インフィニット・ストラトス ~迷い込んだイレギュラー~   作:S-MIST

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ミッションの前段階。
何やら色々と動き出しています。


第226話 追われる者(IS学園卒業3年目の1月中旬~下旬)(イラスト有り)

  

 地球文明がカラードによる統一政府の樹立や移民に向けて動いている頃。

 宇宙(そら)の方でも動きが見られていた。但し、平和的な動きではない。

 切っ掛けは約1ヵ月程前に、秘密裏に行われた第6回外宇宙ミッションにまで遡る*1

 そのミッションで救出されたアラライルの友人、“翼の眷族”の引退した元大使によって危険な情報がもたらされたからだ。

 

 ―――アラライルの執務室。

 

『それは、本当ですか?』

 

 部屋の中央に立体投影されている元上司の中央議員に、アラライルは聞き返してしまった。

 予想していたものの1つだが、出来れば外れて欲しかった内容だ。

 

『間違いない。証言を元に情報部が動いて確認した』

『………なるほど』

 

 アラライルは相槌を打ちながら考えを整理する。

 束博士やスノー大使の協力があったお陰で、“翼の眷族”強硬派の狙いは推測出来ていた。2人と情報共有した時点*2では推測でしかなかったが、今聞いた話を合わせれば確定と言って良いだろう。“翼の眷族”穏健派と“蟲の眷族”が共同開発している資源採掘惑星を、対外的には合法的かつ正当な理由の下に接収しようとしている。

 その為に“蟲の眷族”が良からぬ事を企んでいるという状況証拠をつくり陥れるという、非常に手間暇かかる工作と露見した場合のリスクを負ってまで行った理由も分からなくはない。なにせ資源採掘惑星から産出される鉱石は、イプシロン1というエネルギー変換率100%の結晶化した反物質だ。強力な戦略物資だけに、独占出来れば政治・経済・軍事と多くの面で選択肢が増える。また工作が失敗した場合に備えて、息の掛かった艦隊を準備していたのも悪くない。接収さえしてしまえば、大体の事はどうにかなるからだ。

 仮定の話になるが、友人を“首座の眷族”に救出されなければ目論みは成功していただろう。

 つまり強硬派は未だに、資源採掘惑星を接収出来ていない。

 友人の救出で情報を得た“首座の眷族”が、“蟲の眷族”の支援に動いたからだ。“翼の眷族”側をどうにかしようとすると内政干渉で色々面倒な事になるが、嵌められようとしていた“蟲の眷族”を助けるという形なら、取れる手段は幾つかある。

 今回の外交であった一場面としては、“蟲の眷族”が良からぬ事を企んでいるように見えるという“翼の眷族”強硬派の言い分に対して、“首座の眷族”は次のように返していた。

 

『それが誤認による勘違いでないか一緒に検証してみましょう。あと何故かそちらの艦隊が近くにいますが、偶発的な間違いがあってはいけませんからね。念の為に引いてもらった方がお互いのためかと』

 

 この言葉に合わせて、“首座の眷族”は辺境方面軍の遊撃艦隊に移動命令を下していた。実際に衝突するような事態にはしたくないが、イプシロン1を独占されるのは“首座の眷族”としても都合が悪いので、見せ札というやつだ。

 そしてこの見せ札は功を奏して、強硬派の艦隊は資源採掘惑星のある星系から一時的に下がっていた。尤も偵察によればスターゲートを数個越えた先にはいるようなので、まだまだ安心出来るような状況ではない。

 また外交的な限界というのもあった。救出した友人から得られた情報では、“翼の眷族”政権中枢の穏健派が次々と追われていくのを止められなかったのだ。

 恐らく一気に事を成すために、入念な準備をしていたのだろう。鮮やかとすら言える。

                               

 ―――ここまでが、先日までの状況だ。

                               

 今しがた元上司の中央議員からもたらされた情報によれば、政権中枢から追われた穏健派の筆頭は、辺境惑星での隠居生活を余儀なくされているという。地上生活という重力の底に落としてしまえば、星そのものが牢獄代わりになるので事実上の軟禁だ。これに加えて主要な側近、政治的な盟友、肉親、親族、ほぼ全て押さえられたとなれば、政権の安定や舵取りといった問題はあるにせよ、政権は掌握されたと考えて良いだろう。

 実際、“首座の眷族”の情報部も同じ判断を下している。だが、少し様子がおかしいという。

 強硬派の連中、誰かを探しているようなのだ。

 

(誰か、とは誰だろうか?)

 

 アラライルの思考は尤もな疑問へと移る。

 主要な側近は押さえられた。政治的な盟友も押さえられた。肉親も押さえられた。親族も押さえられた。友人? ここまで鮮やかに押さえた強硬派がそんなヘマをするだろうか? 押さえてなくても監視はしているだろう。分からない。が、何かが引っ掛かる。辺境議員の時に何か聞いたような気が………。

 暫し考え、ふと思い出した。

 

『そういえば押さえられた者達の中に、筆頭の孫娘はいませんでしたか?』

『孫娘? 少し待て――――――いや、完全なリストではないが、こちらでは掴んでいないな』

 

 “首座の眷族”の情報部とて万能ではない。押さえられた人物全てを網羅出来ている訳ではないが、それでもある程度の動向は掴んでいる。

 元上司の中央議員は、手元の情報を再確認してから答えた。

 

『なるほど。もしかしたら、探しているのは孫娘かもしれませんね』

『何故、そう思う?』

『辺境議員時代に聞いた話ですが、筆頭の孫娘さんは好奇心旺盛で、言葉を飾らずに言えば大変なお転婆らしいです。直接会った事はありませんが、豪勢な旅行で大金を溶かしたと思えば、ボランティアで誰かに献身してみたり、辺境宇宙を飛び回って冒険者紛いのことをしてみたり、興味のある事は何でもやってみる、という性格のようです。筆頭の孫娘ともなれば上流階級と言って良いですが、世間一般の御令嬢ではありませんね。そして教育に厳しい両親とは折り合いが悪かったらしいですが、筆頭には随分と可愛がられていたらしいので、もしかしたら何かを託されたのかもしれません。サバイバビリティのある身内なら、有り得なくもないでしょう』

『確かに、可能性としては有り得るか』

 

 元上司の中央議員はアラライルの言葉を認め、孫娘のデータを呼び出した。重要人物である筆頭に近しいなら、情報部が平時から情報収集している筈だからだ。すぐに2人の前に情報が表示される。しかし、思っていた以上に少なかった。

 理由は分からなくもない。あちらこちらを飛び回り居場所が把握し辛い。それでいて司法機関に厄介になるような素行不良という訳でもない。御令嬢としては大変にお転婆だが、政治的な意味では大人しいのだ。これで素行不良であれば使い道が生まれる可能性もあり、重要観察対象になっていたかもしれないが、広い宇宙(そら)では他に優先度の高い案件など幾らでもある。結果として優先度が下げられていたため、学歴とホロデータ(写真)くらいしかない。

 因みに地球人の美的感覚で見ても、十分な美人さんである。

 ボリュームのある銀髪。優しさと活発さが同居した整った容姿。均整の取れた四肢にバランスの良い起伏*3。そして“翼の眷族”の特徴でもある背中の翼。

 情報を確認したアラライルは、取り敢えずの一手を打つ事にした。

 

『念の為にスターゲートハイウェイの監視システムに、重要保護対象として彼女のデータを入れておきましょう』

 

 当然の話だが、交通量や利用者が極めて多くなる事が始めから予想されていたスターゲートハイウェイには、多種多様な安全管理システムが導入されている。監視カメラやその他センサー情報から人物を特定する機能などその最たるものだ。

 

『そうだな。あれほど目立つところに来るような事は無いと思うが、万一という事もある』

『はい』

 

 こうしてアラライルの方でも“翼の眷族”の情勢は掴んでいたのだが、事態の推移は彼が予想していたよりも遥かに早かった。

 

 

 

 ◇

 

 

 

 ほぼ同時刻。

 カラード宇宙開発部門長代理のシャルロットは、“獣の眷族”の領域にある2号支社から相談を受けていた。

 空間ウインドウに映るのは、2号支社の支社長を務める犬耳黒髪ロングストレートヘアに真紅の瞳を持つ若い女性だ。地球人の美的感覚から言っても大変な美人さんと言えるだろう。着用しているのはカラードの制服だが、支社が惑星上の多少気温の高い地域にあるらしく、新たにデザインされた半袖ミニスカート(マブラブ国連軍A型軍装)という活動的な服装だ。

 シャルロットが尋ねた。

 

『相談という事ですが、どのような事でしょうか? 少なくとも支社の運営に関して、何か問題があるような状況では無かったと思いますが』

『はい。運営に関する事ではありません。ただ、こちらでは判断しかねる依頼を持ち込まれまして』

 

 シャルロットは2号支社の支社長を理性的な人物と思っていた。その彼女が判断に迷ったというのだから、余程のことだろう。気を引き締めて、先を促す。

 

『分かりました。聞かせて下さい』

『はい。端的に言えば護送依頼なのですが、詳細は本社に直接話したいの一点張りでして。無論これだけだったら断ったのですが、依頼人が“翼の眷族”という事と、提示された報酬額が個人が支払う額としては余りにも高額でして。口座残高も確認しましたが、支払い能力は本物です』

 

 ここでシャルロットは支社長が相談しようと思った背景を理解した。2号支社には以前、「第三者に大きな興味を持って動いている、と受け取られないように動いて下さい」と言って“翼の眷族”の動きを調べてもらっていた*4。そこに高額な報酬を支払える“翼の眷族”の依頼人が来たとなれば、色々疑って当然だろう。

 シャルロットは可能性を検証していく為に会話を続けた。

 

『高額ということですが、どれくらいの額でしょうか?』

『10億IKです』

 

 宇宙(そら)の一般人の平均的な年収が100IK。戦艦級に分類される600~900メートル級の艦が、船体価格のみで約3億IK。武装込みなら4~6億IK。なるほど。確かに高額と言えるだろう。しかし晶の教えを受けた者なら、報酬額だけを見て決めるような真似はしない。依頼を受けるなら、常に、どんな時でも、“騙して悪いが”は警戒しろと教え込まれているからだ。

 しかし、まだ判断はしない。警戒する必要はあるが、判断はもっと情報を集めてからだ。

 

『依頼してきた“翼の眷族”はどんな方でしたか? あ、その前に、直接対面しての依頼でしたか? それともオンラインの画面越しですか?』

『直接です。そしてレイシーと名乗っていますが、身元照会まではしていません。訳ありだった場合、“翼の眷族”側の情報ネットワークにアクセスすると拙い事になりかねないと判断しました』

『良い判断だと思います。因みに、口座があるのは何処ですか?』

『“首座の眷族”にある星間銀行です。残高確認をしただけなので、“翼の眷族”側に情報が流れている事はないかと。あと人物像ですが、これは来た時の映像を見てもらった方が早いかと思います』

 

 シャルロットの前に新たな空間ウインドウが展開され、2号支社に依頼主が来た時の様子が映し出された。恐らく支払い能力を確認した後なのだろう。応接用の個室に案内されている。

 髪形はセミロングよりも少し長いストレートで色は淡い紫。左右に髪留めらしき物を付けている。表情には乏しいが整った顔立ちで、身を包んでいるのは黒と白を基調としたカジュアルスーツのような服だが、地球の物とは大きく異なっている部分があった。翼という人類とは異なる器官があるためか、背中側が大きく開いている。そして服の起伏からみるに、恐らく女性体だろう。加えて入り口から応接用のイスまで歩く姿、イスに座っている姿、どれも背筋が伸びていて品があるように見える。更に付け加えるなら重心がブレていない。地球人の感覚で言うなら、相応の教育を受けた者だ*5

 尤も、映像から得られた情報はこの程度だった。とある場所から、とある人物を運んで欲しい。それ以上は本社に直接と、頑なに譲らなかったのだ。

 シャルロットは暫し考え込んだ後に答えた。

 

『分かりました。私が対応します。まだ支社にいますか?』

『待つというので待たせています』

『では、繋いで下さい』

『分かりました』

 

 そうしてシャルロットの前に新たな空間ウインドウが展開されると、話題にしていた依頼主が映し出された。

 まずは、挨拶をする。

 

『初めまして。私はカラード本社宇宙開発部門長代理のシャルロット・デュノアです』

『本社の………。要望を聞き入れてくれて、ありがとうございます。私はレイシーと申します』

『自己紹介ありがとうございます。さて、詳細は直接話したいとの事ですが、どのようなご用件でしょうか?』

 

 まずは当たり障りの無い言葉と営業用スマイルで反応を見てみる。すると、レイシーは話し始めた。

 

『とある人を、“首座の眷族”か“獣の眷族”の領域に、それが叶わないなら大使館に送り届けてほしいのです』

 

 宇宙(そら)においても、大使館は治外法権だ。幾つかの可能性が脳裏を過ぎる。

 シャルロットは続けて尋ねた。

 

『誰を、何処から、でしょうか?』

 

 とある人と言葉を濁していたのだから、相手としては秘密のまま送り届けてほしいのだろう。しかし仮に依頼を受けるとして、誰を、何処から何処まで、というのは危険度評価に関わる重要な部分だ。取り返しのつかない事態を避ける為にも必要な情報であり、相手が話さないなら受ける訳にはいかない。

 するとレイシーは確認してきた。

 

『ここでの話が外に漏れる事はありませんか?』

『カラードの成り立ちは民間軍事企業(PMC)です。依頼情報の管理には常に気を使っています』

『分かりました。ではお話します。送り届けて欲しいのは、この方です』

 

 レイシーが手首に着けていたブレスレットを操作すると、彼女の前に“翼の眷族”の女性が立体投影された。

 ボリュームのある銀髪に、優しさと活発さが同居した整った容姿をしている。

 説明が続けられた。

 

『“翼の眷族”穏健派筆頭の孫娘、クラレス・イル・ディアニス・カルニア様です』

 

 そのミドルネームとファミリーネームは、アラライル大使やスノー大使経由で入ってきた情報のみならず、“首座の眷族”の領域にある1号支社と“獣の眷族”の領域にある2号支社からも入ってきていた。

 正確には穏健派筆頭のカルレス・イル・ディアニス・カルニアの情報として。

 シャルロットの脳裏に亡命という言葉が過ぎる。情勢を考えれば応援要請というのも有り得るだろうか? 或いは何か別の目的があるかもしれない。ただどれだったとしても、対応に細心の注意を要する危険な仕事になるのは間違いない。

 考えが断るべきという方に傾いていくが、判断は聞ける情報を聞いてからにするべきだろう。相手が答えないなら、それまでの話だ。

 

『何処から、でしょうか?』

 

 レイシーはもう一度手首のブレスレットを操作して、今度は銀河系の勢力図を表示させた。次いで星系間を繋ぐ常設型スターゲートの航路図が重ねられた後、“翼の眷族”の領域最外縁部の更に外側、何処の勢力圏にも属していない未開発領域にあるとある星系が強調表示される。そして強調表示された星系のとある惑星が、勢力図とは別表示で拡大表示された。

 

『この惑星からです』

 

 示された場所は“首座の眷族”の領域の反対側。“獣の眷族”の領域も同じ位遠い。地球からも遠い。だが一番気になったのは、常設型スターゲートが繋がっていない星系にいるということだ。つまり独力で星系間を移動する手段を持っているということ。高性能ワープドライブ艦だろうか? スターゲート艦だろうか? どちらにせよ、常設型スターゲートを使わないで移動する手段があるのなら、そのまま目的地に向かえば良いはずだ。

 疑問に思ったシャルロットは尋ねてみた。

 

『クラレスさんが使っているのは、高性能ワープドライブ艦でしょうか?』

『はい』

『ならこうして依頼せずとも、独力で目的地に向かわれれば良かったのではないでしょうか?』

『それが出来れば良かったのですが、どうやっても船の航続距離が足りません』

 

 言われて、シャルロットは納得した。

 カラードでも旧式の高性能ワープドライブ艦(スコーピオン)を運用しているが、星系間を跳び越える高性能ワープドライブはエネルギー消費が激しい。クラレスさんの乗っている船の性能がどの程度かは分からないが、現在カラードが入手している宇宙(そら)の標準的な高性能ワープドライブ艦の性能で考えた場合、“翼の眷族”の領域を突っ切って最短で“首座の眷族”の領域に向かうとしても、複数回の補給が必要になる。状況を考えればステーションへの入港は自殺行為だろう。“獣の眷族”の領域に向かうとしても大して変わらない。他文明の領域を経由して向かうという手段もあるが、現在位置からではどうやっても治安が全く確保されていない未開発領域を通り抜ける必要がある。しかも通り抜けられたとして、船が標準的な性能だと仮定した場合、エネルギーは枯渇寸前だろう。もし補給が出来なければその時点で詰みだ。

 なお宇宙(そら)の常識として、星系間を単独で行き来可能な高性能ワープドライブ艦は、同クラスの通常ワープドライブ艦に比べて、性能でもコスト面でも劣るという明確な欠点がある。にも関わらず廃れない理由の1つに、常設型スターゲートの繋がっていない未開発領域の探索に使われる、というのがあった。

 往来があるかも分からない星系に常設型スターゲートを配置するよりも、高性能ワープドライブ艦で調査に赴き使えそうな星系なら配置する、という方が効率的だからだ。

 

 ―――閑話休題。

 

 ここで更なる疑問が出てくる。

 何故レイシーだけが、“獣の眷族”の領域にある2号支社に来たのだろうか? 一緒に移動すれば、色々な手間が省けた筈だ。

 

『純粋な疑問なのですが、どうして貴女だけが“獣の眷族”の領域に来て依頼をしているのでしょうか? 御二人の関係は知りませんし、目的地で何をするのかはさておき、一緒に来ていれば、今回のような依頼をせずに済んだと思うのですが』

『仰る通り、本当なら2人で“首座の眷族”か“獣の眷族”の領域に行き、そこで次の行動を起こす筈でした。それが出来なかったのは検問が思っていた以上に早く敷かれた事と、クラレス様が使っている船が知られているのもあって、全力で逃げなければならなかったからです。そして私だけが来た理由は、私だけなら追っ手を撒いて此処まで来れる目算があったからです。なので潜伏する場所を決めて、クラレス様はそこへ。私は護送依頼を出す為に別れたという訳です』

 

 話を聞く限り辻褄は合っているように思える。しかし辻褄が合っている事と相手を信用する事は別問題だ。

 

『1つの文明内部に敷かれた警戒網を独力で突破して他の文明にまで辿り着ける者が、只の友人や護衛である筈もないと思うのですが、正直にお答えください。何者ですか?』

 

 レイシーは一息ついてから、小さく溜め息をついた。

 

『私がここで正直に言ったとしても、そちらには確認手段が無いと思うのですが?』

 

 シャルロットはニッコリと笑いながら答えた。

 

『そちらが身元や所属を証明できる物を一緒に提示してくれれば、何も問題は無いでしょう』

『もし出せなければ?』

『社長の言葉ですが、我々にとって武力は商品です。安売りはしません』

 

 数瞬笑顔の睨み合いが続いた後、レイシーが折れた。シャルロットが知る由もないことだが、レイシーにとって、この依頼が最後の拠り所だったのだ。

 

『………分かりました。お答えします。私は“翼の眷族”穏健派筆頭カルレス・イル・ディアニス・カルニア様の私兵の1人です。身分証のような物はありませんが、地球は“首座の眷族”と良い関係を築いていたと記憶しています。外交経由でカルレス様の私兵No.005がいると伝えれば、恐らく嘘では無いと判断してくれるでしょう』

 

 シャルロットは今の話をコアネットワークで晶に伝えると、そのままこちら側の話を続ける事にした。

 聞いておきたい事はまだあるのだ。

 

『分かりました。では仮に貴女が信用できる人だったとして、予定していた次の行動とは応援要請でしょうか? それともクラレスさんの亡命でしょうか? 或いは別の狙いがあるなら、先に教えて下さい。目的次第ではお断りしなければなりませんので』

『前者です』

『応援要請だけですか? 他の目的は一切ないと?』

『もしかしたらカルレス様には何かお考えがあるのかもしれませんが、少なくとも私は聞いていません』

『なるほど』

 

 ここでシャルロットは、地球と宇宙(そら)で感性が違うかもしれないので確認しておく事にした。

 

『念の為の確認なのですが、応援要請は貴女が行くよりも、穏健派筆頭のカルレス・イル・ディアニス・カルニアの孫娘であるクラレスさんが行った方が、象徴的な意味で良いという事でしょうか?』

『少なくとも私が行くよりは、何かしらの対応を引き出せるでしょう』

 

 どうやら宇宙(そら)においても、権力者の血縁というのは何かしらの役割を期待されるものらしい。

 また別の考えが脳裏を過ぎる。宇宙(そら)は超高速通信が発達しているのだから、通信でも目的は達成出来るのではないだろうか、というものだ。しかしすぐに悪手だと気付く。“翼の眷族”の領域内部からの通信では、インフラを押さえているのがどちらの勢力かは分からないが、途中で遮断されてしまう可能性が高い。そして内部からの通信では、位置情報がバレやすい。欺瞞する方法はあるだろうが、恐らくそれなりの準備は必要だろう。領域の外からならやれる可能性は高くなるが、先程教えてくれたクラリスさんの現在位置は、治安が全く確保されていない未開発領域だ。別のものを呼び寄せてしまう可能性もあるし、やれば高確率で強硬派に位置がばれる。補給の当てがない逃亡など自殺行為と変わらない。

 様々な可能性を検討しつつ、シャルロットは話を続けた。

 

『分かりました。では最後の確認です。貴女は常設型スターゲートを使っての移動が難しいと認識した上で、クラレスさんの護送依頼をカラードに持ち込んだ。そう思って構いませんか? 地球文明の遥か先を行く“首座の眷族”や“獣の眷族”ではなく』

『そうです』

『つまり潜行戦隊が動く事を期待して、ですね』

 

 これにレイシーはハッキリと肯いた。

 

『こちらを随分と高く買ってくれているようで、ありがとうございます。ただ、1つ残念な事をお伝えしなければなりません』

『残念なこと、ですか?』

『はい。報酬は10億IKということですが、足りません』

『なっ!?』

 

 これまで殆ど表情を変えなかったレイシーが、明確に驚きの表情を浮かべる。だがすぐに冷静な表情に戻り尋ねてきた。

 

『決して少なくない額の筈です。どのような理由からでしょうか?』

『確かに10億IKと言えば、新造された戦艦級をフル装備で購入してなお余る程の額です。十分、大金と言えると思います。ですが逆を言えば、その程度の額でしかありません。惑星表面へのホットドロップという最高難度の強襲戦術を使える潜行戦隊を、戦艦一隻程度の額で動かせると思われては困ります』

 

 優しさ溢れる善人であれば、酷い言葉だと思うだろう。しかしシャルロットとしては、潜行戦隊を安く見られるような交渉を行う訳にはいかなかった。

 お金が全てではないが、多くの者が基準とする目安でもあるのだ。下手な安請け合いは、今後自分達を安く使える便利屋として消耗させる切っ掛けになってしまう。

 だがお金だけを求めてしまっては、品性を疑われてしまう。既に公な立場を持つカラードにとって、それは無視出来ない要素なのだ。

 なのでシャルロットは相手の負担を減らしつつ、カラードにとって価値あるものを貰う、という選択をした。

 言葉が続けられる。

 

『ただそちらにとっては幸いな事に、カラードは今欲しているものがあります。それを提供して頂けるのでしたら、この依頼を社長の耳に入れたいと思います』

『それは?』

『10キロメートル級の輸送艦です。中古で構いません』

 

 輸送艦は新品の20キロメートル級で約20億IK。半分のサイズでかつ中古なら、値段としては10億IK前後だろう。

 これはテラフォーミング後の惑星開発を見越してのことだった。必要物資を宇宙(そら)で多く使われている400メートル級輸送艦でピストン輸送しても良いのだが、時間効率を考えれば大量輸送可能な手段を確保しておいた方が良いという判断だ。またある程度開発が進んだ後は、資源や工業品を地球に運ぶ事もあるだろう。

 今入手しておけばパイロット育成にも使える。実物があれば様々な使い方の案も出てくるだろう。10億IK以上の価値がある筈だ。

 

『分かりました。依頼成功の際には、良い物を見繕わせてもらいたいと思います』

『お願いしますね』

 

 こうした交渉の末に、シャルロットは依頼を晶へと伝えたのだった。

 

 

 

 ◇

 

 

 

 一方その頃。

 コアネットワークで連絡を受けた晶はすぐに束に話し、間を置かずに秘匿回線でアラライルへと繋がっていた。

 空間ウインドウに映るアラライルが、驚いたような表情を浮かべながら口を開く。

 

『穏健派筆頭の私兵、No.005? ………通信で話しているなら、映像をこちらに回してくれませんか』

 

 新しく展開された空間ウインドウに、シャルロットと会話中のレイシーが映し出される。

 それを見てアラライルが言った。

 

『恐らく本物でしょう。そして孫娘に005を付けたという事は、“翼の眷族”の内部は相当に拙いようですね』

『どういうことですか?』

 

 束が尋ねる。

 

『誤解を恐れずに言うなら筆頭にとって私兵の001~005は、束博士にとってのNEXT(N-WGⅨ/IS)と同じ。所謂切り札です。そして彼女なら、警戒網を突破出来たのも納得です』

『何か特殊な能力の持ち主という事ですか?』

『コロニーを単独で掌握できる超高レベルハッカーですよ』

 

 アラライルは言葉にしなかったが、私兵001~005の動向は“首座の眷族”としても最優先監視対象だった。にも関わらず、束博士から連絡を受けるまで005の動向を全く掴めていなかった。道中の電子システムを片っ端からハックして、他者に違和感を抱かせないレベルで改竄していったのだろう。恐るべき能力と言えた。人格に問題が無いなら部下に欲しいくらいだ。次に思うのは、001~004の動向だ。005とは別方面で強力な能力の持ち主達なので、もし強硬派の手に落ちていたら、正直ちょっと面倒な事になる。

 束は返事を聞きながら、晶とコアネットワークで相談していた。

 

(どうしようか?)

(俺は受けても良いと思う。シャルが提案した成功報酬も今後を考えれば悪くない。むしろ良い)

(そうだね。10億ぽっちでこっちを自由に動かせると思われちゃ困るけど、こっちが必要としている物を貰うっていう形なら悪くないと思う。今後誰かが同じような提案をしてきても、こっちが要らないと判断したら断れるし、必要だと思えば受ければ良い。主導権はこっちだもんね)

(なら、招集をかけるぞ)

(うん)

 

 こうして相談を終えた束は、アラライルの言葉に答えた。

 

『なるほど。それほどの人物をつけるという事は、孫娘さんは大事にされているんですね。もしくは決して失敗出来ない一手を託されたか』

 

 アラライルが答える。

 

『会話を聞く限りこちらへの応援要請が目的のようですから、思いの比率としては後者が高いでしょう。前者が無いとは言いませんが』

『もう聞いているのですから、手助けはしてあげないのですか?』

 

 取り敢えず口にした束だが、返答は分かり切っていた。

 

『005が言っている通り、私兵が訴えるよりも孫娘が直接訴えてくれた方が、色々とやり易いのですよ。まぁどうしようもなければ考えますが、そちらが護送してくれるなら、こちらは安心して待っていられますので』

『なら安心材料を増やす為に、もし持っているなら、指定された星系の情報を貰えませんか』

 

 指定された星系の情報はシャルロットが005との交渉で既に入手していたが、束は敢えてこの場で頼んだ。現地情報の精度はミッションの成否に直結するため、単一の情報源よりも複数の情報源で精度を上げておこう、という考えからである。

 尤もこの手の情報は調査能力の指標にもなるため、本来であれば簡単には渡せない機密情報だ。しかしアラライルの返答は実にアッサリとしたものだった。

 

『良いですよ。1時間以内にこの回線で送ります』

 

 理由は簡単だ。孫娘からの正式な応援要請となれば、とれる手段が格段に増える。“翼の眷族”内部への強力な干渉手段だ。それを確実なものとする為なら、未開発領域の情報程度安いものだろう。

 こうして依頼を受け、現地の情報を仕入れたカラードは、ミッションの為に動き始めたのだった。

                               

 ―――2号支社からの相談/レイシー/クラレス/護送依頼―――

                               

 XINN様より頂きました。感謝です!!

 諸事情により途中挿入だと都合が悪いので、

 一番最後に追加してます。

 

 2号支社からの相談

 

【挿絵表示】

 

 

 “翼の眷族”レイシー

 

【挿絵表示】

 

 

 “翼の眷族”クラレス・イル・ディアニス・カルニア

 

【挿絵表示】

 

 

 護送依頼

 

【挿絵表示】

 

                               

 ―――2号支社からの相談/レイシー/クラレス/護送依頼―――

                               

 

 

 第227話に続く

 

 

 

*1
第222話にて。

*2
第222話時点で情報共有されています。

*3
容姿イメージの元ネタはラングリッサーシリーズのクラレット。162cm/43kg 81/50/79

*4
第221話にて。

*5
容姿イメージの元ネタはビートレスのレイシア。




次回はミッション!!
現段階では護送ミッションという事になっていますが………。
あと元ネタにしたキャラクターも作品も好きな作者です。
ラングリッサーモバイルは途中でぶん投げてしまいましたが………アレむず過ぎです。
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