インフィニット・ストラトス ~迷い込んだイレギュラー~ 作:S-MIST
後悔はしていません。
カラードに就職した元3年1組の面々には、暗黙の了解が幾つかある。
その内の1つが、晶のお昼のお弁当は日替わりで作る、というものだ。これの始まりは学生時代、市の特別イベントとして行われるIS高速レースバトルのキャノンボール・ファストでクラスが優勝した時に、クラスメイトから日頃のお礼がしたいと言われた晶が、学生なので余り金の掛からないお弁当を希望した、というのが始まりだ。以降、クラスメイト達はずっと晶のお弁当を作り続けていた。一時のお礼だったはずなのだが、誰も止めようと言わなかったのでそのまま続いているのだ。そしてカラードに就職した後も、クラスメイト達は当然のように作り続けていた。因みに、一夏、箒、鈴については、3人がカップルになった以降は晶の方からお断りしている。彼氏のいる彼女に作ってもらうのは悪いし、彼氏の方も気分を害すだろう。
そして今日の当番はシャルロットで、社長室で仲良く昼食タイムだ。
「さて、今日は何かな?」
手渡された魔法瓶タイプの保温弁当箱を、ウキウキしながら開ける。中身は御飯、サラダ、唐揚げ、シチューだ。しかもこのシチューは、シャルロットに助けられたあの日に食べたもので、大好きなメニューの1つだ。加えて弁当箱のお陰でしっかり保温されていたので、作りたてのような匂いが鼻腔をくすぐる。
「ん~、良い匂い」
お昼にこの匂いは暴力的だ。腹にくる。
「どうぞ。召し上がれ」
「では遠慮なく。いっただっきま~す」
ムシャムシャガツガツゴックン。所作が汚い訳ではないが、晶はそんな擬音が聞こえてきそうなほど食欲旺盛に弁当を平らげていく。
「結構多めに作ったんだけど、相変わらず食べるね」
「こんなに美味しい弁当なら、幾らでも入る」
「ありがと」
「お世辞じゃないぞ。本当だぞ」
「知ってる。そして知ってても嬉しいんだよ。作った物を美味しく食べてくれるっていうのは」
「俺だってそうさ。お前も、他のみんなも、変わらずこうやって作ってくれる。学生時代からは色々変わっちゃったけど、こういうのはやっぱり嬉しいもんだ」
控え目に言って、今の薙原晶は圧倒的な権力者だ。他の元3年1組もそうだ。今後地球文明圏がどういう道を辿るにせよ、カラードが中核になるのは間違いないと目されている。そして人間というのは偉くなると、こういう心のこもった手料理というのからは遠ざかってしまう事が多いが、それが続いている。晶はそれを喜んでいた。
「みんなも、それが分かってて作ってるんじゃないかな」
「だとしたら、ありがたい話だ」
因みに皆のお弁当が初めから美味しかった訳ではない。得意な子もいればそうでない子もいるので当然だ。そして得意でない子の筆頭はダントツでセシリアだった。彼女が作るお弁当は
―――閑話休題。
暫し他愛のない会話が続き、の~んびりとした昼休憩を過ごした2人は、宇宙開発部門に向かう途中*1で仕事の話を始めた。
「ところで晶。この前から議題に上がっている検疫体制なんだけど、多分クレイドル3号機を建造して使うのが一番現実的だと思う。でもどうやっても、2ヵ月後のスターゲート開通には間に合わないかな」
今後地球には宇宙から、様々な物が持ち込まれる事は確実であった。そして地球の中ですら検疫体制の不備は、環境に致命的な変化を強いる事があるという事を考えれば、宇宙文明と付き合っていくために検疫体制の整備が必須なのは誰でも分かるだろう。
だが、少々面倒な現実問題が立ちはだかっていた。地球の工業力不足である。
何故なら今の地球文明にとって、宇宙に何かしらの施設を造るという作業は、比較的高い技術力を必要とする部類なのだ。このため実行可能な国や企業というのはある程度限られてしまうのだが、その限られた国や企業のリソースは既にほぼ限界まで使い切られていた。
クレイドル1号機は既に稼働しているが、此処は各国から選出されたIS部隊の駐留基地であると同時に、宇宙文明を学ぶ為の学生達の学び舎にもなる予定なので、施設の継続的なアップデートが予定されている。
建造中のクレイドル2号機はアステロイドマイニング*2に投入するため、検疫施設として運用するには難がある上に、設備そのものがアステロイドマイニングに特化されているので、転用には多大なコストがかかるという面もあった。このため2号機の建造も予定通り進められていた。
そして1号機と2号機はどちらもフル規格である全幅4000メートル級の巨体であるため、相当な工業力が使われている。
尤も、プラス材料が無い訳ではない。月面で稼働しているマザーウィルが建造材を生産しているため、一昔前に比べれば些か建造スピードは上がっているが、劇的に改善する程の生産量ではない。
なお、以前“首座の眷族”から買った中古のワープドライブ搭載型輸送船10隻が、クレイドル1号機に急遽増設されたドッキングベイに係留され、船と積まれていた品々が其処で検疫された事があったが、あれは一時的な処置である。何故ならクレイドル1号機には上記以外にも多くの役割があり、万一危険物質等で汚染されたら、多方面への影響が甚大なのだ。また上記以外にも、これまで地球には幾つかの物が持ち込まれているが、それらは突き抜けた天才である篠ノ之束が、直接検疫するという反則技で安全性が担保されているに過ぎなかった。加えて言えば篠ノ之束が直接検疫を行うにしても、持ち込む物の大きさによっては相応の隔離スペースと機材を予め準備しておかないと危険が伴うため、これまで持ち込めた物は極少量かつ小さい物に限定されていた。
このためカラードとしては―――実質的に束と晶の方針としては―――、検疫専用の施設を宇宙に造るつもりであった。しかし上記の理由からクレイドル1~2号機の転用が難しい上に、3号機の建造着手にも時間が掛かってしまう。どうにか出来ないか宇宙開発部門で検討していたが、結果はシャルロットの言葉通りであった。
「そうだよなぁ。ただ検疫施設は早く欲しいしな………。ん~」
晶は暫し考えた。先日束と訪れた宇宙文明の戦争跡地には色々な物があったから、出来れば早く行って回収したい。だがこのままでは随分時間が掛かってしまいそうだ。何か良い手は無いだろうか?
考えて考えて考えて、戦争跡地から色々な物品をサルベージしたいという思考から、何故かUFOキャッチャーが連想された。ゲームセンターにある、お金を入れて景品を取るアレである。
(いやいや、何考えてんだ俺………ん?)
ふと、閃くものがあった。UFOキャッチャーのクローが着いている部分って平べったい物もあったな?
(………なんか、やれそうだな)
更に考える。イクリプスで太陽系のアステロイドベルトから適当な
(………面倒だな。
上手く使えば
そこまで考えた晶は、シャルロットに答えた。
「もしかしたら、どうにかなるかもしれない。この件、ちょっと預からせてくれないか」
「何か考えがあるんだね。分かった。じゃあ部門の方には私から言っておくね」
「頼む」
こうして晶はシャルロットと別れ、一度本社地下にある自宅へと向かったのだった。
◇
自宅に帰った晶は、束の研究室で先程考えた案を話してみた。
「なるほどねぇ~。アリかも。でも、プッ、ププ、面白い。イクリプスが、UFOキャッチャーだなんて」
彼女の脳裏に、イクリプスの下面についたクローがガッチャンガッチャン動いて、
「オッケー。そんなに掛からないから、今度一緒にアステロイドベルトに行こうか。――――――あ、そうだ。ん~、どうしようかな?」
「どうしたんだ?」
「どうせならさ、中身も私達で造っちゃわない? 家の拡張用に資材は沢山用意してあるし」
カラード本社地下にある束と晶の自宅は、普通の家ではない。
「そうだな。そうするか。だけど一般の人も使えるようにしたいから、使う資材は選ばないと大変な事になるな」
言うまでもない事だが自宅に使われている資材は束が自重の欠片もなく新開発したものだ。迂闊に表に出して良い物ではない。
「でもそうすると、使える資材が結構限定されちゃうね」
束の脳裏に資材がリストアップされる。表に出しても問題無いレベルで施設で造るとなると、それなり程度の性能にしかならない。なので彼女は、自重しない代替案を出した。
「そ~だ。私専用と一般人用で二つ造ろうよ。そうすれば私と晶が外宇宙に行って持ち帰った物は私が責任を持って調べられるし、一般人用も造っておけば、貿易関連で入ってきた物はそっちで調べられるでしょ」
「手間じゃないか?」
「必要な手間だと思うな。それに一般人用の施設なんて、どうせ今後に備えた練習用でしょ。適当に
「なるほど。それなら余り手間じゃないか。因みにお前専用施設の方は?」
「私専用なんだから、当然資材も検査機器も最高性能!!」
「ダメ」
「え゛!? なんで!? どうして!? この前行った戦争跡地みたいなところから色々持ってくるなら高性能じゃないと!!」
「お前な。自重しない専用施設にして、万一施設が誰かの手に落ちたらどうするんだ? しかも検疫施設だから、多分置いておく場所は地球か月の周回軌道辺りだろ。加えて言えば専用施設にしたら管理人なんておけないから、普段は無人だ。俺がある程度技術力のある泥棒だったら絶対狙うぞ」
「え~~~~っと、蒼パルとか、IBISとか、セラフを置いておけば………」
「宇宙文明のハッキング、絶対に防げる?」
「う゛………」
苦しい言い訳とは本人も分かっているのだろう。束の視線が泳ぐ。そして表情がものすごーーーーーく残念そうだ。なので晶は代替案を出した。
「でも専用施設がダメって訳じゃない。やっぱりお前専用の施設があった方が何かとやり易いからな。だから、考え方を変えよう」
「どんな風に?」
「宇宙空間に用意するのは検査機器を内包した隔離空間だけで、検査機器から得たデータの解析はイクリプスでやるようにするっていうのはどうだ? もう少しイメージ的に言うと、何処かからか拾ってきた
「なるほどね」
相槌を打った束は、脳内で本格的に検討してみた。
イクリプスは元々、宇宙での活動拠点として設計したものだ。そして束の活動拠点とは、研究・開発拠点という意味でもある*3。このため搭載コンピューターの性能は非常に高い。検査データの解析程度なら全く問題無いと言えた。
(あれ? なら艦内に検疫用の部屋を造れば………
と思ったが、すぐに気付く。検疫する物が艦内に収まるサイズとは限らない。小物に対応する部屋は造っておいても良いだろうが、巨大物体への対応も考えておくべきで、晶の提案は悪くなかった。特にイクリプス以外にデータが残らないところが良い。
束は暫し考えを纏めてから口を開いた。
「どうせだから、イクリプスの方も改良しちゃおうかな」
「どういう風に?」
「イクリプスの下面に、イクリプス下部の円盤状ユニットと同じ位の大きさの円盤状ユニットを追加して、そこに検査・検疫用の機材を搭載して、巨大物体保持用のクローを着けようかなって。外見的には、こんな感じ」
束は空間ウインドウにイクリプスの外装データを呼び出して、お絵描きアプリを起動した。そうして描かれたイクリプスの姿を見て晶が思ったのは………UFOキャッチャーであった。もう一度言おう。UFOキャッチャーである。ゲーセンでお金を入れて景品を取るアレだ。クレーンの先端に着いているアレである。
(まぁ、確かにサルベージした物は俺達にとっては景品か)
そんなどうでも良い事を思いながら、会話を続ける。
「なるほど。艦内じゃなくて、外部で出来るようにするんだな」
「うん。艦内にも隔離区画はあるけど、安全を考えるんだったら、隔離区画とは言え艦内に入れる前に調べたいでしょ」
「そりゃそうだな」
同意する晶だが、戦闘に関わる人間としては無視できない点があった。
「下部に新しくユニットを追加したら、主砲の発射角度が取れなくなるぞ。それはどうする?」
イクリプスの船体下部には主砲のプラズマキャノンがある。そこに別ユニットを取り付けたりしたら、発射角度が取れなくなって戦闘に支障が出てしまう。
「あ、それもそうだね。ん~、あ!! 良い事を思いついた。どうせだから主砲も交換しちゃおう。甲龍の衝撃砲って空間自体に圧力をかけて砲身を作るタイプだから、射角制限ないでしょ。アレを転用すれば周囲360度何処でも狙えるじゃない」
「良いと思うけど、空間が荒れてる場所だと砲身形成出来なくて動作不良を起こさないか?」
「イクリプスはどんな場面からでも確実に脱出できるように入念にワープ妨害対策してるし、スターゲート展開能力もあるから、並大抵の妨害なんて問題にならないよ」
「人が、というか宇宙文明が作る人為的な妨害に対してはそれで良いかもしれないけど、例えば空間そのものが荒れ狂っている異空間とかなら?」
「ん!? ん~~~、確かに、その状況なら動作不良が有り得るかも………」
考え込む束を見て、晶は素直に思った事を口にした。
「でも通常空間じゃ有効な武装だと思うから積むとして、今ある主砲もさ、リフレクタービットが使えるレーザータイプにするとか、蒼パルに積んでる誘導レーザータイプにすれば射角の問題は解決しないか? 空間が荒れてたら真っ直ぐは撃てないかもしれないけど、空間で砲身を形成するタイプとは違って取り合えずは撃てるだろ」
「確かに攻撃手段が無くなるのと、取り合えず撃てるとじゃ、取れる手段がまるで違うもんね。よし。それでいこう。――――――っと、もう1つ考えておかなきゃならない事があった。宇宙で拾って、検査・検疫する物って1つとは限らないでしょ。むしろ複数あって当然だと思うから、それをどうしようかと思って」
「検査・検疫済みなら艦内に収めても良いけど、この前行った戦争跡地を見る限り結構大きい物も沢山あるよな」
「そうだね」
「ならさ、もう単純にイクリプスの上にコンテナを着けて、その中に放り込まないか?」
「かなり大きい質量体を動かす事になるけど、どうやって?」
「こんなの着けて」
晶は束がお絵描きしたイクリプスに追加で案を描き始めた。艦の両横にハサミ状の巨大なクローアームを描き、更に画面の端にアーム部分が折り畳まれた格納状態も描いておく。ついでにちょっと悪乗りして、「ハサミの部分からレーザーブレード!!」というコメントも追加する*4。
束は暫しの間じーーーっと追加案を見た後、口を開いた。
「良いかも。折り畳んでおけば普段は邪魔にならないし、展開したら質量体の移動とか、何かに船体に取り付かれた時に掴んで剥がせるし、デブリが沢山ある場所でもデブリを避けるんじゃなくて、腕を使ってデブリを除けるって事ができるから、使い勝手良いかもしれないね。うん。これも着けようかな」
こうして少しばかり話が脱線したついでに、イクリプスの改装計画が纏められた。
――――――イクリプスVer2――――――
追加武装
エネルギー衝撃砲
空間自体に圧力をかけて砲身を形成して
エネルギー弾を撃ち出す。
艦の周囲360度の全包囲に攻撃可能だが、
空間の安定性が著しく損なわれている場所では
使用出来なくなる可能性がある。
交換武装
船体下部の主砲を下記3つの中から選択可能。
ISの
10秒程度で武装交換が可能。
・プラズマキャノン
⇒武装特性:中弾速・高威力・中連射・無誘導
・リフレクタービット対応型レーザーキャノン
⇒武装特性:高弾速・低威力・高連射・無誘導
リフレクターで反射可能。
・誘導レーザー
⇒武装特性:低弾速・中威力・中連射・高誘導
追加ユニット
・船体上部に特殊機密処理が施されたコンテナユニット
どんな微生物も漏らさない&少々攻撃された程度じゃ
壊れないとっても頑丈なコンテナ。
コンテナそのものは
中身がある場合は
・船体下部に巨大物体保持用のクローが着いた円盤状ユニット
大きさはイクリプス下部の円盤状ユニットと同程度で、
内部には検査・検疫用機材が搭載される予定。
クローの握力は非常に高く、普通の船程度なら握り潰せる。
・船体両横にハサミ状の巨大なクローアーム
一対二本の作業用アーム。
普段は折り畳まれているが、使用する時に展開する。
基本的に検査・検疫の終了した物体をコンテナに入れる為に
使われる予定だが、フレキシブルに動くので汎用的に使える。
また相応に頑丈に造られる予定なので、船でありながら
格闘戦(物理)も可能になる予定。
腕は使う機会が多いと思われるため、固定装備とする。
このため
――――――イクリプスVer2――――――
「思ったんだけどさ、イクリプスをここまで弄るならお前用の検疫施設は要らなくないか?」
「ううん。外側だけ造ろうかな」
「外側だけ?」
「うん。理由は2つ。1つは拾ってきた物の保管庫として。一回一回地上に降ろすのも面倒だし、万一のリスクを考えたら宇宙に置いておいて、いざという時は纏めて消し飛ばせるようにしておいた方が良いでしょ。で、もう1つがトラップとして。さっき晶が言っていた通り、こういう物があると狙う人って必ずいると思うし、私専用の物が本人から遠く離れた場所にあるなんて知れたら、色々考えちゃう人が沢山いると思うの。だから、ね。ゴキブリホイホイみたいに使おうかなって」
ものすごーーーーく悪い顔をしている束がいた。
「なるほど。なら如何にもお宝がありそうな演出もあった方が良いな。最奥に厳重なセキュリティが施された部屋なり格納庫を用意して、頑張って開けた奴にご褒美を用意しておくか」
「どんな?」
「人の神経を逆撫でするメモ1枚」
束は一瞬キョトンして、笑い始めた。
「プッ、ププッ、ハハッ、なにそれ。良いね。悔しがる姿が見ものだね。どんな事を書いておこうか?」
「それは勿論――――――」
この後2人の話は盛大に脱線し、本題に戻るまで1時間程を費やしたのだった。
◇
1週間後、晶は束と共にイクリプスVer2で太陽系のアステロイドベルトに来ていた。
因みにイクリプスVer2の姿は非常にシュールで、平べったい艦の下に巨大物体保持用のクロー、両横にアーム部分が展開されたハサミ状のクローアーム、上にはコンテナが乗っているという訳の分からない形状だ。UFOキャッチャーに腕がついてコンテナを背負っていると言った方が良いだろうか? どうしようもなくチープな玩具感が滲み出ている。
が、乗っている当人達はご機嫌だ。
「船に腕って、やっぱり意外と真面目にアリだね。隕石の近くに寄っても腕をクッション代わりにして姿勢制御出来るし、物を掴めるし、小さい物なら腕で除けられるし、思った通り色々な事に使えそう」
ブリッジでハサミ状のクローアームを操作していた束が、そんな事を言った。本人の気分を反映してか、アームがバンザイしたりハサミ部分のレーザーブレードを展開してブンブン振り回している。地球圏内でやったら危ない事この上ないが、此処は宇宙で周囲には
「本当に単純に考えて出した案だったけど、良い感じだな。―――じゃあ、そろそろ持って行く
「そうだね」
センサーを起動して、周囲の
「1000メートルくらいの物があれば良いんだけどね」
「無かったら
「だね。――――――お、1200メートルサイズ。これにする?」
「そうだな。あ、そう言えば思ったんだけどさ」
「ん?」
「トラップとして用意するお前専用の検疫・研究施設だけどさ、外見もそれっぽくしてみないか?」
「どういうこと?」
「扉が着いただけの
今の地球文明の技術力は、クレイドルやマザーウィル級の物を頑張れば造れる、という程度でしかない。そこにキロメートルサイズの正八面体の宇宙施設がポンッと出来たら、そしてイクリプスが外宇宙に行く度にそこに寄っていたら、確かに小悪党は色々考えるだろう。
束はニヤリと笑った。
「良いね。それでいこう」
「オッケー。じゃあ、取り合えずアレをぶった切ってくるわ」
「いってらっしゃ~い」
晶は束に見送られてエアロックに移動し、
そして外に出たところで、
只の
2人がコアネットワークで話し始める。
(壁面が思ってたよりも綺麗だな)
(うん。あとはテックボットで壁面を磨くなり、タイルを張り付けて加工していけば、もっと凄い施設っぽく見えるようになると思う。――――――じゃあ晶。今度は真横から中心部を通すように突いてもらってもいいかな)
(ああ。でもちょっと待ってくれ。
武装の調整用インターフェイスを呼び出し、形成されるブレードの収束率を上げて細くしていく。そうして刺した後に徐々に太くしていけば、丁度良い大きさの穴を開けられるだろう。
(よし。じゃあやるぞ。ブレードを徐々に太くして穴を拡張していくから、丁度良いところで止めてくれ)
(オッケー)
晶は正八面体となった
形成されていたブレードが消え、開けられた穴を通して
(うん。良い感じ。じゃあ私も外に出るから、中心部にジェネレーターを設置して、自動工作機械群の初期設定をしちゃおうか。そしたら後は定期的に資材を放り込むだけで、勝手に中身を造ってくれるから)
(なんか日曜大工のDIYみたいだな)
(そうだねぇ~♪ えへへへへ~♪♪ また今度何か作ろうねぇ~♪)
とても上機嫌な束に、晶も嬉しくなる。真剣に研究している姿も宇宙進出について語っている姿もゴロゴログダグダしてる姿もエプロン姿もベッドの上で乱れている姿も良いが、2人でこういう事をするもの良い。
そんな事を思いながら待っていると、専用IS“エクシード”*6を展開した彼女が出てきた。背後からは複数の宇宙用テックボット*7によって、直径20メートル程度の灰色の球体が引っ張られてきている。施設用のジェネレーターだ。また更にその後ろからは別の宇宙用テックボット達が、各種資材が入ったコンテナを運んできていた。
(よし。じゃあ始めるか)
(うん)
そうして2人は、たった今開けた大穴に入っていった。まずジェネレーターを固定する台座の組み立てだ。本来人の手でやるような作業ではないが、この2人なら問題無い。コンテナから資材を取り出し組み立てている最中に、テックボット達が次に使う資材をコンテナから取り出し、2人にタイミング良く渡していく。
そうして小一時間ほどで完成した台座にジェネレーターを乗せて固定。自己診断プログラムロード。問題無し。火を入れる。
(よし。後は自動工作機械群の自動メンテナンスポットを設置して終わりだね)
これを設置しておけば、活動用エネルギー残量が少なくなったら勝手に戻ってきて充電され、その時に自動的にメンテナンスも行われる。
2人は作業を続けた。コンテナから大小様々な自動工作機械群を取り出し、メンテナンスポットを組み立て、初期設定をして、スイッチON。すると自動工作機械群は、入力されたオーダーを遂行するべくせっせと動き始めた。
その光景を眺めながら、晶は言った。
(じゃあ、一般人用の方もやるか)
(うん。サクッとやっちゃおうね)
こうして2人は日曜大工なDIYを続けたのだった。
◇
この数時間後、いつものホテルでカラードの記者会見が行われた。ただし発表者は束ではない。
「皆さんこんにちは。カラード宇宙開発部門長代理のシャルロット・デュノアです」
詰め掛けた報道陣の前には、
「今日の発表は、数時間前に
その言葉と共に、背後にある大型ディスプレイに2つの1000メートルサイズの隕石が表示された。片方は一般人が隕石と聞いたら素直にイメージするような楕円形でゴツゴツした表面だが、もう片方は隕石と言われても首を捻るだろう。綺麗な正八面体をしているのだ。
「まずは隕石らしい隕石の方から。こちらは端的に言えば、束博士が用意した今後宇宙文明と交流する際に必要となる検疫施設土台です。そして土台という言葉通り、必要最低限の物しか用意されていません。あるのは施設稼働用のジェネレーター、中身を拡張していく為の作業部屋、施設の姿勢制御ユニット、これだけです」
シャルロットは一度言葉を区切り、自身の言葉が報道陣に浸透するのを待ってから続けた。
「博士が最低限の設備しか準備しなかった理由ですが、それはこの施設建造を通じて、今後宇宙で活動していく為に必要となる建造技術や活動ノウハウを蓄積して欲しい、ということでした。クレイドルやマザーウィル事業である程度の蓄積はあると思いますが、より高めて欲しいということです。そして正八面体の方ですが、こちらは束博士専用の検疫・研究施設となります。――――――では、質問のある方はどうぞ」
すると会場にいる全ての報道関係者が一斉に挙手をした。とりあえず近くにいた者が当てられ、立ち上がる。
「A-TVの藤崎です。隕石らしい隕石の方の中身を拡張していく為の作業部屋、とはどのようなものでしょうか?」
「本格的な検疫施設を作るためには隕石の内部を掘削して拡張工事をする必要があるのですが、その作業員の生活・休憩・機材を置く為の部屋ですね。一応施設が本格稼働した後も使えるように、予め十分な性能を持つ酸素供給・水の浄化ユニットが設置されています。あと相応のスペースを持つ部屋を幾つか用意してありますので、働く作業員の要望に応じたレクリエーションルームを作って欲しい、ということでした」
「なるほど。ありがとうございます」
質問者が着席すると、すぐに別の人間が当てられた。
「B-スタジオのフィリーです。施設を2つ用意した理由はなんでしょうか? 1つにした方が効率的と思いますが?」
「効率を考えて1つの隕石内に2つの施設を同居させた場合、どうしたって幾つかの設備を共通で使う事になります。その場合、共通の設備を通じて物理的、或いは電子的に博士側の施設へと侵入される可能性を排除できません。そして博士の研究が万一盗まれて悪用された場合の危険性は、皆様お分かりかと思います。なので万全を期す為に別の施設としました。因みにどちらも束博士と社長が手作業で作ったものです」
「分かりました」
普通の政府や企業なら個人の専用施設など金の無駄遣いと言われるが、100%の手作業ならそんな事は言えない。むしろ土台を用意してくれた分だけ、感謝しなければならないだろう。
質問は続く。
「C-ニュースのレレイです。マザーウィルからの観測映像に映っているイクリプスの外見がこれまでと違うようですが、何か改装したのでしょうか?」
「はい。宇宙での作業用に幾つか装備を追加した、と言っていました」
背後の大型ディスプレイの映像が切り替わり、イクリプスVer2の姿が映し出される。
そして見た者は思った。特にクレーンゲームをする者、知る者は。難しい説明は必要ない。UFOキャッチャーの両横にハサミ状のクローアームが着いて、コンテナを背負っている。以上。どうしようもなく玩具っぽい。因みに後日の事だが、イクリプスVer2のデフォルメ人形がUFOキャッチャーの商品になり、稼働率が爆増したらしいがどうでも良い話である。
「な、中々、独創的な姿ですね」
「博士は気に入っているようでした」
会場に微妙な空気が流れたが、すぐに別の質問がとんできた。
「D-ラジオのポラリスです。隕石らしい隕石の方に造る検疫用の施設ですが、何処のメーカー、或いは政府に工事を頼むかは決まっているのでしょうか?」
「いいえ。その辺りはこれからになります。ただ人類共有の施設なので何処が工事を請け負っても、働く人員は広く募集して欲しい、という事でした。あと皆さん理解されているとは思いますが、束博士から必ず言っておいて欲しいという伝言を預かっています。――――――検疫を仕事とする以上、強い責任感と高い教養の持ち主である事を求めます。ここでの不手際や不正は、人類が生活する環境にとって致命的な毒となり得る事を強く認識して取り組んで下さい。という事でした」
この言葉は検疫施設が稼働した時、全ての職員に必ず教えられ、施設の出入口に掲示され伝えられていく事になる。
暫しの間をおいて、次の質問がなされた。
「E-ペーパーの高田です。月の衛星軌道にあるこの施設ですが、万一軌道を外れた場合の対応、安全対策はどうなっているのでしょうか? 束博士専用の方はアンサラーを安定的に運用している実績があるので大丈夫だと思うのですが、もう1つの方は一般人による運用が前提のようなので、その辺りをお願いします」
「基本的に軌道は自律調整されるので弄る必要は無いのですが、何らかの理由、或いは不測の事態で軌道変更しなければならない場合は、施設責任者の承認によって行えるようにしてあります。あと最悪の場合、パニック映画でよくあるような場合ですが、安全上の理由から手段は明かせませんが、環境に影響を与えない為の対策はされています」
「それは働いている人員の生命よりも優先される内容でしょうか?」
「反感を覚える方もいるかもしれませんが、その通りです。この施設が万一地球に落下した場合、物理的被害だけでも相当ですが、検疫中のものに未知の微生物が存在していて、もし拡散した場合の被害は計り知れないものになります。なのでもし地球への落下軌道をとった場合、速やかに対処する必要があります。繰り返しになりますが、この施設で働く人はそれを強く認識して下さい」
「なるほど。因みに月への落下軌道をとった場合はどうでしょうか?」
「現時点で確定ではありませんが、恐らく同じかと思います。というのも人的被害という点ではそうでもないかもしれませんが、あれだけの質量体が落下した場合、拡散する岩石は相当な量になるでしょう。それは月面での活動に大きなマイナス要因として圧し掛かるからです」
「回答、ありがとうございます」
人員の生命よりも優先されるという返答に不快感を覚えた者が一部いるのは事実だったが、安全における明確な方針の表明は宇宙に施設を造るにあたって絶対に必要なことだった。ここを曖昧にしておくと、非常時の全ての行動が個人の責任となってしまい的確な対処が行えなくなってしまう。それは被害を大きく拡大させる結果に繋がるだろう。リスクコントロールというのは、普段からの積み重ねなのだ。
こうして質疑応答は続いていくが、シャルロットはその全てを無難にこなしていったのだった。
スターゲート開通まで、残り2ヵ月を切った日の事である。
第188話に続く
宇宙文明と交流を持つにあたりどうしても必要だった検疫施設の目途がようやく立ちました。
一般人用の方はスターゲート開通に間に合うか微妙ですが、それでも目途がたったので物流関連の話も徐々に進んで行く事になると思います。
なお束さん専用施設の方は………多分RPGのラストダンジョン。人の神経逆撫でするトラップが沢山で、やっとの事で潜り抜けて最奥に辿り着いたらあるのはメモ1枚。
悔しがる姿が高解像度映像で保管された後、抵抗不可能なトラップで捕縛されて警察に引き渡されるでしょう。(悪趣味)