インフィニット・ストラトス ~迷い込んだイレギュラー~ 作:S-MIST
その性能は――――――。
とある土曜日の昼頃。
カラードにいた晶は、束から“緊急”という用件で自宅へと呼び戻された。コアネットワークで話したところ“危険”ではないということだったが、相当に興奮している様子だったので、午後の予定を全てキャンセルして戻ったのだ。
「晶!! 早く、早く!! 例のアクセスポイントから返信があったの!!!!!!」
玄関に入るなり、束が興奮した様子で出迎え手を引っ張り研究室へと連れて行く。そして2人の間で例のアクセスポイントと言えば1つしかない。以前月面で発見した、正体不明の構造物だ。
「本当か!?」
そうして研究室に入った束が指差した壁面の大型ディスプレイには、銀河系の星図が映し出されていた。
「………………これ、マジ?」
束と宇宙開発について話す事の多い晶は、当然の知識として星図についての知識も持っている。銀河系の何処に、どんな星があって、想定される環境はどんなものか。宇宙開発を進めていく上で必須だからだ。だから分かるのだ。少なくとも地球周辺に関して、今映し出されている星図は極めて正確だ。では、地球周辺以外の部分は?
「多分マジ。地球周辺以外も手持ちの観測情報を使って洗ってみたけど、概ね測定値と一致しているの」
「どこまでの範囲を正しい、と判断できる?」
「………………地球周辺に関しては実測できるからまだ大丈夫だけど。それ以外の部分に悪意を持って欺瞞情報が混ぜられていた場合、こっちに見破る手段は無いかな。悔しいけど、観測技術の限界ってやつ」
「そうか」
晶は一言呟いた後に続けた。
「他に送られてきた情報ってないか?」
「これ」
束が手元のコンソールを操作すると、星図が一定範囲ごとに色分け表示された。その中の1つ。赤色で示された領域には、幾つかの地球言語で
晶が何かを言う前に、束が続けた。
「あとね、こんなのもあったの」
彼女が再度手元のコンソールを操作すると、赤い領域に存在する数百の星系上にグラフが表示された。重ねて表示されている地球言語の中に、人口や軍事力、生産力といった単語がみられる。
つまり、これは………。
「戦力情報。いや、国力情報か?」
「情報を鵜呑みにするのは愚かだけど、仮にこれが正しい情報だったとして、送ってきた意図はなんだろうね?」
「特に確証がある考えじゃないんだけどさ、メッセージを送った時に『地球を滅ぼそうとした報いは必ず受けてもらう』って言っただろ。だから純粋に、こっちの行動を見るためじゃないか? 相手がどの程度の実行力をもっているのか。或いは口先だけなのか。それをみて行動方針を決める気なんじゃないかな?」
「なるほど。確かに知らない相手と付き合い始めるなら、その辺りのことは重要だね。ふむ………」
束は暫し考え込んだ後、笑みを浮かべた。朗らかな、明るい笑みではない。やられたらやり返す。今や世界中の悪党が恐れる“天災”の笑みだ。
「晶。NEXTをセカンドシフトさせようか」
「構わないけど、今やる理由は?」
「私の考えをすぐに実行に移せるかどうかは、NEXTがセカンドシフトでどこまでいけるかによるからかな。だから先にセカンドシフトさせて、能力を確認しようと思って」
「分かった。じゃあメンテナンスルームに行くから、モニターを頼む」
そうして部屋から出て行こうとする晶を、束は呼び止めた。
「待って」
「ん?」
「このセカンドシフトでは、現状望みうる最高の到達点までいって欲しいの。だから、強くイメージして。晶が思う最強を」
「分かった。語った事は無かったけど、イメージはもうあるんだ。だから、期待して待っててくれ」
伊達にセカンドシフトを保留していた訳ではない。時間はタップリとあった。だから当然考えていた。なにものをもねじ伏せる最強の力を。アーマードコア・ネクストを指し示す言葉、“
「自信があるみたいだね」
「勿論だ。束から色々もらってるしな」
晶が使うNEXTには、ISの生みの親たる束から様々なデータがインストールされていた。この世界で作られた“ナインボール・セラフ”を筆頭とする数々の機動兵器のデータ、束の専用IS“エクシード”*2のデータ、発電衛星“アンサラー”のデータ、ワープに関するデータetcetc。
これらのデータがNEXTコアの中にあり、
この結果生まれたのが――――――。
◇
(これが、新しいNEXT………。ん~、なんだか似てるなぁ)
メンテナンスルームの外。万一に備えてモニタールームでNEXTのセカンドシフトを見守っていた束は、モニターに映る新しい姿を見て思った。晶が持っていた記録に残っていた機体。
(でも、似ているのは姿だけ。これは――――――)
モニターに表示されている各種性能値に目を向ければ、“天才”にして“天災”と言われる彼女をして、“天災”という言葉を送りたくなるほどの化け物だ。
―――諸元性能値―――
機体コード
N-WGⅨ/IS
ジェネレーター
トリプルコア
→発電衛星“アンサラー”のコアの正当進化系。
これにより“アンサラー”を超える出力を実現している。
通常ブースト
11.2km/s(40,320km/h)*3
クイックブースト
33.6km/s(120,960km/h)*4
オーバードブースト
53.76km/s(193,536km/h)*5
搭載武装
両 手:ハンドレールガン
→EN物質変換により弾数無制限。
老神を超える衝撃力と破壊力をマシンガンの
連射力で発射する武装。
両前腕:レーザーブレード
→使い易さが重視されたノーマルなレーザーブレード。
ただしその破壊力はNEXTとは比較にならない。
右 肩:多目的テンタクルユニット×5
→思考コントロール可能なウィップ。
敵機の捕獲や殴打に使える他、
束とのリンクによりハッキング用端末としても
使用可能。
左 肩:多目的テンタクルユニット×5
→同上。
内装武装
ロックオンレーザー
→パルヴァライザーに搭載されている物の正当進化系。
複数対象をロックオン可能で連射性能に優れる上に、
単発それぞれの威力がフルチャージコジマキャノンに匹敵。
アサルトアーマー
→ナインボール・セラフに搭載されている物の正当進化系。
その威力は
アサルトキャノン
→アサルトアーマーの破壊力を一点集中する兵器。
多目的オービット
→IBISに搭載されている物の正当進化系。
攻撃のみならず防御フィールドも形成可能で汎用性に
優れる。
また
兵装ラックが存在しない。
→束の専用IS“エクシード”に搭載されている広域殲滅兵器の
正当進化系。
アサルトアーマーに威力で劣るが範囲で勝る。
防御兵装
ナノスキンアーマー
→IS標準装備の物だが、当然の事ながら防御力は桁違い。
全身装甲
→N-WGⅨ/ISの外殻を形成する物理装甲。
第一次形態に比べ強度が桁違いに上がっている。
エネルギーシールド
→IS標準装備の物だが、当然の事ながら防御力は桁違い。
→束の専用IS“エクシード”に搭載されている防御兵装の
正当進化系。
→発電衛星“アンサラー”に搭載されている防御兵装の
正当進化系。
これにより空間破砕などの次元兵器に対して耐性を
得ている。
―――諸元性能値―――
惑星圏内での全力稼働が難しいほどの性能だが、ここまでなら単純に“強くなった”という認識で良かっただろう。だがNEXTのセカンドシフトには続きがあった。そして発現したその能力は、宇宙を目指したORCA旅団が欲しかったであろうものであり、束が求めて止まなかったものでもあった。
―――諸元性能値―――
その他
スターゲート生成能力
→束が発明したワープ技術の正当進化系。
これにより自分以外の対象をもワープさせる事ができる。
とりあえず銀河系内であれば1回のワープで到達可能。
―――諸元性能値―――
束はコアネットワークを繋いだ。
(これが、晶が考えた最強なんだね)
(ああ。どうだ? これならお前の考えは実行できそうか?)
(期待以上だよ。あ、でも1つ確認させて。スターゲートって、どれくらいの大きさで展開できるの?)
(そうだな………)
晶は暫し自己の内に潜り、性能をシミュレートしてみる。
(大体直径100kmくらいかな)
束はニヤリと笑った。
(十分だね。それなら、
(ちなみに、どんな事を考えているんだ?)
(簡単だよ。お手軽かつ破滅的な殲滅方法。“
(あぁ、なるほど)
晶は納得とばかりに肯いた。その方法なら高価な兵器を用意する必要がない。それでいて弾となる隕石は宇宙の至る所にあるのだ。また小さな隕石なら惑星圏内に落としたところでたかが知れているが、数十キロメートル単位の物を落としてやれば影響は甚大だ。生物が住めなくなるどころか、地殻が割れて星の天体運動そのものが狂い、惑星ごと殲滅する事ができるだろう。
勿論無関係な一般市民が沢山いるだろうが、知った事ではない。
こうしてNEXTをセカンドシフトさせた後、2人の行動は迅速であった。スターゲートで銀河系の至る所に跳び送られてきた星図の正確性を確かめ………………。
◇
暫しの時が経ち、宇宙進出を果たした数多の異文明の中では、勢力図が激変しようとしていた。
何故か?
軍事的傾向の極めて強いAランク文明、
――――――だけではない。
この結果
そして宇宙文明の盟主であるSランク文明、“首座の眷族”は――――――。
「報いは必ず受けてもらう。本気だったか………」
地球風に言えば“議員”に相当する者が呟いた。
“首座の眷族”は、地球から超長距離ワープする存在を補足していた。姿形までは分からなかったが、反応だけは捉えていたのだ。その後に、この隕石落下である。文明レベルを考えれば結び付けて考えるのは愚かしい行為だが、辺境の生まれながら数々の技術を独自開発した天才の存在を考えれば、不可能と言い切る事もできない。
「今後、どのように付き合うべきでしょうか?」
「地球での情報収集はどうなっている?」
「篠ノ之束、薙原晶の両名については終わっています」
展開された空間ウインドウに、2人の経歴が表示される。
「ふむ。行動方針としては、契約か」
「はい。地球文明の中で絶大な力を持っているようですが、その行動は極めて自制的です。恐らく今回の行動も、実行力と自衛力を我々に示す為に行ったのでしょう」
「本能的に理解しているのだろうな。例え異文明であろうと、いや、異文明だからこそ、実行力の無い者は信用されない、と」
「低ランク文明が行った示威行為にしては最大の、いえ、銀河惑星連合が発足して以来最大の被害額ですが」
「我々に被害は無いし、先に地球を殴ったのは奴らだろう。ならやり返されたとて仕方あるまい」
「地球の国々が今回の隕石落としについて知っている様子はありません。ならば単独、いえ、正確にはコンビという事になりますが、これほどの事を行える存在。危険ではありませんか?」
「確かに危険だな。では、滅ぼすかね?」
「十分に検討されるべき選択肢かと」
「それは否定しない。だが私はこうも思うのだ。ここにある情報を見るに、こういう輩は下手に首輪をはめるよりも、友好的な関係を築いた方が益になるとな」
「安全対策はどうするのですか? これほどの事ができる存在を野放しなど、安全保障としては看過できません」
「アレが我々の脅威となるようなら、星系ごと次元隔離して封鎖・消滅させる必要があるだろうな」
この返答は、秘書とおぼしき人物の予想を遥かに超えるものだった。
次元封鎖兵器は、過去Sランク文明に限りなく近いAランク文明との戦争で使われた戦略兵器だ。
「そこまで、ですか?」
「自らが生まれた星、或いは寄って立つ文明ごと消滅させられる可能性を考えれば、この2人とて無茶はしないだろう。だからこの2人に送るメッセージには、ある程度ぼかした過去の戦争データも含めておいた方が良いだろう」
「仮にその方法で牽制できるとして、問題があります。アレは、あなた単独の権限で起動できる物ではありません」
「勿論分かっているし、そもそも使うつもりなどない。ただそういう物がある、と匂わせるだけで十分だ。相手が知能を持つ存在なら、他の現実的手段が幾らでもある」
知能を持つ、色々と考えられるという事は交渉が可能という事だ。そして地球で収集された情報を見るに、この2人は自らが定めたルールは守るタイプだ。ならば友好関係を築くのは不可能ではない。敵対的行為はそれが失敗に終わった後でいい、というのが議員風の者の考えだった。
何より………。
「我々はSランク文明などと言われているが、銀河辺境にまでその力が十分に届いているとは言い難い。だから地球には、あの方面の安全を担ってもらえるようになって欲しい」
「可能だと思いますか?」
「宇宙艦隊も建造できないような文明レベルだ。常識的に考えれば不可能だろう。だがそうだな………試しに、あの方面で活動が確認されている宇宙海賊の情報を流してみよう。討伐できた場合の対価として、(宇宙文明レベルで)使い古された技術を明示してな」
「了解しました。議会には、どのように?」
「それはこちらで考えておく。基本的には友好路線になるだろうな」
今、地球文明は良くも悪くも宇宙文明から注目を集めはじめていた。
何故ならFランク文明がAランク文明の侵攻を退けた、という話が少しずつ広まっているからだ。まだ隕石落としと関連付けて考えている勢力はないようだが、恐らく遠からず気付く勢力が出てくるだろう。だから今の内に、急ぐ必要があった。あの“天才”と“武力”を、他勢力に渡す訳にはいかないのだ。
◇
場所は変わり、地球。束の自宅。
主である彼女は、壁面の大型ディスプレイを眺めながら難しい顔をしていた。
呼ばれて入って来た晶が、声をかける。
「どうしたんだ?」
「これを見て。例のアクセスポイントから」
指差された画面には、星図が表示されていた。地球から約500光年ほど離れた場所にある星系で、何やらドクロマークでポイントされた座標がある。そして束が手元のコンソールを操作すると、異星人の顔(?)が表示された手配書らしきものと、見た事のない兵器らしき情報が表示された。更には見た事のない言語と幾つかの地球言語で「報酬」と書かれた物まである。
「………これは、仕事の依頼なのか?」
「どうだろう?」
「ふむ………」
晶は暫し依頼の可能性について考え、
「これじゃ分からないから、カラードで使ってる依頼記入用の電子書類を送り返してみるかな。ああ、記入例が書かれたデータも一緒に」
「もし真っ当に記入されて送り返されてきたら?」
「騙して悪いがの可能性もあるし、何らかの手段で
「いいね。問題はハックできるかだけど」
「そうだな。束とリンクして、
2人は強者であるが、自惚れてはいなかった。
地球と宇宙文明の電子戦技術の格差は、異次元の天才である束の腕をもってして、埋めがたいものがあると考えていたのだ。だが(2人が知るのは暫し先だが)結論から言えば、それは杞憂であった。多目的テンタクルユニットを使ったハッキングは、正確に言えば浸食だったのだ。発電衛星アンサラーを超える莫大な出力に裏打ちされた浸食を防ぐなら、最低限同等レベルの出力が必要になる。宇宙文明の一般的な軍や海賊程度が使っている艦船に、そんな性能は無かったのだ。
「ん~、悩ましいね。でも相手の出方も見たいし………電子書類、送ってみようか」
「そうするか」
こうして2人は依頼用の電子書類と記入例、幾つかの確認事項を添えて送ったのだが、返答は想像以上に早かった。
僅か数時間後、未知の言語と地球言語で書かれた書類が送り返されてきたのだ。地球言語の方の書類を確認した晶が口を開く。
「………まぁ、記入方法としては間違ってないな。ターゲットの罪状が本当かどうかを確認する手段は無いが」
ざっくりと言えば、ターゲットの罪状は人身売買といけないお薬の密売に幾つかのコロニーを潰したテロ行為だ。地球内部で行われている犯罪やテロ行為と比べ、被害額と被害者数の桁が2つ3つ違うが、やってる事は大差ない。
「どうする? 備考欄にご丁寧に、「生死問わず」って書いてるよ」
「ただこれが仮に真っ当な依頼だったとしても、こっちを観測しようって意図はあるよな」
「確実にね」
晶は暫し考えた。宇宙の情報は欲しいが、こちらの手の内、
「………よし。ターゲットを始末する戦闘そのものはラナ*6にやってもらおう。で、情報収集出来そうな物を確保したら俺が出て行ってアクセス。束と協力してデータを引き抜いて、可能な限り素早くオサラバ。そしてワープする時は
「なるほど」
晶の意図を理解した束はニヤリと笑い、そして付け加えた。
「どうせならさ、もう少しリアリティを持たせようよ」
「ん?」
「現場に言った時に尤もらしい秘匿暗号通信を使って、外付けのワープユニットの性能を喋るの。数回しか使えないとか。何光年しか跳べないとか。地球レベルじゃ解読不可能な暗号強度でも、宇宙文明の技術なら、多分解読してくれるでしょ」
「良いかもしれないけど、逆に疑われないか? だって俺達が読めるレベルで地球の言語を解読してるんだろ。なら地球の情報についてそれなりに調べているはずだ。ISの、コアネットワーク通信の事まで調べていても不思議じゃない」
「ん~、それもそうか。ならやっぱり、尤もらしい外付けユニットを作って、外見的なイメージで騙すしかないかなぁ」
「ゲートの生成タイミングと外付けユニットの起動タイミングを合わせれば、あとは勘違いしてくれるんじゃないか?」
「確実とは言えないだろうけど、まぁ現状だとそれが一番かな。うん。分かった。それでいこうか」
こうして引き受けられた依頼により、束と晶。そして“首座の眷族”は、それぞれ有益な情報を手に入れる事ができた。
まず束と晶の方としては、カラード登録の高ランク傭兵クラスなら、宇宙文明の者が相手でも戦えるということ。今回は海賊が乗っている400メートルクラスの戦闘艦が5隻程度だったが、十分に戦えたのだ。尤も海賊と言われるくらいだ。練度はピンキリだろう。だが少なくともISで戦えると分かったのは収獲だった。また海賊の船をハッキングした事により、宇宙文明の大まかな移動方法が分かった。流通ネットワークと言い換えてもいい。星々を行き来する船の全てが高性能ワープドライブを備えているのではなく、恒星間はスターゲートと呼ばれる巨大なワープゲートで繋がれ、比較的安価な船でも恒星間を行き来できるのだ。このため巨大な輸送船を使った物流ネットワークがあり、長い航路上には休息や補給をする為のコロニーがあり、運ばれている物資を狙った宇宙海賊も存在する………という訳だ。
そして“首座の眷族”としては、カラードという
◇
なお、ちょっとした与太話。
時間は暫し遡る。
束がコンタクトを受けた時の事だ。彼女はこの時、晶をカラードから呼び戻した。そして晶は戻る為に、午後の予定を全てキャンセルした。この行動が、ちょっとした波紋を呼び起していたのだ。
何故か?
ちょっと考えてみて欲しい。
そして宇宙での活動が一段落して、戻ってきて話を聞いた晶は―――。
「えぇ~」
困惑した表情を浮かべていた。
彼としては危険があったならちゃんと情報を流す、という考えがあったので「アポイントメントを取っていた人達に悪いなぁ」程度の考えだったのだが、世間は遥かに敏感に反応していたのだ。
「という訳で社長。世間に向けて何か発表して下さい。正直、我が社の電話回線がパンクしそうな勢いで問い合わせが相次いでいるんです」
美人な秘書さんが、ちょっとばかり怖い顔で迫ってくる。
「いや、そう言われてもな………」
本当の事など言える訳がない。勿論いざという時の為のフェイク情報は用意してあるが、これほど注目を集めている中で使えるような完成度の高いフェイク情報は、正直使うのが勿体ない。
「お願いします社長!! 本当に、本当に大変なんです!!」
ずずいっ、と秘書さんが迫ってくる。
「あ~、そうだな………」
顔を横に背けて秘書さんの圧から逃れようとすると、秘書さんがわざわざ回り込んできた。前かがみになっているので豊かな谷間が眼福だが、そっちに視線を向けたらビンタされそうな勢いだ。そして普段は冷静に仕事をこなしてくれる秘書さんがこれほど困っているのだから、恐らくよっぽどなのだろう。なので、ちょっとばかり真面目に考える。
(俺が緊急の用件で動いて、かつ実は何でもありませんでしたという自然なイベントかぁ)
中々難易度の高い問題だ。そして絶対にやってはいけないのが、
暫し考えた晶は、束にコアネットワークを繋いだ。
(ちょっとすまないが、至急作って欲しいものがある)
(至急? いいけど、珍しいね。どうしたの?)
(いや、実はな――――――)
そうして世間一般の動きを説明すると、彼女は納得したような、それでいてやれやれと疲れたような、色々な思いが混じった乾いた笑いと共に了解してくれた。
(うん。理由は分かった。で、どんなシナリオで世に出すつもりなの?)
(いや、もう色々考えるのも面倒臭いし、単純に今後の宇宙戦闘を睨んで、俺が束に新型VOBの作成を依頼して、出来たって連絡を受けたから予定をキャンセルしてそっちのテストを行ってたって事にする)
(分かった。デザインの希望はある?)
(今送った)
コアネットワークで送られてきたデザインを確認した束は首を傾げた。
(なんか考えるのも面倒って言ってる割には、割と凝ったデザインだね)
(ああ。実を言うとそのデザインな、
(どんな問い?)
(仮にスターゲート生成能力が使えない状況下で、敵地を強襲するとしたらどんな装備が適切かっていう問い)
(なるほど。VOB使用の経験から、VOBの進化系を答えとして出したんだ)
(そういうこと)
(ちなみに
(こんな感じ)
送信されてきたデータを見た束は、少しばかり頬を引き攣らせながら言った。
(うわぁ………
(出来そうか?)
(勿論。フルスペックで作ってあげる。でも流石に、発表する時はマスクデータにしてね。まともに出したら、コレだけで戦略兵器だから)
(分かってる)
こうして割としょうもない理由で
なおNEXTがセカンドシフトしたという情報は、まだ伏せられていた。余りに隔絶した性能故に、どの程度の性能として発表するか2人も迷っていたのだ。
第172話に続く
ついに、ついにNEXTのセカンドシフトまできました。
そして宣言通り盛大に性能は盛りました。超盛りました。後悔はしてません。
これだけの性能があれば、宇宙文明の中でも活躍できると思います。