インフィニット・ストラトス ~迷い込んだイレギュラー~   作:S-MIST

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3年目の始まりは内政から。
表と裏、あらゆるリソースを使って色々進めているようです。


第211話 復興しつつある介入地域/変えられていく中国(IS学園卒業3年目の4月)(イラスト有り)

  

 政府とは小難しい分類や定義を抜きにして述べるなら、税金を徴収して公共サービスを実施する機関である。

 これに統一政府としてのカラードを当て嵌めると、非常に特異な形態をしていると言えた。

 まず、税金を徴収していない。既存の国々の問題は既存の国々で対処するべきという立場であるため、税金を徴収しない事でその立場を明確にしているのだ。簡単に言ってしまえば、金を貰ってないので義務も無いのである。

 普通なら考えられない事だろう。税金という資金源無くして活動可能な政府など無い。しかし、それが可能なのがカラードだ。

 発電衛星アンサラーによって得られる莫大な電力収入。中継衛星とレクテナ施設を活用した通信収入*1。宇宙農園のレンタル収入。中古宇宙船のレンタル収入。異常気象対応依頼の収入。天候予想サービスの収入。希望した国に対する戸籍管理サービスの収入。傭兵派遣の収入。他にも幾つかあるが、これらが税金代わりの資金源となっていた。

 無論、収入があれば支出もある。最大の支出は5つの紛争地域―――アフガニスタン紛争、シリア内戦、クルド対トルコ紛争、リビア内戦、イエメン内戦―――への同時介入だ。しかも単純に敵対勢力を殲滅するような介入ではなく、荒れ果てた国を再建するという国づくりにも等しい行いであるため、先進国であっても財政が傾く程の莫大な支出となっていた。他にも移民用クレイドルの建造、“首座の眷族”から貰った円筒形型コロニーの改装*2、宇宙農園の整備*3、各種装備品や日常業務に使う機材の維持費用等々。活動範囲が設立当初に比べて桁違いに広くなっているので、それに伴い支出も増えている。

 それでも収支が黒字な辺り、カラードの事業がどれだけの高収益なのかが分かるだろう。

 なお地球では使えないが、統一通貨(IK)の収入もある。“首座の眷族”と“獣の眷族”にスターゲートで繋いだ先の星系で、資源採掘を許可する事によって得られる収入だ。これに加えて今後は、先日実用化したスターゲート送電によるエネルギー輸出の収入も入る予定になっている。今すぐ大量の外貨が必要な訳ではないが、貯めておけば何かあった時に使えるだろう。

 晶が社長室で現状を再確認していると、ドアがノックされて副社長のセシリアが入ってきた。主に地球内部の事を任せていて、本当に良くやってくれている。

 

「晶さん」

「どうした?」

「良い知らせを持ってきましたわ」

 

 彼女がニッコリと微笑みながら近づいて来て、眼前に空間ウインドウを展開した。

 表示されているグラフは、介入している5つの地域に流入している資金量だ。カラードが投じている資金ではなく、様々な企業が現地で活動し始めた事により流入している資金で、右肩上がりで増え続けている。

 

「良いじゃないか。治安はどうなっている?」

「こちらですわ」

 

 新たな展開された空間ウインドウには、グラフ化された犯罪件数が表示されていた。右肩下がりだ。日本とは比べるべくもないが、介入前に比べれば天地程に違う。

 

「ようやく、ここまで来たか」

「ええ。ようやくですわ」

 

 介入を始めて約2年。様々な施策により改善の兆しは以前からあったが、ハッキリと効果が出てきた。特に海上交通の要所となっているイエメンは、急ピッチで整備した港、空港、工場を中心に凄まじい勢いで復興してきている。そしてこれが呼び水となり、他の介入地域にも効果が波及していた。良い傾向だ。

 

「頑張ってくれたもんな」

「何をおっしゃいますか。貴方が見えないところで色々やってくれたからでしょう」

 

 セシリアは、晶が裏側で何かをしているのを知っていた。介入を開始する前に聞いていたからだ。こういう行いを壊そうとする奴らに対するカウンターとして、使えそうな人間に心当たりがある。あまり大っぴらにできない人間だ、と。それから約2年。セシリアが投入された人間に抱いた印象は、優秀の一言だ。華美な言葉はいらない。結果が全てを物語っている。あって当然と思われる混乱が、暴動が、火種になりそうなものが、恐ろしい程の精度で次々と叩き潰されていた。自身が介入の先頭に立っていたからこそ分かる。並大抵の見識で、こんな事は絶対にできない。法の外側、裏社会に精通した人間である事は明らかだった。誰かと聞きたい気持ちが無い訳ではないが、大っぴらにできない人間と言っている以上、教えてくれる事は無いだろう。

 晶はセシリアの言葉で、投入した奴らの事を思い出していた。亡国機業の“元”最高幹部6名とその側近達。最高幹部12名の内の半数を側近共々捕らえたので、“ちょっと”処置をして、“少し”脅して放り出したのだ。結果を見る限り相応に働いてくれたようなので、多少良い生活をするくらいは大目に見てやっても良いだろう。役に立っている限りは、だが。

 

 ―――閑話休題。

 

「お前がしっかりと行動してくれたからさ」

「そう言ってくれると、頑張った甲斐がありましたわ。本当に大変だったんですからね」

「知ってる。お前が頑張ってくれたお陰で、俺の方はかなり自由に動けた。感謝してるよ」

「なら言葉だけではなく、行動も欲しいところですわね」

 

 デスクを挟んで正面に立っていた彼女が、イスに座る晶の隣まで来る。

 IS学園を卒業して3年目。元々美人だった彼女は更に美しくなっていた。淑女らしい微笑みも完璧で、普通の男なら近づかれただけで鼓動が高鳴ってしまうだろう。

 が、晶は知っていた。短い付き合いではないのだ。今の表情をしている彼女に迂闊な事を言おうものなら、ここぞとばかりに色々迫られる――――――が、まぁ良いかと思ってしまった。これほど頑張ってくれたのだ。感謝を形や態度で示したって良いだろう。いや、むしろするべきだ。

 

「そうだなぁ。じゃあ。何かしたい事とか、欲しい物ってあるか?」

「あら、良いのですか?」

「俺に出来る事ならな」

「今の貴方に出来ない事なんて、殆ど無いでしょうに」

「そんな事は無いぞ。真面目に考えると色々面倒な事が沢山あってだな」

 

 セシリアはクスッと笑った。

 

「貴方という人は。女の我が儘に真面目に付き合っていたら、身が持ちませんよ」

「頑張ってくれたんだ。労ったって良いだろう」

「そう言ってくれるのでしたら、そうですわね………」

 

 彼女は暫し考えた。まずお金で買える物は除外だ。欲しければ自分で買うし、本当にプレゼントが欲しいなら、それなりのシチュエーションというのがある。こういうのは相手が自主的に、色々悩んで買ってくれるから良いのだ。しかしお金で買える物以外となると――――――と思ったところで、ふと思い出した。そう言えば以前シャルロットに、改装中のコロニーを一緒に視察した*4と惚気話を聞かされた事があった。

 いや、別に良いのだ。嫉妬するような話ではない。欧州の3人は纏めて愛されているのだから、今更視察が一緒だった程度でどうこう言うつもりは無い。しかし、それはそれ、これはこれだ。同じシチュエーションで惚気返しをしてあげても良いだろう。

 希望を決めたセシリアは言った。

 

「でしたら、これから一緒に視察をお願い出来ませんか。介入している5つの地域の報告はしていますが、現地を直接見た事はないでしょう。余計な部下は連れて行きません。一緒にISで空から。説明は全部私が行います。どうでしょうか」

「なんか仕事の延長っていうか、仕事そのものだけど良いのか?」

「晶さんは愛多き人ですが、まだまだですわね。プレゼントだけが喜ぶものとは限りませんわよ。今みたいな立場ですと、2人っきりの空中散歩なんて中々出来ませんもの」

「それもそうか。分かった。のんびり散歩ついでに見に行ってみようか」

「はい」

 

 こうして晶は、ニッコリと笑ったセシリアを伴って社長室を後にしたのだった。

 

 

 

 ◇

 

 

 

 5つの介入地域―――アフガニスタン紛争、シリア内戦、クルド対トルコ紛争、リビア内戦、イエメン内戦―――へと向かうNEXT(N-WGⅨ/IS)とブルーティアーズ・レイストーム。雲よりも高い高度を、2機はのんびり気ままに飛んでいた。とは言っても、一般人が想像するような速度ではない。

 何せブルーティアーズ・レイストームは束博士が直々に大規模な改造を施している*5し、NEXT(N-WGⅨ/IS)に至っては通常ブーストで11.2km/s(40,320km/h)*6*7を叩き出す正真正銘の化け物だ。

 このためNEXT(N-WGⅨ/IS)がブルーティアーズ・レイストームに合わせる形で飛んでいるのだが、速度計が指し示す値は既存ISがVOBを使ってようやく出せる値を上回っている。ノンオプションでだ。束博士は改造する際に、全く自重しなかったらしい。

 なお余談ではあるが元3年1組の面々が駆るISは全機、束博士の手が入っていた。宇宙での本格的な活動が始まった今、カラードの中核メンバーである元3年1組の面々には最高の装備を、という判断からである。その中でもブルーティアーズ・レイストームの改造は、一際高レベルなものであった。

 

 ―――閑話休題。

 

 セシリアは晶と他愛のない会話を楽しみながら、コアネットワークでシャルロットに惚気返しをしていた。いつぞやのお返しだ。

 

(――――――という訳で、今日は2人っきりで空中散歩ですわ)

(良いなぁ。僕も一緒に行きたい)

(あら、シャルロットは宇宙船の中で2人っきりという美味しい思いをしたではありませんか。私だって2人っきりの時間が欲しいですわ)

(それはそれ、これはこれ)

(ダメですわ。前は私が我慢したのですから、今回は貴女が我慢してくださいまし)

 

 尤も、本当の意味で我慢するような話でもない。欧州の3人はまとめて愛される事が多いのだ。そういう意味では平等で、惚気返しもちょっとしたじゃれ合いだ。

 因みにこういう会話をする時はラウラも呼ぶのだが、今日は呼ばなかった。何故か? 2人とも知っていたからだ。ラウラは、織斑千冬に捕まったのだ。束博士から新型ISを与えられて、ウッキウキで慣らし運転の相手を探すバトルジャンキーに。本命()と模擬戦をする日は決まっているため、その前の慣らし運転の相手として連れていかれてしまったのだ。

 そして上手く逃げおおせた2人には、ラウラからコアネットワークでメッセージが届いていた。お前ら後で覚えてろというものだが、2人はそっと目を逸らして見なかった事にしていたのだった。女の友情とは儚いものである。

 

(分かった。楽しんできてね)

(ええ。楽しんできますわ。オーバー(交信終了)

 

 悪いとは思うけど、今回はごめんなさい――――――と思っていた2人は知らない。ラウラは見捨てられた腹いせに、セシリアの弾幕が如何に凄いか、シャルロットが如何に相手の長所を潰す戦いが上手いか、織斑千冬に懇切丁寧に説明して、慣らし運転の巻き添えにしようとしている事を。結果として後日、2人はこの上なくイイ笑顔のバトルジャンキーと1日エンドレスで戦う羽目になることを。

 そんな未来を知る由も無いセシリアは、晶と他愛のないお喋りを楽しみながら、雲一つ無くどこまでも蒼い空を伸び伸びと飛び、最初の目的地であるイエメン上空へと到着していた。

 

「まずはご覧になって下さい。あの荒れ果てた地が、ここまで復興してきましたわ」

 

 カラードが介入を始めて約2年。この地は大規模な介入により生まれ変わりつつあった。

 現地人や避難民が働く工場は増え続け、今では工場群と言えるほどの規模になり生産量が増え続けている。単純な構造の大量生産品だが、単純な物でも使いどころが多い物というのは意外にあるのだ。

 元々あったボロボロの港は改修・拡張され大型船が入港出来るようになり、復興の為の資材が大量に運ばれてきている。出港の時は大量生産品が積み込まれ世界各地に、特に発展途上国を中心に輸出されていた。

 同じように元々あったボロボロの空港も改修・拡張され、昼夜を問わず飛行機が離発着するようになっていた。人の往来が活発化しているのだ。

 そして人や物が動けば金も動き、それを狙う悪党が出てくるのは自明の理だが、カラードは無人機やパワードスーツの遠隔操作システムをフル活用して、昼夜を問わず巡回する事によって治安を保っていた。ただし泣き所として無人機やパワードスーツの遠隔操作システムをフル活用するには、高度な通信インフラが必要なため重要施設や人口密集地が優先されている、というのがあった。しかし全ての地域の治安を同時に向上させる魔法のような方法などないので、これは地道にやっていくしかない。なおイエメンはスエズ運河へと続く海上貿易の要所だけあって、これまでは海賊の多発地帯であった。しかし港に灯台代わりに配備された巨大兵器L.L.L*8、海を巡回するセントエルモ、空を巡回するRAIJINにより、がっちりと制海権と制空権が確保されていた。また巨大兵器だけでは小回りが利かないため、カラードの一般傭兵部隊(パワードスーツ部隊)が駐留して脇が固められた*9。海賊? やりたいならどうぞ、である。

 これらに加え更なる復興の切っ掛けとして、ドイツ軍が駐留を始めた、というのがあった*10。カラードが莫大な資本を投じているこの地は今後の発展が見込めるとして、駐留している軍へのサービス提供という名目で企業を進出させているのだ。企業としても治安さえ確保されているなら、無尽蔵の電力や安い人件費など、悪くない話であった。そして各国もこの動きに触発されて企業進出を後押しした結果、好景気と言える程に人や物が大量に流れ込んでいるのである。

 

「本当に、よくここまで………」

 

 先進国ほど整った街並みじゃない。しかし、たった2年だ。2年で街中から銃声が聞こえなくなり、安全な水が飲めて、食べ物を買える。野盗のような真似をしないでも、生活が出来るようになってきた。無論細かい問題は山積みだが、介入の結果が形になりつつある。これは凄い事だろう。

 セシリアに任せて良かった。裏の人間を使ったりもしたが、彼女が表側で突き進んでくれなければ、この結果は無かったに違いない。そんな事を思いながら眼下の至るところを、NEXT(N-WGⅨ/IS)の機能を使ってズームアップして見ていく。途中で、ふと気になるものがあった。

 

「なぁセシリア。あれって、お前の肖像画じゃないか?」

 

 メインストリートの目立つところにセシリアの肖像画が飾られており、その下には“この地を復興させてくれた偉人。カラード副社長セシリア・オルコット”と書かれていた。

 

「え? あ!! ダ、ダメって言ったのになんでありますの!?」

 

 慌てるセシリア。事の顛末を聞いてみると、どうやら始めは銅像を建てたいと地元から話が上がってきたらしい。が、セシリアは当然の如く却下。何度か上がってきたが断固として却下し続けると、ついには話が上がってこなくなったので諦めてくれたものと思っていたようだった。そうしたら銅像ではなく、肖像画が無許可で飾られているのが今分かった、という事だった。

 

「少なくとも感謝されてるって事だろ。良いじゃないか」

 

 するとセシリアはジト目で晶を見ながら言った。

 

「晶さんだってご自身の銅像を建てられたり、教科書に載るのを嫌がっていたではありませんか」

 

 絶対天敵(イマージュ・オリジス)の第二次来襲があった直後、IS学園3年生夏休みの時のことだ*11。フランスの地下都市、アイザックシティ上層の中央公園に束と晶の銅像を建てようという話が持ち上がり、晶はアレックス(シャルパパ)に丸め込まれて断り切れなかった。ついでに教科書にも載せられる事になってしまい、その動きが他国にも波及したお陰で、本当に色々な国の教科書に載ってしまった。メインは束だが、束を語る上で晶の存在は欠かせないとして、しっかりと載っているのだ。

 晶としては御免被りたいというのが本音だったが、今更無かった事にはできない。どんな羞恥プレイだ。

 そして羞恥プレイと言えば秘書さん連中だ。教科書に載せる原文を「内容が間違っていないか確認して下さい」と差し出されて確認してみれば、書かれていること書かれていること。美化された内容が。意地になって羞恥心に悶えながらアレコレチェックして突っ返したら、多くの部分で「これは譲れません!!」と頑強に抵抗されてしまった。あいつら絶対に面白がってやがる。しかし秘書さん連中は更識の人間でもあるので、後で屋敷の方で時間をかけてじっくりとお話する事で、どうにか分かってもらう事ができた。どんな話術を使ったのかって? 健全な青少年には話せない悪い大人な方法である。

 あとアレックス(シャルパパ)に銅像をどうにか出来ないか相談したら、「貴重な観光資源を奪う気かね?」と笑って突っ返されてしまった。ちくしょうめ!!

 

 ―――閑話休題。

 

「それはそれ。これはこれ。仲間の頑張りが報われて感謝されているんだ。こんなに嬉しい事は無いだろう」

 

 シレッとダブルスタンダードな事を言う晶にセシリアはススッと近づき、NEXT(N-WGⅨ/IS)のフルフェイスを人差し指でつんつん突っつきながら言った。

 

「そういう事を仰るのでしたら、私公表してしまいますわよ。お優しい社長様が未熟な副社長に花を持たせるために、敢えて私の名前を前面に押し出しただけですって。全ては社長の指示でしたって」

「セシリア。流石にそれは反則だろう」

「他人の不幸は密の味、というとても良い言葉があるではありませんか。それに社長の名声が高まる事は、副社長としても非常に喜ばしい事ですわ。まぁ、銅像が増えたり、教科書での扱いが大きくなるかもしれませんが、事実を正しく後世に伝える為には必要な事でしょう。むしろそうすべきだと思うので、帰ったら早速行動を起こしたい衝動に駆られていますの」

 

 晶はNEXT(N-WGⅨ/IS)の姿で、器用に肩を竦めて負けを認めた。

 

「悪かった。勘弁してくれ」

「はい。許して差し上げますわ」

 

 こうしてちょっとじゃれ合った晶は、再び眼下に視線を向けた。至る所で開発が進んでいる。その中で、ACファンとしては非常に嬉しい光景を見つけた。先日束が発表したアーマードコア規格で作られた人間サイズの人型ロボットと四脚型ロボットが、工事現場で使われていたのだ。

 人型ロボットの方は非武装タイプのアンファング*12。アーマードコア規格を浸透させるために先行量産モデルを色々な所に配って使って貰っているのだが、光学望遠で見る限り人の指示に従ってテキパキ動いているように見える。人型の最大の利点。人間が使う工具をそのまま使用可能という汎用性が最大限に生かされているようだ。ロボットなので、生身では持ち上げるのが大変な建材も簡単に持ち上げられる。

 四脚型ロボットはアンファングの下半身を四脚に換装したもので、こちらはより重い重量物を扱う為のアセンブルが施されていた。両背部にクレーン装備が取り付けられ、従来のクレーン車では入り込めない狭い場所でも重量物を持ち上げられるようになっている。

 本当に、中々良い感じのようだ。

 

「なぁセシリア。各方面に配ったアーマードコア規格のロボットの評判ってどんな感じなんだ?」

「まだ稼働して日は浅いですが、悪くないといったところでしょうか。AIが柔軟なお陰で色々な事に対応出来ますし、何より規格が公開されていますから、多くの企業がパーツ開発を考えているようです。今一番多いのは建築関連で、次いで軍事関連でしょうか」

「意外、でもないか。ドンパチするより建築分野の方が市場は広いからな」

「はい。あとついでに言うなら、行動チューニング用のUNAC(ユーナック)サーバーへのアクセスも大盛況です。分野を問わず、各国の皆さん色々と試しているみたいですわ」

 

 AIの行動チューニングは、UNAC(ユーナック)サーバーを使わなければ行えない訳ではない。技術力のあるところなら自前でチューニング用ソフトを作って行えるだろう。しかし利便性やチューニングの柔軟性は天と地程に違う。こちらには、ここではない別の世界(AC世界)で蓄積された情報があるのだ。懐かしいなぁ。フォーミュラフロント。

 ここで晶は思った。どうせなら、アーマードコア規格をもっと早くより早く物凄く早く普及させる為に、同じ事をやってみよう。ドンパチだけだと一般人には刺激が強いから、色々な分野で状況を設定して、最適化した行動を競わせるフォーミュラフロントをやってみよう。多分とても面白い事になる筈だ。賞金も出しちゃおう。そうして色々考え始めたら、AC大好き人間の妄想エンジンにニトロが入りイグニッション。

 金と権力のあるAC大好き人間が、束の発表したアーマードコア規格を普及させていくという大義名分を得て、持てる金と権力を遠慮なく注ぎ込む前提でアレコレ考え始める。

 結果は火を見るより明らかだろう。

 カラードの莫大な資本が投じられたフォーミュラフロントに引っ張られる形で、アーマードコア規格のパーツが次々と開発されていく事になる。これにより人間サイズのロボットとしてこの世界(IS世界)に誕生したアーマードコアは、近い将来、人の隣人と言えるまでに普及していくのだった。

 

 ―――閑話休題。

 

 細かい部分は家でじっくり考える事にして、晶はセシリアとの話を続けた。

 

「試せば試すほどに、色々分かるからな。試験って名目で楽しんでるんだろう」

 

 100%の実体験である。ああいうのは、好きな人間はとことんまで好きなのだ。ハマったら抜け出せない底なし沼で、気付いたら一徹二徹してるだろう。

 加えて言えば、提供しているUNAC(ユーナック)サーバーには環境データも豊富にある。シミュレーションの状況設定には事欠かない。今後カラードが外宇宙ミッションを行えば、精査の上で他惑星の環境もシミュレーション出来るようにしていく予定だ。フフフフフフフフフ。ハマった人間には劇薬だろう。同士(変態)が増えるのは嬉しいなぁ。

 晶の内心など知る由もないセシリアは、至って真面目に答えた。

 

「こういうのはユーザーが増える程に提供する側のメリットも大きくなりますからね。このまま増えていって欲しいところです」

「地球内部の事だが、これについては普及に向けて俺も色々やろうと思ってる。良いかな?」

 

 地球内部の事は基本的にセシリアに任せる、という形で動いているため晶は確認を取ったのだった。社長だからと言って任せた範囲に勝手に踏み込むのは、相手を信用していないのと同じだからだ。仮にダメだと言われてもどうにか説得する気だったが、相手に話を通すのは大事なことだろう。

 セシリアはニコリと笑って答えた。

 

「アーマードコア規格は、束博士肝煎りの規格です。貴方がやらずに誰がやるというのですか」

「そう言ってくれると助かる」

「あとついでなので、1つ提案と断っておきたい事がありますわ」

「何かな?」

「元3年1組の面々全員にアーマードコア規格のメカを配ってはどうでしょうか。カラードのミッションに耐えられるなら、それは十分なアピールポイントになると思いますわ」

「それは俺も考えてた。汎用性っていう意味でも、無人機化したパワードスーツよりアーマードコア規格の方が融通が利くからな」

 

 今現在カラードの中核メンバーである元3年1組の面々は、人手不足を無人機化したパワードスーツで補っていた。決して汎用性が無い訳ではないし使い勝手が悪い訳でもないのだが、多種多様なミッションに対応可能という汎用性において、アーマードコアは桁違いなのだ。換装用の設備だって大掛かりな物は必要無いので、元3年1組の面々が使っている輸送機やアリコーン内部にすぐに準備できる。

 なおアーマードコア規格はパーツ換装により圧倒的な汎用性を得ているが、パワードスーツと比較して、圧倒的な性能を持っている訳ではない。パワードスーツと違い始めから無人機として設計されているので、内部空間を全て機能向上に割けるという利点、無人機故の反応速度の速さというのはあるが、パワードスーツが全ての面で劣っている訳ではない。一番分かり易いのは機動力と機動兵器の心臓とも言えるジェネレーターだろう。ここではない別の世界(マブラヴ世界)の戦術機をベースとしているパワードスーツは、腰部に2つ巨大な跳躍ユニットを持つ。アーマードコアと同じ技術力でブースターを作るなら、大型化された物の方が低燃費で高効率かつ高出力になるのは道理だろう。また機動兵器の心臓とも言えるジェネレーターも、アーマードコアは胴部に大型のものが1つであるのに対して、パワードスーツは本体背部にある薄型の超小型ジェネレーター1つと、跳躍ユニットと一体化している小型ジェネレーター2つと計3つある*13。このため出力で明確に劣っている訳でもないのだ。尤も耐久性ではパイロット保護を考えなくて良い分アーマードコアに軍配が上がるが、決して戦えないほど戦闘力に差がある訳ではない。

 このため大事なのは、パーツ換装による汎用性という利点を如何に上手く使うか、という事だった。戦闘に関して言うなら、アーマードコアは決して無敵の超兵器ではないのだ。アーマードコアを戦場の覇者足らしめた最大の要因は、その圧倒的な汎用性にあるのだから。

 

「はい。そして断っておきたい事ですが、私が今使っている12体の自動人形はそのまま使わせて欲しいのです」

「それは構わない。イギリスとの契約があるもんな」

「契約もそうですが、規律や風紀の維持に役立っているようなので」

 

 12体の自動人形とは、セシリアが手足として使っている無人パワードスーツだ。外見は純白のEF-2000で、騎士にも見える外見から非常に高い知名度と人気がある。イギリスなどその知名度と人気に肖って、第三世代パワードスーツの外装として真似た程だ。そして外装を真似る許可を出した際に、幾つかの契約を結んでいた。簡単に言えばEF-2000の外装を真似たパワードスーツが生産され続ける限り、デザイン料が束博士に、本家本元のEF-2000を使うセシリアに広告料が入るというものだ。しかし、今のセシリアが重視したのは契約ではなかった。過去の不殺で軍を撤退に追い込んだという経歴が影響しているのか、イギリス本国でEF-2000を与えられた人間は騎士たれ、という妙な文化というか伝統が定着し始めているのだ。このせいか軍が派遣された際の人間関係に起因する不祥事が、配備後は減少しているのだ*14。せっかくの良い面なのだから、EF-2000を使い続ける事で協力してあげるのも良い、と思ってのことだ。

 

「なるほど。ま、その辺りは好きにやって良いと思うな。道具は使うものであって使われるものじゃない。皆に配りはするが、使い方は人それぞれさ」

「ありがとうございます」

「礼を言われるようなことじゃない」

 

 こうして話をしながら何となく周囲を見まわした晶は、水平線の彼方に随分と懐かしいものを見つけた。そう言えば以前、楯無から使い方の報告が上がってきていたな。スティグロだ。とは言っても、ここではない別の世界(ACFA世界)に存在していたフルスペックのものじゃない。随分前*15に束が計画したもので、如月重工のドックで一般的な輸送艦に、スティグロの推進系をデチューンして取り付けるという改造が施されたものだ。尤もデチューンされたとは言えその推進力は圧倒的で、輸送艦の積載量と飛行機の速度を併せ持つ反則的な輸送艦として、如月海運の主力として活用されていた。また絶対天敵(イマージュ・オリジス)の第二次来襲前に同じスティグロの名前で2番艦が建造されており、こちらは原型機に近いデザインとなっていた。技術力の差でフルスペックとまではいかないが、この世界の人間から見れば奇跡の産物に近い。何せUltra Large Crude Oil Carrier(ULCC)に分類される30万トン級タンカーと同じサイズで、これでアフターバーナーを焚いた戦闘機よりも速く海上を突っ走るのだ。試験航行中の姿を見た他国の軍人が、自身の正気を疑ったのも無理はないだろう*16

 そして楯無が上げてきた使い方とは、イエメンを物資集積地として使い、スティグロ1番艦と2番艦で高速輸送するというものだった。海上貿易の要所であるイエメンは物資の中継地点として機能させやすいため、高速輸送が可能なスティグロなら、海運で稼げるだろうという判断だ。そして、それは大当たりだった。更識のフロント企業であるキサラギグループ、その一角である如月海運は莫大な利益を上げていた。何せ船の積載量と飛行機の速度を併せ持っているのだ。輸送業界において、これほど強い武器も無いだろう。

 セシリアも、晶が見ているものに気付いたようだった。

 

「ああ。如月海運のスティグロですか。あれがイエメンとの定期便として就航してくれたお陰で、港のハブ化が一気に進みました。こちらとしても助かってますわ」

 

 セシリアは一時期、キサラギグループについて調べていた事があった。カラード設立当初から付き合いのある友好的な企業だが、セシリアの立場から見た場合、気味が悪い程に友好的過ぎたからだ。しかしある時を境に、全ての調査を引き上げさせた。IS学園の先輩で元生徒会長、今は束博士の家令(スチュワード)を勤める更識楯無の姿がチラついたからだ。恐らく意図的に、これ以上調べるなという意味で掴まされた情報だろう。以降、彼女はキサラギグループを束博士の手札=晶の手札として認識するようになっていた。

 このためスティグロがイエメンに定期便として就航したのも、介入事業に対する側面支援だろうと思っていた。

 

「あそこは何かと使う事が多いが、良い仕事をしてくれるところだ。技術で何とか出来る事なら、大体の事は何とかしてくれる。付き合うのに多少慣れが必要な人達が多いが、慣れれば面白い人達だぞ」

「よく格納庫でメカニックさん達とお話していますが、そういうノリでしょうか?」

「近いかな」

「ど、努力はしますが少し難しいかもしれません」

 

 晶がキサラギ(HENTAI)の連中と上手くやれるのは、晶もメカ方面のHENTAIだからだ。新型が好きだ量産機が好きだ壊れたメカが好きだ現地改修機が好きだドロドロに汚れた量産機など大好物だ――――――という事を熱く熱く語れるメカフェチであると同時に、じみぃな基礎研究があるから信頼に足るメカを造れる。メカを十分に動かす為には補給とか兵站も大事だ。というクレバーな部分もしっかり理解しているので、技術職には非常に受けが良いのだ。

 一方で、セシリアもその辺りの事情は理解もしているし蔑ろにしている訳でもないのだが、熱く熱量を持って語れるかと言えば否だろう。少しばかり悪い意味で“お貴族様”なのだ。

 

「はは。人間適材適所だな。あそこに用事があるなら、俺に回してくれれば良いようにしておくから言ってくれ」

「分かりました。その際は頼らせて頂きますわ」

 

 こうして2人はのんびり雑談を交えつつ、介入地域を順に、空から視察していったのだった。

 なお紳士諸君には余り関係の無い話だが、晶は視察の後、セシリアの自宅*17に招かれ可愛い姉妹メイド*18の手料理を振る舞われていた。そしてお貴族様な女主人+可愛い姉妹メイドという状況なので勿論――――――。

 

 

 

 ◇

 

 

 

 楽しい視察の数日後。晶は社長室でセシリアと話していた。今日彼女が持ってきた案件は、ちょっと悪い話だ。

 

「中国ですが、如何致しましょうか?」

「出来れば対応は緩めたくないが、厳しそうか?」

「私も緩めたくは無いのですが、周辺地域の安定を考えるなら何かしらの対応は必要かと」

 

 中国は絶対天敵(イマージュ・オリジス)の第一次来襲時に、撃墜可能な降下船をあえて撃墜せず、自国内に招き入れて地球を危険に晒したという前科がある。更に第二次来襲直前に―――クーデターとタイミングが重なった最悪の偶然ではあるが―――対衛星兵器群を使用して旧来の衛星網を全損させ、軍の行動に必要不可欠な目と耳を奪ったという愚行もある。どちらも下手をすれば、その時点で地球が終わっていたかもしれない大罪だ。

 そんな国に生易しい対応をしたら、確実に悪しき前例となってしまう。よってカラードの対応は非常に厳しいものになっていた。

 絶対天敵(イマージュ・オリジス)戦で損耗したISコアの補充は最小限。中継衛星による電力供給も最小限。人材育成関連で中国枠の極小化。宇宙開発事業で中国系企業を除外。他にも沢山あって公表している対応もあれば公表していない対応もあるが、誰が、どうみても、カラードが中国をどう扱う気なのかは明らかだろう。

 この対応に多くの国や企業が続き、人・資金・技術、多くのものが引き上げられた結果、中国は不景気の底なし沼に嵌り込んでいた。只でさえ絶対天敵(イマージュ・オリジス)戦での責任追求で各種利権を毟り取られ、中国製というだけで輸出も拒否され、仮に輸出出来たとしても足元を見られて買い叩かれる。何かを作ろうにも資源を輸入できない。輸入出来ても足元を見られて値段を吊り上げられる。

 環境汚染も深刻で、国内を乱開発してきた悪影響が如実に現れ始めていた。水源や土地の汚染が急拡大して食料自給率が激減、更に病人が急速に増え始めているのだ。公衆衛生の整った先進国では有り得ない水準で、正確な比較は出来ないが過去の日本、教科書に載っている大公害よりも酷い水準と言えば、どれほど酷い状況になっているか分かるだろう。

 これらの状況は民心を不安にさせ、治安を直撃していた。国内に残る少ない食料を奪い合う暴動が発生。不安につけ込んだ詐欺の多発。軍人が野盗化して市民から搾取や略奪。不安要素をあげればきりがなく、紛争地域も()くやという程に乱れていた。

 このまま国家機能が失われれば、億人規模の難民が出て周辺地域の安定が脅かされるだろう。海を越えた日本、カラード本社のある日本も巻き込まれる可能性が高い。

 真っ当に考えるなら、人道的な何かしらの対応が必要だろう。だが晶としては、顔も知らんような奴らが何億人死のうが関係無かった。むしろ地球を滅ぼし掛けてもこの程度で許されると思われる方が余程問題だ。しかしそれはそれとして、カラード本社のある日本が騒がしくなるのは困る。どうするべきだろうか?

 

「そうか。そうだな………ふむ」

 

 晶は暫し考え、中国で良いように使っている(リャン) 白麗(パイリー)という手駒の事を思い出した。

 今の中国では非常に貴重な専用機持ちで、艶やかな黒髪をアップにして纏めている美しい女性だ。軍服という体型がある程度画一化される服を着て、なお色香が滲み出るあたりスタイルも良い。ただし、良いのは外見と表向きの経歴だけだ。裏側は真っ黒も真っ黒で、亡国機業(ファントムタスク)の元エージェントだ。しかも絶対天敵(イマージュ・オリジス)の第二次来襲直前に起きたクーデターの中心人物でもある。

 こんな人物だけに信用度はゼロだが、晶はこいつを更識経由で中国国内における都合の良い手駒として使っていた。使えるようになった理由は2つ。1つは亡国機業の最高幹部連中を捕らえた際に、こいつに関する情報を全て入手できたこと。エージェントなので幾つかの手札を隠していたようだが、最高幹部連中には筒抜けだったようで、表にも裏にも逃げ道は無い。もう1つは中国国内の悪徳な有力者と敵対せざるを得ないように嵌めたのだ。悪党連中というのは非常に復讐心が強くかつ自己愛も強いので、自分達に被害を出した―――と見えるように嵌めた―――相手を決して許さないだろう。今更こいつが「敵対しません。仲良くやりましょう」と言ったところで、逆襲されて人生が終わるだけだ。

 嫌なら死ぬ気で働け。もし生き残ったなら中国国内を立て直した“英雄”として、中国の指導的立場に据えてやろう*19。晶はそう考えていたのだが、悠長に待っている時間は無さそうだった。このままではどう考えても、周辺地域の不安定化の方が早い。

 晶は小さくため息をついて言った。

 

「………仕方ない、か。セシリア」

「はい」

「誰も傷つかない魔法のような方法なんてない。半端な介入も逆効果だ。何よりお前の立場なら、色々な事が聞こえてくるだろう。だがそれでも、動かないでいてくれるか」

「分かりましたわ」

 

 打てば響くような即答。数瞬の沈黙。晶は尋ねた。

 

「何も聞かないのか?」

「今更でしょう。貴方が晒したくない手札を幾つか持っていて動かしているのは知っています。そして今回は使わなければ、今後の世界戦略に影響が出てしまう。私にもっと力があればと思いますが、無い物ねだりをしても仕方がありません。それに問題は中国だけではありませんもの。地球内部に限っても色々な問題が山積みですから、厄介な問題を片付けてくれる良い人がいる、と前向きに考えておきますわ」

「そう言ってくれると助かる。―――じゃあ、この問題はこっちで対処しよう。ただ、何処かのタイミングで手を借りる事になると思う」

「構いません。その時は、何なりと仰って下さい」

「ありがとう。その時は頼らせて貰う」

 

 こうして晶はセシリアと話した後、更識経由で中国の(リャン) 白麗(パイリー)に命令を下した。無論、第三者に悟られぬように幾重にも偽装されていたが、内容自体は簡潔明瞭だ。

                               

 ―――誰の目にも明らかな形で中国を生まれ変わらせろ。

                               

 たったこれだけだ。そして真っ当に考えれば、地球を滅ぼしかけた大罪が許される程の生まれ変わりなど、困難を通り越して無理だろう。もしやるとしたら、とても長い時間をかけて善行を積み重ね、少しずつ許してもらうしかない。ないのだが、命令を受けた(リャン) 白麗(パイリー)の考えは違っていた。彼女は中国の事などどうでも良いのだ。大事なのは自分であって、有象無象の愚図どもではない。自身の決断で見知らぬ誰かが不幸になろうと知った事ではない。

 だから今回の事は、逆にチャンスと思ったほどだ。手駒として使えるところを見せられれば、少なくとも絶対的な強者から狙われる事は無くなる。扱いも今よりは良くなるだろう。

 なら全力でやってやろうじゃないか。どうせ向こうだって、元エージェントと知っていてこんな命令を出したんだ。真っ当な方法なぞ期待していないだろう。

 こう考えた(リャン) 白麗(パイリー)は、“中国を生まれ変わらせる”という一点のみを至上命題として、行動を開始したのだった。

 

 

 

 ◇

 

 

 

 4週間後。とある国際会議。

 今現在の地球情勢において、中国は全く尊重されていなかった。小太りな中国代表が反省してるような事を言っているが、真面目に耳を傾けている者などいない。しきりに罪の無い一般市民が苦しんでいるから支援して欲しいと言っているが、地球を滅ぼしかけた大罪人の国などどうなろうと知ったことか。日本が隣国故に支援しているが、あくまで“隣国”で“不安定化したら困る”からであって、本心は他国と同じだ。

 そしてこの場にいる誰もが知っている。絶対天敵(イマージュ・オリジス)戦の事ではない。それ以前の行いだ。身勝手で横暴で、相手を債権の罠にはめて多くのものを奪い言う事をきかせる。悪徳業者のような手法を国家が行っていたのだ。そんな国を誰が支援したいと思うのか。むしろこの場で話せるだけでも感謝して欲しいくらいだ。お前達はもう最底辺なんだ。

 敵地とも言える程に冷たい空気が流れている会場に、出席予定の無い人物が入ってきた。真っ直ぐ壇上で話している小太りな中国代表のところへ向かって行く。誰も止めないのは、同じ中国人の(リャン) 白麗(パイリー)だからだ。

 どうしたのだろうか? 各国代表達の視線が集中する中で、檀上に上がった彼女は言った。

 

「ようやく準備が整いました」

「なんの準備かね? それよりも何故ここに来た。こんな無礼な行動をして――――――」

 

 小太りな中国代表が非難するような口調で言うが、白麗(パイリー)は最後まで言わせなかった。顎先をショートフックのような掌底で一撃。一瞬で意識を刈り取って床に転がした後、何事も無かったかのように壇上で話し始めた。

 

「皆様。突然の乱入失礼致します。私は中国の(リャン) 白麗(パイリー)。専用機持ちですが、専用機は会場に入る前にカラードに預けてきました。自国の者ではなく。カラードに。そして此処に来た理由ですが、色々な準備が整いましたので、この場を借りて発表したい事があります」

 

 会場内がざわめくが、この場で最も尊重されているセシリア・オルコットが聞く姿勢であったため、他の者達もそれに続いていた。

 

「――――――聞いて頂けるようですね。ありがとうございます。では早速発表させて頂きたいと思います。とは言っても、難しい内容ではありません。先程私が気絶させた中国代表が言っていた内容では、いつまで経っても中国は復興出来ないので、誰もが分かる形で過去とは決別したと、中国は生まれ変わったのだと示したいと思います」

 

 彼女は軍服のポケットから携帯端末を取り出し、有線接続で檀上のコネクタに接続。背後の壁面にある大型モニターに幾つかの箇条書きが表示された。

                               

 ・旧指導部連中の全員逮捕及び処罰。(処刑含む)

 ・旧指導部連中の資産没収及び内容公開。

 ・軍縮

   陸 軍:定数を1/5へ削減。

   海 軍:外洋展開能力の削除。

   空 軍:定数を1/5へ削減。

   宇宙軍:定数を1/5へ削減。

 ・全国のインフラストラクチャーの造り直し。

 ・国内の自然環境の再生。

 ・保険医療制度の充実

 ・国民に文化人としての教育。

 

 これらを見た各国の代表が、「ほぅ」と小さく驚きの声をあげた。もし本当に出来るなら、確かに生まれ変わったと言えるだろう。だが程度によりけりだ。言葉のマジックで、やったように見せかける方法など幾らでもある。

 故に(リャン) 白麗(パイリー)の次の言葉は誰もが注目し、放たれた彼女の言葉は想像以上のものだった。

 

「順に説明していきます。まず一番上の旧指導部連中への対処ですが、実は既に捕らえて軟禁しています。少々抵抗されたので大人しくさせましたが、公職にあった者は残らず。そして明らかに給料以上である財産も押さえましたので、こいつらの財産は国費に入れようかと。ただ秘密裏に行っては他国の皆様が疑念に思うでしょう。本当にそうなのかと。なのでどうぞ視察団でも何でも派遣して下さい。資料は残らず出しますので。あと政治的に都合が良くて助命したい人間がいるなら言って下さい。検討はしたいと思います。1週間以内に何も無ければ処分しますので」

 

 白麗(パイリー)が一度言葉を区切り周囲を見渡す。喋る者がいないので、彼女は次の説明を始めた。

 

「次に軍縮ですが、これは書いてある通りです。外洋展開能力の源である空母打撃群と潜水艦隊の解体ですね。本来なら自国でやるべきなのでしょうが、時間をかけると要らぬ事を考える輩が出てくるので、各国に引き渡して解体してもらった方が早いかと思っています。そうすれば他の国も、我が国が何隻解体したのかが間違いなく分かるでしょう。引き渡してしまえば誤魔化しもききませんから」

 

 ある意味で売国とすら言える内容だが、彼女の言葉は止まらなかった。いや、むしろ此処からが本命であった。

 

「全国のインフラ設備の造り直しですが、現在の設備は古くて色々とロスも多い。更に国民の戸籍情報の取り扱いも成り代わりや改竄が行い易いという国家の礎として大きな問題点を孕んでいます。なので丁度良い機会なので造り直してしまおうと思っています。戸籍管理はカラードが戸籍管理サービスを提供しているので、全面的にそちらに移管。電力、上下水道、通信網といったインフラ設備も外国の企業に頼んで再構築してもらおうかと。本来は自国で行うべきものですが、賄賂と中抜きが蔓延る我が国では、十分なものを造れないと思いますので。ただ、そうですね。自分達ならやれると思っている国民もいるでしょうから、同じような依頼をして、出来を競わせてみるのも良いかもしれません。それを見て、インフラ設備の再開発を国内企業に頼むか国外企業に頼むかを考える事にしましょう」

 

 戸籍管理は言うまでもなく国家が国家である為の根幹。それを全面的にカラードに頼るという事は、実質軍門に下ったに等しい。インフラも同じだ。これらを外国の企業に握らせるという事は、万一が起きた時に国民の生活を直撃するという事でもある。

 白麗(パイリー)の言葉は更に続く。

 

「自然環境の再生、医療保険、教育ですが、これらはこれまでの我が国の行い、そのツケを払うためです。国内は乱開発の影響で環境汚染が深刻な上、国民の健康を直撃しています。教育については、旧指導部の都合で教えられていなかった様々な事があるでしょう。それらを教えていく事で、文化的な人間として認められるようにしていこうかと。――――――以上になります。如何でしょうか。カラード副社長。セシリア・オルコット様」

 

 話を振られたセシリアは尋ねた。

 

「相当の反発を招く内容なのは明らかでしょう。行えるのですか?」

「手段を選ぶ気は無い、とお答えしておきます。あと、1つ追加しておきます。私が使っている専用機のメンテナンスは、カラードに依頼します。これほどの事をやるとなると、何かを仕込まれて暗殺という可能性を否定出来ませんので」

 

 セシリアはYESともNOとも答えず質問を続けた。

 

「もう1つ。根本的な話ですが、貴女は専用機持ちであって中国の最高権力者、国家首席ではない。今話した内容を行う権限は無いと思いますが」

「正当な手続きに拘るのでしたらそうでしょう。ただその場合、中国は恐らく100年かけても復興出来ませんし差別の対象です。だから荒療治が――――――いえ、言葉を濁さず言いましょう。今現在、この瞬間もクーデターが進行中です」

 

 クーデターという言葉に会場内がザワつく。そして此処で、白麗(パイリー)が専用機をカラードに預けたという一手が利いてくる。

 この話を聞いた後に専用機を返却したら、クーデターを宣言している者に強力な武力を与える行為に等しい。統一政府として動き始めているカラードからの実質的な支援であり、クーデターに対するお墨付きになるからだ。

 セシリアの返答は肯定であった。

 

「カラードの方針は、宇宙進出の障害にならない限りその国の事はその国で、です。今言った事が実行されるのであれば、一時的な混乱はあれど、周辺地域の安定にも寄与するでしょう。ただし長引けば、介入も有り得ます。お手並み拝見といきましょう。そして専用機のメンテナンスについては、通常依頼として受理します。メンテナンス要員の派遣はしませんので、貴女が来て下さい」

 

 中国国内で進行しているクーデターの趨勢は、このセシリアの言葉で決定的となった。現在の政権ではなく、クーデター側を支持したからだ。

 そしてこれにより蔑まれ続ける運命だった中国は徐々に復興へと向かうのだが、主導した(リャン) 白麗(パイリー)にとって、そんな事はどうでもよかった。顔も知らないような愚民がどれだけ蔑まれようが、苦しもうが、死のうが、知った事ではない。

 亡国機業の元エージェントにとって、このクーデターは地球の最高権力者(束と晶)に尻尾を振る為のデモンストレーションなのだ。だから与えられた至上命題さえ達成できるなら、中国という国の未来などどうでも良い。

 このため白麗(パイリー)は建て前を前面に押し出して、あらゆる意味でカラードが介入し易くかつコントロールし易いように中国を作り直す方向で動いていた。

 先程の宣言には、それぞれ次のような意図がある。

 旧指導部連中の処罰は政治に精通した人材を意図的に減らす事で、カラードが提供している政策提案サービスを導入し易くするためだ。これにより賄賂の事しか頭にない政治家連中を大幅に減らせるので、介入も容易になるだろう。

 インフラ設備の造り直しや戸籍管理サービスの導入は行政の効率化を推し進める為だが、本当の目的は生活の根幹をカラードに握らせる事で、中国という国から反抗する力を奪うことだ。ある意味で単純な軍縮よりも、こちらの方が余程効くだろう。

 軍縮は愚図どもにも分かり易い単なるアピールだ。あとお馬鹿な軍人に勝手に暴走されては堪らないので、先に潰しておこうというのもある。首になる者が多数いるので反抗も強いだろうが、関係無い。その場合は自身が専用機を駆って潰して回れば良い。お上品にやるつもりは無いのだ。

 環境再生、医療保険、教育は対外的なアピールという意味も強いが、反抗心が育つ土壌を削り取っていく、という意味もある。これらが保証された環境を壊してまで反抗していこうと思う者は少ない筈だ。

 そして(リャン) 白麗(パイリー)が最も重視したのが公平な税と裁判であった。決して国民の為ではない。環境、医療、教育が保証されていても、不公平や不平等は怒りとなり現状を変えようとする原動力になってしまうからだ。しかしそれらが無ければ、怒りという原動力を保ち続けるのは難しい。彼女は自身の安寧の為に、国民の牙を優しく一本一本抜いていく気なのだ。

 セシリアの返答を聞いた白麗(パイリー)は深々と頭を下げて言った。

 

「英断、感謝致します。これで中国は生まれ変わる事が出来るでしょう」

 

 カラードの属国として。

 喉元まで出かかった言葉を呑み込み、白麗(パイリー)は会場を後にしたのだった。

                               

 ―――セシリアの肖像画―――

                               

 XINN様より頂きました。感謝です!!

 諸事情により途中挿入だと都合が悪いので、

 一番最後に追加してます。

 

【挿絵表示】

 

 

 少し成長したVerを頂きましたので追加。

 

【挿絵表示】

 

 

 ビル壁面モニターの大画面に映し出されたセッシー。

 

【挿絵表示】

 

                               

 ―――セシリアの肖像画―――

                               

 

 

 第212話に続く

 

 

 

*1
中継衛星とレクテナ施設は通信ネットワーク用の設備としての機能もある。

*2
畜産業用に4基、造船用に2基、宇宙の訓練施設兼レジャー用に1基、学園用に1基

*3
レンタルは内部空間を農業に貸しているのであって、機能提供はカラード側の責任となっている。

*4
第204話にて。

*5
第186話にて。

*6
第二宇宙速度=地球脱出速度と同等の速度である。

*7
詳しい性能は第171話にて。

*8
登場作品はACV。円盤状の本体から板の様な脚が6本伸びる超大型多脚兵器。全高約100メートル

*9
第195話にて。

*10
第206話にて。

*11
第166話

*12
アーマード・コアシリーズの初代オープニング機兼パッケージ機

*13
元ネタでは本体側は燃料電池とマグネシウム電池によって賄われ、跳躍ユニットは推進剤を使用している。

*14
第185話にて。

*15
第72話にて計画。

*16
2番艦は第152話にて。

*17
セッシーの自宅は寮ではなく、本社近郊にあるマンションのペントハウス。勿論セキュリティは要塞並にガッチガチ。

*18
チェルシー&エクシア

*19
第195話時点で晶くんは「国民の希望の星に仕立て上げて、最終的には国内を纏めさせようか」と考えていました。




じみぃに活動していたスティグロもどき。飛行機の足とスーパタンカー級の輸送力は輸送業界のチート。如月海運はマジで荒稼ぎしていると思います。
中国の状況がゴリゴリと動きました。安定化するまで時間は掛かりますが、道筋はついたのではないかと思います。そして白麗さんは作者的には途中でポイ捨てする予定でしたが、あれ、これって………一応勝ち組? な状況になりました。今話で行った宣言をちゃんと完遂したなら、そのまま国家首席です。全力で尻尾を振っている限りは安泰でしょう。全力で尻尾を振っている限りは。因みに晶くんも束さんも全く信用していないので、しっかり仕込みはしています。
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