インフィニット・ストラトス ~迷い込んだイレギュラー~   作:S-MIST

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途轍もなくメリットの大きい技術ですが、他文明から見たら「金のなる木」でしょうなぁ………。
友人がいるかどうかは大きいと思うのです。


第209話 スターゲート送電システムの実用化(IS学園卒業2年目の1月~2月)(イラスト有り)

  

 年が明けた1月。

 いつもの公開されている会談で、束はアラライルとスノーに購入したい物があるのを伝えていた。

 

『御二人に確認したいのですが、少々計画している事がありまして、艦船臨検用ステイシス装置*1と艦船臨検用ワープ妨害装置を多数揃えたいと思っています。あと、こういう仕様に合うシールド発生装置はありますでしょうか? あるなら、こちらも多数揃えたいのですが』

 

 その言葉と共に要求仕様が送られ、確認したアラライルが口を開いた。

 

『前者2つは以前お渡しした物*2なのですぐに揃えられますが………後者は相応に大型で高性能ですね。必要な数と使用目的を教えて頂けませんか』

『こちらが月にスターゲートを集中配置してハブ化しているのはご存じかと思いますが、現在交通量が増えてきています。何らかの安全対策を行わなければ、渋滞からの過密・接触事故が有り得るでしょう。また、余り考えたくはありませんが、無法者がスターゲートを越えてすぐに緊急加速をしたりワープドライブを起動した場合、対処が間に合わず被害が拡大する可能性があります。なので、少し考えました。人も物も足りない状態で航路の安全を確保するにはどうしたら良いのか』

『それは?』

『意外と簡単でした。こちらが準備した航路から外れないようにしてしまえば良いのです。具体的に言えば、スターゲート同士をエネルギーシールドで造ったトンネルで繋いで、不慮の事故であっても航路から大きく外れないように。そして危険な急加速にはステイシス装置で、ワープドライブの起動にはワープ妨害装置で対処しようかと』

『理屈としては分かります。ですが確かそちらのスターゲートは、月の衛星軌道に等間隔で配置されていましたね。その何万キロという距離を、エネルギーシールドで造ったトンネルで繋ぐ。しかもスターゲート間を繋ぐ道として使うという事は、直径は最低でもスターゲートの直径と同じ10キロメートルです。必要なエネルギーは控え目に言っても莫大でしょう。出来るのですか?』

 

 すると束は、ニヤリと笑みを浮かべた。

 

『新しいエネルギー源の開発に成功しましたので』

『先程の言葉を実現できるだけの新しいエネルギー源ですか? 貴女以外が言ったのであれば一笑に付したところですが、他ならぬ貴女の言葉ですからね。因みに、どのようなものでしょうか?』

『驚かせたいので、稼働させた時にお話します』

 

 悪戯っ子のようにおどけた束だが、この場でスターゲート送電と言わなかったのは、実はギリギリの判断であった。

 何故なら現時点で束と晶が入手している情報として、星系間を跨いだエネルギー伝達手段は宇宙文明にも存在していないのだ。このため稼働前に公にした場合、どんな横槍が入るか分からないと考えるのは極々自然な事だろう。最悪、強奪を目的とした地球侵攻を誘発してしまうかもしれない。どれだけの数が来ようと撃退は可能だろうが、その場合はNEXT(N-WGⅨ/IS)の“隕石雨”という手札を切らなければいけなくなる。束としては絶対に避けたい未来であった。

 かと言って稼働まで完全に秘匿してしまえば、今後確実に発生するであろう月の交通問題への対処が遅れてしまう。事故が起きてからでは遅いのだ。加えて言えば稼働後に必要機材の購入を始めたのでは、足元を見られる可能性が高い。地球に十分な工業力と生産力があれば稼働まで完全に秘匿していたのだが………。このような考えから、大量のエネルギーをつくれるという事のみを話題として、スターゲート送電については稼働時まで伏せる事にしたのだった。

 そして幸いな事に、これまで不可能を可能にしてきた実績からか、アラライルは深く聞いてこなかった。

 

『ふむ………。では、いつ頃からの運用開始を予定していますか?』

 

 尤もアラライルとて、何も考えずに見逃した訳ではない。尋ねるまでに空いた数秒の間に、確認しようとは思ったのだ。辺境議員という立場を考えるなら、するべきだとも。しかし彼の決断はしないだった。何故か? 篠ノ之束博士がこれまで世に送り出した数々の発明品を思い浮かべ、恐らく縮退炉や相転移機関に類するものだろう、という予想が出来たからだ。何も難しい予想ではない。ISやアンサラーを見れば、サイズと出力が明らかに釣り合っていない。単なる内燃機関であの性能は不可能だ。ならば空間そのもの、或いは質量を直接エネルギーに変換する技術を有している、くらいは考えて然るべきだろう。

 ではそれらを先程の言葉が実現できるレベルの性能で造れたとして、運用は誰が行うのか、という話になる。扱いを間違えば星ごと消し飛ぶようなエネルギー機関を、だ。束博士しかいないだろう。そして束博士は1人しかいない。並列処理で幾つかの物を同時に稼働させる事は出来るかもしれないが、1人で行える事には限りがある。地球文明内部に対しては極めて有効な手札になるかもしれないが、文明間外交のレベルで見るなら大きな問題ではない。如何に強力なものであっても、運用に制限があるならどうとでもなるからだ。

 また付け加えるなら、スターゲート理論を用いてのエネルギー伝達手段は、“首座の眷族”ですら基礎理論段階の超技術なのだ。一個人が独力で理論を完成させ、しかも実用化など、完全に想像の埒外である。

 

『来月には稼働させて、月のスターゲートを増やします』

『増やせるスターゲートの数に制限はありますか?』

『正確な数は秘密とさせて貰いますが、10や20ではない、と言っておきます』

 

 この返答にアラライルはもう一度考え、話を進める事にした。

 

『………………分かりました。先程言われた物ですが、それぞれ幾つ必要ですか?』

『各4万個ずつで』

『ステイシス装置とワープ妨害装置はまだしも、要求されたシールド発生装置の性能ですと相当高くつきますが』

『私と晶の共同口座に――――――くらい入っていますが、足りませんか?』

『残念ながら』

『そうですか………余り時間を使いたくなかったのですが、仕方ないですね。シールド発生装置の設計図は私が書きますので、製造だけ頼む事は可能ですか? この手の商品は基本的に、設計や各種テストでかかったコストが値段に上乗せされているでしょうから、それで設計分は差し引けると思います。どうでしょうか?』

 

 余りにも簡単に言われるので肯きそうになったアラライルだが、ギリギリのところで思い留まった。

 

『考えとしては間違っていませんが、新規の製造ラインを立ち上げるか現在動かしている製造ラインを止めてという事になりますので、メーカーとしても――――――』

 

 難しいのではないでしょうか、と続けようとしてアラライルはふと思った。篠ノ之束博士は独力でスターゲート理論に辿り着き実用化した天才だ。イクリプスやアリコーンという戦闘艦も自作している。しかも性能の底がまだ見えていない。それだけの物を造れる彼女が、自身の計画を進める為に書いた設計図だ。先程の要求仕様を見ても、相応に高性能なものを要求している。その設計図を書くと言っているのだ。天才自らが。

 メーカーの商品として売るなら多少追加の交渉が必要になるが、魅力的な商品になる可能性がある。

 心の天秤が傾いたところで、更に思った。

 篠ノ之束博士からは、時折有益な情報が転がり込んでくる事もある*3。ならば多少の労力には目を瞑っても良いだろう。

 こう考えたアラライルは、続く言葉を変えた。

 

『――――――いえ。幾つか造ってくれそうなところに心当たりがあるので、当たってみましょう』

『ありがとうございます』

 

 こうしてアラライルとの会話が一段落したところで、今度はスノーが口を開いた。

 

『スターゲートを増やすという事ですが、何処に繋ぐかはもう決めているのでしょうか?』

『ある程度は決めていますが、まだ決定ではありません』

 

 束は3ヵ月でスターゲートを1つ造れるが、エネルギー供給の問題があったため昨年の6月を最後に、新たなスターゲートを配置していない。しかし造り続けてはいたため、束宅の倉庫には待機状態のスターゲートが2つあった。接続先にどのような場所を選ぶかは、先日晶と話をして決めてある。1つはテラフォーミングの行い易い星系に、1つは資源の豊富な星系にだ。だが具体的な星系まではまだ決めていなかった。理由はこの上なく2人らしいもので、話している内に「あっちが良い」「こっちも良い」となってしまい、巡り巡って「やっぱりあっちも………」と話が脱線したからだった。

 

 ―――閑話休題。

 

『そうですか』

 

 返事を聞いたスノーは、相槌を打ちながら考えた。

 この場でスターゲート接続先の交渉をするべきだろうか? 否だろう。焦って交渉したところで良い結果など出ないし、何より束博士は個人でスターゲートを造れる存在だ。つまり1つや2つしか増えない訳ではない。その束博士が月をハブ化する方針である以上、将来的に月は銀河系のあらゆる場所にアクセス可能な要所になるだろう。

 ならば今すべきなのは、ハブ化の整備に協力して、その要所を自由に使える立ち位置を確保することだ。加えて言えば協力者という立ち位置を確保した方が、接続先の希望も通り易いだろう。

 考えを纏めたスノーは言葉を続けた。

 

『月のハブ化事業ですが、整備に協力させてもらえないでしょうか。恐らく多くの場所にアクセス可能になるハブ化された月が使えると、こちらとしても非常に有り難いのですが』

 

 束博士は少しばかり意外な顔をした。

 

『良いのですか?』

『はい』

『てっきり接続先について、色々言ってくるものと思いました』

『希望が無い訳ではありませんが、横から口だけ出す相手など不愉快なだけでしょう。なので素直に協力して、希望を聞いてくれそうな関係になろうかと』

『ストレートですね』

『お気に召しませんか?』

『いいえ。素直に受け取らせてもらいましょう。ただ先に言っておきますが、月は地球直近の衛星なので、安全保障については過敏にならざるを得ません』

『母星の直近である以上、当然の事でしょう。なのでこちらとしては、そうですね。取り合えず2つ協力しようと思います。1つは機材購入の資金援助。半分はこちらで出しましょう。もう1つは情報で、現在銀河系で起きている紛争情報についてです。接続先を選ぶ時の参考にして下さい』

 

 地球近郊で直接的な作業をする訳ではない。しかし地球側の負担は減らせる、という内容であった。

 

『配慮ありがとうございます。ですが、宜しいのですか? 機材購入の半分となれば、相応の額になると思いますが』

 

 するとスノーはニコリと笑って答えた。

 

『問題ありません』

 

 星間外交を担う大使には、相応の資金が与えられている。本星の指示を待っていては間に合わない事案というのがあるからだ。そして今回は“獣の眷族”が協力的に援助したという事実を作る為に、与えられている資金を早急に動かす必要があった。だがこの資金は、本星が必要性や正当性を認めれば後から補填されるので問題無い。

 ましてスノーは王からの勅命で地球に赴任しているのだ。断る愚か者はいないだろう。

 また月のハブ化を惑星開発事業として見た場合、一番金がかかり利権も絡んで調整が面倒臭いスターゲートを篠ノ之束博士が個人製造しているので、非常に安いのだ。何割引きというレベルではなく、下手をすると何百分の一というレベルで。それに比べれば必要機材を数万個用意するなど、どうという事はない。ハッキリ言ってしまえば全額負担しても良いのだが、何事も出しゃばり過ぎは良くない。程よく自己負担もあった方が、事業としては健全だろうという判断からだ。

 

『分かりました。では資金と情報を有り難く頂戴します』

『はい。どうぞ使って下さい』

 

 こうして月のハブ化は急速に進んで行く事になり、この事実は多くの地球人を純粋に喜ばせた。ほんの数年前までは月に行くのですら一大事業で、火星や金星に行くとなれば、低い成功率に莫大なコストをかけなければいけない推進の非常に難しい国家事業だ。それが今はどうだ? 束博士がスターゲートを造ったお陰で、違う星系へ行く事が現実的な選択肢としてある。使う船こそ開発中だが、カラードが宇宙文明で使われている船を研究用に配ってくれたお陰で、これも数年前までは考えられなかったスピードで進んでいる。しかも月のハブ化が進めば、行ける場所はもっともっと増えていく。

 時代が進んでいると誰もが感じていた。

 そしてここまでの功績であっても、篠ノ之束の名前は地球の歴史が続く限り語り継がれるのは間違いない。だが宇宙(そら)の歴史となると少し違う。スターゲート理論に独力で辿り着き実用化した天才という事実は揺らがないが、“誰もが知る”というレベルではない。

 彼女の名が銀河の最先端をひた走る者として知れ渡ったのは、これから1ヵ月後。地球の暦で2月のことである。

 

 

 

 ◇

 

 

 

 その日、地球に住まう大多数の者はソワソワしていた。

 篠ノ之束博士が1ヵ月前に言っていた新しいエネルギー源についての発表がある日だからだ。事前情報は一切無い。また月の衛星軌道には既に、トンネル状のハイウェイをつくる為のエネルギーシールド発生装置に加え、ステイシス装置やワープ妨害装置が各4万機ずつ配置されているが、まだ稼働はしていない。稼働させる為の膨大なエネルギーはどうするのか? 全てが完璧に秘匿された中で、まずはカラードの広報担当から発表があった。いつものホテルではなく、TVやWebを使った一方通行なものだ。

 

『地球に住まう皆さん。こんにちは。或いはこんばんは。篠ノ之束博士からの伝言をお伝えします。これから月に配備しているアンサラー4号機と5号機を順次移動させます。各種施設への送電は維持されますので心配はありません。そして6時間後、とびっきりの発表をお伝えしますので楽しみにしていて下さい。という事です』

 

 この発表により、人類の目が一斉に月へと向いた。すると、確かに作業が始まっていた。

 束博士の乗艦であるイクリプスが、アンサラー4号機の近くにある。月の北極だ。何をしているのだろうか? 多くの者が超長距離の荒い光学映像で見守る中、直径30メートル程の球体が配置された。次いで同様の球体が複数イクリプスから放出されると、始めに配置された球体を中心として、同心円状に回転を始めた。なんだろうか? 誰もが思うが、疑問に答えられる者はいない。その間にイクリプスはスターゲートを展開して、アンサラー4号機と共に何処かに行ってしまった。

 この3時間後、月の南極でも同じ事が行われてアンサラー5号機は運ばれて行ったが、スターゲートや各種施設への送電は維持され正常に稼働している。これはつまり、アンサラーの小型化に成功したという事だろうか? 多くの者が色々と予想するが、予想している当人達も何か違うと思っていた。

 そうして約束の6時間後、ついに束博士本人から発表があった。いつもの会談で使用されている回線で、姿は好んで着ている着物ではない。自身の専用IS“エクシード”*4だ。

 

『地球の皆さんこんにちは。或いはこんばんは。篠ノ之束です。さて、この6時間で皆さん色々予想したかと思います。なので細かい話は抜きにして、まずは答え合わせをしようと思います』

 

 画面が切り替わり、太陽が映し出された。地球から見える小さな太陽ではない。表面から噴き上がる爆炎、プロミネンスが見える程に近い。

 

『ご覧の通り私は今、太陽近郊にいます。そして私が開発した新しいエネルギー源とは、恒星に一切手を加えず、恒星の持つ莫大な放射エネルギーを使用する方法です。多分、多くの人は思うでしょう。太陽光発電と何が違うのか、と。色々と違うのですが、この場で技術的な事を説明しても退屈なだけなので、得られるエネルギーの総量についてお話します。太陽が発するエネルギーの内、地球に届くのは僅か22億分の1でしかありません。なので太陽に近い方が多くのエネルギーが得られる、というのは皆さん理解し易いと思います。尤も変換効率等の問題もあって、地球に配備したアンサラーと比べて22億倍のエネルギーが得られるという訳ではありませんが、それでも数億倍です。只ここで問題なのは、太陽近郊で莫大なエネルギーを得られたとして、実際の生活で使えなければ意味はありません。一々輸送船を使って運ぶのも面倒です。なので私はこう考えました。せっかくスターゲートという超長距離を跳び越える技術があるのだから、それで送ってしまえば良いと』

 

 あらゆる者がまさかと思った。アラライルやスノーも例外ではない。いや、最先端技術を知るアラライルやスノーの方が、より強くまさかと思った。何故ならその技術は、“首座の眷族”をして基礎理論段階という超技術なのだ。

 

『その技術の名は、スターゲート送電システム。これによって太陽で得た莫大なエネルギーを遠く離れた地でもリアルタイムで使用可能になります。このように――――――』

 

 太陽の衛星軌道に配備された3機のアンサラー、4号機から6号機が本格的な稼働を始める。月にある6機のスターゲートや各種施設を維持・稼働させる為に先に動かしていたが、これから送られるエネルギーは、その程度の“細々とした”ものではない。

 人類が手にした事のない莫大なエネルギーが空間を跳び越え、月の衛星軌道にある計12万機の装置が、十全に稼働できるだけのエネルギーが届けられる。

 結果として出現した光景に、多くの者が目を奪われた。

 月の衛星軌道に土星の環を思わせる、光り輝く円環が形成されたのだ。

 束博士の言葉は続く。

 

『今皆さんが目にしたものは、スターゲート同士を繋ぐ道です。最近交通量が増えてきたので安全対策の1つとして、エネルギーシールドでトンネル状の道をつくりました。そして何処にでも交通ルールを無視する輩はいると思いますので、対象を強制減速させるステイシス装置やワープ妨害装置も、合わせて計8万機ほど配置してあります』

 

 何でもない事のように言っているが、実現するにはどれほどのエネルギーが必要だろうか? 科学的な知識がある者ほど、必要とされるエネルギー量が想像出来てしまう。少なくとも地球上に存在する既存のエネルギー機関では絶対に不可能だ。全て合わせても無理だと言い切れる。科学的な知識の無い者は、純粋にスケールの大きさに驚いていた。人工的に造った道で星を囲むなど、既にファンタジーだろう。

 誰もが想像を超えるスケールに圧倒されている中で、彼女はニッコリとした笑みを浮かべて更に続けた。

 

『―――という訳です。アラライルさん。スノーさん。驚いて頂けましたか』

 

 使われている回線は、いつもの公開されている回線だ。なので、反応はすぐだった。空間ウインドウが2つ展開され、それぞれに両者が映し出される。

 

『正直、ここまでのものとは思っていませんでした。素直に賞賛の言葉を送りましょう』

『私もです。物理的空間を越えてのエネルギー伝達手段など、恐らくどこの文明も実用化していないでしょう。違いますか。アラライルさん』

『その通りです。そしてハッキリ言いましょう。その技術は我ら“首座の眷族”をして、基礎理論の構築段階にあるものです。まさか、という思いで一杯ですよ』

 

 地球を遥かに超える高度文明ですら実用化していない技術を実用化した。この事実が認識された瞬間だった。

 

『そこまで驚いてもらえるなら、頑張った甲斐があったというものです』

『頑張った、で片付けられる話ではないのですよ』

 

 アラライルは言葉を区切った後、一息ついてから言葉を続けた。

 

『――――――ところでそのシステムの安定性は、どの程度なのですか?』

『安定性をイコール防衛力と言い換えて良いなら、絶対天敵(イマージュ・オリジス)の第二次来襲で地球に侵攻してきた艦隊全てを相手にしても完勝できるでしょう。シミュレーションではその1000倍でも相手に出来ましたが、そんな事態にはなって欲しくないですね』

 

 多くの地球人は思った。第二次来襲で侵攻してきた艦隊は、2400メートル級が36隻、5000メートル級が3隻で計39隻だ。1000倍なら39000隻。当時の地球なら、人類は終わっていただろう。それに勝てると言い切る束博士の何と頼もしいことか。

 だが例によって例の如く、束は本当の事を言っていなかった。なにせ太陽に配備したアンサラーの発電効率は、地球に配備した時と比べて、少なく見積もって数億倍にもなる。しかもエネルギーに余裕のあるところから相互に融通可能なのだ。にも関わらず、たった1000倍しか相手に出来ないなど有り得るだろうか? 答えは否である。余りに巨大過ぎる力は恐怖の対象になる―――現時点でも相当なものだが―――ため、本来のシミュレーション結果よりも敵戦力の桁数を減らして答えていた。

 アラライルは難しい顔をした後に口を開いた。

 

『そう、ですか。気を悪くしないで欲しいのですが、私も立場上言わねばなりません』

『どうぞ』

『その技術を輸出しようとは考えないで下さい。下手にばら撒かれた場合、間違いなく争乱の種になります。こちらとしても銀河惑星連合安全保障条約に従い、相応の対処をせざるを得なくなります』

 

 今日初めて実用化された技術が、何故条約対象になるのか? それは技術そのものではなく、結果として何が起こるのか、という事に焦点が当てられているからだった。では、起こる事とは何だろうか? 平和的に使われれば、銀河系のあらゆる場所でエネルギーに困る事が無くなる素晴らしい技術なのに。しかし残念な事に、宇宙(そら)の現状を考えれば有り得ない事だと分かる。どんな遠隔地にもエネルギー供給が行えるなら、敵地への侵攻能力が飛躍的に向上するからだ。銀河の現状として紛争宙域がある以上、もしスターゲート送電の技術が広まれば、それは確定した未来と言えた。

 尤も束としても晶としても、十分に予想の範囲内である。むしろ心配しているのはその先で、他文明の正規軍が強奪を目的として地球に侵攻してくる可能性だ。今は友好的な“首座の眷族”や“獣の眷族”だって、態度を翻して強奪に動く可能性もゼロではないのだ。無論その場合は全力で殴り返すが、失うものが多過ぎる。従って対応も考えていた。敵になって困るなら、味方になって貰えば良い。もし駄目で理不尽な対応をされたなら、仕方がない。覚悟を決めるしかないだろう、

 

『大事な技術なので、元々輸出する気はありません。ただ、エネルギーの輸出はしようと思っていました。御二人に対して』

 

 束は一度言葉を区切り、一息ついてから続けた。

 

宇宙(そら)に出たばかりの地球には、余りにも足りないものが多い。御二人はそれを理解して、様々な面で助けてくれました。なので、心ばかりのお礼です。エネルギーが欲しい場所を教えてくれれば、アラライルさんには2ヶ所、スノーさんには1ヶ所、供給を行います。受信用の衛星を配置しなければいけないので、機密が近い場所は避けて下さいね。疑われてはたまりませんから。あと、基本的に使用方法について口出しする気はありませんが、私達が叩いた海賊のように、あまりに酷い事に使うようなら殴りに行きますので。それは先に言っておきます』

 

 味方になるというのは服従するという意味ではない。なので、言うべき事は言わせてもらう。さて、2人はどう出る?

 先に口を開いたのはアラライルだった。質問が返ってくる

 

『“首座の眷族”にではなく、私達という個人にですか? 何故、と聞かせて貰いましょう』

『今言った通りですが、少し付け加えましょう。御二人はこちらの事情を理解して対応してくれました。職務上、宇宙(そら)に出たばかりの文明に接する際のルールはあるのでしょうが、ルールというのは解釈次第で如何様にでも運用できます。ハッキリ言ってしまえば、もう少し悪辣な対応も出来た筈です。ですがあなた方はしなかった。先程注意喚起はしましたが、渡しても酷い使い方はしないだろうと思っています。そしてもう1つ。“首座の眷族”も“獣の眷族”も、私達はあなた方を通してしか知りません。あなた方は相応の立場にいると思いますが、頂点ではない。文明が個人の集合体である以上、信用できない者もいるでしょう。そのような者には使われたくないので、あなた方という個人にしました』

『なるほど。発言の意図は理解しました。この場での即答は出来ないので、一度本星に対応を仰ぎます。悪いようにはならないと思いますが、返答は後日にさせて下さい。あと本星が対応を考える際の参考資料として、どの程度のエネルギー供給が可能なのか、後ほどデータで下さい』

『分かりました』

 

 次いで、スノーが答えた。

 

『こちらは受け取らせて貰います。ただ物が物なので、恐らく我が王に献上して、その後下賜された者が運用する、という形になるかと思います』

『それは別に構いません。社会体系についてどうこう言うつもりはありませんので。ただ、こちらの考えは先程言わせてもらった通りです』

『報告する際に、併せて伝えておきましょう』

 

 なお両者の対応の違いは、立場の違いによるものだった。

 アラライルは立場上、個人への贈り物に敏感にならざるを得ない。辺境議員の権限というのは非常に強いため、この手の贈り物を許すと大変な事になるのだ。先程のやり取りで“首座の眷族”そのものに対する信用度からの行動であって、相手に賄賂という意思は無かったと確認出来ているので変な事にはならないと思うが………。それを抜きにしても、あれ程の物を個人的に受け取ったとなれば、下手をしなくても首が飛ぶ。

 対してスノーが受け取ると答えられたのは、大使という役職にあるからだった。権限の範囲は広く、宇宙(そら)と地球で多少の差異はあれど、ほぼ全権委任と同義である。このため文明の利益になるなら、受け取るという判断も可能であった。ただし仕事中の成果については細大漏らさず報告義務があるため、受け取ったところで個人所有など出来る訳がない。あれ程の物を個人的に受け取って報告を怠れば、単純な処罰では済まないだろう。このため、先程のような返答になったのだった。

 暫しの沈黙の後、スノーが口を開いた。

 

『束博士。1つ、いいでしょうか』

『なんでしょうか』

『我ら“獣の眷族”は外宇宙ミッションで領域内の星を救ってもらったこと、無法者に捕らわれた同胞を救ってくれたことを忘れてはいません。なので、困った事があれば言って下さい。支援は惜しみません』

『ありがとうございます。ですが、良いのですか? 公開されているこの場でそんな事を言えば、後から色々言われてしまうのではありませんか?』

『逆です。公開されている場だから言ったのですよ』

 

 スノーが隣の空間ウインドウ―――アラライルの方―――をチラリと見た。露骨な仕草だ。すると見られたアラライルは、内心で溜め息を吐きながら思った。条約の話をしている以上、安易に同調出来ないと分かっているだろうに。精々が、このくらいだ。

 

『先程の言葉で言うなら、私は貴女を通してしか地球文明を知りません。ですが貴女がこれまで行った決断と行動は、信用に足るものだと思っています。これからの事は分かりませんが、現在は過去の積み重ねです。本星の者達も判断材料にするでしょう』

 

 束は些か驚いたような表情を浮かべて答えた。

 

『心強い言葉、ありがとうございます。こういうのを出会いに恵まれた、と言うのでしょうか』

『アラライル氏が言っていた通り、貴女のこれまでの決断と行動があればこそです』

 

 こうして全てが公開された状態で行われた発表とそれに続く会談は、いつの頃からか銀河の歴史が動いた切っ掛けとして、幾度となく取り上げられていく事になる。また公開されている会談の映像が多数残っている事から、篠ノ之束、アラライル・ディルニギット、スノー・テールの3人はワンセットで扱われる事が多かったのだが――――――どういう訳かアラライルとスノーは篠ノ之束に振り回されていた、という根も葉もない噂のような話がついて回っていた。尤も、悪い意味ではない。カラードが行った外宇宙ミッションのイメージが強いのか、篠ノ之束が世の為に人の為に突き進んで、結果として起きてしまった余波の後始末に、2人が追われるというチープな創作じみた噂である。

 真相を尋ねたメディア関係者がいたらしいが、本人達は苦笑しながら単なる噂と一蹴していたので、やはり只の噂なのだろう。何故か中々消えない、根強い噂であったが………。

 本人達の耳に入るのは、まだ先の事である。

 

 

 

 ◇

 

 

 

 発表と会談が終わり、地球に戻る前のイクリプス。

 ブリッジで晶は、疑問に思った事を束に尋ねていた。

 

「なぁ。ふと思ったんだけどさ、1つ聞いてもいいか」

「ん? なぁに?」

「いや、さ。スターゲート送電って、なんで有線じゃダメなんだ? 俺は自分でスターゲートを展開して通ってるけど、ちゃんと制御していれば内部の空間は安定しているし、エネルギーが拡散し易いって性質はあるけど、シールドに覆われていない物質を持ち込んでも壊れる訳じゃない。純粋に、なんでかなって」

「ああ。それね。私もエネルギーが拡散し易いっていう性質から最初は有線の方が良いかなって思ったんだけど、う~ん。そうだね。何処から説明したら良いかな。あ、そうだ。スターゲートってさ、入口から入った瞬間に出口から出ていても、入口と出口の間には別の空間を挟んでいるでしょ。晶はスターゲート空間って呼んでるみたいだけど。で、その空間って私達のいる三次元空間の影響を受けているせいか、揺らいだり膨張したり縮小したりしてるじゃない」

 

 ここまでは晶も分かる話だった。NEXT(N-WGⅨ/IS)でスターゲートを展開して通る際に、超感覚とでも言うべきもので空間の動きを捉えていたからだ。

 

「で、本題。その空間が多少揺れる程度なら良いの。有線の強度そのものを高めるなり、エネルギーシールドで覆うなりして対応策は用意できるから。問題は膨張した時と縮小した時で、外の空間と物質的に繋がっている状態でこれが起きると、膨張すると引き込みが、縮小すると吐き出しが起きちゃうの。そしてこの膨張と縮小の幅が結構厄介でね。ゲートが少しでも不安定になったりすると、100キロ200キロなんてあっと言う間にズレて、実験で一番ズレたのは100万キロだったかな。有線で瞬間的にそんなにズレたら、どう対策したって断線しちゃう。怖くてインフラに使うなんて出来ないから、照射形式にしたの。ちょっと難しかったけど」

「なるほど。そういう事だったのか。――――――少し話は変わるけど、“首座の眷族”はどの辺りで詰まっていたのかな?」

「アラライルさんは基礎理論の構築段階って言ってたから、別空間の特性を理解しきれていないのかな? 私は晶がいるお陰で自由に観測できるけど、他の人は違うからね」

 

 大規模な機材とエネルギー源を用意して、限られた機材と時間で観測して、持ち帰った僅かなデータを元に考察を繰り返していく。大変な労力だろう。対して束は、晶にお願いするだけでスターゲート空間のあらゆる事を観測できる。比べるべくもない圧倒的な差だ。理解度に違いが出て当然だろう。

 

「じゃあ、優位性って意味じゃ暫くは揺らがないかな」

「どうだろう。銀河系の頂点に君臨する文明だからね。威信にかけて、死に物狂いで実用化に動くと思うんだ。だから多分、効率面はさておき実用化そのものは、早いと思ってる」

「それは残念。いや、同じ技術を持っていた方が、ある意味で歩調は合わせやすいか? いや、でも………う~ん。色々考えないといけない事が多いな」

 

 様々なメリット・デメリットが思い浮かぶが、どれも考慮しなければならない事が多い。そんな晶を見て、束はあえて気軽に言った。

 

「2人で考えていこうよ。私達が揃っていれば、出来ない事なんて無いんだから」

「それもそうか。じゃ、まずは何をしようか」

「決まってるでしょ。準備と発表と会談で疲れたから、まずは晶成分を補給するの♪」

 

 束は正面から抱きつき、思う存分イチャイチャし始めたのだった――――――。

 

 

 

 ◇

 

 

 

 一方その頃。会談を終えたアラライルは、友好関係にある本星の中央議員を最優先コールで呼び出していた。

 

『お久しぶりです。辺境議員のアラライル・ディルニギットです。今回は最優先コールに応えて頂きありがとうございます』

『前置きはいい。お前が最優先コールを使うくらいだ。何があった』

『地球の篠ノ之束博士が、スターゲート送電を実用化しました』

 

 相手はかなり珍しい表情を浮かべながら言った。

 

『お前の好きなジョーク、という訳ではなさそうだな』

『はい。こちらが映像情報になります。これまで地球に存在していたエネルギー機関では、不可能なことです』

 

 提示した映像情報は、月にあるスターゲートをトンネル状のエネルギーシールドで繋いだあの光景だ。

 

『………信じられん』

『ですが、事実です。そしてこちらが束博士から送られてきた、スターゲート送電用中継衛星の性能です』

 

 新たに空間ウインドウが展開され、様々なデータが表示されていく。見る者が見れば、億人単位の生活インフラを支えるのに十分なエネルギー量だと分かるだろう。加えて表示されているデータの中には耐性という項目があり、もし書かれている内容が事実なら、信頼性も十二分に高いと言える。

 そしてアラライルは、疑われそうな話を先にしておく事にした。

 

『束博士はこれを私個人に2つ渡すので、設置場所を決めて欲しいと言っていました。併せてスパイをする気は無いという意思表示なのか、下手に疑われたくないので、機密が近い場所は避けて欲しいとも』

『何故、お前個人なのだ?』

『文明が個人の集合体である以上、信用できない者もいる。そのような者には使われたくない、という事でした。どのように対応しましょうか?』

 

 中央議員は少しばかり思案した後、口を開いた。

 

『その前に、この発明に対する対応を考えねばならん。これまでの報告書には目を通しているが、改めて聞いておきたい。篠ノ之束博士とは、どういう人物だ?』

 

 アラライルは数瞬考えた後、恐らく最も通じるであろう言葉を選んだ。

 

『私と気の合う同類、でしょうか』

『ハッ、よりによってお前と気の合う同類か。どれくらい気が合いそうなんだ?』

『地球に赴く前は中央議員になるのも良いと思っていましたが、今はもう少し辺境議員でいようかと思っているくらいです』

『報告書を読んでいる時も思ったが、随分と買っているな』

『知的でありながら遊び心もあって、それでいて実行力もある。第3回外宇宙ミッションの結果は痛快でした』

『確かにアレは経過も結果も痛快だった。しかし、それとこれとは別問題だ。この技術は使い方次第で、銀河系の勢力図が塗り替わる。最悪を考えるなら、そこに我らの居場所は無いかもしれん』

 

 考え過ぎ、と言う者もいるかもしれない。“首座の眷族”は恒星以上のエネルギーを出力できるエネルギー機関を造れるし運用している。だから大丈夫だと。違うのだ。問題の本質はその圧倒的な利便性。スターゲート送電は大規模なエネルギー機関を現場に持っていかなくても、大量のエネルギーを遠隔地で使える。手間の少なさはコストの改善に繋がり、コストの改善は競争力の強化に繋がる。個々でみれば僅かだったとしても文明という総合力で見れば、計り知れないほど大きな差となるだろう。

 敵対的な文明や海賊がスターゲート送電技術を手にした場合、どれだけの損害が出るかなど考えたくもない。

 アラライルが答えた。

 

『はい。それは私も心配するところです。その上で、提案します』

『ほぅ』

『特別な事をする必要は無いかと』

『どういう意味だ?』

『言葉通りです。我々はただ新しく出来た友人が素晴らしい発明をしたと認め、共に手を取り合って進みましょうと言うだけで良いのです。むしろ、それ以外は悪手です』

『これから地球には多くの文明が接触するだろう。我らに不利な判断をしないと言えるのか?』

 

 地球は開星手続き中という位置付けなので、本当なら接触には手続きを担当している文明―――この場合は“首座の眷族”―――の許可が必要だ。しかしこれほどの発明を見せられた者達が、ルールを守るだろうか? 確実に、ありとあらゆる手段と方法で難癖をつけてくるだろう。開星手続きとは宇宙(そら)に出たばかりの未熟な文明を護る為にあるのだ。“首座の眷族”ですら実用化していなかった最先端テクノロジーを実用化した文明が、未熟かと言われてしまえば流石に反論できない。

 正当性の無い行動は味方を減らして敵を増やすだけなのだ。

 そして今後接触してくる文明には、“首座の眷族”と敵対的な文明も含まれているだろう。

 しかしそんな心配を余所に、アラライルは言った。

 

『私の首で足りるかは分かりませんが、私の首を賭けても構いません』

『本気か?』

『本気ですとも』

『そこまで自信を持って言い切れる理由はなんだ。信用できそう、などという曖昧な理由ではないだろう』

『勿論です。まず前提条件として、地球は宇宙(そら)に出たばかりの文明にありがちな、情報弱者ではありません。何処の文明がどの程度勢力を持っているのか、というのをある程度把握しています。そして勢力についての情報を持っているなら、我ら“首座の眷族”と手を組むメリットも分かるでしょう』

『だがそれだけでは弱いな。人は時として合理性の無い判断をする。また外圧によって望まない判断を強制され、抗う為には数が必要になる場合もある。外交には総合力が必要だが、今の地球文明はカラードが優秀なだけであって、総合力が高い訳ではない。それについてはどうだ?』

『確かに総合力という点では底辺も底辺でしょう。地球内部に問題は山積みで、現実の見えていない愚か者も多数います。宇宙(そら)で現実的に稼働できる戦力も、潜行戦隊の3隻のみ。束博士の乗艦イクリプスを含めても4隻。以前渡した旧式の高性能ワープドライブ艦を含めても10隻を超えないでしょう。ですが、辺境の小競り合い程度なら全く心配ありません』

『ありません、か。随分断定的に言うのだな』

『既に活動していますから。これをどうぞ』

 

 アラライルは空間ウインドウをもう一枚展開して、地球で言うところのオリオン腕方面の海賊討伐数を表示させた。

 

『随分多いな』

『はい。カラードは第3回外宇宙ミッションの最中に海賊から多くのデータを回収していたみたいで、随分気前良く情報提供をしてくれました。それを元に辺境の治安を乱していた輩を叩いています。武力的な意味でも経済的な意味でも』

 

 更に追加で空間ウインドウが展開され、海賊と繋がっていた表の者達が表示される。辺境でそれなりの立場にいた者も多い。無論全てを叩けたと自惚れるつもりはないが、あちら(海賊)にとっても無視できない被害だろう。

 

『確かに治安そのものが良ければ、近隣の文明も考慮はするだろう。治安を乱したという悪評は出来るなら避けたいだろうからな。だが、所詮は出来るなら避けたいというレベルでしかない。スターゲート送電を独占できるなら、早期に艦隊を送り込んで蹂躙して強奪する、という判断も有り得るだろう』

『それならそれで構いません。むしろやって欲しいですね。侵攻用の艦隊を動かしてくれたなら、友人を助けるという大義名分が立ちます。正規艦隊を動かす理由としては十分でしょう』

 

 中央議員は思った。

 銀河系の頂点に君臨する“首座の眷族”の正規艦隊が動くには、相応の理由が必要だ。そして地球が宇宙(そら)に出てきてからこれまでの経過として、助けるに値する相手と言って良いだろう。特に第3回外宇宙ミッションの働きは大きい。アレで助けられた者達が多数いるお陰で、いつもなら何かしらにつけて反対する者達も大きく反対は出来ないだろう。

 アラライルの提案は悪くないと言えた。

 

『分かった。その方針でいこう。中央は私の方で纏めて声明を出させる。お前はこれまで通り、友好関係を築いていけ』

『了解しました。――――――で、先程の話題に戻しますが、束博士からのプレゼントは如何致しましょうか?』

『そうだな。せっかくの申し出だ。協力者を増やすのに使わせてもらおう』

『と言いますと?』

『支援はしているが、余り手間暇を掛けたくないところが幾つかあっただろう』

 

 今のアラライルの仕事は主に地球関連だが、他方面の情報収集を行っていない訳ではない。思い当たる節が幾つかあった。そして支援にもリターンを期待できる美味しい支援と、余りリターンを期待できない美味しくない支援がある。中央議員が言っているのは後者だった。美味しくないから支援量が少ない。支援量が少ないから事態が改善しない。しかし当事者達にとっては切実な問題なのだ。大きな案件ではないが、こういうのは後々効いてくる。

 

『分かりました。声明と同時に動くように手配しておきます』

『そちらは任せた』

 

 こうして、“首座の眷族”の行動方針は決まっていったのだった。

 

 

 

 ◇

 

 

 

 同じ頃。事の重大さから“獣の眷族”本星に最優先コールを行い、王へと直接報告していたスノーは、下された判断に安堵していた。技術の強奪という選択肢を含めて、敵対する事はいつでも出来る。友人から敵になるのは簡単だが、逆は難しい。よって地球が友好的である限りは友好的な対応を続ける、というものだったからだ。必要なら非情な判断もしなければならない彼女だが、この辺りは性格だろう。

 また束博士からのプレゼントについては、「お前が使うと良い」と言われていた。とは言っても、自分の為だけに使って良いという訳ではない。“獣の眷族”の為になる事を、自身で考えて実行せよ、という意味だ。つまり下手な事を行えば政治的失点として、相応の判断が下されるだろう。

 そう思っていると、空間ウインドウに映る王が話題を変えた。

 

『―――ところでスノーよ。最近色々と動いているようだが、何か良い情報源でも見つけたか?』

『正確には提供があった、となります』

『ほぅ。誰だ?』

『今話していた人物。篠ノ之束博士です。第3回外宇宙ミッションで海賊拠点を叩いた時に色々と情報を仕入れたようでして、私と“首座の眷族”のアラライル氏なら上手く活用してくれるだろうという事で、相当量の提供がありました』

 

 スノーは大使であって、外交以外に何らかの権限がある訳ではない。このため信用できる者に情報を流して、法の目を逃れた無法者達やそれに協力する者達が正しく罰せられるように動いていた。多くの権限を持つアラライルに比べれば控え目な動きだが、それでも行動の結果は逮捕者数の増加という形で現れている。

 それが、王の目に留まったのだろう。

 

『なるほど。どの程度の提供を受けたのだ?』

『本人の言葉をそのまま言うなら、大規模拠点を叩いた時にコンピュータールームからデータを吸い上げた、ということです』

『あの最中にそんな事まで』

 

 王は暫し考えた。

 オリオン腕方面の逮捕者数が増えているという事は、情報の精度はそれなり以上だろう。次いで考えるのは、それほど有用な情報なら王家で管理するべきではないか、というものだ。玉座に座る者としては至極当然の考えと言える。求心力の維持に治安というのは大事な要素なのだ。しかし、情報というのは触れる者が多いほど拡散し易く鮮度が落ちる。また全ての有用な情報を王家に集約して効率的に使おうとしたら、王家の人材リソースがパンクしてしまう。星間国家を大事なく治めていく為には、臣下に仕事を任せる事も重要なのだ。異論はあるかもしれないが、少なくとも王はそう思っていた。

 そしてスノー・テールは、情報を上手く使い結果を出している。ならばこのまま任せるのもアリだろう。しかし何も知らないというのも問題だ。王は決断を下した。

 

『スノーよ。後日、その情報を記録媒体に入れて持参して儂に直接渡すがよい。また今後同じような情報提供があった場合も同様にだ。安心せよ。お前の行っている事を咎めたり奪おうというのではない。玉座に座る者として、治安を乱す者や不都合な情報も知っておかなければならないというだけだ。お前はこれまで通り動けば良い。あと、色々動くのに手足がなくては不便だろう。部下を増員をしておく。好きに使え』

『御下命、拝命致しました』

 

 この時スノーは、持参する事などそう無いだろうと思っていた。が、後日非常に甘い見通しだったと思うようになる。銀河辺境で“挟み付き”と言われている船の目撃情報があった後の会談では大体、『少し面白い話を聞いたのですけど――――――』と雑談のような軽い雰囲気で、厄介極まりない話を放り込んでくるのだ。お陰で一大使としては不自然なほど本星に行く回数が増えるのは、また別のお話である。

                               

 ―――月のスターゲートハイウェイ―――

                               

 XINN様より頂きました。感謝です!!

 諸事情により途中挿入だと都合が悪いので、

 一番最後に追加してます。

 

【挿絵表示】

 

                               

 ―――月のスターゲートハイウェイ―――

                               

 

 

 第210話に続く

 

 

 

*1
SFお馴染みの対象を強制的に減速させる装置。IS世界で言えばAICに近い。

*2
第191話にて。

*3
第205話で、第3回外宇宙ミッションで宇宙海賊の大規模拠点を叩いた時に頂いたデータを提供。

*4
束の専用IS。元ネタは「魔法少女リリカルなのはStrikerS 高町なのは エクシードモード」。白と蒼を基調としたジャケット、ビスチェ、ロングスカートという服装にトレードマークのウサミミ型ヘアバンドを身につけています。なお良い子の皆さんにはどうでも良い事ですが、スカートの下は白と蒼を基調としたズボンなので、宇宙空間で下から覗いても眼福な光景は拝めない仕様となっております。




これまでに築いてきた関係があったのでどうにかセーフ、といったところでした。
第3回外宇宙ミッションの結果がなければ、下手をしたら詰んでいたかもしれません。
そして今後本格的に月のハブ化が進んでいくでしょう。
因みにチープな創作じみた噂は中々消えません。
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