インフィニット・ストラトス ~迷い込んだイレギュラー~   作:S-MIST

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XINN様が“獣の眷族”の大使、スノー・テールさんを書いてくれたので、嬉しさの余り彼女をメインにした番外編を一本書いてしまいました。
内容はスノーさんの日常(?)のような感じでしょうか。
オリキャラメインなので「ふ~ん。こんなキャラなんだ」くらいの軽い感じで読んで頂ければと思います。


番外編第12話 スノー・テール(時系列:第212話の後)(イラスト有り)

  

 地球人が“獣の眷族”と聞いて真っ先に思い浮かべるのは、地球に派遣されている大使のスノー・テールだろう。

 優し気な目元。頬から顎先にかけての整った鼻梁。長くクセの無い白髪。すらりと伸びた四肢。頭部にある白い狐のような耳と臀部の尻尾。好んで着ている着物のような服装での所作も洗練されている。端的に言えば品の良い美女だろうか。

 そんな彼女が普段過ごしているのは、地球人から“宇宙(そら)の浮島”と呼ばれている大使館だ。月の衛星軌道、“獣の眷族”の領域に通じるスターゲート近郊に留置されている建造物だが、地球人が宇宙建造物と聞いてイメージするような外壁に覆われた建造物ではない。直径8キロメートル程度の島の生態環境を維持したまま、丸々浮かび上がらせて、そこに大使館を建てて使っているのだ。このため島の内部には池があり、森があり、外壁に覆われていない開放空間でありながら自然豊かな光景が広がっている。

 だが大使館の主である彼女は、本日は不在であった。所用があって一時的に本星へ戻っていたのだ。

 

 ―――“獣の眷族”本星。

 

 スノーは謁見ではなく、王の執務室で数々の報告を直接するという栄誉にあずかった後、王城の庭園を散策して時間を潰していた。

                               

 ―――“獣の眷族”の大使、スノー・テールさんイラスト―――

                               

 XINN様より頂きました。感謝です!!

 その1

【挿絵表示】

 

                               

 ―――“獣の眷族”の大使、スノー・テールさんイラスト―――

                               

 前回訪れた際に王妃様や側室の方々に気に入られた? 目をつけられた? どちらかは分からないが、極々私的な昼食会に招待されているのだ。

 

(いえ、違いますね。純粋に興味でしょう)

 

 銀河辺境の宇宙(そら)に出たばかりの文明。1つの星の中に沢山の国があって、それ故に色々な衝突が起きている。良い意味でも悪い意味でも。前回お話した際、王妃様や側室の方々はその辺りの話を楽しんでおられた。束博士とそのパートナーが率いるカラードの動きは特に。

 そうして色々と思惑に耽りながら庭園を歩いていると、背後から声をかけられた。聞き覚えのある声だ。

 

「スノー。久しぶり」

 

 振り返れば、昔学校の同級生だった友人がいた。小柄な猫耳の子で、使用人の着物を着用している。学校卒業後暫く連絡を取っていなかったのだが、以前王城でバッタリと再会して以来、こうして時折話す間柄だ。

 

「ええ。久しぶり」

「最近忙しそうだね。噂、色々聞こえてるよ」

「どうせ碌でも無い噂でしょう」

「ん~確かに良くない噂もあったけど、スノーがそんな人じゃないって皆知ってるからね。適当に上書きしておいたよ」

「随分不穏な言葉が聞こえたけど、危ない事なんてしてないですよね?」

「してないって。同僚に嘘じゃない範囲で色々喋っているだけだから。というか、良くない噂の出元って大体アイツなんだから良いの。僻んでるだけなんだから」

「運が良かったのは事実ですから」

 

 スノーの脳裏に、これまでの記憶が過ぎる。アラライルとの出会い。押し付けられた文明間紛争の調停。運良く発見された希少鉱脈。その収益をもって行われた復興事業*1。地球に特使として訪れその後大使になり、“天才”篠ノ之束博士からどういう訳か信用され、窓口を任されている。スターゲート送電の受信衛星まで貰ってしまった。ハブ化されたスターゲートの物流網にも関われそうである。何度思い返しても、幸運以外の何ものでもないだろう。

 

「だとしても、他人を悪く言って良い理由にはならないでしょ。大体アイツ、ダサイのよ。自分はエリートだぁ~なんて散々自慢しておきながら、スノーの名前が聞こえる度に不機嫌になって。最近なんて特にそう」

「最近? もしかして、王様に直接ご報告申し上げるようになった頃からですか?」

「うん。あと、王妃様と側室の方々のお茶会にも招待されてるでしょ。それもかな」

「そんな事を気にするくらいなら、目の前の仕事に取り組めば良いと思うのですが」

 

 極々真っ当な正論に、猫耳の友人は言った。

 

「みんながそういう考えだったら、世の中平和なんだけどねぇ~」

 

 因みに猫耳の友人が言っているアイツは、同期の中では一番の出世頭と言われていた。学校卒業後は外交の道に進み、若くしてランクC文明を担当する外交チームに入り、つい先日にはランクB文明を担当するチームへ抜擢されていた。流石に全権委任された大使ではないが、年齢を考えれば十二分にエリートコースかつ出世街道と言えるだろう。

 対してスノーが大使になれた理由は、先程本人が思った通り運が多分に関係していた。本人の実力という下地があっての事だが、真面目に出世街道を歩んでいる者からしてみれば、愚痴の1つも言いたくなるだろう。

 このように思っているスノーは、友人の言うアイツをそれほど悪く思っていなかった。この時は――――――。

 

 

 

 ◇

 

 

 

 スノーは昼食会で王妃様や側室の方々と話した後、再び王城の庭園にいた。少々気疲れしてしまったので、池の魚に餌をあげて和んでいたのだ。

 

(はぁ。流石に疲れました。束博士やカラードが色々破天荒で面白いのは分かりますが………)

 

 ほぼフルオープンで一般公開されている外交交渉。これまで何度か行われている外宇宙ミッションの経過。カラードが地球の紛争地域で行っている介入行為。他にも色々あり話題には事欠かない。話した方々は大使の報告書を読める立場にあるが、やはり関わった者からの話は違うのだろう。皆様とても面白そうに聞かれていた。そして最後には「次も面白い話を聞かせて下さいね」だ。内心でもう一度溜め息をついた後、気持ちを切り替える。

 

(まぁ。これも仕事と思いましょう。何か要求をされている訳でもありませんし、数回も話せば恐らく飽きるでしょう)

 

 先の事は分からないが、面白い話がそう続く筈もない。無い………筈だ。地球で調べた束博士の評判を思い出して若干不安になるが、多分、大丈夫だろう。

 そうして王城に用意されている部屋に戻ろうと振り返ったところで、友人と話していた時に話題となっていたアイツが、こちらに向かって歩いて来ているのが見えた。名はターメ。男性としては少々小柄で、猫耳な黒髪短髪だ。昔と違って少し髭を生やしているが、余り似合っていないように思う。

 

(まぁ、殿方にはお髭があった方が良いという方もいますし、彼もそちら派だったのでしょうか?)

 

 割とどうでも良い事を思いながら、軽く会釈だけして通り過ぎようとする。同級生ではあったが、余り親しいという訳でもなかったのだ。だが―――。

 

「久しぶりだな。遅ればせながら、大使就任おめでとう」

 

 呼び止められた。意外な言葉に内心で驚きつつも返事をする。

 

「ありがとうございます。関わった方々が良かったのか、未熟な私でもどうにかやらせて頂いてます。そちらはどうですか?」

「お前程ではないが昇進しているよ。先日ランクB文明を担当する外交チームに抜擢されたところだ」

 

 ランクBとは、幾つかの星系にまたがる星間国家が樹立しているレベルだ。この辺りになると兵器として十分な信頼性と実用性を持つ、重力兵器や空間破砕兵器が実用化されている。

 なお彼が先日まで関わっていたというランクCは、母星のある星系の外縁部付近まで開発が進んでいるレベルだ。多くの文明において、この段階でワープ航法が実現している。

 このためランクCとランクBでは、扱う情報量の桁が文字通り違ってくる。この年齢で抜擢されたなら、上が期待している証拠だろう。

 

「そうでしたか。やる事が増えて大変だと思いますが、頑張って下さいね」

「それを言うならお前の方が大変だろう。なにせ辺境の小文明が相手とは言え、いきなり大使だ」

「私もそう思っていましたが、人に恵まれたようで、未熟な私でも何とかやらせて頂いてます」

「何とか、か。ならば参謀や助言者を募ってはどうだ? 人徳のあるお前だ。人も集まるだろうさ」

 

 言葉通りに受け取るなら善意だが、実際に行った場合の影響を、外交に関わっている者が理解していない筈がない。何せ今のスノーの下に人を送り込むという事は、間接的にだがスターゲート送電とハブ化されたスターゲート、これらを個人で生み出した“天才”篠ノ之束博士が進めている計画に関わるという事でもある。部下からの意見という形で僅かばかりでも影響を与えられるなら―――例えばハブ化されたスターゲートの出口の設置個所の選定―――、あらゆる勢力がスノーの下に人を送り込もうと考えるだろう。

 なのでスノーは、仕事で使う柔和な笑みを浮かべて伝えた。

 

「いいえ。それには及びません。確かに少々仕事範囲が広がって人手が足りなくなってきましたが、信用できる人手の手配は王家に直接お願いしましたので」

 

 意訳するなら、貴方が入り込む隙間などありませんよ、だ。

 ターメにも伝わったのだろう。或いは元々強く言う気もなかったのか、アッサリと引き下がった。

 

「そうか。王家が直接動いてくれているなら安心だな」

 

 しかし、彼の言葉には続きがあった。

 

「ただそれはそれとして、お前と話したいという奴は多い。元同級生というだけで、俺のところにまで連絡が取れないかと来るくらいにな」

「面倒ですね」

 

 思わず本音が漏れ出てしまう。だが彼ならちゃんと断ってくれただろう。同級生の時から性格は少々アレだったが、最低限のラインは守っているように見えたからだ。だが思い込みは危険なので、一応確認しておく。

 

「で、勿論断ってくれたんですよね?」

「は? 何言っているんだ? お前が暫く城に滞在していると伝えたに決まってるじゃないか」

「え?」

「出世レースで負けてるからな。俺は有力者に良い顔が出来て、お前は色々な意見を労せず集められる。WIN-WINじゃないか。真面目なのも良いが、ちょっとは狡賢くなれよ」

「ちょっ、ちょっと何してくれてるんですか!! 貴方スターゲートの設置にどれほどの利権が絡むか知ってますよね!!」

「勿論知ってるぞ。抜擢されたチームでも扱ってるからな」

「なら担当者への攻勢がどれだけあるかも知ってますよね!!」

「何度かあった汚職事件の内容なら知ってるぞ。いや~凄い額が動いてたな」

「有力者の話を穏便に断るのが大変なのも分かりますよね!!」

「外交に関わるなら必要なスキルだろ。頑張って磨け」

 

 背が低い事を気にしている本人に対する禁句、チビ助という言葉を出る寸前で呑み込む。だが腹の虫の収まらないので、意志力を総動員して営業スマイルを浮かべたまま心の中でサンドバッグにしておく。

                               

 ―――“獣の眷族”の大使、スノー・テールさんイラスト―――

                               

 XINN様より頂きました。感謝です!!

 その2

【挿絵表示】

 

                               

 ―――“獣の眷族”の大使、スノー・テールさんイラスト―――

                               

 そうして心の中で数十発ほど殴り飛ばした後、口を開く。

 

「最低限の礼儀は弁えている人かと思っていましたが、私の思い違いだったようですね」

「弁えてるだろう。ちゃんと教えてやったじゃないか。秘密に出来たところをちゃんと教えて心構えが出来るように教えてやったんだぞ。十分、礼儀は守って義理も果たしてるだろう」

「何処がですか!!」

 

 更に言葉を続けようとしたところで、ターメの後方に集団で歩いて来る一団が見えた。とは言っても王城内の庭園なので数人程度だが………。それはともかく、視線が合った。瞬間、拙いと感じる。アレは絶対色々お願いを持ってきた人達だ。捕まったら面倒なのは間違いない。

 

「貴方、覚えてなさい」

 

 ターメがチラリと背後を見て、ニヤリと嫌味ったらしい笑みを浮かべながら言った。

 

「やなこった。頑張れよ~。逃げ切れるように応援しているから」

 

 お気楽に手を振りながらバイバイしてくる。

 腹立つ!!

 スノーは振り返り、足早にその場を後にしたのだった。

 

 

 

 ◇

 

 

 

 数日後。

 スノーは入植が始まったばかりのとある有人惑星に来ていた。束博士から貰ったスターゲート送電の受信衛星が、どのように利用されているかを確認する為だ。部下を送って報告させても良かったのだが、信用の証なのだから一度は自分で確認するべき、と思って足を運んだのである。

 そうして惑星開発の為の衛星軌道プラットフォームで犬耳の入植責任者から話を聞くと、責任者も予想以上の性能に驚いていたようだった。

 

「始めは辺境文明が造ったものと聞いて性能については半信半疑だったのですが、試しに使ってみれば、いやはや。凄いですね。この性能なら元々予定していた主電源を使わなくても、十分に代用可能ですよ」

「それは良かったです。因みに、どの辺りが一番凄かったのでしょうか?」

「まず安定性ですね。実際に使う前に結構なエネルギーを要求して負荷をかけてみたんですが、小揺るぎもしない。渡されたマニュアルにある最大出力は元々予定していた主電源の方が上なんですが、細かいメンテナンスを必要としないでこの出力を維持できるなら、普段使いする主電源としてはとても使い易いです。そして次に安全性ですかね」

「安全性、ですか? この手の物は安全に使えるように造られて然るべき物と思いますが?」

 

 何かあったのだろうか? そんな思いから首を傾げる。すると責任者が事の成り行きを説明してくれた。

 

「いえ、先日のことなんですが、ちょっとした漂流物が受信衛星の方に流れて行ってしまったんですよ。そうしたら衛星側に安全装置があったみたいで、多分ステイシスフィールドの応用だと思いますが、それで優しく方向を変えてくれたんです。で、渡されたマニュアルに音声応答機能があったのを思い出して、漂流物を流す座標を指定したら、そっちの方に押し出してくれて。良くつくられてますよ。あれ」

 

 流石は束博士というべきだろうか? 生活圏で使うにあたり、こういう機能があるのは純粋に有り難い。

 

「今の言葉、開発者に伝えておきましょう。―――あと聞いておきたいのですが、スターゲート送電を使うことで、入植の進捗状況はどうでしょうか?」

 

 スノーが窓から見える入植惑星に視線を一度向け、責任者に戻してから尋ねると、相手はニカッと笑いながら答えた。

 

「まずコスト面で大助かりです。何せ元々予定していた主電源を稼働させるコストが丸々浮きますからね。その分を他に使えるので幾つかの整備計画が前倒しになっています。後はオプションで付けられていた中継機能ですか。要求される技術レベルが低い割には便利で重宝してますね」

 

 束博士はスターゲート送電の受信衛星を提供するにあたり、マニュアルに幾つかの関連技術の概要を記載していた。1つはスターゲート送電の受信衛星から出力されるスーパーマイクロウェーブを中継する為の中継衛星について。1つは地上でスーパーマイクロウェーブを受信する為のレクテナ施設について。技術の詳細ではなくあくまで概要のみだが、地球以上の技術力を持つ宇宙(そら)の先進文明なら問題無く造れる。

 このため入植者達は中継衛星とレクテナ施設を自作して運用していたのだが、運用ハードルが低い割には惑星表面の何処でも使用可能という利便性は、開発にあたり中々便利だったのだ。大量のエネルギーを消費する軍事施設や大規模工場なら本格的な主電源が必要になるが、開発初期にそこまでのものは必要無い*2ので、必要な場所に投入し易いという利便性が勝った訳だ。

 

「なるほど。スターゲート送電単体でも有用ですが、関連技術とセットで使えば、利便性は更に上がるという訳ですね」

「ええ。これが普及してくれればと思いますが、やはり難しいのでしょうか?」

 

 スノーは正直に答えた。

 

「関連技術はまだしも、スターゲート送電は中々難しいですね。発明したのは他文明の方ですし、此処で使っている物は信頼の証として渡された物です。そしてエネルギーなので安全保証が絡む話でもあります」

「政治はお偉いさんに任せるしかありませんが、取り合えず難しいというのは分かりました。ただ信頼の証という事は此処でちゃんと使えば、もしかしたら追加で貰える可能性がある、と思っても良いのでしょうか?」

「逞しいですね。ですが、期待はしない方が良いかと。開発者の方はとても忙しいですし、安売りする気は無いでしょうから」

「そうですか。残念です」

 

 犬耳の入植責任者は肩をすくませてアッサリと引き下がった。元々本気の言葉では無かったのだろう。だが、会話が終わった訳ではなかった。

 

「ところで大使。1つ聞いても良いでしょうか」

「何でしょうか?」

「最近、地球圏で高速輸送船を持つ輸送系の会社を募集しているという話を良く聞くのですが、本当なのでしょうか? いえ、王家が言っている事なので本当だとは思うのですが、宇宙(そら)に出てきたばかりの文明がスターゲートをハブ化した流通ネットワークの整備を行っているというのが、今一つ現実味がなくてですね」

 

 宇宙(そら)にある数多の文明の常識として、スターゲートの整備は非常に手間なのだ。

 例えばランクBレベルの文明―――幾つかの星系にまたがる星間国家が樹立しているレベル―――を例にあげると、自身の文明内で使う事に限定しても、莫大な建造費用、設置場所の選定や物流ルートに関わる利権問題etcetc。少しでも何かしらの調整を行った事のある者なら、どれだけ面倒な話か分かるだろう。尤もこういう問題を解決して前に進めるからこそ高ランク文明なのだが、面倒な事に変わりはない。そして文明内に限定してもこうなのだ。他文明との調整を含めれば――――――と一般市民である犬耳の入植責任者が思うのも無理はない。

 なのでスノーは、ニッコリとした笑みを浮かべて答えた。

 

「地球でハブ化を推進しているのは、個人でスターゲートを造り設置できる“天才”です。同時に地球文明圏最大の権力者でもありますので、よくある利害調整とはほぼ無縁なのですよ。なのでこちら側が出入口の場所を指定してしまえば、ほぼ予定通りに開通となるでしょう。実際、既に我ら“獣の眷族”から“首座の眷族”の領域に通じる航路が1つ開通していますから」

「なるほど。参考までに航路の安全性はどうでしょうか?」

 

 スノーは手持ちの端末を使って、地球の月の立体映像を映し出した。

 

「スターゲートはこの衛星の衛星軌道に配置されていますが、スターゲート同士がエネルギーシールドで作られたチューブ状の道で繋げられています。従って、ゲートを通った瞬間に海賊が強襲を仕掛けてくる、という事は無いでしょう」

「道の中で待ち伏せされる可能性は無いのでしょうか?」

「正確な数は伏せますが、この道には多数のステイシス装置とワープ妨害装置があります。不届きな行為を行えば、あっと言う間に絡め取られてしまうでしょうね」

「絡め取ったとしても処罰が――――――」

 

 出来なければ意味がない、と続けようとした犬耳の入植責任者は思い出した。王家が交渉相手として認めているカラードのことだ。話を聞いた時はお堅い王家も冗談を言うのだと思ったものだが、どうやら本当の話らしいこと。

 必要なら星々の海を越えて殴りにいく武力集団。たった3隻。しかも内2隻は輸送艦で海賊の大規模拠点に乗り込み、一般市民を救出して更に殲滅してきた奴らのお膝元………絡め取るだけの筈が無いだろう。

 

「いえ、何でもありません。恐らく安全は確保されているのでしょうね。あともう1つ。中小企業が参入する隙間はありそうですか?」

「地球側は高速輸送船を使っているなら、規模の大小は問わない方針みたいです。なので大手では受け付けていないような需要を狙えば、可能性はあるかと」

「なるほど。ですが大丈夫でしょうか? 宇宙(そら)に出たばかりの文明で、ステーションを一から建造するのは大変でしょう」

 

 これは入植責任者という立場故に想像した事だった。どんな事でも、一番始めの立ち上げというのは非常に大変なのだ。宇宙(そら)に出たばかりの文明なら尚更だろう。

 だがスノーの返答は、実にあっさりとしたものだった。

 

「と、普通は思うでしょうね」

「と言いますと?」

「“天才”は規格外、ということです。既に幾つかの小惑星を自分で持ってきて、ステーションとして使えるように改装中です。内装工事に多少時間が掛かりそうですが、大きく遅れるような事は無いでしょう」

「そうでしたか。では知り合いに声をかけてみましょう。安全に色々なところに行ける航路というのは、恐らく喜んでくれると思いますので」

「ええ。是非お願いします」

 

 ニッコリと笑うスノー。

 これまでに何度か同じような話を他でも行ったが、好意的な反応が多かった。3文明の合同事業としての側面を持ち始めているハブ化事業で、中小企業も受け入れるというのは、新しい航路を多くの者に開放するという意思表示と受け取られたからだ。

 こうして様々な内容を交えながら、スノーは視察を行っていったのだった――――――。

 

 

 

 ◇

 

 

 

 更に数日後。

 地球圏にある大使館“宇宙(そら)の浮島”に戻って来たスノーは、露天風呂に入ってリラックスモードであった。僅かに上気した頬。曲線を流れ落ちる汗。もし地球のケモミミ好きがこの光景を見たら、高確率で理性が音をたてて崩れ去っていただろう。

                               

 ―――“獣の眷族”の大使、スノー・テールさんイラスト―――

                               

 XINN様より追加で頂けました。感謝です!!

 その3

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 更に追加で頂けました。ありがとうございます!!

 その4

【挿絵表示】

 

                                        

 ―――“獣の眷族”の大使、スノー・テールさんイラスト―――

                               

 因みに開放型コロニーに分類される“宇宙(そら)の浮島”は硬い外壁で覆われている訳ではないため、露天風呂の存在を知ったら覗こうという不届き者がいるかもしれないが、対策は勿論されていた。入念に。それでいて露天風呂からは蒼い地球が見えるため、絶景ともいえる光景が堪能できるようになっていた。

 スノーはそんな露天風呂に浸かって心身共にリフレッシュ、更に1日しっかり休んだ後、いつもの会談の席についた。眼前に空間ウインドウが2枚展開され、それぞれにアラライルと束博士が映し出される。カラードの社長(薙原晶)はいつも通りに束博士の斜め後方だ。

 

『お久しぶりです。お変わりありませんか?』

 

 スノーから口を開くと、2人がそれぞれに答えてくる。政治の場としてはかなりフランクな言葉だが、非礼という訳ではない。いや、厳密に言えば非礼はあるのかもしれない。しかし大使や窓口という立場に近づいてくる者達との会話に比べて、この2人との会話はある意味で気が楽であった。お互いの立場から下手な事は言えないが、ある種の安心感がある。極端な言い方だが、味方より信用できる交渉相手、という感じだろうか。

 そんな事を思いながら、考えていた話題を口にする。

 

『束博士。以前お話していた高速輸送船を使った事業ですが、好意的な反応が多く見られました。大手や中小を含め、開始は何時になるかという問い合わせが多く届いています』

『そうですか。アラライルさんの方はどうですか?』

『こちらも同じような感じで、各方面から好意的な反応を貰っています。なのでステーションの準備をこのままお願いします』

『なら、このまま進めても大丈夫そうですね』

 

 返答を聞いたスノーは思った。

 地球の文明レベルなら本格的なステーションの建造は一大事業だ。基本構造体として小惑星を利用するにしても、持ってくるという作業そのものが一大事業だ。しかし“天才”にとっては、些細な問題でしかなかったらしい。パートナー(薙原晶)との協働作業で、既にキロメートルサイズの小惑星を幾つか、月の中軌道*3に持ってきている。しかも内部は掘削済みで、動力源と簡易的な姿勢制御装置まで取り付けて、だ。

 常識的に考えれば基本構造体の建造や小惑星を移動させる期間の方が長くなる筈だが、内装作業の方が時間が掛かりそうという訳の分からない状態になっている。もしこのスピード感に慣れてしまったら、他に赴いた時にストレスを感じてしまうかもしれない。

 スノーはそんな事を思いながら、口を開いた。

 

『もしそちらが良ければ、内装工事のお手伝いをしたいと思うのですが』

 

 束博士が渋い顔をするのは分かっていた。使用するステーションが留置されるのは地球文明圏の本星である地球の衛星、月の中軌道だ。もし何かが仕込まれた場合を考えるのは当然だろう。安全保障を考えれば素直に肯ける話ではない。

 なのでスノーは譲歩案を出した。

 

『設計図を頂ければ、その通りに造ってこちらに運んできましょう。モジュール構造でしたら調査用と設置用で各1つずつ。如何でしょうか?』

『随分とこちら側に配慮された提案ですが、理由をお聞きしても良いでしょうか』

 

 スノーはニッコリと笑いながら答えた。

 

『こちらとしても早く高速輸送船の事業を行いたい、というだけです。問い合わせ、本当に多いのですよ』

 

 地球人にとっても恐らく理解し易い事柄だろうが、ハブ化されたスターゲートが流通網に及ぼす影響は極めて大きい。今後のスターゲートの設置状況によるが、極論的に言えばこれまで輸送に数十個のスターゲートを越えなければ届けられなかった場所に、たった数個スターゲートを越えるだけで辿り着けるようになるのだ。どれだけの時間短縮になるかは想像に難くない。更に言えば危険宙域を丸ごとショートカットできる可能性すらある。このためアラライルとスノーの下には物流系企業から問い合わせが山のように届いていた。

 そして“首座の眷族”と“獣の眷族”も今後の大方針として、地球のハブ化されたスターゲートを使う気であった。確実に影響が多岐に渡るため、設立当初から関わっているという立ち位置を最大限利用する気なのだ。

 また少々きな臭い話ではあるが、両文明が武力をもってハブ化されたスターゲートを押さえないのは、自分達も自由に使えるなら、辺境の文明が自立するのを見守る、という立場の方が都合が良いからだ。敵を増やすより味方を増やした方が良いし、地球側が敵対的な対応をするなら、その時はその時で予め考えておいた別プランで対処すれば良い、という考えである。

 

『そうですか………ん~』

 

 束は暫し考えた後、返答した。

 

『ステーション1つにつき、設置用が1つ、調査用に同じモジュールが2つ、組み立てされていない予備パーツ一式を2セット。これでお願い出来ますか』

『結構な量になると思いますが、大丈夫ですか?』

『調べたパーツは月面に倉庫でも造って置いておけば良いので大丈夫でしょう。後はお支払いですが――――――』

『ご心配なく。初回のパーツ費用はこちらで持たせて頂きます。なので、設計図を下さい』

『流石にそれは………』

 

 タダより高いものは無い。なので束は支払うと言うつもりだったが、スノーは言わせなかった。

 

先日束博士から頂いた物(スターゲート送電の受信衛星)のお陰で、とある惑星への入植がとても順調に進んでいます。主電源として信頼に足る性能である事も確認出来ました。なので、そのお礼と思って頂ければと思います』

 

 ここでアラライルも口を挟んだ。

 

『同意見ですね。設計図を頂ければ、こちらでも幾つかラインを確保しましょう』

『宜しいのですか?』

『構いません』

『束博士の実行力なら、こちらも安心していられる。そういう事です』

 

 先に答えたのがスノー。続いてアラライル。

 政治の場とは思えない程に物事が進んでいく。

 こうしてスノーは両文明の架け橋として、日々の仕事をこなしていくのだった。

 誰かさんに振り回されていない、とある日の事である。

 

 

 

*1
第199話にて。

*2
束さんが渡した受信衛星は、地球で使用されている物の下位互換品です。安全保障を考えれば同等性能は有り得ない。

*3
静止衛星軌道よりも低い軌道。




露天風呂シーンは100%作者の趣味でございます!!
XINN様が書いてくれた立ち絵姿から妄想エンジンを働かせて御想像頂けると大変嬉しい作者です。
それでは最後に、イラストありがとうございました!!
  
追記
XINN様から露天風呂のシーンを頂けましたので追加致しました。
重ね重ね、ありがとうございます!!
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