インフィニット・ストラトス ~迷い込んだイレギュラー~   作:S-MIST

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アラライルさんとスノーさん状況が色々変わります
そして内政の次は外交で、地球の方向性といった感じでしょうか。


第212話 立場の変わるアラライル/スノーの気苦労/物流の中継地点・地球(IS学園卒業3年目の5月)(イラスト有り)

  

 地球の暦で5月のとある日。

 “首座の眷族”の辺境議員アラライル・ディルニギットは自身の執務室で、非常にだらしのない恰好で休んでいた。椅子の背もたれを倒して腕を組み、デスクに足を上げて、顔の上にはアンティーク極まりない紙の本を乗せて寝息を立てている。宇宙文明において紙の本など骨董品も良いところなので、ある意味で贅沢な使い方と言えなくもない。

 そんな執務室に、秘書であるサフィル・アライルが入ってきた*1。ノックをしたが返事が無かったので、いつもの事と勝手に入ってきたのだ。

 なお“首座の眷族”程の文明レベルになると、容姿やスタイルといった問題はどうとでも出来る些細な問題に過ぎない。

 このためアラライルは金髪碧眼で細身だが引き締まった体形を選んでいた。外見は40歳後半程度。所謂ナイスミドルなイケオジだ。

 秘書のサフィルは知的な美女で、髪は艶やかで長いブラウン。スタイルは適度な凹凸があって大体の服は似合いそうだ。因みに彼女はその日の気分で色々髪形を変えるが、今日はサイドテールの気分だったようだ。

 サフィルは上司の傍らまで行き、紙の本を除けて言った。

 

「休むなら休憩室をお使いください。こんなところで休んでも、疲労は抜けませんよ」

「ん? ああ、君か。ちょっと休むつもりが寝てしまったか」

 

 本当に寝起きのような様子で答えるアラライル。

 疲れている様子の上司を見て、サフィルは無理も無いと思った。

 ここ最近のスケジュールたるや殺人的なのだ。原因は分かり切っている。地球文明の篠ノ之束博士だ。彼女が“首座の眷族”ですら実用化していなかったスターゲート送電システム―――星々の海を越えて遠隔地にエネルギー供給が行えるシステム―――を実用化したためだ。これにより彼女の名は宇宙文明に拡がり、その恩恵に与ろうと、或いは見せかけの交渉だけして奪おうと多くの異星人が押し寄せ、始めは彼女自身が対応していたが面倒臭くなったのだろう。こちらと“獣の眷族”のスノー大使に窓口となる事を依頼してきた。

 “首座の眷族”としても、スターゲート送電システムが無秩序に広がる事は危惧していたので否は無かったのだが、影響範囲が広すぎた。“首座の眷族”内部からも面会希望者が多数。他文明からの面会希望者も多数。増え続ける―――秒単位で爆増する―――面会者リストを見た時の絶望感ときたら………。

 嘆いても仕方がないので、こちらも総動員(アラライルと部下一同)+本星に増員を要請して対応していたが、全く足りていなかった。ちょっとした有力者程度なら部下が対応すれば良いのだが、真の有力者―――無理矢理地球文明に当て嵌めるなら、胸先三寸でアメリカ大統領を挿げ替えられるくらいの奴ら―――は立場的にアラライルが対応しなければならない。地球で行われているフレンドリーな会談と違って、こちらは神経の磨り減るようなヒリヒリした会談なのだ。それがエンドレスと思える程に続く続く。

 そんな中で、本星からの最優先通信が入った。デスク上に表示された名は上司にあたる中央議員だ。対応しない訳にはいかない。アラライルは即座に表情をつくり応答した。部屋の中央に、相手の上半身が立体映像で映し出される。

 

『アラライルです。如何されましたか?』

『なに、今後の地球文明への対応について、お前の役割が変更になったのでな。その連絡だ』

『と言いますと?』

『この通信を持って、お前は“首座の眷族”から地球文明へ派遣された大使となる』

『分かりました。拝命致します』

 

 予定通りと言った返答に、上司の中央議員はつまらなさそうに言った。

 

『驚かないのか? 事前に連絡はしていなかった筈だが』

『どうせ確信犯でしょう。それに束博士の発表以降、中央で地球への大使派遣が協議されていたのは知っています。立候補者が随分と多かった事も。貴方なら私から何か言わなくとも、推してくれると思っていました』

『これまでの経過や相手との関係性を考えれば、お前が最も適任である事は明らかだろう。余程の能力差があるならともかく、態々他の者を推す理由はない。あとお前なら心配は無いと思うが、一応注意はしておこう。大使の座を狙っている者は多い。下手な隙は見せるなよ』

『勿論です』

 

 答えたアラライルは、1つ確認しておく事にした。

 

『ところで大使に任じられた訳ですが、私が使う大使館はどのようなタイプになりますか?』

『地球には既に“獣の眷族”の大使館があるだろう。アレと同じタイプ、開放型を用意してある。大きさも同じくらいだ』

 

 正確に言えば月の衛星軌道にある“獣の眷族”の領域に通じるスターゲート近郊に、“獣の眷族”の大使館はあった。地球人が宇宙建造物と聞いてイメージするような外壁に覆われた建造物ではなく、生態環境を維持したまま島1つを丸々浮かび上がらせて、そこに大使館を建てて使っているのだ。このため島の内部には池があり、森があり、外壁に覆われていない開放空間でありながら自然豊かな光景が広がっている。

 “首座の眷族”であればより巨大で、より高度な技術を誇示するような大使館も準備できるが、それは愚行だろう。良好な関係を維持している“獣の眷族”と、見栄の張り合いをする必要は無い。地球を威圧するような大使館である必要も無い。その点を踏まえれば、同じ開放型というのは良い選択だろう。無論、中身が同じである必要は無いのだが。

 アラライルはこのような考えからニッコリと笑い礼を述べ、ついでにもう1つ尋ねた。

 

『あともう1つ。要請していた増員は大使館と一緒に来ると思って良いのでしょうか?』

『ああ。大使館と一緒にそちらに到着する予定だ』

『ありがとうございます。これで少しは楽になります』

『………だと良いがな』

『何かあるのですか?』

『なに、極々単純な話だ。束博士は個人でスターゲートを造れる。ハブ化を進めていて、設置できる数にはまだ余裕がある。確か以前の会談で、新たに設置できる数は10や20ではないと言っていたな*2。それを受けて、月のハブを本格的に使う方向で検討が始まっている。その現地担当がお前になるのだ。責任重大だぞ』

 

 人や物の移動にハブ化された月が本格的に組み込まれれば、恐らく大変革が起きるだろう。極端な話、何処かの勢力圏を横切る事なく反対側へ抜けられる、という事なのだ。場合によっては危険宙域を丸ごとショートカットできる。移動時間という1点のみを考えても、短縮できるメリットは計り知れない。それだけに何処にどんな順番で設置していくのか、束博士と交渉する現地担当の責任は大きいと言える。

 アラライルの脳裏に、束博士の顔が浮かんだ。

 

(金、権利、名誉………どれも違いますね。やはり博士を動かすなら面白さ、興味………俗物的でない何か。そんなところでしょうか)

 

 簡単に交渉方針を考えたアラライルは答えた。

 

『この仕事に、責任重大でないことなどありませんよ。お任せ下さい。いつも通りに結果を出しましょう』

『お前が下手を打つとは思っていない。任せたぞ』

『了解しました』

 

 こうしてアラライルの立場は開星手続きを担当する辺境議員から、地球を担当する大使へと変わったのだった。

 

 

 

 ◇

 

 

 

 一方その頃。“獣の眷族”から地球に派遣されている大使、スノー・テール。

 彼女は束博士から依頼された窓口の件*3について、幾つかの判断を仰ぐため一時的に本星に戻っていた。依頼された当初は大使の権限―――星間外交の最前線に立つ大使の権限は非常に広く強い―――で対応していたのだが、その大使の権限を以ってしても、対応に注意を要する相手から面会の申し込みが多数あったため、王の判断を仰ぐべく戻っていたのだ。

 そして要件そのものは、幸いな事に滞りなく済ます事ができた。王はスターゲート送電や月のハブ化の重要性を認識していたため、謁見という形ではなく、執務室に招かれ王の最側近達と共に会議という形で、方針を固める事が出来たのだ。明確な指針が出来たので、今後判断に困る事は減るだろう。

                               

 ―――スノーにとっての問題は、その後だった。

                               

 何故なら他者から彼女を見た場合、取り入る相手として申し分ないのだ。

 星間国家の王の覚えめでたく、今後物流の要所となりそうな所に赴任している若くて独身の大使。“天才”篠ノ之束博士への窓口。しかも現王の血族に連なる者。尤も傍系であり直系からはかなり遠い*4のだが、大事なのは遠くても間違いなく血縁であるということ。これは王家にお近づきになりたい者達にとっては、逆にハードルが低い事を意味していた。

 付け加えるなら見た目も良い。優し気な目元。頬から顎先にかけての整った鼻梁。長くクセの無い白髪。すらりと伸びた四肢。頭部にある白い狐のような耳と臀部の尻尾。好んで着ている着物のような服装での所作も洗練されている。

 お陰で連日面会来客がひっきりなしなのだ。休む暇もない。

 

(はぁ)

 

 内心で溜め息を1つ。そして今日参加している夜会は王家主催のもので、招待されている者達も相応に格のある者たちばかりだ。しかも―――こう言っては不敬だが―――王も面白がっているのだろう。先程などこれ見よがしに親し気に話しかけてきた。ついでに最側近の方々も。風除けになる反面、周囲の視線がちょっと怖い。自身がこんな場所に居て良いのだろうか、という場違い感も拭えない。

 元々星間外交に関わっていたとは言え、こんな中枢に関わるつもりは無かったのだ。傍系が目立つ事を快く思わない者もいるので、目立ちたい者を目立たせて自分は裏方で………というのが人生設計だったのだが、随分と狂ってしまった。表舞台に立つ切っ掛けはアラライルとの出会いだが、本格的に狂ったのは地球に特使として出向き、大使になってからだろう。

 

(どうしましょう)

 

 何となく、窓から外を見る。壁に嵌め込まれている窓ではなく、壁面全体が光を透過して外を見れるタイプだ。眼下に見えるのは、王城周辺に広がる本星首都圏の夜景。ここは王家が所有する空中庭園の1つで、よく夜会に使われる場所だ。綺麗な夜景だ。少しばかり現実逃避していると、現実に引き戻された。格のある者。星間外交を担う大使であっても軽々に扱えない者が話しかけてきたのだ。

 対応する。値踏みするような視線が――――――いや、粘つくような視線が煩わしい事この上ない。富裕層特有の身の無い会話の後、話題が束博士への面会希望に移る。心の中での判定はこの時点でアウト。俗物過ぎる。しかしストレートに伝えては今後の仕事に影響が出てしまうので、遠回しかつ穏便に伝えていく。面倒だ。遠回しな表現のせいか、中々引き下がってくれない。面倒過ぎる。あと視線が不躾。いやらしい。段々イライラしてきたので、内心で罵詈雑言を吐き捨てる。ついでにサンドバッグにしておく。勿論顔には出さない。あくまで笑顔に上品に………。そうしてたっぷり時間をかけて断っても、次から次へと。本当に面倒。しかし相手が格にモノを言わせた対応をしてこないのは、束博士がこちらの許可した者とは本当に話をしている、という事実があればこそだった。そこから先は面会者次第だが、少なくとも窓口である自分が否と言えば絶対に面会は叶わない。その事実があればこそ、格がある面々もゴリ押ししてこない。王が殊更に目をかけてくれている、というのもあるだろう。あと可能性があるとしたらアラライル側からの申し込みだが………あの人ならのらりくらりとかわして、気付いたら色々搾り取られている、くらいはやるだろう。無論相手は選ぶだろうが、“中央に最も近い辺境議員”と言われる程の手腕は伊達ではないのだ。

 そうして夜会が終盤に差し掛かった頃、再び王に声をかけられた。地球人的な感覚で言えば中年といった雰囲気だが、同時に百獣の王を連想させる程の威圧感がある。本人の性格を反映してか、身に着けている装飾品は少ない。

 

「儂はそろそろ戻る。が、話したい事がある。一緒に来い」

「拝命致しました」

 

 臣下の礼を取りながら、内心で毒づく。この場でこういう事をしないで!! 周囲から聞こえてくるヒソヒソ話は意識して聞かない事にする。絶対碌でも無い内容だからだ。むしろ王妃様や側室の方々に勘違いされたらどうしようと思うが、今出来る事は何も無い。いや、聡明な方々だから多分大丈夫なはず。

 色々な心配が脳裏を過ぎり胃が痛い。が、王の御前で無様な姿は晒せないので我慢して後を付いていくと、空中庭園の一室に案内された。先客がいて、王妃様や側室の方々だ。

 

「王様。これは?」

「なに、地球にはこちらの楽器と非常に良く似た楽器があったと話したら、直接話を聞きたいと言って聞かなくてな。こうして場を設けた訳だ」

「王様。それならそうと一言言って頂ければ」

「言ったら面白くないだろう。背後から付いてくるお前の雰囲気というか気配は中々に面白かったぞ」

 

 尊敬の念を忘れて蹴り飛ばしたいと思ってしまったのは仕方の無い事だろう。無論、行動には移さないが。気を取り直して挨拶する。

 

「王妃様。並びに側室の皆様方。地球へ大使として赴任しているスノー・テールと申します。本日は、宜しくお願い致します」

 

 言葉と共に臣下の礼を取ると、側室の1人が座るように勧めてくれる。着席。何から話したものか数瞬考え、まずは映像を見てもらう事にした。

 

「地球は問題も多いところですが、文化的な側面も多く残っている文明です。まずは、こちらをどうぞ」

 

 手持ちの端末に保存していた映像―――カラードの面々が大使館に来た時の映像―――を呼び出す。

 映し出されたのは元3年1組の1人。後頭部に編み込みを入れて下ろした、長い黒髪で清楚な女性。カラードの制服に身を包んだ四十院神楽*5だ。実は彼女、旧華族出身というお嬢様である。セシリアのように大富豪という訳ではないが、生い立ち故に文化方面にも造詣が深い。

 

「あら、本当にそっくりですね」

 

 側室の1人が言う。

 床に置いて五本の指で弦を弾くという意味では、同じと言って良い。音色は若干違うが、構造としてはほぼ同じだろう。

 次に、ヴァイオリンを弾くセシリアが映し出された。

 

「あら、こちらの人は………もしかして救出作戦に出ていた人ですか?」

 

 王妃が首を傾げて、何かを思い出したようだった。

 スノーが答える。

 

「海賊の大規模拠点から我らが同胞や他文明の一般市民を救い出した、という事でしたらその通りです。彼女の名はセシリア・オルコット。救出作戦を主導したカラードの副社長です」

「あらあら。凄いですね。戦えるだけでなく、文化的な事まで」

 

 地球でも宇宙でも、戦う者は無骨なイメージを持たれる事が多い。あれほどの作戦の最前線に立ち、数万人の額にあった洗脳装置を只の一発も誤射する事なく射抜いた魔弾の射手なら尚更だろう。しかし映し出されている彼女の姿は、音楽家と言っても差し支えない程に優雅であった。先に映し出されていた四十院にしても、カラードという事前情報が無ければ戦う者とは思われなかっただろう。

 そうして保存されていた映像が次々に再生されていくと、1人の男性のところで止まった。カラード社長。薙原晶だ。“天才”篠ノ之束のパートナー。

 

「この者についてはどうですか?」

 

 王妃様からの質問だ。

 

「直接話した回数はそう多くないので私見も混じりますが、宜しいでしょうか?」

「構いません」

 

 堅苦しい分析内容を話しても場にそぐわないだろう。そう考えたスノーは、王への報告には記載していない別の切り口で答えた。

 

「端的に言うなら、女を立てる良い男でしょうか。会談の場では常に束博士の傍らに控え、意見を求められれば的確に答え、また科学者や発明者といった側面を持つ束博士が何不自由なく行動できるように全てを整えている。宇宙(そら)で有名になったのは束博士ですが、その偉業の何割かはこの者が居てこそでしょう」

「おやおや。それは良い男ですね」

「はい。捕まえるなら、こういう男が良いと思います。ただ恐らく、愛多き男でもあるでしょう」

 

 次いでスノーは、調べられた範囲の晶の交友関係を表示した。端的に言えば、相手は殆ど女性である。男性では、辛うじて一夏の名前がある程度だ。調べきれていない男性もいるだろうが、日常的に関わる相手はほぼ100%女性と言って良いだろう。男性から見たら「くたばれ」と言いたくなるだろうが、王妃様や側室の皆さんは違う感想を抱いたようだった。

 側室の1人が口を開く。

 

「これで問題無く回っているなら、悪く言えば女たらし。良く言えばしっかり各々の手綱を握っているということね。権力欲だけの男は見飽きたけど、こういうところにちゃんと気が回るなら、間違いなく良い男よ」

 

 別の側室が茶化す。

 

「地球に行って、骨抜きにしてみたら?」

「いやよ。私、もう王様のものだもの」

 

 こうして始まった王妃様や側室達との話し合いは、その後次第に脱線し始める。右に脱線左に脱線。先の夜会でストレスを溜め込んでいたスノーも雰囲気に乗せられて、普段は言わないような発言をちょいちょいしてしまう。無論礼節は守っていたが、少しばかりストレスではっちゃけてしまった感は否めない。

 そして地球には、こういう状況を言い表す良い言葉があった。

 

 ―――女三人寄れば姦しい。

 

 後日のこと。何故かスノーの仕事に、王妃様と側室達の話し相手というのが追加された。

 大使をしながらなので本星に帰った時だけだが、大変に気を使うお仕事である。

 

 

 

 ◇

 

 

 

 数日後、地球。

 いつもの会談の席で、束はアラライルから大使となった事を聞いた。

 

『―――という訳で大使となりました。まぁ、やる事はこれまでと大差ありませんが、改めて宜しくお願いしますね』

『こちらこそ、宜しくお願いします』

 

 ここでアラライルは1つ許可を求めた。

 

『では大使館を月のスターゲート近郊に留置したいので、許可を頂けますか』

『1日お待ちください。シールド衛星を準備しますので』

『分かりました。スノーさんのところに使っているのと同じ物ですか?』

『はい』

 

 “首座の眷族”の大使館であれば、並大抵の艦砲射撃などモノともしないシールド強度を持つ。だが束博士が用意するシールド衛星は、対惑星級の攻撃を防げる代物だ。絶対天敵(イマージュ・オリジス)が使用していた戦闘艦の攻撃を実用的な時間防いだという実績もあるだけに、アラライルとしても断る理由は無かった。センサー系が妨害されてしまうのは面倒だが、大使に対して鉄壁の防御を提供するという姿勢に難癖をつけてまで外させる必要はないだろう。

 なお束がシールド衛星を付けた理由は、鉄壁の防御が副次的な理由で、主たる理由はセンサー系の妨害であった。何の対策も無しに月近郊への留置を許可したら、地球の動向を丸裸にされかねない。潜行戦隊の動向やアンサラーを調べられる可能性もある。いや、確実にやると考えるべきだろう。なのでシールドで覆うという建て前で大使館のセンサー系を妨害しているのだ。

 次いで、スノーが口を開いた。

 

『ところで束博士』

『どうしましたか?』

『いえ、以前大使館に来て貰った時にそちらの琴という楽器の曲を聞かせてもらいましたが、こちらの楽器と構造がほぼ同じなので、楽譜と指の動かし方の説明書、いえ、教科書と言った方が正しいでしょうか。そういう物を頂ければと思いまして』

『分かりました。あれ? という事は逆も可能だと思いますので、こちらも同じ物を頂けますか。異なる星で生まれた似たような楽器、そして曲。中々心躍るものがあります』

 

 ここでアラライルが会話に加わった。

 

『確かヴァイオリンというのもありましたね。こちらにも似たような楽器があります。できれば、こちらにも送って頂けませんか。勿論、こちらの曲や教科書もお送りします』

 

 なお非常に大雑把な分け方をするなら、“首座の眷族”の文化は洋風な色合いが強く、“獣の眷族”の文化は和風の色合いが強い。無論それのみという訳ではなく色々混じり合って多用な文化を形成しているのだが、根底、或いは土台という意味ではそのような傾向があった。

 そうして突如始まる異文化談義。同じヒューマノイドタイプの場合、形成される文化にも共通点があるのだろう。3人は本当に雑談という感じで暫し話し続けた。

 因みにこれを配信で見ていた地球の文化人は大喜びである。こういう場で文化について語られるという事は、それだけ相互理解が進む土壌となるからだ。

 そして話の流れの中で、セシリア・オルコットと四十院神楽の演奏データが両文明に送られる事になった。相互理解の一環で、“獣の眷族”からはスノーが琴のような楽器を演奏するデータが、“首座の眷族”からはアラライルがヴァイオリンのような楽器を演奏するデータが送られてくる。

 俗な言い方をするなら、琴を弾くケモミミ美女のデータと、ヴァイオリンを弾くイケオジのデータ。刺さる人間にはブッ刺さるだろう。

 

 ―――閑話休題。

 

 長く続いた話の途中で、束は気になった事を尋ねてみた。

 

『ところでお聞きしたいのですが、文明が発達すると今話題になっていた音楽や、その他手動で行う文化的な事って衰退すると思っていたのですが、御二人の文明はどうなのですか?』

 

 先に答えたのはスノーだった。

 

『かなり古い話ですが我が文明は昔、極限まで効率化された社会を目指した事があります。動かなくて済むのなら動かない方が効率的。他者と直接話さずに済むのなら、短いメッセージだけのやり取りで問題無い。効率があらゆるものに優先する。そんな社会です。結果は、どうなったと思いますか?』

 

 束は暫し考えた後に答えた。

 

『生命体として、種として衰退。社会基盤の崩壊ですか?』

『正解です。ある程度の効率化はされるべきですが、効率を至上命題にしてしまうと、何処かで生命体として歪になります。そして効率を追求した社会というのは、社会基盤の根底である道徳や法を蝕みます。ですから、注意して下さいね。我ら“獣の眷族”はどうにか立て直して復興出来ましたが、銀河の歴史を紐解けば、復興出来ずに滅亡した文明の方が遥かに多いのですから』

『なるほど。貴重な助言、ありがとうございます。心に留めておきたいと思います。ではもしかして音楽といった文化が廃れていないのは、そういった文化的な事を奨励することで、人の営みの保ち、社会的な許容性を保とうという事ですか?』

 

 次に答えたのはアラライルだ。

 

『それも正解です。ただ注意して欲しいのは、母数が増えればどうしたってそういう活動が苦手な者が出てくるということです。そして苦手なだけで反社会的という訳ではないので、苦手な人が迫害されるような形であってはならないということです。その辺りの匙加減を間違うと、大変な事になりますよ。我ら“首座の眷族”にも、中々苦い経験がありますからね。まぁ先達として1つ助言をするなら、文化的な活動が苦手だったとしても、それだけが人生ではありません。誰にでも得手不得手がある。他に出来る事や得意な事があるなら、そちらで頑張れるような社会であれば良いということです。無論、現実問題としては色々あるでしょう。ただ、基本はそうだというのが我らの学びでしょうか』

 

 今の短い言葉に、どれだけの歴史が凝縮されているのだろうか?

 珍しく素直にそう思った束は、もう一度感謝の言葉を口にした。

 

『重ね重ね、ありがとうございます。今の御二方の言葉は、地球の今後の指針になるでしょう』

 

 今回の会談は、この後も終始互いの文化的な事に注目した内容であった。

 文化を生み出す重要な背景となる歴史も含めれば、どれだけ時間があっても足りないだろう。それだけに時間はあっと言う間に過ぎ去っていったが、文化的な活動をする地球人にとっては、非常に興味深い時間となっていたのだった。

 

 

 

 ◇

 

 

 

 数日後、晶は社長室で非常に悩んでいた。

 先日の会談が余程衝撃的だったのか、各国の文化人から「是非、異文化交流を!!」という要望がひっきりなしに上がってくるのだ。

 損得勘定が働いている部分も多くあるだろうが、気持ちとしては分からなくもない。束の宇宙進出という目的にも適うし、晶としてもOKが出せるなら出してやりたい。

 しかし、解決しなければいけない問題が山のようにあった。

 まず交流する為の場所はどうする? 本星(地球)に入れる? 宇宙人が滞在可能な施設が無い。防疫の観点からも却下。ならばコロニー? 貰ったコロニーは全基運用計画が決まっていて、今更変更など出来ない。クレイドルやマザーウィルを臨時で使う? 現在稼働中のあれらにはそれぞれ役割がある。交流の場に使ってしまえば、その間使えなくなって影響が甚大だ。現在建造中のクレイドルを転用する? 今建造しているのは移民用だ。スケジュールをダイレクトに直撃してしまう。結論、自前で準備するのは厳しそうだ。

 ならば買う、というのはどうだろうか? 地球ではコロニーのような巨大建造物を用意するのは一大事業だが、宇宙文明なら商品だ。アラライルさんやスノーさんに注文できるなら、準備にそう時間は掛からないだろう。だがこの方法だと、別の問題が発生する。

 仮にコロニーを購入して交流の場として使用するなら、迎え入れる宇宙人さん達の利便性や慣れと言った観点から、以前貰った骨董品の円筒形型コロニーではなく、宇宙文明で普及しているタイプの方が望ましいだろう。だがその場合、コロニーをメンテナンスできる地球人がいない。束抜きで安定的に運用出来なければ全く意味がない。また安全保障の観点から言えば、自分達でメンテナンスできない巨大建造物が本星(地球)近郊にある、というのは危険極まりなかった。メンテナンス出来ないという事は、何かを仕込まれても気付けない。何をされているのかも気付けないという事だからだ。

 これらを踏まえれば、時期尚早という事だろう。しかし十分な準備が整うまでとなると、何年かかるだろうか? 多少準備不足でも、今の内に進めた方が、結果としては良くなるのではないだろうか? そんな考えが拭えない。

 随分と迷った晶は、気分転換に社長室の灯りを消して、部屋の中央に月を含む地球近郊の立体映像を出した。アンサラーに護られた地球。多くのスターゲートがある月。ハブ化された交通の要所―――――――――ん? 何かが閃いた。最近、同じような事を聞かなかっただろうか? 全く同じ訳ではない。だが、なんだ? 何かが引っ掛かる。つい最近だ。思い出す。記憶を探る。その途中で、セシリアがドアをノックして入ってきた。彼女の顔を見て思い出す。

 

「イエメンだ!!」

 

 思わず叫んでしまった。不意の大声にセシリアがビックリしている。急速に考えが纏まり始めた。

 似ているのは状況だ。地球は銀河の辺境。イエメンは地球の中では開発の遅れている最貧国だった場所。今はどうだ。港や空港が整備され――――――はどうでも良い。いや、良くはないが本筋ではない。大事なのはイエメンが物資集積地として機能しているということ。

 規模はまるで違うが、状況が同じなら、同じような手が使えないだろうか?

 今のハブ化された月は、只の航路でしかない。宇宙文明にも輸送業者はいるが、只の航路でしかないから、月のスターゲートを使って従来の航路よりショートカット出来ても、結局目的地までは行かないといけない。だが、もしも、月を物資の積み替え拠点として使えるようになったら? 高速性を売りにする輸送業者を誘致して、月で荷物の積み替えが行われるように仕向けたらどうだ? 荷物の積み替えにどの程度の時間を要するかは調べる必要があるが、パイロットが一服する時間くらいはあるだろう。狙いはその一服する時間。そこで地球の文化を宣伝する。今回みたいに音楽でも良いし、スポーツでも良い。お土産みたいな物でも何でも良い。認知して、興味を持って貰えれば、後は現場の人間次第だ。悪くないんじゃないだろうか?

 いや、問題はまだある。荷物を積み替える場所はどうする? 宇宙空間という剥き出しの場所じゃダメだ。パイロットが一服できる場所。仕事以外に意識が向く場所を用意しないとこれは成功しない。何がある? 何が使える? 使えそうな物を片っ端から思い浮かべてみるが、やはり十分な機能や広さを考えると、どうしても技術力や工業力がネックになって時間が掛かり過ぎる。

 となれば仕方がない。アステロイドベルトから小惑星を持ってきて、内部をくり抜いて使うのが一番早いだろう。束の時間を使いたくはないのだが………この動きを無視する事は束の考える宇宙進出に反する。悩ましいところだが、取り合えず相談はしてみよう。

 そう考えた晶は、ドアのところで考えが纏まるまで待っていてくれたセシリアに謝って、「後からそっち(副社長室)に行く」と伝えてから地下の自宅に向かったのだった。

 

 

 

 ◇

 

 

 

 晶から話を聞いた束は、一瞬キョトンとしてから答えた。

 

「いいね。ハブ化した月を活かせるし、徐々に関わり合いも増やせる。相応にトラブルもあるだろうけど、そこは宇宙(そら)に慣れていくために通らなきゃならない道かな。――――――うん。やろうか。あ、でもちょっと待ってね。ちーちゃんの専用機の調整をしちゃいたいから」

「どんな感じなんだ?」

「詳しい性能は秘密だけど、ちーちゃんガチだね。一回慣らし運転したんだけど、要求が山のように来たよ。フフフフフフフフ。この私にこんな調整できるならやってみろなんて言うから、デチューンしてって泣きつくくらい性能モリモリにしてあげようと思って」

「それ、大丈夫だよな?」

「パイロットを危険に晒すような駄作を作るわけないでしょ。安全を保ちつつ最高性能で、それでいて限界能力を要求するような機体にしてあげるの。フフフフフフフフフフたのしみぃ」

 

 指をワキワキさせながらニヤニヤする束。これはノリに乗ってる時のアレだ。

 

「分かった。じゃあ準備が出来たら教えてくれ。俺の方も用事を片付けておく」

「うん」

 

 そうしてカラードの社屋に戻った晶は副社長室に行き、セシリアが社長室に来た案件について話し合った後、元3年1組の面々全員にコアネットワークで今後の予定を話しておいた。影響が多方面に及ぶのは確実なので、全員に心の準備をさせるためだ。するとカラードの活動で経験を積んでいた面々は、早速と各々の立場で行動し始めた。

 地球内部を統括する副社長のセシリアは確実に使うであろう資材関係を確保。宇宙開発部門長代理のシャルロットと戦闘部門長のラウラは運用計画の叩き台を作成。施設内外の警備が絡むため共同作業だ。潜行戦隊の面々は―――束博士なら恐らく把握しているだろうが―――アステロイドベルトにある手頃な石ころ(小惑星)の位置情報をリストアップ。カラード戦闘部門機動特捜課の宮白(みやしろ)加奈(かな)赤坂(あかさか)由香里(ゆかり)は、宇宙文明で実際にあった星間犯罪、或いは今後予測される犯罪情報の提出。レスキュー部門の一夏・箒・鈴は施設で事故が起きた際の対処方法の叩き台を作成。異常気象対応部門長の簪は資材調達地域からの依頼受注を増やす事で、安定調達出来るように側面支援。余り露骨にやると隙になってしまうので、若干増やす程度だ。

 他にも多々あるが、それらを含めた行動に束は、後日満足そうな表情を浮かべていたという。

 

 ―――閑話休題。

 

 それぞれの用事を片付けた2人は、早速とイクリプスに乗り込みアステロイドベルトへと向かっていた。

 やる事は決まっているので、迷う事もない。潜行戦隊の面々がリストアップしてくれた情報を元に、十数キロメートルサイズの石ころ(小惑星)を見つけて、地球圏に持って行く前にちょっと加工するだけだ。NEXT(N-WGⅨ/IS)GRIND BLADE(グラインドブレード)*6石ころ(小惑星)内部をガリガリ削り、凹凸の激しい外側はHUGE BLADE(ヒュージブレード)で適当にぶった切って形を整える。因みにセカンドシフトする前ですらブレードの全長は10キロを超えていた。セカンドシフトしてからの限界稼働はさせていないが、この程度の石ころ(小惑星)をぶった切るのは訳ない。

 日曜大工というにはスケールが大き過ぎる気がするが、2人は日曜大工気分で石ころ(小惑星)を加工していく。ジェネレーターを取り付け、最低限の姿勢制御装置を取り付け、後はイクリプス下面に増設されているUFOキャッチャーのような巨大クローで、ガチッと掴んでスターゲート展開!!

 地球圏に戻ってきたら月の中軌道*7にポイッと投入して帰還すると、束はアラライルとスノーにメッセージを送ったのだった。

 

 

 

 ◇

 

 

 

 更に数日後。いつもの会談の席。

 束はアラライルとスノーに、晶の発案で準備中の計画を話していた。

 

『――――――という訳なので、そちらに高速船を使った輸送業者があれば、招致したいと思っています』

 

 話を聞いた両者はそれぞれに何かを考えたようで、数秒後にアラライルが口を開いた。

 

『なるほど。月の中軌道に隕石を投入したのは、積み替え用のステーションにする為でしたか。そして高速船を使った輸送業者ですが、在るか無いかで言えば在ります。ただ、分からないのはそちらの意図です。ステーションはそちらで準備。招致費用もそちら持ち。地球に実用に足る高速輸送船があるなら分かり易い話ですが、束博士以外に物流業界に参入できるような輸送船は、まだ造れないでしょう。なので、目的が今一つ読めないのですよ』

 

 すると束はニッコリと笑った。

 

『この計画において、物流の高速化はそちら向けの理由でしかありません。こちらの目的は別で、それは地球をもう少し一般レベルでも知って貰おうというものです。先日の文化に焦点を当てた会談が刺激になったようで、そういう事をしたいという者が多いのです。なので私としては、場所を準備しようと思いまして。具体的に言えば荷物を高速船に乗せ換える時間、恐らくパイロットを含め乗員は休憩するでしょう。そういうちょっとした時間で少しずつ知って貰えれば、というのが狙いです』

 

 スノーが口を開いた。

 

『そういう事でしたら理解できますが、どういう形を考えていますか? 展示物でしょうか? それとも直接的な交流でしょうか? それによって決めておかなければならない事が大分変わってきます』

『まずは展示物やお土産でしょうか。その中から好評なものがあれば、それをより深く紹介するようにして、そこから更に進んで人が直接関わる形に出来れば良いなと思ってます。ただ先に言ってしまいますが、こういう取り組みは密輸ルートになりやすい。交流というお題目を唱えれば、色々な事が通り易くなりますからね。なので輸送業者を紹介してくれるなら、取り締まりの注意点やノウハウも一緒に教えて貰えないでしょうか。一応こちらでも考えてはいますが、初の取り組みなので何処まで穴を塞げているか読み切れていないのです』

 

 これにはアラライルが答えた。

 

『始めからそういう意識を持ってくれているなら、喜んで協力しましょう。密輸というのは他人事ではありませんので。あと展示物やお土産についてですが、一応どのようなものを出すのか、事前に教えて下さい。無いとは思うのですが、ものによっては他者を著しく不愉快にさせるものもありますので』

 

 地球人に置き換えるなら、宗教的にダメなものがあるのと同じような事だろう。

 束はそう理解した。

 

『分かりました。こちらとしても手探りなので、宇宙(そら)の大先輩が見てくれるなら安心です』

 

 基本方針が決まったところで、スノーが質問してきた。

 

『ところで束博士。積み替え用のステーションですが、運用するのは先日月に投入したあれ1つでしょうか?』

『今のところはその予定ですが、どうかしましたか?』

『いえ、恐らくすぐに足りなくなると思いますので、追加を準備しておいた方が良いかと』

 

 先を促す束の表情に、スノーは続けた。

 

『現在の“獣の眷族”から“首座の眷族”への輸出量や使われているルートを考えれば、こちらのルートは十分選択肢になります。恐らく“首座の眷族”側も同じかと思いますが?』

 

 言葉を向けられたアラライルは肯いて答えた。

 

『そうですね。物流において時間短縮は重要な要素の1つ。そして月のハブはこれから確実にスターゲートが増える上に、造るのも設置するのも決定権は全て束博士が握っているので、中止はまず無い。輸送業者にとっては非常に魅力的でしょうね』

 

 普通なら、この手の話には多くの横槍が入る。言うまでもなく数多の利権が絡むからだ。しかしこの3人での話し合いはトントン拍子に進んでいた。何故か?

 地球側の理由は簡単だ。全ての決定権は束博士が握っており、各国が例え否と言おうと、極論的にはカラード単独で実行できるからだ。

 “首座の眷族”と“獣の眷族”側の理由はどうだろうか? 両文明とも数多の利権が絡むというのは同じだが、それ以上に積み替え用のステーションに自文明の企業を大量に送り込んでおきたい、という思惑からだ。アラライルもスノーも、誰かと相談した訳ではない。この場での判断だ。しかし、難しい判断ではなかった。ハブ化と物流の高速化を打ち出している以上、その効果を最大化する為にスターゲートの出口は、恐らく銀河の端から端に届くように配置されるだろう。地球文明以外の発案なら利権で様々な横槍が確実に入るだろうが、束博士は自分で製造も設置も行える。つまり横槍による中止はまず無い。

 積み替え用のステーションに自文明の企業を大量に送り込んでおけば、物流で明らかに優位に立てる。絶対に逃してはならない案件と言えた。

 返答を聞いた束が答える。

 

『そうですか。ではステーションとなる隕石は順次増やしていきます。内装に少々時間はかかるかもしれませんが』

 

 何でもない事のように言っているが、これはこれでおかしな話であった。

 積み替え用のステーションの大きさは直径十数キロメートル。そんな巨大物体をアステロイドベルトから持ってきて加工するというのは、本来なら天文学的な資金と莫大な労力を要する国家事業である。しかし束博士にかかれば、日曜大工のような気軽さなのだ。内装を気にするなど、普通は最後の最後だろう。

 ここで束は、内装という自身の言葉でふと気付いた。

 

『………御二方。少し良いでしょうか』

『どうしましたか?』

 

 スノーの返答に言葉を続ける。

 

『いえ。内装なのですが、“獣の眷族”と“首座の眷族”で、こういうステーションの標準的な内装は違うのでしょうか? それとも大体同じなのでしょうか?』

『デザインや装飾は色々特徴がありますが、同じヒューマノイドタイプとして、ある程度の共通規格はあります。事故が起きた時に、同じ仕様でないと現場の人間が迷って危険なので』

『なら、その規格も教えて貰えないでしょうか。今後色々造っていくにあたって、合わせた方が良いと思いますので。あと現在稼働しているステーションについても、可能な範囲で構いませんので参考資料を頂ければと』

『構いません。設備は安全である事が最優先なので』

 

 スノーの返答に、アラライルも同意を示す。

 こうして地球は銀河の辺境にありながら、物流の中継地点として名乗りを上げたのだった。

                               

 ―――スノーさんの脳内イメージ―――

                               

 XINN様より頂きました。感謝です!!

 諸事情により途中挿入だと都合が悪いので、

 一番最後に追加してます。

 

【挿絵表示】

 

                               

 ―――スノーさんの脳内イメージ―――

                               

 

 

 第213話に続く

 

 

 

*1
初登場は第173話にて。

*2
第209話にて。

*3
アラライルが多忙となった窓口の件と同じである。

*4
第199話にて。

*5
外見はアニメ版の清楚Ver。OL版ではない。

*6
原作では使用時左腕パージですが、本作で勿論そんな事はありません。

*7
静止衛星軌道よりも低い軌道。




アラライルさんが地球担当の大使となりました。本人のキャリア的に最短最速での中央進出は無くなりましたが、本人は全く気にしてないどころか「これから楽しみ」と思っている様子。趣味人なイケオジはこれからも飄々と楽しんでいくと思います。
スノーさん。外見的にみれば立場大幅向上に見えなくもありませんが、同時に胃痛のタネも増えました。本星にいる時だけとは言え、王妃様&側室さん達の話し相手って政争巻き込まれ確定の厄介ポジ。本人が真面目な人なので尚更………。強く生きて欲しいと思います。
そして地球。文化交流ネタから発展して、このような形で宇宙と関わっていく事になりました。割と平和的な感じですが、古来から人と金の集まる場所は色々と――――――なので、厄ネタには事欠かないでしょう。
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