インフィニット・ストラトス ~迷い込んだイレギュラー~   作:S-MIST

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今回もまったりモードなお話です。


第225話 進む移民の準備/梁 白麗の今/フェルト姉妹の今(IS学園卒業3年目の1月上旬)(イラスト有り)

  

 ―――統一政府。

 

 数年前なら誰もが絵空事と思い、真剣に論じたりはしなかっただろう。

 しかし、今では違っていた。

 カラードが内政と外交で上げている比類なき成果が切っ掛けとなり、地球文明の今後が意識されるようになったのだ。

 無論、世の中は善人ばかりではない。が、悪人ばかりでもない。純粋に素晴らしいものにしたいと思っている者もいれば、利権で甘い汁を吸いたいと思っている者もいる。

 そんな中で“星間国家の在り方を検討する委員会”は、昨年の11月*1に束と晶の会見で発表された方針に従い、統一政府の土台作りに着手していた。解体された国連組織*2の人員を雇い、委員会下部の実行組織として再編成していたのだ。例えば世界保健機関(WHO)は統一政府の保健機関として、国際通貨基金(IMF)は統一政府の経済機関として、といった具合に。

 ここで公共組織について、ある程度の知識がある者は思っただろう。各国にも似たような機能を持つ組織はある。日本を例に上げるなら、保健を管轄してるのは厚生労働省だ。世界保健機関(WHO)を実行組織として再編したなら、活動内容として被る事になる。どのように権限の範囲を分けていくのだろうか、と。

 この疑問に対する委員会の発表は非常に明快なものだった。

                               

 ―――再編した組織の活動方針について―――

 ・地球内部

   各国の情報収集を行う。

   収集した情報の分析を行う。

   希望があれば情報提供を行う。

   希望があれば助言も行う。

   助言を実行するかは各国の判断に任せる。

 

 ・地球外部(主に移民先を想定)

   移民先の情報収集を行う。

   収集した情報の分析を行う。

   移民先に出先機関を設置して情報提供を行う。

   現地政府と協力して、移民先の生活の安定に協力する。

 ―――再編した組織の活動方針について―――

                               

 小難しく書いてあるが極々簡単に言ってしまえば、地球の国に対して助言はするが介入はしない、移民先には情報提供して協力的な活動もする、である。

 つまり主な活動場所として宇宙(そら)を想定しているため、各国の組織と活動内容や権限は被らない。無論、各国が独自に移民政策を実行した場合など、対応を考えなければいけない場面も出てくるだろう。

 しかし委員会は各国が独自に、かつ早急に移民政策を実行する可能性は低いと踏んでいた。理由は幾つかある。

 まず委員会を構成する各国の世論として、カラードが移民を行うならその経過を見守り、ある程度の情報を得てから進めるべき、という意見が大勢を占めているのだ。カラード側が改善点等をフィードバックすると公言しているのも大きい。危ない橋を渡る必要は無いということだ。

 次にテラフォーミングした星が使える、というのが現実的な選択肢として用意されているということ。束博士がテラフォーミングを進めている惑星は3つあるが、内1つは後4年程度で居住可能な気温と大気圧になる見込みと発表されているのだ。流石に防護服無しで出歩けるかは厳密な現地調査が必要だが、それでも4年後には新天地に降り立てる。ならばその時に備えて、準備に時間を費やせば良い。

 またカラードのこれまでの動きや発表から考えるに、移民の生活環境や食糧事情には相当に気を配っている。このため恐らくだが、下手な移民計画を発表したら全力で潰しにくるだろう、というのは委員会内部の共通見解であった。

 

 ―――閑話休題。

 

 組織再編のニュースが流れると、当然のように将来を予想する番組が出始めた。宇宙進出前にあったような、“もし地球以外に住むとしたら”なんていう仮定の話ではなく、確実に訪れる未来として。

 そんな番組の1つを放送する“アースレポート・コーポレーション”は、衛星軌道で建造中のフル規格クレイドル*3から生中継をしていた。

 

『皆さんこんにちは。“アースレポート・コーポレーション”突撃レポーターのケイト・マークソン*4です。今日はなんと、建造中の移民用クレイドルにお邪魔しています。そして私が今いる場所は、他の宇宙船とドッキングして人が出入りする為のエアロックです』

 

 カメラが上下左右に向けられると、真っ白い壁面が映し出された。古き良きSFにあるエアロックと言えば良いだろうか。

 カメラが再びケイトに向けられたところで、彼女は続く言葉を口にした。

 

『私の後ろにあるドアが取材クルーの乗ってきたレンタル宇宙船に通じるドアで、正面がクレイドルへ入っていくドアですね。それでは早速行ってみたいと思います』

 

 そうして分厚いエアロックのドアが開かれると、エアロック内部と同じように白い通路をケイトは歩き出した。カメラが歩く姿を追っていく。いつも通りのスーツ姿だが、今日はタイトスカートではなくパンツスーツ姿だ。地上と変わらぬように歩いている。宇宙(そら)にある移民船の中なのに、だ。

 スタジオから早速突っ込みが入る。

 

『ケイトさん。ケイトさん。宇宙なのに普通に歩けていますが、その辺りの解説をお願いします』

『あ゛』

 

 クールで知的で美人な容姿の頬が薄っすらと赤くなる。

 

『えーっと、今話そうと思っていたところだったんですが――――――』

 

 この台詞に動画配信サイトのコメント欄は面白い事になっていた。「さっそくやった笑笑」「嘘だ嘘。絶対素で忘れてた」「赤い顔可愛い」「学習しないなコイツ」「ワザとだろ」「ワザとでもあそこまで自然にやれるなら芸人」「コイツは何かやらんと気がすまんのか?」etcetc。

 取り繕った営業用スマイルでケイトが説明を始める。

 

『――――――クレイドルは重力制御により、宇宙(そら)にあっても1G環境での生活が可能になっています。なので昔の宇宙飛行士にあったような、宇宙(そら)に長期間いる事で発生する筋力低下という問題は、最小限になるようになっています。また他の対応策として、2Gの高重力区画が用意されているので、そちらでトレーニングを行う、という事も考えられているそうです』

 

 なお当たり前の事なのでこの場では解説されなかったが、地球製の重力制御装置と宇宙(そら)の重力制御装置では、安定性・耐久性・汎用性・メンテナンス性・エネルギー変換効率といったあらゆる面で大きな差がある。どれ位の差があるのかを端的に言ってしまえば、適切な運用がされているなら、人の一生程度は安定稼働が可能な程だ。

 説明に肯いたスタジオのアナウンサーは、ニッコリと肯いて答えた。

 

『なるほど。では、続きをお願いします』

『はい。では進んでいきたいと思います』

 

 そうして再び歩き出したケイトが向かったのは居住区画だった。実際に移民が始まった時、恐らく多くの人が一番多くの時間を過ごすであろう場所だ。

 

『ここが居住区画の1つになります』

 

 カメラが周囲に向けられテレビに映し出された光景は、多くの者が宇宙船や移民船に持つイメージを覆すものだった。

 地球で最も近いイメージは団地だろうか。

 クレイドルの全翼部を構成する1ユニットはエンジンと連結フレーム込みで、高さ40メートル、横225メートル、長さ500メートルというスーパータンカー並*5の大きさがあるのだが、左右の内壁に沿ってマンションのような居住用設備が備え付けられており、中央には公園といったレクリエーションに使えそうなスペースが確保されている。そして上を見上げれば漆黒の宇宙空間が見えるが、カメラが向けられたタイミングで、地球の青々とした空が映し出されていた。移民者の精神衛生に配慮した作り、というやつだろう。

 スタジオのアナウンサーが驚いたような声を上げた。

 

『これは、とても宇宙船の中とは思えませんね』

『私もそう思いますが、実はまだまだ先があったりします』

『それは?』

 

 スタジオのアナウンサーが聞き返すと、ケイトは画面の外にいたスタッフから傘を受け取って無言でさした。この行動にテレビを見ていたあらゆる人が「まさか」と思い、そして数秒後には現実となった。居住区画の中にポツリポツリと水滴が落ち始め、すぐに地上と変わらぬ雨になったのだ。

 ここでケイトが解説を始める。

 

『移民船としては不要な機能と思う人が多いかもしれませんが、カラードに確認したところ、もしもクレイドルで超長期間過ごす事になった場合、惑星内で起こりえる環境変化を想像出来なくなる可能性があるので、忘れないようにする為にこのような機能を付けた、ということでした。――――――確かに今後、宇宙生まれ宇宙育ちという世代が出てきた場合、雨という現象そのものを知らない、知る機会が無いという可能性もありますからね』

『なるほど。では、雪を降らせる事は可能なのでしょうか?』

『人工降雪機のような形で作る事は可能ですが、自然な降雪は難しいということでした』

『分かりました。しかし、いきなり良い意味で移民船というイメージを崩されましたね。では折角居住区画にいるので、住宅事情を見せて貰っても良いでしょうか』

『では、4~5人の家族用住居にご案内したいと思います』

 

 そうしてカメラが入った住居は一見すると普通の4LDKに見えるが、色々と違う部分もあった。

 事前に調べていたケイトが、1つ1つ説明していく。

 部屋の中の各所に手すりが取り付けられているのは、重力制御があるとは言え、無重力状態になる事が考慮されているためだ。また無重力状態になれば微細なゴミなども浮き上がってしまい危険なため、その際は空気を循環させてフィルターで微細なゴミ等を除去する、という対策が取られていること。乗員には常にワイヤーガンの携帯が義務付けられる予定のこと。

 住宅に関わる様々な事が説明され、その流れで移民船内部での日常生活、大人が行う仕事、子供が通う学校など、移民が苦しいものというイメージを覆すかのような解説が続いていく。

 こうした番組により徐々に、地球以外にも人類の生活圏が出来る、それが確実に訪れる未来という認識が、一般市民にも広がっていくのだった。

 

 

 

 ◇

 

 

 

 一方その頃。

 カラード社長の薙原晶は、社長室を抜け出して下町に来ていた。

 決してサボリではない。ちょっと、自主的に、休憩時間を多く取っただけだ。ついでに言えば今日の分の仕事は終わらせてある。お楽しみの最中に秘書さんに連れ戻されるなど冗談ではない。

 向かっているのは本社近郊にある都市―――世間一般ではカラードの城下町と言った方が通じるらしい―――の中央部から程なく離れたところで、都市中央部を先進的でお綺麗な雰囲気とするなら、こちらは年代を感じさせるレトロな雰囲気と言えるだろう。出ている店も都市中央部は名だたる大企業が軒を連ね、高品質高機能で基本的に誰が買っても間違いの無い品々が並んでいる。対して下町の方は個人営業の店が多く、店主の趣味趣向に合わせた尖った品が多い。

 晶が向かっているのは、下町にある小さなアーマードコアショップだ。とは言っても、軍用品を扱っている店ではない。

 約1年程前*6に束が発表したアーマードコア規格は、ここではない別の世界(AC世界)の戦闘兵器“アーマードコア”の規格を元にしているが、この世界(IS世界)では人間サイズの無人機規格なのだ。

 そして人の言葉を解する柔軟なAIと人間サイズで人の手と同じマニュピレーターがあるという事は、人間が使える工具は全て使えるということだ。これに頭部・胴部(コア)・腕部・脚部の換装機能、両背部、両肩部、両前腕部というハードポイント、胴部(コア)にある格納機能が組み合わされば、本当に色々な事が行える。分かり易い例を上げるなら脚部の変更だろう。下半身をタンク型に変更すれば重量物の運搬が出来る。フロート型なら長時間滞空して作業が行える。四脚型なら不整地でも高い安定性を発揮する。逆関節型なら高所にもすぐに荷物を運べる。通常二脚型ならあらゆる場所で汎用的に使える。

 手だって機能を特化させるならマニュピレーターである必要は無い。明確な運用目的があるなら、その作業に特化させた腕部パーツを付けてやれば良い。

 AIの行動ルーチンだって、カラードが提供しているUNAC(ユーナック)サーバーで比較的簡単に調整出来る。

 このような背景と必要とされる初期投資額が比較的少ないという事から、アーマードコアショップは急速に数を増やしていた。無論数が増えるという事は興味本位で手を出しているド素人もいるという事だが、晶が向かっている店は違う。

 懇意にしているHENTAI共の魔窟、キサラギ開発部の面々が「一般に埋もれている余り一般的ではないニーズを掘り起こす」という一見すると非常にまともな考えの元に立ち上げた小さなお店だ。モットーは低予算で高品質。ただし客の為ではない。敢えて不自由な縛りを課す事で、逆にインスピレーションを刺激しようという逆転の発想からだ。もし理解し辛いというなら、他の大企業が作った強パーツを低予算とアイデアで負かす知的ゲームと言い換えても良いだろう。あと大企業キサラギの看板を付けていては、ちょっと出来ない(やってはいけない)アイデアを形にする場所が欲しかった、という細やかな事情もあったらしい。

 そんな奴らと話が合う晶は、ルンルン気分で歩いていく。

 見えてきたのは、ちょっと薄汚れた工場に小さな事務所が併設されているというレトロなものだ。

 工場の方で何かを作っている様子なので勝手に入っていくと、人の良さそうな小太り眼鏡おじさんが近づいてきた。眼の下にちょっと隈が出来ているが、いつもの事なので気にしない。

 

「社長。まーた抜け出してきたんですか」

「常習犯みたいに言うな」

「常習犯でしょう。さっき秘書さんから電話かかってきましたよ。居ませんかって。ま、その時は居なかったので居ませんって言っておきましたけど」

「ナイス」

 

 晶が悪ガキのような表情を浮かべると、小太り眼鏡おじさんもニカッと笑う。

 因みに晶の携帯は、社長室のデスクの上だ。ちゃんと「下町の巡回に行ってきます」とメモも残しているから大丈夫だろう。

 もし本当に緊急連絡が必要な事態が発生したら、クラスメイトの誰かからコアネットワークで呼び出されるから問題無い。

 等々内心で言い訳を考えていると、小太り眼鏡おじさんが話し始めた。

 

「じゃあ早速ですけど、コレ見て下さいよ。土建用アーマードコアのオプションパーツです。二脚型でも背部にクレーンを装備して重量物を持ち上げられるように、両手に持たせる形の固定用装置ですね」

 

 イメージ的にはクレーン車等についている車体固定用のアウトリガ装置で、「H」型の無骨な折り畳み式フレームに油圧ポンプ式の脚が4つ取り付けられ、更にアーマードコアがマニュピレーターでしっかりと保持出来るように頑丈そうな取っ手が取り付けられている。折り畳みのロック機構は直接触って、NEXT(N-WGⅨ/IS)のセンサーを限定起動。強度的にも問題無さそうだ。

 

「これなら、しっかり姿勢を保持できるんじゃないかな。お客さんの希望で作ったのか?」

「ええ。二脚型の汎用性そのままに、もう少し重い物をクレーン装備で持ち上げられるようにして欲しいと」

「なるほど」

 

 戦闘兵器アーマードコアも大好きだが、こういう一般で作業用機械として使われるアーマードコアも良い。優れた設計から生まれる高い汎用性。それを活かす創意工夫。メカ好きとしてはワクワクしてしまう。

 だから、こんな言葉も出てくる。

 

「なぁ、ふと思ったんだけどさ。クレーンが作れるなら、人が高い所に上がる為のカゴ付きとか、ハシゴ車みたいな物も作れるだろ。そういうのって需要あるかな?」

「ああぁ。なるほど。個人とか少人数で作業する時は喜ばれるかもしれませんね。両背部のハードポイントを使って、今回作った手持ちの固定用装置も併用すれば十分な安定性も得られるでしょう。今度ちょっと試作してみますね」

「あ、それならウチのレスキュー部門に1つ送って貰っても良いかな。確か一夏のやつから、要救助者を安全に降ろせるハシゴみたいなのがあれば助かるって話が上がって来てたんだ」

 

 要救助者が1人や2人程度であれば、抱き抱えて飛び降りるという選択肢もある。しかし要救助者が多い上に、一刻も早くその場から連れ出さないと危険な状況というのもあるのだ。まずは訓練で使ってみてになるが、こういう小道具があれば助かるだろう。もし使い勝手が悪いようなら、それはそれで経験の1つだ。それを元に改善を進めていけば良い。

 この後も、晶にとっては非常に楽しい時間が続いた。パーツのアイデア。それに伴うアセンブル。どんな状況なら使い易くて、どんな状況なら使い辛いか。軍用も一般も関係無く、思いのまま気の向くままにアレコレと。次第に工場にいた他の者達が加わり、事務所にいた者達も加わり、気付けば皆でワイワイガヤガヤと雑談会だ。

 アーマードコア大好き人間にとって、これほど楽しい時間は無いだろう。

 

 

 

 ◇

 

 

 

 時間は少しだけ流れ14時頃。

 晶が楽しい時間を過ごしていると、入り口の方から声が聞こえてきた。

 

「失礼。頼んでいたUNAC(ユーナック)を取りに来たのですけど」

 

 振り返れば、久しぶりに見る相手と私服姿のカラード社員がいた。フェルト姉妹だ*7

 向かって左側にいるパンツスーツ姿の女性が、久しぶりに見る姉のレイラ・フェルト。セミロングの綺麗な紫色の髪で、優しくて美人なお姉さんという印象だ。身を包むのは華美でも地味でもない何処にでも着ていけるスーツだが、シルクハットが良いアクセントになっている。何より元が良いので、街を歩けば多くの者が振り返るだろう。かつては妹を人質に取られて悪行に加担していたが、今は―――束が秘密裏に持たせたISを使って―――探偵という形で世の中に役立っていた。また彼女の活動拠点は元々外国だったが、最近こちらに引っ越して来ていた。束が自身の目や耳として働いてくれている彼女への報酬として、この都市の物件を紹介したからだ。束曰く、「仲の良い妹ちゃんにいつでも会えるようにしてあげたんだよ」ということらしい。

 向かって右側にいるポニーテールでジーンズ+パーカーな女性は、妹のリア・フェルト。優し気な姉に比べて活発な印象で、クロエがIS学園に通っていた時の同級生だ。過去の経験のせいか正義感が強くて、今はカラードの機動特捜課で働いて貰っている。将来的には専用ISを持たせたまま退職させて姉と一緒に一般市民の生活を守って貰う予定だが………まぁ、そこは本人次第だ。今の仕事にやりがいを感じているならそのままでも良いし、昔の希望通り姉と一緒になりたいというなら、それでも良い*8

 向こうも晶に気付いたようで、挨拶をしてきた。

 

「お久しぶりです」

「社長。お疲れ様です」

 

 先に言ったのがレイラ、続いたのがリアだ。

 

「ああ。久しぶり。あとお疲れ様」

 

 返事をした晶は、続けて尋ねた。

 

UNAC(ユーナック)、使ってるのか?」

 

 レイラが答えた。

 

「はい。個人営業をしていると、色々汎用性のあるUNAC(ユーナック)というのはあると便利でして」

「確かにな。差し支えなければ、どんなのを使っているか見せて貰っても良いかな」

「ええ。どうぞ。とは言っても、カラードで使っているような最新鋭ではなくて、使い潰しのきく汎用型ですが」

 

 すると話を聞いていた小太り眼鏡おじさんが、晶・レイラ・リアの3人を工場の奥へと案内した。メンテナンス用ベッドに寝かされているのは、所謂クレスト69式*9と言われるドノーマルの初期型だ。しかしアーマードコアを外装だけ見て判断するなどド素人。晶はメンテナンスベッドに備え付けられているステータスモニターでアセンブル情報を呼び出した。

 

「やっぱり、中身は良いのに交換しているみたいだな」

 

 ジェネレーター、ブースター、ラジエーターは高性能な品に交換されている。探偵という仕事のサポートに使うのだから、外見は目立たせたくないがある程度の性能は欲しい、という考えからの選択だろう。

 

「はい。リア()が色々と助言してくれましたので」

 

 リアがレイラに色々教えている光景を想像して、内心でほっこりしてしまう。姉妹の仲が良いのは良い事だ。

 そしてアーマードコア大好き人間の晶は、当たり前のように尋ねた。

 

「ところで探偵の仕事だと、どんなシチュエーションで使う事が多いんですか? やっぱり張り込みですか?」

「多いシチュエーションではありますね。ISを使えば同等以上の事が出来ますが、張り込みを任せれば、その分の時間を別の事に使えますので。後は張り込みとか尾行をしていると、偶に勘の良い人がいて逃げる事があるので先回りさせるとかですね」

「なるほどなるほど」

 

 アーマードコアに搭載されているのは、人の言葉を解する柔軟なAIだ。ある程度大雑把な指示でも遂行してくれるので、確かにそういうシチュエーションでも役立つだろう。

 ここで晶はふと思った。街中をアーマードコアが走ったり、壁を蹴って跳んだり、更に飛んだりする光景というのは、ファンとしては非常に心躍るものがある。だが一般市民にしてみれば治安の乱れと感じるかもしれない。なので、一般の生活に紛れ込んでいても気付かれない、或いは怪しまれない移動手段があれば良いのではないだろうか? だが光学迷彩は論外だ。アレは軍事色が強過ぎる。求められるのは、その場に居ても違和感を抱かれない移動手段………。

 急に考え始めた晶にレイラが声をかけようとすると、小太り眼鏡おじさんが止めた。

 

「ストップ。社長がこの状態になると、大体何か面白い事を考えているので少し待ってみて下さい」

「そうなのですか?」

「ええ」

 

 そうして暫くすると、晶が尋ねた。

 

「レイラさん。車って持ってます?」

「ええ。安物の軽ですけど」

「SUVとかバンはどうですか? ああ、失礼。話が飛び過ぎましたね。SUVとかバンの後部座席にアーマードコアを積めるようにして、更にロボタクみたいにアーマードコア側で自動運転出来るようにすれば、人の生活に紛れて移動出来ると思って」

 

 話しながら更に思う。アーマードコアが急速に普及してきている今、遠からず似たような商品が出てくるのは間違いない。なら、先にキサラギから出させてみても良いかもしれない。

 

「なるほど。確かにあれば便利かもしれませんね」

「よし。じゃあ早速車を選んでくれないか」

「え?」

 

 戸惑う本人を余所に、晶は空間ウインドウを複数展開して様々なメーカーのパンフレット情報を表示させる。そして続けた。

 

「俺もどんな使い勝手か知りたいから、車代と改造費用は出す。――――――お前達。さっき言った機能と、探偵業に必要な機能を一般車に詰め込んだらどうなるかっていう試作モデルを作って欲しい。好きに改造して良いけど、一般車の範疇でな」

 

 ショップにいたメカニック連中の目がキラリと光る。

 近くにいた小太り眼鏡おじさんが言った。

 

「ではレイラさん。あと妹のリアさんでしたね。詳しい要求仕様を詰めたいのでこちらに――――――」

「え? え?」

「どういうこと?」

 

 戸惑っている間に2人は事務所へと連れて行かれ、「好きに改造して良い」という魔法の言葉に突き動かされたメカニック連中に、探偵業に必要な機能を根掘り葉掘りしゃぶり尽くすかのように聞かれ始めたのだった。

 社長の晶をほったらかしにして………。

 一般的な会社では大変失礼な事かもしれないが、HENTAI技術者集団にその辺りを求めても仕方がないだろう。

 なので晶はフェルト姉妹がなるべく早く開放される事を祈りながら、帰宅の途についたのだった。

 

 

 

 ◇

 

 

 

 数日後、晶は社長室で地球各国の動向について確認していた。内政はセシリアに任せているが、上がってくる報告を聞くにしろ、相談をするにしろ、何かを考える為には下地が必要だからだ。

 そうして確認していく中で、中国の情報が出てきた。

 内政が荒れているのは予想通りだが、思っていたほどではない。

 クーデターで国家主席の座を強奪した亡国機業の元工作員、梁 白麗(リャン パイリー)は思いのほか上手くやっているようだ*10

 尤も、本人はとても恨まれて大変だろう。以前、更識経由で下した「誰の目にも明らかな形で中国を生まれ変わらせろ」という命令は、中国国内のあらゆる既得権益に喧嘩を売るのとイコールだからだ。

 まず原子力発電で賄っていた電力は全てカラードからの電力供給に変更して原子炉を停止させ、既存の上下水道も管理を外国企業に移管した上で全面的に作り直し、国の根幹である戸籍管理も全面的にカラードの戸籍管理サービス利用に切り替え、共産党が行っていた政策決定もカラードの政策提案サービスを叩き台とする形に変更されている。無論、政策を吟味するのは白麗(パイリー)の意向を忠実に理解している者達だ。更に金食い虫の軍は陸空宙の定数を1/5に削減、海軍は外洋展開能力の削減etcetc。

 これまでの国という単位でこの行いを見た場合、国力低下どころの話ではない。このため口の悪い者達は、彼女の事を“売国皇帝”と呼んでいた。

 一応大幅な軍縮で浮いた金を国内の自然環境の再生、保険医療制度の充実、国民に文化人としての教育を施すことなどに使っているのだが、口の悪い者達はそういう事には一切触れずに彼女を罵り続けていた。しかし一般市民レベルでは歓迎する者も多く、これに焦った者達は毎日のように暗殺者を送り込んでいたが、これまでのところ傷一つ負わせられていない。

 そんな状況下にある彼女は月に1回、専用ISメンテナンスの為にカラードを訪れていた。中国国内で行えば、ISメンテナンス中に暗殺される危険性が非常に高いからだ。自身を護る方策としては至極真っ当だろう。

 が、晶は最近思うようになった。コイツ、メンテナンスという理由で息抜きに来ていないか? というのもメンテナンスが終わった後、1~2日程度は必ず日本にいるのだ。護衛という名の監視を複数人張り付けているが、誰かと接触している様子は無い。専用ISはこちらでメンテナンスしているので、しっかり色々仕込んでいるが、何か悪さをしている様子もない。下町で食べ歩きしたり買い物をしたり………いや、今は情報収集の段階なのかもしれないが、現状ではそう思えてしまう程に何もしていない。

 護衛という名の監視から送られてきた行動レポートを見てみる。写真付きだ。

                               

 ―――レポートに添付されている梁 白麗の写真―――

                               

 XINN様より頂きました。ありがとうございます!!

 

【挿絵表示】

 

                               

 ―――レポートに添付されている梁 白麗の写真―――

                               

 豊かな起伏が良く分かる上に深いスリットが入っているチャイナ服という、国家首席が着る服としては些か以上に煽情的だ。レポートによれば個人営業の店を渡り歩いている最中に、気に入った服を買ってそのまま着用した、となっている。

 一応張り付けている護衛が、品性という意味で別の服にした方が良いと指摘したようだが、彼女は何ら気にしなかったようだった。

 晶は思う。元工作員という背景から行動の意図を考えるなら、服装程度で舐めてくれる相手がいるなら楽、意図的に攻撃材料を与える事で炙り出したい相手がいる………だろうか? 無くは無いかもしれないが、服装を見た奴らが娼婦とか毒婦とか言いそうな気がする。メリットよりもデメリットが勝るのではないだろうか? いや、既に売国皇帝と呼ばれているのだ。今更、多少(?)政敵が増えたところで何とも無いという考えだろうか?

 暫し考えたが、晶は途中でどうでも良い思った。下した命令をやり切った。つまり中国を誰の目にも明らかな形で生まれ変わらせて、尚且つ生きていたらそのまま中国をくれてやっても良いが、途中で力尽きたならそれまでのこと。それだけなのだ。

 そんな事を思いながら、晶は地球各国の動向を確認していったのだった。

 

 

 

 ◇

 

 

 

 数日後のこと。カラードのISパイロット専用食堂。

 美女しかいないという世の男性諸君にとっては夢のような食堂で、クロエ、蘭、リアの3人がランチをしていた。

 学生時代からの付き合いで、今でもこうして一緒に食事をする事があるのだ。

 

「そう言えばリアのお姉さんって、もう引っ越してきたの?」

「うん。この前、荷ほどきを手伝いに行ってきた」

 

 蘭の言葉にリアは肯いて答えた。次いでクロエが尋ねる。

 

「確か探偵って言ってたけど、新しい場所だと色々大変じゃないかしら?」

「お姉ちゃんこっちにも仕事の伝手があるって言ってたから大丈夫だと思う。この前同じようなこと聞いたら、もう仕事受けてるって」

 

 伝手とは篠ノ之束のことだが、こんな場所で言う訳にもいかないので濁していた。そして伝手の話を続けるとボロが出てしまいそうなので、リアは話題を変える事にした。

 

「でもこっちの下町にある改造屋さんって凄いのね。お姉ちゃん仕事で使う車を買ったんだけど、その改造屋さんにお願いしたら、なんか、こう、007のボンドカー並に改造されちゃって」

 

 この一言でクロエは改造をしたのが何処かわかった。お義兄様が時折行く、あのお店だ。一応確認してみる。

 

「ねぇ。そのお店って、――――――というところかしら?」

「あ、正解。知ってたの」

「ええ。腕は確かなところよ。性格がすこーーし独特かもしれないけど」

「うん。とっても独特だった。車に求める要求仕様を聞かれて、3時間くらい帰れなかったから」

「お疲れ様。でも良いのが出来ると思うわよ」

 

 ここで蘭が口を挟んだ。

 

「2人だけ知っててズルい。今度私にも教えてよ。そんなに良い腕なら、何か小道具作るの頼むことあるかもしれないし」

 

 クロエが答えた。

 

「良いけど、本当に独特な人達だから心しておいてね」

 

 蘭の希望は、クロエやリアが案内する前に叶えられる事になる。

 所属しているレスキュー部門に、先日晶が頼んでいたレスキュー用の小道具が届いたのだが、その評価結果を直接持って行く事になったためだ。

 その場でメカヲタ共に根掘り葉掘りこれでもかと詰め寄られるのは、また別のお話である。

                               

 ―――メカヲタ共に囲まれるフェルト姉妹―――

                               

 XINN様より頂きました。感謝です!!

 諸事情により途中挿入だと都合が悪いので、

 一番最後に追加してます。

 

【挿絵表示】

 

                               

 ―――メカヲタ共に囲まれるフェルト姉妹―――

                               

 

 

 第226話に続く

 

 

 

*1
第220話にて。

*2
番外編第13話にてナレーション解体されています。

*3
完成した場合の全幅が4000メートル。

*4
初登場は第224話。イラスト有りです。

*5
現代の超大型原油タンカー (ULCC: Ultra Large Crude Carrier) は、全長1,300 フィート(400 m)。wikiより

*6
第210話にて。

*7
番外編 第02話にイラスト有ります。

*8
詳しくは第197話にて。

*9
グーグルさんで“クレスト69式”とググると出てきます。

*10
詳しくは第211話にて。




晶くんはアーマードコアショップが出来てメチャメチャ喜んでいるでしょう。因みに秘書さんには完全にバレています。
が、社長としての仕事はしていますので、「仕方ないですね」とお目こぼししてもらっている感じでしょうか。
あとは久しぶりに登場の白麗さん。やってる事がやっている事なので、中国国内の既得権益層には超絶嫌われています。ですが普通の生活が大事という人達にはそれなりに支持されている感じでしょうか。尤も本人は束と晶に全力で尻尾を振る気なので、そんな事は欠片も気にしていなかったりします。なので国内の邪魔者は容赦なく叩き潰していく暴君スタイルです。
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