インフィニット・ストラトス ~迷い込んだイレギュラー~   作:S-MIST

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無理無茶無謀を押し通して不可能を可能にする。
反動は大きくてちょっと逆風も吹きますが、最後は――――――というやつです。
お楽しみ頂ければ幸いです。


第201話 第3回外宇宙ミッションの後始末色々(IS学園卒業2年目の5月下旬~6月)

  

 第3回外宇宙ミッションを終えて地球に戻った束は、すぐにアラライルとスノーに連絡を取った。

 内容が内容なので、秘匿回線でだ。

 

『数日ぶりですね。仕事が一段落したので連絡させて頂きました』

『一段落、かね?』

『一段落、ですか?』

 

 先にアラライルが、次にスノーが応じた。

 そして束はニッコリと笑いながら結果を伝えた。

 

『ええ。一段落です。探し出した海賊の拠点から、59862人の一般人を救出しました。種族は様々です。受け答え出来る者には名前や種族、生まれた場所などの聞き取りを行っていますが、明らかに治療が必要な者が5000人以上います。ですがこちらでは治療出来ませんので、早急に迎えを寄越して下さい』

 

 アラライルが怪訝な表情で聞き返してきた。

 

『すまない。翻訳機の故障かな? 人数をもう一回言ってくれないか』

『59862人です』

『………色々と聞きたい事はあるが、取り合えず先に手配しよう。準備をするから、救出者のリストを送って欲しい』

『勿論です。まだ全員ではありませんが、取り合えず聞き取りした分を先に送ります』

 

 束が手元の端末を操作すると、2人に作成途中の救助者リストが送られた。

 それを見たスノーが言う。

 

『酷い。それも、こんなに………』

 

 リストには救助された時の状況も添付されていた。地下に突入した無人パワードスーツ(無人のType94 不知火)の記録映像だ。多種多様な種族がいる。地球人と殆ど同じ者。犬耳の生えている者。翼の生えている者。角のある者。蟻のような者。モグラのような者。その誰もが一目見て分かる程にガリガリでやせ細り、傷口は膿んでいて、だだっ広くて何もない、薄暗い部屋に放置されているのだ。

 映像を見た2人は揃って少し待って欲しいと言って、回線を繋いだまま手元で何かを書き、部下に指示を出していた。

 束はその様子を眺めながら暫し待っていると、アラライルが口を開いた。

 

『待たせたね』

『いえ。仕事が早くて何よりです。どれくらいで着きますか?』

『取り急ぎ、地球行きスターゲートの防衛艦隊から医療船を派遣させる。ゲートを通るだけなので、すぐにも治療に入れるだろう。だが流石に、その人数は対応限界を超えている。スノー氏の方はどうかね?』

『直通のスターゲートが無いのが悔やまれます。72時間はかかるかと』

 

 束は思った。宇宙人の身体構造や体力がどの程度かは分からないが、恐らく間に合わない者が出るだろう。折角救出したのに死なれたら目覚めが悪い、とは言わないが、どうせなら生きていて貰った方が良い。なので、手を出す事にした。どうせ救助者の口から伝わるのは時間の問題なのだ。

 

『それだと間に合わない者が出ると思うので、こちらから迎えに行きます。何処の星系に行けば良いですか?』

『え? 迎えに? ちょっと待って下さい。どういう意味でしょうか?』

『言葉通りです。イクリプスもアリコーンもスターゲートを展開できるスターゲート艦なので、出港さえ可能なら道中はショートカットできます』

 

 スノーは束の言葉を理解するのに時間を要した。宇宙の常識的に、スターゲート艦は最先端テクノロジーを詰め込んだ超高級艦だ。運用には常に細心の注意が払われ、行動は常に護衛艦隊と共に行われる。当たり前だろう。偵察情報が必要とは言え、星系間という超長距離を艦隊ごとピンポイントでジャンプさせられるのだ。戦術・戦略的意味だけでなく、輸送という一点に絞っても大きな価値を持つ。味方にしてみれば絶対に失ってはならない艦で、敵にしてみれば最優先攻撃対象だ。

 同時に、地球側の事情も脳裏を過ぎる。今現在、地球文明で実用的な宇宙船を造れるのは束博士だけなのだ。地球の何処の国家も企業も造れない。そしてこの“天才(束博士)”がイクリプス1隻とアリコーン3隻しか用意していないという事は、これが個人で用意して運用可能な限界数なのだろう*1

 つまりイクリプスが動くにしてもアリコーンが動くにしても、スターゲート艦の単独行動になる。仮に艦隊編成をしたとしても、最大で4隻にしかならないのだ。

 これでは良からぬ事を考える輩が出かねない。もし鹵獲できたら使い道は多岐に渡り、莫大な利益が見込めるからだ。それこそ善意と利益を天秤に掛けて、誤った判断をしてしまう程に。

 無論、スノーはイクリプスの戦闘力が極めて高い事を知っている。ワープ不能宙域で助けられた者の中には、“獣の眷族”もいたのだ*2。その後に行われた周辺宙域の調査で、海賊船の残骸が多数発見されている事からも間違いない。アリコーンも束博士自らが手掛けた船で、今回のミッションで結果を出している。だが悲しい事に、全ての者が情報を正しく認識できる訳ではない。地球文明は所詮ランクD文明。調査結果は何か恣意的な力が働いたもの………と思う者がいないとも限らない。

 なのでスノーは、不要なトラブルを避ける為に言っておく事にした。

 

『束博士。有り難い申し出ではありますが、少々無防備ではありませんか。スターゲート艦を単艦で動かすなど、悪巧みをする者にとっては美味しそうな獲物が1人で出歩いているのと同じです』

 

 束は一瞬キョトンとした。まさか宇宙人さんが、それもこういう場で注意喚起してくれる人がいるとは思わなかったからだ。少しだけ嬉しくなって、ニッコリと笑いながら答える。

 

『ご忠告感謝します。ですが大丈夫です。ちゃんと安全策は講じていますので。それとも、何かをする気なのですか?』

 

 少々茶目っ気を出した答えの分かり切っている問いに、スノーは大真面目な返答をした。

 

『しません。我々の同胞も含めて、多くの者を助けてくれた恩人に失礼が無いように徹底させます。ですがその、世の中には善意を金儲けに利用しようという輩もいるので、注意して下さいという話です』

 

 こう言われて、悪い気はしない。だがそれはそれとして、出歩く時に大名行列のように大勢を連れ歩くなど御免被る、というのが正直なところだった。なので当たり障りの無い返答をする。

 

『無論注意はしますが、こちらがそちらを疑い過ぎれば、間に合わない人が出る。なら何処かで折り合いをつける必要があるでしょう。――――――あ、先に言っておきますが、私は別に人情家ではありませんよ。ただ折角助けたのですから、可能なら帰してあげたいと思うだけです』

 

 人はそれを人情家というのだが、スノーとアラライルは敢えて触れなかった。篠ノ之束は、こういう人間なのだろう。

 こうして“首座の眷族”と“獣の眷族”の船が地球圏に訪れ、救助者を収容している整備艦*3で応急処置を施した後、両文明の船によって各々の文明へと移送されていったのだった。

 因みに束もスノーも、元々の依頼については一切触れなかった。

 カラードにしてみれば依頼を遂行していないので、話題に上げれば依頼失敗の話をしなければならない。“獣の眷族”からしてみれば生存が絶望視されていた同胞を救ってくれた。しかも医療チームの速やかな移動に協力もしてくれている。それでいて依頼の切っ掛けとなった海賊共の動きは鎮静化している。ならば依頼の成否に拘る必要は無いという訳だ。

 というのは表向きの理由だった。

 何故ならカラードにしてみれば、今回のミッションは非合法活動のオンパレードなのだ。最後の救出ミッションこそ深宇宙で何処の文明圏にも属していなかったが、その前段階では他文明の領域内で好き勝手に動き回っている。一応カバーストーリーは作ってあるが、そもそもの依頼内容は偵察であって海賊拠点の破壊ではない。つまり明らかに依頼された内容以上の行動を他文明の領域内で行っているため、厳密に良し悪しを問われると非常に厳しいのだ。加えて言えば他文明の領域で情報をばら撒く情報戦、海賊拠点を叩いて情報を得る為の武力行使等は、完全に完璧にこれでもかというくらい領有権の概念を蔑ろにしている。証拠は残していない筈だが、状況証拠として非常に疑わしいのは誰でも思うだろう。なので、触れたくないのだ。

 “獣の眷族”にしてみれば、依頼の場で晶が「末端の行動を暴いたところで意味はありません。すぐに対処されるだけです。やるなら盤面ごとひっくり返して、相手の行動を強制的に変えさせてやらないといけない」と言っているのだ。証拠の有無に関係無く、カラードが秘密裏に色々動いたと当たりをつけるのは当然だろう。また救出作戦が行われる切っ掛けとなった情報は、束博士自身が「指定宙域に向かう途中で宇宙海賊と交戦しまして、退けたついでに根城も叩いたのですが、その際に見つけたものです」と言っているので、最低でも1回以上は自発的に仕掛けている。他にも疑わしい残骸が山ほどあるので、領有権については幾らでも突っ込めるだろう。だが同胞を救ってくれた恩がある。なので領有権を無視した行動を認めさせた上で、同胞を救ってくれたのでプラスマイナスなしという形を考えていたのだが、言い出せない理由があった。フィスフィリスで流された情報だ。証拠はなくとも状況的にカラードが流したであろうアレには、政府や軍のみならず多種多様な業界で要人とされる者の名前もあったのだ。下手にカラードを刺激して情報を悪用された場合、最悪を考えるなら敵対的な文明に渡されて、相当に面倒な事になってしまう。そうならない為に王権*4を使った強権で内部対処を急いでいる最中なので、余計な手間を増やしたくないのだ。またカラードの行動を追求した場合、その過程で必ず海賊との戦闘という話が出てくる。間接的に自分達の海賊問題を、ランクD文明という遥かに格下の文明に対処してもらったと認めるも同じなのだ。下手をすれば無能と言われかねない。

 こうした理由から依頼については一切触れられず、また依頼そのものもひっそりと取り下げられていたのだった。

 

 

 

 ◇

 

 

 

 3週間程が経った5月の最終週。

 カラードは第3回外宇宙ミッションそのものを地球で公表していなかった。

 概ねの理由は前述の通り非合法活動が多かったというものだが、地球側に対してはもう2つ理由が増える。

 1つ目は、余りにも刺激的過ぎるのだ。

 大戦果と言って良い攫われて洗脳装置を取り付けられていた人々の救出だが、完全公開は元より何処の情報を切り貼りして繋ぎ合わせても、既存の国家に強い危機感を覚えさせてしまうような情報のオンパレードなのだ。

 まずスターゲートを使ったホットドロップ戦術。これはワープによる単艦強襲ではない。艦隊を、別星系から、ピンポイントで、直接送り込めるのだ。これは既存の防衛網が全て無力化する事を意味している。宇宙文明には防ぐ手段があるようだが、現在入手している情報によれば非常に高価であり、配備されているのは各文明の主要星系と辺境の重要拠点くらいらしい。またスターゲート理論を理解している束博士なら自分で造れるが、他の地球人には造れない。数百年後に基礎理論が出来るかどうか、というところだろう。

 アリコーンが使用したSDBMミサイル*5。ほぼ完璧なステルス性能を誇るアリコーンに小型核弾頭に匹敵するミサイルが大量に搭載されていると知ったら、それだけでアレルギー反応を示す者が多数いるだろう。加えて言えば、そういう輩を扇動してカラードの力を削ごうとする輩も出てくるだろう。

 セシリアと“ブルーティアーズ・レイストーム”。今まで単体戦略兵器と言われていたが、その評価は正しくないのだ。後衛型のセカンドシフトマシンである“ブルーティアーズ・レイストーム”は、配下がいる事で真価を発揮する。1個連隊(108機)規模の無人パワードスーツを単独で、かつ柔軟に運用できるとなれば、単独での拠点制圧戦すら可能になる。殲滅ではなく、本来人手を必要とする施設確保が1人で行えてしまうのだ。これに加えて前衛にISがいた場合、敵は必中のレーザーを防御しながら前衛を突破しなければならない。ロックオンレーザーの前に回避という選択肢は無いのだ。どれだけ逃げても、例え建物の中だろうとレーザーの通る隙間さえあれば追ってくるのだから。

 他にも“九尾ノ魂”による環境制御能力、“打鉄弐式”の圧倒的な火力など、参加したISはいずれも戦場における強者として圧倒的な力を示している。

 NEXT(N-WGⅨ/IS)に至っては言うまでも無い。通常武装のワントリガーで一区画が消し飛び、戦闘出力ですらないARSENIC(コジマライフル)で地下施設の全階層をブチ抜いて、更に数千メートルの縦穴だ。

 カラードにその気がなくても、恐怖心を煽る奴らが出てくるかもしれない。

 だが理由としては、2つ目の方が大きかった。

 第3回外宇宙ミッション最大の成果である6万人近い一般人の救出という大戦果を秘密にした理由は、これを喧伝するなら救助者の情報も出さなければならないからだ。そして容易に予測できる事として、言葉だけでは信じられないので救助者を見せろ、という者が必ず出るだろう。攫われ、洗脳装置を取り付けられ、理不尽な暴力でボロボロになり、やせ細り、傷口が膿んでいる多種多様な種族達を、だ。可能か不可能かで言えば、既に移送は完了しているので本人達を見せる事は出来ないが、映像情報は残っているので見せる事は出来る。しかし、だ。今の地球の民度でそういう情報を出してしまえば、ある意味で見世物になってしまう可能性を否定出来なかった。なにせ、珍しいのだ。地球人と殆ど同じ者。犬耳の生えている者。翼の生えている者。角のある者。蟻のような者。モグラのような者。色々いる。自分達とは全く関係無い遠く離れた宇宙人のことなので、好き勝手に言う者が出てくるだろう。ある程度友好関係が確立した後なら、そういう地球人もいるという大らかな対応をしてくれるかもしれないが、宇宙進出の初期である今、しかも地球文明は開星基準を満たしていないため、野蛮人と見られやすい。そんな中で救助者が、映像だけとは言え見世物のような扱いを受けたら、間違いなく今後に影響する。

 こうした理由から公表しなかったのだが、同胞を救出された各文明側は少々事情が異なっていた。

 救助者の移送は“首座の眷族”と“獣の眷族”が責任を持って行ってくれており、死んだと思われていた者が多数生還したので少々混乱はあったようだが、移送自体は無事に行われていた。助かった者達は、これから失われた時間を取り戻していくだろう。メデタシメデタシ………では終わらない。現実の時間は続いていくのだ。

 各文明は当初、“首座の眷族”と“獣の眷族”が合同作戦で同胞を救出してくれたと思っていた。このため外交ルートで正式に感謝の意を伝えたところ、助けたのは我々ではないと言われたのだ。では誰が? 当然の疑問に対しての返答は、宇宙(そら)に出てきたばかりの地球文明というものだった。聞いた方は頭の上にクエスチョンマークだ。何処の文明? 少なくとも銀河系の主要文明ではない。ならば辺境文明? 辺境文明の者が運良く救出して、辺境だから移送手段が無くて、“首座の眷族”と“獣の眷族”に移送を依頼した? これなら辻褄が合いそうだ。

 文明間の外交を担う者が、そう考えたのも無理からぬ事だった。しかし、救助された者達は違う。彼ら、或いは彼女達は皆見ていたのだ。洗脳装置を取り付けられ意識と体の動きが分離していても、見ていたのだ。覚えている。拠点上空に突如として出現した漆黒の船体を。空を舞う人影を。荒れ狂う光の嵐を。圧倒的な火力で薙ぎ払われる海賊共を。助けられた子供を。何より後から現れた圧倒的な存在を。遠くてハッキリ見えた者は殆どいなかったが、黒い鳥を連想させる人型が巨大な緑の光で大地を射抜き、一緒に現れた白い服を着て黄金の杖を持った者が、地下に捨てられた者達を救い上げた姿を。

 あの光景は、生涯記憶に残り続けるだろう。

 

 ―――では終わらなかった。

 

 治療が終わり動けるようになった救助者達が、地球文明に連絡を取る方法や行く方法が無いかを探し始めたのだ。理由は様々で、直接会って礼をしたい者もいれば、一緒に働きたいという者など様々だ。また救助者達は皆一様に、家族、友人、恋人、その他近しい者達や取材に来た者達に、あの絶望から救い上げてくれた光景を話していた。

 これが1人や2人程度だったなら、話された光景は極限状態が見せた幻覚と片付けられたかもしれない。それほどまでに荒唐無稽な内容だったのだ。しかし救助者達が口を揃えて言う上に、中には傭兵や職業軍人もいたのだ。となれば事情は変わってくる。

 証言を元に救出作戦が行われた時の状況がコンピューター上で再現され、分かったのは証言が全て事実だった場合、地球の連中はとんでもない事をやった、というものだった。

 まず惑星表面にホットドロップという時点でおかしい。スターゲートを使い星系間という超長距離を一瞬で跳び越え、ピンポイントで艦隊を送り込むこの手法は、本来宇宙(そら)で使うものなのだ。当たり前だろう。惑星には公転もあれば自転もある。ついでに言えば星系自体も動いている。これらの動きと同期していなければ、惑星表面には開けない。予め十分な情報収集が行われた上で、出入口の安定化装置という補助が使える固定型*6ならまだしも、今回はそんな時間も装置も無い。つまり宇宙(そら)に出てきたばかりの文明が、惑星表面にスターゲートを作り強襲するという最高難度の作戦を成功させた、ということだ。

 次に救出作戦時に出てきた者達だ。どうやら一般兵士に相当するローコストモデルと一騎当千のハイエンドモデルがあるようだが、ハイエンドモデルの性能が凄まじいのだ。人間サイズの個体が建造物を薙ぎ払い更地にし、額にあるたった数センチ程度の洗脳装置を一発も誤射する事なく全て破壊し、地下施設の全階層をブチ抜いた上で数千メートルの縦穴をつくる。他にも幾つかの異なるモデルがあるようだったが、そのいずれも御伽噺としか思えないような性能をしていたという。

 そしてこうなると、何処の文明も地球に興味を示し始めた。宇宙(そら)に出てきたばかりらしいが、一体どんな奴らなのか?

 各文明の外交に関わる者が調べていくと、どうやら“首座の眷族”のアラライル・ディルニギットと、“獣の眷族”のスノー・テールが関わっているらしい。

 ランクSとランクA文明が関わっている? そう言えば、“首座の眷族”が直接開星手続きを行っている文明があったはず。それが地球か。しかし開星基準を満たしていない野蛮な田舎者とも聞く。だが今回の件を見ると、野蛮な田舎者というだけではなさそうだ。興味深い。

 何はともあれ、まずは関わっている2人にコンタクトを取ってみよう。

 

 ―――こうして多くの者が動き出した結果。

 

 アラライルとスノーは疲労困憊していた。

 次から次から次から次から次から次から次へと超光速通信による面会予約が入り、一息つく暇もないくらい予定がビッシリなのだ。

 因みにデスクワークが主な仕事の2人とは言え、フィジカルは並の地球人よりも遥かに頑強だ。基礎スペックとして地球のプロスポーツ選手以上であるにも関わらず疲労しているのだ。どれほど忙しいかが分かるだろう。スノーに至っては白い尻尾が、へにゃと床に垂れている。

 そんな中で2人はどうにか時間を作って相談していたが、幸か不幸か“隕石雨”についての情報は入っていなかった。如何に巨大な影響力を持つ文明と言えど、広い銀河系の全てを網羅している訳ではないのだ。また救出された者達がもたらした数々の情報により幾つもの大捕り物が発生していたため注意がそちらに向いてしまい、間接的なカモフラージュになっていたというのもあった。

 

『アラライルさん。そちらはどうですか?』

『地球文明と連絡を取りたい。出来れば直接訪れたい。要約すればそんな話ばかりだ。スノーくんの方はどうかね?』

『同じです。ああ、いえ、少し違うのもありましたね。何処からかカラードが統一政府ではなくその雛型で、元は企業体というのを聞きつけた者がいたようで、業務提携の話をしてくる者までいました』

『業務提携とは随分と気が早い。いや、あれほどの事が行えるなら当然か』

 

 救助者の証言が全て事実だった場合、ホットドロップ戦術に加えて、投入された戦力は一騎当千の猛者が複数という事になる。軍事企業にとっては是非とも提携したい相手だろう。いや、軍事企業だけではない。物流系企業もだろう。あの展開能力があれば、危険宙域を跳び越えて物資輸送が行える。相当魅力的に映っているはずだ。

 

『ええ。誰でも考えるでしょう。ですが、断られるでしょうね』

『君もそう思うのかね?』

『思います』

 

 この時、2人の思考はほぼ同じだった。至極簡単な理由だ。外宇宙ミッションに対応可能な潜行戦隊は、元々地球文明圏の巡回を主任務としている。今の地球文明圏は主星系である太陽系とテラフォーミング中の2つの惑星がある計3星系しか無いが、篠ノ之束博士は数ヵ月でスターゲートを造れる。個人でだ。必然的に今後巡回範囲が拡大していくのは間違いないが、巡回任務を担う潜行戦隊はたった3戦隊しか存在していない。稼働ローテーションを考えれば現時点でもギリギリだろう。しかも調べた限り、簡単に代替戦力を用意できないという弱点がある。

 これでは業務提携に応えられるはずもない。巡回の程度を下げて良いなら対応可能だろうが、地球文明の安全や末永い発展を優先する篠ノ之束博士が受ける可能性は低いだろう。これが別の者なら地球文明に必要な物を入手する為、という理由で受けたかもしれないが、彼女は並大抵の物なら自分で造れてしまうのだ。

 従って最も可能性として高いのは単発の依頼のみを受けるという形だが、暴力は商品と言い切る男(薙原晶)*7がパートナーなのだ。安請け合いはしないだろう。

 ここで、スノーが気になっていた事を尋ねた。

 

『ところで前から思っていたのですが、地球をいつまで開星手続き中にしておくのですか? あれだけの事ができるカラードに、手続き中というのは相応しくないと思うのですが』

 

 開星手続きとは、言うなれば宇宙(そら)に新しく出てきた文明が困らないようにする為の支援だ。何せ宇宙(そら)には様々な種族が存在している。生まれも育ちも見た目も価値観も何もかもが違う存在との接触だ。そして多くの場合において、異なる存在との接触は問題を発生させてしまう。だが事前情報があれば、避けられる問題というのはあるのだ。このため新しく宇宙(そら)に出てきた文明に情報を渡して、教育して、不幸な事故が起こらないようにしていく、というのが開星手続きの本質である。

 アラライルは少しだけ困ったような表情をして答えた。

 

『それか。私も迷ったのだがね。カラード単体で見るなら良いとは思うのだが、地球文明全体で見たらどうかね?』

『………なるほど』

 

 数瞬かけて地球文明全体の現状を思い出したスノーは同意した。

 カラードが突出しているだけで、地球文明の中身は相変わらず問題だらけで開星基準を満たしていない。特に人種差別関連には深刻な懸念を抱かざるを得ない。宇宙(そら)に出たら生まれや育ちどころか、外見が全く違う者が隣人になるのだ。人種差別問題を乗り越えていない者達が、そういう者達と宇宙(そら)で仲良くやっていけるだろうか? 無論宇宙にそういう問題が全く無いとは言わないが………。

 なお地球人類はまだ余り意識していないだろうが、開星手続き中という状態にはメリットとデメリットがある。メリットは宇宙(そら)での行動について、一定の責任を開星手続きを行っている文明が持ってくれること。これは宇宙(そら)に出てきたばかりの文明は半人前と見なされている事に加えて、開星手続きを行っている文明に相応の責任感を求める為だ。

 これに対してデメリットは、隣人との付き合いに制限が発生することだ。半人前扱いなので、何をするにしても手続きを担当している文明に確認をとって下さい、という訳だ。そして手続きを担当している文明は、付き合いによって生じる相互影響が有害と判断した場合、強制的にそれを中止させる事ができる。無論これだけでは著しく不平等な状態がまかり通ってしまうので、銀河惑星連合への定期報告義務があり、問題ありとされれば是正勧告がなされる。これが守られなかった時の対応はケースバイケースだ。

 因みに言うまでも無い事だが、もしカラードが第3回外宇宙ミッションで行った数々の行動が表沙汰になったら、色々な意味でアウトである。開星手続きを行っているアラライル自身の考えがどうであれ、何らかの厳しい判断を下さざるを得ない。が、それは表沙汰になったらの話だ。状況的にはやったと確信しているアラライルだが、証拠の残っていない行動はやっていないのと同じなのだ。無論、第三者が疑うのは自由だ。依頼は秘匿回線で行われたが、情報開示を要求されたなら別に公開しても構わない。会話中の「盤面ごとひっくり返して」という発言を、何らかのサインと疑う者もいるだろう。しかし発言の前後を考えれば、別の作戦案の意図を説明したものだと分かる。それでも怪しむ者はいるだろう。依頼で指定された宙域に向かう途中で、救助に繋がる情報を発見したなど出来過ぎだと。だが問題無い。道中で海賊に襲われたので仕方なく対処している途中で、偶然入手してしまった非人道的な情報を見て見ぬ振り出来なかっただけなのだ。

 だからアラライルは何も言わない。むしろもっとやれ、とすら思っていた。真っ当に生きている一般市民を食い物にしている連中が掃除されるなら、こんなに喜ばしい事はない。流石に立場があるので言葉にはしなかったが………。

 一方スノーは表面上こそいつも通りだったが、内心は相当に複雑であった。“獣の眷族”がカラードの疑わしい行動を追求しない理由は理解もしているし納得もしているのだが、自文明の内部にあれほど海賊の手が伸びていたのは流石にショックだったのだ。司法機関の友人から聞いた話では、本星にある中央政府、入植した惑星の地方政府、宇宙軍、重要企業体の幹部、各業界の著名人等々で多くの逮捕者が出ているという。もし今回の一件が無ければ、数年後にはかなり拙い事になっていただろうとも。そういう意味では、運が良かったのだろう。社会が混乱する程のあらゆる被害を顧みない情報の暴露があったからこそ、王は社会を安定させるという名目で王権を使い、調査や逮捕の強制執行という対処が行えたのだ。

 そして、王との会話を思い出す。

 

「儂の仕事を大いに増やしてくれたカラードの連中は一発殴ってやりたいが、それはそれとして奴らの行動が無ければここまでの大捕り物は出来なかったという事実は認めねばならん。だからな、スノーよ。お前は今後大使として地球へ赴き、カラードとの関係を保ち続けろ。あやつらの行動を逐一儂に送れ」

「御下命、拝命致しました」

 

 ―――閑話休題。

 

 こうした命を受けた訳だが、開星手続きで先に関わっている文明があるなら、外交儀礼上無視する訳にもいかない。“首座の眷族”が相手なら猶更だ。よってスノーはこの場で伝える事にした。

 

『アラライルさん。辺境議員である貴方に、“獣の眷族”の正式な行動を伝えたいと思います』

『それは中央政府の決定と捉えても構いませんか?』

『いいえ。王命による決定事項です』

 

 王制が敷かれている“獣の眷族”において、王命とは最終決定と同義である。日常的な生活を維持する為の組織として本星には中央政府があり、入植した各惑星には地方政府というのがあるが、王家はそれらの上位存在として君臨しているのだ。

 

『聞きましょう。どんな行動でしょうか?』

 

 姿勢を正したアラライルに、スノーが告げた。

 

『私、スノー・テールは、今後地球文明圏に大使として赴任する事になりました』

 

 宇宙の極々一般的な常識に照らし合わせれば、辺境の開星基準を満たしていない野蛮な文明へ大使として赴任する、というのは左遷と同義だ。しかし、アラライルの言葉は違っていた。

 

『昇進という事ですか。おめでとうございます』

『ありがとうございます』

『これから忙しくなるでしょうね』

『他人事のように言っていますが、貴方もではないですか?』

『今まで余り仕事をしていなかったので、丁度良いくらいですよ』

 

 2人は分かっていた。今回の一件で強力な存在感を示した地球文明には、今後多くのコンタクトがあるだろう。必然的に周辺星系を含めた情勢も大きく変わっていく筈だ。忙しくならない訳がない。

 こうして地球文明の全く与り知らぬところで、情勢は動き始めていたのだった。

 

 

 

 ◇

 

 

 

 更に数日が経過した6月の第1週。

 いつもの公開されている会談でアラライルが何でもない事のように言い始めた内容は、束と晶にとって不意打ちにも等しかった。

 

『――――――ああ。そう言えば、地球に行きたいと言っている一般人が多数いるのですが、受け入れは可能ですか?』

『来たい? 旅行か何かでしょうか? だとしたら少々難しいかと。地球には、まだ宇宙人さんが安心して泊まれる宿泊施設がありませんので』

『いえいえ、違いますよ』

『では、なんでしょうか? 宇宙(そら)の一般の人達が時間と旅費を掛けてまで来て、今の地球に見るべきものがあるとも思えません。文明の発展を研究する学者さんとかなら、分からなくもないのですが』

 

 返答する束の斜め後方に立つ晶も同じように思っていると、アラライルがニヤリと笑って答えを口にした。

 

『おや? 分かりませんか? あなた方に助けられた者達が、直接お礼を言いたいそうですよ』

 

 2人は返答を理解するのに数瞬を要した。救助者達が地球に訪れたいと思っている、というのが想像の埒外だったからだ。何せ助けた時の状態を考えれば、元の生活を取り戻すのが非常に大変だろう事は容易に想像がつく。そんな中で、誰が好き好んで銀河の辺境にまで来るというのか。まだ3週間と少ししか経っていないのだ。精々が感謝の言葉を、アラライルやスノーを通じて送ってくるくらいだろう。

 そう思っていたのだが、救助者達の行動は多くの協力者を得て所属している文明を動かして、正式な要請となった結果が今の言葉であった。

 束が驚いたような表情を浮かべながら尋ねる。

 

『そう、ですか。それ自体は嬉しく思うのですが、その、来たいと言っている人達は大丈夫なのですか? 助けた時、体の状態は相当に悪かったように見えました。無理はされていませんか?』

『はい。多くの者は既に動けるようになっています。それに万一に備えて医者も同行させようと思っていますので大丈夫でしょう』

『分かりました。後は、一般人が多数と言いましたが、正確にはどれくらいの人数でしょうか? ご存じの通り、こちらには宇宙の施設が余りないもので』

『54000人くらいでしたね。ただ最も重傷だった者達も行けるなら行きたいと言っていましたので、実質救助者ほぼ全員でしょうか』

 

 この会話の裏で、束は晶とコアネットワークで相談を始めていた。

 

(ちょっと予想外だけど、私は受けても良いと思う。でも、場所はどうしようか?)

(検疫設備の無い地球は論外として、宇宙(そら)だと6万人近い人数を収容できるのって修理中の整備艦しかないぞ)

(でもアレって外見ボロボロだよね)

(ああ。流石にお礼を言いに来た人達を、アレに案内するのは気が引ける)

 

 宇宙の戦場跡地から拾ってきて月近郊で修理中の整備艦は、全長10キロメートル程度の双胴艦だ。このため収容能力だけで言えば問題無い。しかし元々は攻撃を受けて沈んだ船なので、外見も内部もボロボロだ。加えて言えば、“首座の眷族”のメカニックチームから色々教えてもらいながらの修理なので、修理速度は非常に遅い。1ヵ月ほど前にようやく船の外装修理程度という、本当に最低限かつ極一部の機能が復旧できた程度なのだ*8。外見など手つかずである。

 

(う~ん。どうしよう)

(最悪、来た人達の船に俺達が行って直接会うって事は可能だけど………来てくれたなら、それなりの場所で出迎えたいよな)

(だよねぇ)

 

 2人揃って思考加速状態で考えるが、クレイドルも以前貰ったコロニーも隕石をくり抜いた宇宙農園も、ある程度の人数を収容可能な施設はいずれも使用中だったり内部工事中だったりで使用できない。つまり無い物は無いし、用意できない物は用意できないという訳だ。なので仕方なく場所を用意できないと話そうとしたところで、今まで黙っていたスノーが口を開いた。

 

『場所が問題という事であれば、私の方で提供致します』

『どういう事でしょうか?』

『そのままの意味です。実はこの度、地球に大使として赴任する事になりましたので、大使館を兼ねた浮島を持ってくる予定なのです。大きさが地球の単位に直して………直径8キロ程度なので、皆さんが集まる場所としては十分でしょう。そして以前から進んでいた、月からこちらの領域に直通するスターゲート近郊に留置させて頂きたいと思っています』

 

 スノーは新たに空間ウインドウを展開して、持ってくる予定と言った浮島の概要データを表示させた。

 それは地球人が宇宙建造物と聞いてイメージするような外壁に覆われた建造物ではなく、生態環境を維持したまま島1つを丸々浮かせたという、本当の意味で浮島だった。

 その浮島に建物があり、池があり、森があり、地上となんら変わらない生活環境が作られている。宇宙と浮島との間に何ら遮る物の無いオープンスペースであるにも関わらずだ。

 これには束も驚きの表情を浮かべて言った。

 

『凄いですね。技術的に可能だとは思っていましたが、本当に作って実用化しているとは。しかも大使館という公的な施設という事は、設備の安定性も相当なものでしょう』

『勿論です。何ら特殊な装備を身に着ける事なく生活可能な居住空間を実現しています』

 

 ここで束と晶は思った。このサイズならセンサー系も相当高性能な物を搭載しているだろう。何の対策も無しに月近郊への留置を許可したら、地球の動向を丸裸にされかねない。潜行戦隊の動向やアンサラーを調べられる可能性もある。いや、確実にやると考えるべきだろう。よって、一手打つ事にした。

 

『素晴らしいですね。では来たいと言っている人達とは、そこで会わせて頂きたいと思います。あと大丈夫だとは思うのですが、外交儀礼として防衛装置を配備したいと思います。性能の方はご安心を。絶対天敵(イマージュ・オリジス)戦で地球防衛に使用したシールド衛星なので、実戦証明済みです』

 

 束はスノーが何かを言う前に、新たに展開した空間ウインドウに幾つかのデータを表示させて続けた。

 

『これは実際に使用された時のデータです』

 

 内容は絶対天敵(イマージュ・オリジス)が使用していた2400メートル級戦闘艦12隻と5000メートル級戦闘艦1隻からの砲撃を受け、シールド衛星が撃破されるまでの戦闘データだ。

 

『これは………凄いですね』

 

 並大抵の性能であれば断ろうと考えていたスノーだが、流石に断れる性能ではなかった。絶対天敵(イマージュ・オリジス)が使用していた戦闘艦の情報は“獣の眷族”にもあるので、攻撃時に検出されているエネルギー量のデータが嘘ではないと分かる。最終的には撃破されているが、対惑星級の攻撃を実用的な時間防いでいるのだ。防御兵装としては十分に一級品と言える。

 束がニコニコと笑いながら確認した。

 

『どうですか?』

『配備を受け入れます。ただ一度性能テストはさせて下さい』

『勿論です。自分の身を守る物の性能を把握するのは大事な事ですから』

 

 2人は表情にこそ出さなかったが、内心で安堵していた。一度防御フィールドで覆ってしまえば、そのフィールドでセンサーの働きを阻害できる。これで無制限に好きなように調査される事は防げるだろう。

 

『ではスターゲートが開通次第持って来ようと思うのですが、博士の準備はどれ位で可能でしょうか?』

『少々用事がありますので、1週間ほどあれば』

 

 用事とは勿論、シールド衛星に調査妨害用の機能をアレコレ仕込む事だ。ついでに少々アップデートしても良いかもしれない。

 

『分かりました。あと、先にスターゲートを繋げて欲しい座標をお伝えしておきます』

 

 そうして束の元に座標データが送られてきたところで、今度はアラライルが口を開いた。

 

『ところで束博士。1つ確認なのですが、カラードは将来的に、他文明の者を雇用する気はありますか?』

『答える前に、この場でそれを確認する理由をお聞きしても良いでしょうか』

『今回の一件で助けられた者の中には元々宇宙(そら)で働いていた者もいまして、あれほどの事が行える者達と一緒に働きたいと言っている者が一定数いるのです』

『そういう事ですか。………………晶。どうかな?』

 

 話を振られた晶は、数瞬考えた後に答えた。

 

『雇用そのものについては有り得るでしょう。ただし今回のような一件で使う為ではありません。もっと一般的な通常業務や傭兵として一時的に雇用する、という形になるかと思います』

『そちらは宇宙(そら)で使う船が不足していると思いますが、そういった方面ではどうですか?』

『パイロットと船をセットでという事なら、もう少し雇用の幅もあるかと思います。ただこちらも現状では何とも。他文明への理解という下地、設備的な準備、あらゆる意味で足りないものが多過ぎます』

『なるほど。可能性が無い訳ではない、と。ありがとうございます』

 

 こうして会談は進み雑談を交えつつ無事に終了したのだが、束と晶には非常に面倒な仕事が発生していた。

 公開していなかった第3回外宇宙ミッションについて、人類に説明するという非常に面倒な仕事である。

 

 

 

 ◇

 

 

 

 会談が終わった数時間後、束と晶は会見で使っているいつものホテルのいつもの会場にいた。

 2人並んで座っており、晶が話し始める。

 

「まず、ことの切っ掛けから説明していきます。詳細は守秘義務に抵触するので話せませんが、依頼の内容そのものは宇宙海賊の動向を探る為にとある宙域を偵察する事でした。そして指定宙域に向かっていたのですが、到着する前に宇宙海賊に襲われたので、そいつらから情報を引き出してとりあえず根城を叩いたのが始まりです。少々、無視出来ない情報を発見しましたので」

 

 一息ついた晶は、背後の大型ディスプレイに幾つかの情報を表示させた。

 攫われ、洗脳装置を取り付けられ、あらゆる理不尽を押し付けられる者達の情報だ。宇宙人さんの個人情報や尊厳に配慮して、映像データではなく文面による説明だが、詰め掛けた記者達に内容が浸透していくにつれて会場がざわついていく。

 頃合いを見計らって、晶が再び口を開いた。

 

『どうしようか少々迷いました。無視して依頼だけを遂行しても良かったし、付き合いのある宇宙文明、この場合は“首座の眷族”と“獣の眷族”になりますが、情報提供して終わりにも出来ました。ただ諸事情により、“首座の眷族”も“獣の眷族”もすぐには動けなかった。ですがカラードなら、私と束の一存で動かせます。なので、やる事にしました。救出ミッションを計画して、実行して、助け出したという訳です』

 

 記者全員が一斉に挙手して質問を希望し始めたので、適当に1人目を当てると立って話し始めた。

 

「まず根本的な質問です。これまでカラードは基本的に全て情報公開して動いていました。今回公開していなかった理由はなんでしょうか?」

「元々の依頼は偵察。その後は救出ミッション。どちらも作戦成功率を著しく下げる事前公開は論外でした。そして終了後の公開も、救出ミッションであれば誰をどんな状態で救出したかの情報が無ければ信憑性に乏しいでしょう。当初は考えていたのですが、救出した宇宙人さん達の状態が、余りにも酷かったのです。異文明の人達なので正確な医学的所見からではありませんが、素人目にみても明らかにガリガリにやせ細って弱っていて、傷口が膿んでいました。こんな状態の人達を、他の文明で公開するというのは、ある意味で見世物にする行為でしょう。そしてこれが問題になった場合、感情的なしこりとなって残る可能性が高い。なので非公開としました」

「あくまで被害者の心情を考慮して、という訳でしょうか?」

「そう思ってくれて結構です」

「事情は理解しました。ですが可能な限り、情報公開はして欲しいと思います。でなければ我々は、カラードが裏で何かコソコソやっていると疑わなければいけなくなります」

「疑いたい人間は何をどう言ったところで疑うものですし、一部を切り抜いて偏向報道もするでしょう。なのでどうぞ疑って下さい。全ての質問に答える訳ではありませんが、答えられる事なら答えましょう。そしてカラードが気に食わないというのであれば、立ち上がれば良い。全力でお相手しましょう」

「今の発言は下手をしたら、いえ下手をしなくても圧政や弾圧を容認する、或いは自ら行うと思われても仕方がないと思うのですが」

「ではしっかり監視していて下さい。私が一般人を食い物にしていたなら、私を批判する記事は支持を集めるでしょう。そうでないなら、面白い空想の産物でしょうか」

「普通は、もう少し違う物言いをするものだと思いますが」

「少々毛色の違う者がいても良いでしょう」

「なるほど。方針は理解しました。これからも監視させてもらいます」

「どうぞご自由に」

 

 1人目が座り、2人目が立った。

 

「今回助けたという宇宙人さんについての質問です。どのような種族がいたのでしょうか? 我々地球人が知るのは、地球人と外見的特徴が非常に近い“首座の眷族”と、獣の特徴がある“獣の眷族”、他にはどのような種族がいたのでしょうか?」

「そうですね。背中に翼のある種族、頭に角のある種族、外見的にモグラに近い種族、蟻に近い外見の種族など様々です。あと、そのような事は無いだろうと思うのですが、一応言っておきたいと思います」

「何をでしょうか?」

「背中に翼だったり頭に角があったりすると、各地に伝わる神話や伝承を思い浮かべる方も多いと思います。ですがそれを言うのは、地球の中だけにしてほしいのです。彼らには彼らの生きてきた背景があり歴史がある。似ているという理由で色々と当て嵌める事の無いようにお願いしたいのです。誰だって嫌でしょう。見た事も聞いた事もないものでレッテルを貼られるのは」

「今の言葉、記事にさせてもらおうと思います」

「お願いします」

 

 2人目が座り、3人目が立った。

 

「外交についての質問です。先の会談で“獣の眷族”のスノー氏が大使として地球に赴任すると言っていましたが、国交………という言葉が適切かどうかは分かりませんが、何らかの友好関係を結ぶものと考えて良いのでしょうか?」

「実は大使赴任の話はこちらも初耳でして、全てはこれからというところなのです。ただ今回の救出ミッションが切っ掛けとなったようなので、前向きなものと思っています」

「なるほど。合わせて安全保障についてです。スノー氏はかなり大きな大使館を持ってくるようですが、安全保障的に大丈夫でしょうか?」

「普通に答えるのでしたら互いの信頼関係に基づいて――――――というところですが、そんな答えを期待している訳ではないでしょう。なのでこう答えます。指定宙域は良くも悪くもアンサラーの絶対防衛圏内であり、その他の情報については機密事項なのでお答えできません」

 

 この返答を聞いた3人目の質問者は思い出した。この2人はお礼を言いに来た“獣の眷族”からの特使スノー・テール氏(当時)に、こっちは武装解除しないからそっちも武装解除しなくて良いよ、と言い放った人達だった。そして束博士は先の会談で、持ってくる大使館に問答無用でシールド衛星を張り付けていた。ああ、なるほど。つまりそういう事か。この人達は、そういう意味でやる人達だった。

 

「分かりました。ありがとうございます」

 

 3人目が座り、4人目が立った。

 

「救出ミッションについての質問です。どのような方法で救出したのでしょうか? 先の会談によれば54000人以上という事ですが?」

 

 晶は一瞬迷ったが、結局言う事にした。人類には少々刺激の強い内容だが既に切ってしまった手札なので、下手に秘密にするのは悪手だと判断したからだ。ただし厳密に説明すると非常に難しいので、相当に内容を省いた簡単な言葉でだ。

 

「厳密な意味では違いますが、ワープが実用化されたなら誰しも考える強襲戦術です。超長距離という相手の索敵圏外から相手の拠点に直接乗り込んで、暴れて、救出して、脱出した。それだけです」

 

 本当に色々と省いた説明だったが、これでも地球の軍関係者にとっては驚異的な内容だった。つまりカラードがその気になれば、少なくとも惑星圏内程度の距離など無視して本拠地に直接兵力を送り込めるという意味なのだ。事実上、全ての国家に対して王手をかけているのと同じである。

 そして多くの者がその事実に思い至ったところで、晶は言葉を続けた。余り触れたい内容ではないが、むしろそういう事柄こそ方針を明確にしておいた方が、後々の面倒は少ないと考えたからだ。

 

「多分今の言葉で、安全保障に関わる多くの人が対応を考え始めたと思います。そしてその懸念は分からなくもありません。多分逆の立場なら、私も考えたでしょう。その上で言います。これまでも言ってきた事ですし、これまでの行動から推測している人もいるかもしれませんが、カラードが行動を起こすか否かの判断基準は、宇宙進出の障害となるか否かが大きなウェイトを占めています。今現在盛大に介入している紛争地域や貧困地域は、放置が他文明と付き合うにあたって、開星基準を満たしていないというハンデを抱える我々が、自らの問題を解決できない野蛮で下等な種族と言われないようにする為です。そして気象コントロールは自分の住んでいる星が環境破壊で壊れないようにするためです。なので基本的に何処かの国を叩こうとか、そういう事は考えていません。ですが、こうも言っておきます。殴られたら殴り返します」

「カラードが本気で動けば、止められる国も抵抗できる国も無いと思います。そして権力というのは必ず腐敗します。今あなたと束博士はこうやって我々の言葉に耳を傾けていますが、それがいつまで続くかも分かりません」

「なるほど。一理ありますね。ではこう言いましょう。1人目の方にも言いましたが、しっかり監視していて下さい。そして場合によっては立ち上がればいい。私と束の行動の結果は、いずれ私達に返ってくる。地球文明を食い物にして蔑ろにしていたなら、いずれ今の体制は崩壊して、別の者がとって代わるでしょう。それだけの事です」

「なるほど。質問を終わります」

 

 4人目が肯いて座ると5人目が立ち、質問が続いていく。

 そしてこの後の質問者は否定的な論調の者が多かった。情報公開をしていなかったせいか、ワープ戦術*9という今の地球人には決して防げない戦術に恐怖を抱いたせいかは分からない。もしかしたら両方かもしれない。或いはこれまで隙という隙を見せてこなかったカラードが、初めて見せた隙をチャンスと思った者がいたのかもしれない。

 だから気付かなかった。もしかしたら意図的に意識しないようにしていたのかもしれない。

 ランクA文明の“獣の眷族”が大使の赴任を伝え、更に大使館という場の提供を約束した意味を。ランクS文明の“首座の眷族”が感謝を伝えたいと言っている意味を。遥かな格下であるランクD文明の地球如きに、態々公開されている場で敬意を払った意味を、まるで理解していなかったのだ。

 それを理解したのは1週間後。

 “獣の眷族”の領域とスターゲートが開通し、スノーが大使館として使う浮島で、救助者達がカラードの面々と会った時のことだった。

 地球から同行したマスコミはカラードがどれほどの事をやったのか、多くの者から聞かされたのだ。

 加えて――――――。

 

 

 

 ◇

 

 

 

 後年、“宇宙(そら)の浮島”と呼ばれ親しまれる“獣の眷族”の大使館は、圧倒的な文明の格差を地球人に理解させるに足る代物だった。

 地上と見間違う程の青い空には鳥が飛び、広大で波打つ池には魚がおり、木々が生い茂る森には多数の果実の恵みがある。地球人が宇宙建造物と聞いてイメージするような外壁に覆われた建造物ではなく、生態環境を維持したまま島1つを丸々浮かせたという、とてつもない技術力の格差を見せつけるものだ。

 そんな場所でカラードの面々に同行してきた地球のマスコミは、救助者達から様々な話を聞かされていた。聞いているのではない。聞かされているのだ。質問しなくても次々と話される。カラードが如何に絶望的な状況から自分達を助けてくれたのか。浮島ほどのものを造れる“獣の眷族”ですら、更に格上の“首座の眷族”ですら助けられなかった自分達を、カラードは単独で救い出してくれた、と。

 それだけではない。救出ミッションに参加した者達の武勇伝を、自分の事のように嬉しそうに話すのだ。高性能な翻訳機なのか、無機質な機械音声ではなく声質や口調まで再現されているから、感情まで分かるのだ。

 

「凄いなんてものじゃなかったよ。白い羽に蒼い鎧の人から光が溢れたと思ったらさ、俺達の額についていた洗脳装置を1つ残らず全部破壊したんだぜ。しかも、誰も死んでないんだ。分かるかい? 何万人もいて、一発も誤射しないで全員だぜ!! どんな神業だよ」

「白いパワードスーツで剣を持った人も凄かったよ。殴られそうだった僕を助けてくれて、行けって言ってくれたの。その後は遠目にしか見えなかったけど、閃光みたいな動きでバッタバッタ悪党を倒してた。凄かったなぁ」

「重そうな鎧を着込んでいる人も凄かったな。なんかデカイ長物構えてさ、建物ごと海賊もドローンも全部薙ぎ払ってるの。あれは爽快だったなぁ。悪党どもざまぁって感じ」

「二刀流の2人組も凄かったね。白い剣士を、こうサポートするって言うのかな? 悪党を倒して、倒れている人がいれば運んで、両脇を固める息の合ったコンビって感じだった」

「でも凄かったのはやっぱり、後から出てきた黒い………鳥? みたいな人かな。海賊共を黙らせたあの忠告。今でも一言一句思い出せるわ」

「ああ。あれは凄かった。近くに海賊がいたけど、震えてたもんな」

 

 地球のマスコミがその言葉を聞くと、相手は興奮気味に答えてくれた。

 

「海賊共に告げる。直ちに抵抗を止めろ。聞く聞かないは自由だが、こちらは貴様達に容赦する気など無い。邪魔をするなら排除するだけだ。俺の手を、煩わせるな。――――――って言ったの。そして言う事を聞かない海賊がいたのかな? 直後に一区画を丸々消し飛ばして、力の差を分からせて黙らせたの。あの悪党どもが、ガタガタ震えて黙ったの。私達に理不尽を押し付けて、殴って、黙らせて、洗脳装置を取り付けて無理矢理言う事を聞かせてきた奴らがよ。あの光景は一生忘れないわ」

 

 話が一段落したところで、地球のマスコミは別の救助者に話しかけられた。

 

「でも地球人は良いですね」

「どういう意味で、でしょうか?」

「だって宇宙(そら)で何かあった時は、ちゃんと助けてくれる組織があるってことでしょ。広い宇宙(そら)で攫われたら、普通はまず助かりませんから。まして大規模拠点を攻略ともなれば、どれほど難しいか………」

 

 この言葉に、地球のマスコミは「え?」となった。カラードは発表の場で、大規模拠点という言葉は一度も使っていない。

 

「そのお話、もう少し詳しく聞かせてもらえないでしょうか?」

「え? 地球の方なのに、知らないのですか?」

「はい。カラードは救出ミッションの発表はしましたが、大規模拠点を攻略したとは一言も言っていないのです。なのでどのような場所だったのか教えて貰えないでしょうか」

「いいですよ。ええっと――――――」

 

 そうして語られた内容は、地球人の想像のスケールを遥かに超えるものだった。まず海賊の人数。救助者約6万人からの逆算になるが、それだけの人数が地上というオープンスペースで奴隷のように扱われていたという事は、海賊の人数は比率1:1で考えても6万人。想像でしかないが、実際の人数比はもっと多いはず。という事は実数は十数万人、或いは数十万人規模。これに戦闘用ドローンが多数。加えて宇宙海賊なので、当然戦闘艦がある。証言によれば、拠点の四方の地下には宇宙港のような設備があったとのこと。カラードの攻撃で天にも届こうかという火柱が上がっていたというので、相当巨大な設備だったのでは?

 更に詳しい話を聞きたいと言ったら、傭兵だったという者を紹介してくれた。その者によれば攫われて船から降ろされた時、周囲には十数隻の船が見えたという。広大な地下空間で全て見えていた訳ではないとも。それが、4か所? つまりカラードは単艦で、最低数十隻、下手をしたら百隻を超える戦闘艦を相手取り、救出して、生還した?

 事実とは違うが、証言を繋ぎ合わせたマスコミはそう認識した。

 次に思ったのは、拙い、だ。それも極めて。

 カラードの発表から今日までの1週間。地球には否定的な記事が溢れている。カラードが初めて見せた隙に、多くの者が好き勝手に言っていた。擁護する意見もあったが、積極的に情報公開を行っていないという理由で否定的な論調が多い。

 今なら分かる。積極的に情報公開していないのは当たり前だ。こんな事を誰が信じるというのか。だがそれは現実で、この場には感謝している人達が沢山いて………拙い。これは本当に拙い。

 突き動かされるように、この場に来ているはずの束博士と薙原社長を探す。すぐに見つかった。だが話しかけられない。アラライル・ディルニギット氏とスノー・テール氏が一緒に居て話していたからだ。

 会話が聞こえてくる。

 

「しかし、何というか。地球にいると疲れないかね? 束博士。それに薙原社長」

 

 アラライル氏の言葉に、束博士が答えた。

 

「どういう意味で、でしょうか?」

「地球に溢れている論調は耳に入っている。あれほどの行いをしたというのに、あれでは報われまい」

「誰かに認めて貰おうと思って起こした行動ではありません。それに、こういうところが開星基準を満たしていない由縁でしょう」

「博士がそう言うのならこれ以上は言わないが、こちらに来たくなったらいつでも言って欲しい。2人には私が用意できる最高の待遇を約束しよう。勿論、カラードの中核メンバー達にもだ」

 

 すると近くにいたスノー氏が口を挟んだ。

 

「開星手続きをしている当人が引き抜きですか? 流石に問題でしょう。辺境議員様」

「銀河系にとって有益な人物だ。相応のステージに立って欲しいと思うのは私だけかね? 無理解な一般市民に潰される可能性を考えると、心配にもなる」

「あら、そういう意味でしたら、こちらが同じように声をかけても良いという事ですね」

「これは一本取られたな」

 

 肩をすくめたアラライル氏は、今度は薙原社長に声をかけた。

 

「そういえば地球の一般的な情報を色々見ていたのだが、薙原社長は人を育てるのに卓越した手腕を持っているという話が沢山あった。実際のところはどうなのかね?」

「さて、どうでしょう? ただクラスメイト達の訓練には付き合いましたし、色々助言もしました。クラスメイト以外にも幾人か。皆、一応一角のパイロットにはなってくれたようです。本人達の努力の甲斐があって、パイロット以外の部分でも。だから私が卓越しているというよりも、本人達が上手く自分の良いところを引き出せた、という事だと思います」

「1人2人ならまだしも皆が上手く成長出来ているなら、十分に卓越という評価が相応しいと思うがね」

「ありがとうございます」

「このように認めているので、どうかね? 地球に疲れたらこちらで教員をやってみる気はないかね?」

 

 するとスノー氏が再び口を挟んだ。

 

「辺境議員。御戯れが過ぎるのでは?」

「君とてどうせ同じような事を考えているだろうに」

「それはまぁ。スカウトに値する人物だとは思っています」

 

 こうして池のほとりで談笑を続ける4人を遠巻きに見ていたマスコミは、会話が途切れた瞬間を狙って、ダメもとで近づいていった。何か考えがあった訳ではない。ただ、このままで拙いという危機感に突き動かされてだ。

 

「た、束博士!! 今、宜しいでしょうか」

「………まぁ、この場は無礼講です。どうしましたか?」

 

 穏やかに談笑していた表情が、若干硬いものへと変わる。だが応じてくれたということは、一応聞いてくれるという事なのだろう。思っていた事を、そのまま言葉にする。

 

「こ、此処での話を聞いて、地球ではちゃんとした報道がされていないと思いました。なので、改めて話を聞きたいと思います」

「伝えられる内容は、公式発表で伝えてあります。どう伝えるかは、そちらの仕事でしょう」

 

 拒否。だから頭を下げてお願いする。

 

「そこを――――――」

 

 どうにかお願いします、とは言えなかった。下げた頭を上げて見た束博士の顔には、表情が浮かんでいなかったのだ。怒気や嫌悪でもない無表情。言うなれば、道端に落ちている石ころを見るのと同じ視線だ。

 そんな中で、束博士は口を開いた。

 

「あなた方が何を考え、どう動こうと私には関係ありません。あなた方はあなた方の好きなように、大衆受けする情報をばら撒けばいい。そういうのが好きで、今の仕事をしているのでしょう。――――――晶、他の人達とも話したいから行こう」

 

 束博士と薙原社長が、アラライル氏とスノー氏に挨拶をして遠ざかっていく。その背中を見ながらマスコミは先程からの思いを更に強くした。本当に、拙い。束博士と薙原社長が、否、カラードそのものが地球を捨てるという選択肢が現実のものになりかけている。

 地球文明にとって幸いだったのは、この歴史に埋もれた名も無きマスコミが行動を起こせる人間だった、という事だろう。

 この者はすぐに、時間の許す限り救助者達から再度証言を聞き取り、ダメもとでアラライル氏やスノー氏に突撃取材を行い、あらゆる証言を集めた上で、イベントが終わった後にすぐに記事を書いた。

 大衆受けする記事ではなく、誰かを助けるという行動が正しく評価されるように。

 そうして数日が経過した頃には、カラードへの否定的な論調は見られなくなっていた――――――だけではなかった。むしろ後年においては、この記事が宇宙進出初期のターニングポイントの1つとすらされていた。

 理由はこの記事を切っ掛けとして、統一政府の雛型として扱われていたカラードを、このまま統一政府に格上げしようという動きが加速しだしていたからだ。

 難しい話ではない。小難しい条件は色々とあるが、結局のところ人が統治者を認めるか否かは、自身や生活を守ってくれるか否かだ。そういう意味でカラードは、他文明の者が相手とは言え結果を示した。広大な宇宙(そら)において、先進文明ですら救出困難と認める状況であっても何かあれば助けられるという揺ぎ無い結果だ。加えて心情的なものとして、カラードであれば先進文明であっても認めてくれるのだ。辺境のド田舎。開星基準を満たしていない野蛮人。そう言われても仕方の無い地球人であっても、カラードであれば完全に対等ではなくても認めてくれる。無論、現実的には様々な問題があるだろう。だがカラードであるか否かで対応が違うのは、アラライル氏やスノー氏の行動で明らかだった。

 だからまずは、身軽な小国が動いていた。税金を納めるので、国家機能を幾つか委ねようという動きだ。検討された内容は幾つかあるが、カラードが介入している紛争・貧困地域で行われている戸籍管理システムが上手く稼働している事を聞きつけたようで、国家運営の基礎である戸籍管理を依頼してくるところが出てきたのだ。

 そしてこの動きは、徐々に加速していく事になる。地球上の国家は全部で196ヵ国。その50%は人口500万人未満の小国なのだ。大国など、ほんの一握りでしかない。加えて言えば、カラードには他には無い圧倒的な強みがある。ここではない別の世界(AC世界)を、イレギュラーが現れるまで完璧に人類を管理・運営してのけたAIによる政策管理だ。現状では提案に留まっているが、どの物資を何処に流せば効率良く運営できるかという点おいて、他の追随を許さない。提案を受け入れたところの収益が増加傾向にあるとなれば、続く国が現れるのは道理だろう。

 こうしてカラードは統一政府の雛型から、徐々に統一政府へと変わり始めたのだった。

 

 

 

 第202話に続く

 

 

 

*1
稼働しているアリコーンは4隻だが、内1隻は完全非公開でハウンドチームが運用中。

*2
第193話にて。

*3
第193話にて宇宙戦争跡地で拾ってきた全長10キロメール級の双胴艦。現在は月近郊にある。修復中なので外見はボロボロ。

*4
“獣の眷族”の統治形態は王制。

*5
元ネタは空のACのADA-01 ADLERが装備する広域殲滅兵器。

*6
この場合はある地点から見た時に、惑星運動等と同期して同じ位置に存在しているように見える、という意味。

*7
第198話にて。

*8
第198話にて。

*9
正確にはホットドロップ戦術




ちょいと話の流れ的に都合がつかなかったので、“隕石雨”関連は次回にしました。
大分離れている深宇宙の事なので、調査に時間がかかっていたという事で。
そしてついに、統一政府になる為の動きが出始めました。上からの命令ではなく、下から自発的にという感じです。
大国ほど遅れそうな感じですが、さて今後どうなるやら………。
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