インフィニット・ストラトス ~迷い込んだイレギュラー~   作:S-MIST

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束さん。トンデモねぇもんの開発を進めていました。
そして、あっと言う間に卒業2年目の年末なのです。


第208話 スターゲート送電システムの実験/卒業2年目の年末(IS学園卒業2年目の12月)

  

 薙原晶がIS学園を卒業して、2度目の年末が近づいてきた頃。

 束と晶は自宅の居間で話をしていた。灯りを落としてソファに座り、部屋の中央に銀河系の立体映像を映しながら。宇宙(そら)にまつわる様々な事を話題にして雑談に花を咲かせている。そんな中で、束はふと思い出したかのように言った。

 

「あ、そうだ。晶。来年の2月にはアンサラー6号機が完成するんだけどさ。その前にちょっと実験したい事があるから手伝ってくれないかな」

「勿論だ。で、どんな実験なんだ?」

 

 すると彼女はニヤリと笑って答えた。

 

「スターゲート送電システム」

「それって、もしかして?」

 

 もし想像通りなら、エネルギー供給に関するボトルネックを解消できる。

 宇宙(そら)には地球以上の文明があり、更に海賊が相応の勢力を持っていると分かっていたので、目の届き辛い太陽系以外へのアンサラー配備は、鹵獲の危険性を考えて行わない方針だったからだ。

 しかしスターゲートを使って送電できるなら、どんなに辺境の惑星であってもエネルギーで困る事は無くなる。

 晶の期待する表情に、束は期待通りの言葉を返した。

 

「うん。名前の通り、スターゲートを使って送電するシステムだよ。これが実用化できれば、遠く離れた惑星の開発が凄くやり易くなるからね」

「確かに色々やり易くなるな。あ、でも待てよ。実験ってどの程度の実験なんだ? 最終試験的な感じなのか? それとも理論構築の為の基礎実験? ちょっと進んでデータ収集的な感じなのかな?」

 

 期待はするが期待のし過ぎはいけないとばかりに確認する晶。だが束は、悪ガキのように片手でピースしながら答えた。

 

「最終試験の二歩手前かな。理想的な環境下で送れる事は確認したんだけど、実際に使うとなれば不安定な状況や妨害も有り得るでしょ。その実験をしておきたいと思って」

 

 カラード本社地下にある束と晶の自宅には、秘密裏にスターゲートが設置されていた。つい最近ではない。スターゲートを実用化した時からだ。そしてスターゲート理論を完璧に理解している束がコントロールしているため、月の衛星軌道に配置しているような固定型では無い。任意の場所にスターゲートを開く事ができる非固定型だ。これを使って束は、ある程度の実験を済ませていた。

 

「分かった。いつやる?」

「できればすぐに」

「オーケー」

 

 この後、2人はすぐに実験準備に取り掛かったのだった。

 

 

 

 ◇

 

 

 

 束と晶の自宅地下の奥深く。

 スターゲート展開用に広く造られている広大な地下空間の中央に、NEXT(N-WGⅨ/IS)*1を展開した晶と、エクシード*2を展開した束が立っていた。

 近くにはスーパーマイクロウェーブ照射用の機材と、中継衛星にしか見えない直径30メートル程の球体が2つ置いてある。

 

「じゃあ晶。まずは簡単な説明をしておくね」

 

 晶が肯くと、束は実験機材の説明を始めた。

 

「改造そのものは結構単純なんだ。中継衛星を改造したこの球体は2つでワンセットになっていて、スターゲートの入口と出口なんだ。で、入口側の球体にスーパーマイクロウェーブを照射したら、そのエネルギーを使って球体の内側にスターゲートが展開されるようになってる。そして残ったエネルギーで再度スーパーマイクロウェーブを生成して、開いたスターゲートに向けて照射するの。出口側の球体内部にはレクテナ装置があるから、それで受けて電力に変換するだけ。ね、単純でしょ」

 

 これだけを聞けば本当に何でもない改造で、ちょっと技術力があれば簡単に出来ると思うだろう。しかしNEXT(N-WGⅨ/IS)のスターゲート機能を使う晶は知っていた。スターゲートを通る際の空間を便宜上スターゲート空間と呼称するなら、その空間はエネルギーが非常に拡散し易いという性質を持つ。宇宙船ならシールド制御の応用で拡散しようとするエネルギーを制御できるが、照射されるスーパーマイクロウェーブにそんなものは無い。何の工夫も無しに照射しても、出口側には到達しない。もし到達しても極僅かでまともな発電なんか出来ない。にも関わらず発電可能なだけのスーパーマイクロウェーブを出口側に到達させられるという事は、不可能を可能にする相当な工夫をしたという事だった。

 

「凄いな。どうやったんだ?」

「ヒントはアクティブ(A)イナーシャル(I)キャンセラー(C)*3かな」

「AIC?」

 

 暫し考え、エネルギーの拡散、ベクトル、慣性制御という閃きがあった。しかしAICはエネルギー体に対しては使えない。いや、ヒントと言ったから、あくまで概念的な事だろう。

 

「もしかして拡散しようとするエネルギーを、AICに類似する何かで拡散方向を制御して散らないようにしてる?」

 

 束は嬉しそうに笑った。

 

「正解。流石だね。まぁ、その特殊なフィールドもエネルギーである以上、そっちにもエネルギーを割く事になるから発電効率はどうしても落ちちゃうんだけどね。でも実用的な発電効率は見込めるようになったと思うよ」

「なるほど。どの程度落ちるんだ?」

「スターゲート送電を行うと供給量30%減ってところかな」

 

 中継衛星の公表されている(偽装されている)性能は、1機で人口1000万人規模(メガロポリス級の都市)の都市インフラを支えられる、というものだ。単純に当て嵌めるなら、スターゲート送電を使用した場合は人口700万人規模の都市インフラを支えられる程度、という事になる。

 

「分かった。あとは、実際に動かしてから話そうか」

 

 返事を聞いた晶は、改造された中継衛星に遠隔操作でアクセスした。展開された空間ウインドウに各種データが表示され、名前が「中継衛星MKⅡ(仮称)」となっているのを発見する。考えるの面倒臭かったな。まぁ、突っ込むようなものでもない。内心で思いながら重力・慣性制御系を起動してフワリと浮かび上がらせる。

 

「うん。場所は取り合えず周囲に何もない………100光年くらい先で良いかな」

 

 次いで束は、広大な地下空間の天上中央に備え付けられている、水晶球のようなスターゲート展開装置を起動した。月の衛星軌道にあるような簡易型とは違う。“天才”篠ノ之束が自分で使う為に用意した一点物で、任意の座標にスターゲートを展開可能なタイプだ。尤も、任意の座標に展開可能というだけなら、宇宙文明にも同じタイプがある。しかしこの場にあるスターゲート装置には、宇宙文明の物には無い機能があった。それはスターゲートを展開する前に、次元境界面から展開予定地点を観測出来る、ということだ。つまり危険な環境に飛び出してしまう事や待ち伏せを事実上無効化できるのだ。

 ただし、万能ではなかった。観測情報の精度を上げれば上げる程、観測地点の空間が不安定化して、更には発光現象まで起きてしまうため、秘密裏の偵察にはこの上なく向かないのだ。分かり易く言えば、厳密に言えば正しい表現ではないが、観測情報の精度を上げる行為は小さいスターゲートを大きく開いていく行為に近いので、発見されやすくなると言えるだろう。

 

 ―――閑話休題。

 

 直径50メートル程度のスターゲートが開かれると、晶は言った。

 

「じゃ、行ってくる」

「行ってらっしゃい」

 

 晶は中継衛星MKⅡ(仮称)と一緒にスターゲートを通り、次の瞬間には地球から100光年ほど離れた周囲に何も無い宇宙空間にいた。

 周囲を見まわしてみるが、恒星も、小惑星も、隕石も、本当に何も無い。

 届く光も弱く、人の目では完全な暗闇にしか見えないだろう。しかし晶はNEXT(N-WGⅨ/IS)だ。問題になどならない。

 コアネットワークを繋ぐ。

 

(束。ゲートから出た。俺の現在位置はモニター出来てるか?)

(もっちろん)

(よし。じゃあ始めるか。これからシステムチェックして本格的に起動させる)

(お願いね。こっちも準備を始めるから。あと干渉したら困るから、一回スターゲートを閉じるね)

(分かった)

 

 束は先程、理想的な環境下で送れる事は確認した、と言っていた。しかしだからと言って、開始前のチェックを怠って良い訳ではない。安全確認という意味もあるが、機材や環境がどんな状況下で、どんな結果となったのかを確認して、初めて実験データが得られたと言うのだ。だから評価の土台となる事前確認はしっかり行う必要がある――――――これまで束の実験に幾度となく付き合ってきた晶は、極自然にそう考えるようになっていた。

 ゲートが閉じられるのを尻目に、予め用意されていた自己診断プログラムをロード。中継衛星MKⅡ(仮称)の全機能をチェック――――――オールグリーン。

 

(チェック完了。問題無し)

(こっちもだよ。じゃあ、これからそっちの中継衛星MKⅡの中にスターゲートを開くね。モニター宜しく)

(了解した)

(ポチッとな)

 

 晶の脳裏に、束がお気に入りの玩具のような赤いボタンを押している姿が思い浮かぶ。

 そんな事を思いながら何枚かの空間ウインドウを展開して各種の値をモニターしていると、値が変動し始めた。いずれも正常値なので、中継衛星MKⅡの内部に問題無くスターゲートが開かれたようだった。またNEXTがセカンドシフトしてN-WGⅨ/ISになった時に得た、超感覚とでも言うべきものが告げていた。開かれたスターゲートは間違いなく安定している。

 

(スターゲートの展開を確認した。問題無い)

(うん。なら、スーパーマイクロウェーブを照射するね)

(ああ。やってくれ)

 

 地球にいる束が機材を操作すると、すぐに反応があった。モニターしていた各種の値が、スーパーマイクロウェーブの受信を示す値に変わっていったのだ。次いでレクテナ装置が稼働を始め、地球から100光年も離れた宙域で電力が生み出される。

 

(どう?)

 

 束の言葉に、晶は短く答えた。

 

(問題無い)

(よし。これで事前準備は整ったね。じゃあ晶。早速だけど耐性試験を始めようか。始めは、そうだね。NEXT(N-WGⅨ/IS)でスターゲートを展開してみてくれないかな。計算上は至近距離に空間歪曲場があっても安定稼働するように造ったけど、限界耐性を見ておきたいんだ。NEXT(N-WGⅨ/IS)の超出力で開かれたものが近くにあっても安定稼働できるなら、まぁ安心できる耐性だと思うから)

(分かった。なら、始めるぞ)

 

 NEXT(N-WGⅨ/IS)がスターゲートを展開。超至近距離に2つの空間歪曲場が存在する事で、相互干渉が始まる。これによって晶は普段よりも多少開き辛いという違和感―――数値的には極々小さな誤差範囲内―――を覚えたが、危険という程ではない。

 しかし中継衛星MKⅡの方は違っていた。相互干渉が始まった瞬間、搭載されているスターゲート安定化装置のステータスモニターが一気に赤くなったのだ。

 

(うっそぉ)

(一回止めるぞ)

 

 NEXT(N-WGⅨ/IS)がスターゲートを閉じると、ステータスモニターが徐々に緑に変わっていく。だが半分くらいは赤いままだった。

 それを確認した束が話し始める。

 

(うわぁ。NEXT(N-WGⅨ/IS)の計測データから、これなら大丈夫だろうって水準で造った筈なんだけど………。晶、いつもより強めというか、出力上げてスターゲートを展開した?)

(そんなつもりは無かったが、いつもより多少開き辛いって違和感はあったから、もしかしたらちょっと力が入ったかもしれない)

(多分それかな。NEXT(N-WGⅨ/IS)の空間干渉力が強過ぎて、スターゲート安定化装置がオーバードライブモードに入っちゃってた。その状態でもスーパーマイクロウェーブは送れていたみたいだけど、長くは持たなかったかな)

(参考までに、そのまま続けてたらどれくらい持った?)

(20、いや15秒くらいで安全装置が働いて、スターゲートが閉じられたと思う。で、その後は機密保持の為に自壊プログラムが作動して、内部のソフトとハードがクラッシュかな)

 

 返答を聞いた晶は、少しばかり考えてから確認した。

 

(そうか。少し壊れた状態の稼働データもあった方が良いと思うけど、まだ動かして大丈夫か?)

(うん。まだ大丈夫)

(よし。なら今度はワープ妨害フィールドを展開するから、それで稼働状況を見てみよう)

 

 スターゲートもワープ妨害フィールドも原理的には空間に作用するものだが、強度という点では大きく異なっていた。スターゲートは空間という壁をブチ抜く為に相応の出力かつ非常に繊細な空間制御を必要とするが、ワープ妨害フィールドは空間の安定性を乱すだけなので、ある意味で下位互換と言えなくもない。

 そしてNEXT(N-WGⅨ/IS)拡張領域(バススロット)には、異文明の戦闘艦との戦闘に備えて、ワープ妨害フィールド発生装置が準備されていた。これまでに収集した情報から宇宙文明の船は、ワープドライブ起動からワープ開始まで最速で2秒を切る事が分かっているため、ワープ妨害が必須だからだ。なおワープに関する基本原則として、軽量な船ほど早くワープ開始出来て、大きく重くなるほどワープ開始まで時間がかかる、というのがあった。

 

(そうだね。じゃあ、お願いね)

(分かった)

 

 晶はNEXT(N-WGⅨ/IS)拡張領域(バススロット)からワープ妨害フィールド発生装置をコール。緑の光と共に、手元にオレンジ色の円筒形の物体が現れた。大きさはラクビーボール程度。使い捨てのタイプで、妨害範囲は直径20キロメートル、効果時間は180秒。利便性はかなりのものだが、宇宙文明の戦闘艦の戦闘速度を考えると、相手をAICかそれに類似する兵器で強制減速させないと簡単に逃げられてしまう。

 少しばかり逸れた思考を戻して、ワープ妨害フィールド発生装置を起動させる。

 

(どうだ?)

(うん。こっちは問題無いね。スターゲートは安定していて、発電も問題無い。ん~。晶。今って妨害装置何個持ってる?)

(残り199個)

(全部稼働させてみて。それだけ稼働させて安定してれば、耐久試験としては大丈夫でしょ)

(分かった)

 

 晶は束の言葉通りに、残り199個全てをコールして起動させた。すると周囲の空間が大幅に乱れ、光が直進しなくなる。しかし今度は先程と違い、ステータスモニターは変わらなかった。スターゲート安定化装置がその能力を十全に発揮して、周囲の空間が乱れに乱れている中でもスターゲートを安定させているのだ。

 

(大丈夫そうだね)

 

 しかし、晶は素直に同意しなかった。

 

(確かに大丈夫そうだが………束。思ったんだけどさ、この中継衛星MKⅡそのものは無事でも、ここからの送電はスーパーマイクロウェーブだろ。周囲を今みたいに高強度のワープ妨害フィールドで覆ったり、照射する射線上に湾曲空間を仕掛けられたりしたら簡単に妨害できないか?)

 

 この懸念はスターゲート送電を行う場合、想定される状況として、送電先にはアンサラーや宇宙艦隊という防衛機構が無い、或いは脆弱という状況が予測されるからだった。

 

(それは私も思っていたから、絶対天敵(イマージュ・オリジス)戦で使った攻撃衛星とシールド衛星を幾つか付けようと思ってる。絶対天敵(イマージュ・オリジス)の戦闘艦を沈められる攻撃力があれば、何か仕掛けられても破壊できるだろうし、対惑星攻撃を防げる防御力があれば、早々に破壊されたりはしない筈だから)

(飽和攻撃された場合はどうする? スターゲート送電は供給量30%減だから、地球で使った時よりも稼働時間は短くなってるだろ)

(地球のアンサラーからエネルギーを送ったなら、ね)

(え?)

(この実験が終わってから話そうと思ってたんだけど、今言っちゃうね。今建造中のアンサラー6号機と、月に配備している4号機と5号機は移動させて、太陽に投入しようと思うんだ)

 

 晶はすぐに理解した。発電効率が桁違い、どころの話ではない。一般人の感覚として、太陽光発電なら太陽に近い方が高効率となるのは理解できるだろう。では具体的な数値をあげると、どの程度違うのだろうか? 

 太陽エネルギーは宇宙空間の四方八方に飛散し、約1億5千万キロメートル離れた地球に届くのは、太陽が発する全エネルギーのわずか22億分の1でしかない。イコール22億倍の発電効率になる訳ではないが、それでも数億倍にはなるだろう。供給量が30%減少したところで、攻撃衛星やシールド衛星を数百数千機フル稼働させても何ら問題は無い。

 そして太陽に配備した場合、地球から離れているという事で狙う宇宙人がいるかもしれない。しかし太陽に配備したアンサラーなら、有り余るエネルギーを使ってどうとでも出来るだろう。もしもの話になるが、太陽に配備したアンサラーと以前地球に侵攻してきた絶対天敵(イマージュ・オリジス)の艦隊なら、一方的なワンサイドゲームになる筈だ。

 

(ダイソン球の亜種って言って良いのかな?)

 

 ダイソン球とは恒星を卵の殻のように覆ってしまう仮説上の人工構造物で、恒星の発生するエネルギー全てを利用可能という、宇宙コロニーの究極の姿とも言えるものだ。今この瞬間まで、地球では実現不可能な空想の産物と思っていたのだが………。

 

(どうだろうね? 利用可能なエネルギーの量っていう意味では良い線いってると思うけど、厳密な定義から言ったら違うって事になると思う)

(そうか。いや、でも凄いな。これならネックになっていたスターゲートの増設が一気に進められるな)

 

 太陽から地球に届く光でアンサラー1機が発電できる量を100とした場合、スターゲートを開いて維持する為には20必要で、全エネルギーを使えば5つ維持できる。しかしその場合は本体の防衛システムも使えない状態となってしまうため、束と晶は安全を考えてアンサラー1機につき、開くスターゲートは3つまでとしていた。

 このためアンサラー4号機と5号機を投入している月には、6つしかスターゲートを置けなかったのだ。地球にある1~3号機を使えば数は増やせるが、安全を考えて地球直近にはスターゲートを置かないという方針でもあったからだ。

 しかしアンサラー4~6号機を太陽に配備してスターゲート送電でエネルギーを賄えるなら、この制限は無くなる。加えて言えば束は3ヵ月でスターゲートを1つ造れるため、現在倉庫に余っているのだ。

 

(うん。繋ぎたい星系もリストアップしてあるから、帰ってきたら一緒に見ようね)

(オッケー。じゃあ、サクサク進めていくか。次はどうする?)

 

 こうして2人は疑問点や改善点を話し合いながら、実験を進めていったのだった。

 

 

 

 ◇

 

 

 

 一通りの実験が終わり、帰ってきた晶は自宅の居間で束と話をしていた。2人はソファに隣り合って座り、前のテーブルには飲みかけのコーヒーがある。

 

「ところで思ったんだけどさ、スターゲート送電の今のつくりって、中継衛星MKⅡっていう外部オプションを使う形になってるだろ。将来的に、アンサラー本体に内臓したりするのかな? ほら、アンサラー間でエネルギーをやり取りする時に、外部オプションを使ってるって事は、それをもし破壊されたら出来ないっていう隙になるからさ」

「勿論将来的にはするつもりだけど、私が直接アンサラーを弄ってじゃないかな。中継衛星MKⅡの設計データを記憶させて、自己進化でやらせるつもり。でも対外的には、あくまで中継衛星MKⅡを使用するって形にしておこうかな。勘違いしてくれた方が、色々と都合が良いからね」

「確かにそうだな」

 

 例えば敵対勢力が出現した時に、アンサラーはオプションによって機能拡張している、という情報が真実のように伝わってくれれば、相手の戦力評価を狂わせる事が出来るかもしれない。

 尤も2人とも、余り期待はしていなかった。あくまで期待できる、かもしれないという程度のものだ。むしろ発表を鵜呑みにする方がどうかしているだろう、という程度の欺瞞情報でしかない。

 同意した晶がコーヒーを一口飲むと、束が別の話題を切り出した。

 

「あとスターゲート送電を実用化して太陽にアンサラーを配備したら、月にあるスターゲートを増やせるでしょ。でも増やしたら、交通量が心配だなって思ってるの」

 

 それは晶も思っていた切実な問題だった。というのも今現在、月にある“首座の眷族”と“獣の眷族”の領域に通じるスターゲートの交通量は増加の一途を辿っているからだ。両文明の輸送系企業がこの航路を使って利益を上げた事で存在が知れ、かつ“首座の眷族”側のスターゲートには、少ないとは言え艦隊が張り付いている事から、比較的安全という話が広がっているようなのだ。今はまだ渋滞を起こす程の交通量ではないが、このままでは遠からず渋滞するだろうし、スターゲートを増やせば交通量は加速度的に増えていくだろう。

 そして交通量が増えれば不慮の事故も良からぬ事を考える輩も増えるだろうから、早急な対策が必要だった。しかし人も物も船も足りない。“首座の眷族”や“獣の眷族”に協力を頼めば協力してくれるかもしれないが、太陽系で好き勝手に動かれたくはない。

 暫し考えた晶は、太陽にアンサラーを3機配備する事によって得られる莫大な、有り余るエネルギーを使った案を考えた。

 

「なぁ束。確認だが、使えるエネルギーはこれまでの何億倍という単位で良いんだよな?」

「うん」

「ならさ、月の衛星軌道にあるスターゲート同士を、シールド制御技術の応用でトンネルを造って繋いだらどうかな? これなら不慮の事故を装って航路から外れて、好き勝手に動かれる心配も無いと思うんだ」

「………もしトンネル内で加速されたら? 宇宙空間で玉突き衝突なんて笑い話にもならないよ。あとワープドライブを起動されたら?」

「以前アラライルさんからもらった引き渡しリスト*4に、艦船臨検用ステイシス装置*5とか、艦船臨検用ワープ妨害装置があっただろ。アレを大量に購入する。あとシールド制御の応用でトンネルを造るなら要所要所にシールド発生装置があった方がコントロールし易いから、それは地球の企業に発注して………いや、絶対に間に合わないからこれも発注するか。何か仕込まれるのが心配だけど、それは俺と束で安全確認するとして、後から地球製と交換していけば技術発展にも使えるか」

「晶。考える事が大きいね。エネルギーシールドでトンネルを造って道にするなんて、私も流石に考えてなかったよ」

「只の思いつきだよ。で、どうかな?」

「ちょっと待ってね。今計算するから」

 

 束は空間ウインドウを展開して、何やら計算式を入力し始めた。横から見ていると、変数に入力される値が画面の端から端まである。どういう単位なんだ? そうしてたっぷり5分ほどかけて手動計算が行われた後、彼女は口を開いた。

 

「うん。エネルギー総量的には大丈夫だと思う。でも船の質量、特に荷物を満載した重い輸送船の質量を受け止められるシールドを常時張るなら、発生装置に相応の性能が必要で、今の地球企業じゃ造れない。全部買う事になるかなぁ」

「自分で言っておいてアレだけど、丁度良い商品ってあるかな?」

「要求仕様を送って造ってもらった方が、探すより早いかもね」

「そうだな。でもお前の仕事が増えちゃうな」

「この程度大した事ないよ。晶がカラードを育ててくれたお陰で、色々面倒が減ってきているからね」

「そうか?」

「そうだよ。地球内部の事はセッシーに任せておけば大体上手くやってくれるし、宇宙開発関連だってシャルロットが晶の手足として忠実に働いてくれている。武力だってラウラがちゃんと纏めてる。下手をすれば結構な被害が出る異常気象だって異常気象対応部門のお陰で色々な事に対応できるし、腹立たしいマスゴミの情報操作だって、義妹ちゃん達が作った会社のお陰でやり易くなった。ぜーんぶ、晶のお陰なんだよ」

「なんか、面と向かって言われると照れるぞ」

「何言ってるの。毎朝もっと凄いことしてあげてるのに」

「それはそれ。これはこれだ」

「ふふ。じゃあこのくらいにしといてあげる」

 

 こうして2人はこれからの事を話しながら過ごしていったのだった。

 

 

 

 ◇

 

 

 

 時間は進み、忘年会シーズン真っ只中。

 クラスメイト達と行うアットホームな忘年会は、皆でワイワイガヤガヤする非常に楽しいものであった。ちょっと絡み酒なクラスメイトもいたが、それも含めて楽しいイベントの一部である。

 しかし世の中、楽しいイベントばかりではない。他文明との交流を持ち統一政府になりつつあるカラードとして、相応の規模で忘年会を開催する必要があったのだ。

 晶としては面倒臭いが先に来てしまうのだが、更識の人間で日頃から公私共に献身的に仕えてくれている秘書さん達が、「必要だからやって下さい」というのだ。やらない訳にはいかないだろう。

 このため会見に使っているいつものホテルの大会場には、各国から集まった関連企業の最高経営責任者や政府要人達が多数揃っていた。そして多国籍企業でもあるカラードの忘年会は、名前こそ忘年会だが、中身は少々違う。今年宇宙進出事業に貢献してくれた総合力の高い企業や一芸特化企業の発表、将来有望と思われる企業への投資発表など、非常に企業色が強いものとなっていた。なおこの貢献度は、ステージに設置されている大型ディスプレイに幾つかの評価条件が表示され、次いでその条件に従って協力企業の活動内容や成果が表示されていく、というかなり透明度の高い方法で行われていた。これは密室で貢献度を決めるより、共通の物差しを見せた方が公平感があって理解を得られやすいという事で、昨年(初回)から導入されていたものだ。

 また総合力の高い企業と一芸特化の企業を同じ物差しで測るのはフェアではないので、一芸特化企業には一芸特化用の評価基準が用意されていた。例えば特定の素材ではシェアの殆どを握っている。特定分野では圧倒的な技術力を持っている。等々。職人気質な企業はビジネスバランスに優れていない事が多いが、そんな企業もキッチリ評価するという姿勢を前面に押し出したものだ。

 そしてこの忘年会で発表された貢献度の高い企業には、明確な実利があった。

 現在カラードが宇宙船のレンタル事業で使っているのと同型の船を“首座の眷族”から買い、1年間自由に使わせるというものだ。無論、幾つかの制約はある。“首座の眷族”の宇宙船を操船できる地球人パイロットは育成中なので、操船は一緒に購入するマネキン人形みたいなアンドロイドがする事になる。更に言えば宇宙文明の法に抵触するような行為があった場合、その程度に応じてアンドロイドは処置を実施する場合がある。つまり好き勝手な無法は出来ないという訳だ。しかし地球文明では束以外、まだワープドライブ搭載型宇宙船を造れない。その現状を踏まえれば、どれだけ価値のある実利か分かるだろう。カラードに協力しているか否かで、宇宙活動の自由度が天地ほどに違うのだ。因みに1年という期間限定にしたのは、与えたところで地球文明にはメンテナンス技術が無いので最終的に廃棄処分されるのが目に見えていること、地球文明の技術では安全に廃棄できない等の理由からだった。ならば期間限定にした方が受け取る方も余計なコストがかからず、「来年も自由に宇宙船を使えるように頑張ろう」と思ってくれるのを期待してであった。尤もこの実利は、地球文明製の宇宙船が普及してきたら使えなくなるので、その時はまた別の実利を考えていく必要がある。

 

 ―――閑話休題。

 

 これらの発表によって会場は大いに盛り上がっていた。何せここで名前が出るか否かによって、来年度の企業活動の行い易さがまるで違うのだ。様々なドラマがあるだろう。が、赤の他人にとっては割とどうでも良い話である。

 むしろカラードの忘年会と言えば、見目麗しい女性達の華やかなドレスコードの方が注目を集めていた。ISパイロットを多数擁するカラードには、非常に美しい女性が多いのだ。

 また見栄っ張りな最高経営責任者や政府要人は、ISパイロットを護衛の名目で同行させ、フォーマルな場だという理由でドレスコードさせていた。このため会場内は右を向いても左を向いても美女ばかり、という世間一般の男性にとっては夢のような状況となっていた。

 そんな中で晶は、とあるISパイロットと話をしていた。1年前の忘年会で話した相手、ギリシャ国家代表のベルベット・ヘル*6だ。燃えるような赤髪は激しい感情の持ち主である事を想像させ、緩やかなウェーブを描いて腰付近まで伸ばされている。対照的に美しいが感情を感じさせない表情は、冷静・冷徹・クール。そんなイメージを連想させた。ISの待機状態である青いフレームの眼鏡も、冷静というイメージを後押ししているだろう。まるで炎と氷を操る彼女の専用機“ヘル・アンド・ヘヴン”のような二面性だ。

 スタイルも容姿に見合うもので、身長160cmで上から94、58、89という――――――あれ? 昔見た時より少し大きい気がするぞ。視覚データをNEXT(N-WGⅨ/IS)で画像分析。修正。身長160→162でBが94→97と大きくなってる。そんなボンキュッボンなラインで、胸元や背中は露出をするのがマナーというイブニングドレスだ。深い谷間が魅力的で、周囲にいる男性諸君の目が釘付けになっているのも仕方がないだろう。

 

「――――――ところで、ベルベットさんはISの運用を学ぶ為に我が社に来ている訳ですけど、いつまでとか期限は決まっているんですか?」

「いいえ。むしろこれから宇宙活動が多くなるだろうから、更に学んで母国に還元して欲しいと言われています」

 

 これが建て前である事は、ベルベットも勘付いていた。恐らく社長に「帰れ」と言われない限り、帰還命令が出る事は無いだろう。そしてギリシャとしては男女の間違いを期待しているのだろうが………まぁ、恐らく無いだろう。というか、もしあってもベルベットは口外する気など無かった。相手が相手だけに、どれだけ面倒臭い事になるか分かっていたからだ。

 ある程度直接話が出来て、ギリシャの要望を伝えられるくらいの立ち位置が安全――――――こう考えていると、社長が口を開いた。

 

「そうですか。ならもしかしたら、仕事を頼む事もあるかもしれません。その時は、お願いしますね」

「その時は、全力を尽くさせてもらいます。では、失礼致します」

 

 ベルベット・ヘルが極々一般的な作法に従い軽く頭を下げて去っていくと、傍らにいたシャルロットがコアネットワークを繋いできた。

 

(本当に何か仕事を頼むの?)

(今のところは只の社交辞令のつもり。でも遠からず、カラード以外のISパイロットが宇宙(そら)で活動する日も来るだろう。パワードスーツが普及しても、高難度ミッションはISになるからな。その時に備えて、一般的なパイロットが使えるような、なんていうか、経験の蓄積というかデータベース化みたいな事はやっておく必要があると思うんだ。その為には色々やらせて、その情報を持ち帰ってもらうのが一番だと思うんだけど、どう思う?)

(そうだね。知っていれば避けられる事って沢山あるけど、地球人は宇宙(そら)についてまだまだ知らない事が多いからね。でも単独ミッションは何かあった時にカバーが利かないし、何か方針を示しておいた方が良いと思うんだ。例えば宇宙(そら)でのミッションは必ずツーマンセルで受けることにするとか)

(そうだな。そういう事も考えておいた方がいいか。地球と同じ感覚でミッションを受けられたら、変なところで足を掬われかねないもんな)

(うん。これは………そうだね。後でラウラと一緒に考えて、原案を出すね)

(頼む)

 

 因みに今のシャルロットは、黄色を基調としたAスレンダーラインと言われるタイプのドレスに身を包んでいた。スカートの裾が広がらず、身体のラインに沿った細身のデザインだ。そして全体的なデザインは淑女らしい落ち着いたものなのだが、細身のデザインと着用者のスタイルの良さが相まって、淑女でありながら色気漂うという絶妙なドレスコードとなっていた。

 もしここがカラードの忘年会会場でなければ、周囲の視線を独占していただろう。だがここはカラードの忘年会会場で、欧州の三美姫全員が出席している場でもあるのだ。

 副社長として挨拶回りをしていたセシリアが、晶の元に戻ってきた。着用しているのは蒼を基調としたマーメイドドレス。上半身から腰回り、膝にかけてはタイトで、その下はふんわりと広がるタイプのドレスだ。デザイン的に女性らしい曲線が際立つドレスだが、中身が極上の素材であるため、大輪の花とでも言うべき華やかさがある。実際多くの者が吸い寄せられていたが、彼女は危なげなく捌いていた。

 次いで戻ってきたのは戦闘部門長のラウラで、着用しているのは黒を基調としたフィッシュテールドレス。スカートの前が短く後ろが長くなっているデザインだ。また胸元はVネックラインであったため、昔と違い成長した双丘の自己主張が見て取れた。

 そうして3人が揃うと、セシリアが晶を挟んだシャルロットの反対側に座り、ラウラはワインを片手に晶の座る椅子の背もたれに寄りかかっていた。

 これを見て、晶が口を開く。

 

「ラウラ。お前その場所好きだな。去年もそこに陣取ってただろう」

「この場所が一番面倒が無いんだ」

 

 すると去年と同じようにシャルロットが言った。

 

「行儀悪いよ」

「お行儀の良い行いは、シャルロットとセシリアに任せるさ。私の事は番犬とでも思ってくれ」

 

 これにセシリアが突っ込んだ。

 

「そんな事を言って」

 

 続く言葉はコアネットワークからだった。

 

(椅子1つ分も離れたくないなんて、入学時の誰かさんからは考えられませんわ)

(悪いか? 私は身請けされた身だからな。主人とは可能な限りくっついているべきだろう)

(い、言うようになりましたわね)

 

 余りにストレートな返答に、突っ込んだセシリアの方が一瞬言葉に詰まってしまった。

 

(言うさ。お前達相手に偽る必要も無いからな)

 

 今度はシャルロットが言った。

 

(こういうのって、普通なら恋のライバルとか色々あるんだろうけど………まぁ、晶だからね)

(そういう事だ。だから気兼ねなく言える)

(確かにそういう意味では、私達は幸運と言えますわね。ドロドロのドラマのような事は心配しなくて良いんですもの)

 

 3人は忘年会の最中にこうした内緒話をしながら、晶の傍らで過ごしていったのだった。

 

 

 

 第209話に続く

 

 

 

*1
元ネタはACVDのラスボスN-WGⅨ/V。右首元にあったチューブ状のパイプが無い以外は、漆黒という機体色も含めて、ほぼそのままです。

*2
束の専用IS。元ネタは「魔法少女リリカルなのはStrikerS 高町なのは エクシードモード」。白と蒼を基調としたジャケット、ビスチェ、ロングスカートという服装にトレードマークのウサミミ型ヘアバンドを身につけています。なお良い子の皆さんにはどうでも良い事ですが、スカートの下は白と蒼を基調としたズボンなので、宇宙空間で下から覗いても眼福な光景は拝めない仕様となっております。

*3
ラウラの愛機シュヴァルツェア・レーゲンに搭載されている兵装の1つ。ISに搭載されているPICを発展させたもので、任意の対象を停止させる事ができる。

*4
第191話

*5
SFお馴染みの対象を強制的に減速させる装置。IS世界で言えばAICに近い。

*6
アーキタイプブレイカーで登場したキャラです。




スターゲート送電システム。
これで事実上他惑星でのエネルギー問題は無視できる上に、他文明にエネルギーの輸出まで行えるようになります。
これは物凄い強みですが………良い事ばかりではなかったりもします。
だって世の中、良い人(良い宇宙人)ばかりではありませんので。
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