インフィニット・ストラトス ~迷い込んだイレギュラー~ 作:S-MIST
まずはいつもの会談と内政からですが………。
あと、いつもよりちょっと短めです。
第220話 統一政府の原型/宇宙の火種(IS学園卒業3年目の11月)(イラスト有り)
“天才”篠ノ之束博士が月に造り上げたスターゲート群はスターゲートハイウェイと呼ばれ、銀河の物流に与えた影響は極大と言える程に大きいものであった。
何故なら物流というのは、地球でも
そして今現在稼働しているスターゲートは計11個。“首座の眷族”に4つ。“獣の眷族”に4つ。地球文明がテラフォーミング中の惑星に3つ。しかもこれで完成ではなく、この後も順次追加されていく予定という、銀河系最大のスターゲートハブだ。
また
このためスターゲートハイウェイの利用者数は瞬く間に膨れ上がり、開通してまだ1ヵ月程度であるにも関わらず、1日1万隻を超える船が行き来していた。当然、荷物の積み替え用ステーションもフル稼働状態である。次々と船が入港しては荷物が高速船に乗せ換えられ、次々と出港して目的地へと運ばれていく。違う使い方をしている輸送業者もあった。キロメートルサイズの超巨大輸送船で積み替え用ステーションに入港して、そこで荷物を小分けにして高速船に乗せ換えて運んでいくのだ。大量輸送と高速輸送の両立である。
収益という意味でも莫大であった。“首座の眷族”と“獣の眷族”から話を聞いて、支社や事務所を出している企業スペースの賃貸料、ステーションの利用料といったものは安めに設定しているが、利用者数が多いため恐ろしい勢いで利益が積み上がっていくのだ。収益分配は事前の取り決め通り、3文明で2:2:2。残りの4はスターゲートハイウェイの諸問題に対応する為の基金として積み立てられている。
これがどれほどの額かと言えば、“首座の眷族”と“獣の眷族”は自領域にある出口を自文明の正規艦隊で警備しているが、その費用を基金から捻出しても黒字という程だ。
しかも設置されるスターゲートは、これから更に増える。以前の会談で製作者である篠ノ之束博士は、新たに設置できる数は10や20ではない、という発言をしているのだ*1。
この発言は銀河に広く拡散していき、結果として様々な文明から様々な要望が、いつもの会談へと届けられていた。“首座の眷族”の大使アラライルや“獣の眷族”の大使スノーの元に上がってきたのではない。この2人より更に上のルートから下りてきた話だ。
他の文明の上が動いて、本格的な外交ルートを使ってきたのである。
従って相応の対処をする必要があり、結果として今回のいつもの会談は、いつもと同じではなかった
いつもは地球文明圏にのみリアルタイム配信されている会談で、スターゲートハイウェイ開通時は特別に3文明に配信されていたが、今回は要望を伝えてきた他の文明にも配信されているのだ。しかしこの場に他の文明の代表者がいないのは、束がスターゲート製造を一手に担っているという強みを最大限に使い、「無理矢理乱入してくる気なら、こちらにも考えがあります。それが嫌なら、まずはアラライルさんとスノーさんに要望を伝えて下さい。2人から話を聞いて、検討して、それからです」とハッキリ主張したからだ。
これは“首座の眷族”と“獣の眷族”にとって大変好ましい対応であり、同時にこのお陰でスターゲートハイウェイに関する交渉で主導権を握れるようになったが、相手がそう簡単に引き下がる筈もない。両文明の外交は、全方位で極めて活発化していた。あらゆる物事が交渉材料として使われるギリギリの交渉だ。
何処の文明にとっても、スターゲートハイウェイに接続しているか否か、或いはどんな順番で接続されるかで今後の方針が変わってくるのだ。グレーゾーン、或いはブラックな行いも含んだ本格的な交渉である。
この結果生まれた膨大な量の情報を取捨選択して束に伝えなければならないアラライルは、普段の飄々とした雰囲気とは違い、些か真面目な雰囲気になっていた。本人的に言った結果が目に見えている内容でも、束博士への窓口という立場でもある以上、伝えないという選択を出来ないのだ。出来るのは、言葉を選ぶくらいである。
スノーも状況的には同じであるが、彼女にアラライル程の経験値はない。ポーカーフェイスで取り繕ってはいるが、内心では相当に緊張していた。
そんな中で、束が口を開く。いつもと変わらない様子で。斜め後方に晶を控えさせて。
―――会談光景―――
XINN様より頂きました。ありがとうございます!!
―――会談光景―――
『少し思ったのですが、スターゲートの増設スケジュールは、もう少しゆっくりの方が良いでしょうか?』
配信を見ている全ての者が、「え?」となった。特に早期に増設して繋げて欲しい者達は。
2人が口を開く前に、束の言葉が続く。
『いえ、御二人には私が出来ない様々な事をお願いしていますが、そのお陰で関係者を含めてかなり大変な様子。少しゆっくりにすれば、苦労も少しは減るかと思いまして。ただ早期の開通を期待してくれている方も沢山いると思いますので、御二人の御意見はどうでしょうか?』
これは束からの気遣いであった。何故なら前述の通り地球は、スターゲートハイウェイの接続に関する交渉の一切を“首座の眷族”と“獣の眷族”に任せている。両文明の仕事量が膨大になるのは当たり前だ。
なので遠回しに、様々な要望を言っている者達に言ったのだ。余り無茶ばかり言うようなら、繋がるのが遅くなりますよ、と。スターゲート製造の全てを担う束にしか言えない言葉だろう。
2人は束の意図をほぼ瞬時に理解して、アラライルが先に口を開いた。
『お気遣いありがとうございます。ただ、スケジュールは今のままで良いでしょう。自文明を思う余り熱心な行動をしているところもありますが、束博士の意向を無視してまで、という事もないでしょう』
スノーが続いた。
『そうですね。むしろ束博士が何処に繋ぎたいか、という事を聞かなければいけませんね。交渉を任せてくれているのは信頼の証として嬉しく思いますが、本人の意向というのも大事ですから』
束の言葉のお陰で、2人は面倒なしがらみを余り気にする必要が無くなった。無茶を通そうとすれば開通が遅くなるという爆弾が設置されたからだ。
そして問われた当人は、嬉しそうに話し始めた。
『何処にと聞かれると難しいですが………』
見たいものなら沢山ありますね、と前置きして言った場所は所謂珍しい天体がある場所だった。ガラスの雨が降る惑星、アマゾン川の1億倍もの水を時速約20万キロで放出している惑星、光を殆ど反射せず真っ黒に見える惑星等々。宇宙に強い興味を持つ束博士らしい“見たいもの”と言えるだろう。だが銀河系の星系図と各文明の領域図を覚えている者はすぐに気付いた。今上げられた惑星はいずれも、“首座の眷族”か“獣の眷族”の領域に属している。またアラライルとスノーは別の視点で気付いた。今上げられたのはいずれも、以前優先的に開通させたいと伝えていた星系の近くだ。
会話の流れで、スノーが先に乗った。
『博士のご希望とあれば、考慮しない訳にはいきません。アラライル大使はどうですか?』
『同じくですね。幸い今仰った場所の幾つかは、主な航路が近い場所でもあります。一考の余地はあるでしょう』
一考の余地など、言葉の綾でしかない。スターゲートハイウェイ最大の功労者が、その収益の全てを独占出来るにも関わらずしなかった者が、ただ純粋に見たいものがあると言ったのだ。協力するのが筋だろう。
この筋書きにより、他文明からの外交攻勢は一時的に落ち着く事になる。しかし、すぐに別の手を打ってくる事は明らかだった。スターゲートハイウェイを自文明に繋げられるか否かで、移動という一面において明確な優劣がついてしまうからだ。
◇
数日後。
地球の内政を担当するカラード副社長のセシリアは、各国から上がってきた話に良い顔をしなかった。地球の現状として
「―――という訳で各国から支援要請が来ていますが、却下しようと思っています」
社長室でセシリアが溜め息混じりに伝えると、晶の返答は彼女が予想した通りだった。
「それで良い。ウチに頼れば何でもしてくれる、なんて思われちゃ困る」
「本当にです」
統一政府として着々と基盤を固めつつあるカラードの内政方針は、“税金は取らないから自分達の事は自分達でやれ”というものだ。普通は無理だろう。政府にとって税金と財源はイコールであり、財源の無い組織などハリボテと同じである。しかしカラードは違う。エネルギーや情報インフラを始めとする様々な事業によって築かれた、圧倒的に強固な財政基盤がこの方針を可能としていた。
そして税金を取らないという方針にした理由は、財源があるから優しくしてやろう、等というものではない。もっと現実的なものだ。仮に税金を取って元々あった国の形に介入した場合、或いは形を変えようとした場合、人的な意味でもコスト的な意味でも大変な事になる上に、反発感情というのを避けられないからだ。強行した場合、カラードは発生する諸問題に行動リソースを瞬く間に食いつくされるだろう。また税金を徴収した後、問題に対して有効な手を打てなかった場合、指導力に疑問符がついて付け入る隙を与えてしまう。このため国を独立採算制の州のように扱う事で、内政にかかる労力を軽減していた。身も蓋も無い言い方をしてしまえば、“金を貰ってないので義務も無い”である。
尤も束と晶の本音としては色々作り直したいので、契約による有償サービスで徐々に変えていってる部分もある。しかし一気には出来なかった。独立性を尊重している以上、強引な介入は逆効果だからだ。下手をすると一般市民の生活が混乱、政情不安に発展して宇宙進出に影響が出てしまう。
例外は大規模介入している5つの紛争地域―――アフガニスタン紛争、シリア内戦、クルド対トルコ紛争、リビア内戦、イエメン内戦―――で、この地域は社会制度そのものを一から再構築していた。長年に渡る紛争で社会制度そのものが崩壊していたので、再構築しなければ政情不安の元になって介入した意味が無くなってしまうからだ。そしてこれらの地域を経済活動が行える程に安定させたセシリアの手腕は、国際社会で極めて高く評価されていた。今では彼女の言葉無くして、国際問題は語れないと言われているくらいだ。また介入した地域のメインストリートには彼女の大きな肖像画が飾られており、尊敬の対象となっていた。本人としては銅像を却下したら肖像画が出来ていたという、訳の分からない状況だったようだが………。
―――閑話休題。
この方針は各国も理解しており、国の独立性が尊重されるなら、という事で受け入れられていた。にも関わらず支援要請が来た理由は、スターゲートハイウェイの莫大な収益―――正確には積み替え用ステーションの運用で得られる収益―――が地球人類にも知られてきたからだ。何せ3つある直径十数キロサイズの積み替え用ステーションが全てフル稼働していても全く足りず、早々に7つの追加建造が決定された程だ。しかも現時点で、全ての賃貸スペースに対して利用申請がある。
更に言えば、今後スターゲートが増えるのは既定路線であるため、交通量も利用者数も右肩上がりで増えていく。必然的にステーションが追加で建造されていくのは想像に難くない。
地球という一惑星の経済規模では、不可能と言える程の莫大な収益が生み出されるのは確実であった。
その収益を見込んでの支援要請である。
尤も晶やセシリアからしてみれば、ふざけるなという話でしかない。各国の統治機構はそのままなのだ。税収があるなら自分達で何とかしろ。紛争が減っている今なら、色々と余裕もあるだろう。
また現実的な問題として、スターゲートハイウェイで莫大な収益があったとしても、
晶はこうした様々な事情を思い浮かべた後、ふと思った。
支援という餌をチラつかせて馬車馬の如く働かせたり、非効率的な部分を自分達の手で修正させたりは出来ないだろうか? 前者はやり過ぎると大変な事になるが、後者は割とアリではないだろうか?
晶は思いついた事が出来るかどうかを確認する為に、空間ウインドウを展開して幾つかのデータを表示させた。
それを見たセシリアが尋ねる。
「どうしましたか?」
「いや、ちょっと思いついた事があってさ。政策提案サービスの利用状況と各国の現状を合わせて見てみたんだ」
政策提案サービスとはカラードが提供しているサービスの1つで、国家という巨大な存在の全体像を把握して、効率的に動かしていく為の政策を提案するものだ*3。AIによって提示される内容は1ヵ国につき概ね3パターン。高い改善効率だが反動の大きいAパターン。改善はするが多少の反動が予測されるBパターン。大きく変わらないが改善効率も少しだけのCパターン。いずれのパターンにおいても、人が検討して改善出来そうな項目が幾つか残されている。人が自ら考え選んだと誤認させるためだ。
晶はセシリアの前にも同じ空間ウインドウを展開して続けた。
「例えばの話だけどさ、Cパターンで動いているところに、Bパターンを実行するなら助成金出すよ、だったら色々改善できないかな?」
「なるほど。悪くないとは思いますが、貰う方はいつまでも貰いたいものですから、終了条件ないし打ち切り条件は始めから厳格に決めておくべきと思いますわ。後から聞いていないなんて言われてはたまりませんから、事前説明も入念に」
「そうだな。あとは年度単位での成果報告を必須として、改善が見られないならやる気無しと判断して打ち切りって条件も加えておこうか。まぁ時間が必要な事もあるから、1~2年の猶予期間は設けてもいいかもしれないが」
「では、その案をベースとして検討しますわ」
「頼む」
今のセシリアに、細かい事をアレコレ言う必要は無い。これまでの働きで十分に、
只、将来を考えれば不安もある。彼女の能力にではない。彼女をサポートしている秘書課の面々にでもない。純粋に仕事量の問題だ。というのも今の地球の情勢として、国連が解体されて組織再編が進んでいる最中なのだ*4。解消する問題。新たな問題。色々とあるだろう。その全てにカラードが関わる訳ではないが、仕事量が増えるのは間違いない。
如何にISの思考加速を用いて素早く判断や決断が出来たとしても、強化処置を施された秘書課の面々が効率的に仕事を行えたとしても限度がある。
なので晶はセシリアの負担を軽くする為にも、ある程度の仕事を勝手に行ってくれる組織が必要だと思い、この話題を切り出した。
「ところでセシリア。手足にできる外部組織ってあったら、上手く使えそうか?」
「突然ですわね。どういう事でしょうか?」
「いや、お前も、お前をサポートする秘書課の面々も結構な量の仕事を抱えてるだろ。その中で重要度の高くないものを処理してくれる組織があれば、負担も減らせるんじゃないかと思ってさ。幸いというか、今は国連が解体されて組織再編中だ。こっちが方向性を示せば、相応の人材は獲得出来るんじゃないかと思ってる」
セシリアは数瞬考えた後に口を開いた。
「確かに国連組織の中でも有益な組織というのはあります。それらを吸収する、ということですか?」
「吸収というよりは使えそうな人間をスカウトして、統一政府の実務組織として作り直す感じかな」
「でしたら私の手足とするよりも、委員会の下にしてくれた方が負担は減ると思いますわ」
「ただそれだと、国連の二の舞にならないかな」
委員会―――正式名称“星間国家の在り方を検討する委員会”―――は、今後間違いなく参加国が増えていく。必然的に国連と同じ問題を内包する事になる。晶はそれを心配していたが、セシリアの考えは違っていた。
「大丈夫でしょう。委員会は貴方がしっかり抑えていますもの。その貴方の意向を無視して、好き勝手出来る者がいるとは思えません」
「そうかもしれないが、委員会を通す以上、他人の意見で修正しなきゃならない場合が出てくる。実行にだって時間が掛かるようになる。お前の手足とした方が確実だと思うんだが」
「やり易さという一点だけで見ればそうかもしれませんが、手足にするという事は必然的に上がってくる情報も増えて、抱え込む案件が増えかねません。それに私、貴方と束博士を見て学んだのですよ」
「ん? 何をだ?」
首を傾げる晶に、セシリアはニッコリ笑って答えた。
「他人に振れる仕事は振らないと、いつまで経っても仕事が減らないということです。だから再編中の国連の方々を引き抜いて、適当な組織の枠組みを作って、役割を与えて、あとは自分達の星なのですから、自分達でやりなさい、という形にしようかと。で、どうしても解決し辛い問題のみ、こちらで引き取って判断していきたいと思いますわ」
つまり選択と集中という訳だ。
「なるほど。よくよく考えれば、そっちの方が良いか」
「でしょう」
この時の会話が元になった内政方針は後日、束と晶の会見で発表された。
カラードの下に委員会があるのはこれまで通りだが*5、委員会の下に再編された各組織が付けられたのだ。そして再編された組織が担う役割は元となった国連組織とほぼ同じだが、実行組織として再編されている点が明確に異なっていた。
例えば
しかしこれだけでは、国連と同じ問題を内包してしまう。如何に形が立派であっても活動資金を分担金に依存してしまえば、活動資金を交渉材料とした横槍を避けられない。
なので2人は活動資金の全てを、カラードから出す事も合わせて発表していた。意図を察した各国が慌てて資金拠出を表明したが、後の祭りだ。2人は「寄付なら大歓迎です」と一蹴したのだった。
―――後の歴史家は語る。
この内政方針の発表こそが、統一政府の雛型と言われていたカラードが、本当の意味で統一政府として歩み出した瞬間であったと。
◇
一方その頃。
スターゲートハイウェイの開通によって影響を受けた者達が会合を開いていた。星間ネットワークを使った多人数同時通信だ。
顔ぶれも多様で、ヒューマノイドタイプもいれば、非ヒューマノイドタイプもいる。仮にこの場に地球人がいたとしたら、蟻のような顔をした者や竜のような顔をした者がいる光景をどう思うだろうか? 友人になりたいと思うか気味が悪いと思うかは、その人の感性によるだろう。
そして全員の前に、スターゲートハイウェイの模式図が映し出されていた。
月の周囲にある11個のスターゲート。3つの稼働中の積み替え用ステーション。追加建造中の7つのステーション。スターゲート間や積み替え用ステーションを繋ぐエネルギーシールドで作られたトンネル状の道。大量に配備されているステイシス装置やワープ妨害装置。船の応急修理を行える全長10キロメートルサイズの巨大な双胴艦。月の北極に配置されているアンサラーは、今後同型が南極にも配備予定だという。
すぐ近くには交通量も表示されていた。まだ開通して1ヵ月程度だが、24時間あたりの往来が1万隻を超えている。
表示されている模式図が縮小され、出口も含めたものに切り替わった。
現在繋がっている先は、“首座の眷族”に4ヶ所、“獣の眷族”に4ヶ所、地球文明がテラフォーミング中の惑星に3つ。“首座の眷族”と“獣の眷族”側の出口では、正規艦隊による治安活動が行われている。
高レベルの安全が確保されている、というのも利用者数が増える大きな要因だろう。
参加者の1人が口を開いた。
『篠ノ之束博士は、政治家としての才もあるようだな。まさか先に先延ばし案を提示してくるとは』
この場にいる者達の当初の考えとしては、“首座の眷族”の中央と“獣の眷族”の王家を外交ルートで動かして、スターゲートハイウェイの出口の設置計画に干渉する、というものだった。この場にいる者達が所属する文明の統一政府も乗り気であったし、
そして一度外交テーブルに話が乗ってしまえば、後は交渉次第で食い込んでいける………という目論みだったのだが、篠ノ之束博士は話が切り出されてテーブルに乗る前に潰してきた。出口設置に関する仕事が大変そうだから、等という相手を気遣うような建て前で、計画遅延というカードを切ってきたのだ。
確かに物事の極々一般的な道理として、要望を出せば調整内容が増え、結果として仕事が増えるというのは間違っていない。文明間のものとなれば尚更だろう。篠ノ之束博士はそこを突いて、余計な口を挟んで仕事を増やすようなら後回しにする、と釘を刺してきたのだ。小賢しい。
またこの発言のお陰で“首座の眷族”と“獣の眷族”は、他文明に対して強気な交渉が出来るようになっていた。何せスターゲートの製作を一手に担う者が、“手間をかけさせるようなら遅くする”と言っているのだ。出口の設置交渉を担う側として、これほど強気に出れる免罪符はない。
暫しの沈黙の後、別の者が口を開いた。
『今後は我々も、スターゲートハイウェイを使おうと思っている。出口設置への干渉が難しいだけで、航路が使えない訳ではないからな』
『我々もだな。スターゲートハイウェイそのものの治安、出口周辺の治安、どちらも悪くないなら使うに値する』
この後も同じ方針が続々と表明されていく中、待ったをかける者達がいた。これまで航路を提供していた者達だ。
『そう急がずとも良いのでは? 辺境の蛮族が用意した航路など、何があるか分からないでしょう』
『その通りです。それに整備された航路の方が、もし何かあっても素早く対応できます。船の故障然り、不埒者への対処然り、使える航路とはその辺りも含めてのことでしょう』
この言葉には異論が唱えられた。
『旧式とは言え巨大整備艦を運用して、首座と獣に中古船を卸しているだろう。以前見たところ品質は最低限だったが、一応の修理は行えるようだぞ』
地球時間で約1年程前に始まった中古船の修理事業*6は、他文明にも伝わっていた。現在の評価として売り物にするにはお粗末なレベルだが、始めから最低レベルと言われているなら納得、というところだった。壊れかけには壊れかけなりに使い道があるのである。
『アレを基準にするのは幾らなんでも。整備された航路なら、より確実に素早い修理が行えるでしょう』
『確かにそうだな。だが、地球側もそれは分かっているようだぞ』
全員の前に、新しい情報が追加表示された。
カラードが
それによれば整備艦で行う修理は応急処置レベルと始めから明言されているが、航行不能な程の損傷を受けている場合は、“首座の眷族”か“獣の眷族”から修理チームを派遣して貰う事も可能となっていた。無論別料金となっていたが、地球が
既存航路の使用を訴えた者は内心で毒づいたが、顔には出さず続けた。
『なるほど。ですが不埒者への対処はどうでしょうか? 確かに首座と獣の正規艦隊が出口周辺を警備していますが、スターゲートハイウェイ本体のある月には防衛艦隊が存在していない。更に言えば地球文明には十分な艦隊を組織するだけの力がない。カラードが強力なのは認めますが、アレは超少数精鋭だからこそ可能なものでしょう』
この者はどうにかしてスターゲートハイウェイを、使うに値しないというイメージを皆に持たせたいようだった。立場を考えれば必死になるのも分かるが、異論を唱える者とて感情論で言っているのではない。事実は事実として言っておかなければ、自勢力の中で自分が無能扱いされてしまう。
だからこそ口を開いた。
『“首座の眷族”と“獣の眷族”の大使館がある目の前で、ですか?』
前者は
この言葉がダメ押しとなって、会合の意見はスターゲートハイウェイの活用へと傾いていく。そしてこの会合自体は、特別なものではない。地球風に言えば、只の利益団体の会合だ。集団で物事を進めていく時に、地球でも
自分達がより豊かに、より利益を得られるように舵を切っていっただけのこと。
だから、誰かが何かを企んだという訳では無かったのだ。
時代の流れとしてこれまで栄えていた航路が寂れ、往来が少なくなったという理由で治安維持の労力が削られ、結果として不埒者が流入して、治安の低下した宙域が出来て、その影響が波及していった。言葉にしてみれば、たったこれだけのことだ。
無論、
ランクC文明とは母星のある星系の外縁部付近まで開発が進んでいるレベルで、ランクB文明とは幾つかの星系にまたがる星間国家が樹立しているレベルだ。因みにランクAの条件はBの条件にプラスして、銀河惑星連合でも影響力が広範囲に及ぶレベル、というのが追加されている。このためAとBの間、BとCの間には、時間にして数百年では利かない程の差があると思って良いだろう。
―――閑話休題。
対処失敗による犯罪数の増加“だけ”であれば、どれだけ良かっただろうか。
銀河辺境が燃え上がる最初の切っ掛けは、とある宇宙港の入港管理者が宇宙海賊と結託して、小金を稼ぎ始めた事だった。1つの嘘を隠す為に10の嘘をつき、10の嘘が露見する恐怖から言われるがままに入港データを不正に書き換え、真相に気付きかけた同僚の成れの果てを見せられた。
恐怖で心を縛る。次に適度な飴を与える。これで都合の良い木偶人形の出来上がり。地球でも
そしてこの者は海賊に言われるがままに、決してやってはいけない事をやった。
入港管理者という立場を使って、港に届いたSOS信号を訓練用のSOS信号と偽って握り潰したのだ。
この者は真実を知らないが、恐らく海賊に襲われた不幸な輸送船の一隻程度に思っていただろう。しかし握り潰したSOS信号は、他文明の大使を乗せた船からのSOS信号だった。
少しでも政治に理解のある者なら分かるだろう。大使を乗せた船が、他の領域で行方不明になる事がどれだけ拙いか。
結果として助けは来ず、船に搭乗していた人員は残らず連れ去られ、あらゆる方法で吸い上げられた情報の中には当然のように機密データもあり、“信用”や“信頼”の名の下に知らされていた情報もあった。それらが全て悪党の手に落ち、悪用されたのだ。
長年の交流によって築き上げられた友好関係にヒビが入り、芽生えた相互不信が小さな火種となり、数多の思惑という燃料が焚べられていく。
数年前であれば、地球は無関係でいられただろう。
しかし今の地球は、良くも悪くも有名過ぎた。
巨大な流れに、否応なく呑まれていくのだった――――――。
第221話に続く
新章になったという事で、本格稼働し始めたスターゲートハイウェイの現状解説。
作中で出てきた数字は現在のスターゲート数から出たものなので、増設されたらもっと増えるでしょう。
更に統一政府の大枠が出来るところまで、ようやく辿り着きました。
まだまだ改善改良の余地が沢山ありますが、後は優秀な一般人に放り投げて、おかしな事をやり始めたら「ダメだよ」と優しく(?)諭してあげようと思います。
そして章のタイトルにもなっている争乱の火種。
辺境の蛮族地球人の活躍を書きたいです。