インフィニット・ストラトス ~迷い込んだイレギュラー~ 作:S-MIST
束博士は先日の会見で人類に対して、2つの技術が開発済みである事を明かした。
1つは無重力が体に与える悪影響の無害化。1つは未知の病原体に対しても抵抗力を発揮できる免疫能力。
どちらも人体の仕組みに密接に関わっているため、多くの者は思った。安全なのか、と。
会見場にいた記者も同じ事を思い、何を持って開発済みとしているのかを質問したところ、返答は驚くべきものだった。
束博士は自身に施し、最愛のパートナーに施し、カラード本社全員とその他関係者達に施して、何ら問題無く経過しているという。
普通なら違法な人体実験を行ったとして、言うまでも無く牢屋行きだ。
しかし彼女は言った。今の地球に私が開発したものの理論を分かる人なんていないと。
これに対する反応は実に様々だった。
何様のつもりだと感情的になる者。彼女の言う通りだと言う者。人体の専門家でない彼女が作ったものなど信用出来ないと言う者。人類の未来に貢献する素晴らしい発明だと言う者。処置に何かを仕込んで全人類を奴隷にしようとしていると言う者。純粋に健康が手に入ると喜ぶ者。
多種多様な意見が出るのは、少々面倒臭いが健全な証とも言えるだろう。
尤もこれは一般レベルの話であって、“星間国家の在り方を検討する委員会”を構成する6ヵ国―――日本・アメリカ・ロシア・イギリス・フランス・ドイツ―――の政権中枢は違っていた。
日本は更識家の意向こそが政府の意向といっても過言ではない。
アメリカは亡国機業の“元”最高幹部連中が献金という形で政府を間接的にコントロールしている。政府の方が偉いと勘違いした愚か者の末路は語るまでもない。
ロシアは更識家当主代行である楯無の子飼いが押さえている。
イギリスはセシリアの意向を無視できない。
フランスはバイオテロ以来の友好国だ。
ドイツは昔の御仕置きが効いたのか、反応が良い上にラウラの言葉が良く通るようになっていた。
つまり強化処置の普及は既定路線だ。しかし束と晶は、なし崩し的に行おうとは考えていなかった。先の会見で言った通り、強化処置を詐欺のネタにしようという輩は必ず出てくるため、対処や処罰方法を先に整備させておかないと、後々困るのは想像に難くないからだ。
そんな状況の中、カラード社長室でセシリアと話していた晶は、ふと思った事を尋ねた。
「そう言えば、強化処置を普及させた後の公衆衛生とか衛生教育について触れた国って、まだ何処も無かったよな?」
「はい。私が知る限りは、まだありませんわ。何か気になる事でも?」
「いや、さ。強化処置で労せず健康な体が手に入るなら、公衆衛生や衛生教育、食育*1あたりの事なんて多少置き去りにしても良いって考える奴、絶対いるだろうなぁって」
「それは、確かにそうですわね」
セシリアは晶が何を危惧しているのか、すぐに分かった。
何故なら人の健康というのは公衆衛生や衛生教育、食育等ともセットであるため、病気になり辛いからと言ってその辺りを蔑ろにされてしまっては、結局病人が増えてしまう。いや、強化処置で無理が利く分、問題として表面化した時には、かなり拙い状態になっている可能性の方が高い。
物凄く簡単に言うなら、個人が如何に強力な免疫力を持つ健康体であったとしても、不摂生な生活や病原体だらけの汚染された環境にいれば病気になるということだ。
紛争地域への介入で、彼女はそれを嫌という程に学んでいた。
また個人的な感情としても、汚い世界を良しとはしたくない。
このためセシリアは地球を預かる者として、しっかりと仕事をする事にした。
「再編したWHO*2*3に公衆衛生、衛生教育、食育等の重要性を広く伝えさせます。強化処置は病気になり辛いだけであって、万能ではない。人が築き上げてきたこれらの重要性は、微塵も揺らぐものではない、とも」
「頼んだ」
「はい。頼まれましたわ」
こうして2人の話し合いで決まった方針は、再編したWHOから地球文明内に広く伝えられていく事となる。
カラードの各国の自主性を尊重する、という立場上直接的な介入は行われなかったが、委員会を構成する6ヵ国については何ら問題無い。こちらが方向性を示せば、それぞれの国内事情に合う形で実行してくれる、という下地が既に出来ているからだ。
そして他の国々についても、晶とセシリアは心配していなかった。主要各国は既に押さえてあるのだ。なら、遠からず他の中小国家も続いて来るだろう。
もしも独自路線を突き進むところがあったら? それはそれとして尊重されるが、扱いは他と少し変わるかもしれない。それだけの事である。
◇
数日後。カラード社長室。
晶は委員会から上がってきた提案について考えていた。
強化処置と
―――委員会からの提案―――
提案
強化処置の安全性確認について
内容
強化処置の安全性を分かり易い形で一般市民に示していく為に、
以下を提案します。
①宇宙移民希望者の中から一定数を選んで強化処置を実施。
②処置者の健康状態は定期的に公開していく。
③処置者には地上や宇宙で働いて貰い、健康状態の比較検討を
行っていく。
備考
準備中のレジャー施設で遊べると尚良いと思われますので、
是非検討をお願い致します。
―――委員会からの提案―――
率直な感想としては、悪くない。
この提案内容なら、
同時に、注意すべき点についても考えてみる。やはり強化処置が普及したら大損害を受ける連中がいるから、そういう奴らの動きだろう。だが今のこちらには、裏にも表にも対処できる人材がいる。非合法な手段を使ってくるなら処理してやれば良いし、表立っての建設的な反対意見なら、堂々と対処してやれば良い。
晶はOKの方向で考えつつ備考欄を見て、遊びに行きたいんだろうなぁと思った。
気持ちは良く分かる。非常に良く分かる。1号支社と2号支社が作ってくれたプロモーションビデオはとても良い出来だった。あんなものを見せられたら、行きたくもなるだろう*4。
何となく空間ウインドウを開いてプロモーションビデオのページを表示させれば、アクセス数が今尚跳ね上がり続けていた。それに伴いコメント欄もお祭り状態で、流れるスピードが早い早い。
内容も様々で、アトラクションについて真面目に検証する者、楽しそうだから行きたいと言う者、強化処置が必要だから暫く行けないという者、早く行けるように強化処置を普及させようぜという者、強化処置の安全性の確認が先だと言う者、強化処置はロボトミー手術と変わらないという者、本当に色々なコメントがある。
だがやはり一番目につくのは、出演者に対するコメントだった。
―――出演者に対するコメント欄―――
1.市民A
1コメゲット!! ところで出演者美人すぎん?
2.カメラヲタク
メッチャ被写体にしたいッス。
3.やせっぽち眼鏡
俺は1号支社Verに出ていたナユさんが。
4.デスクワーク中のコウモリさん
ケモミミ美女最高!!
あの尻尾をモフモフして癒されたい。
6.何処かの皇帝さん(仮)
獣さんの水着良いわね。
ワンピースっぽいけど後ろと横の開き具合が中々。
7.市民B
大変目の保養となりました。
8.市民C
俺はナユさん派。
黒ビキニ&色っぽいは正義。
PVでポロリ無いのが残念。
9.市民D
PVであっちゃ拙いだろ。
10.ファンタジーに生きる日系人
ケモミミこそ至高!!
俺絶対カラードに入って2号支社に行くんだ。
11.市民C
同志よ!!
12.市民D
俺は1号支社かな。
あんな美人とオフィスラブを………。
―――出演者に対するコメント欄―――
等々。平和なコメントが沢山ある。幾つか気になるハンドルネームもあったが、まぁここで詮索するのも野暮というものだ。そして面白おかしいコメントを流し見しながら、晶は思った。
何故なら交換比率とは基本的に需要と供給のバランスで決まるものだが、地球が
再編したIMF*5*6に丸投げしても良いが、基本骨子は考えておかないと、金の亡者がどんなヤバイ事を捻じ込んでくるか分からない。
俺は面倒が嫌いなんだ。
思わず大好きな作品のワンシーンを脳内再生してしまう。しかし、やらねばならない。なにか、もっと、こう、単純に出来る良い案は無いだろうか?
(通貨、通貨ねぇ。ああ、そう言えばアーマードコアでは
面倒臭すぎて思考が横道に逸れ始める。
(確か1
ふと、何かが閃いた。
(なにも今存在している通貨との変換じゃなくても良いんじゃないか?
そのまま暫し考えた晶は、考えた原案を再編されたIMFに持ち込んで本格的に検討させてみる事にした。
金の亡者がどんな事を捻じ込んでくるかは不安だったが、経済の専門家でもない自分が出しゃばって端々まで決めたりしたら、絶対におかしな事になる。なら専門家達に検討させて、出来上がったものを更識の者に要約させて、噛み砕いて説明して貰おうと思ったのだ。
決して、再編されたIMFに期待していた訳ではない。しかし再編されたIMF職員達の思いは全く違っていた。一言で言えば歓喜である。
何故か? 簡単だ。経済の専門家達から見れば持ち込まれた仕事は、今後の経済的なグランドデザインを描けと言われているに等しいのだ。しかもカラードという圧倒的な武力と経済力を背景にした、新規通貨の発行まで視野に入っている。
統一政府の名に相応しい大仕事だ。職員達のやる気スイッチが、カチッと入るのも無理からぬことであった。
◇
こうして強化処置や通貨交換について進み始めた頃、“首座の眷族”の領域にある1号支社から、宇宙開発部門長代理のシャルロットに通信が入った。
通信相手はレジャー事業の責任者であるナユ。通常コールなので、何か問題が起きたという訳ではなさそうだが?
『お久しぶりです。部門長代理』
『はい。お久しぶりです。そちらもお元気そうで何よりです。大変に忙しい状態は脱したようですね』
『はい。あの時はお恥ずかしい姿を見せてしまいました』
2人の脳裏に、デスマーチの時の記憶が過ぎる。シャルロットが1号支社にコールを入れた時、他のメンバーは全員起きていたのだが、ナユ1人だけが爆睡していたのだ*7。
『頑張ってくれた結果なのですから、こちらは何も気にしていません』
『貴女のような人が上司で良かったと思います』
お互いニッコリしたところで、シャルロットが言った。
『では、コール要件を聞かせて下さい』
『はい。レジャー施設の準備も進んできましたので、一度視察して頂ければと思いまして。出来れば、社長夫妻も一緒に』
『視察自体はいずれ行われる予定でしたが、そちらから話があったという事は、何らかの意図があるのだと思います。どのような意図からでしょうか?』
『一言で言えば、士気向上でしょうか』
シャルロットは言葉を選びながら尋ねた。
『人がやる気を出す理由は様々ですが、上の者が来たからやる気を出す、というものでもないと思うのですが?』
このあたり、彼女は現実的である。晶の影響も無くはないが、現場の機微が分からなければ臨機応変な対応は出来ないのだ。
『尤もな言葉ですが、新しく雇った者達の背景をお伝えすれば分かって貰えるかと』
『それは?』
『今回水の浄化施設やレジャー施設運営の為に多くの人を雇いましたが、カラードに助けられた人達が多くいます』
『もしかして、第3回と第5回外宇宙ミッションのですか?』
第3回外宇宙ミッションでは、海賊の大規模拠点から様々な異星人を計59862人救出した。
第5回外宇宙ミッションでは、惑星遭難コールのあった星を“首座の眷族”と協力して救った。
『はい。ついでに言えば、第2回の気象コントロールで助けられた人達もいます』
『直接会って感謝を伝えたい、という理解で良いでしょうか?』
『概ねその通りなのですが、もう少し言ってしまえばヒーローに会いたい人が多い、というところでしょうか』
純粋にシャルロットは思った。
感謝を向ける相手だから、ヒーローという表現になったのだろうか? だが何となくそれ以上のものを感じたので尋ねてみる。
『ヒーロー、ですか?』
『はい』
ナユは答えた後に、意図が微妙に通じていなかった事に気付いて言葉を続けた。
『恐らく本社の方々や社長夫妻は、自分達が感謝されているとは知っていても、どれくらい感謝されているかは知らないのでしょうね』
『ええっと。そんなに、なのですか?』
『こちらをご覧ください。市民の目に触れる、一般的な媒体で流れているものです』
シャルロットの元に幾つかのデータが送られてきた。
空間ウインドウに表示させてみれば、所謂新聞に相当するものだろうか? 上の方に日付と思われるものがあって、順番に並んでいる。外宇宙ミッション。スターゲートハイウェイの開通。束博士が利益を独占せず、自身から利益分配を申し出て基金の積み立てまで提案していたこと。これまでの行いが、遠く遠く離れた異なる文明で、肯定的に取り上げられている。
別のデータを開けば、束博士の特集だった。海賊の大規模拠点から救出したボロボロの人達を助けるため、地球の最高権力者でありながら、自身の乗艦で“獣の眷族”の医療チームを運んだこと。スターゲートハイウェイの運用利益も俗物的な独占ではなく、将来を見据えた形で分配かつ基金の積み立てを行う等々。“聖母”の名に相応しい行いと書かれている。
更に別のデータを開けば、晶の特集だった。本人が見たら背中がムズムズすると言いそうだが、これまでの行いの中から、特徴的な事が幾つか書かれている。1つ目は第3回外宇宙ミッションの時に言ったあの言葉だ。オープン回線かつ作戦領域全域にスピーカーをばら撒いていたので、多くの者が見て聞いていたのだろう。
『海賊共に告げる。直ちに抵抗を止めろ。聞く聞かないは自由だが、こちらは貴様達に容赦する気など無い。邪魔をするなら排除するだけだ。俺の手を、煩わせるな』
その後勝手に話し始めた海賊を、一区画丸ごと跡形も無く消し飛ばした上で、冷たく言い放ったのだ。
『誰が発言を許可した? お前達に許されたのは戦闘行為を止めて、こちらの邪魔をしないこと。ただそれだけだ』
あの地獄にいた人達にとって、これがどれほど頼もしく見えたかは想像に難くない。
2つ目は第5回外宇宙ミッションで、有人惑星に落下する3000メートル級の破片を、大気圏に突入しながら破壊したあのシーンだ。協働した“首座の眷族”の
『お判り頂けましたでしょうか』
『分かりました。博士については確約出来ませんが、社長は行くと思います』
『ありがとうございます』
こうして通信が終わった後、ナユはあの時の記憶を思い出す。
あの地獄の記憶など二度と思い出したくないが、あれだけは違う。
大地を穿つ巨大な緑の柱。悪党という理不尽を更なる理不尽で捻じ伏せる圧倒的な力。
絶望の底から救い上げてくれた、大事な記憶。
◇
1週間後、1号支社と2号支社に本社のシャルロットからメッセージが入った。
リアルタイム通信ではなく、文章のみのテキストメッセージだ。
「視察の話を社長夫妻にしたところ、とても面白い提案がありました。客という立場で訪問して、その最中に部下を使ってトラブルを起こします。それにどのように対処するのかを見せて下さい、というものです。強制ではありませんので、無理な場合は言って下さい。ですがもし受けるなら、先に社長の部下になった者として助言しておきます。束博士も社長も、この類の事には決して手を抜きません。悪意ある敵対者が施設の破壊や掌握を狙っている、というケースも想定しておいた方が良いかと思います」
もし晶のトレーニングを知る者がこのメッセージを受け取ったなら、直ちに総点検を開始しただろう。あの男がわざわざトラブルを起こすと宣言しているのだ。絶対にガチだ。
しかし1号支社と2号支社の面々が、そんな事を知っている訳がない。カラード実戦部隊の練度が非常に高いという事は知っていても、それがどうやって練り上げられたものなのかを知らない。だから普通の訓練を想像してしまったのだが、これを想像力の欠如というのは少々酷だろう。
そしてこの結果がどうなるかは、当日のお楽しみである。
◇
因みに束と晶が視察に向かう3日前のこと。
千冬が社長室に来て、椅子に座る晶の隣にススーーーーッと近づいて来て言った。
「なぁ。私も行きたいんだ。良いだろう」
「ダメです。その日からISパイロット達の訓練があるじゃないですか」
「2、3日くらい自主練させておけば良いだろう」
「教官の発言として、それどうなんですか?」
「此処に入る前はそれなりと言われていたかもしれんが、私から見たら団栗の背比べだ。基礎も甘い。基礎が出来ていない奴に応用も無い。よって自主練が大事。うむ。完璧な理論だ」
「その本心は?」
「レジャー施設の防衛設備を潜り抜けて、客役のお前のところにまで到達して刃を突きつける。こんな面白そうなゲームに私を参加させないなんて拷問だろう」
「ちょっとは取り繕って下さい」
「無理だな。参加させろ」
「だからダメですって。千冬が参加したら、隔壁も防衛設備も全部ぶった切って最短距離で来るじゃないですか。防衛側が不利過ぎるからダメです。あくまで訓練なんですから」
「訓練に黒ウサギのパワードスーツ部隊を、大隊編成で投入しようとしている奴に言われたくない。あいつらが出るなら私が出たって良いだろう。百歩譲って
「なにが良いだろう、ですか。千冬が専用機使ったら、俺か束しか止められないでしょう。仮に使うのがパワードスーツだったとしても、黒ウサギを単機でボコに出来る人が何言ってんですか。ゲームバランス崩壊も良いところのクソゲーになるじゃないですか」
「おまえ風に言うなら、クソゲーが超クソゲーになってコントローラーをぶん投げたくなる程度だ。何も問題は無い」
「いや大ありでしょう」
「例えが良くなかったな。マイナス1がマイナス2になる程度だ。ほら、これなら大した問題じゃないだろう。誤差の範囲というやつだ」
「ダメです」
「チッ。この頑固者が」
「何とでも言って下さい」
「仕方ない」
千冬は空間ウインドウを展開して束をコール。秒で反応があった。
『ちーちゃんどうしたの?』
『晶が意地悪で私の言う事を聞いてくれないんだ。お前からも言ってくれ』
『晶。ちーちゃんに意地悪しちゃ駄目だよ。優しくしてあげてね』
『おい。せめて理由くらいは聞いてくれ』
『レジャー施設の件でしょ。良いじゃない。警備なんて一回と言わず十回か二十回くらい心をパキパキ折っておけば良いんだって。それで折れたままならそれまで。諦めず立ち上がってくれたなら、良い警備部門になるでしょ』
『お前まで言うか。良く訓練されてる黒ウサギの連中ですら、千冬を相手にしたら暫く屍状態だったんだぞ。それをいきなりぶつけたりしたら………いや、理不尽の経験は早い方が良いか』
話してる途中で諦めて考えを変えた晶は、代案を出した。
「分かった。なら2回目に出す。それでどうですか?」
「2回目だと?」
「はい。1回目は黒ウサギのみ。正攻法でレジャー施設を攻略する。で、問題点を指摘して、直させて、2回目で理不尽を叩きつける。蹂躙しても良いですけど、パワードスーツでやって下さいね」
この言葉に、千冬はニヤッと笑った。
「二言は無いな?」
「ありません。というか、やるならキッチリパキッと折って下さいね。半端は無しですよ」
「勿論だ」
「で、束。キッチリ折る為にちょっと協力してくれ」
『何をすれば良いのかな?』
「千冬が俺との模擬戦で使ってた紫の武御雷*8があっただろ。あれにこれまで蓄積したパワードスーツ技術を全部投入して、かつ格闘戦特化にカリッカリにチューンしておいてくれ」
武御雷は全身にブレードエッジ装甲を採用した超近接特化機。普通の日本刀で斬鉄が出来る千冬にこの機体を使わせたら、格闘攻撃の全てが斬鉄になる。ヤバ過ぎだろう。
レジャー施設警備部門の皆さんは大変な目に遭うだろうが、これを乗り越えられたら、並大抵の事には動じなくなる。かもしれない。
『オッケー。ちーちゃんが使うものだもん。キッチリ仕上げておくね』
こうして
―――おねだりする千冬さん―――
XINN様より頂きました。感謝です!!
甘える千冬さんという貴重なシーン。
―――おねだりする千冬さん―――
◇
3日後。
束と晶はイクリプスでレジャー施設へと来ていた。
全長44キロメートルのドーム型コロニーで、地球で運用しているような、遠心力で重力を発生させる骨董品ではない。完全な重力制御によって、1G環境が再現されていた。
そして内部のイメージを一言で表すなら、浜辺のリゾート都市だろうか。
穏やかな波が寄せては引く白い浜辺。近くにあるホテルは複数のレジャー系企業が誘致されているせいか、それぞれの特徴が出ていた。ビルを建てて都市風のホテルにしているところ。背の低い建物で開放的な雰囲気にしているところ。ホテルというよりコテージ風にしているところ。景観を損ねないように、全体的に背の低い建物が浜辺に近く、高い建物が遠くに配置されている。人類が想像する近未来系でSFなデザインの建物が無いのは、恐らく宇宙船が一般的になっていて余りにも見慣れているからだろうか。
次に買い物を行う区画に行ってみれば、気軽に入れるショッピングモールのようなところから、ちょっとお高い感じのところまで色々と用意されていた。似たような感覚を持つヒューマノイドタイプだけに、客層別という考えは通じるらしい。ただ案内してくれているナユは、本当にお高いお店は初めから除外したと言っていた。気軽に楽しむ為のレジャー施設に、そういうのは不要という考えだ。なのでちょっとお高く見える店も、中流層がちょっと贅沢な気分を味わえる、程度のラインで選んだという。
歩きながら晶は、隣を歩く束に言った。
「レジャーの話が動き始めてから、まだ3ヵ月程度なのに凄いな」
「そうだねぇ。地球で同じ事が出来るようになるまで、どれだけかかるか」
すると2人を案内していたナユが口を開いた。今はカラードの制服姿である。
「スターゲートハイウェイの方が、余程凄いと思うのですが」
機嫌が良いのか、束が答えた。
「技術的にはそうだけど、この場合は総合力っていう意味かな。これだけの物を工業製品として生産して、販売して、組み立てられる。いや、速やかに組み立てられるなんて、成熟した社会基盤が必要でしょ」
「御二人が地球のトップであるなら、そう遠くない内に叶うのではないかと思いますが」
「おや。お世辞でも嬉しい事を言ってくれるね」
「御二人は
「ありがと。でもこのレジャー施設は、君達が頑張ってくれた結果でもあるからね」
こうして雑談を交えながら2人は視察を続け、最後にビル型ホテルの最上階に案内された。
所謂VIP用の部屋で、綺麗な夜景が見える。
そうしてナユが去っていき、2人きりになったところで晶が言った。
「なるほど。良い部屋を用意するという建て前で、一番接触し辛い部屋に案内したか」
設計図によれば、VIP用の部屋の壁はそれなりに頑丈だ。部屋の前の通路には、雰囲気を壊さないようにデザインされた隔壁もある。普通の不届き者が無理矢理侵入するのは、少し難しいだろう。
そしてこれから起きる
―――予定されたトラブルの勝敗条件―――
1.VIP役の束&晶の元に到達される。
2.コロニーの動力源(スターゲート送電受信部)に到達される。
3.コロニーの中央管制室に到達される。
―――予定されたトラブルの勝敗条件―――
この3つだ。晶の本心としてはもう少し凝った条件も入れたかったのだが、初回なので単純にしたのだ。
「ま、そのくらいは考えるでしょ」
束が肩を竦めながら答える。
今回2人は普通のVIP役なので、トラブル中はお部屋でお行儀良く待っていなければいけない。
そして頑丈な部屋というのは、裏を返せば到達されない為の隔離部屋、或いは牢獄にもなる。
晶が時計を見てみれば、丁度開始時間となっていた。
さて、どうなる事やら。
第232話に続く
安全はとっても大事。という訳でレジャー施設の皆さんには、理不尽を味わって貰う事にしました。
シャルロットがメッセージを書いている時の心情を思うと、中々感慨深いものがある作者です。