押しをしようとしている。どう見る?)
(ふぅ~ん。じゃあ、一回攻め手を止めて様子をみようか。宇宙開発の邪魔さえしなければ、あんな奴らはどうでもいいから)
束は全くブレる事無く答えた。彼女にとって亡国機業など、路傍に落ちている石ころと同じなのだ。邪魔なら蹴飛ばすし、そうでないなら無視する。狗のように尻尾を振りたいというなら振らせてやれば良い。
(なるほど。あと一応確認。もしまた宇宙開発の邪魔をしてきたらどうする?)
(こちらの意図が分からない間抜けではないと思うけど、その時はぺんぺん草も生えない程に叩き潰そうかな)
(分かった)
こうして束の意見を聞いた晶は、秘書に答えた。
「最高幹部狩りは一旦中止。でももう一度宇宙開発の邪魔をするようだったら、全力で叩き潰す」
「了解しました。ハウンドの方には、社長からお伝えになりますか?」
「ああ。そうする」
「分かりました。では、失礼致します」
秘書が一礼して社長室から出て行く。
その後、晶はハウンドチームにコアネットワークで事の経過を伝えたのだった。
◇
7月の最終週。平日のIS学園。
3年1組の担任である織斑先生は、夏休みを目前に控えた生徒達に注意事項を伝達していた。
「―――という訳でお前達への注目度は昨年よりも更に高い。世界中のマスコミが狙っていると言っても良いだろう。学園から出る際は注意するように」
生徒達から元気の良い返事が返ってくるが、担任として心配の種は尽きなかった。何せ3年1組には
「本当に、注意するんだぞ」
「大丈夫ですって先生。何かあったら、ちゃんと友達とか先生に相談しますから」
念押しする織斑先生に、出席番号1番の
「相談出来る出来ないという点では余り心配していない。だが本当の悪意ある行動は、気付いた時には抜け出せない状態にまで嵌められている事が多い。私が心配しているのは、そういう類のものだ。お前は悪意ある人間を、見分けられるか?」
「えっと、それは………注意します」
「そうだ。基本的にこれは注意していくしかない。だがいきなり見分けろ、と言われたところで難しいだろう。だから少しでも怪しいと感じたら、すぐに相談するんだぞ」
「分かりました」
「宜しい」
相川の返事を聞いた織斑先生は、一度クラス内を見渡してから続けた。
「繰り返しになるが、お前達は注目されている。IS学園の生徒であること。専用機持ちである事の自覚をもって行動するように。私からは以上だ。何か質問のある者はいるか? いなければ、これでホームルームを終了とする」
こうしてホームルームが終わり織斑先生が教室から出て行くと、クラスの皆は思い思いに喋り始めた。
話題は勿論、夏休みの予定についてだ。
殆どの者は夏休みという長期休暇を利用して一度実家に帰るようだが、他にも海やウインドウショッピングなど、年頃の娘らしい健全な予定で盛り上がっている。
そんな中で、
「ねぇ。晶くんは空いている日とかってあるのかな?」
「予定は幾つか入ってるけど、前もって教えてくれれば空けられると思う」
「本当!? なら30日とか大丈夫?」
「今のところ空いてる」
「なら予約。一緒に海に行こうよ」
晶がOKをすると、かなりんの隣にいた
「勿論。私も一緒に行くからね」
これを見ていた他の一般生徒達も、話しに加わり始めた。
「2人ばっかりズルイ。私も行っていい?」
「うわ。30日予定入ってる。晶くん。8月2日とか空いてる?」
「空いてる」
「なら2日は私予約!!」
「あ、私も2日一緒に行きたい」
こうして3年1組の生徒達は。ホームルームの終わった教室で夏休みの予定を立てていったのだった。
第166話に続く