インフィニット・ストラトス ~迷い込んだイレギュラー~   作:S-MIST

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いつだって依頼は突然なのです。


第183話 アラライルからの依頼(前編)

  

 5月の最終週。スターゲート開通まで後4ヵ月。

 地球が今後に向けて慌ただしく忙しく様々な準備を進めている中、篠ノ之束には“首座の眷族”からの会談要請が相次いでいた。

 宇宙の先進文明が基礎理論の構築から実用化まで千年をかけた様々な技術を僅か数年で、しかも学ぶ先達がいないという知的職業に就く者からしてみれば信じられない悪条件の中で、しかも極めて高い安定性・安全性をもって実用化させた彼女に、多くの宇宙人が興味を持ったのだ。

 そしてこのオンラインで行われている会談の様子は、全てライブ配信で地球全土に流されていた。今の地球人の教養や技術レベルでは極めて難しい内容も多くあったが、この内容が人類の土台の底上げになれば、という束の思いからリアルタイムで公開されていたのだ。

 

『なるほど。でしたらその場合は――――――という事になって。必然的に使われる数式は――――――という形になりますね』

『素晴らしい!! 今の説明からそこまで理解できるのですか』

『分かり易い説明でしたので。あ、という事は応用的に――――――という場合は………変数が1つ、2つ………5、6………12個増えて………』

 

 束は何かを思いついたのか、手元の紙にサラサラと書いた数式を画面に映した。

 

『もしかして、こんな感じになりませんか?』

『………これは驚いた。さっき話した数式から、今貴女が書いたその応用理論の数式が完成するまで、地球時間で300年かかっているのですよ。ついでに言えば、それは第一式と言われているもので、第二と第三があります。ヒントは――――――ですね』

『その条件ですと………こう、と…………こうですね』

 

 “首座の眷族”の科学者は画面に映しだされた数式を見て、再び驚いた表情を浮かべて言った。

 

『貴女は本当に地球人ですか? 宇宙でもここまで話せる人は中々いないのですよ』

『ええ。生まれも育ちも地球人です』

 

 ここで、2人が話し始める前に予めセットされていたタイマーが鳴った。

 

『もう時間ですか。残念です』

『ですが楽しい時間でした。また機会があれば、その時は宜しくお願いしますね』

『大分先になりそうですが、その時はこちらこそ宜しくお願いします』

 

 “首座の眷族”の科学者は、束博士に会談を申し込んでいる者のリストを思い出しながら答えた。始めは少なかったのだが噂が噂を呼び、話し終えた者達が「噂は事実だった」と口々に言うため、今では順番待ちが千人を超えているのだ。すぐに次の予約を入れたとして、次に話せるのは何時になるやら………。だが、申し込まないという選択肢はなかった。これほど知的で建設的な話を出来る相手は中々いないのだ。そして話し終えた者がすぐに次の予約を入れるのに加え、彼女自身が行う研究や開発もある。このためリストは長くなっていく一方であった。

 因みに連日行われているこの会談は、束本人だけでなく、地球文明にも大きな恵みをもたらしていた。何故なら話している相手は皆、宇宙の先進文明の識者であり、様々な知見を深く広く持つ者達なのだ。単純な科学技術というだけではない。異文明との交流に必要な知識や準備、相互理解出来た例に出来なかった例、交易での留意点、数多ある犯罪の傾向、戦争犯罪、政治形態、社会構造、滅んだ例に滅ばなかった例、etcetc。

 本当なら人類が数百年かけて、多くの失敗を繰り返した末にようやく学べたであろう数多の知見が、束のお陰で宇宙進出の極初期段階で学べていたのだ。しかも一部の人間が、ではない。会談の様子は地球全土にライブ配信され、ニュースでも繰り返し放送され、アーカイブに保存されて好きな時に視聴できるようにされていた。無論地域によって扱いに差はあったが、銀河惑星連合の歴史において宇宙進出の極初期段階でここまで行えている文明は他に無く、後年において一連のやり取りは、開星における参考資料として扱われるようになっていた。

 

 ―――閑話休題。

 

 束が宇宙の識者から情報収集したなら、次は晶の出番である。

 会談の内容から優先的に準備しなければならない内容を拾い上げ、星間国家の在り方を検討する委員会を動かして、国家規模で準備させていく。無論、委員会なので反対意見が出る事もある。出来ない事もある。反対意見を言えるから委員会なのだ。その場合は優先順位を入れ替え、或いはやれるところに仕事を振っていく。スターゲート開通まで残り4ヵ月しかないので、十全な準備は出来ないだろう。だがそれでも、可能な限り準備が整うように全体を動かしていく。

 その進捗状況を、開星手続きを担当している“首座の眷族”の辺境議員アラライル・ディルニギットは、秘書であるサフィル・アライルから聞いていた。

 

「―――という様子で進んでいます。予想以上に平和的ですね」

「うむ。確かにあの2人が地球文明内で主導権を握っていれば楽だと思って援護はしたが、想像以上だ」

 

 文明にはそれぞれ特色があるので単純に比較できるものではないが、開星というのは夢や希望がある反面、ドロドロした側面があるのも事実だ。文明としての勢力差や技術格差からくる立場の強弱、開星する星の中での主導権争い、荒れる要因など探せば探すだけ見つかるだろう。それだけに、開星させる側も非常に神経を使う。使うのだが、今の地球はどうだろうか? 開星基準を満たしていない=未開で野蛮な文明とは思えない程、平和的に進んでいる。

 ここでサフィルは話題を変えた。

 

「ところで最近、色々な人達と話をしているようですが、何か動きがあったのですか?」

「単なる情報交換と雑談さ。ただ、こちらが平和に進んでいると言ったら羨ましがられたがね」

「でしょうね。正直、単純な仕事量でみたらサボリを疑われても仕方がないレベルですから」

 

 繰り返しになるが、本来開星手続きというのは非常に神経を使う。開星基準を満たしていない辺境となれば尚更であり、“首座の眷族”側も難しい仕事になるだろうと予測していた。が、蓋を開けてみればどうだろうか? 特異点と言える程に突出した存在が、開星基準を満たしていない文明を導いている。舵取りも見事なもので、援護射撃した事を差し引いても、信用に足る手腕と言って良いだろう。お陰で開星時に発生すると予測されていた多くの問題が地球文明内部で解決され、結果としてサフィルの言う通り、開星手続き中としては有り得ない程にアラライルの仕事は少なくなっていた。

 

「全く同じ事を言われたよ。そして暇なら、ちょっと協力して欲しい事があると言われたな」

「まさか、受けてませんよね? 私イヤですよ。開星手続きしながら別の仕事なんて」

 

 今は落ち着いているかもしれないが、神経を使う仕事である事は事実なのだ。別の仕事をしている時にトラブルなどあったら目も当てられない。

 

「私だって御免被るさ。が、適度な協力が必要なのは分かるだろう」

 

 サフィルの言う色々な人達とは、銀河辺境で活動する有力者達だ。“首座の眷族”だけでなく、友好的な他文明の者もいる。今後を考えれば一定の労力を支払ってでも、友好関係を維持すべき相手達であった。

 

「それはまぁ、確かにそうですが。で、どんな協力をお願いされたんですか?」

 

 アラライルは空間ウインドウを開き、銀河系の辺境MAPを表示させた。更に一部がズームアップされ、とある星系のとある惑星が表示される。型式番号でしか分類されていない未開発惑星だ。しかし続いて表示された各種データによると、微弱ながら惑星表面から自然現象では有り得ない反応が幾つかある上に、不定期ながら輸送船が訪れている。

 

「怪しいですね。これの調査依頼ですか?」

 

 するとアラライルは、再び無言で次のデータを表示させた。

 かなり荒い超々長距離望遠映像だが、中型サイズの標準的な輸送船が、惑星圏内に降下していく姿が捉えられている。しかも降下した先の地面が開き、輸送船が中に入ると閉じたのだ。

 アラライルが口を開いた。

 

「今降下していった船には、協力者が乗っていた。そして送られてきたのが、コレだ」

 

 次に表示されたのは地下構造体の設計図であり、最下層には薬物プラント。そして生成されているのは、“首座の眷族”と友好関係にあるとある文明の生命体にとっては、極めて強い毒性を持つ物質だ。長く続く強力な多幸感や全能感と引き換えに、人格変容や知能低下を引き起こし、更に中毒性が非常に強い。友好的な文明が神経を尖らせている薬物の1つだ。

 

「ここまで分かっているなら、態々こちらに協力を依頼しなくても………」

 

 良いのではないでしょうか、と言いかけてサフィルは気付いた。念のため自身の眼前に銀河系の勢力図を表示し、該当地域を拡大表示――――――思った通りであった。

 

「なるほど。友人のいるところからは、制圧部隊を送れないのですね」

 

 友人のいる文明から最短距離で制圧部隊を送ろうとした場合、敵対的ではないが友好関係でもない文明圏を突っ切る事になる。星系間を単独で移動できる高性能ワープドライブを使ったとしても、ワープ限界距離の問題で、他文明の勢力圏内で何度かワープアウトしなければならないのだ。またスターゲート艦を投入したとしても同じで、ゲート展開距離の問題で、他文明の勢力圏内にゲートを開く事になってしまう。もし反応を検知されたら、確実に政治問題に発展してしまう。ならば勢力圏の迂回ルートが選択肢になるが、そんなに大きく動いたら察知されて逃げられる可能性が高くなる。しかしそれは銀河中心核方面から見た場合だ。現在アラライルのいる地球方面からなら、どこの文明圏も通らずに行ける。つまり、直接刺せる。だから友人はアラライルにこの話をしたのだろう。

 

「そういうこと」

「状況は理解しました。ですが、現実的に対処可能なのでしょうか?」

 

 アラライルはニヤリと笑った。

 

「こちらの部隊を使うなら、だろう」

「どういう意味でしょうか?」

「君も気付いたのではないかね? 地球方面からなら、どこの文明圏も通らずに直接行ける。しかも都合の良い事に、あそこには宇宙で動ける民間軍事企業がある。加えて言えば、統一政府樹立に向けて動いている今、これは外交的な実績にもなる。なにせ内容は他の文明が神経を尖らせている薬物の取り締まりだからね」

「なるほど」

 

 サフィルは相槌を打ちながら思った。あの民間軍事企業の戦闘力は、地球文明の中でも突出している。以前秘密裏に依頼したミッション*1を危なげなく遂行した、という実績もある。また篠ノ之束博士が造り上げた船、イクリプスが宇宙文明基準で見ても強力な船である事を考えれば、彼女がパートナー(薙原晶)の会社用に造ったアリコーンという艦が、並大抵の性能である筈がない。更に最近は、下位互換な戦力を準備して適材適所を進めようという動きも見られている。諸々の状況を考えれば、あの会社がこの依頼を断る事はないだろう。

 

「では、早速依頼しますか?」

「いいや。数日置く」

「早い方が友人も有り難がってくれるのでは?」

「かもしれんが、早過ぎては便利屋扱いされかねん。こちらは開星手続きで忙しい中から、時間を捻出して、地球側の実行力を見極め、不安要素の多い依頼を出すのだからな。ふむ………ついでに、そうだな。どうせやるなら、相手にもしっかりと有り難がってもらおうか」

「なにをされるおつもりですか?」

「なに、あの会社の傾向から考えるに、単純な制圧では済まさないだろう。ほぼ確実に、施設内にあるデータを抜くはずだ。まぁ確実にやってもらうなら、内部データに追加報酬を設定しておくべきかな。で、こちらはそれを使わせてもらう。名目は何でも良いから、警察の注意を薬物の流入ルートに向けさせておいてくれ」

 

 確かに単純に薬物の生成拠点を1つ潰すより、船の航行ルートや立ち寄った港、関わった者が分かれば、販売ルート、売人、或いはもっと上まで叩けるかもしれない。“偶然”警察の手が増えている時に情報がもたらされれば、逃げる時間を与えずにやれる。そうなれば単純にお願いを聞いた時よりも、アラライルの影響力はより大きくなるだろう。

 サフィルはこのように理解した。

 

「了解しました。では、手配しておきます」

 

 そしてこの数日後、アラライルは篠ノ之束博士への秘匿回線を開いたのだった。

 

 

 

 ◇

 

 

 

 

『こちらを使うとは、どのようなご用件でしょうか?』

 

 画面に映った篠ノ之束博士に、アラライルは単刀直入に切り出した。画面の奥には、いつものようにパートナー(薙原晶)が控えている。

 

『仕事を1つ、依頼したいと思いまして』

『どのようなものでしょうか?』

『まずは、こちらを見て下さい』

 

 アラライルが送ったデータは、先日秘書に見せたデータだ。そして目を通してもらったところで、事情を説明する。

 

『………なるほど。薬物問題は、宇宙でも深刻なのですね』

『そういう事です。なので、この施設を制圧してほしい』

『では依頼を出して下さい。細かい条件については、そちらを確認してからにしましょう』

『以前フォーマットを貰っているので、既に準備してあります』

 

 そうして送られてきた依頼書を、束は新たな空間ウインドウを展開して確認した。

                                

 ―――依頼内容―――

 

 依頼主:アラライル・ディルニギット

  FBN504115という表向き未開発惑星となっている星の地下にある、

  違法薬物生成施設を制圧して欲しい。

  この施設で生成されている薬物は他文明が神経を尖らせている

  薬物で、非常に毒性が強い。

  外交的実績や協力関係構築の第一歩として丁度良いだろう。

  また協力者1名が施設内に潜伏しているため、この人物の救出も

  合わせて頼みたい。

  

 期限

  168時間以内(1週間)

  

 成功報酬

  500万IK

                                

 備考1

  協力者の救出と施設内にある各種データの収集に追加報酬あり。

  

 備考2

  添付資料1:救出者情報

  添付資料2:施設見取り図

  添付資料3:施設防衛機構及び警備状況

  添付資料4:惑星の大気組成及び天候情報

                                

 ―――依頼内容―――

 

 内容を確認した束は、まず率直な感想を口にした。

 

『事前情報が随分と揃っていますね』

『裏がある話でもありませんし、失敗されたくもありませんので』

 

 裏が無いというのは絶対嘘だろう。政治に関わる者が、この手の事を使って別の物事を動かさないなど、非常に考え辛い。これまで見せた小悪魔や愉快犯といった側面があるなら尚更だ。しかし束は受けても良いと思っていた。今後宇宙進出が進めばこの手の依頼もあるだろうし、先日ロールアウトしたアリコーン1番艦の性能と配属メンバーの練度も見ておきたい。添付資料の情報を見るに、戦力的にはISじゃなくてパワードスーツでも十分そうであるし、宇宙展開用のパワードスーツ部隊の準備を進めていたから、少し早いが投入して練度を見ておきたいというのもある。

 このような考えから束は方針を決めたが、決定を下す前に確認しておかなければならない事があった。

 

『これまでの貴方の言動から考えて大丈夫だと思うのですが、ターゲットが確実に違法行為に手を染めていると、私達が判断できる明確なものはありますか? 何せこちらは、宇宙についての情報に乏しいのです。そこにつけ込んで、良からぬ事に加担させる、なんて可能性もあるでしょう』

 

 束が心配したのは、今渡された情報がフェイクだった場合だ。仮に施設の位置情報だけが正しくて、中身が真っ当なものだった場合、一般人を虐殺する事になる。これから宇宙進出しようという時にそんな事になったら、目も当てられないではすまない。

 

『提供情報のみで武力行使はできない。武力を扱う者として当然の姿勢であり心配です。ただ、そうですね。情報の確度となると………こちらも友人から提供してもらった情報なので………ふむ………』

 

 これにはアラライルも少々困ってしまった。ある程度の情報力があれば確実に黒なのだが、今の地球文明は宇宙情勢に対するアンテナが無い。異次元の技術力や開発力を持つ束博士とて例外ではないのだ。

 なので彼は少々考え、メリットとデメリットを天秤に掛けてから返答した。

 

『1つ確認ですが、そちらに1000光年の距離を即時通信可能な技術はありますか?』

『可能ですよ』

 

 ISの標準機能であるコアネットワークシステムは、元々広大な宇宙空間での相互位置確認・情報共有のためのシステムであり、銀河系内であれば即時通信可能なのは晶と束で実験済みであった。

 

『なるほど。ではそちらが作戦位置についた時点で、私が地球文明に対して公式回線を使用して、今回提供したデータの中から他文明の迷惑にならない範囲でのデータ公開と、カラードに仕事を依頼した事を宣言しましょう。その確認をもって、ミッションを開始して下さい。因みに先に言っておきますと、公式回線を使用して宣言した場合、それは開星手続きを行っている辺境議員の公式な仕事として記録に残ります。もしこの提供された情報がフェイクだった場合、私も首が飛びますよ』

『辺境惑星の小さな会社に、キャリアの全てを賭けてくれるのですか?』

『小さな、というところに多大な違和感を感じますが、まぁ良いです。こちらは提供された情報を本物と認識していますので、何ら問題はありません』

『分かりました。ご期待に沿えるようにしましょう。あと、ついでに1つ、いえ2つ確認です。1つは報酬額の後ろにあるIKは何の略でしょうか? 統一通貨の単位というのは分かるのですが、語源と言いますか、色々な文明がある中で統一通貨を作ったなら、意味のようなものがあるんじゃないかと思いまして。そしてもう1つが、今回の報酬額は地球でならどれ位になるのでしょうか?』

 

 前者の単純な知的好奇心に、アラライルは一瞬キョトンとした表情を浮かべてから、笑顔で答えた。超天才に統一通貨の語源を教えるというのが、何だか妙に面白かったのだ。

 

『統一通貨の語源は、“星間の信用”という意味です。確か地球でも同じような意味を持つ言葉で、どういう偶然かは知りませんが、頭文字が同じ形状の言葉がありましたね。確か………Interstellar Kreditsでしたかな』

『地球と宇宙はつい最近まで関わりなんて無かったはずなのに、奇妙な事もあるものですね』

『全くです。本当に偶然なのか探求してみたいところですが、それは歴史家に任せましょうか』

『そうですね』

『で、2つめの地球でならどの程度に相当するかですが………』

 

 中々説明に困る質問だった。何故なら地球と宇宙文明との間に経済的な交流はまだ無いため、為替レート*2も存在していないのだ。このためどの程度、と表現するのが難しい。なのでアラライルは一般人の平均的な年収と、地球が今後必要とするであろう宇宙船の値段で説明する事にした。

 

『一般人の平均的な年収が100IK。使われる事の多い100メートル級の武装艦で約100万IKといったところでしょうか』

『少し話は逸れますが、もう少し上のクラスになったらどれくらいでしょうか?』

『200メートル級で1500万IKくらいですね。もし良ければ、大まかな目安となるデータでも送りましょうか?』

『良いのですか?』

『今後購入を検討される事もあるでしょうし、概念的な擦り合わせというのは大事でしょう』

 

 そうして送られてきたデータを、束は新しい空間ウインドウを展開して表示させた。

                                

 ―――宇宙船の分類と価格の目安(船体価格のみ)―――

 

 武装艦(全長)

  100メートル以下:フリゲート

   約50万IK

  

  100~200メートル級:駆逐艦

   約100万IK

   

  200~300メートル級:巡洋艦

   約1500万IK

   

  300~600メートル級:巡洋戦艦

   約5000万IK

   

  600~900メートル級:戦艦

   約3億IK

   

  20~40キロメートル級:母艦

   約200億IK

  

  50キロメートル級:旗艦

   約1000億IK

   

 輸送艦(全長)

  400メートル級

   約100万IK

   

  20キロメートル級

   約20億IK

 

 ―――宇宙船の分類と価格の目安(船体価格のみ)―――

 

 これを見て、束は思った。目安と言っている以上、各クラスにおいてこの価格帯が性能の平均ラインだろう。当然、何らかの用途に特化、或いは性能向上した物は更に高くなる上に、武装価格も追加される。1IKの為替レートが幾らになるか分からないが、もし買うなら相当高い買い物になるだろう。

 それを踏まえて今回の報酬を見てみると、非武装の駆逐艦5隻分という扱いだ。1回の依頼で5隻分というのは、割と良い報酬なのではないだろうか? 無論、実際のところは分からない。もしかしたら相当に舐められている可能性もある。しかし束は、そこを言及するつもりはなかった。こちらはこちらの思惑で仕事を受けるのだ。難易度に対してどれくらいの報酬が適正なのかは、今後宇宙文明と関わっていく中で分かっていくだろう。もし今後も付き合いが続いて、舐められた報酬だと分かったなら、その時に対応を考えれば良い。

 

『なるほど。参考になりました』

『我が文明の船を買ってもらえるのでしたら、良いメーカーを紹介しますよ』

『貴方は商売人でもあるのですね』

『自分の文明を富ませるのは、議員の仕事の1つですので』

『研究用にでしたら幾つか買うかもしれませんが、文明全体での大々的な購入は考えていません。基礎的な技術力や工業力を育てたいので』

『地球人は恵まれていますね。貴女の頭脳があれば、幾らでも、好きなように振る舞えるでしょう。それなのに、ちゃんと自立できるように育てようとしている。中々出来る事ではないと思います』

『褒めても何も出ませんよ』

『それは残念。―――で、話を戻しましょうか。どうですか?』

 

 束は、後ろに立つ晶に問いかけた。

 

『やれそう?』

『制圧そのものは問題無い。ただ協力者を救出するなら、居場所を知る方法を教えてもらうか、予め施設のどの辺りにいるのかを教えて欲しい。でなければ、突入時に不幸な事故が起こり得る』

『アラライルさん。識別信号とか、こちらが行動を起こす事を知らせる手段とか、何かそういうものはないでしょうか?』

『幾つかあるとは聞いていますが、流石に具体的な方法までは知らされていません』

『あるならそれで十分です。この話を持ってきた他文明の人に、大きな音がしたら、施設の地下の方に逃げて欲しいと伝えておいてくれませんか』

『地下に? 地上に向かってではなく?』

『ええ。地上付近に居られると、こちらも大火力が使い辛いので』

『分かった。伝えておこう』

『晶、他にある?』

『いや、無い。後はこちらでやろう』

『という訳なので、依頼を受託します』

『それは良かった。では、準備が出来たら連絡を下さい』

『はい。それでは』

 

 こうして通信が終わった後、アラライルは後ろに立っていたサフィルに話し掛けた。

 

「どれくらいで来ると思う?」

「恐らく3~4日くらいかと。開星手続きも終わっていない文明に対する評価ではないのですが」

 

 作戦領域は地球から1000光年ほど離れている。宇宙に出たばかりの文明なら、ドラマに出来るような一大スペクタクルの大航海だろう。しかし2人は、その辺りの心配は全くしていなかった。最悪カラードという手足が失敗したとしても、篠ノ之束博士と薙原晶が直接動けば、どうとでもなる程度の依頼だからだ。

 

「さて、楽しみだな」

 

 こうしてアラライルは、童心に返ったようにワクワクしながら待つのであった。

 

 

 

 ◇

 

 

 

 一方、晶は通信が終わった後すぐに作戦立案を済ませて、ブリーフィングルームに選抜したメンバーを集めていた。

 戦闘部門長であるラウラ、潜行戦隊1番艦のクルーである鷹月(たかつき)静寐(しずね)相川(あいかわ)清香(きよか)四十院(しじゅういん)神楽(かぐら)谷本(たにもと)癒子(ゆこ)夜竹(やたけ)さゆか、(かがみ)ナギ、先日ドイツから引き抜いた黒ウサギ隊のパワードスーツ部隊36名+クラリッサ・ハルフォーフ大尉の計44名だ。

 

「――――――全員集まったな。さて、まずは単刀直入に言おう。ミッションだ」

 

 室内がザワリと騒めく。この場にいるのは、パワードスーツ部隊を除けば全員が専用機持ちなのだ。その数7名。晶を抜いても6名だ。それだけの人数を投入するミッションとは、どれほどのものだろうか? そんな思いからだ。

 全員が続く言葉を待っている中、晶は続けた。

 

「依頼主は“首座の眷族”のアラライル氏。作戦目標は地球から1000光年ほど離れたFBN504115という火星型惑星。建前上は未開発だが、何処かの誰かが地下施設を造って違法薬物を生成しているらしい」

 

 壁面の大型ディスプレイに、提供された施設情報及び周辺MAPの情報が映しだされる。全員に確認するだけの時間を与えてから、続く言葉を口にした。

 

「依頼主はこの施設だけじゃなく、繋がっている奴らを芋づる式に潰したいんだろうな。内部データに追加報酬が設定されている。また、あちらさんの協力者が施設内にいるようだから、その人物の救出も依頼内容に含まれている」

 

 画面を切り替え、協力者の顔と全身映像を表示させる。第一印象は獣人で、ぶっちゃけて言えば犬耳ケモ娘だ。“首座の眷族”はヒューマノイドタイプなので、姿形の近い方が、友好関係も結びやすいのだろう。

 

「で、ここにパワードスーツ部隊の面々が呼ばれている理由だが、それは今回の主役がお前達だからだ。引き抜きの時に説明した通り、パワードスーツが宇宙で使えるという事を証明してもらう」

 

 晶が再び画面を切り替え、提供された防衛機構のデータを表示させる。固定型のレーザー機銃もあれば、人間大の多脚型の土台に近接用のクローアームや光学兵装を取り付けたようなものまである。事前情報が無ければ、パワードスーツの投入は躊躇しただろう。しかし提供されたデータを見るに、パワードスーツ用に開発されたAP弾(アーマー・ピアシング=徹甲弾)なら抜ける程度の装甲だ。シールドシステムも搭載されているので耐久力はあるが、通常兵器で倒せない程じゃない。

 

「そして表示してあるデータを見てくれれば分かる通り、配備されている防衛システムはパワードスーツの火力で十分に制圧可能だ。とは言っても、初めて相手にする物だけに、予測通りにいかないなんて可能性は十二分にある。なのでバックアップに部門長のラウラとクラリッサ大尉を付ける。2人を選んだ理由の説明は必要か?」

 

 これにはラウラが答えた。

 

「いいや。私の古巣で連携を取り易いという以上に、現場を知り部門長の仕事に活かせ、というのだろう。そしてクラリッサの理由も同じようなものだろう」

「その通りだ。そして今回はパワードスーツとアリコーンのお披露目でもあるからな。少々派手にやろうと思っている」

「派手に? 隊員を危険に晒すような作戦ではあるまいな?」

 

 立場が変われば人は変わる。下手な作戦を立てるようであれば、何としてでも止めなければならない。

 ラウラはそう思っていたが、晶の言う派手は、そういう意味ではなかった。

 

「俺が人材の浪費を嫌うのは知ってるだろう。だから、こういう事だ」

 

 壁面の大型ディスプレイが切り替わり、ミッションプランが表示される。

                                

 ―――FBN504115地下施設強襲作戦―――

 

 使用艦

  空間潜行艦アリコーン

 

 第1段階

  目標惑星近郊まで進出し、空間潜行状態で待機。

  待機中に偵察ポットを使い惑星表面をサーチ。

  アラライル氏がカラードに仕事を依頼した事を、

  公式回線を使って地球に宣言した時点から作戦開始。

  この宣言時に依頼内容も公開される。

                                

 第2段階

  地下施設を特定次第、アリコーンの多目的VLSで対地攻撃開始。

  第一射はバンカーバスター×12発。

  ただしこれは救出する協力者に、これから行動を起こす事を

  知らせる攻撃なので、施設には当てず着弾は至近距離とする。

  一分経過で第二射開始。バンカーバスター×36発。

  この攻撃から施設への直撃弾とする。

  ターゲットは船を迎えるため地上と繋がっている開口部の隔壁。

  そこを大きく破壊する事で突入及び脱出口を確保。

  第三射もバンカーバスター。一斉射の48発を施設全域に散らせる

  ことで内部を混乱させ、組織的抵抗を遅らせる。

                                

 第3段階

  ラウラ・ボーデヴィッヒ、クラリッサ・ハルフォーフ両名は

  VOB装備で大気圏突入開始。

  黒ウサギ隊パワードスーツ部隊、オービットダイブ開始。

                                

 第4段階

  降下したパワードスーツ部隊で施設の制圧開始。

  並行してデータストレージの回収及び協力者の探索を行う。

  なお本ミッションはパワードスーツの他惑星での活動評価

  という側面もあるため、IS組は介入を最小限とすること。

  またこのタイミングでアリコーンも惑星圏内に降下する。

                                

 第5段階

  協力者と可能な限りのデータストレージを回収後、

  アリコーンに人員及び成果物を回収して作戦領域より離脱する。

  これをもって作戦終了とする。

 

 ―――FBN504115地下施設強襲作戦―――

 

「――――――という風に考えているんだが、何か意見や質問はあるかな?」

 

 晶の言葉に、まずラウラが挙手をした。

 

「何かな?」

「作戦の第1段階において、アラライル氏が宣言するとあるが、これは何故だ? これでは作戦開始を敵に知らせるのと同じで、秘匿性という面ではマイナスだろう」

「尤もな意見だが、現状カラードは宇宙に対するアンテナが無い。つまり渡された情報がフェイクで施設が真っ当なものだった場合、俺達は一般市民の虐殺者になり得る。これまでの相手の言動を考えれば少々考え辛いかもしれないが、有り得ない話じゃない。そのリスクを回避する為だ」

「なるほど。最悪に備えてのリスク管理という訳だな。だがその場合、別の危険性が出てくる。予想の上に予想を重ねたものだから自信がある訳ではないが、開星手続きを一手に担うアラライル氏は、恐らくそれなりに有名人だろう。その動向は注視されているはずだ。そんな人間がこれから違法施設を潰しますなんて宣言をしたら、対抗勢力が増援を送り込んでくるのではないか? あと政治的な厄介事を抱え込む可能性もだな」

「地球はどのみち色々注目されているだろうから、敵味方の区別は早い方が良い。今回の件で難癖をつけてくる他文明があったら、そういう相手と思って今後は対応するさ。で、増援についてだが………正直なところ、宇宙での部隊展開速度は俺の方でも今一つ掴めていない。ただ、あると考えておいた方が良いかな」

「理由は?」

「提供された映像に映っていた輸送船は、中型の標準的なタイプだ。だが作戦領域の星系にスターゲートは無い。つまりどういうタイミングでかは分からないが、ゲート艦でゲートを開いてる奴がいるってことだ。ただ別の可能性として、高性能ワープドライブ搭載艦の外装を弄って擬装してるって可能性もあるけど、これも可能性でしかない」

「なるほど。可能な限り素早く終えて、素早く撤退する必要がある訳だな」

「そうだ」

 

 ラウラの質問が終わると、今度はクラリッサが挙手した。

 

「私からも良いでしょうか」

「どうぞ」

「作戦の第2段階で大量のミサイルを撃ち込みますが、協力者は大丈夫なのですか?」

「協力者には前もって大きな音がしたら下層に逃げるように伝えられているから、向こうがその通りに行動してくれている事を願うしかないな。あと提供された施設図面とミサイルの威力からシミュレーションした結果、施設上層の被害は大きく火災にもなるだろうが、下層の被害はそれほど大きくない。そして警備システムの大半が上層に集中しているため、これの速やかな無効化を優先する」

「了解しました。降下後は速やかに下層に向かう必要がありそうですね」

 

 次に挙手したのは、鷹月静寐だ。

 

「アリコーンが惑星圏内に降りちゃうと、索敵範囲が狭くなっちゃうけど良いのかな?」

 

 惑星圏内に入ってしまうと、大気層が邪魔をして宇宙にいる時よりもセンサーの精度が落ちてしまう。また極々単純な話として、地表を見下ろせる宇宙にいた方が、作戦領域だけでなく周辺の状況も監視できるので宇宙にいるメリットは大きい。だがそれを捨てる理由があった。

 

「さっきのラウラの話でも出たが、増援の可能性を考慮した結果だ。増援を発見してから惑星降下して人員回収では手遅れになる可能性が高い。だから先に降下して、すぐに回収できるようにしておく。作戦の第4段階での降下だから敵の地上戦力は殆ど無いはずだけど、多少の戦力ならアリコーンの火力で殺れるだろう。あと増援があった場合に可能な限り素早く察知する為に、降下前に監視ポットを出しておいてくれ。作戦の最終段階まで増援が無かった場合のみ、回収する。増援があったらデータを取れるだけ取ったあと自壊させてくれ」

「了解」

 

 次に挙手したのは、四十院神楽だ。

 

「ミッションプランを見る限り、アリコーンのクルーは操艦に専念でISパイロットとしての出番は無さそうですが、その認識で構いませんか?」

「構わない。アリコーンのクルーが出るような状況になっていたら、それはもう作戦自体が破綻している。あとついでに言っておくが、今回は万一に備えて、俺も同行する。が、基本的には視るだけで何もしない。作戦指揮は静寐が、突入部隊の現場指揮はアリーセ中尉*3がとってくれ」

 

 作戦指揮について静寐が反応した。

 

「ラウラではないんですか?」

「役職的に言えばそうなるが、今回ラウラを同行させる目的は現場を知って、部門長の今後の仕事に役立ててもらうためだ。指揮官としてではない。更に言えば、現時点で1番艦クルーの中で一番指揮官適正があるのは静寐だ。そして今回はアリコーンを使う作戦だ。なら作戦指揮をとるのは静寐だろう。あと突入部隊の現場指揮をアリーセ中尉にしたのは、パワードスーツだけで何処までやれるか見せてもらうためだ。万一に備えてIS2機をバックアップにつけるから、思いっきりやってほしい」

 

 2人が了解の返事を返すと、晶は続けた。

 

「あと、細かい事だが少し補足しておく。オービットダイブで使う再突入殻(リエントリーシェル)は整備に万全を期しているが、ISとは違い万一が有り得る。だが今回同時に降下するIS2機はAIC*4という非常に便利な装備を持っている。なので惑星表面に激突なんて事は無いから、安心してブッ飛んでくれ」

 

 この言葉にパワードスーツパイロット達が「なるほど」という表情をした。今回使うパワードスーツ(Type94 不知火)の試験の一環で何度か練習させていたが、地球以外の惑星でやるとなれば、不安も強かっただろう。それでも表情を変える程度で済ませているあたり、流石は特殊部隊と言えた。

 

「さて、俺の方からは以上となるが、他に何か聞きたい事がある者はいるかな? ――――――いないなら、これでブリーフィングを終了とする。3時間後にまた此処に集合してくれ。アリコーンに乗艦して、ミッション開始地点に向かう」

 

 

 

 第184話に続く

 

 

 

*1
第171話にて

*2
為替レートとは、ある国の通貨を他の国の通貨に交換するときの取引価格(交換比率)のことです。

*3
オリキャラです

*4
正式名称はアクティブ・イナーシャル・キャンセラー。レーゲンシリーズに搭載されている武装で、ラウラは「停止結界」と呼称している。もともとISに搭載されているPICを発展させたもので、対象を任意に停止させることができる。




今回はミッションの背景とブリーフィング回。
次回は、やっちゃいます。
華々しいIS戦闘ではありませんが、多分絵的にはかなり派手になるかと。

追記
ブリーフィングルームに集めたメンバーを42名から44名に修正しました。理由はアリコーン1番艦のメンバー6人なのに4人しか書いてなかったという………。
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