インフィニット・ストラトス ~迷い込んだイレギュラー~ 作:S-MIST
そしてキュピーンと閃きタイトルなお人を投入。
あと、今話で出ているカラードの社章、部門章、課章といったものは全てXINN様より頂きました。
ありがとうございます!!
細かい事はさておき、カラードの忘年会が大変華やかなのは周知の事実である。
となればメディアの常として、その様子を放送する為にレポーターを派遣するのは極々自然な流れだろう。
時刻は18時。
『お茶の間の皆さんこんばんは。“アースレポート・コーポレーション”*1突撃レポーターのケイト・マークソンです。今日はこの後19時から開催予定になっている、カラード忘年会会場のホテル前からお送りしています』
画面に映るレポーターは、最近人気の女性レポーターだ。
黒髪のセミロングで毛先を緑色に染めており、クールで知的な容姿に整ったスタイルとが相まって、非常に見栄えが良い。好んで着ている事が多いタイトスカートなスーツも品があって似合っている。だが彼女が人気な理由は、そこでは無かった。では何が理由かと言えば………ちょいちょいとやらかすのだ。
生放送で地面に躓いてズベッと転んで恥ずかしさの余り涙目になったり、同じく生放送で出演者にとってのNG事項をキレッキレな質問でブッ込んでみたり、視聴者からすると「こいつ今日も何かやるんじゃね?」というある意味出演するだけで視聴率が取れるネタキャラとなっていたのだ*2。
因みに極々一部の人間しか知らない事だが、彼女は束によってラナ・ニールセンの妹として製造されたアンドロイドである。外見のみならず内部構造まで極めて人に近いため、通常の検査で見破るのはほぼ不可能と言って良い精巧さだ。
そして製造目的は、人間社会の中で完全自律型AIを生活させる実験の第2弾であった。ラナ・ニールセンが傭兵としてだけでなく、モデルなど他者とも関わる仕事で予想以上の成果を収めたため、思考ルーチンが違うAI=性格が違うAIに、より人と関わるレポーターという仕事をやらせてみる事にしたのだ。
このため物静かな
尚、不慮の事故や束の手足として働く事態も想定されていたため、ケイトには2つのものが与えられていた。1つは束がスカウトした人材というアンダーカバー。“アースレポート・コーポレーション”で働くに辺り一般的な経歴は用意されていたが、それでは対処出来ない事態が発生した時の為の経歴だ。1つは万一の時の為の小道具。全身装甲型の専用IS“
―――閑話休題。
スタジオのアナウンサーが答えた。
『はい。今日は宜しくお願いします。早速ですがケイトさん。会場にはどんな人達が来ているのでしょうか?』
カメラがケイトの背後、ホテル前のロータリーに向けられると、一目でVIP用と分かるリムジンが並んでいる。そしてライトアップされている光景、ホテルドアマンの洗練された対応、リムジンから降りてくる正装の参加者、これらの生み出す雰囲気が視聴者達に御伽噺の夜会を連想させた。
『カラードに協力している
カメラの向けられた先には、リムジンから降りてくる美しい女性がいた。
燃えるような赤髪は激しい感情の持ち主である事を想像させ、緩やかなウェーブを描いて腰付近まで伸ばされている。対照的に美しいが感情を感じさせない表情は、冷静・冷徹・クール。そんなイメージを連想させた。ISの待機状態である青いフレームの眼鏡も、冷静というイメージを後押ししているだろう。まるで炎と氷を操る彼女の専用機“ヘル・アンド・ヘヴン”のような二面性だ。
スタイルも容姿に見合うもので、胸元や背中は露出をするのがマナーというイブニングドレスが大変良く似合っている。もしこの場に晶がいたら
そうして彼女がホテルに入って行ったのを皮切りに、有名どころのISパイロット達が次々と到着し始めた。
タイ国家代表のヴィシュヌ・イサ・ギャラクシー、台湾国家代表の
カメラがパルプルス・ファリアをズームアップしたところで、スタジオのアナウンサーがケイトに尋ねた。
『パルプルス大尉は今でもカラードの訓練に教官として呼ばれる事があるそうですが、実際のところはどうなんでしょうか?』
『以前取材しましたが、事実のようです。ISで撃墜された経験を是非伝えていって欲しいと、社長直々の招待という事でした。撃墜状況を再現したシミュレーションもセットだそうですから、恐らく新人パイロットには厳しいでしょうね』
彼女が撃墜された状況は、巨大兵器2機を単機で相手取るという絶望的なものだ。新人パイロットにクリア出来るようなものではない。中堅どころでも単機は難しいだろう。だからこそ晶は、戒めの為に彼女を定期的に教官として招いていた。死地を生き残った経験は、本当に貴重なのだ。
スタジオのアナウンサーは時計をチラリと見て、カラード主要メンバーの到着まで暫し時間があると予測する。間を繋ぐ為に、少しばかり雑談を入れても良いだろう。
『なるほど。そういえばケイトさん。もう1つ良いでしょうか』
『何でしょうか?』
『いえ、今では誰もが知るカラードですが、意外と中身を知らないという人は多いかと思います。なので、知っている小ネタや各部門紹介でもどうかと思いまして』
するとケイトはクールな笑みではなく、悪戯っ子のよう笑みを浮かべた。番組開始前の打ち合わせには無かった話だが、こういう日にこういう話は大いに有りだろう。
『分かりました。ではまず、ちょっとした小ネタから。――――――あ、3番の回線使えます? 使える? じゃあ開けて下さい。あと私のタブレット』
ケイトが画面外から渡されたタブレットを受け取って操作すると、放送されている画面にカラードの社章が表示された。
―――カラードの社章―――
―――カラードの社章―――
『社章に書かれている「Si vis pacem, para bellum.」は、「汝、平和を欲するなら、戦争に備えよ」という意味です。これは束博士や博士を護り抜いた社長の経験からの言葉ですね。なにせISが発表された後、保護の名目で今委員会を構成している各国、それに他の国々も束博士を追い回しましたから。この経験から平和は与えられるものでなく、備え、必要とあれば勝ち取るものという考えになり、社章にこの文言が刻まれたということです』
ケイトが無自覚にブッ込んだ瞬間だった。
各国が触れられたくないところをカラード忘年会という超高視聴率を叩き出している生放送中、しかもカラードの社章を出しながら言ったのだ。これで恐らく多くの者が、カラードの社章を見る度に束博士が過去にされた仕打ちを思い出すだろう。情報は時間経過と共に風化するものだが、一刻も早く忘れて欲しい者達にとっては非常に迷惑な紹介であった。
尤も“アースレポート・コーポレーション”において、これは放送事故でも何でもない。大株主が
よってスタジオのアナウンサーは、ケイトの言葉を一切問題にしなかった。
『なるほど。確かにそういう経験があるなら、納得の文言ですね。時間が許すならもう少し掘り下げたいところですが、それはまたの機会にしましょうか。次のお話をお願いします』
『はい。では、次は多忙な社長と副社長の仕事をサポートする秘書課についてです』
画面に出ていたカラードの社章が消え、
―――カラードの秘書課章―――
―――カラードの秘書課章―――
『実は以前別の取材の時に、秘書課の仕事とはどんなものかを聞いた事がありまして』
『おぉ。どんな仕事だったんでしょうか?』
『想像以上に大変なお仕事でした。いえ、言葉にしてみれば大して多くはありません。物凄く簡単に言うなら、
これを簡単と言える人間は、秘書向きの性格ではないだろう。
なにせ社長と副社長が関わる案件とはイコール地球全土+宇宙開発だ。必要とされる情報量を想像出来なければ、話にすらならない。ましてVIPである2人の行動調整や出張となれば、準備がどれだけ大変か………。準備について多少なりとも知識のある者達は、TVの前でケイトの言葉にウンウンと肯いていた。
尤も世に知られてはいないが、秘書課の面々は全員高レベルの強化処置を受けている。このため一般人であれば非常に大変と言える仕事量でも、問題無く行う事が出来ていた。逆説的に、強化処置を受けなければこなせない程の仕事量という訳だが………。
スタジオのアナウンサーが同意した。
『確かに大変なお仕事ですね。ですが裏方のそういう仕事が確実に行われていたからこそ、カラードは内政と外交で大きな成果を上げられたのでしょう。これからも頑張って欲しいと思います』
『本当にそう思います。ではサクサク行きましょう。次は、この部門です』
画面に出ていた秘書課の課章が消え、
―――カラードの電力部門章―――
―――カラードの電力部門章―――
スタジオのアナウンサーが言った。
『社長の直轄部門の1つ。地球とスターゲートハイウェイへの電力供給を担っている部門ですね』
『あら、台詞を取られてしまいました』
『失礼。何か補足はありますか?』
『ではまた小ネタで。電力供給はレクテナ施設でスーパーマイクロウェーブを受信する事で行われますが、皆さん疑問に思った事はないでしょうか? 例えば飛行機がレクテナ施設上空を飛んで、もしスーパーマイクロウェーブを遮ってしまったら、電力供給が止まって停電してしまうのではないかと』
『確かに言われてみれば。ですがそうならないように、レクテナ施設周辺は飛行禁止区域になっているのでは?』
『それは安全対策の1つではあるのですが、もしかしたら操縦不能になった飛行機が運悪く遮ってしまう可能性もあるでしょう。なので電力部門に質問してみた事があります。すると、なんとですね。飛行機が遮った程度の時間なら、スーパーマイクロウェーブの受信が途絶えても停電はしないということでした。レクテナ施設にはエネルギー貯蔵庫がセットになっているので、その程度なら問題無いそうです』
『なるほど』
『あと飛行禁止区域の話が出たので、ついでにもう1つ。今現在稼働しているレクテナ施設は、航空業界、特にパイロットからの要望でとある改良が施されています。何か分かりますでしょうか?』
スタジオのアナウンサーは勿論知っていたが、番組なので少しだけ演技をした。
『そう、ですね……。あ、光の柱ですか?』
『正解です。万一計器が故障してレクテナ施設の場所が分からなくなってなっても視認出来るように、雲の上にまで届く光の柱が立体投影されています。スーパーマイクロウェーブの中に突っ込みたくないので、分かり易くして欲しいという要望が沢山あったという事でした』
『一度近くに行った事がありますが、光の柱なのに近くに居ても眩しくないんですよね。でもハッキリ見えるという不思議な感じでした』
『単純に光を放射しているだけでなく、立体投影という形で制御されているからでしょう。そして設置されている国の観光資源にもなっているようですね』
『私が行った場所にも、沢山の観光客がいました。――――――と、小ネタ話はこれくらいにして、次に行ってみましょうか』
『そうですね。では、次はこの部門です』
画面に出ていた電力部門章が消え、
―――カラードの宇宙開発部門章―――
―――カラードの宇宙開発部門章―――
ケイトが言葉を続けた。
『こちらも社長が部門長を兼任している直轄部門ですが、実質的に切り盛りしているのはシャルロット・デュノア部門長代理です。そして宇宙開発を統括するこの部門、実は人類史上初の事をやっている部門でもあります』
『パッと思いつくだけでも、コロニーや宇宙農園の管理運用、宇宙船のレンタル事業、移民計画の推進………どれも人類初のような気がするのですが?』
『ですがそれらは全て、人類向けじゃありませんか』
『あ、あぁ~なるほど』
『分かって頂けましたか』
『ええ。他文明に支社を出して、宇宙人さんと仕事をしている、というところですね』
『はい。流石に取材しても詳しい内容までは答えてくれませんでしたが、今後に向けて
現在友好関係にあるのは“首座の眷族”と“獣の眷族”というヒューマノイドタイプで、カラードは両方に支社を出している。つまり将来的に地球の一般人が、近しい姿をした宇宙人と一緒に働く未来が訪れるかもしれないということだった。なお余談ではあるが、ケモミミ好きな奴らが大量に就職希望を出してシャルロットを困らせる未来があったりなかったり………。
『これについて話し出すと特番が1つ作れてしまいそうなので、大変心残りですが次に行きましょうか』
『分かりました。では、次はこの部門です』
画面に出ていた宇宙開発部門章が消え、
―――カラードの異常気象対応部門章―――
―――カラードの異常気象対応部門章―――
スタジオのアナウンサーが言った。
『読んで字の如く、異常気象に対応する部門ですね』
『はい。暴風、豪雨、豪雪、熱波、その他あらゆる異常気象を緩和して、被害を抑える事を目的としている部門です。ただここで注意なのは、未然に防ぐ、ではないところですね』
『この方針には批判もあるようですが、更識簪部門長が以前ハッキリと言っていましたね。地球規模で気象コントロールを実施した場合、全ての人に平等に完璧な気象をお届けする事は出来ません。なので未然に防ぐではなく緩和という方針を取っています、と。そして異常気象が多いのは人類社会全体の問題。被害の軽減はしますが、各国が環境問題に対する意識を持っていなければ、いつまで経っても改善はしませんと』
因みに表に出ている話ではないが異常気象対応部門の中で、環境問題に対して真面目に取り組んでいる国や組織からの依頼は優先度が高く、そうでない国や企業からの依頼は低く設定されている。全く受けないという訳ではないが、仮に報酬が同額だった場合、優先されるのは前者だ。無論他にも判断基準はあるが、方針の根底にあるのは日頃真面目に取り組んでいるところは報われるように、というものだ。
『私は良いと思いますね。全てやりますなんて言ってしまうと、無責任な事を考える人達が出てくると思いますので。では、次に行きましょうか』
この発言に対して、後日“アースレポート・コーポレーション”には多数の的外れな苦情が寄せられていた。有象無象の無責任な輩からで、表向きは人命軽視だの何だの言っているが、内容としては「自分達さえ良ければ良いんだよ」という極めて利己的なものだ。
なので、同社は一切取り合わなかった。むしろ文句があるなら、顔と名前を公表して堂々と言え、という姿勢である。
ケイトはそんな未来をほぼ正確に予想して、無責任な輩をどうやって社会的に血祭りに上げてやろうかと少々物騒な事を考えたが、今は目の前の仕事だと考えを切り替えた。
画面に出ていた異常気象対応部門章が消え、「We will not give up !」と書かれた部門章が表示される。
―――カラードのレスキュー部門章―――
―――カラードのレスキュー部門章―――
ケイトが言葉を続ける。
『こちらに書かれている言葉の意味は、「私達は決して諦めない!」ですね。レスキュー部門らしい言葉だと思います。そしてこの部門はレスキューという仕事上、先程お話した異常気象対応部門と協働する事が多いようで、一緒に映っている映像を見た事がある人も多いのではないでしょうか』
ここで多くのメディアはレスキュー部門所属の篠ノ之箒が篠ノ之束の妹だと紹介するのだが、ケイトは敢えてしなかった。
スタジオのアナウンサーが補足情報を口にした。
『そういえばレスキュー部門には空海宇宙対応のレビヤタン級駆逐艦*5が部門内の各チームに1隻ずつ配備されていましたね。以前レスキュー現場を見た事がありますが、ISのみならず様々な機材を活用してレスキューしていく様は、非常に頼りがいのあるものでした。依頼がひっきりなしというのも頷ける話です』
現在レスキュー部門で活動しているのは3チーム。その中のチームCharleyでリーダーを務める一夏は、レスキュー部門のエースに成長していた。しかも現場で闇雲に突っ走るのではなく、全体指揮も同時にこなすスーパーエースだ。誰かを助けたいなら、情熱と冷静さを併せ持たなければならないと学んだ結果であった。その両翼を固めるのが篠ノ之箒と凰鈴音で、プライベートでも見ている者が胸焼けしそうなほど仲睦まじいという。因みに最近、3人目の女性が加わっていた。以前からアタックしていた女性で、2人も認める程の熱意であったとか………。
尤も、放送するような話ではない。
『ええ。今後も頑張って欲しいと思います。ただレスキューは事が起こってしまった後の話なので、日頃の安全確認も大事にしましょう、というところでしょうか。ちょっとした注意で避けられる事も沢山ありますから』
『確かにそうですね。では、次に行ってみましょうか』
画面に出ていたレスキュー部門章が消え、
―――カラードの戦闘部門章―――
―――カラードの戦闘部門章―――
ケイトが言った。
『はい。では、次にご紹介するのはこちらです。ラウラ・ボーデヴィッヒ部門長が率いるカラード戦闘部門。基本的な活動内容としては、依頼によって登録されているISやパワードスーツ部隊を派遣する、というものですね。その他にもカラードが介入している5つの紛争地域だった場所の治安活動を行ったりもしています』
視聴者向けにかなり割愛しているが、ISやパワードスーツ部隊への依頼斡旋業務は“
元々カラードで処理されていた依頼斡旋業務がこのような形になっている理由は、晶がIS学園2年生の時にまで遡る。人的リソースが依頼斡旋業務に割かれてしまい、当時主力としていた3部門―――レスキュー部門・戦闘部門・宇宙開発部門―――に影響が出始めていたのだ。対応策として人が足りないなら増やせば良いという考えもあるが、依頼で扱う情報には高い秘匿性が要求される上に、情報というのは関わる者が増える程に秘匿が難しくなる。
よって情報の取り扱いを専属とする為に、“
そしてこれは当時予測していなかった副次効果を生み出していた。顧客が他の派遣会社を選べるようになったため、結果として全体的な依頼数が増加、業界そのものが活性化していったのだ。
更にカラードが5つの紛争地域に介入した時に、在野に埋もれた人材の活用手段として依頼受付システムが拡張され、スキルを持った人間が仕事を受ける為の窓口にもなっていた*7。
『介入で特に有名なのはイエメンですね』
『そうですね。あそこはスエズ運河に続く海上貿易の要所だけあって海賊の多発地帯でしたが、カラードが港に灯台代わりにL.L.Lを、海にはセントエルモを、空にはRAIJINを巡回させると共に、それら巨大兵器の脇を
ここでスタジオのアナウンサーが話題の方向性を少しばかり変えた。
『はい。安全な地域が増えるのは喜ばしい限りです。そして戦闘部門という大きな括りでの紹介も良いですが、この部門には非常に有名な部隊がいますね。そちらの紹介もお願いします』
『分かりました』
画面に出ていた戦闘部門章が消え、
―――カラードの潜行戦隊章―――
―――カラードの潜行戦隊章―――
『戦闘部門に編成されている潜行戦隊。今日のカラードの外交的成果は、彼女らの働きあってこそと言えるでしょう。ただ大事な事を1つ補足しておきますと、潜行戦隊は必要に応じて、他部門のメンバーを編成に入れたりしています。分かり易いところで言えば、第3回外宇宙ミッションでしょうか。そういう意味で、カラードの総合力を現わしているとも言えるでしょう』
この言い回しは
ケイトはボロを出さない内に、次の紹介に進む事にした。
画面に出ていた潜行戦隊章が消え、
―――カラードの機動特捜課章―――
―――カラードの機動特捜課章―――
『そして同じく戦闘部門にある、こちらは課ですね。機動特捜課。始めから星間犯罪への対処ノウハウ蓄積を目的として設立された課で、今はスターゲートハイウェイの稼働に伴い、主に密輸犯罪を摘発しているそうです』
この課はスターゲートハイウェイの稼働に伴い、激烈に忙しくなっていた。物流が増えるイコール密輸が増えるのは
尤も悪党の立場に立って考えれば当然の話なので、対処方法も考えられていた。まず積み替え用ステーションに導入されている荷物の検査機器は、地球製に加えて“首座の眷族”と“獣の眷族”から輸入した機器を使う3重体制である。これだけでも厳重だが、機動特捜課の
そして社長である晶は、この方針を全面的に後押ししていた。よくあるパターンとしては、潜行戦隊が海賊狩りで密輸業者の情報を入手、次いで束経由で“首座の眷族”や“獣の眷族”に情報提供して裏取り、返ってきた情報を元に積み替え用ステーションで臨検して逮捕である。
無論、臨検時に抵抗した者はいた。辺境文明の猿如きが生意気だと言った者もいた。後ろ盾を自慢して止めろと言った者もいた。しかし、2人が手を止めた事は無かった。学生の時の気持ちは今も心の中にあるのだ。止めるなど有り得ない。
因みに建て前の問題で2人は一応捕縛用装備を持っているが、それは手持ち装備で1つだけ。
更に言えばカラードでは
このため一部界隈では、「奴らは喜んで引き金を引く奴らだ。大人しく捕まった方が長生きできるぞ」と言われていた。課章通りの狂犬扱いである。
日常の彼女達は至って普通なのだが………。
スタジオのアナウンサーが補足情報を口にした。
『密輸犯罪の摘発もそうですが、カラードとしては将来的に広域の星間犯罪、文明間の合同調査などにも対応できるようにしていきたい、と考えているようですね』
『ええ。ある程度の規模が必要になるので、まだ先になるそうですが』
話すと横道に逸れそうだったのでケイトは言わなかったが、カラードが進めている準備は随時公表されていた。先日あった発表は、機動特捜課にもレビヤタン級駆逐艦が配備された、というものだ。因みに束が手掛けた物ではあるが、アリコーンほど特殊な作りにはなっていない。将来的に機動特捜課で正式採用する予定であるため、一般人でも使えるようにされていたのだ。なおこの方針は、レスキュー部門に配備されたレビヤタン級駆逐艦も同じである。
『しかしこうして改めてカラードの各部門を見ていきますと、着々と
『ええ。もし数年前にテレビでこんな話をしたら、何のフィクションの話をしているんだ、と言われてしまったでしょう』
『それが今や、こうですからね』
『本当にです』
ここで時計をチラリと見たケイトは、次の紹介で最後にする事にした。
『では最後に、このチームを紹介しておきたいと思います』
『チームですか?』
『はい。カラード設立の切っ掛けは、彼女達を更生させる為でしたから』*8
画面に出ていた機動特捜課章が消え、「We are faithful hunting dog !」と書かれた部隊章が表示される。
―――ハウンドチームの部隊章―――
―――ハウンドチームの部隊章―――
ケイトは言葉を続けた。
『言葉の意味は「我々は忠実な猟犬である!」ですね。彼女達が元IS強奪犯という事で反感を持つ人もいると思いますが、その後の賞金首狩りを否定出来る者はいないでしょう。各国がどれほど追っても捕まえられなかった者達を次々と捕まえ、多くの被害者の無念を晴らしてくれたのですから。――――――ところでふと思ったのですが、捕らえた賞金首の刑期は数年、十数年、数十年、下手をすれば百年単位の者もいますが、それだけの者を捕らえた彼女達の刑期はどうなんでしょうね? これだけの働きを見せた者に何ら減刑処置無しというのは流石に酷いと思うのですが?』
『確かに言われてみれば。今度取材してみましょう』
この言葉に彼女達をIS強奪犯として指名手配していた国々は大いに慌てた。これまで1回も言われた事が無かったのでそのままにしていたが、言われた通り、これほどの働きを見せている者達に何ら減刑処置無しでは、今後の司法取引にも影響が出かねない。まして今の彼女達は、
結果として後日のこと、ユーリア・フランソワ、エリザ・エクレール、ネージュ・フリーウェイの3人は、刑期分の償いは十二分に行われた、という尤もらしい理由で無罪放免となった。拍子抜けするほどあっさりと。
しかし、彼女達は首輪を外さなかった。正確に言えば外すのを嫌がった。
「私達は社長の飼い犬です。絶対に外しません」
と、それはもう頑なに。このため彼女達の首には、今まで通り首輪が嵌められていたのだった。
―――閑話休題。
ここで複数のリムジンがホテルに到着した。カラードの社章付きとなれば、当然降りてくるのは主要メンバーだ。
一斉にカメラのフラッシュが焚かれる。
社長の晶、副社長のセシリア、宇宙開発部門長代理のシャルロット、戦闘部門長のラウラ、異常気象対応部門長の簪etcetc。
今や世界を動かす側の者達。
その場にいる者達全員の視線を釘付けにして、主要メンバーはホテルの中に入っていったのだった。
◇
こうして始まったカラードの忘年会は、地球の覇者が誰であるかを知らしめるのに十分なものだった。
派手という訳ではない。特別なイベントという訳でもない。
ただ単純に、参加者の桁が違う。地球文明圏最高レベルの超巨大多国籍企業がカラード傘下、或いは協力企業として名を連ね、最高経営責任者本人が参加している。特定の分野に非常に強い一芸特化企業も多い。各国も要人どころか、首脳本人が来ている国すらあった。
そんな中で行われるのが、今年宇宙進出事業に貢献してくれた総合力の高い企業や一芸特化企業の発表、将来有望と思われる企業への投資発表だ。各企業にとって、ここで名前が出るか否かで来年の業績が文字通り違ってくるので、緊張感が漂う瞬間でもある。
なおこの貢献度は、ステージに設置されている大型ディスプレイに幾つかの評価条件が表示され、次いでその条件に従って協力企業の活動内容や成果が表示されていく、というかなり透明度の高い方法で行われていた。これは密室で貢献度を決めるより、共通の物差しを見せた方が公平感があって理解を得られやすいという事で、忘年会がこの形式になった当初から導入されている方法だ。
また総合力の高い企業と一芸特化の企業を同じ物差しで測るのはフェアではないので、一芸特化企業には一芸特化用の評価基準が用意されていた。例えば特定の素材ではシェアの殆どを握っている。特定分野では圧倒的な技術力を持っている。等々。職人気質な企業はビジネスバランスに優れていない事が多いが、優れている面はしっかり評価するという姿勢を前面に押し出したものだ。
そしてこの忘年会で発表された貢献度の高い企業には、明確な実利があった。
昨年はカラードがレンタル事業で使っている宇宙船を1年間限定でほぼ自由に使えるというものだったが、これに加えて今年は、コロニーの貸し出しというのが追加されていた。正確に言えばカラードが追加購入した円筒形型コロニー1基を1年間宇宙の拠点として貸し出すというものだ*9。運行制御等はカラード側で行うが、何らかの実験を行うなり、宇宙活動に必要なノウハウの蓄積に使えば良いというものだ。元々稼働しているコロニーに同じような使用目的のコロニーがあるが、大雑把に分けるなら先に稼働している方は基礎的な事を行うところ、こちらは応用的な事を行うところ、というところだろうか。
なおコロニーはそれなりの大きさがあるので、企業でグループを組んで共同で使うのも可としている。
レンタルで1年という時間制限があるとは言え、ほぼ自由に使える宇宙船とコロニーという活動拠点があるなら、行える事は非常に多い。
この発表によって大いに盛り上がる会場の中で、ケイトは近くにいた参加者にインタビューしてみた。
『お楽しみ中のところ失礼します。“アースレポート・コーポレーション”突撃レポーターのケイト・マークソンです。今回の忘年会は如何ですか?』
声をかけたのは白人の中年男性。細い眼鏡のフレームが似合うイケオジだ。確か世界で最も収益性の高い企業ランキングで18位の会社のCEOだ。
『流石という以外に無いですね。コロニーの貸し出しなど、他のどんな企業にも国にも出来ないでしょう。まして地球人だけで造るとなれば何年掛かるか分からない一大事業です。それをこれほど簡単に貸し出すなど、驚きという他ありません。――――――っと、何やらあちらで面白そうな人達が集まってますね。ちょっと行ってきますので、失礼』
去って行った先に集まっている人達は、いずれも超巨大多国籍企業の最高経営責任者で、ワイングラスを片手に談笑している。
ケイトはそのグループの動きを観察しながら、近くのテーブルにあったワインを空いていたグラスに自分で注いでチビリチビリと飲む。人の味覚は学習中だが、銘柄を見ると良いところの物のようだ。恐らくこれが美味しいワイン、というやつなのだろう。などと他愛のない事を考えていると、いきなりコアネットワークが接続された。
(貴女取材で来てるんでしょう。なに飲んでるんですか)
(えっ!? え? お、お姉様!?)
慌てて周囲を見渡せば、真紅のイブニングドレス姿のラナ・ニールセンがいた。会場の端にいるので普通の人間であれば表情が分かるような距離ではないが、ケイトには分かる。メッチャ睨まれてる。
(え、あ、えーと、これは、アレです。人間社会をより深く知る為の実地体験というやつです。こういう場所で出される物の味を知っておく事も大事な事でしょう)
(………否定はしませんが、もう少し品性のある飲み方をしなさい。なんですか、その酔っぱらいのような飲み方は。あと否定はしないと言いましたが、人間社会で仕事中に飲むという行為は、何らかの特別な理由が無い限りは褒められた行為ではありません。貴女がアンドロイドで酔わないとしても、仕事の内容に疑問符を付けられてしまいます。注意しなさい)
(は、はい!!)
お姉様の言葉に条件反射のような返事をして、直後に思った事をケイトは聞いてみた。
(あの………)
(なんですか?)
(わたし、品の良い飲み方のサンプルデータが無くて。もしあるなら頂きたいのですが)
(………まぁ。良いでしょう)
コアネットワークで送られてきたのは、ケイトも知っている人物達だった。カラード社長の義妹達。全員イブニングドレス姿で、何かの会食だろうか?
(以前、とある護衛ミッションで一緒に食事をした時の光景です*10。非常に綺麗な所作だったので、貴女も参考にすると良いでしょう)
(ありがとうございます!!)
こうしてケイトが
そんなタイミングで、シャルロットがよく冷えた水を差し出してくれた。
「はい」
「ありがと」
受け取ってグイッと一気飲み。冷たい水ののど越しが爽やかで気持ち良い。
だが晶の仕事はまだまだ終わらない。
次に寄ってくるのは最高経営責任者や政治家達。面倒だが、社長としてある程度は話しておく必要がある相手だ。そしてセシリアも、シャルロットも、簪も、それぞれに話しかけて来る者達の相手をしている。だがそんな中でラウラだけが、晶の座る椅子の背もたれに寄りかかって我関せずとワインをチビチビ飲んでいた。昔のツルペタストーンではなく、凹凸のある美女に成長した彼女が気怠い感じで飲んでいると、妙な色気がある。
晶がコアネットワークで尋ねた。
(お前何してんだ)
(なにって? 所謂、自主的な警備というやつかな)
(会場内に何人護衛配置していると思ってるんだよ)
(私が立案したからな。沢山いるのは知っているぞ。ただ何事にも予期せぬ事態というのはあるからな。お前を護る最終防衛線を自主的にやっているというだけの話だ)
(そういうのを世間一般で何て言うと思う?)
(サボリだな)
背中合わせになっている晶からラウラの表情は見えないが、間違いなくニヤリとしたのが分かった。
(お前な)
(それに真面目な話、武力担当の私が他と勝手に話をしては拙いだろう。だから私は、飾り物で良いんだよ。むしろ私に直接話しかけてきたなら、何らかの下心ありと考えた方が良いかもしれん)
(まぁ、それもそうか。ところで、俺が動いたらどうするんだ?)
(お前の斜め後方にそっと立って護衛してやろう。世界で一番楽なサボリ場所は誰にも渡さん)
(昔の真面目なラウラは何処にいったんだよ)
(誰かさんにちょうきょ………教育された結果かな)
ワザとらしく言い直したラウラに、晶は断固として言った。
(そんな事は教えてないからな)
(そうだったか?)
こんな話をしていると、楽しそうな雰囲気を察したのか、セシリアとシャルロットと簪がコアネットワークを繋いできた。
(なにをコソコソ話をしているんですの?)
(ラウラ、何か楽しそうな顔してる)
(私も混ぜて)
セシリア、シャルロット、簪の順だ。
晶が答えた。
(3人とも聞いてくれ。ラウラが不真面目になった)
かくかくしかじかで話すと、まずシャルロットが言った。
(ラウラ。随分高等な甘えテクを覚えたね。今度教えてね)
(良いぞ。クラリッサと研究した甲斐があったな)
次いで簪だ。
(ラウラって学生の頃から見ると、本当に変わったよね)
(それを言うなら簪もだろう。昔は随分オドオドしていたが、今は女傑と言って良いではないか)
(誰かさんが自信をつけさせてくれたからね)
(そうやって堂々と惚気るあたり、本当にな)
(こういうのって、お互い様っていう言葉であってるのかな?)
(厳密に言えば違うだろうが、まぁ意味は通じるだろう)
最後にセシリアだ。
(このまま帰ってみんなでお喋りしたいですわ)
(お前の場合は、晶を押し倒したいの間違いだろう)
(ラウラもじゃありませんこと?)
(私は押し倒されたい方だな)
(貴女本当に変わり過ぎですわ。あ、もしかしてチラッと見せるのがお上手な理由は、そういう事ですの?)
(ああ。こいつは反応が素直だから分かり易い)
余りに赤裸々な言葉に、晶が言った。
(お前ら。せめて俺に聞こえないようにやってくれ)
するとシャルロットが言った。
(みんなに愛されてるって事だから良いじゃない)
簪が続いた。
(そうそう。今更。押し倒しても押し倒されても最後は変わらないし)
セシリアが同意した。
(ですわよね)
最後にラウラが言った。
(さて、息抜きもすんだところで、また面倒な話し合いだ)
晶が突っ込んだ。
(1人呑気にサボッてる奴が何を言う)
全員が肯いて気分転換を終えたところで、カラードの面々はお仕事としての忘年会を過ごしていったのだった。
―――ケイトとラナ/レクテナ施設上空の光の柱―――
XINN様より頂きました。感謝です!!
諸事情により途中挿入だと都合が悪いので、
一番最後に追加してます。
ケイト・マークソン
姉に叱られる妹
レクテナ施設上空に投影された光の柱
ホテルに到着したカラードのリムジン
―――ケイトとラナ/レクテナ施設上空の光の柱―――
第225話に続く
今回はちょっと趣向を変えて、お正月のテレビ特番みたいな感じにしてみました。
後半の健全な下ネタ(?)シーンは書いていて楽しかったです。
そしてレポーターとして登場したケイトさんですが、如何でしたでしょうか。
AC6ユーザーの皆様には色々言われている彼女ですが、言われているような雰囲気を感じて頂ければ嬉しい作者です。
AC6をプレイしていない読者様には、「外見キリッ。中身はちょっと(?)ドジ」或いは「優秀な姉に対してお茶目な妹」というかるーい雰囲気で見て頂ければと思います。