インフィニット・ストラトス ~迷い込んだイレギュラー~ 作:S-MIST
宇宙の通常戦力が徐々に形になってきました。今は生みの苦しみというところでしょうか。
そして保護した2人の新しい道とは………。
晶は社長室で考え事をしていた。
眼前に展開されている空間ウインドウには、保有している艦の一覧が表示されている。
―――カラード保有艦一覧―――
・イクリプス(地球製)
→束の乗艦。
→スターゲート機能あり。
・アリコーン×4(地球製)
→0番艦はハウンドチームが秘密裏に運用中。
→1~3番艦は潜行戦隊にて運用中。
→スターゲート機能あり。
・スコーピオン×4(“首座の眷族”製)*1
→1~3番艦の操艦はアリコーンからの遠隔操作。
→4番艦は保護した“翼の眷族”の2人に与えて外宇宙探査中。
→高性能ワープドライブ艦。
・レビヤタン級駆逐艦×5(地球製)*2
→1番艦は晶が月などに出張に行く時に使用。
→2~4番艦はレスキュー部門で使用。
→5番艦は機動特捜課で使用*3。
→通常のワープドライブ艦。
・300メートル級輸送艦×3(“獣の眷族”製)*4
→元々無法地帯での運用を想定された艦。
→シールド強度は高いが少々鈍足。
→一定レベルのワープ妨害耐性あり。
→通常のワープドライブ艦。
・ミミックボックス×1(宇宙製)
→400メートル級の中古輸送船を改造したもの。
→SDBMミサイル運用に特化した攻撃艦。
→SDBM以外の兵装は無い。
→流通量が多い400メートル級中古船を独自改良したもの。
→遠隔操作運用の無人艦。
→戦闘中の再装填は難しいが、240発の一斉発射は強力*5。
→アクティブステルス機能は無い。
→岩石の殻を被るというアナログな方法で周囲に溶け込む。
→通常のワープドライブ艦。
・400メートル級の中古の輸送艦×10(宇宙製)
→レンタル事業で使用している宇宙船。
→通常のワープドライブ艦。
・10キロメール級の双胴艦(“首座の眷族”製)*6
→年代物の旧式の整備艦。
→元はボロボロだったが、外見の復元は完了。
→整備能力も8割方復旧。
→航行能力は移動が出来る程度。
→ワープ不可。優先する機能が多々あるため後回し。
―――カラード保有戦闘艦一覧―――
これに来月、
始めはイクリプスとアリコーンだけだったのに、随分増えたものだ。そんな事を思いながら、
悩んだ晶は、初心に返ってみる事にした。まずは、
―――
型式番号
AS07
全長
800メートル
対応領域
空・
動力源
主機関1、補助機関2
ステルス性能
将来的にはアクティブステルス実装予定。
しかし現段階では未搭載。開発が追いついていない。
機動性能
ブースターと重力・慣性制御の併用。
1G程度の惑星なら単独かつノンオプションで離脱と再突入可能。
通常のワープドライブ。
→ワープドライブ起動からワープインまで60秒。
→ワープアウト座標と艦の軸線が合っていない場合、更に増加。
防御性能
エネルギーシールド
攻撃性能
艦 首:18連レーザー砲
船体上面:2連レーザー砲×4
近接防御用光学型CIWS×8
VLS×28
ステイシスフィールド発生装置×1
ワープ妨害装置×1
船体下面:大口径レールガン
24連ミサイル×最大6
VLS×28
ステイシスフィールド発生装置×1
ワープ妨害装置×1
搭載有人戦闘機
F/A37 ストレガ×16*8
→元々はアリコーン用の艦載機として束が開発した戦闘機。
単独での大気圏突入・離脱が可能。
地球製の戦闘機では初となるシールドシステムを標準搭載。
簡易変形によりホバリング可能。
EMP耐性が極めて高い。
基本武装
・バルカン
・レーザー
・荷電粒子砲
・レイブレッド(後方攻撃用)
・中距離対空ミサイル
・短射程空対空ミサイル
・バスターグレネード
搭載パワードスーツ及び
不知火 弐型、F-22 ラプター、EF-2000 タイフーン
上記3機種の中から選択。
艦内にアセンブル用の設備あり。
搭載ドローン
未定
メンテナンス性
軽度な損傷はメカニックによる手動修復。
重度な損傷はユニットごと交換。
備考1
多目的用途の小型艇×4
備考2
束が発表した“シップコア規格”*9で造られているため、
主要な機能は全てパーツ交換でアップデート可能という
高い汎用性を備えている。
但し現時点では色々技術力不足で
―――
まず弱い点は何だろうか?
真っ先に出てくるのは、明らかに劣る基本性能だろう。もし他文明の同クラス艦と砲打撃戦になった場合、1対1ではまず勝てない。3対1で撃破の可能性が見えてくる、くらいだろうか?
ワープインの遅さも厳しい。
では、ワープ妨害を仕掛けられたら絶対に離脱出来ないのだろうか? 答えは否だ。ワープ妨害への対抗策としてワープ妨害耐性という技術が既に存在している。束もワープ理論を実用化した時点で、妨害技術と耐性技術に辿り着いていた。そして
因みにイクリプスやアリコーンのセンサー性能は、ワープ妨害耐性付与による悪影響がある中でも、必要十分以上に確保されていた。設計時点で単独行動が多くなるのは分かっていたため、多少艦内スペースを圧迫してでも性能を確保しておかなければ、生存率に直結するという判断からだ。束が以前ギリギリだったと言っていたので、乗員全員が専用機持ちという極限の少人数化で、艦内スペースを確保出来たからこそ行えたのだろう。
こんなところだろうか。次に、強い点について考えてみる。
真っ先に出てくるのは、単独での大気圏突破と再突入能力だ。これだけで、行動の自由度が全然違う。また全長800メートルという艦の大きさに合わせて、格納庫もそれなりに大きい。輸送艦として使える程ではないが、緊急時に何かしらの荷物を運ぶ事は出来る。
武装も
尤もこのあたりは、現在の構成では、というところだ。“シップコア規格”で作られているため、パーツ開発が進めば
これらを踏まえた上で経験を積ませる為のミッションとなると――――――中々思いつかず考えていると、シャルロットからコアネットワークが接続された。
(晶。今いい?)
(良いぞ。どうした?)
(外宇宙探査に出ていたクラレスさんとレイシーさんが久しぶりに帰ってきたんだけど、ちょっと見て欲しい情報を持ってきたの。嬉しいけど扱いに困る類のやつ)
晶は何だろうと思いつつ、2人の事を思い出した。どちらも“翼の眷族”の女性で、諸事情から存在を公に出来ないが、カラードで働いて貰っている。時折シャルロットから上がってくる報告を聞く限り、初対面の時の印象通り真っ当な人達と言って良いだろう。
―――レイシー&クラレス―――
以前のお話でも掲載させて頂きましたが、
あった方がキャラをイメージし易いと思い再掲載。
“翼の眷族”レイシー
“翼の眷族”クラレス・イル・ディアニス・カルニア
―――レイシー&クラレス―――
そして送られてきた情報を脳内展開して思考加速。瞬時に確認を終える。
とある星系に鉱石の鉱脈あり。
添付されていた資料によれば、この鉱石から精錬される資材はコロニーや艦艇建造などで、幅広く使われているとあった。尤も銀河系に広く分布している鉱石のようで、独占的に扱って何かが出来る、という類のものではない。
(なるほど)
晶はシャルロットの言わんとしている事が分かった。
資源確保や収入という意味で、この情報は有り難い。しかし、少々タイミングが悪かった。
ここ最近色々と出費があった*10ので、手元に
赤字にはなっていないが、新しい開発を行うには明らかに足りない。加えて地球側から出せる人も物も無い。拡大スピードに人材育成と工業力が追いついていない。
シャルロットもこういう現状を分かっているからこそ、嬉しいけど扱いに困ると言ったのだろう。
(どうしようか?)
(そうだなぁ………)
少しばかり考え込んで、ふと思った。
自分達で開発出来ないなら、将来に繋がる一手、そのカードとして使えば良い。朧気ながらイメージが湧き、形にする為の判断材料が欲しくて尋ねてみた。
(シャル。“翼の眷族”方面ってまだ荒れてるのかな?)
(あっちの方? ちょっと待ってね)
今、カラードは主に4ヶ所から
1つはスターゲートハイウェイ。交通量が多い事から様々な話が集まるのだ。しかし噂話レベルであり、何かの情報をピンポイントで知る、というのは難しい。全体的なフワッとした動向を知れる、という程度だ。
2つは“首座の眷族”の領域にある1号支社と“獣の眷族”の領域にある2号支社。初期の人員は全員レジャー施設に配置転換となっているため、今居るのは新規の人員だ。元々の業務を引き継いで、主に2つの情報を送ってくれている。その文明に生まれた者達にとっては当たり前とも言える日常的な情報と、地球人の活動範囲が広がった時の為に賞金首や危険宙域の情報だ*11。
1つはオープンしたばかりのレジャー施設。元々此処に情報収集機能は期待していなかったのだが、責任者となった元1号支社所属のナユと副責任者となった元2号支社の支社長が、独自に入手・分析した情報を色々と送ってきてくれるのだ。正直なところ、大変有り難い。
そしてこれらの情報はカラードのデータベースに日々蓄積され続けていた。
アクセスしたシャルロットが答える。
(うん。まだ荒れてるみたい。でもこれって………ちょっと見てみて)
シャルロットの確認した情報が、晶に送られてくる。
さっと目を通した第一印象は、自然だけど自然じゃないような違和感。
クーデターで政権を奪取したなら、「こういう事が起きたらこうなるよね」という多くの人が思い描くストーリーを意図的になぞっているかのような………。情報の精度が高い訳ではないし、確たる証拠も何一つ無い。が、引っ掛かる。更識家の当主として、或いは旧亡国機業の最高幹部連中を使っているせいか、どうしても何かの思惑があると考えてしまう。
色々と考えてしまうが、晶は少し単純に考える事にした。“翼の眷族”のクーデター政権が安定するかどうかは別として、今後も恐らく動きがあるだろう。その余波が、こちらに来ないとも限らない。
そういう時の為に干渉手段を用意しておく、というのはありではないだろうか?
無論、直接的な関わりだと色々面倒なので間接的に。
問題はあの2人が引き受けてくれるかという事と、あの2人にそれを可能とする伝手があるかどうかだ。
思考加速。仮に条件を満たせたとして、考えを纏めてみる。
クラレスのフルネームはクラレス・イル・ディアニス・カルニア。辺境惑星に軟禁されている“翼の眷族”穏健派筆頭、カルレス・イル・ディアニス・カルニアの孫娘。レイシーの本来の立場は、カルレスが武力的な意味で最も信頼を寄せる私兵の内の1人で、電子戦のエキスパートだ。
クーデター政権側にしてみれば、可能な限り速やかに抹殺しておきたいだろう。だが裏を返せば、穏健派の連中にとっては神輿になる。それを警戒して確保しようとしていたところを、カラードが横から奪い取って証拠隠滅した訳だが。
それはさておき、2人に鉱脈という資源と会社という形を与えたらどうなるだろうか? 2人が会社的な実務を行える必要なんてない。代表として名前を公開する必要も無い。しかし、色々と勝手に集まるのではないだろうか? 現段階で具体的な行動計画がある訳ではないが、将来的に干渉する必要が出てきた時に役立つかもしれない。メリットはもう1つある。随分と気の長い話になるが、2人を“翼の眷族”に無事に送り返せるような状況を作る事が出来れば、地球にとって友好的な存在になるだろう。友好的な政権になってくれれば御の字だ。資源で金稼ぎよりも、その為の投資として鉱脈という資源を使う。十分にありな判断ではないだろうか。
だが、危険性もある。2人の生存がクーデター政権に露見する可能性だ。どう考えても面倒臭い事になる。回避する為には、どんな対策を立てれば良いだろうか? 中々難しい。2人の存在を隠匿しつつ、2人を活用して未来への投資とする………この相反する事を両立させる方法だ。
様々な情報を思い浮かべては検討していく中で、1つ使えそうな案を思いつく。
まず極論的に言えば2人の生存がバレても、2人の居場所が分からなければ問題無い訳だ。なら2人が第三者と連絡を取り合う時に使用する超光速通信網の通信経路を、意図的に遠回りさせる事は出来ないだろうか。インターネットでハッキング戦をやる時と同じ要領だ。迂回路を使う事で、通信元の特定を難しくする。
悪くない気がする。ただ、地球で超光速通信網に関する技術を持っているのは束だけ。そして束が付きっ切りで関わる訳にはいかない。となれば可能性があるのは、
晶は数秒の思考加速を終えて、考えた事をシャルロットに話してみた。
(――――――という事を考えたんだが、どう思う?)
(なるほどね。ありだと思う。でもその案だとレイシーさんの腕に頼る部分が大きいでしょ。その腕は、どうやって確認するの?)
(束には悪いが、少し時間を作ってもらってテストをお願いしようと思う)
(うわぁ)
シャルロットは言われなくても分かっていた。
束博士なら、事前連絡なんてしない。絶対に抜き打ちテストだ。
つまり日常生活の何処かで、篠ノ之束博士から不意打ち電子戦を仕掛けられ、凌げたら合格というところだろうか? 合格ラインがどの程度に設定されるかは分からないが、少なくとも地球人で防げる者はいないだろう。
こうしてレイシーの全く与り知らぬところで、彼女のテストが決まったのだった。
◇
翌日。レイシーは隠れ家で休んでいた。
カラードが用意してくれた家で、隠れ家というイメージに付き纏う狭くて不便な家ではない。
900メートルサイズ*12の艦船が丸々入る程の広いドーム状の空間。天井は青い空を映し出す高精度スクリーン。吹き抜ける柔らかな風と風に揺れる緑豊かな芝。コロニーの環境調整技術によって作り出された快適な空間の中央に、調和と比例を感じさせる建物があった。地球人の感覚で言えば、ギリシャ様式が一番近いだろうか。
空間をふんだんに使った開放的な作りで、これは“翼の眷族”が翼という大きな外部器官を持っている事に起因していた。コンパクトな作りにしてしまうと翼が引っ掛かってしまうため、必然的に空間を広く使うような建築様式になっていったのだ。
また翼の影響は衣類にも及んでおり、見た目で最も分かり易いのは、衣類の背中が大きく開いている事だろう。無論、部分的に穴が空いていてそこから翼を出すタイプもあるのだが、着用の利便性から、背中が大きく開いている物を普段着としている者も多い。
そして自宅という日常空間で彼女が愛用しているのは、地球で言うところのレオタードに近い代物だった。因みに地球の紳士な諸君の為にもう少し詳しく説明すると、翼を出す為に背中が大きく開いているのに加えて、ネックラインが縦長で豊かな谷間が見えているため、上半身の肌色面積がとても多い。またVラインの角度も少しだけ急になっているため、必然的にお尻側のラインも角度がついてしまっていた。このため地球人の感覚的には、ちょっとセクシー系のデザインと言えるだろう。とは言ってもこの家に第三者はいないので、人目を気にする必要は無い。
―――閑話休題。
自室でくつろいでいたレイシーは、地球のインターネット環境にアクセスしていた。ハッキングしている訳ではない。単純に時間があったのと、
カラードの動き。各地方政府の動き。企業の動き。これに連動して動いていく様々な事柄。色々なページを読み比べ、“アースレポート・コーポレーション”という会社の記事が一番良質な情報ソースと思えた。裏付けとなるデータがある。肯定的な意見も否定的な意見も載せている。記事の論調は若干カラード寄りだが、過度という程では無い。
どんな会社か気になったので表側の情報を集めてみれば、思っていた以上に簡単に分かってしまった。というか、隠していなかった。
カラード社長の義妹達が起こした会社で、実務には関わっていないが株主という形で君臨している。もう少し調べてみれば、社長に大変大事にされているのは周知の事実らしかった。レイシーの脳裏に、「地球のお姫様」という単語が浮かぶ。
時計を見てみれば随分な時間が経っていたので、そろそろ休もうとベッドに向かう。この時、体内の電子戦用サイバーウェアが反応した。安全対策の1つとして、隠れ家の電子機器に攻性防壁を仕込んだ上でリンクしていたのだが、何かがアクセスしてきたのだ。時間にしてナノセコンド程度。素人であれば、気のせいと思って何もしなかっただろう。
しかしレイシーは、これに全力で反応した。この隠れ家の電子機器にアクセスする為には、積み替え用ステーションのセキュリティシステムを突破しなければならない。その強度はレイシー自身が確認している。それを突破してアクセスしてきたなら、狙いは明らか。カウンターハックで相手のシステムを消し飛ばして、こちらに関わる情報を全て消して今後の安全を確保する。いや、関わった者も近くにある機器を操作して消す。でなければ今後の安全を確保出来ない。
殆ど反射的に、体内にある戦闘用サイバーウェア群を緊急起動。神経加速開始。知覚領域拡大。電子戦用演算ユニット1・2・3全て通常モードから戦闘モードへ移行。プログラム高速ロード。解凍。展開。自作した全108層攻性防壁プログラム展開完了。同時に、外宇宙探査に使っているスコーピオン4番艦にアクセス。メインシステムの演算能力を使って、隠れ家全体の電子防壁を強化。
直後に来たアタックは、経験したことが無い程の演算速度でこちらの攻性防壁を解体し始めた。
(強い!!)
すぐに相手の手管を分析して、攻性防壁をアップデートしつつ再構成。だが再構成が完了する前に、次が解体されていく。
早々に不利を悟ったレイシーは、今切れる手札を全て切る事にした。これに対処出来なければ、次など無いのだ。
電子戦用演算ユニット1・2・3全てオーバークロックモードへ移行。時間制限付きで演算能力を強化。スコーピオン4番艦のメインシステムもオーバークロック。更に隠れ家と艦内の演算能力を持つ全ての機器をリンク。分散演算で負荷の軽減を狙うと同時に、アタック用の攻性プログラムを展開。少しばかり大きくて常時起動出来るような代物ではないが、追尾能力と電子的な破壊能力は他の追随を許さない。手持ちの中では最強の一撃。
(これでどう!!)
展開した攻性プログラムが逆探知を開始。相手は何処? 通常のネットワークじゃない。超光速通信網の先? これだけで相当の腕と分かる。
この間にも、こちらの攻性防壁は解体され続けていた。
―――防衛。
―――分析。
―――再構築。
過去最高と言える速度で対応しているが、相手はそれよりも早い。攻性防壁が1つ、また1つと解体されていく。拙い。どうやっても再構築より相手の解体の方が早い。
いつの間にか、こちらの攻性防壁は残り36層。
数光年先の星系にあるシステムが発信元? 違う。これは踏み台。その先? これも違う。
残り18層。
更に発信元を追い、物理的な距離にして銀河系を半周ほどしてもまだ届かない。
残り9層。
相手は、何処!?
残り5層。
これまでに見た事が無いほど強固な電子防壁を発見。恐らく、此処!! 全力で解体を開始。
残り3層。
解体完了。
残り1層。
守られていた扉をこじ開けて侵入したシステムの3次元世界の座標は………地球!? まさか? 仕掛けてきた相手を想像したところで、通信が入った。
『おめでとう。合格だよ』
眼前に空間ウインドウが展開され、束博士が映し出される。
『どういうおつもりですか。それに合格とは?』
『晶がちょっと考えた事があるんだけど、実行する為には君の腕が確実に信用出来るレベルである事が絶対条件でね。だから、ちょっと確認させて貰っただけだよ。あと先に言っておくと、君を兵器として使うって訳じゃない。ま、詳しくはこれから晶が説明するから』
こちらの攻性プログラムが、いつの間にか解体されていた。まるで何事も無かったかのように。格が違うとは、まさにこの事だろう。仮に専用装備の“ブラックモノリス”があったとしても、どうだろうか? 勝てるイメージが湧かない。電子戦のエキスパートである自身を相手にして、純粋な電子戦で完勝。これが“天才”篠ノ之束博士。
そう思っていると新しい空間ウインドウが展開され、カラードの社長が映し出された。
『まずは、失礼な真似をした事を詫びておこう。だが貴女の腕が信用出来るレベルでないと、ちょっと怖くて実行に移せない事があってね』
『貴方は私とクラレス様を受け入れる時に、
言葉に少しだけ、非難の感情が混じってしまう。
ポーカーフェイスを保っているつもりだが、もしかしたら表情も厳しくなっているかもしれない。
『こういう試し方をしたので怒るのも無理はないのですが、判断は話を聞いてからにして貰えると助かります』
『取り敢えず、聞かせて下さい』
そうして話された内容は、正直信じられないものだった。
先日発見した鉱脈を丸々こちらに渡して、人員もこちらに集めさせて、開発させるというのだ。しかも産出した資源の加工・販売まで全て。求められるのは純利益の10%のみ。テストをした理由は、ネットワーク越しに第三者と会う必要が出てきた時に、居場所を調べられないだけの腕を持っているか確認する為だったという。
『目的は何でしょうか』
レイシーは尋ねてみた。
『順を追って話そう。まず元々の切っ掛けは2人が鉱脈を見つけてくれた事だが、残念な事に今のカラードには独自開発するだけの余力が無い。いずれ開発出来るようになる時まで抱え込んでおく事も考えたんだが、何時になるか分からないから、未来に対する投資として使ってしまおうと思ったんだ。で、だ。ここから先は想像の上に推測を重ねたものだが、2人はもしかしたら今後色々と入り用になるかもしれないだろう。だから協力して、もしも2人が“翼の眷族”に戻れた時に、友好的な存在になってくれれば良いなと思って』
カラードの社長は何でもない事のように言っているが、クラレス様は“翼の眷族”穏健派筆頭カルレス様の孫娘だ。辺境惑星に軟禁されている、前最高権力者の孫娘なのだ。その彼女に資金の源泉を与えるという事は――――――。
『本気ですか?』
晶は別の言葉で答えた。
『君達の住居の隣に格納庫があるんだが、そこに中古船から抜き出したメインシステムのユニットが多数転がってる。君なら新しい会社のメインシステムとして組み直せるだろう』
レイシーはもう一度言ってしまった。
『本気ですか?』
束博士には完敗したが、実力を否定された訳ではない。
その自分に演算能力を与える。怖くはないのだろうか?
するとカラードの社長は、ニッコリと笑いながら答えた。
『俺はこういう事は難しく考えないんだ。味方なら大事にする。敵になったら容赦しない。分かり易いだろ。それとも、もう少し詳しく言った方が良いかな?』
『いいえ。十分です。ただ、クラレス様の意向を確認しなければなりません。少しお時間を頂けますでしょうか』
『構わない。急ぐ話でもないしな』
『ありがとうございます。なるべく早く返事をしたいと思います』
『ああ。急がせなくて良い。むしろ十分に悩む時間を作ってあげてくれ。恐らく彼女にとって、この後の人生を決める決断になる。半端な思いで決められては、こちらとしても困るからな』
『お優しいのですね』
『そうか? どれだけ契約で縛ったところで、最後にものを言うのは本人の意志さ。そこが備わっていなければ、どうしようもない』
『その言葉、そのまま伝えさせて頂きます』
『好きにすると良い。ただ、返事は彼女から直接聞く。あと、1つ彼女に伝えて欲しい。受けなくても、今の対応を変えるつもりはないと。外宇宙探査をやってくれるだけでも、こちらとしては十分に有り難いんだ』
『分かりました』
『あと、細かい条件は今送らせて貰った。ではな』
こうして通信を終えたところで、レイシーは今更ながらに自身が汗だくになっている事に気づいた。
疲労感がドッと押し寄せてくる。だが休むのは、クラレス様に今の話をしてからだ。そう思い、彼女の下に向かったのだった。
◇
数日後。カラード社長室。
晶の眼前に展開されている空間ウインドウには、クラレスが映し出されていた。
白いドレスのような服装*14で、お姫様のように見える。いや、立場を考えれば本当にお姫様か。
『先日のお話ですが、受けさせて頂きたいと思います』
『十分に考えた結果と思って良いのかな?』
『はい』
クラレスが真っ直ぐな視線を向けてくる。晶が返事をする前に、彼女は言葉を続けた。
『そして貰ってばかりというのは良くないので、今出来るお礼をしたいと思います』
『ほぅ?』
思いもよらなかった言葉に、続きを促す。
『ただこれは、今のカラードの状況から推測した情報に過ぎません。ですから、お礼にならないかもしれません』
『取り敢えず、聞くだけ聞いてみよう』
『では、まず確認させて下さい。カラードは今、
随分鋭い指摘に、晶は素直に驚いた。彼女の背景的に、こういう考えが出てくるとは思っていなかったのだ。が、すぐに思いつく。恐らく、レイシーさんの入れ知恵だろう。私兵としてそれなりのものは見てきただろうから、今後を見据えて神輿を良く見せる為の作戦、と思えば不思議ではない。
『答える前に、どうしてそう思ったのかな?』
『社長は武力を商品と考えている、と聞きました。そういう人が新設された部隊の練度を確認しないまま、実戦投入をするでしょうか? 勿論厳しい訓練はしていると思いますが、より実戦に近い状況で確認したい。それでいて被害が出辛い状況であれば尚良い。そんな風に考えていると思いました』
『それが正しかったとして、どんな情報をくれるのかな?』
『まずは、こちらをご覧ください』
送られてきた情報を、新たに展開した空間ウインドウに表示させる。
銀河系のスターゲートネットワーク図で、スターゲートに接続されていない未開発領域がポイントされていた。“翼の眷族”の領域からも遠い。
拡大すると、とある星系の第4惑星がポイントされていた。解説情報が表示される。
さっと目を通せば、中々に強力な原生生物が多数いるようだった。火炎弾や強酸性の粘液を吐き出してくるもの。雷撃を放つもの。強い衝撃を受けると爆発するもの。強力な前肢や触手で攻撃してくるもの。飛行能力のあるもの。昆虫の類が地球とは異なる進化をしたのだろうか? サイズも様々で、人間程度の大きさから数十メートルに及ぶものまで多種多様な種類がいる。
数も多いようで、一地方の推定個体数が………ん? いち、じゅう、ひゃく、せん、まん、じゅうまん、………随分と多い。しかも繁殖期には更に増えるようだ。
動く標的としては良いかもしれない。
読み進めていくと、面白い事が書かれていた。
原生生物の体内にある結晶は、取り出すと簡易的なエネルギー源として使えるらしい。反物質のような超高効率なものではなく、電池やバッテリーといった感じだ。
すぐに疑問に思う。こういう資源があるなら、何故大々的に開発の手が入っていないのか?
答えは読み進めればすぐに出てきた。概ねランクB文明*15程度の技術力があれば、より優れた品質で大量生産が可能だからだ。つまり
更に読み進めると、
ランクB程度の技術力で量産可能という事は、ランクC*16程度では出来ないということ。
つまりエネルギー源として欲しいが購入資金が無くて、かつ自前で生産出来ないところは、危険を冒して原生生物を狩りに行くか、企業やハンターに依頼するしかない。
惑星にいるのは、そういう仕事をしている人達だ。
『ふむ。内容は理解した。そしてこれを見せて、何を提案したいのかな?』
『この惑星であれば、カラードの通常部隊が少々暴れたところで問題ありませんし、ついでにお小遣い稼ぎも出来ます。悪い話ではないと思いまして』
『なるほど』
相槌を打った晶は本格的に検討する為に、もう少しクラレスと話す事にしたのだった。
―――レイシーの電子戦―――
追加で頂く事が出来ました。
諸事情により途中挿入だと都合が悪いので、
一番最後に追加してます。
―――レイシーの電子戦―――
第236話に続く
実は通常戦力の練習場所にメッチャ悩んだ作者です。
書く前は「いつも通り宇宙海賊ブッ殺」で考えていたのですが、通常戦力を構成しているのは一般人。
始めから余りイケイケでやり過ぎると後が大変なので、少し穏便に………と思ってからが難産も難産でした。
そしてレイシーさんのちょっとセクシーな姿は束さんと晶くんにバッチリ見られています。
シリアスシーンだったのでスルーしましたが、晶くんは脳内メモリに高画質保存しています。ニヤッ。