インフィニット・ストラトス ~迷い込んだイレギュラー~   作:S-MIST

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本編200話到達!!
本作を読んで下さる読者様方のお陰でここまで書く事が出来ました。
ありがとうございます!!
今後とも宜しくお願い致します。
そして今回は攻略&救出ミッション。
他の惑星にいる洗脳装置を取り付けられた宇宙人さん達の救出&都市攻略という凶悪な難易度ですが、理不尽な輩達による(相手にとって)理不尽な救出&攻略劇をお楽しみ頂ければと思います。


第200話 第3回外宇宙ミッション(後編)(イラスト有り)

  

 辺境のとある星系にある海賊の大規模拠点は、あらゆる悪意を内包した悪徳の都であった。海賊によって攫われてきた多種多様な種族の額には洗脳装置が取り付けられ、ありとあらゆる負の感情をぶつけられる捌け口(奴隷)として扱われ、壊れればゴミのように捨てられる。生きた証は何も残らない。

 宇宙文明においても、このような行いは許されていない。地球人類と同じような倫理観があった。実際、過去には正義感のある者がこの事実を突き止め、どうにかして救出しようとした事があった。しかし全て無駄に終わってしまった。意図的に残されていた希望がトラップとなり、闇に葬られてしまったのだ。

 その希望とは、洗脳装置を取り外せれば元の人格に戻る可能性があるということ。外科的な手術を用いての埋め込みではなく皮膚の上から取り付けるタイプであるため、取り外せば元の人格を取り戻せる可能性があるのだ――――――が、救出を考える者にとって、その希望こそが最も厄介であった。数多の悪党がいる拠点の中で数万人にも及ぶ多種多様な種族の額から洗脳装置を取り外して、惑星表面という重力の底から連れ出すなど、必要な手間暇を考えただけでのた打ち回る難題だろう。無論、先に強制的に確保して連れ出して、後からゆっくり取り外すというのも検討されたが、完全な洗脳下にある者は自身の命を顧みない。死ねと命令されたら何ら躊躇う事なく自殺してしまう。故に取り外しが先なのだが、数多の悪党がいる拠点で、万人単位の者から、秘密裏に、洗脳装置を取り外すなど不可能だ。

 正義感ある者はこの不可能を可能にしようと色々方策を考え、結果として機を逸した。探っているのがバレて、人知れず調べ上げた数々の情報と共に闇に葬られたのだ。

 以来、この宇宙海賊は各方面に手を伸ばしてこの世の春を謳歌していた。あらゆる悪徳な手段を使って表の者を篭絡し、靡かぬ者には消えてもらい、ついには“獣の眷族”というランクA文明相手にトラップを仕掛けられるところまできた。偽の大規模拠点を叩かせ、その功績をもって中枢へと息の掛かった者を送り込み、内部から浸食していく。

 中々手間が掛かったが、王制という中央集権体制なら、中央に息の掛かった者を送り込めればやれる事が一気に広がる。

 だが、と海賊のボスは思う。

 ここ数日で秘密基地が幾つも叩かれているのは何だろうか? 基地を叩けるような戦力が動けば分かったはずだ。しかし分からなかった。“首座の眷族”の連中だろうか? いや、あちらの動向には常に注意を払ってきた。完璧ではなくとも、動きがあれば何かしらの予兆は捉えられたはず。ならば“獣の眷族”で、こちらが掴んでいない動きがあったのだろうか? これも考え辛い。秘密基地があった宙域の軍には、下っ端とは言え子飼いを忍ばせている。何かあれば分かったはずだ。

 海賊のボスは知らない。息の掛かった軍人に功績を上げさせて中央に送り込む前段階、後々疑いの目を向けられないようにする為に、危険な目に遭わせる演出の舞台装置として選ばれた地球の者達が、どういう存在なのかを。フィスフィリスの一件を台無しにしてくれた連中だ。たっぷりとお返しをしてやらねば。そんな嗜虐心から選んだ連中が、戦うという一点において桁外れの適性を持つ連中であることを。

 海賊のボスは、相手を見くびるような性格ではなかった。嵌め殺す以上は完璧に嵌め殺すという気質の持ち主でもあった。故に相手が指定された宙域に到着した時点で、策が成るように手筈を整えておいた。

 しかし、地球の者達は未だに現れていない。まさかという考えが脳裏を過ぎる。だが海賊のボスは、その考えを振り払ってしまった。有り得ないだろう。宇宙(そら)に出たばかりの者達が気付ける訳がない。秘密基地を叩いたのは恐らく別の勢力に違いないと。だから部下達に、各勢力の動向を洗い直すように命じた。常識的な判断で、何も間違ってはいないはず――――――なのだが、海賊のボスは一抹の不安を覚えていた。

 そして、その感覚は極めて正しかった。

 遠く離れた地球で、この世の理不尽が殴り込みの準備をしていたのだから。

 

 

 

 ◇

 

 

 

 潜行戦隊の第1と第3戦隊が帰還後、カラード本社のブリーフィングルームには大規模拠点からの救出及び攻略作戦に参加する者が集められていた。

 束と晶、副社長のセシリア・オルコット、潜行戦隊の第2戦隊(元3年1組一般生徒の6名)、異常気象対応部門の簪と本音、レスキュー部門の一夏と箒と鈴(チームCharley)だ。

 

「――――――以上がミッションプランになる。何か質問は?」

 

 晶から伝えられた内容に、束以外の皆が思考を巡らせていた。

 数年前なら夢物語と笑われてしまうようなミッションプランだが、今は違う。出来るはずだ。その要となるセシリアに、皆の視線が集まる。

 すると彼女はニコリと笑いながら言った。

 

「問題ありませんわ。私とブルーティアーズ・レイストームの力、余すところなくお見せ致します。でも前衛の皆さんが居てこそなので、しっかり守って下さいね」

 

 今回のミッションは推定3万人を無法者(宇宙海賊)の大規模拠点から救い出す関係上、如何に早く多種多様な種族の額に取り付けられている洗脳装置を破壊出来るかに掛かっていた。

 そして普通ならば取り外すと説明されるところを破壊としているのは、それを行える者がいるからだ。

 

 ―――セシリア・オルコット。

 

 彼女が操るレーザーは、あらゆる目標に対して必中だ。それは真っ直ぐに飛ぶレーザーを狙い違わず目標に当てられるという意味ではない。愛機“ブルーティアーズ”がセカンドシフトして“ブルーティアーズ・レイストーム”になった時、主兵装であったレーザーは彼女の強い願いを受けて、認識下にある目標に対して強力に誘導されるロックオンレーザーに進化していたのだ*1

 しかも1発や2発しか撃てないというものではない。地球で彼女がその力を振るった時の戦果は、単機で旅団規模の軍隊と戦い(戦力比4000対1で)、不殺を貫いた上で武器のみを破壊して撤退に追い込むという理不尽極まりないものであった。

 だが今回の作戦領域である海賊の大規模拠点は、地球の都市のように多数の高層建造物があるため死角が多い。このため晶は仲間達と無人パワードスーツ部隊を拠点全域に降下させてデータリンクする事で死角をなくし、ロックオンレーザーで一気に洗脳装置を破壊する作戦を立てていた。

 なお余り知られていない事ではあるが、“ブルーティアーズ・レイストーム”のロックオンレーザーは2種類ある。

 1つは精密光学誘導システム-1“MT-SYSTEM”から放たれる多弾速射型で、これは1発1発が個別の目標に向かっていくタイプだ。回転が恐ろしく早く、弾幕の展開すら可能である。もう1つが精密光学誘導システム-2“MO-SYSTEM”から放たれる単弾複追尾型で、これは稲妻状の屈曲する光条が一本発射されて、ロックオンした敵の順番に沿って敵を次々と攻撃していくタイプだ。

 因みにこれほどの光学兵器がある“ブルーティアーズ・レイストーム”は継戦能力に問題があると思われがちだが、セカンドシフトした時点で超々効率化されていたレーザーシステムは量産機以上の継戦能力を実現している上に、つい最近だが束博士の手によってサブジェネレーターが増設され、更にエネルギーカートリッジシステムという一時的な出力増強システムまで組み込まれている。

 これに加えて元々あった弱点、物理装甲が薄くなった分の防御力をエネルギーシールドに依存している、拡張領域(バススロット)が非常に少ない、第1次形態を下回るパワーアシスト機能も、束博士の手によって直々に改修されている。名実ともにNEXT(N-WGⅨ/IS)に次ぐ単体戦略兵器と言えるだろう。

 また他にも後衛型セカンドシフトマシンの名に恥じない幾つかの機能が発現しているが、それらの機能も今回のミッションでは使われる予定になっている。

 そして戦闘力とは関係無いが“ブルーティアーズ・レイストーム”は、純白のドレスに蒼い鎧を纏った天使のような姿から、最も優美なISとしても知られていた。

 

 ―――閑話休題。

 

 セシリアの言葉に皆が肯いたところで、一夏が挙手をした。

 

「質問」

「どうした?」

「救出人数が推定3万人になっているけど、これを大幅に超えていた場合はどうするんだ?」

 

 3万人という数字は第1戦隊の皆が海賊の秘密基地を襲撃して得た情報だったが、リアルタイムで正確な数字が反映されているとは限らない。むしろ海賊に正確な数字を求める方が間違いだろう。多過ぎる場合は輸送船のピストン輸送も考えなければいけないし、ピストン輸送するなら大規模拠点を一定時間完全制圧して離発着の安全を確保しなければならない。何せ救助者を乗せる輸送船は、カラードが宇宙文明から購入した400メートルサイズの中古品だ。シールド機能はあるものの戦闘艦ではないので強度はお察し程度でしかない。送り込むのと離脱はアリコーンのスターゲート機能で直接行えるが、救助者を乗せている最中は自分達の手で守らなければいけないのだ。開けた場所に着陸している400メートルサイズのデカブツを、だ。時間が長くなる程に難易度が跳ね上がるのは自明の理だろう。

 晶が答えた。

 

「着陸地点の確保状況次第だが、可能な限りピストン輸送で運び出す。そして本当なら全員救出してハッピーエンドが最高なんだが、もしミッション中に海賊船団が戻ってきて頭を押さえられそうに(制空権や制宙権を取られそうに)なった場合は、その時点でミッションを終了させる。一応衛星軌道にはイクリプスで俺と束が待機するが、それでも限界はあるからな」

 

 かなり詰め込んだ場合の試算だが、400メートル級の輸送船なら1隻で3万人を運べる*2。救出対象がかなり多い場合を想定して2隻使うので、6万人までであれば1回で済む。しかしそれ以上であった場合、離脱させた輸送船から救助対象を降ろし、再度向かわせ、再び救助対象を乗せ、離脱というのを繰り返さなければならない。救助者を一時的に降ろす場所は以前宇宙の戦場跡地から拾ってきた、全長10キロメートルサイズの巨大な整備艦を使う予定となっていた。まだ修理中で本当に必要最低限の機能しか復旧していないが、艦のサイズがサイズなので収容するだけなら10万人でもいける。

 だから場所的な問題は無いのだが、乗り降りの時間だけはどうしようもない。こればかりは、6万人以下である事を願うのみだった。

 

「分かった」

 

 誰かを助けたいという思いを持つ一夏にしてみれば、途中で撤退する可能性がある、というのには思うところがあるだろう。しかし今回のようなミッションの場合、感情に任せた無茶が全滅に直結する可能性があるというのも彼は分かっていた。だからこそ、限られた時間に全力を注ごうと思い直す。誰かを助けるなら熱意だけでなく、時に冷静さも必要という事を、彼はちゃんと学んでいたのだ。

 

「他には無いかな? ―――無さそうだな。じゃあ、最後に言っておく。当たり前と言えば当たり前の話なんだが、このミッションは“獣の眷族”に隣接するランクB文明の領域外縁部に突入して行うミッションだ。従って場合によってはランクB文明の正規艦隊が出てくる可能性もある。海賊に袖の下を掴まされているだろう連中だが、正面からやり合うのはあらゆる意味で得策じゃない。だから確実に救助者達を助けて、かつ拠点に溜め込まれているあらゆる情報を駆使して、あちらに何も言えない状況を作り上げる必要がある。普通なら正気を疑われる高難度ミッションだろう。だけど、俺達になら出来る。他人に理不尽を突きつける奴らに、本当の理不尽を教えてやろうじゃないか」

 

 全員が肯くのを見て、晶は言った。

 

「では、準備に入ってくれ。24時間後にミッションを開始する」

 

 こうしてカラード単独による、他惑星にある大規模拠点攻略。しかも万人単位の他種族救出もセットという前代未聞のミッションが開始されようとしていたのだった。

 

 

 

 ◇

 

 

 

 そして36時間後、各員は予め決められた作戦開始位置についていた。

 ミッションに参加する者達は全員、既にコアネットワークで繋がっている。

 

(じゃあ皆、準備は良い?)

 

 束は空間ウインドウに映る各員のステータスを見て問題無い事を確認していたが、あえてコアネットワークで皆に尋ねた。静かに始めるのも良いが、開始の一言があっても良いだろう。すぐさま全員から問題無しと返事が返ってくる。

 

(オッケー。なら、始めるよ!!)

 

 大規模拠点の遥かな上空、衛星軌道上に光学迷彩で潜んでいたイクリプスの遮蔽が解除されると同時に、アクティブセンサーが全力稼働を開始する。取得するのは作戦領域の地形・重力・次元境界線の安定性など多岐に渡る情報だ。何故これらの情報が必要なのか? それはスターゲート艦によって生成されるスターゲートは、交通網として使われている開きっぱなしの固定型と違い使用する度に生成しているため、どうしても出口付近の影響を受けてしまうのだ。つまり条件次第では出口側スターゲートの展開位置が、演算座標とズレてしまう可能性があるということ。

 尤も広大な宇宙(そら)で単純な移動手段として使う分には、余り大きな問題にはならない。仮に1000キロや2000キロ程度展開位置がズレたとしても、宇宙文明基準の船なら問題無く自力航行で目的地に向かえるからだ。数光年ほどズレたとしても、精々ワープ1回程度の手間でしかない。

 しかし、強襲作戦で使うとなれば話は別だった。1000キロや2000キロもズレてしまえば、相手に気付かれ、警戒され、迎撃準備を整えられてしまう。だから相手の懐に確実に飛び込めるように、スターゲートの展開位置を補正するデータが必要だったのだ。

 なお、観測データを読み解いて補正データにする作業は、束にしか行えないものではない。スターゲート艦(アリコーン)を運用している元3年1組の面々でも可能だが、今回束が行っている理由は本作戦が時間との勝負であるため、最速で観測データを理解して補正データに変換できる自身が適任という判断からだ。

 そしてこれから行われるのは、宇宙文明の軍人がホットドロップ戦術と呼ぶ強襲戦術の極致である。

 比較的動きの読み易い星系内からのワープ強襲ではない。星系間を移動できる高性能ワープドライブ艦は高コストである上に、十分な戦闘能力を持たせようとしたら大型化が必須で更にコストが跳ね上がってしまう。艦隊編成など財源的な観点で言えば悪夢でしかない。

 だがスターゲート艦を使った強襲は違う。補正データが必要という前提条件こそあるが、普通の船で構成された艦隊を、星系外からピンポイントで展開させられる。ある程度発達した文明の主星系は強固な監視網が敷かれているが、その強固な監視網の外側からいきなり、ピンポイントで戦力投射可能という事実が、どれだけ相手に負荷を与えるかは想像に難くないだろう。

 

 ―――宴の幕が上がる。

 

 補正データを潜行戦隊の第2戦隊(元3年1組一般生徒の面々)が受け取ると、大規模拠点上空500メートル付近の空間が歪み、直後に開かれたスターゲートを通ってアリコーン2番艦と2隻の輸送船が出現した。

 間を置かずにアリコーンからセシリア以下IS部隊と1個連隊(108機)無人パワードスーツ(無人のType94 不知火)部隊が出撃して、データリンクで全ての情報がセシリアに集約されていく。膨大な量だが、この程度はまだ序の口だった。

 広範囲に展開したIS部隊が情報精度を上げる為に、ありったけのリコン*3拡張領域(バススロット)からコールして作戦領域全体にばら撒いたのだ。これによってあらゆる死角が消えていくが、同時に情報負荷も跳ね上がっていく。本業の電子戦機ですら厳しい負荷だろう。

 だがセシリアと“ブルーティアーズ・レイストーム”なら何も問題は無い。何故なら“ブルーティアーズ・レイストーム”はセカンドシフトした際に味方を使うという事を覚えていたため、通信能力が強化されるのと同時に多目的オペレーションシステムまでもが構築され、味方機との効果的な連携が可能になっていたからだ*4

 瞬く間に捕捉数が5000を超え、6000を超え、7000を超え、8000を超え、9000を超え、まだ増える。10000、20000、30000…………。

 このタイミングで、拠点上空に位置取る“ブルーティアーズ・レイストーム”から光が放たれた。レイストーム(光の嵐)の名の通り。彼女の願いの結晶。不殺の魔弾。決して標的を外さないロックオンレーザー。多弾速射型による光の嵐、その中を駆け巡る単弾複追尾型という一筋の雷光が、あらゆる不条理と理不尽を押しのけて、悪意に満ちた洗脳装置を狙い違わず次々と破壊し、意識はあるのに望まぬ行動を強いられるという悪夢から多種多様な種族を解き放っていく。

 次いでアリコーンから翻訳機を通じた多言語で、大音量で拠点全域への呼びかけが始まった。同時に方々に展開しているIS部隊が至る所に通信スピーカーをセットして、あらゆる場所に声が届くようにしていく。

 

『中央にある輸送艦に向かって下さい。信じる信じないは自由です。でも、あなた方を此処から連れ出します。繰り返します。中央に着陸している輸送艦に向かって下さい。障害は、こちらで排除します』

 

 言われて、すぐに行動を起こせる者などいない。この場にいる者達は今の今まで無法者達に理由なき暴力で散々虐げられ、奴隷同然の扱いを受けてきたのだ。そして暴力とは他者を従わせる最も簡単な手段だ。洗脳装置を取り付けられ、一切抵抗出来ない状態で振るわれた暴力という恐怖は精神にこびりつき、抵抗する意思を圧し折っていた。

 

 ―――今までは。

 

 誰よりも早く一夏が動いていた。近くにいた者に狙いを定める。恐らく今まで何百回と繰り返されてきたのだろう。全く躊躇のないやり慣れた動きで、緑色の肌をした宇宙人が猫耳の子供を殴ろうとしている。

 

「させねぇよ!!」

 

 パワードスーツでは絶対に間に合わない。第二世代ISでもちょっと遠い。だが格闘戦特化のセカンドシフトマシン、白式・雪羅の踏み込みは違う。振り上げられた手が降ろされる前に割り込み、逆に殴り飛ばし、輸送船が着陸しようとしている場所を指差しながら子供に言う。

 

「向こうに走るんだ。それで、この場所から出れる」

 

 翻訳機を通された機械音声だが、伝わったようだった。猫耳の子供は一歩、二歩と歩き、そして駆け出していく。この行動は周囲に一気に伝播していった。誰もが駆け出していく。無論、今まで奴隷の如く扱っていた者達がこれを素直に許す筈がない。掴み、引き寄せ、威圧的な暴力でもって従えようとする。

 しかし無駄なこと。この場に存在する全ての目と耳はセシリアに繋がっており、彼女はその使い方を心得ている。30000以上の洗脳装置をロックオンレーザーで破壊し続ける傍らで、この場にいる全ての仲間と108機の無人パワードスーツ(無人のType94 不知火)に攻撃ターゲットを指示。信頼できる仲間達の実力、機体性能、持っている武器の性能、向いている方角、ありとあらゆる要素が加味された上で、一切重複が存在しないそれは最短最速で敵を無力化する最適解だ。後衛型セカンドシフトマシンの本領発揮である。

 だが海賊共も、やられっぱなしではない。この拠点が生命体の居住に適さない惑星表面に造られている理由は、拠点を覆うエアシールドを解除した瞬間に、救出作戦失敗という結果を相手に突きつけられるからだ。だが海賊は死なない。宇宙(そら)に生きる者の常として、携帯型の簡易的な生命維持装置は常に持ち歩いている筈だからだ。持っていない奴がいる? そんな馬鹿は遅かれ早かれ死ぬので関係無い。

 よってこの大規模拠点を預かる海賊は、躊躇無くエアシールドの解除に踏み切った。宇宙から降り注ぐ有害な光線を遮るエアシールドが無くなれば、生命体には致命的だ。またエアシールドの解除は呼吸可能な大気や適切な温度管理が無くなる事も意味している。どう足掻こうと、救出作戦が成功する事は無い。

 

 ―――相手が、カラードでさえ無ければ。

 

 作戦を立案した晶は、エアシールドで大規模拠点が覆われていると聞いた時点でその手段が頭にあった。むしろ騙して悪いがで教育された人間が、これを意識しない訳がない。だから、ちゃ~~~~~~~~~んと準備されていた。

 

「予想通りですわね」

 

 セシリアがセンサーの反応を見て、傍らに浮かぶ仲間に言った。

 

「うん。さっすがしょうくん」

 

 気象コントロール用IS“九尾ノ魂”を扱う布仏本音だ。

 童女のように無邪気に笑った彼女は、右手を上げて続けた。

 

「じゃあ、いっくよ~」

 

 周辺の大気が気象コントロール用IS“九尾ノ魂”によって操られ、大規模拠点上空に高密度の分厚い大気層が形成されていく。宇宙から降り注ぐ有害な光線を、生命体に問題が無いレベルにまで軽減する大気層だ。同時に、エアシールドが解除された事で大気組成、気圧、気温といったものが生命体の存在を許さないものになろうとしていたが、こちらも気象コントロールにより影響が出る前に対処されていた。

 そして敵の一手を無力化したカラードの攻勢は続く。

 強襲作戦の肝は、初手でどれだけ相手にダメージを与えられるかだ。

                                

 ―――アリコーン2番艦、全VLSハッチオープン。

                                

 48機の多目的VLSハッチが次々と開かれていく。装填されているミサイルの弾頭は、小型核弾頭に匹敵する威力を持ちながら汚染が発生しないSDBMだ*5

 ターゲットは大規模拠点の四方、それぞれ20キロメートル程離れた場所の地下に確認された多数のエネルギー反応だ。総数は200を超えて更に増加中。イクリプスとのデータリンクでライブラリー照合。戦闘艦多数。地下ドックと推定。事前に入手した情報では、この拠点に常時警戒態勢にある防衛艦隊は存在していない。洗脳装置を取り付けた一般人という鉄壁の盾が存在していたので、秘匿性を優先して配備していなかったのだろう。しかし拠点である以上、戦闘艦が存在するのは自明の理で、荒事に慣れている海賊共が反撃しようと動き出したに違いない。地上の地形と思われていた場所が動き、地下への入り口が露わになっていく。隔壁が地形に擬装されていたのだ。

 もし離陸して地上に出てきたら脅威だろう。離陸出来れば、だが。

                                

 ―――発射!!

                                

 VLS斉射4連。48×4=192発のミサイルが四方に散っていき、1ヶ所あたり48発のSDBMミサイルが撃ち込まれる。小型核弾頭に匹敵するミサイルが地下という閉鎖空間に、だ。

 数瞬遅れて、大地震に匹敵する程の振動が大規模拠点を襲うと同時に、開放された幾つもの隔壁から天にも届こうかという巨大な火柱が上がる。だが、地下のエネルギー反応が全て消えた訳では無かった。かなりの数は減ったが、大きい反応が幾つか残っている。

 束からコアネットワークで、全員に連絡が入った。

 

(残ったのはこっちで片付けるから、救出に集中して)

 

 地上に出ようとしていた1000メートルに届こうかという巨体(戦艦級)が、遥かな天空からの閃光で射抜かれていく。衛星軌道で待機しているイクリプスの主砲だ。他の出入口から出ようとしていた艦も同様に射抜かれ、飛び立つ事無く爆散していく。その衝撃と爆炎が辛うじて生き残っていた戦闘艦を襲ったのだろう。エネルギー反応が次々と消えて行く。

 この間にも拠点での救出作戦は進んでいたが、海賊共も殴られっぱなしという訳ではなかった。

 地球で言えば戦車や戦闘ヘリに相当する多脚型や飛行型の戦闘用ドローンが多数起動して、牙を向き始めたのだ。海賊たち自身も重武装化して武器を向けてきている。地球との技術格差から、パワードスーツ部隊だけで相手取るのは無理だろう。1個連隊(108機)無人パワードスーツ(無人のType94 不知火)部隊とは言え、拠点故に相手の方が数も多ければ基礎的な性能も上なのだ。

 が、忘れてはいけない。

 ここにはIS部隊も投入されているのだ。そしてここにいる者達は性能に奢る事無く、それぞれの役割を十全にこなせる者達だ。

 コアネットワークに簪の声が響く。

 

(大まかには私が削ります。救助者に近い人たちは、皆さんでお願いしますね)

 

 IS学園在学中の彼女は、成績上位とは言え目立たない存在だった。最終成績において第8位という上位者でありながら、対IS戦闘では最上位陣に一歩届いていなかったというのも事実だ。しかし、何事にも相性というのがある。彼女の専用機“打鉄弐式”は、イレギュラーな存在の介入(薙原晶)により、本来の仕様とはかけ離れたものとなっているのだ。

 本来の仕様は高機動高火力型だったが、今の彼女が使う打鉄弐式は違う。極端な二面性を有する機体になっていた*6

 1つはフルアーマーを纏った重装甲・重火力形態。

 この形態は有澤製特殊複合装甲(フルアーマー)の防御力を信用し、回避は必要最小限というコンセプトで組み上げられていた。重量により低下した旋回性能はターンブースターによる超高速旋回で補い、真正面からの撃ち合いに持ち込む。小難しい事は一切しない。2門の連射型荷電粒子砲“春雷(しゅんらい)”と最大48発の独立稼動型誘導ミサイル“山嵐(やまあらし)”、場合によって持ち変えられる両手の重火器で敵機を粉砕するのだ。つまり固定砲台だ。このため近接戦対策として、フルアーマーには爆圧スパイクとクレイモア近接防御システムが組み込まれていた。迂闊に近づこうものなら串刺しかつ穴だらけである。

 もう1つはフルアーマーや重火器を排除(パージ)した高速格闘形態。

 超振動薙刀“夢現(ゆめうつつ)”を主武装とし、エネルギー配分をブーストに偏らせる事で、第3世代機でも上位の機動力や運動性能を実現している。高速でのヒット&アウェイを捉えられる者は、そう多くないだろう。加えて最近行われた改修でサブジェネレーターとエネルギーカートリッジシステムが追加されているため、基礎スペックがかなり底上げされていた。

 ただし一度高速格闘形態になってしまうと、フルアーマーの再装着には、他人の手を借りなければならないという欠点はそのままであった。何故ならこのフルアーマー、拡張領域(パススロット)に格納すると容量を食い過ぎて、予備弾薬の携行量を圧迫してしまうのだ。

 そしてこの機体には、非常に有名な追加兵装があった。その名を“ガトリンググレネード”。名前の通りグレネードをガトリング砲の連射速度で放つという狂気じみた武装で、絶対天敵(イマージュ・オリジス)の第二次来襲時、北京降下部隊が同武装を装備した日本のIS部隊によって、木端微塵に粉砕されている。

 

 ―――キィィィィィィン。

 

 構えられた長大な長物、“ガトリンググレネード”の砲身が高速回転を始めた。

 

 ―――トリガー。

 

 瞬間、海賊共は自身の正気を疑った。

 絶え間ない爆発という表現が生温い程の連続した爆発が、あらゆるモノ全てを、一切合切の例外無く薙ぎ払っていく。戦闘用ドローンは刹那の間すら耐えられず木端微塵になり、射線付近にいた海賊仲間は肉片すら残っていない。建物を遮蔽物として使っても意味が無い。建物ごと、1秒と持たずに吹き飛ばされる。火力が戦場の女神という格言は宇宙にもあるが、敵にしてみれば悪魔以外の何者でもなかった。

 だから海賊共は悪魔を倒す為に接近する。見た目からして鈍重そうなのだ。包囲して集中砲火で、或いは強力な近接武装で――――――近距離に近づいてきた者共は例外なく薙ぎ払われた。全方位に放たれたクレイモア近接防御システムによる散弾攻撃だ。そうして超重装甲重火力の打鉄弐式と射撃戦を強制されてしまえば、地球製の個人火器より遥かに強力なレーザーライフルやプラズマランチャーで武装しているとは言え、勝てる訳がない。只々圧倒的な火力による蹂躙戦だ。

 ならば一般人を盾にすれば良いと、別の海賊共が輸送船に向かって走る一般人に手を伸ばす。あれほどの火力なら誤射の可能性も非常に高くなる。助けたくても助けられまい。

 ある意味で正しい判断だが、それが可能かどうかは全くの別問題であった。

 

「させない!!」

 

 箒の操る紅椿が背部から2つのビットを分離して、一般人に向かう海賊を弾き飛ばす。直後、鈴の操る甲龍が一般人をカバー。更に迫りくる有象無象どもを龍咆*7の速射で薙ぎ払っていく。

 こうして全てが同時進行で進んでいく中、イクリプスで待機している晶は舌打ちしていた。

 戦闘範囲が拡大していく程に、洗脳装置を取り付けられている者達の捕捉数が増えていく。現時点で46000。この数に比例して海賊も多いが、地下ドックと共に戦闘艦を先に潰している以上、所詮は歩兵でしかない。ISレベルの戦闘兵器が存在する可能性もあるが、これまで得た様々な情報から推測するに、精々強力なパワードスーツや巨大兵器に相当するようなデカブツが存在する程度だ。ISのように個人が超音速で空を駆け、武装を量子変換によって取り出すタイプは確認出来ていない。そして最大の制圧能力を持つセシリアが洗脳装置の破壊を優先しているため、有象無象が数に任せて押し寄せているように見えるが、戦力的な意味では全く心配ない。戦闘力の桁が違うのだ。補助として活用している無人パワードスーツ(無人のType94 不知火)部隊も、今のところは問題無く機能している。無人機単独での運用はAI制御故の動きの堅さがあるが、“ブルーティアーズ・レイストーム”の多目的オペレーションシステムで統合運用されている今、108機全てが互いに互いをカバーする有機的な連携行動で数の差をものともしない働きを見せている。

 だから問題は、要救助者の数なのだ。捕捉数が48000を超えた。まだ増え続けている。60000を超えれば輸送艦の往復が必要になってしまう。

 晶はコアネットワークで全員に伝えた。

 

(外部アナウンスで、もし人が残っている状態で輸送艦が離陸しても必ず戻ってくる事を併せて流してくれ。要救助者がパニックを起こしたら致命的になる)

 

 続いて、地球側に残っているシャルロットにコアネットワークを繋ぐ。

 

(救助者が予定よりも随分多い。ピストン輸送が必要になるかもしれない)

(了解。多いってどれくらい?)

(捕捉数48………今、49000を超えた)

(作戦領域のカバー率は?)

(地上87%、地下は今パワードスーツ部隊が突入した)

 

 地下にISをすぐに突入させなかった理由は、閉鎖空間で待ち伏せされた場合、如何にISであってもダメージを免れない可能性があるからだ。敵側の立場に立てば、ISを脅威と思ったなら瓦礫という圧倒的質量で圧し潰す事も考えるだろう。よって使い捨て可能な無人パワードスーツ(無人のType94 不知火)1個中隊(12機)を先行突入させたのだった。

 そしてすぐに地下情報が更新され始める。相応に抵抗があって無人機もダメージを負ったが、それは問題じゃない。修理すれば良いだけの話だ。問題は、発見された要救助者の数と状態だ。多種多様な種族がいる。地球人と殆ど同じ者。犬耳の生えている者。翼の生えている者。角のある者。蟻のような者。モグラのような者。色々だ。総数約5000。これだけの人数を連れ出すだけでも大変なのに、種族が違っていても一目で分かる程にやせ細って弱っていると分かるような人達が、だだっぴろい空間にゴミのように放置されている。しかも傷口が膿んでいる者までいる。玩具として連れ去って、壊れたから捨てる。そういう感覚なのだろう。でなければ、こんな事は出来ない。

 この光景をモニターした晶は、暫し黙り込んだ。

 彼は自身が善人であるとは思っていない。むしろ相当に好き勝手やっている人間だ。敵だと思った相手には容赦しないし、愛人は沢山いるし、大事な相手は思いっきり依怙贔屓している。時々の状況に合わせて平等っぽく見えるような小細工はするが、この大方針は変わらない。だから、こう思った。

                                

 ―――こういう事をする奴らとは相容れない。

                                

 善悪の問題ではない。正義を志す者同士でも相容れない事があるように、好き勝手やる者同士でも相容れない事がある。モニターの光景を見て素直に感じたのは嫌悪感で、相容れないという感情だ。他人に理不尽を突きつける奴らに、情けも容赦も必要ない。奴ら以上の理不尽で叩いて潰して踏み潰していこう。つまりこれまでの行動と変わらない訳だが、強く思った。それだけの話だ。

 しかしその前に、この人達をどうにかして救出する必要がある。ではどうやって? 発見位置は地下500メートル。自分達では歩けなさそうなので運ぶ必要があるのだが………無人パワードスーツ108機を総動員したとしても、地下500メートルから5000人を運ぶのにどれ位かかるだろうか? 直通のエレベーターがある訳でもない。ふと思った。エレベーター?

 晶は傍らにいる束に尋ねた。

 

「なぁ。“クリスタルルーム”って今回持ってきてるか?」

「え? うん。アレって“エクシード”のオプションパーツだから、ちゃんと積んできたよ」

 

 “クリスタルルーム”とは束がアラライルやスノーとの直接会談に使用した場所で、展開前はトランクケース程の大きさだが、展開すると直径100メートルほどの半球状の土台が出現し、その上にガラスのように透き通った半球状のドームが構築される。中は純白のタイルが敷き詰められ、中央にはドームと同じように透き通った素材のテーブルと椅子が設置されるようになっていた。重力制御も完備され、中に充填する大気組成もかなり自由に弄れるので、他文明の者が相手でも使える“装備”ではある。

 

 ―――ここで「ん?」と思った人の感性は正しい。

 

 “クリスタルルーム”は束の専用IS“エクシード”*8のオプションパーツとして造られた装備品なのだ。このためエネルギーシールド機能や、“エクシード”が持つ重力制御能力を増幅する機能も持っている。戦闘艦50隻の集中砲火を防ぎ、かつ瞬殺したと言えば、どれほどの暴力かが分かるだろう。

 だが今回は、ちょっと違う使い方をする。

 

「ならさ、今発見した人達のところまでコジマライフルでブチ抜くから、“クリスタルルーム”をエレベーター代わりにしても良いか?」

「あ、なるほどね。良いよ」

「ありがとう。助かる」

「何言ってるの。当然でしょ」

 

 返事を聞いた晶は、全員にコアネットワークを繋いだ。イレギュラーが無ければ出撃する予定は無かったが、他に速やかな救出手段が無い以上は仕方あるまい。

 

(これからイクリプスも降下する。繰り返す。これからイクリプスも降下する。目的は地下500メートルで発見した人達を運び出す為だ。コジマライフルで地下までブチ抜いて、“クリスタルルーム”をエレベーター代わりにする)

 

 仲間達全員が息を呑んだ。戦闘目的で無いとは言え、晶と束博士が同じ戦場に出てくるのだ。

 そうしてアリコーン2番艦の隣にまで降下してきたイクリプスから、“NEXT(N-WGⅨ/IS)”を展開した晶と、“エクシード”を展開した束が飛び立つ。

 

(全機へ。始めるぞ。巻き込まれるなよ)

 

 “NEXT(N-WGⅨ/IS)”の両手に緑の光が収束していく。拡張領域(バススロット)からコールされるのはARSENIC(コジマライフル)だ。

 束によって改良されたお陰で、ここではない別の世界(ACFA世界)のように汚染を引き起こす事は無い。が、収束時の威力は折り紙付きだ。こいつでドイツにあった地下施設から脱出する為に、岩盤をブチ抜いたのは良い思い出だ。

 攻撃座標確定。両手のARSENIC(コジマライフル)を地下へと向けて、エネルギーチャージ開始。

 センサーが検出した余りの超出力に、仲間達ですら目を見開いた。

 注意喚起の為にカウントダウンが行われ、トリガーが引かれる。

 瞬間、出現したのは直径200メートルにも及ぶ巨大な緑の柱だった。触れたもの全て、一切合切が超エネルギーの奔流に存在を許されずに消えていく。光が消えた時、大規模拠点には大穴が開いていた。地上から地下最下層を超え、更に数千メートルにも及ぶ縦穴が出来上がっている。

 戦場が静まり返り、抵抗していた全ての海賊共が空を見上げている。根源的な恐怖が動きを止めさせたのだ。

 晶はオープン回線を開いた。翻訳機を通しているので機械音声だが、十分だろう。

 

『海賊共に告げる。直ちに抵抗を止めろ。聞く聞かないは自由だが、こちらは貴様達に容赦する気など無い。邪魔をするなら排除するだけだ。俺の手を、煩わせるな』

 

 圧倒的な強者にのみ許される一方的な宣告。だがこれを交渉のチャンスと取った海賊もいた。

 オープン回線で返答がある。

 

『分かった。だから――――――』

 

 晶はそれ以上の発言を許さなかった。

 オープン回線なので発信位置の特定は容易い。

 右手のARSENIC(コジマライフル)拡張領域(バススロット)に格納して、代わりにハンドレールガン*9をコール。セカンドシフト時に発現した武装の1つで、EN物質変換により弾数無制限。NEXT兵器で最強のグレネード(老神)を超える衝撃力と破壊力をマシンガンの連射力で発射するイカレ武装だ。

 銃口を向ける。ターゲット周辺には仲間も救助対象もいない。トリガー。

 一区画丸ごと跡形も無く消し飛ばした上で、冷たく言い放つ。

 

『誰が発言を許可した? お前達に許されたのは戦闘行為を止めて、こちらの邪魔をしないこと。ただそれだけだ』

 

 この時、晶はこうする理由を皆に見せていた。先程地下で無人パワードスーツ(無人のType94 不知火)が見つけた、あの場所の映像だ。

 だからだろう。仲間達の中で最も人道的な一夏ですら、晶の行動を止めなかった。

 そうして大規模拠点から音が消えたところで、“クリスタルルーム”が縦穴を降りて行く。辛うじてだが歩ける者は歩いて乗ってもらい、そうでない者は無人パワードスーツ(無人のType94 不知火)によって運ばれ、“クリスタルルーム”で地上へと上げられていく。

 人数が多いので時間はかかったが、幸いな事に横槍が入る事なく全員を運ぶ事ができた。

 晶はそれを確認してから、運び出しに使っていた縦穴を降下し始めた。束からコアネットワークが繋がれる。

 

(どうしたの?)

(こういう所の場合、最下層にコンピュータールームみたいなものがあるのはお約束じゃないか。折角大穴を開けて最下層まで直通で行ける訳だし、今の内に色々頂いておこうと思ってね)

(なるほどね。私も行くよ。――――――セシリア、地上は任せるね)

(任されました。どうぞお気を付けて)

 

 この後、束と晶は集められていた全ての情報を抜き出した上で、メインリアクターをオーバーロードさせた。海賊共を1人として生かしておく気が無いからだ。そうして仲間達を先に撤退させ、衛星軌道から大規模拠点が完全消滅したのを確認してから、2人も撤退したのだった。

 

 

 

 ◇

 

 

 

 だが、束と晶は地球に直接帰らなかった。

 今回の件の黒幕、見知らぬ誰かにキッチリと分からせるためだ。残念ながら個人まで特定は出来なかったが、本拠地だろうと思われる複数個所のデータは入手できた。

 地球とは別方向の辺境で、“首座の眷族”も“獣の眷族”の手も及んでいない深宇宙。一番怪しいのは巨大な恒星が放つ様々な電磁波や光線がセンサーを阻害し、遠距離からの探知を極めて困難にする天然の隠れ家とも言える星系だが、周囲にある複数の無人星系も同様に怪しい。その複数の星系には資源採掘用の自動機械群が降ろされ、得られた資源は完全にオートメーション化された工場で加工され、フロント企業を通して輸出され、海賊の強力な資金源となり、表の世界を浸食する程の武力を与えていた。5000隻を超える艦隊で、全長50キロメートル級の旗艦級戦艦を複数擁する正規艦隊規模だ。宇宙の方々に散って活動している船を含めれば、10000隻を超えるかもしれない。

 また艦の整備用コロニーやリフレッシュする為の歓楽街が詰め込まれたコロニーも複数あり、最早海賊という括りは正しくないだろう。国家を超えて1つの文明と言える程の巨大さで、やろうと思えば他の文明への侵略戦争すら行える。それほどの規模だ。やらないのは寄生した方が甘い汁を吸えるから、という海賊らしい考えからだろう。これほどの勢力だ。並大抵の方法で根絶やしになど出来まい。

                                

 ―――並大抵の方法なら。

                                

 最も怪しいと睨んだ星系に来たNEXT(N-WGⅨ/IS)は、無言で複数のスターゲートを展開した。移動する為ではない。理不尽を叩きつける為だ。

 1つ目のスターゲートは銀河系の何処かに存在するアステロイドベルトに繋げ、2つ目のスターゲートは銀河系の何処かに存在するブラックホール付近に、3つ目はブラックホール付近から此処に。

                                

 ―――これこそが、絶対天敵(イマージュ・オリジス)を滅ぼした方法。

                                

 NEXT(N-WGⅨ/IS)が展開できるスターゲートの直径は最大約100キロメートル。通れる限界ギリギリの巨大隕石をブラックホールに向かって落とし、光すら呑み込むシュワルツシルト半径まで加速させた上で、再度スターゲートを通過させて対象にぶつける“隕石落とし”。

 これを防ぎたいならNEXT(N-WGⅨ/IS)と同じ能力か、物理衝撃を完璧に無効化できる別種の技術が必要になる。どちらも海賊が持てるようなものではない。更に言えば、これは一発で終わるものでもない。文字通り、光の速さで降り注ぐ“隕石雨”なのだ。

                                

 ―――さぁ、くたばれ!!

                                

 どれほど強固な警戒網も防衛戦力も意味がない。海賊共が地道な努力で築き上げた数千隻の艦艇が瞬く間に砕け散り、コロニーが崩壊し、あらゆる人工物が灰燼と化していく。だけでは終わらない。巨大隕石から分離した破片が星に落ちた。衝撃で地殻が割れ、大気層が消し飛び、地軸が傾いた結果、海賊共の資金源となっていた、採掘設備や完全オートメーション化された工場が一切の例外無く残骸となっていった。

                                

 ―――これを、怪しいと睨んだ全ての星系で行っていく。

                                

 何処かには黒幕がいるだろう。仮に生き残れたとしても、組織力の全てを失ってしまえば、もう悪巧みは出来ないだろう。欲を言えば自分の手でキッチリ止めを刺しておきたいところだが、悠長に捜査していては逃げられてしまうので、この程度で許してやろう。

 こうしてカラードの第3回外宇宙ミッションは終わりを迎えたのだった。

 後は、色々な後始末である。

                               

 ―――大規模拠点を地下まで撃ち貫くコジマライフル―――

                               

 XINN様より頂きました。感謝です!!

 諸事情により途中挿入だと都合が悪いので、

 一番最後に追加してます。

 

【挿絵表示】

 

                               

 ―――大規模拠点を地下まで撃ち貫くコジマライフル―――

                               

 

 

 第201話に続く

 

 

 

*1
セカンドシフトの元ネタはSTGの名作(と作者は思っている)レイストーム。

*2
リアルのアメリカ空母、全長約300メートルで乗員が約5000人。

*3
ACVに登場した小型偵察機。地面に設置するタイプ、空中を浮遊するタイプ、自機に追従するタイプと様々なタイプがある。

*4
第88話でセカンドシフトした際に追加された能力。

*5
元ネタは空のACのADA-01 ADLERが装備する広域殲滅兵器。

*6
完成は第96話にて。

*7
空間自体に圧力をかけて砲身として衝撃を撃ち出す衝撃砲。

*8
元ネタは「魔法少女リリカルなのはStrikerS 高町なのは エクシードモード」。白と蒼を基調としたジャケット、ビスチェ、ロングスカートという服装にトレードマークのウサミミ型ヘアバンドを身につけています。なお良い子の皆さんにはどうでも良い事ですが、スカートの下は白と蒼を基調としたズボンなので、宇宙空間で下から覗いても眼福な光景は拝めない仕様となっております。

*9
外見はACVDのラスボスN-WGⅨ/Vが持つ右手の大型ライフル。




今回、区切りの良い本編200話という事で盛大にやらせて頂きました。
相手にしてみれば「どうしろってんだよ!!」と叫びたくなる程に理不尽な蹂躙戦。
お楽しみ頂けたなら幸いです。
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