インフィニット・ストラトス ~迷い込んだイレギュラー~ 作:S-MIST
さて、カラード一行はどんな事に………。
惑星遭難コール。
可及的速やかに外部からの助けが無ければ、惑星の生命体が死に絶える可能性が高い時に使われる緊急コール。
逆にコールされない程度の危機としては、カラードが行った第2回外宇宙ミッションが例に挙げられるだろう。気象コントロール装置の故障で時間をかけて風速1000m/sになる程度なら、依頼やその他の手段で対応が可能だからだ。
なお、
そして今回は――――――。
「………これってつまり、他で討ち漏らしたってことだよね?」
「多分な」
イクリプスのブリッジで、晶は束の言葉に同意する。
スターゲートから現れた損壊著しい小型船は、広域通信で無差別に救援が欲しい状況を伝えていた。言葉では時間がかかってしまうので、パイロットは惑星遭難のみを繰り返し伝え、詳しい状況はデータ送信でばら撒いているのだ。
このお陰でカラード一行も状況を把握する事が出来たのだが、確かにこれは危機的状況と言えた。
「でもまさか、また
「本当に迷惑な奴らだ」
地球人類が
尤も多くの戦闘艦群は、既に
束と晶は
まず防御力。ただ戦う為だけに生み出された全長50キロメートルを超える巨体を守るシールドは頑強無比。極々単純な事実として、平均的な戦闘力の巡洋艦*1~巡洋戦艦*2級で編成された艦隊なら、1000隻を超える規模で飽和攻撃をして、ようやくシールドの回復性能を上回り減衰させられるレベルなのだ。突破ではなく、減衰させられるレベル。しかも2人が入手した古い情報によれば、戦闘用の各種防御兵装を起動させていない通常状態で、だ。もし攻撃が途切れたら、たちまちの内に回復されてしまう。加えて旗艦級ともなれば、当然のように船体構造自体の自己修復能力も備えている。つまり完全破壊まで攻撃を当て続けなければ回復されてしまうのだ。
次に攻撃力。巡洋戦艦より更に上、戦艦級*3であっても大損害を免れない武装が船体各所にあるのは当然で、取り付き対策にアサルトアーマーに類似した兵器があるのも当然だが、旗艦級最大の恐ろしさはその主砲にある。文明によって正式名称は異なるが、地球の言語に翻訳するなら“
最後に移動力。旗艦級はその巨体故に運動性能は劣悪極まりないが、当然のようにスターゲート機能を備えている。
つまり旗艦級を擁する戦闘艦群を攻略するなら、この超火力・超防御力・環境改変能力を持つ艦の逃亡を阻止しつつ攻撃を当て続け、撃破しなければならないということ。周囲を固める艦隊の相手をしながら、だ。
―――閑話休題。
ばら撒かれたデータによれば、惑星遭難をコールした惑星近郊に出現した旗艦級の外見は、言ってしまえば巨大なラクビーボール。細長い方が前後なのだろう。片側に推進機関らしきものがある。地球に多く送り込まれてきたタイプを大きくしたようなデザインだ。ただし相当な激戦だったのだろう。一見しただけで大破寸前というのが分かる程の損傷具合だった。船体各所の物理装甲は大きく壊れ、抉れ、至る所で内部が見えている。データ的に見るなら、船体を覆っている筈のシールドは消滅しており、物理装甲も損傷度80%だ。加えて旗艦級には必ず随伴している筈の随伴艦隊も無し。状況的に、何処かの誰かが戦闘艦群を処理しようとして失敗、逃亡を許してしまったのだろう。しかし大破寸前とは言え、戦闘能力を喪失した訳ではなかった。治安維持の為に駐留していた小規模な艦隊は、スターゲートによって出現した瞬間から射程圏内に捉えられていたという不運も重なり、全て
尤もこれだけなら、惑星遭難をコールする必要などない。周辺星系の艦隊を集めて叩けば良いだけだ。にも関わらずコールされた理由は、出現した旗艦級が惑星へと進路をとっており、阻止限界点への到達が30分後なのだ。そのラインを越えてしまったら、どうやっても自重で惑星へと落ちる。全長50キロメートルの質量体が、5億という人々が住む星に落ちる。SF好きな地球人に対してなら、コロニー落としと言えば被害は容易く想像出来るだろう。
ここで晶は考えた。対象が現れたのは、
ここで束は考えた。惑星に向かっている理由は、恐らく自己修復用の資材調達だろう。チープなSFのAIでもないなら、人目につかない方が自己修復し易い、程度の判断は出来るはず。にも関わらず惑星に向かっているという事は、進路を変えるだけの余力がないのではないだろうか?
次いで、2人は同じ事を考えた。
稼働状態の旗艦級が、ボロボロの状態でいる………ニヤリ。
至った結論は同じだった。
―――人助けは大事だよね。
しかし此処は人様の領域だ。公式にお行儀よく訪れている以上、好き勝手な振る舞いは今後の為にならない。
よって束の行動は常識的なものだった。今回“首座の眷族”の領域を訪れるにあたり、護衛してくれている艦隊に通信を繋ぐ。
『こちら地球人の篠ノ之束です。何やら大変な事態が進行中のようですが、手伝いは必要ありませんか?』
空間ウインドウに映った“首座の眷族”の軍人、出発前の自己紹介でブレイクと名乗っていた男性は答えた。黒を基調として銀のラインという制服を一分の隙もなく着用し、伸びた背筋と真っ直ぐな視線が、礼儀正しい軍人をイメージさせる。
『それには及びません。そして博士には申し訳ないのですが、すぐにスターゲートを展開してお帰り下さい。我々はこれより旗艦級の足止めを目的として、あちら側に行きます』
『………単刀直入にお聞きします。大破寸前とは言え、たった200隻でやれるのですか? 無論、こちらはそちらの練度を知りません。精強である、という噂を知るのみです。ただ私は
『100%の成功を保証されたミッションなど、シミュレーションの中にしかありません。ですがここで向かわなければ、あの星に住む人々は100%の確率で甚大な被害を受け、我らの信用も威信も名誉も地に落ちる。それが分かっていて向かわないという選択肢はありません。あと、撃破のみが勝利ではありません。この情報は既に方面軍司令部にまで上がっていますので、増援が来るまで足止めすれば良いだけのことです。安心してお帰り下さい』
言葉にはされなかったが、この時点で方面軍司令部から2つ情報が伝えられていた。1つは増援到着まで30分ということ。1つは増援予定の艦隊が、方面軍司令部直轄という精鋭中の精鋭、スターゲート艦を擁する緊急即応艦隊ということだ。
そして緊急即応艦隊の戦力なら、旗艦級が相手でもどうにかなる目算があった。5分も時間を稼げば、旗艦級の巨体であっても完全破壊出来るだろう。しかし到着時間が阻止限界点到達と同じでは、どうしようもない。故に行われた足止めという選択だ。200隻で何分稼げるかは分からないが、稼げなければあの惑星に致命的な損害が出る。やるしか無かった。
『そうですか』
返答を聞いた束は相槌を打った。こう言われてしまえば、無理に意見を押し通すことなど出来ない。こっそり海賊狩りをしている時なら幾らでもやれるが、今は公式訪問中なのだ。流石に無茶はできない。
しかし、ここで幸運が起きた。いや、旗艦級AIにしていれば、増援を封じるという意味で戦術的判断の結果だが、これが結果として理不尽な存在の介入を招いた。
『スターゲートからエラー信号受信。これは…………出口側が損傷!! ゲートが閉じます!!』
護衛艦隊は通常編成の艦隊だ。スターゲート機能を有している艦は含まれていない。つまり向こう側に行けなくなった、という事だ。
この時点で
『束博士。これから言う座標に、スターゲートを開いて頂きたい。私に報酬のお話をする権限はありませんが、上も踏み倒したりはしないでしょう』
『道中で沢山の良い物を見せてもらいましたし、格安で良い物も譲って頂きました。どうぞお構いなく。――――――では、座標をお願いします』
こうして開かれたスターゲートを通り、護衛艦隊200隻とカラード一行は、惑星遭難がコールされた星系へと向かったのだった。
表向きの理由はスターゲート艦であるイクリプスやアリコーンが同行する事で、柔軟なタイミングで離脱を検討出来るようにするため。スコーピオンや輸送艦を同行させたのは、遠隔操作艦であるため置いていけないからだ。
そして束と晶はこの時、増援をもう少し早く現地に投入する方法に気付いていたが口にしなかった。“首座の眷族”の軍事機密に触れる可能性が高かった事と、軍人としてスターゲートが双方向性である事を知っている筈の
◇
星系を移動した一行は、40万キロ先に旗艦級を捕捉しつつデータリンクでブリーフィングを行っていた。始める前に
阻止限界点まで残り27分。援軍到着まで残り27分。悠長に行っている時間は無いが、無策で突っ込んで足止め出来る相手でもない。
『護衛艦隊司令のブレイクだ。各々状況は把握しているな? そして先に希望を持てる話をしておこう。援軍は方面軍司令部直轄の緊急即応艦隊だ。恐らく5分も時間を稼げば、アレが相手でも沈めてくれるだろう。従って我々は、5分だけアレの歩みを遅くしてやればいい。そして今回は地球からの客人が協力してくれるという事だが、手短に何が出来るかを教えて欲しい』
ここで束は、晶とコアネットワークで相談して決めた手を晒した。ただし実行に際しての危険度は度外視である。
『私の乗艦、イクリプス下面に装備されているクローは数十キロ単位の小惑星を強固に固定できる物理クロー*4です。なので取り付いて、直接進行方向を逸らしましょう。質量差も推力差も大き過ぎるので逆推進でブレーキは無理でしょうが、降下軌道を逸らすなら出来る筈です』
言葉を区切った束は、晶とコアネットワークで相談していた作戦も言う事にした。礼儀正しくやっている時間は余り無いのだ。
『このまま作戦を提案させて貰います。イクリプスが取り付きますので、接近に際して邪魔となる対空砲火を皆さんに潰して欲しいと思います』
『分かりました。では、そちらのアリコーンとスコーピオンはどうされますか?』
『無理にそちらの艦隊行動に組み込んだところで足を引っ張るだけなので、別行動で遠距離攻撃させます。あと1つ懸念材料がありますので、この2隻は旗艦級から見て惑星側に展開させます』
因みにアリコーンの最大火力である艦首無砲塔型荷電粒子砲は、晒したくない手札なので使用しないように命令していた。またアレは連射が利かない上に軸線を固定する必要がある。足が止まった所を狙い撃たれる可能性を考えれば、旗艦級に用いる武装としては相性が悪かった。
『惑星側とした理由は何でしょうか?』
『私達の母星が奴らに攻められた時に、やられたのですよ。もっと小型の艦でしたが、撃破した時に本体の破片に紛れて、降下船で降下されたことが』
『なるほど。それについても了解しました』
『総員に告げる。我が艦隊はこれより敵旗艦級に距離200*5までワープで接近、以降は最大船速で加速。最終的に敵旗艦級を中心としたオービット軌道*6に入り攻撃を加える。最優先攻撃目標は旗艦級の推進機関。射角が悪い場合は対空砲火を潰せ。我々が攻撃を引き付けた後、イクリプスに突入して貰う』
懐まで飛び込まない理由は、旗艦級が常に展開しているワープ妨害フィールドにあった。このフィールドはワープ機関の起動を妨害すると同時に、ワープ中の物体を強制的に三次元空間に実体化させてしまうのだ。速度0という完全静止状態で。下手に絡め取られたら射的の的にされかねない。また同フィールドはスターゲートの展開も阻害するため、内部への直接侵入対策として機能していた。シールドが消えてもこの機能が維持されているあたり、恐らく
―――閑話休題。
“首座の眷族”が持つデータベースによれば、作戦目標の旗艦級が持つワープ妨害フィールドの最大半径は約100キロ。観測情報もそれを裏付けている。その100キロ手前でワープアウトするのは、艦隊の加速距離を稼ぐ為だった。単純な物理法則として、加速していた方が攻撃を回避し易いのだ。
『さてお前達。相手は旗艦級だが大破寸前だ。たった5分稼ぐだけの簡単なお仕事だ。やれるな?』
通信を繋いでる部下達から、軍人らしい一糸乱れぬ返答が返ってきた。
『宜しい。――――――それでは各艦、作戦開始。客人に我らが練度を見せつけてやれ』
こうして簡単なブリーフィングを終えた一行は、たった5分を稼ぐために
阻止限界点まで残り24分。援軍到着まで残り24分であった。
◇
イクリプスのブリッジで“首座の眷族”の艦隊運動を見ていた晶は、思わず言葉にしていた。
「一糸乱れぬとは、こういう事を言うんだな」
束が答えた。
「うん。
当たり前の事だが、2人とも
晶は考えを整理する為に、護衛艦隊200隻の内訳を思い出す。戦艦級10、巡洋戦艦級40、巡洋艦級100、駆逐艦級50だ。前者ほど重く遅く火力と防御力がある。後者ほど軽く速く脆い。
そういう理解で見ていくと、上手い。いや違う。上手いんじゃない。強い。
まず小型艦に分類される駆逐艦級のみで編成された艦隊が、速度を活かして突入していく。その数50。地球人の感覚で言えば、全長50キロメートルという巨大さから、反応速度は鈍いと考えがちだろう。しかし、
ここで次の艦隊が突入してきた。走攻守のバランスが取れた艦種、巡洋艦級のみで編成された艦隊だ。その数100。こちらを向けとばかりに一斉射。この時、巡洋艦に乗る者達は覚悟を決めていた。主機関オーバーロード。エネルギー配分を推進機関と主兵装、最低限の生命維持装置へ。次など無いのだ。
このお陰で旗艦級AIはこいつらを邪魔者と認識したのか、或いは駆逐艦如きはいつでも殺れると判断したのか、武装を巡洋艦級の艦隊へ――――――向けたタイミングで、巡洋戦艦と戦艦級の艦隊が突入してきた。その数合わせて50。同じように主機関はオーバーロード状態。巡洋艦とは桁違いの攻撃力が旗艦級の物理装甲を叩き、損傷が拡大してく。
―――ここで、イクリプスが動いた。
(晶)
(オーケーだ)
コアネットワークで話す2人。ブリッジに晶はいなかった。イクリプス船体下層で、
(じゃあ。行くよ!!)
イクリプス最大船速。“首座の眷族”の戦闘艦と比べても見劣りしない。いや、同等以上の加速力で旗艦級へと向かって行く。
旗艦級AIが脅威度判定を更新。まっすぐ突っ込んでくるイクリプスに照準。その数、大破寸前の状態でありながら数百。集中砲火を受ければ無事では済まない。
しかし、篠ノ之束が無策というのも有り得ない。そして多くの者は認識していないかもしれないが、イクリプスにはIS技術も投入されている。つまり、あるのだ。
シールド展開。本体が持つエネルギーシールドの外側、進行方向前面に2枚のエネルギーシールドが追加で展開され、数百という対空砲火を防ぐ。だが基本火力が違う。瞬く間に減衰していくシールド。しかしこれも計算の内だ。
―――カートリッジシステムON。
元々はIS用に開発したシステムで、予め蓄えておいたエネルギーを使って一時的に出力を増強するシステムだ*8。理論上は純粋に蓄えておいた分のエネルギーを上乗せできる。無論、無茶な上乗せは機体側のダメージとなってしまうが、戦っていれば無茶が必要な瞬間というのは必ずある。そういう時の為の切り札であった。欲しいものがあるので、今ここでそれを切る。
崩壊しかけていたエネルギーシールドが急速に回復。回復した傍から減衰していくが、蓄えていたカートリッジの連続使用で耐える。耐えて耐えて耐えてカートリッジが無くなり、本体のシールドを貫通。物理装甲にまでダメージが及んだところで、イクリプスは旗艦級に辿り着いた。物理装甲が大きく抉れ、内部が見えている場所に。
―――船体下面クロー最大出力。
旗艦級の物理装甲にクローがめり込み、船体が強固に固定される。
―――重力・慣性制御最大出力。
旗艦級の推進系が悲鳴を上げ始めた。重力制御により自重が2倍、3倍と加速度的に増えているのだ。もし旗艦級が万全の状態であったら出力に任せて振り切れる程度のものだが、大破寸前の今は違う。主機関が重力制御機関が要求するエネルギーを供給出来ないのだ。
そして晶が準備していたのは、この瞬間の為だった。
束が告げる。
(晶。行って!!)
(ああ!!)
装甲の穴から内部に飛び込む。目指すは旗艦級の中枢制御システム。
2人が好意的に協力していた理由は、コレだ。稼働状態にある旗艦級のデータ。しかも
無論、場所が分かっている訳ではない。ぶっつけ本番。時間も無い。しかし、やる価値はある。船体のデザインから考えれば、一番外部装甲から距離が取れるのは船体中央。一番大事なものなら、恐らくそこにあるはず。あとは、
それを手当たり次第にブチ込み爆炎が荒れ狂う中、船体中央を目指す。内部構造が分かっていればエネルギー兵器で一直線にブチ抜いて向かうのだが、内部状態が分からない状態でやってしまうと、お目当ての物を破壊してしまう可能性がある。なので仕方なく、閉じている隔壁を1枚1枚ブチ抜きながら進んでいく。途中、侵入者撃退用のガードメカや防衛装置があったが、船内で使える程度の兵器が相手になる筈もない。あらゆる場所を火の海に変えながら突き進み、その先にそれらしい空間があった。直径200メートル程の巨大な銀色の球体が鎮座する空間で、表面を幾何学上の光が流れては床を通って何処かへと消えていく。
直感に従い、左右の肩部に5本ずつある計10本の多目的テンタクルユニットを突き刺し浸食を開始する。取得した情報を片っ端からイクリプスのデータ保管領域に送り込んでいく。
すると1分程が経過したところで、束からコアネットワークで連絡が入った。
(晶。ビンゴ。全容は分からないけど、これは活動記録かな? 良い感じ。このまま全部貰っちゃって。あと浸食のせいか、旗艦級が徐々に機能不全を起こしているみたい。対空砲火の攻撃密度が下がってきてるの)
(分かった。このまま続ける)
旗艦級AIにしてみれば、
ただではやられない。主機関の制御を放棄。意図的なオーバーロードで周囲を飛び回る奴らを一掃する。更に無事だった降下船を全て起動。船体外装の物理装甲強制パージと共に放出する。
この動きは、束も晶もすぐに分かった。
(束!!)
(こっちは大丈夫。脱出急いで!!)
物理装甲と一緒にイクリプスも弾き飛ばされたが、データリンクによればダメージらしいダメージは無い。だが問題は晶の方だった。
船体後部のエネルギー反応が急速に増大中。主機関の耐久性能がどの程度かは分からないが、計測値が既にヤバイ。単純に比較するなら、NEXTの
今なお上昇中で、余りのエネルギー量に空間が歪み始めている。
―――どうする?
刹那の思考。一番良いのは
―――仕方ない。
―――まだマシな手札を切る。
―――
本当に頭が下がる。終わったら感謝も込めて思いっきり押し倒そう。
強烈な光。あらゆる存在を許さない緑の光が収束して――――――。
◇
旗艦級から計測された強烈なエネルギー反応。即座に自爆シーケンスという言葉が脳裏を過ぎり、直後に物理装甲がパージされ、200メートル級の降下船80隻余りが一斉に射出されていく。この他に数こそ少ないが、戦艦級の大きさのものまである。確認するまでもない。いずれも惑星への落下軌道だ。束博士の言葉が脳裏を過ぎる。
『私達の母星が奴らに攻められた時に、やられたのですよ。もっと小型の艦でしたが、撃破した時に本体の破片に紛れて、降下船で降下されたことが』
クソが!! 十分な数さえ揃っていれば許さなかったのに!!
しかし現実的な問題として、200隻という数を更に割くなどできなかった。それでも、という思いが脳裏を過ぎる。あちらはカラードが配置してくれていたアリコーンとスコーピオンに任せるしかない。
こちらは何としても主機関を破壊しなければならない。阻止限界点まで残り14分。この距離で自爆されたら、巨大な船体構造物が星の重力に引かれて落ちる。
そう思った時だった。センサーにもう1つ巨大なエネルギー反応。直後、莫大なエネルギー放射を伴う緑の光の奔流が旗艦級を射抜いて――――――違う。中から!? 計測されていた旗艦級のエネルギー反応が急速に低下、射角的に推進機関も一緒に撃ち抜かれているように見えた。船体後部で連続した爆発が起きている。
艦のセンサーが、旗艦級から飛び出してきた個体を捉えた。人型。人型!? 人間サイズ!? 今回の任務を下された際の事前情報にあった。束博士のパートナー。カラード社長。最強の単体戦力。薙原晶。鳥にも見える黒い人型が飛び出してきていた。まさか、単機で内部破壊を!?
暗号化されていない通信が響いた。
『NEXTよりカラード所属の各員へ。ここまでやったんだ。全ての降下船はここで殺しきる。いいな!!』
するとアリコーンから、
その強みが、今出ていた。降下船が次々と撃墜されていく。
ここで
『告げる。目標変更。各艦降下船を狙え。客人、いや、味方に当てるなよ。――――――CIC、こちらのターゲット情報を向こうに送れるか。ターゲットが重なる時間ロスは避けたい』
軍事同盟を結んでいる訳でも無い、全く違うシステムを運用している他文明に共通情報を送る。非常に難易度の高い作業の筈だが、彼の部下は有能であった。
『30秒』
『やれ』
『了解』
この場において細かいやり取りなど必要無い。CICにいた軍人は即興でシステムを組み上げ、ロックオンしている相手としていない相手の識別情報を送信するシステムを組み上げた。細かい情報のやり取りが行える訳ではないが、今この場では十分過ぎる。
『束博士。使って欲しい』
『良いね。使わせてもらうよ』
識別情報を受け取ったカラードの面々の動きが加速していく。学生の頃から専用機持ちが出るのは決して負けられない戦場であると教えられ、鍛えられ、あらゆる状況を想定してきた彼女達だ。敵の撃破という共通の目標があり、識別情報があるなら、ある程度は合わせられる。
カラードの面々は200メートル級の降下船を優先して狙い、“首座の眷族”は戦艦級サイズの降下船を叩き、それが終われば200メートル級の降下船だ。高度な連携ではないが、この場における最適解であろう行動で、次々と降下船が撃破されていく。しかし、まだ終わりではなかった。
旗艦級の自爆シーケンスは止まっているが、これまでに得た加速度が無くなっている訳ではない。イクリプスの取り付きで減速していたが、止まっている訳ではないのだ。まだ進んでいる。だが旗艦級の戦闘力が完全喪失している今なら、イクリプスでもう一度とりついて、あとは護衛艦隊にも協力してもらって落下軌道から押し出せばどうにかる――――――と思った時だった。
旗艦級の船体各所で爆発。連鎖的に続き、船体が分解していく。
この場にいる誰一人として知らぬ事だが、これは自爆シーケンスの名残であった。本来は船体を構成する各パーツの接合部を緩め、主機関の爆発でもって周囲に拡散させてぶつける――――――地球で言えば手榴弾の発想だが、キロメートルサイズの建造材が主機関の爆発力でもって超加速して叩きつけられるとなれば、並大抵のシールドなど役に立たない。
主機関は既に消し飛ばされているが、ここは惑星近郊。内部の誘爆によって加速された船体前部を構成するキロメートルサイズの建造材が、惑星の重力に捕まって落ちる。既に大気層到達直前だ。
反応が最も早かったのは、軍人の
『絶対落とすな!! 何としても破壊しろ!!』
幾らかの被害は出ているが、戦闘力を維持している護衛艦隊が総力を挙げて破壊しにかかる。しかし、相手は旗艦級という化け物の残骸なのだ。駆逐艦の火力では焼け石に水。巡洋艦では時間がかかる。巡洋戦艦や戦艦クラスの攻撃でようやく有効打だが、数が多い。
イクリプスやアリコーンが加わる。重力兵器や広域破壊兵器は搭載しているが、この状況では味方を巻き込んでしまう。なので通常兵器に分類されるエネルギー兵器やミサイル等だ。スコーピオンは大口径レールガンで。元3年1組の面々も加わり、可能な限り破壊していく。それでも足りない。
―――どうする?
晶は考えた。このままでは間に合わない。閃き。やれるか? 迷っている暇はない。僅かでも可能性が上がるなら、やるべきだ。
『
『すまない』
既に軌道計算を済ませていたのだろう。すぐに送られてきた。
そして晶は、今回この2人を連れてきていて良かったと思った。戦闘目的で連れてきた訳ではない。今後の活動に備えて、
コアネットワークを繋ぐ。
(シャル、ラウラ。来い)
((了解))
向かってくる2人に命令する。
(ラウラはエネルギーをAICに全振りして優先ターゲットの動きを止めろ。シャルはオプションパック“W”を使用。ラウラを運べ。俺は動きの止まったターゲットを破壊する。行くぞ)
2人のISも
改良箇所は多いが、やはり最大のポイントはサブジェネレーターとカートリッジシステムの導入だろう。元3年1組の一般生徒達に導入されているシステムと原理的には同じものだが、2人の機体に施された改良はより高度なものだ。
この結果ラウラの愛機、シュヴァルツェア・レーゲン最大の特徴であるAICの強度も格段に上がっていた。
シャルの愛機、ラファール・フォーミュラ*10も高出力化により高性能化していたが、こちらの強みは別であった。高出力化でオプションパックに供給できるエネルギー量が増えた事で、これまでデュノア本社では不可能と思われていた試作推進ユニットの投入が可能になったのだ。開発コード“W”。
そしてAICによる破片の停止、ないし減速によって破壊効率は上がったが、ギリギリの状態であった。まだ突破は許していないが、徐々に押し込まれている。既に大気層上層に突入しており、3人のシールドは赤熱化を始めている。大気圏だ。
それでも破壊を続け、最後の1つ。
(チッ、面倒な!!)
最後の破片は、質量バランスが悪いのか、他の破片と接触して慣性モーメントがついたのか、回転していた。長方形状の破片で、最も長い部分で3000メートルちょい。短い部分で300メートル程度。下手な角度で攻撃を当てたら、破片が四散する。
(ラウラ、やれるか)
(やれるさ。カートリッジロード)
これまでの落下阻止でAICは既に過負荷状態。警告が煩いが無視。ここまでやったのだ。最後までやり切る。最後のカートリッジを使用してAICをオーバーロード。姿勢制御は背後から支えてくれているシャルロットに全て任せる。
発動した
ラウラが
彼女は武器の名前を知らなかったが、
―――トリガー。
瞬間、圧倒的な緑の光の奔流が最後の破片を呑み込み、蒸発させていく。
そして全てが終わった瞬間、この星系にスターゲートが開き、旗艦級を含む1万隻という艦艇が出現する。“首座の眷族”方面軍司令部直轄、緊急即応艦隊が到着したのだ。
時計を見てみれば、稼げた時間は僅かに3分。しかし惑星に被害を出さなかった事を考えれば、大金星と言って良い戦果であった。
―――大気圏に突入しながらのラストシューティング―――
XINN様より頂きました。感謝です!!
―――大気圏に突入しながらのラストシューティング―――
第215話に続く
如何でしたでしょうか。
巻き込まれというよりは首突っ込んだ系になってしまいましたが、中々大きい事件だったのではないかと思います。
そして今回は色々と使ってしまいました。戦闘出力のNEXT、アサルトキャノン、コジマライフル&キャノンでの一斉射。
さて、次回はミッション後の色々です。どんな影響が出る事やら………。