インフィニット・ストラトス ~迷い込んだイレギュラー~ 作:S-MIST
月の整備艦と言えば、カラードが保有する全長10キロメートルサイズの巨大な双胴艦だ。束と晶が
発見当初は本当にボロボロで酷い姿だったが、キャロン*1率いるメカニックチームの頑張りと“首座の眷族”が修理に協力してくれたお陰で、今では
尤も、完全復旧した訳ではない。外装こそ綺麗に直っているものの、修理機能の稼働率は50%程度に留まっている。更に言えば、
しかし、今の地球にとっては十分であった。
そんな重要拠点となっている整備艦の格納庫で、キャロンは長方形状の中古輸送船を眺めながらフワフワと浮かんでいた。
(これを、どういう風に改造していこうかしら?)
居住区画にあるオフィスルームで考えていても良い案が浮かばなかったので、改造元となる実物の中古船を見に来たのだが、やはり良い案が浮かばない。
―――火力投射用ウェポンプラットフォーム要求仕様―――
・空間潜行しているアリコーンの火力投射用。
・操艦は遠隔操作で行う。
・高いハッキング耐性。
・戦艦級数隻を確殺できるだけの火力。
・潜伏中に探知されないステルス性。
・鹵獲されても疑われないように流通量が多い中古船を使用。
・鹵獲対策として自爆機能搭載。
―――火力投射用ウェポンプラットフォーム要求仕様―――
万一鹵獲された時の為に、流通量が多い中古船を使って疑われないようにするのは良い。しかし問題は、求められる火力だった。
眼下の中古輸送船を見てみる。
船体の形状は全長400メートル程度の長方形で、前3分の2が格納庫、後ろ3分の1が推進機関やブリッジなどの居住区画といった作りだ。格納庫にミサイル本体と発射装置、照準用センサーを付けて、発射する向きはどうしようか? 船体の上下に発射口をつければ同時発射数は稼げそうだが、ミサイルの軌道が上下の迂回軌道になってしまうため着弾に時間がかかってしまう。速やかな確殺を目的とするなら、着弾が早くなる船体正面に発射口を付けるべきだろうか? ダメだ。それだと上下に発射口を付けるのに比べて同時発射数が稼げない。10発のミサイルを連続して放つのと10発のミサイルを同時に放つのでは、最終的な火力投射量は同じでも、攻撃にかかる時間は前者と後者で10倍だ。
何か良い方法は無いだろうか? 速やかに高火力を叩き込む方法………………暫し考え、キャロンは閃いた。
逆転の発想だ。発射口からミサイルを発射する必要なんてない。格納庫ごと開いて、全てのミサイルを対象に直接向ければ良いのでは? そう、宝箱を開くように上下にパカッと。 思いつきだが良いかもしれない。戦闘中の再装填は難しくなってしまうが、使用目的を考えれば瞬間火力の方が大事だろう。
そしてこの方法なら、火力に関する改造をするのは殆ど格納庫だけで済む。機構も簡略化出来るから、労力も少なくて済みそうだ。
脳裏に簡単な図面を思い浮かべてみるが、恐らく破綻はしていない。
(………うん。良いかも)
火力投射方法の方向性が決まったので、次にステルスについて考えてみる。現時点で“RAIJIN”の光学迷彩*3を転用する事が決まっているが、本当にそれだけで良いだろうか? アレの性能は偵察衛星の高密度探査やISのセンサーを誤魔化せるほどではないのだ。
しかし、そんな時間は無い。潜行戦隊には、いつ・どんなミッションが下されるか分からないのだ。今使える物とアイデアでどうにかするしかない。
ここで、キャロンは思った。
(最新技術じゃどうやっても勝てないんだし、いっそのこと思いっきり原始的な手段を使ってみようかしら? 例えば、そう、変装みたいに被り物をするとか………)
何となく頭の中に浮かんだイメージは、改造した中古輸送船の周囲を岩石で覆って小惑星に偽装する、というものだった。長方形の船体が楕円形になるくらいに岩石をゴテゴテと張り付ければ、センサーでスキャンされても小惑星と判定されるのではないだろうか?
(………意外と悪くないかも?)
疑われない形状というのは大きな利点の筈だ。更に考えを進めていく。岩石を1つ1つ毎回外部装甲に盛り付けていくのは流石に手間なので、岩石を盛り付けた追加装甲のような物を作っておくのはどうだろうか? 例えば船体の上下左右を完全に覆う盾のような外部装甲を準備して、その表面に予め岩石を盛り付けておく。そして潜伏場所に到着したら前後も覆って小惑星に擬態………。周囲の状況確認はアリコーンの観測ユニット*5で行うようにすれば、小惑星に擬態させた船は自発的に索敵を行わないで済む。イコールそれだけ発見される確率が減る。
(うん。この方向でやってみようかしら)
こうして考えを纏めたキャロンはオフィスルームに戻り、“ミミックボックス”という開発ネームで中古輸送船の改造計画を練り込み始めたのだった。
◇
一方その頃。
黒ウサギ隊パワードスーツ部隊の面々は、キサラギから送られてきた新型パワードスーツの慣熟訓練の真っ最中であった。
型式番号はXFJ-01。日本名は
名前こそ旧型の不知火やその改造機である
他国最新鋭機と同等以上の運動性や機動性、稼働時間の最低30%以上の増加、最大兵装時の運動性低下率の局限だけではない。アーマードコア技術の転用により防御スクリーン*6が常時稼働可能となり、耐久性が飛躍的に向上しているのだ。
更に頭部には最新のアクティブ電子走査レーダーと複合センサーが搭載され、索敵・目標補足能力も強化されている。
機体色は黒ウサギ隊のイメージカラーである黒だ。
そんな
「アフターバーナーON」
機体補助用のAIが無機質な音声で答える。
「アフターバーナーON。跳躍ユニット臨界点へカウントスタート」
視界の片隅に21と表示されて減少開始と同時に、腰部左右にある跳躍ユニットから膨大な推力が吐き出され、速度計の数値が瞬く間に上昇していく。450……500……550……600……AIが告げる。
「跳躍ユニット臨界点到達。加速終了」
強烈な加速が緩むと同時に、予定時間内に指定座標に到達出来た事を確認する。そこでアリーセは周囲を警戒しながら、内心で素直にキサラギの連中を褒めた。
パワードスーツはISの下位互換という位置付けで、スーツという名の通り人が着込むタイプの人間サイズの兵器だ。本機は黒ウサギ隊配備機という事でアップグレードされているが、基本的に量産が前提の機体で、よくこれだけの性能を………驚嘆という他無い。
同時に軍人としての思考で、このクラスの機体を大量に集めればISにも勝てるのではないか、と考えてしまう。例えばキルゾーンを構築しておいて、誘い込んで緻密な戦術を駆使したらどうだろうか? 少し考えてみるが、結論は不可だった。カラード本社直属のISパイロット達*8は腕利き揃いである上に、束博士がサブジェネレーターとカートリッジシステムを実用化した為、今と昔では機体出力の桁が文字通り違うのだ。お陰で機動力、防御力、攻撃力、あらゆる性能が段違いになっている。
尤もサブジェネレーターとカートリッジシステムはカラード本社直属機にしか搭載されていない為、一昔前のISの性能に溺れたパイロットが相手ならチャンスがあるかもしれないが、それでもISとパワードスーツの差は果てしなく大きい。身近にいるからこそ良く分かる。パワードスーツのみで戦うなら、幸運に幸運が重なって、更にもう2~3回幸運が重なってどうにか、というところだろうか?
こんな事を考えていると、衛星軌道で待機しているアリコーンから通信が入った。
『アリコーンから各機へ。全訓練項目の終了を確認しました。皆さんお疲れ様です』
今回の訓練は全2フェイズで構成されていた。全ての行程でJIVESが使用された本格的なもので、フェイズ1がオービットダイブでの惑星降下から、これまで
アリーセが単独行動していたのは増援によって味方と分断されてしまった為だが、どうにか撒いて指定座標に到達する事が出来た。後は回収艇の到着を待つばかりなのだが………続いて聞こえてきた通信内容は、カラードらしい、否、社長好みの鬼畜なものだった。
『――――――ではなく、連続ミッションです。隊員1人につき
ミッションデータが更新され、
別のポイントにいる部下達が文句を垂れ始めた。いや、悲鳴か。
『援軍ありなのは嬉しいけど、キツイですって』
『やっばぁ。私、推進剤半分切ってるんだけど』
『こっちは残弾1/3』
『長刀しか残ってない………』
他にも色々聞こえてくるが、いずれも似たり寄ったりだ。しかし1つだけ部下達を褒めたい事があった。機体そのもののステータスはグリーンということだ。これなら交戦中の補給さえ上手く出来れば、まだどうにかなる。交戦中の補給という行為そのものが非常に難しいのだが………。
アリーセは全員に通信を繋いだ。
『文句を言っても仕方がないわ。
全員の脳裏に、かつての訓練が過ぎる。アレに比べれば大体の状況よりはマシだろう*10。
『まさか』
隊員の1人が答えると、他の者達も続いた。やる気溢れる言葉が次々と出てくる。
こうして黒ウサギ隊パワードスーツ部隊の面々は、火星の赤い大地で慣熟訓練を行っていったのだった。
◇
慣熟訓練後、黒ウサギ隊パワードスーツ部隊の面々はアリコーンの格納庫で死屍累々となっていた。
あの後、敵の増援が3回あって結局全滅判定を喰らったのだ。
仮にも特殊部隊の面々が精根尽き果てた様子で、言うなれば陸に打ち上げられた魚といった様子でピクピクしている。
全員見目麗しい女性かつパイロットスーツは
そこに、今回の訓練に同行していたラウラがやってきた。部門長として色々仕事のある身だが、今回の訓練は直接視たいという事で同行していたのだ。
全員がノロノロと立ち上がり始める。上官を迎えるのに倒れたままなど有り得ない。だが、ラウラはそれを片手で制して言った。
「無理をするな。そのままで良い。まずは良くやったと言わせて貰おうか。結果は全滅判定だったが、保持時間28分。あの物量を相手に、あそこまで粘れるとは私も思っていなかった。日頃の訓練は十分身になっていると言えるだろう」
全滅判定なので叱責を覚悟していた面々だが、思いのほか優しい言葉に一瞬拍子抜けしてしまう。だが続けられた言葉は、全員を地獄に突き落とすものだった。
「しかし、だ。こうも思ってしまうのだ。改善の余地はありそうだな、と。――――――喜べ。お前達が機体の性能を100%引き出せるように、織斑教官の訓練を手配してやろう。安心しろ。織斑教官には同じ弐型を使ってもらえるように頼んでおいてやる。同じ機体なのだから、パイロットの能力次第ではどうにかなるぞ」
アリーセは思わず挙手をして発言許可を求めた。
「なんだ? 言ってみろ」
「な、内容はどのようなものでしょうか」
ラウラはとてもイイ笑顔で言った。
「以前やったのと同じだ。8時間耐久で、どんな方法を使っても良いから教官にダメージを与えれば良い。強敵と戦い続ければ、挙動も自然と磨かれるだろう。あと
「りょ、了解です」
この時、全員の意識は織斑千冬に対してどのように戦うか、という事に向けられていた。発生するかもしれない、内容も分からないような突発イベントに意識を割いている者はいなかったのだ。また織斑千冬という分かり易い強敵に意識が向いていた為、
しかし後日のこと。全員が知る事になる。正しく調整された
◇
数日が経過した頃。キャロンは火力投射用ウェポンプラットフォーム、開発ネーム“ミミックボックス”の設計図を書き上げていた。無論、船体設計を一から書き上げた訳ではない。
それでも数日で書き上げ、コアネットワークで説明するところまで漕ぎ着けられたのは、ISの思考加速あってこそである。
(――――――という感じで考えてみたのですが、どうでしょうか?)
相手は社長である晶、戦闘部門長であるラウラ、コレを使う事になる潜行戦隊の面々だ。
ネットワーク上に“ミミックボックス”の設計図が展開され、各々が確認している。
まず、ラウラが口を開いた。
(要求仕様通りとは言え、随分と思い切ったな)
(それはもう。アレもコレもと手を出して要求仕様を満たせるほどの技術力はありませんので)
“ミミックボックス”は戦闘艦というよりも、キルゾーンに嵌めた相手に如何に短時間で全火力を投射するか、という事に注力した設計となっていた。
船体前方にある格納庫を改造して「く」の字状に開くようにする事で、格納庫に満載しているミサイル全てが、物理的に正面を向くようにされているのだ。これによりミサイルの射出軌道は直線となり、かつ格納庫が開かれた時点で全弾が発射状態となっているため、時間単位あたりのミサイル投射能力はアリコーンの5倍。240発の斉射が可能となっている。
ただし改造リソースのほぼ全てをこの機能の実現に投入したため、航行速度は遅く耐久力も低い。潜伏に失敗した時点で、射的の的と大差無いだろう。
そして潜伏能力については――――――。
(潜伏方法も思い切りましたね)
口を開いたのは静寐だ。
(苦肉の策です。ですが疑われない事を第一要件とするなら、そう悪い手段ではないかと思います)
(確かに)
周囲に何も無い空間なら、光学迷彩で良い。地球の技術が優れている訳ではないが、
今度は清香が口を開いた。
(今という話じゃないんですけど、将来的にミサイル艦じゃなくて砲艦に出来たりもしますか?)
(出来ますが、どんな理由からでしょうか?)
(この案はミサイルの発射軌道まで考えられていて良いんですけど、結局ミサイルじゃないですか。キャロンさんも元々テストパイロットだったなら分かると思いますけど、ミサイルは強力な反面対抗手段が多いんです。もし相手が元々ミサイル対策をしている艦だったら、240発の斉射でも残らず迎撃されるかもしれない。だからミサイルよりも相手に早く届く砲艦もオプションとして用意しておいたらどうかなって)
(なるほど)
納得したキャロンは、少し説明を追加する事にした。
(今回の改造ベースとしている中古の輸送船は、前2/3の格納庫と後ろ1/3の船体を元々分離出来る作りなんです。なので砲を積んだ格納庫を予め造っておいて、ミッションに合わせて換装するのはアリじゃないかと。ただ改造元が中古の輸送船である以上、相手を確殺可能な武装を搭載しようとした場合、問題になる事があります。エネルギーキャノンを搭載しようとした場合、どうやってもエネルギーが足りません。そして実弾を使う場合でも、旧来の砲弾の爆発力だけを使った加速では初速がそもそも足りないので電磁投射砲が候補に上がりますが、電磁投射砲はエネルギー消費が結構激しいんです)
(それって改造でどうにかなるのかな?)
(本格的な大改造を行えばどうにかなるかもしれませんが、その場合、鹵獲された場合に足がつくのは避けられないかと)
(了解。今は厳しいってことだね)
(はい)
ここで、晶が口を開いた。
(他に何か意見はあるかな? ――――――無いなら、キャロン。取り敢えずこれで1隻試作してみてくれ。それでテストしてみて、問題点を洗い出してみよう)
(分かりました。可能な限り早く仕上げます)
(頼む)
こうして月の整備艦で、中古輸送船をミミックボックスへと改造する作業が始まったのだった。
◇
更に数日後、カラードの会議室。
ラウラ、セシリア、シャルロットの3人は集まって意見交換をしていた。
これ自体は何も特別な事ではない。結構前から自発的に始めていた事で、軍事、地球の内政、宇宙開発という異なる視点を知る事で、カラードの安定的な運営に役立てようというものだ。
そしてこの意見交換により、リソースを投入するべき紛争とそうでない紛争、内政的に行って欲しい宇宙開発、宇宙開発を行うにあたり行って欲しい内政など、様々な情報が共有されることで行える事や行えない事、その時々の優先順位などが明確になり、結果として目的通りの効果を生み出していた。彼女達も成長しているのである。
因みにコアネットワークで行う事もあるが、全員が本社にいる時は顔を会わせて行うのが常であった。理由? 真面目な話の後は不真面目な話をしたくなるだろう。レディの嗜みとか。
だが今は真面目な話の真っ最中である。
「――――――という訳で今の地球情勢で大規模紛争の可能性は低いと思いますわ。ただ、1つ懸念がありますの」
「それは?」
セシリアの言葉にラウラが尋ねた。
「各国が保有している巨大兵器ですわ。あれって大規模紛争が無ければ無用の長物ですけど、簡単に廃棄なんて出来ないでしょう。廃棄の手間を惜しんだ者が裏に流さないとも限らないので、何か手を打っておきたいところなのですけど、妙案が思いつかなくて」
するとラウラは少しばかり考えた後、妙案を口にした。
「カラードで買い取って、宇宙用、いや他の惑星で活動出来るように改造したらどうだ?」
「改造して、どうするんですの?」
「いや、前々からホットドロップ戦術の時に取れる戦術の少なさが気になっていてな。カラードが単独で作戦を実行する場合、送り込めるのはアリコーン、保有している船、IS、パワードスーツ、ドローンくらいだろう。これだと戦術オプションとして少し心許無い。だが巨大兵器を直接地上戦力として送り込めるようにしておけば、桁違いの衝撃力だろう。いや、地上戦力という扱いじゃなくても、例えば、そうだな。例えば
セシリアが答える前に、シャルロットが賛成した。
「僕はアリだと思う。いや、実は宇宙開発の方で、調査する惑星の地上拠点をどうしようかっていう話が出ていたんだ。宇宙船をそのまま降下させても良いんだけど、船は降ろしたくないけど、地上には降りたいっていう場合もあるでしょ。その場合に安全性と居住性を兼ね備えつつ、調査用の機材も一緒に積める物を一から開発するのは中々………っていう話で困ってたんだ。けど、巨大兵器の積載量だったら全部解決できる。宇宙船には回収の時だけ降りてきて貰えば良いからね」
当然の話だが、
これにセシリアも続いた。
「カラードは新品で買うよりも安く必要な品が手に入る。相手は将来的な財政負担が減る。交渉する価値はあると思いますわ。ただ、買った品は何処に置きましょうか? ホットドロップで使う物を地上に置いておくというのも………」
しかし、
「一時的な保管なら月の整備艦でも良いと思うんだけど、あそこって宇宙人さんの船の応急修理したり中古船の修理事業で使ってるから、常態化するのは良くないんだよね。注目されてる場所でもあるから、下手をしたら、ううん。下手をしなくてもミッション情報を推測されちゃうかもしれない」
これにラウラが答えた。
「シャルロット。確か来月12個目のスターゲート開通に合わせて、晶と束博士が11個目の積み替えステーション用の小惑星を持ってくる予定だったな。その時に、追加でもう1個持ってきて貰えるように頼む事はできるか? いや、頼むなら言い出した私の方が良いか」
「どういうこと?」
「そのままの意味さ。
現在稼働している積み替え用ステーションが、どのように準備されたか知っているからこそ出てきた案であった。
そして仮に実現した場合の対応を、シャルロットが口にした。
「あと、配置場所はどうしようか? 流石に他のステーションと同じ月軌道に置いたら、格納庫の出入りからカラードの動きが推測されちゃう。私としてはL4かL5宙域が良いんじゃないかって思うけど」
L4宙域にあるのは複数の
L5宙域にあるのは宇宙農園のレンタル事業で使っている、十数キロから数十キロサイズの小惑星が複数だ。
セシリアが口を開いた。
「私としては、L5宙域の方が良いと思いますわ。小惑星同士で纏めておいた方が、色々と紛れ込ませやすいですから」
「私もそう思う」
「なら決まりだね。保管庫の配置場所はL5。―――じゃあ、みんなで晶のところ行こうか」
こうして申請された巨大兵器用の保管庫が認められた結果、破壊の権化として生み出された巨大兵器は戦闘以外の様々な事にも活用されていくようになった。ある程度の戦闘力と移動力がありつつ相応の人数と調査機材一式に加え、パワードスーツ等も纏めて運べる巨大兵器は、安全が確保されていない他惑星を調査するのに非常に使い勝手が良かったのだ。しかし最も活用されたのが、本来の使い方であるのは言うまでもない。本来移送に莫大な手間暇を必要とする筈の巨大兵器を、ホットドロップによってピンポイントで送り込めるという手札は、カラードの強力な戦術オプションとなっていったのである。
◇
更に数日後、黒ウサギ隊パワードスーツ部隊の面々は、ブリーフィングルームでテーブルに突っ伏していた。
「む、むりぃ。なにアレ………反則………」
「あんなのあり? 酷すぎない?」
特殊部隊である彼女らがこんな姿を晒している理由は、先日ラウラが言っていた織斑千冬との8時間耐久戦によるものだ。
使用機体は同じ
考えてみてほしい。最強の一角である織斑千冬に十分な火力支援がある状況を。しかも
黒ウサギ隊パワードスーツ部隊の面々にとっては、悪夢のような時間であった。
だが文句を言うばかりでは始まらない。彼女らはプロなのだ。気持ちを切り替えてデブリーフィングを始める。
「―――という訳で教官の機体挙動を見る限り、私達はまだ性能を活かしきれていない。旋回、捕捉、行動の緩急、基本ですがここを更に磨く事で、もう一段上にいけると思います」
別の隊員が言った。
「それもあるけど、ちゃんと調整された
そして
―――慣れれば誰でもこの位の調整は出来るぞ。*11
「部隊内で
「いえ、私達のミッションが基本的に高難度である事を考えれば、実働要員が減るのは良くないわ」
「でも私達の思い通りに動いてくれる
「そうよねぇ。社長が専属で作ってくれないかしら」
「流石に無理でしょ」
「分かってるわよ。あ、でも、
「改造ベースとしては使えると思うけど、ミッションに合わせた細かい調整は自分達で行えないと本当に有効な戦力にならないじゃない」
「あ、そうだよねぇ」
「でも個々人で頑張るってだけじゃ、正直どれだけやれるか分からないし………ん~、社長ってアレだけの調整が出来るんだから、週一とかで講義してくれないかな」
言った当人は苦肉の策のつもりだったが、これは地獄の蓋を開けるに等しい提案だった。
重度のフロム信者に好きな事を説明させるなど………賢明なレイヴンやリンクス諸君なら、どうなるか分かるだろう。
因みに更に後日のこと。
黒ウサギ隊の部隊名にちなんでバニーさんスタイルの集合写真だ。見目麗しい美女ばかりなので、非常に見栄えが良い。
なお敬愛する戦闘部門長様は断固拒否という事だったので、仕方なくISスーツ姿のバストアップ写真になっていた。ノリの悪さに隊員達は大ブーイングである。が、実は皆知っていた。戦闘部門長様は誰かさんにお熱で、そのせいか下着は昔と違いめっきりセクシー路線。同性ですらドキッとしてしまう程だ。
なのでセクシーなバニー姿は、誰かさんの前でだけしたかったのだろう事は容易に想像がついたので、強くは誘わなかったのだ。
―――黒ウサギ隊の悪ふざけ写真の1枚―――
XINN様より頂きました。ありがとうございます!!
―――黒ウサギ隊の悪ふざけ写真の1枚―――
第224話に続く
今後に備えてIS以外の強化回でした。
ミミックボックスがあっても宇宙戦力が足りないのは相変わらずですが、ACⅤ系の巨大兵器を他惑星に投入できる道筋が出来たので、パワードスーツと組み合わせて運用すれば、陸上の拠点制圧戦などもやれるのではないかと思います。同じ運用方法でギガベースとかもいずれ………。まぁ、宇宙の文明は技術力や生産力が桁違いなので油断は全く出来ないのですが。
後はUNACも本格的に投入開始。多分、晶くんはウッキウキのルンルン気分で上機嫌だと思います。
次回は恒例(?)のお正月回。