インフィニット・ストラトス ~迷い込んだイレギュラー~ 作:S-MIST
目につくものは全て………レイヴンやリンクス諸君なら基本ですね。ニッコリ。
“翼の眷族”穏健派筆頭の私兵No.005、レイシーから依頼された護送ミッション。
護送対象は穏健派筆頭の孫娘であるクラレス。彼女が潜伏している場所は、“翼の眷族”の領域最外縁部の更に外側。常設型スターゲートが開通していない、どこの勢力圏にも属していない未開発領域にあるとある惑星。
現地の情報はレイシーとアラライルの2ルートから入手済み。
現状で入手出来る情報は、ほぼ全て入手してあると言って良いだろう。
この状況で晶が懸念しているのは、“翼の眷族”強硬派の捜索部隊との遭遇戦だった。
何故なら強硬派の立場に立てば、逆転の一手を潰す意味でも、穏健派筆頭の心を圧し折る意味でも、孫娘の確保は重要な意味を持つからだ。捜索に力を入れているだろう事は想像に難くない。
このため晶は護送ミッションではなく、戦闘ミッションとしてメンバーを選んでいた。
―――第7回外宇宙ミッションメンバー及び使用艦艇―――
・潜行戦隊第1戦隊(アリコーン1番艦)*1
元々配属されていた人員
今回のミッション用の追加人員
ラウラ・ボーデヴィッヒ
クラリッサ・ハルフォーフ
黒ウサギ隊パワードスーツ部隊
→隊員1名につき
→これによりパワードスーツ部隊のみで
・スコーピオン*4
“首座の眷族”から購入した旧式の高性能ワープドライブ艦。
購入時の取り決めで遠隔操作運用の無人艦。
全長は800メートルと戦艦級に分類される大きさ。
光学迷彩装備。
今回は425mmレールキャノンを8門装備。
・ミミックボックス試作1号艦*5
火力投射用ウェポンプラットフォーム。
流通量が多い400メートル級中古船を独自改良したもの。
遠隔操作運用の無人艦。
主兵装はSDBMミサイル。というかそれしか無い。
戦闘中の再装填は難しいが、240発の一斉発射は強力*6。
アクティブステルス機能は無いが、岩石の殻を被る事で
周囲に溶け込む。
―――第7回外宇宙ミッションメンバー及び使用艦艇―――
そしてブリーフィングルームにISパイロットを集めて、
「どうした?」
「私をメンバーに入れた意図は、
「その通りだ」
晶は答えながら、彼女の努力とその愛機シュヴァルツェア・レーゲンについて思い出す。
何故なら搭載されているAIC*7には、明確な弱点があったからだ。多量の集中力が必要で、複数相手やエネルギー兵器には効果が薄いというものだ。1対1で戦う試合形式なら大きな問題とはならないが、複数の殺意が入り乱れる実際の戦場では、自身どころか味方まで危険に晒しかねない大きな弱点と言えるだろう。
しかし彼女は、年単位の時間をかけて前者2つの克服に成功していた。今の彼女は多対一という数的不利な機動戦の最中ですら、動きを止めずにAICで複数対象を狙える強者なのだ。エネルギー兵器に効果が薄いというのは残ってしまっていたが、これはAICの特性に由来するものなので、パイロット的な努力ではどうしようもない。よって彼女は
「分かった。その際は必ず期待に応えよう。ただ、もう1つ確認したい。クラリッサと黒ウサギのパワードスーツ部隊、それも全機投入とした理由はなんだ?」
「ミッション情報を話してからにしようと思ったが、そうだな。先にそちらから話すか」
晶は一息ついてから言葉を続けた。
「まずクラリッサを選んだのは、パワードスーツ部隊を投入するにあたり、命令系統を重視してのことだ。外宇宙ミッションは何が起きるか分からないからな。いきなりパワードスーツ部隊の上官を変えて、もし意思疎通で不備が生じたら事だろう。そういうリスクは極限まで減らしておきたい。そして次。パワードスーツ部隊全機投入の理由だが、予定ポイントに回収対象がいなくて捜索が必要になった場合に備えてだ。ISのセンサー系は優秀だが――――――」
晶は話しながら手元のコンソールを操作して、部屋の中央にとある星系のとある星の立体映像を表示させた。“翼の眷族”の領域の外側、常設型スターゲートが繋がっていない未開発領域にある星だ。
続いて惑星北半球の山岳地帯にマーカーが付けられ、同時に周辺情報が表示される。
しかし、表示された情報は多く無かった。
惑星全土が雪と氷に閉ざされた極寒の世界。最高気温は常に氷点下。山岳地帯だけに起伏が激しく、センサーだけでは見通せない場所も多い。更に天気は変わり易く、快晴になる事もあれば数分でブリザードが吹き荒れる事もある。簡易観測データによれば、秒速100m/s前後程度の暴風だ。地球で観測された世界最大の瞬間風速がサイクロン「オリビア」に伴う風速113.2m/s(時速408km)なので、仮に人間が呼吸出来る大気だったとしても、生身での活動は非常に難しいだろう。
「――――――こういう地形と気象条件なんだ。純粋に人数がいないと捜索そのものが厳しい」
「なるほど。という事は、アリコーンに搭載しているストレガ*8も使うな?」
「勿論だ。そしてついでにスコーピオンとミミックボックスを投入する理由も話しておこう」
晶は全員を見渡した後、言葉を続けた。
「まずスコーピオンを使う理由は2つだ。1つは依頼主であるレイシーを現場に連れていくため。1つは
クラリッサが挙手して質問許可を求めてきた。
「どうぞ」
「
世の中、依頼してきた者が味方とは限らないのだ。今の段階で考えられる事としては、スコーピオンがハッキングされて勝手に独自行動を取られる可能性、というところだろうか。尤もそれは、遠隔操作で無人艦を運用すると決めた時から想定されていたリスクでもある。よってある程度の対策は既にされていた。
「その通りだが、回収時のトラブルの可能性を考えれば連れて行かないという選択肢も無い。だからここは、ストレートに正攻法でいこうと思う」
「正攻法ですか?」
「始めから言っておくのさ。おかしな事をしたら、艦内の生命維持装置を止める。それでダメなら主機関を自爆ないし撃沈させてこの世とバイバイして貰うってね。その場合はミッション失敗になるが、
「私達は社長がやると言ったらやるのを知っていますが、
晶はニッコリと笑って答えた。
「火遊びがしたいならさせてやれば良い。その代償は本人が支払うんだからな」
「了解しました」
クラリッサが返事をすると、今度は本音が挙手して話し出した。
「しょーちん。私なら一時的に指定された範囲を凪いだ状態に出来るけど、する?」
彼女の専用IS“九尾ノ魂”は、気象コントロール用ISだ。一定時間一定範囲内という条件付きでなら、問題無くやれるだろう。
「現場の気象状況を見てかな。やらなくても対象を回収出来そうなら、すまんが出番無しになる」
「りょ~か~い」
本音は学生時代から変わらぬフワフワした感じで答えた。
晶は一度全員を見渡し、追加の質問が無さそうなので話を続ける事にした。
「さて、じゃあミッションの詳細に入ろう。とは言っても、対象が指定ポイントにいた場合は、何も問題は無い。回収して帰ってきて、アラライルさんのいる大使館にまで送り届ければ良い。問題は、捜索や遭遇戦になった場合だ」
再び手元のコンソールを操作し、山岳地帯にある渓谷にアリコーンとスコーピオンのマーカーが表示される。
「アリコーンもスコーピオンも光学迷彩があるが、地形的な隠蔽効果もあった方が良いだろうという事でこの位置だ。部隊展開後は光学迷彩で遮蔽して待機。で、今表示していないミミックボックスだが、こいつはトラップとして惑星から離れた場所に置いておく」
部屋の中央に星系図が新たに立体投影され、公転軌道から遠く離れた場所にミミックボックスのマーカーが表示された。
「想定している使い方は、第1戦隊が第6回外宇宙ミッションでやったことだな」
第1戦隊の面々が肯いたのを見て、晶は話を続けた。
「話を惑星側に戻すぞ。降下後はパワードスーツ部隊と
話し終えた晶は部屋の中央に立体投影していたものを一度消して、更に言葉を続けた。
「で、遭遇戦になった場合は、俺から細かい事を言ったら足枷にしかならないだろう。だから方針だけ言っておく。ミッションの背景的に、もしかしたら現場で政治的な事を考えてしまうかもしれない。だが、気にしなくて良いぞ。障害になるものは全て粉砕して構わない。問題があればこっちで何とかする。昔から言っている通りだ。専用機持ちが出るのは最終局面。次など無い。全員が生き残って、かつミッションを成功させる。何も変わらない。みんな、頼んだぞ」
これに全員が敬礼をもって答え、ブリーフィングが終了する。
そしてミッションへと赴いて行ったのだった。
◇
一方その頃。今回のミッションで護送対象になっている“翼の眷族”穏健派筆頭の孫娘、クラレス・イル・ディアニス・カルニアは途方に暮れていた。
「これ、どうしよう………」
もしこの場に地球の紳士諸君が居たら、役に立とうと声をかけたに違いない。
ボリュームのある銀髪に、優しさと活発さが同居した整った容姿。均整の取れた四肢にバランスの良い起伏*10。身を包むのは白いISスーツとも言えるもので、背中には“翼の眷族”の特徴でもある翼がある。
そんな彼女が困った顔をしているのだ。しかしこの場にいるのは彼女1人で、彼女が今抱えている問題の解決には、高度な専門知識と専門設備が必要であった。
眼前のモニターに映し出されているのは自身の船のステータスで、項目の半分ほどが真っ赤になっている。
ステーション入港中に追っ手がかかった事が分かり、メンテナンス中に無理矢理出港したので調子が悪かったところに、高性能ワープドライブを起動させて星系間を跳び越え、惑星降下で更に負荷をかけてしまった結果だ。ステルス艦なら
「………………」
暫し考えた彼女は、どうにもならない事はどうにもならないとスパッと考えを切り替える事にした。
幸いな事に生命維持系は生きていて、周囲は雪と氷の世界なので、濾過装置を通せば水に困る事はない。食料は補給したばかりだったのでそれなりに持つ。なら、何をするべきだろうか?
黙ってここで待っているのも良いが、もし追っ手に先に見つけられたら………。この恐怖が、彼女に次の行動を決定させた。
周囲を探索して、逃げられる場所を作っておこう。
早速と必要な物をリストアップしていく。
水分の携帯型濾過装置。携帯食料の残数。予備の通信機。その他簡易拠点を作るのに必要なものを色々。
準備しながら、ふと両親の事を思い出した。立場に相応しい振る舞いをしなさいと余りに煩いので大喧嘩してしまった両親。次に思い出すのは良くしてくれたお爺ちゃん。そしてお爺ちゃんの部下というレイシー。大丈夫だろうか? 最悪の光景が脳裏を過ぎるが、意識的に振り払って準備を進める。今は信じるしかない。出来る事をやるしかない。様々な感情がごちゃ混ぜになって、胸の底からこみ上げてくるものがある。だけど下を向いている暇はない。
そうして準備を整えた彼女は、“翼の眷族”用の強化外骨格を装備。お供のドローンと一緒に雪と氷の世界を探索し始めたのだった。
◇
「事実は小説よりも奇なり」という言葉がある。これは実際に起こる出来事は、フィクションで構成される小説よりも、はるかに複雑で波瀾に富んでいることをいう言葉だが、今回のミッションはまさしくそれであった。
アリコーンとスコーピオンが現地に到着した段階で所属不明の戦艦級2隻―――全長は800メートル。形状は前後に長い曲線構成で、船体前面に傘を思わせる防御ユニットと思われる物がある。同行していた
「どうする?」
ブリッジにいたラウラは鷹月に尋ねた。
立場的な意味ではラウラが最上位だが、今回は目標の護衛戦力として来ているのだ。そんな人間が指揮を取る訳にもいかないだろう。また鷹月の指揮能力を信用している、というのもあった。
鷹月はコアネットワーク通信に切り替えて全員に告げた。
(全員に伝えます。事前のプランは全て破棄。アリコーンはこれより全速力で先行する2隻を追い、先に撃たせた後に撃破します。方法は―――)
今、鷹月が即興で考えた作戦がイメージ化され、コアネットワークで共有される。
(―――
スコーピオンは高性能ワープドライブ艦の常として、船としての性能は高くない。旧式なら尚更だ。しかし狙撃力勝負の長距離砲撃戦なら、まだ使い道はある。
指示は続く。
(ラウラ、クラリッサ、四十院、谷本、夜竹、鏡、本音はVOB装備でカタパルトデッキに。相手が撃ってきたら出撃。黒ウサギパワードスーツ部隊も第一種戦闘配備で待機。降下後、あちらが陸戦部隊を投入してきたら、
こうしている間にもアリコーンは大気圏へと突入し、船体下面のシールドが断熱圧縮で赤熱化していく。その中で、
鷹月は命令を下した。
(IS部隊出撃。スコーピオン砲撃戦開始)
アリコーンのカタパルトは船体上面にあるとは言え、今は大気圏突入中。そんな中で発艦出来るのはアリコーンのシールドシステムが優秀なのと、ISという超兵器の性能故だった。
同時に遠隔操作でスコーピオンが、425mmレールキャノン8門で砲撃を開始する。しかし、ここで遠隔操作艦の弱点が出た。長距離砲撃戦の場合演算精度が命中率に直結するが、長距離かつ惑星の重力かつ大気層の影響という演算に必要な変数が多くて、スコーピオンの側の予測演算が追いついていないのだ。
お陰で命中率が低い。良くて3割。これでは降下中の船のシールドを突破出来ない。IS部隊の負担が増えてしまう。
そんな時に、スコーピオンにいる
空間ウインドウが展開され、相手が映し出される。髪形はセミロングよりも少し長いストレートで色は淡い紫。左右に髪留めらしき物を付けていて、整った顔立ちをしているが表情には乏しい*11。
『そちらが本気でミッションを遂行しようとしてくれているようなので、お手伝い出来るかと思って連絡しました』
鷹月が答えた。
『戦闘中です。手短に』
『この船のメインシステムへのアクセスを許可して頂ければ、命中率9割をお約束しましょう。演算には自信がありますので』
鷹月は思考加速の中で迷った。
『分かりました。その部屋を出た正面突き当りの隔壁を解除します。そこにメンテナンス用の制御パネルがあります。本来その艦は内部からコントロール出来ませんが、貴女ならそれで可能でしょう』
『英断に感謝します』
整った顔立ちに感謝の表情が浮かぶ。
そうして通信が切られた後、驚くべき事が起こった。
スコーピオンからアリコーンに制御パネルが開放されたというシステムメッセージが送られてきた直後、文字通り瞬き程の時間で、スコーピオンの全システムが掌握されたのだ。火器管制だけでない。操艦、主機関、生命維持系、ワープ機関、残らず全てを1秒と掛からず。メンテナンス用の制御パネルからとは言え、まさか、こんな一瞬で!?
その数秒後、通信が入る。
『物理演算完了。砲撃を開始します』
レールキャノンの命中率が目に見えて上昇する。すると相手もスコーピオンの脅威度を引き上げたのか、ミサイルと思われる兵器で反撃。1発ではない。10、20、30まだ増える。
スコーピオンにエネルギーシールド以外の防御兵装は無いため、アリコーン側の近接防御用ミサイルで迎撃。
雪と氷に閉ざされた世界の空に、爆光が咲き乱れる。
この間にも“翼の眷族”の戦艦級高性能ワープドライブ艦2隻は降下を続け、大気圏を突破。ここで敵も本格的に動き始めた。
何かを放出。動体反応。多脚型ドローン? 人型? 翼もある? 総数216。地球の部隊に換算して2個連隊規模。本格的な陸戦部隊!!
鷹月も命令を下した。コアネットワークと艦内放送でだ。
(全
IS部隊を除けば、地上の戦力比は約2:1。
戦艦級に地上砲撃なんてされたら、戦況が一気に傾いてしまう。
ここでアリコーンをコントロールする為に残っていた相川が言った。
「私も出る。指揮とこの艦のコントロール任せた」
乗員全てが専用機持ちである事を前提として設計されたアリコーンは、やろうと思えばワンマンオペレーションが可能な艦だ。思考加速を使えば指揮しながらも不可能ではない。負担はかかるが、ここは前線メンバーを増やすべきという判断だ。
「お願い!!」
鷹月は答えながらアリコーンの各部ハッチを開放。
こうして始まったのは、カラード設立以来初めてとなる乱戦だった。
衛星軌道からスコーピオンの支援砲撃。しかし敵も一方的にやられてはいない。敵艦の1隻が地上という重力の底から分厚い大気層をブチ抜いて、大口径エネルギー兵器で反撃。残る1隻はアリコーンをターゲットにして、前後に長い曲線構成の船体側面にある数十の光学兵装が全てアクティブ。掴み合っての殴り合いにも等しい距離でアリコーンのエネルギーシールドに叩きつけられる。
(舐めないで!!)
アリコーンのシールドが減衰していく中で、鷹月は600mmレールキャノンをアクティブ。船体上面前部にあるカタパルトの後ろから、薄い長方形状のユニットがせり上がってくる。それが旋回して敵艦へと向けられると同時に基部を中心として左右に別れ、膨大な出力によって裏打ちされた弾体加速用の磁場が砲身として形成されていく。
この間も光学兵器の乱打というジャブが続いているが、示された反撃の意志は明確だった。600mmの実弾というストレート。直撃を受けた敵艦が衝撃でノックバック。全長800メートルという巨体が、真横にズレる。
そこに、7機のISが襲いかかった*12。
考えている事は1つ。最短・最速で沈める。
全機が一時的な出力増強システム、カートリッジシステムを起動。カートリッジに蓄えられていた大量のエネルギーが武装に供給され、装備の寿命を縮める代わりに、威力を数倍に引き上げる。
先陣を切ったのは相川だ。
二番手は鏡。
右手の
三番手は夜竹。
空いた穴からシールド内部に侵入。右手に
敵艦船体側面の武装が次々と破壊されていく中で、一部シールド発生器が損壊。他の発生器がカバーするが、シールド全体の強度が低下。
四番手は四十院。
同じようにシールド内部に侵入していた彼女は、両腕に装備した
だが、まだ消えてはいない。
五番手は谷本。
背部に装備している
敵艦のシールド強度が更に低下。危険領域に入ったのか、センサーで拾えるシールドの反応が不安定に揺らぎだした。
六番手はクラリッサ。
彼女の愛機シュヴァルツェア・ツヴァイクは
そんな機体の正面に「ツヴァイク」が展開され、カートリッジシステムにより供給された大量のエネルギーが「ツヴァイク」に収束。直後、完全静止状態から刹那の間に極超音速領域へと到達して敵艦のシールドを貫通。物理装甲すらも貫通して内部に到達。「ツヴァイク」が割れ、AICの指向性力場が火薬による爆発とは比較にならない速度で、無数の破片を加速。敵艦内部をズタズタに引き裂いていく。
七番手は本音。
気象コントロールシステムが戦闘稼働。敵艦上空に分厚い、分厚過ぎる雷雲が形成され、雷撃が落ちるのに理想的な雷雲環境が生成されていく。内部で発生した雷の余波が周囲に迸り、轟く轟音と荒れ狂う雷光が死神の鎌を連想させる。
振り上げた右手が振り下ろされ、直後、戦艦級の主砲を超える一撃が落ちた。
これにより敵艦の内部機構は何一つ残さず全損。搭乗員は全滅。
―――7人が攻撃を開始してから、1分と経っていない。
“翼の眷族”に走る動揺。しかし相手もプロであり、これは試合ではない。
アリコーンのセンサーが、この星近郊にワープアウト反応を検知。数2。直後にスコーピオンの
『同型艦の増援が来ました。急いで下さい』
早い!! 戦闘開始前に既に増援依頼を出していた? それとも開始後? どちらにせよ、これが先進文明の展開能力。無数の可能性がISパイロット達の脳裏を過ぎる。
鷹月が答えた。
『やってる。――――――ラウラ、まだ!?』
『今目標ポイント到達した。チッ!! 対象がいない!!』
増援で来た2隻の降下軌道が示される。20分後には此処に到達予定。
しかし、まだ何とかなる。ISパイロット達は同じ事を考えていた。
敵艦は残り1隻。アリコーンと7機のISで袋叩きにすれば1分とかからない。敵陸戦部隊とパワードスーツ部隊+
撤収時間を含めても、
―――増援が20分後に到着するなら、この予測は正しい。
―――だが当たり前の事だが、敵は敵の思惑で動く。
再び
敵増援2隻から射出物体多数。速度から対地攻撃用の超高速誘導弾である確率98%。続く射出物体あり。形状・速度から陸戦部隊投下用の降下ポットである確率98%。
鷹月が叫ぶように尋ねた。
『誘導弾の性能は!?』
『敵味方識別の多弾頭弾です。着弾時間計算完了。120秒で来ます』
『IS部隊迎撃に上がって。レイシーさん。弾道予測を出して下さい。という訳で地上部隊。索敵と戦闘の同時進行になるわ。援護に入れるISはラウラだけ。
こうして盤面が動き出す。
クラリッサ、四十院、谷本、夜竹、鏡、相川の6人は
本音もVOBをコールしたが、彼女は
同時に地上では、黒い
人類初、異文明正規軍との陸戦である。
そして文明が進むと、自然と無人戦力の運用が進んでいくのだろう。流麗な甲冑を思わせる外見に翼という有人パワードスーツが全体の2~3割、他は明らかに非人間型の多脚型や浮遊ドローンが多数となっている。
ここでラウラは、敵の真っ只中に飛び込んだ。
相手は先進文明の陸戦部隊。個々の武器性能は向こうが上と思って間違いない。かつ戦力比でも負けているのだ。自分が頑張らねば、被害が拡大する。大事な部下に死者は出さん!!
そんな思いからであった。
◇
戦闘を開始した“翼の眷族”陸戦部隊の指揮官は、目の前の光景が信じられないでいた。
単機で飛び込んできた黒い機体が、味方を次々と狩っていく。戦闘ですらない。辛うじて視認できる極細のワイヤーが舞う度に味方が輪切りにされ、
だけではない。そうして空いた穴を、下位互換であろうパワードスーツ部隊と無人機が巧みに突いてくる。
このままでは拙い。だがすぐに考えを切り替える。強いのはアレだけなのだ。つまりアレを沈めれば、戦力比で勝るこちらが有利になる。
『あの機体に攻撃を集中させろ』
命令は速やかに実行され、実弾とエネルギー兵器の両方が叩きつけられていく。だが次の瞬間に起こるべき、爆発も乱れ狂う光の発生も無かった。
実弾は全て空中で静止し、エネルギー兵器はいつの間にか周囲に展開されていた複数の正八面体のスフィアによって、軌道を逸らされている。
だけではない。よく見れば、味方前衛の動きが時々不自然に止まっていた。
指揮官はすぐに分かった。あの黒い機体は、物体に対して慣性制御を行える。しかし理性が認められないと叫ぶ。“翼の眷族”にも人間サイズで使える物はあるが、アレはなんだ。人間サイズで実体弾を止められる程の強度を、複数同時だと!?
そして乱戦の中で突如動きを強制停止させられるという恐怖が、味方に伝播し始めていた。動きが硬い。対して敵の動きはスムーズで淀みない。味方機へのフォローや攻撃対象への火力集中が早い。お陰で戦力比2:1という数的有利が活かせていない。こちらの傷が大きくなり始めている。
指揮官は地上に残っている味方艦を見るが、あちらも状況は芳しくない。
そんな中で指揮官は、敵部隊の一部の動きが変化した事に気付いた。
12機程の敵機が戦線を離脱。近くの峡谷*15に向かっている。
こんな状況で離れる理由など1つしかない。確かにあそこなら発見され辛い。確保対象の孫娘は冒険者紛いの事もしていたというお転婆。サバイバル用の道具は常備していただろう。なら、有り得ない選択肢ではない。
数的優位にありながら押され始めている指揮官は、可能性が高そうなこの考えに飛びついてしまった。
平時であれば、押されていなければ、もう少しだけ心理的な余裕があれば、待つという選択肢も考慮されただろう。あと60秒で対地攻撃用の超高速誘導弾が着弾するのだ。しかし先に確保されて対象が向こうに従うと宣言してしまえば、かなり面倒な事になる。
よって、部隊を分けてでも先に確保するべき、という考えに辿り着く。
『左翼を向こうに向かわせろ。あの黒いのは遠巻きに牽制射撃で押さえこめ。撃破は考えなくて良い』
通常兵器でISと相対する者としては及第点な指示と言えるが、この先を現場指揮官に予測しろ、というのは些か酷な話だろう。
当人には何の慰めにもならないが、理由は幾つかある。
圧倒的な力で味方を狩る黒い機体という脅威が存在していること。
人間サイズで気象コントロール可能な個体が敵側にいたこと。
孫娘を先に押さえなければならないという時間的心理的制約があったこと。
だが何よりも指揮官の予測を妨害したのは、敵機が峡谷に向かっているという事実だった。
これにより雪と氷に閉ざされた峡谷となれば絶対に注意しなければならない事が、敵機に先んじなければならないという意識で覆い隠されてしまったのだ。
◇
この時ラウラは集中砲火で牽制されているというのを逆手にとって、敵部隊を誘導していた。巻き込むには、もう少し前進して貰った方が都合が良いのだ。そして初めの内に輪切りにして
MAPで現在位置を確認。敵部隊の展開状況良し。
ラウラはコアネットワークで本音に伝えた。
(今だ)
(オッケー)
近隣山岳部の全ての山頂付近に、巨大な氷の柱が落とされる。衝撃で永い永い時を越えて降り積もった雪と氷が割れ、それがダウンバーストによって後押しされる。
結果として引き起こされるのは、未曾有の大災害。地球という穏やかな惑星環境では有り得ない程の大雪崩。
だが敵の陸戦部隊は、
よってラウラは、ここでダメ押しの一手を使う事にした。
―――カートリッジロード!!
AICに莫大なエネルギーが供給され、敵部隊の直上にAICを平面展開。飛んで回避しようとした全ての敵機の慣性が強制的にゼロとなり、その場に止められていく。
後は、大雪崩という物理法則が全てを片付けてくれる。自然の脅威は時として、下手な武装よりも遥かに強力なのだ。
こうして敵陸戦部隊を片付けたのと同じタイミングで、アリコーンも地上に残っていた敵艦の撃破に成功する。
そしてカラードがこれほど強気な作戦に出れた理由は、ストレガドローンが孫娘を既に発見していたからだった。この機体は強力な戦闘機であると同時に、グランド・モードという超低空進入モードによるホバリングが可能なのだ。
発見したタイミングはギリギリであったが、ラウラの突撃が良い目眩ましになっていた。
また
残るは降下中の敵陸戦部隊と2隻の敵艦だが………。
指揮を預かる鷹月は考えた。
自分達の情報を持ち帰られるのは、今後を考えれば防いでおきたい。しかし全滅させても
『協力してくれた方にこういう事を言うのは心苦しいのですが、スコーピオンの操作権限を返して頂けませんか。こちらに迫っている陸戦部隊と敵艦2隻を叩いておきたいのですが、正直余り見られたくありませんので』
『返しても構いませんが、確実に叩けるのですか?』
『はい。念の為スコーピオンの全システムを一度ダウンさせますが、ちゃんと復旧させますので心配しないで下さい』
『念入りですね』
『勿論です』
『………分かりました。お返しします』
スコーピオンからアリコーンに、操作権限が復旧したシステムメッセージが送られてきた。
鷹月は言葉通り、全システムのシャットダウン命令を送る。システムメッセージだけでは―――
そして鷹月はコアネットワークで宣言する。
(これより降下中の敵を完全殲滅します。艦首上げ、敵降下軌道に軸線合わせ。艦首無砲塔型荷電粒子砲準備)
アリコーンの持つ最大火力。
艦首部分の装甲板が左右に開き、巨大な砲口が露出する。次いで、その前方にある種の力場によって無色透明なエネルギーバレルが展開された。
次いで主機関の出力が上昇し、フルドライブモードへ移行。
スターゲートという次元を捻じ曲げる力が破壊力へと転化され、砲口部にエネルギースフィアが形成される。始めは野球ボール程度だったものが瞬く間に船体の全高を超え、100メートル、200メートル、1000メートル、2000メートル、4000メートル、6000メートル、更に大きく。
展開されているエネルギーバレルが軋みをあげ、周囲にプラズマ放射が巻き起こる。
(発射)
放たれた光は分厚い雷雲を貫き、降下中の敵を跡形も無く消し飛ばしていく。
この後、味方を回収したアリコーンは地上の戦闘跡地をSDBMミサイルで跡形も無く消し飛ばし、あらゆる情報を隠蔽して帰還の途についたのだった。
―――途方に暮れるクラレス―――
XINN様より頂きました。感謝です!!
諸事情により途中挿入だと都合が悪いので、
一番最後に追加してます。
―――途方に暮れるクラレス―――
第228話に続く
ラウラさん。晶くんの前ではアレな彼女ですが、カラードランクNo.4は伊達ではないのです。
そして敵に情報は与えない。
正確な戦力評価などさせてやらないのです。
ミミックボックス試作1号艦を上手く使えなかったのはちょっと残念ですが、それはまた今度ということで。