インフィニット・ストラトス ~迷い込んだイレギュラー~ 作:S-MIST
場面的に派手ではありませんが、多分後世の人間が見たら一大イベント。
“翼の眷族”強硬派にとって、穏健派筆頭の孫娘クラレスを確保出来なかったのは手痛い打撃となっていた。
未開発領域で確保に成功していれば文明内の問題として処理出来たのだが、“首座の眷族”に確保されて穏健派筆頭からの正式な応援要請を伝えられてしまえば、そういう訳にはいかない。しかも応援要請と一緒に、幾つかの内部情報も伝えられたのだろう。
“首座の眷族”の外交圧力は、この時の強硬派が抱える幾つかの問題を的確に抉るものであった。
これにより“翼の眷族”強硬派は、“蟲の眷族”と共同開発していた資源採掘惑星を自領域に組み込み、結晶化した反物質イプシロン1を独占する、という計画を中止せざるを得なくなる。
誰が見ても“首座の眷族”の外交的勝利と思うだろう。
しかし強硬派の中枢は、全く焦っていなかった。
何故なら資源採掘惑星の件は、始めから見せ札として動かしていた計画なのだ。
強硬派という悪名。結晶化した反物質という分かり易い危険性と利便性と経済的利益を持つ物質。狙っていると匂わせれば、勝手に勘違いしてくれる。
手に入れられたら儲けものだったが、本命は違う。今後の計画に必要だった大量の物資移動は、既に終えているのだ。領域外縁部で邪魔者を始末する為に起こしたコロニー群の大規模事故。あれの復旧作業に紛れ込ませる形で。
策謀を行うのに、1つの計画に全てを賭けるなど愚策の極みだろう。
加えて言えば、これだけの計画を動かすのに外交的介入を想定していないなど有り得ない。介入される前に片付くのが最善ではあったが、介入時の想定も勿論されている。つまり資源採掘惑星の件で引いたのは、元々予定されていた動きに過ぎない。
「―――とは言え、やはり不確定要素からの修正は避けられんか」
“翼の眷族”本星の衛星軌道。地球の言葉で言えば“クリスタルキャッスル”とでも言うべき輝きを放つ巨大な城。
その最奥で黒い翼を持つ者が、床に映し出された青い本星を見ながら口を開く。
すると背後に控えていた者が口を開いた。
「不確定要素と言えば、孫娘は如何致しましょうか」
元々の計画において、孫娘は危険因子と見なされていなかった。穏健派筆頭のカルレスが可愛がっているというのはあったが、孫を可愛がるという言葉通りの意味であり、政治的な行動を伴った事は一度も無い。孫娘本人もこれまで政治的な活動は皆無。船であちらこちらを飛び回っているので接触している回数自体が少ない。接触している時も冒険譚のような話に耳を傾けるのみであり、政治的な話は皆無。カルレス周辺に張り巡らせていた監視網は、間違いなく十全に機能していた。もし何らかの穴があったなら、そもそも政権奪取は失敗していた筈だ。
次に考える可能性は電子戦のエキスパートである
更に次の可能性。両親経由で何らかの情報を受け取っての行動だったのだろうか? 有り得なくはないが、可能性としては低い。模範的な上流階級の両親と不仲なのは有名で、事有る毎に大喧嘩しているのも有名な話だ。そして両親の方も監視対象だったが、カルレスの子供とは思えないほどの凡人であった。愚物では無いが、聡明でもない只の凡人。計画に影響を与えられるような人物ではない。
そのまま他の可能性も検討して、1つ確認する。
「首座の連中が使おうとしている様子は?」
「今のところ、その兆候は確認されていません」
「なら調査だけ進めておけ。手は出さなくて良い」
本心を言えば、不確定要素は早急に排除しておきたい。しかし首座の連中に確保されている以上、下手に手を出せば藪蛇になりかねない。だが、それならそれでやりようは幾らでもあるのだ。
例えば今なら、彼女は悲劇のヒロインを演じる事で様々な支援や同情を集められるだろう。なら、悲劇のヒロインでなくしてやればいい。彼女は豪華な旅行で大金を溶かした事もあれば、惑星調査の仕事をしている訳でもないのに、
そして首座の連中に匿われて出て来ないなら、それでも良い。時間経過と共に彼女に対する期待は薄れ、逃げた臆病者という評価に変わっていく。無論、何かしらの支援を得て戻ってくる可能性は考慮するべきだが、時間が空けば空く程に空白期間に何をしていたのか、という質問を避けられなくなる。現状を覆す程の支援を、孫娘が取り付けられるとは思えない。
他に注意すべき対象としては、
更に他の可能性も検討していくが、黒い翼を持つ者の脳裏にカラードの存在はなかった。
クラレスの確保に向かった部隊が完全殲滅されたという事実はあっても、交戦した存在に繋がる痕跡が何一つ残っていなかったため、彼女を確保した“首座の眷族”の部隊が行ったのだろうと考えたのだ。幾つかの違和感は感じていたが、“首座の眷族”以外の勢力が確保して“首座の眷族”に引き渡したなら、もう少し別の動きがあっても良いはず。一番疑わしいのは歩調を合わせている“獣の眷族”だが、そのような情報は欠片も出てきていない。このため“首座の眷族”が単独で、クラレスを確保したという結論になっていたのだった。
そして推測や予想というにはある程度不確定なものだが、特定のピースがごっそりと抜け落ちていて修正出来なかったらどうなるかは、数多の歴史が証明している通りである。
◇
一方その頃。“獣の眷族”本星。
ここ最近の動きを王に報告したスノーは、王妃様と側室の方々によって、王家が所有する空中庭園の一室に
極々私的なお茶会ではあるが、王城周辺に広がる本星首都圏を眼下に見ながらのお茶会など、王家主催の夜会に呼ばれる格の持ち主ですら憧れるものの1つだ。
(私、なんで此処にいるんでしょう?)
外見的には出された茶を優雅に飲みつつ、かるーく現実逃避していたスノーは、諦めの境地で顔を横に向けて外を見た。全面ガラス張りの壁面から見える首都圏近郊の空はどこまで青く澄み渡り、雲一つない快晴の空から降り注ぐ陽光は、とても気持ち良さそうだ。
(帰ったら日向ぼっこをしましょう)
日が昇っている時間には帰れないかもしれないが………。
そうしてもうちょっと現実逃避していたかったが、これ以上は流石に失礼になってしまうだろう。
諦めて正面を見れば、テーブルを挟んで王妃様がいる。左右には側室の人達。本当なら直接話す機会など生涯無かったであろう高貴な方々。それがどういう訳か、こうしてお茶会に呼ばれるようになってしまった。格のある方々が呼ばれたくて仕方がないお茶会に。頻繁に。理由は分かっている。
「さて、それではスノーさん。色々聞かせて下さいな」
王妃様が人の良い顔でニッコリと笑いながら言ってきた。
「はい。前回の続きからですと――――――」
そうして話し始めたのは、1人の天才が生まれ育った文明を
「カラードの社長は、本当にそんな事を言ったのですか?」
信じられないという表情で聞いてきたのは側室の1人。生まれも育ちも良い勤勉で読書家な方だが、読まれている書物には男女間のアレコレを題材にした書物もあるようで、そういう話が大好物――――――と以前他の側室の方が言っていた。知ってはいけない情報の筈なので、記憶の底に重りをつけて沈めて厳重に封印した記憶だ。
「はい。私兵のレイシーがカラードの隊員から直接聞いた話なので間違いないかと」
「障害になるものは全て粉砕して構わないなんて、カラードの社長は豪気というか、漢気溢れる人物ですね。で、ここからが大事なところです。“翼の眷族”のクラレスとレイシーは、どんな顔をしていましたか? 乙女な顔はしていませんでしたか?」
ズイッと身を乗り出してくる。世間一般では非常に理性的で理知的で物静かなイメージで知られている方だが、大好物な話に対してはこうらしい。他の側室の方々が、「あらあら」という感じで温かく見守っている。
「その、大変申し訳ないのですが、表情は特に変わっていませんでした。ただ会談の席でこうも言っていました。一時とは言え席を置くなら、こういう人がトップの所が良いと思った次第です、と」
「ほぅほぅ。表情ではなく言葉でしっかり伝えたと。これはアレですね。一時がもう暫くになり、理由をつけてズルズルと引き延ばし、いつの間にか永久就職ですね。私には分かります」
「さ、流石にそこまでは………」
「いえいえ。分かりませんよ。何せ彼女達はもう故郷に帰れないんですから。いえ、帰れるかもしれませんが、政権を奪われている以上、反乱分子や抵抗勢力扱いです。そんなところに手を差し伸べてくれた相手。これは先が楽しみですね。いいですかスノー。続きの話は大変期待していますからね」
「りょ、了解致しました」
答えながらスノーは思った。期待されても困ります。
そしてこの話を切っ掛けとして、高貴な方々は将来の予想で盛り上がり始めた。クラレスを亡国の姫、レイシーを御付きの侍女に見立てると、大昔からある甘酸っぱい王道な物語のよう見えるからだ。
また王道というのは多くの場合、想像の余地が多いという事でもある。高貴な方々は現在進行形の話に想像というスパイスを加えていく事で、お茶会の会話を楽しんでいたのだった。
因みにスノーが開放されたのは高貴な方々と夕食を共にした後で、疲れ果てた彼女は部屋に戻るなりベッドにダーーーイブして朝まで熟睡だったという。
◇
翌日。“獣の眷族”本星王城。
王命で登城*1したスノーは、多くの有力者と面会を重ねていた。面会を申し込まれる側である。“天才”篠ノ之束博士への窓口であり、スターゲートハイウェイの運用利益によって積み上げられている基金*2の使用権限を持つ彼女は、下手な有力者より資金力も影響力もあるからだ。かつ高貴な方々との関係も良好であり、王の覚えも大変にめでたい。
このため本星に戻って来ている今の内に関係を作っておこうと、多くの者が面会を申し込んできていたのだった。
権力志向の強い者なら、恐らく精力的に色々頑張るところだろう。しかし彼女の心境は――――――。
(面倒です)
応接室で営業用スマイルを張り付けたまま、本日何回目になるか分からない愚痴を内心で呟いていた。
大使になる前だったら直接関わる事など無かったであろう人達が、自分の関心を引こうと色々な話題を振ってくるのだが、正直なところ本当に面倒臭い。
(多分、束博士とかアラライルさんでしたら1分で終わる内容でしょうか?)
右から左に聞き流しながら、そんな事を思ってしまう。
ついでに外を見る振りをして時間を確認。予定していた面会時間は後180秒。早く時間が過ぎて欲しいと思いつつ、無心で話を聞き流してジャストゼロ秒となったところで、応接室のドアがノックされた。
「失礼します。スノー大使。次の予定の時間ですので、お迎えにあがりました。ドアを開けても宜しいでしょうか」
「構いません。――――――では、またの機会に」
スノーは内心で喜びつつ、しかし礼を逸する事のないように席を立ちドアへと向かう。
そのタイミングでドアが開けられると、小柄な猫耳の使用人がいた*3。昔学校の同級生だった友人で、使用人の着物が板についてきている。しかし、ここは王城で仕事中。友人同士の会話などしない。
猫耳の友人が口を開いた。
「では、次の場所にご案内致します」
因みに大嘘である。次の予定などない。予定があるという事にしておかないと面会者がいつまでも食い下がるので、前もって時間になったら来て欲しいと言っておいたのだ。
「ええ。お願いしますね」
そうして2人で王城の廊下を歩いていき、誰もいなくなったところでスノーが口を開いた。
「ありがとうございます。助かりました」
「お疲れ様。それにしても真面目なスノーがこんな事をするようになるなんて。もしかして悪い子になっちゃった?」
全部分かっていて聞いてくる友人に、スノーは言ってあげた。
「1分で結論の出る話に30分も時間をかけて腹の探り合い。やってみますか?」
「ごめん。無理」
「でしょう。逃げ出したくもなります」
「それでも時間一杯は話を聞いてあげるあたり、真面目だねぇ」
「王命で登城しているので、下手な事は出来ません」
因みに登城は命令されたが、具体的な行動内容は命令されていない。一般的に言えば意味不明な命令だが、スノーはこれを人の動きから割り出したい、或いは推測したい事があるのだろうと勝手に予測していた。
尤も単なる予想であるし、何も伝えられていない以上、普段通りの行動が一番だろう。
こんな事を思いながら2人で歩いていると、正面から見知った顔が近づいてきた。
同期の中では一番の出世頭と言われていた、少々小柄で猫耳な黒髪短髪の青年だ。名をターメ。昔と違って少し髭を生やしているが、何度見ても似合っていないように思う。
「やあ、今を時めく有名人のスノー大使じゃないか。その後はどうだい?」
少々嫌味っぽい物言いだが一々反応すると大変なので、営業用スマイルを浮かべて受け流す。
「色々ありますが、概ね平和と言って良いかと思います。そちらはどうですか?」
「こちらも平和と言いたいところだが、翼のところで政変があっただろう。そのせいか、少しきな臭い。前大戦で翼にやられた連中が、変な事を考えなければ良いんだが」
「確かにそうですね。大きな火になる前に、早く安定して欲しいものです」
「全くだ。そして何か気になる情報があったら回してほしい。――――――ああ、別に俺に回せと言ってるんじゃない。俺が関わってる場所は分かってるだろう。そこに伝えてくれれば良い」
スノーの感情が表情に出ると、ターメが心外だと言わんばかりに言った。
「そんなに意外そうな顔をしなくても良いだろう」
「失礼しました。余りにも意外で。ただ、貴方がそんな事を言うほどきな臭いのですか?」
「実際に何か動きが確認されている訳じゃない。しかし、知ってるだろう。“翼の眷族”周辺には非ヒューマノイド系の文明が幾つかある」
過去、“翼の眷族”もこの例に漏れなかった。恒星間全面戦争に発展して、幾つかの有人惑星が死の星になっている。死者十数億人。絶滅戦争を回避出来たのは奇跡だったと言って良いだろう。そしてこれを教訓として、可能な限り対話路線を選ぶようになったのが“翼の眷族”穏健派の起こりだ。対して強硬派の起こりは、危険があるなら積極的な先制攻撃を行うべきという一派で、それがいつの頃からか拡大路線へと変わっていったのだった。
「分かりました。何かあれば伝えましょう」
「助かる。じゃあな」
外交に関わる者としては真っ当な会話だが、スノーは思った。ターメが随分と大人しい気がする。いつもの彼なら、もっと、こう………これまでの事を思い出して違和感を感じてしまう。だが、何も無かった。会話は終わり、互いの距離が離れていく。
見送るスノーは少々拍子抜けしていたが、実のところターメは目的を果たしていた。
彼としては全く気乗りしない事で、もっと言ってしまえば自分でやれと言いたかったが、所属チームのボスに面と向かって歯向かうのは得策じゃない。
随分立場の上がったスノーと同級生だったという事から、直接話せるような切っ掛けを作って欲しいと事有る毎に言われて煩かったのだ。
なので処世術として、「気になる事があったら情報提供してくれるそうですよ。俺じゃなくて、チームの方に直接」と言えるようにしておいたのが今の会話だ。スノーの真面目さを考えれば、必要無い限りは絶対連絡してこないが、そんなのは知ったことじゃない。ついでに言えばスノー本人に会話内容を確認されたとしても、真面目なスノーは事実ありのままを答えてくれるだろうから、下手な角も立たないだろう。
ターメはそんな事を思いながら、廊下を歩いて行ったのだった。
◇
一方その頃。晶と束はデート中であった。とは言っても、世間一般の人間が想像するようなデートではない。束の乗艦“イクリプス”のスターゲートで幾つもの恒星系を渡り歩き、地球に居ては絶対に見れない景色を堪能するという2人だけに許された贅沢なデートだ。
(ねぇねぇ晶。アレ見てよ。すっごいねぇ)
(確かに。知ってると見るとじゃ、やっぱり違うなぁ)
晶は
見ている惑星は分類用にL1448-MMという無機質な名前が付けられているが、惑星としての形はまだ殆ど無い。まだ誕生して約10万年程度と若く、ガス雲の中に存在していて、周囲のガスや塵の円盤から物質を引き寄せながら成長中の惑星なのだ。そしてこの惑星の面白いところは、自転軸の両極方向から宇宙ジェットと呼ばれる高速な噴流を放出しているところだ。放出される水量は毎秒アマゾン川の約1億倍で、噴き出す速度は時速約20万キロメートルにも達する。マシンガンの弾丸の約80倍の速度と言えば分かり易いだろうか?
2人揃って暫く眺めていると、晶はふと閃いた。
(なぁ束)
(どうしたの?)
(ふと思ったんだけどさ、ここで水を調達して、スターゲートハイウェイで補給物資として販売出来るようにしたらどうかな?)
ヒューマノイドタイプにとって水というのは使い道が多い。しかしこれまで、地球から水をスターゲートハイウェイに持って行って補給物資として販売する、という事はしていなかった。地球から持ち出すという事は地球の循環系から永久に無くなるという事であり、生態系への悪影響を避けられないからだ。もっと言ってしまえば、地球が水の星でなくなる可能性を考えなければいけない。
だがL1448-MMを水源として使えるなら違う。かなり甘い計算でも、この放出は千年単位で続く事が分かっている。
問題は時速約20万キロメートルで放出される水をどのように確保するかだが、
後はこの星系にスターゲートを設置して運べば良い。
(あ、なるほど。良いかも)
(だろう)
(でも悔しいね。地球の技術で施設を造るとなると時間が掛かり過ぎるから、やっぱり買う事になっちゃう)
束は自分で造るという選択肢を始めから除外していた。今必要なのは、地球文明の技術の底上げや
(仕方ないさ。10年も経てば、ちょっとはマシになるだろ)
(10年後かぁ。移民が始まって、もっと大変になってるかも)
(うげ。嫌なことを言わないでくれ)
(だって10年後でしょ。テラフォーミング中の1つ目の星は後4年くらいで大気が安定するから、単純計算で入植開始して6年前後………多分、色々問題が出てくる頃かな。2つ目と3つ目は入植を開始している頃だろうし、こっちも一筋縄ではいかないと思うの。あとついで言えば、これからもテラフォーミングはしていくから、自転車操業みたくなるかもしれないし)
(ぉぉぅ)
超兵器たる
(私だって手伝うんだから、そんな声出さないの。それにその頃だったら、流石に委員会も使えるようになってるでしょ)
晶は“星間国家の在り方を検討する委員会”を構成する、6ヵ国の内情を思い出してみた。
日本は更識家でガッチリ押さえているから、政治家の代替わりが進んでいる。以前のように無能が幅を利かせている、という事は無くなるだろう。というか嬉しい事に、義妹達が作った“アースレポート・コーポレーション”が無能や害悪な奴らを見つけてくれるので、非常にやり易くなっている。本当に感謝だ。
フランスはバイオテロの一件以降の友好国であるし、
ドイツはカラードのアクションに対して妙にキビキビと反応が良い。ラウラが動いた場合は更に反応が良い。味方として頑張ってくれるなら、何かご褒美があっても良いだろう。
イギリスは少し微妙だった。好意的ではあるのだが、一般市民とお貴族様の間に温度差があるのだ。特に王家。原因は分かり切っている。セシリアが妬ましいのだ。数年前までは只の代表候補生でしかなかったのに、IS学園卒業後はカラードNo.2になり、今や地球内部のこと限定とは言え、束と晶の2人からほぼ全権委任に近いフリーハンドを与えられている。また5つの紛争地域に介入して状態を改善させ、現地でも非常に好意的に受け入れられているという実績や名誉がある。名門とは言え只の一貴族に、あらゆる面で抜かれたのだ。さぞかし悔しいだろう。何か出来る訳ではないだろうが、一応注意しておいた方が良いかもしれない。尤も一般市民の方はそんな事など関係無く、自国からセシリアのような人物が出た事を喜んでいる様子だった。
ロシアは楯無の子飼いが実権を握って以降、高圧的な外交方針が改められたため周辺地域の安定化に役立っている。このまま続けて貰おう。
アメリカは亡国機業の影響力が最も強い地域だけあって、“元”最高幹部12名とその最側近達が上手くやっていた。フロント企業を使いカラードの意向に沿うような形で世論誘導を行い、莫大な政治献金で政権を間接的にコントロールし、足元を見て献金額を吊り上げようとしてきたお馬鹿さんには手痛い鞭を。以前鞭の内容を聞いたが、流石は亡国機業の“元”最高幹部とその最側近達と言えるものだった。
あと委員会に席は無いが中国。クーデターで実権を握った
その他にも幾つかの事を思い出して、答えた。
(まぁ、それもそうか。もし使えなかったら、お尻ペンペンしてやる)
(あ、面白そうだね。私も参加しようかな)
(よし。使えなかったら2人でお尻ペンペンだ)
もしドイツの人間が2人の会話を聞いていたら、恐らく全力で物事に取り組むであろう超絶物騒な会話がされていた。“天災”と“最強の単体戦力”からされるお尻ペンペンがどんなものかなど、考えたくもないだろう。
晶はこんな雑談で楽しんだ後、話を元に戻した。
(ところで水の浄化施設で働いて貰う人ってさ、1号支社から何人か転属させて、その下に新しく雇った者をつけるって形でどうかな?)
極々当たり前の話として、
だからこそ、“首座の眷族”の領域に出している1号支社だった。構成人員が
10名しかいないので、恐らく1~2名の転属になるだろうか?
(うん。私もそれで良いと思う。ただ、スノーさんを仲間外れにするような形にはしたくないから、次の会談で話題にするね)
(分かった。じゃあ2号支社からも何人か転属させて、同じように新しい部下をつける形にするから、増員分の要望も頼む)
(頼まれました)
こうしてカラードは、スターゲートハイウェイで水の販売を行うという新事業に向けて動き出したのだった。
◇
後日。いつもの会談で束からされた提案はアッサリと通った。というかアラライルもスノーも非常に乗り気だった。
理由は
“首座の眷族”も“獣の眷族”も居住用コロニーを数多く抱えている文明で、地球より遥かに優れた技術で完全循環させているとは言え、売買や不慮の事故による損失などで、補充は必要なのだ。無論、両文明ともL1448-MMのような水源を確保しているので、困っている訳ではない。だが多くの場所を確保しておくことは、非常時の体力に直結する。スターゲートハイウェイという交通の大動脈に繋がっているなら輸送もし易い。何より交通の要所で販売出来るという事は、多額の利益に直結する。分配比率は地球、“首座の眷族”、“獣の眷族”で2:2:2。残りの4は基金として積み立て。
ヒューマノイドタイプにとって水は非常に重要な資源なので、余程の暴利でない限り、恐らく飛ぶように売れるだろう。
このような背景がある中で、晶は1号支社及び2号支社の面々と、超光速通信で話をしていた。シャルロットに対応させても良かったのだが、今後に関わる大事な話なので、自分で行いたかったのだ。
『――――――という訳でカラードは、スターゲートハイウェイで水の販売を計画している。水源も確保しているし、浄化用の施設も手配済みだ。後はそこで働いてくれる管理者や幹部をこの面子の中から選ぼうと思っているんだが、誰か辺境に行っても良いという者はいるかな? ああ、あと先に言っておこう。居住環境については希望を可能な限り取り入れる気でいる』
すると何人も立候補してくれたのだが、その中で面白い事を言った者がいた。
それはさておき――――――。
『レジャー用コロニー?』
『はい。居住環境について最大限配慮して頂けるというなら、派遣社員の住居というというこじんまりとしたものではなく、水を使ったレジャーが出来るコロニーも一緒に造ってみてはどうでしょうか? 社長にはまだ想像し辛いかもしれませんが、宇宙生まれ宇宙育ちにとって、水で遊べるレジャーというのは中々人気があるのです。一番人気は惑星をそれ用にテラフォーミングしたレジャー惑星ですが、そういうところはお高くて中々手が出ない、という人もいます。またスターゲートハイウェイという交通の要所から、スターゲートを1つ越えるだけで行ける立地条件の良さを考えれば、十二分に元は取れるかと』
『………なるほど』
晶は呟き、今聞いた話をコアネットワークで束に伝えてみた。
(言われてみれば、そうだよね。宇宙生まれ宇宙育ちの一般人にとって、水を大量に使うレジャーなんて結構な贅沢というのは確かにあるかも)
(俺は面白そうで良いなって思ってる。予算は大分膨らむが)
(そうだね。でも、私はGOで)
(オッケー。ただこの規模だと、1号支社と2号支社から数人引き抜く程度じゃ無理だな。これまでの業務も続けて欲しいし………うん。新しい人達を沢山雇って、大規模にやるか)
この時、晶は少しだけ考えて破棄した案があった。地球人に
(じゃあその方針で。そっちの話が終わったら教えて。また会談で話すから)
(了解した)
コアネットワークで話し終えた晶は、提案してくれた妙に色っぽい女性に尋ねた。
『悪くない提案だと思うが、1つ確認させて欲しい』
『何でしょうか?』
『もしかしたらそちらでは常識の範疇なのかもしれないが、そのレジャー用コロニーというのは、地球人、“首座の眷族”、“獣の眷族”が、特殊な装備無しに一緒に遊べる環境のコロニーと思って良いのかな?』
『地球人については技術者に聞かないと分かりませんが、“首座の眷族”と“獣の眷族”が同一環境で特殊な装備無しに働いたり遊んだりしている、というのは
『ふむ………』
この返答に、晶は別の事を考えた。
このため何かしらの理由をつけて反対する者が必ず出てきて、下手をすれば混乱もあると考えていたが、
因みに低レベルな強化処置は
―――閑話休題。
『そうか。そういう事なら、地球人も加われるかもしれないな。よし。分かった。レジャー用コロニーの案を採用しよう。ただこの場にいる面子なら分かると思うが、人材的な都合で本社側は余り深く関われない。だから資金は出すが、1号支社と2号支社の皆に頑張って貰う事になる』
晶は一度言葉を区切り、空間ウインドウに映る全員を見渡した後に続けた。
『だが、ハッキリと言っておく。やる以上は必ず黒字にして貰う。赤字を垂れ流すような形にした場合、容赦なく閉鎖する気なのは覚えておくように。そしてこの件の責任者を決めておこう。ナユさん。貴女にやって欲しい』
『え!?』
妙に色っぽい女性*7が驚きの声を上げて、数回瞬きしてから言った。
『あ、あの、確かに私の提案ですが、責任者になりたい訳では………』
誰が、どう考えても大変なお仕事である。
しかし晶は構わなかった。
『人に得手不得手がある事は分かっている。君に責任者の適正があるかも分からない。だがこの中で誰が一番上手く出来るかなど、正直なところ俺には分からない。それに責任者と言っても、やり方は人それぞれだ。自分で引っ張っていくタイプもいれば、仲間に仕事を割り振っていくタイプと様々だろう。だから、提案者である君にやらせてみる。あと、他の者達にも言っておこう。俺は戦場に立つ事もあるからか、こう思うんだ。地味でも確かな仕事をしてくれる人を蔑ろにしてはいけないって。一番分かり易いのは補給かな。派手なところばかりに気をとられてこういうのを疎かにすると、後で必ず手痛いしっぺ返しをくらう。こういう仕事も同じだと思っている』
この言葉を支社の面々は、責任者じゃなくても、仕事が地味でも、確かな仕事は評価してくれるものと受け取った。
『分かりました。全力で頑張らせて頂きます』
ナユが一礼して答えると、会議はそのまま水の販売とレジャー用のコロニー事業をどのように進めていくか、というアイデアを出す場になっていった。
ざっくばらんに意見を出して叩き台を作る為のものなので、堅苦しいものではない。
そしてこの動きは束と晶の考えには無かったものだったが、スターゲートハイウェイで水を販売する事と合わせて、カラードを本当の意味で他文明・多星間企業へと成長させる切っ掛けとなるのだった。
―――ちょっと現実逃避してしまうスノー大使―――
XINN様より頂きました。感謝です!!
諸事情により途中挿入だと都合が悪いので、
一番最後に追加してます。
―――ちょっと現実逃避してしまうスノー大使―――
第230話に続く
作者的に1号支社と2号支社を全面的に使ったレジャー用コロニーは考えていなかったのですが、書いている途中で何かが科学反応を起こしました。
書いている途中で迷いましたが、宇宙生まれ宇宙育ちが当たり前にいる文明なら、水を使ったレジャーは人気があるのではないかとも思ったので、イケイケGOGO!!とやってしまいました。
そして妙に色っぽい女性に名前がつきましたが、外見イメージは完全に作者の趣味です。