インフィニット・ストラトス ~迷い込んだイレギュラー~ 作:S-MIST
話中のイラストはXINN様から頂いたものです。ありがとうございます!!
カラードがテラフォーミングしている惑星は現在3つ。
その内の1つが、あと3~4年で入植可能になる*1。尤も、地球と同じ環境ではない。火星型惑星に海が出来て、人が居住可能な程度の気温と気圧に出来そう、というだけの話だ。未知の病原体が存在している可能性は大いにあるので、外で活動するなら完全密閉型のスーツとヘルメットを着用しなければならない。将来的に大気環境の改善や強化技術の普及で不要になる可能性もあるが、当面は必要だ。一昔前の宇宙服ほど大袈裟ではないにしても、面倒ではあるだろう。
だが、それでも期待する者は多かった。居住環境という意味でも。社会的な背景としても。
まず居住環境については、マザーウィル2~4号機の投入が決定していた。全高600メートル、全長2400メートル。巨体を支える移動用の六本脚に六つの飛行甲板。長射程大口径実体弾砲×6、多連装ミサイルランチャー×24、近接防御用光学型CIWS×33、中近距離用レーザーキャノン×16etcetc。無論、航空戦力も陸上戦力も大量に搭載される予定だ。
その姿は多少の差異こそあれど、
だが、中身は全く違っていた。
テラフォーミング初期において、こういう移動拠点の有無は大きな違いになるだろう。
またマザーウィルの輸送方法についても、始めから発表されていた。予定されている方法は2つ。10キロメートル級の輸送艦を他文明から購入して、地球で建造したマザーウィル2~4号機を輸送する。或いはアリコーンのスターゲート機能で現地に直接送り届ける。カラードとしては前者を使いたかったが、10キロメートル級輸送艦の運用体制を構築出来るかが分からなかったので、このような予定としていた。
つまり入植の最初期という最も大変な時期であっても、安全な家が始めから用意されているということだ。
社会的な背景は様々な理由が絡み合った結果だが、最も大きな理由は移民先が植民地ではなく、自立させる方針なのをカラードが明確にしている事だろう。
移民先を頑張って開拓しても、将来的に搾取されるなら頑張ろうという気にはなれない。しかし、そうでないなら、という訳だ。実際カラードは、何年も前からこの方針で動いていた。
例えばエネルギー。今はスターゲート送電という便利なシステムがあるが、自分達で使うエネルギーは自分達で自給させる方針で、核融合発電の技術研究をしっかり行わせていたのだ。生活の根幹を握って隷属させる気は無いという意思表示だ。
次に食料。全幅4000メートルという巨大移民船クレイドル*2には食料生産ブロックがあるし、移民が始まればL4宙域にある食料生産用コロニー2基は、現地に移動予定と既に公表されている。因みにコロニーを使った食料生産は、人を生かす事だけを考えた生産体制なら、1基あたり年間1000万人が上限となっていた*3。食の豊かさを求めれば上限は下がるが、クレイドルの乗員は数十万人程度なのだ*4。試算上、先進国の一般的な食生活を提供する程度なら何ら問題無い。また食料生産に使われているコロニーは“首座の眷族”製であるため、耐用年数にも優れている。購入した際のマニュアルには100年程度なら問題無く使用可能とあり、束のシミュレーションでも同様の結果が出ていた。適切なメンテナンスを行えば、更に永く使用出来るとも。
このような下地があるため、地球を離れて新天地で、と考える者が多くなっているのだ。
そんな中でカラード宇宙開発部門では、移民先を発展させるのはどうしたら良いか、という事が考えられていた。移民が増えれば自然と経済圏になるだろうが、基盤となる産業の有無、或いは人を引き付ける魅力的な何かの有無で、発展速度が天地程に違うのは自明の理だろう。
なので移民先にそういうものを作りたいのだが――――――。
「難しいなぁ」
シャルロットは自身の執務室で1人呟き、椅子の背もたれに体を預けて天井を見上げた。
ついでに「う~ん」と伸びをする。制服の布地が引き延ばされ、豊かな胸部装甲が良く分かる光景だ。
それはさておき、部下達にも検討させているが、どうにも良い案が出てこない。
尤も、仕方が無い面もある。
移民は始まってないし、移民後に現地の状況がどうなるかも未知数。現状で当てになりそうなのは、惑星の資源データくらいだろうか? 調査用衛星群を先行投入してリモートセンシングさせているので、鉱物資源の分布状況については調査が進んでいるのだ。これとマザーウィル2~4号機の資源加工能力を合わせれば、入植初期に必要とされる物資の現地調達比率を高められる。
問題は、その後だ。新天地という熱は日常に紛れて遠からず冷める。だから持続的に発展させていく為の産業なり、人を引き付ける魅力的な何かが必要なのだが、全く良い案が出てこない。
思考が堂々巡りになり行き詰ってきたシャルロットは、時計を見てこれを一時保留にした。そろそろ次の予定の時間なのだ。友好関係にある相手だが、待たせるような失礼があって良い訳ではない。むしろ友好関係であるからこそ、こういうのはしっかりしないといけない。確か日本ではこういうのを――――――親しき仲にも礼儀あり、だっただろうか?
◇
シャルロットが自身の執務室で回線をオンラインにすると、眼前の空間ウインドウに2人の宇宙人が映し出された。
“翼の眷族”と呼ばれる背中に翼を持つ宇宙人だが、古き良きSFに出てくるような異形ではない。翼以外は地球人と変わらない外見をしていて、これまでの付き合いで外見的な美醜や男女の区別、精神的な善悪の概念といった多くの部分で、地球人と余り変わらない価値観を持つ種族と分かっていた。
そして空間ウインドウに映る2人は女性で、向かって右側にいるのがクラレス。フルネームはクラレス・イル・ディアニス・カルニア。ボリュームのある銀髪に、優しさと活発さが同居した整った容姿をしている。着用しているのは白を基調としたノースリーブなスレンダーラインのドレスで、黒と金のアクセントが華やかながらも、落ち着いた雰囲気を醸し出していた。人によってはお姫様という印象を受けるかもしれないが、それも全くの間違いという訳ではない。彼女はランクB文明、“翼の眷族”穏健派筆頭の孫娘なのだ。故郷でクーデターが無ければ、そういう扱いを受けていてもおかしくない相手だ。
向かって左側にいるのがレイシー。ファーストネームやミドルネームは無く、只のレイシー。髪形はセミロングよりも少し長いストレートで色は淡い紫。左右に髪留めらしき物を付けている。落ち着いた感じの美人さんだ。着用しているのはクラレスさんと同じく、白を基調として黒と金をアクセントにしたドレスのようなものだが、所々でデザインが異なっていた。胸元が少し大きめに開いていて、スカートも前側が開いている。いや、レオタードにアクセントとしてスカートを付けた、と言った方が良いだろうか。そして彼女は、ただ美しいだけの女性ではない。“翼の眷族”穏健派筆頭が最も信頼を寄せる私兵の内の1人で、電子戦のエキスパートだ。
―――クラレス&レイシー―――
以前のお話でも掲載させて頂きましたが、
あった方がキャラをイメージし易いと思い再掲載。
“翼の眷族”クラレス・イル・ディアニス・カルニア
“翼の眷族”レイシー
―――クラレス&レイシー―――
カラードはこの2人を保護した後、幾つかの理由から会社という形を与えて、好きなように活動させていた*5。正確に言えば幾つか守ってもらう事はあるが、それさえ守ってくれるなら好きに活動して良い、というものだ。
尤も今日オンラインで会う理由は、仕事ではない。2人を保護した当初から続けている互いの文化を知る為の交流――――――という名のお喋りだ。
そして生まれた星も文明も違うが、意外と共通点も多く、特にクラレスの方は十分に友人と言える関係になっていた。良い生まれのお嬢様であること。それ故の苦労もあったが、友人もいて助けられたり助けたり。同じヒューマノイドタイプだけに人間関係や社会形態も似てくるのだろう。
当初は硬かった会話も、回数を重ねた今ではすっかり弾むようになっていた。
『―――という訳なんです。お父様もお母様も言っている意味は分かるんですけど、もう少し私の話を聞いてくれても良いじゃないって思うの。顔を合わせればお淑やかにとか淑女らしくとかそれは危険だとかお前には相応しくないとか、本当にそればっかり!! でもお爺様は違ったわ。時と場所を弁えれば、ちゃんと私の話を聞いてくれて、ダメな事はダメ、良い事は良いって言ってくれたもの』
『そういう意味では、僕は両親に恵まれたかな。話は聞いてくれたし、愛してくれましたから』
昔は愛人の子と呼ばれたりもしたが、
『良いなぁ。因みに、どんな風に愛してくれたんですか?』
『お父さんは忙しくても一緒に食事をしてくれたり、他愛のない話を聞いてくれたりかな』
相当に控え目な表現であった。実際はシャルロットの言う事ならなんでも聞いてくれそうな勢いで、娘の方が気を使って言葉を選んでいるくらいなのだ。因みに
『羨ましい!! じゃあ、お母様は?』
『一緒にピクニックに行ったり、お花畑で花冠作ったりかな』
『うわぁ~。良いなぁ。私もそんなお母様が良かった』
クラレスが目をキラキラさせて、本当に羨ましそうにしている。
ここでシャルロットは、1つだけ勘違いされないように言っておく事にした。本当のお母さんと、多くのものを奪った後妻を一緒にされて欲しくないのだ。
『お母さんは、もういないんですけどね。私が小さい頃に他界しています。色々あってお父さんは後妻を迎えましたが………今はもう赤の他人です』
すると、これまで黙っていたレイシーが口を開いた。
『こういう言葉が正しいかは分かりませんが、人は理不尽に晒された経験から、他人への優しさや配慮を覚えられる事もあります。貴女が他人に配慮できる人というのは、我々が知っています。その時は本当に大変だったと思いますが、貴女がそういう経験をして成長したからこそ、私達は“翼の眷族”から遠く離れたこの地でも、不自由なく過ごせているのだと思います。決して、無駄な経験ではなかったかと』
2人がいるのは月の積み替え用ステーションの一角。恐らく地球のネットワークにアクセスして調べたのだろう。この一件は昔盛大に取り上げられたので、こちらについてちょっと調べれば簡単に出てきた筈だ。
『お気遣いありがとうございます。でも、大丈夫です。もう自分の中で折り合いはつけていますから』
クラレスがレイシーの方を振り返り、「どういうこと?」と聞くと、空間ウインドウが展開された。
内容を見た彼女は………。
『うん。この後妻、ギルティ』
『ありがとうございます。そう言ってくれると嬉しいです』
ニッコリと笑って答えたシャルロットに、クラレスは続けた。
『ところでこういう人って色々な意味でしぶといと思うんですけど、どうやってここまで綺麗にやれたんですか?』
少しばかり当時を思い出す。
束博士がデュノアの全てをハッキング。更識楯無が情報工作。あの時は凄いという感想しか出てこなかったが、今なら分かる。あの2人がタッグを組んで全力で潰しにいったとなれば、理不尽という言葉以外にない。
晶はそんな2人を、自分の為に動かしてくれた。
『物凄く頼りになる人が、味方してくれたんですよ』
するとクラレスはシャルロットの顔をジーーーーッと見て、ニコッと笑った。
『シャルロットさん。今、自分がどんな顔してるか分かります?』
『え?』
『とっても幸せそうな顔をしてますよ』
『え、ええ? そ、そんな事はないと思うけど』
思わず手で顔を触ってしまう。
そこにクラレスからの追撃が入った。
『良いなぁ。私もそんな顔出来る人との出会いが欲しいなぁ』
これにレイシーが冷静なツッコミを入れた。
『私は貴女から武勇伝を聞いただけですが、そういう出会いを望むならもう少し断り方なり、普段の態度というのがあるのではないでしょうか?』
『だってレイシー。家柄と自分自慢しか能のない連中よ。冗談じゃないわ』
『分からなくはありませんが、貴女が大好きなお爺様も時折心配されていましたよ』
『え? 初耳なんだけど?』
『ミッション報告の時に、少し出た程度でしたので』
『なんて言ってたの?』
『気にされるのであれば、お淑やかな断り方を覚えた方が宜しいかと』
『うぐ………』
シャルロットがお嬢様と忠臣メイドみたいなやり取りを楽しく見ていると、形勢不利を悟ったクラレスが話題を変えて話し掛けてきた。
『そ、そういえば地球のネットワークには束博士が社長と出会った経過が結構事細かに載ってましたけど、あれってどこまで本当なんですか?』
虐めるつもりはないので、素直に乗ってあげる。
『色々脚色して、それをあたかも事実のように書いている人もいますので………そうですね。本人達が語った以外の事は、「そんな事を言っている人もいる」くらいの受け取りで良いと思います』
『ということは、表の世界を追われた後に社長と出会って、あらゆるものから護られて、自分の為に世界の在り方まで変えてくれた恋人って事ですよね。ロマンスそのものじゃないですか。そんな出会いなんて、本当に羨ましい。ね、レイシーもそう思うでしょ』
『そうですね。素直に羨ましいと思います』
『だよねぇ。これにロマンスを感じない女の子なんていないよね』
『女の子、という年齢でもないと思いますが』
『じゃあ淑女で』
『淑女らしくないじゃじゃ馬と散々言われてきたと思いますが』
『レイシー厳しい』
『羨ましがるのも憧れるのも良いですが、クラレスは少しマナーを覚えないと、良い出会いを逃してしまいますよ』
『大丈夫。教材は沢山あるから』
自信満々な言葉に、シャルロットとレイシーは首を傾げた。
当然の事だが、地球に“翼の眷属”用のマナー教材など存在しない。レイシーも口頭で教える事はあっても、教材を渡した覚えはない。
なのに、教材?
2人が何だろうと思っていると、クラレスが続きを話し始めた。
『シャルロットさんを見てると、地球でもちゃんと勉強してる人………っていう言い方でいいのかな? そういう人は礼儀正しいって分かるから、地球のマナーとか、後は背景となる文化や歴史を色々調べてるの。えっと、今読んでるのはこんなところかな』
クラレスが2人の前に空間ウインドウを展開して、これまでに読んだ本のリストを表示させる。そしてレイシーにとっては全て異文明の難解な電子書籍だが、シャルロットにとっては昔頑張って読んだ懐かしいタイトルが幾つもあった。地球人ですら難解な本なのに、宇宙人が読むとなればどれほどの苦労が………と思いながらリストをスクロールさせていくと、ん? と思うタイトルがあった。『魔法戦士 シノ』 あれ? これって? 一応、思考トリガーでタイトルを画像検索。やっぱり。自分たちがIS学園を卒業する少し前くらいから連載されているアニメで、もう4年以上続いている長寿アニメだ。
ヒロインはシノという魔法の国のお姫様で、束博士に物凄く似ている。ヒーローがレイヴンという傭兵で、晶に物凄く似ている。悪の国の侵攻により多くを失ったお姫様が、悪の国と戦い、その中で傭兵と出会って――――――という話だ*6。自分達やハウンドに似たキャラクターも出てきている。
そんな事を思いつつ、シャルロットは言った。
『地球人でも中々難解な本がありますが、大変ではありませんか?』
『本だけだったら大変だったと思いますけど、地球のネットワークにアクセスさせてくれるので、映像を見ながらならなんとか。あと、サブカルチャーってこういう背景を反映しやすいので、何となく雰囲気をつかむのに使ったりしてます。特にカラードの本拠地がある日本のサブカルチャーは質も量も凄くて、時間を忘れちゃうくらいです』
『確かに日本のサブカルチャーは、地球の中でも随一と言われています。クラレスさんはどんなのがお好きなんですか?』
『一番を決めるのは難しいですけど、最近読んだ中では、『魔法戦士 シノ』ですね。映像の方も全部見ました。夢があって勧善懲悪で良いお話じゃないですか。見ていると、どういう訳か知っている人達が思い浮かびますけど』
『気のせいです』
『そうですね。気のせい、という事にしておきます』
『ええ。気のせいです』
シャルロットとクラレスがこんな会話をしている最中、レイシーはネットワークで『魔法戦士 シノ』の情報を検索していた。クラレスが全部見たというので、どんなものか気になったのだ。因みに空間ウインドウは展開せず、脳内に直接出力している。約4年分なので結構な量だが、彼女にはISの思考加速と似たような技術が投入されているため、特に問題となるような量ではない。
極々短い時間で調べ終えて分かったのは、確かに文化的な共通点は多いということだ。無論、日本という地方がベースのサブカルチャーなので、他の地方ではまた違うだろう。だが相手を知る為の取っ掛かりとしては、悪くないのではないだろうか? 現地の多くの人達が見ていて、面白いと思っていて、長く続いているという事は、幅広い人達に受け入れられる背景というか土台があるという事だ。無論、サブカルチャーをメインカルチャー*7と同じように扱うのは危険だが、その違いを分かっているなら入門書的な使い方も出来るだろう。
そしてサブカルチャーに余り詳しくないレイシーはスルーしていたが、『魔法戦士 シノ』は衣装の種類が多い事で有名だった。変身した時の衣装、制服の夏服冬服、春夏秋冬で各季節に複数の私服、自宅にいる時のルームウェア、寝巻、定番の水着回用の水着etcetc。兎に角種類が多い。普通のアニメでこんな事をしたら作画班が死んでしまうが、スポンサーが大変多いこのアニメでは全く関係無かった。むしろアパレルメーカーがスポンサーにいるお陰で、衣装データが送られてくるくらいだ。更に付け加えるなら、下着関係の描写もガチであった。季節毎に新作データがメーカーから提供され、下着の正しい選び方や着用方法が、結構な尺を割いて行われていたりする。どれくらいガチかというと、そのまま真面目な教材として使えるくらいにガチである。製作者側に絶対フェチな奴がいるのは間違いない。
―――閑話休題。
レイシーが様々なデザインに何となく興味を持ち始めていると、2人は両文明のサブカルチャー談義で盛り上がり始めた。アレが良い。コレが良い。似たようなのがある。類似性は共通の話題となり、異なる文明で生まれた者が、まるで長年の友人のように楽しく話し続けたのだった。
◇
シャルロットは楽しいお喋りの時間を過ごした後、ふと思いついた事を相談する為に社長室を訪れていた。
「―――という事を考えたんだけど、どうかな?」
「なるほど。アリだな」
聞いた晶は、率直な感想を口にした。
移民先に
そして晶は本題に入る前に、1つだけ心配事を口にした。
「なぁ。クラレスさんがあのアニメ見たって言ってたけど、どれくらい見たんだ?」
「全部見たって言ってたよ。夢があって勧善懲悪で良いともね」
「マジか………」
魔法戦士シノの登場人物であるレイヴンは晶にとても良く似ていて、当人の背筋が痒くなるようなくっさい台詞を偶に言うのだ。大変に止めて欲しいところだが、束がイケイケGOGOで止めさせてくれない。気恥ずかしいと思うのは普通だろう。
そしてちょっと想像してしまった。このアニメが
するとシャルロットが見透かしたかのように言った。
「考えてる事は何となく分かるけど、もう無理だと思うなぁ」
諦めの悪い晶は聞いてみた。
「無理って、何がだ?」
「魔法戦士シノが
「いや、まだクラレスさんが見ただけで、広まってる訳じゃないだろう」
「ん~、ゴメンね。ちょっと言いづらいんだけど、この前レジャー施設のナユさん*8から相談された事があってね」
「ん?」
「子連れで来ている家族も多いみたいで、何か楽しめる地球製のコンテンツはありませんかって聞かれたの」
「え、おい。まさか」
「日本のサブカルチャーって、すっごい幅広くて面白いの多いでしょ。だからある程度纏めて紹介したんだけど、確かその中にあったなぁ~って」
「ちょ、シャル。それマジ?」
「うん。大マジ。で、視聴率も調べてくれているんだけど、結構良いみたいだよ」
「ぉぉぅ」
晶は滅多に出さない声を出しながら天井を見上げて、暫く固まってしまった。
因みに、ナユも脇役キャラクターとして出演していた。役どころは近所の喫茶店のお姉さん。脇役なのに何故か、公式から黒ビキニイラストまで出ている。
それはさておき、復活した晶が言った。
「まぁ、取り合えず分かった。で、話を戻そうか。物や技術を入れるなら、それを使える人もある程度入れる必要があると思うけど、そこの所はどう考えてる? 文明間の技術格差、この場合は教育的な格差と言っても良いかな? そういうのを考えると摩擦が起きそうで怖いんだが」
するとシャルロットはニッコリと笑った。
「そこで、サブカルチャーだよ。共通の話題があれば、僕とクラレスみたいに楽しくお話し出来るでしょ。だから文化を先に入れて、次にその中で使われている道具とか技術を入れて、使って貰って、共通の話題を増やしていく感じかな」
この考えは趣味人である晶にとって、とても納得出来るものだった。
共通の話題があれば、多少立場が違ったところで問題ない。それだけの力があるのだ。
「分かった。移民惑星はその方向で開発していこう。しかしそうなると、建造予定の都市計画は見直した方が良いな」
元々の予定ではマザーウィル2~4号機を現地開発の拠点として使い、普通の地下都市を建造する予定となっていた。しかし文化交流があるなら、初めから物理スペースを確保して動線等も考えておいた方が良い。
幸い後3~4年あるから設計変更もそう難しい話では――――――と思ったところで、気づいた。これは、拙い。
「なぁシャル。文化交流を前提とした都市を造るならさ、やっぱり相手に対するリスペクトって大事だよな」
「そう思うけど、急にどうしたの?」
「いや、さ。移民先に都市を造って、そこで文化交流を考えるなら、地球人以外も都市にいる状況を考えなくちゃいけないだろ。少なくとも今交流のある“首座の眷属”と“獣の眷属”は確実に。あと今は文明として正式な交流がある訳じゃないけど、将来を考えるなら“翼の眷属”も。いや、何が言いたいかというと、都市建造に反映させられるレベルの文化研究を後3年………じゃ間に合わないな。2年、いや1年半くらいで出来ると思うか?」
「あ゛」
2人の脳裏にデスマーチという言葉が浮かぶ。実際にやるのは宇宙開発部門のメンバーと学園用コロニーにある宇宙文明研究科だが、大丈夫だろうか? ちょっと思いつくだけでも、かなりエゲツナイ作業量が簡単に思い浮かんでくる。
なので晶は、素直に人様の知恵を借りる事にした。一部の人間だけで考えるから大変なのだ。世界にはいるじゃないか。特定分野に物凄い熱量を持つヲタクという存在が。
「だからさ、ちょっとこんな事を考えたんだけど、どう思う?」
そうして話された内容にシャルロットは驚きながらも、「アリだね」と返したのだった。
◇
翌日。
カラードホームページの掲示板に、こんなスレが立った。
―――求む。
―――異星人が隣人となる都市で必要な事は?
―――因みに都市は新規建造。
―――インフラは一から構築。
―――想定しているのは地下都市。
―――開放型でエアシールドはちょっと難しい。
―――都市周囲の環境は好きに想像してOK。
―――大事なこと。
―――異文明との文化交流が想定されています。
こんな燃料を投下されて、喜ばないネット民はいないだろう。
噂は瞬く間に広がり、SFヲタク、ファンタジーヲタク、異文化ヲタク、都市マニアetcetc。ありとあらゆる濃い連中が、逞し過ぎる想像力をフル回転させて、お祭りのように様々な書き込みを行い始めていた。
それを見た宇宙開発部門や宇宙文明研究科に所属している者達は………。
「あ~、そっかぁ。これも検討しなきゃダメかぁ~」
「それを検討するなら、こっちもじゃね?」
「それだと、これはいらなくないか?」
「いや、いる。えーと、検討ページの………1200ページくらい前だったか? アレが絡む」
「うぉ。マジか。この仕様変えたら影響甚大だぞ」
「でも変えないと、どうやっても対応出来ないぞ」
「どうにかならないかな?」
「厳しいなぁ。多分だけど、この検討項目を組み込んで再構築した方が早いと思う」
「うげぇ」
「ボヤくな。後から発見するよりはマシだろう」
「まぁな。しっかしウチの社長も面白い事考えるよなぁ。世紀の大プロジェクトにネット民のアイデアを借りるなんて」
「ヲタクの特定分野への熱量って凄まじいからな。それが複数分野集まれば、そりゃ深い意見も出るよ」
実際、助かっているのは事実だった。
宇宙開発部門や宇宙文明研究科だけで全て検討しようとしていたら、今でも大変だが、この何倍も忙しかったに違いない。勿論、掲示板に乗っている意見は玉石混交だ。どうしようもないものもあれば、キラッと光るものもある。取捨選択という手間は必要だが、世界中から集まる自由な意見というのは貴重なものだった。自由な意見故にハッとさせられるものも多いのだ。
そしてこの動きはいつもの会談で取り上げられ、更に加速していく事となる。すぐにという訳ではないが、文化交流用の都市計画に“首座の眷属”と“獣の眷属”から協力要員が派遣される事になったのだ。また交流用都市の建造という本計画の趣旨を踏まえ、各文明から選出された人員の打ち合わせは、オンラインではなく可能な限り対面が望ましいと判断された。交流する為の都市を造るのだから、計画側も実際に体験していた方が良い、というのは理に適った考えだろう。
この決定に伴い、地球側から参加する人員は未知の病原体への感染対策として、強化処置が必須とされた。加えて、集まりやすく多くの者と交流しやすい場所が良いという事で、カラードが運営する
地球文明内の只の移民計画だった筈が、いつの間にか他の文明を巻き込んだ一大プロジェクトに変わってしまったのである。
そしてこの時、晶の義妹達が将来を見越して準備していたものが大変役に立っていた*9。
“アースレポート・コーポレーション”のホームページにある、各国の日常的なコミュニケーションをデータベース化したものだ。挨拶から買い物、ビジネス的な場面まで広く網羅した様々なシーンを動画で見る事が出来るため、“首座の眷属”と“獣の眷属”から派遣される予定の者達は、これを見て地球の事を予習していたのである。
使った者達の評価は上々であり、これによって「地球文明圏に行くなら、まずはあそこのデータベースを調べてみろ」と言われるくらいに利用されるようになっていくのだった。
◇
2週間後。
晶とシャルロットは
1人は長い紫色の髪をアップにしていて、ディープアイスブルーの瞳をしている。妙に色っぽい女性で、名前はナユ。“首座の眷属”出身で以前は1号支社所属だったが、今はレジャー施設の責任者となっていた。尤も多くの地球人にとってはレジャー施設のPVに出演した黒ビキニお姉さん、と言った方が分かりやすいかもしれない*10。紳士諸君にとっては残念な事に、今は
1人は犬耳の黒髪ロングストレートに真紅の瞳をしていて、理性的な雰囲気がある。名前はアキ。日本人のような名前だが、犬耳が示す通り“獣の眷属”だ。以前は2号支社の支社長で今はレジャー施設の副責任者だが、こちらも多くの地球人にとってはレジャー施設のPVに出演した紫ビキニお姉さん、と言った方が分かりやすいかもしれない*11。そして彼女が着用しているのもカラードの制服だが、本社のものとはデザインが違っていた。2号支社は多少気温の高い地域にあったため、
場所はレジャー施設中央にあるビルの一室。街中を見下ろせる程の高所にあるこの部屋で、晶は2人に言った。
「今後この施設には交流用都市建造の打ち合わせの為に、地球人が何度も、或いは常駐する者もいるかもしれない。で、だ。俺は少し心配している事がある。全員がまっとう倫理観を持っているなら良いんだが、中には「俺は特別に選ばれた人間だから特別扱いしろ」なんて事を言ったり、そういう態度をしてくる奴がいるかもしれない。だから対処方針を先に伝えておこうと思う。もしそういう奴がいて対処する気なら、社会的に息の根を止められるくらいの情報も一緒に集めて欲しい。殺るのはこちらで殺る」
アキが口を開いた。
「こういう時は穏便な対応を口にされる方が多いと思いますが、随分と思い切った対応と思います。どのような判断からでしょうか?」
「そういう事を許すと、次も、また次もって際限なく続いてドロドロの泥沼になるからな。あと何より、そういうのを許すと組織が腐る」
一度言葉を区切った晶だったが、ふと思って一応言っておくことにした。
倫理観や善悪の概念は概ね同じだが、「分かるだろう」で全部通してしまうと、いつの間にか認識が大きくズレている事があるからだ。
「ただ、常識の範囲内で一応口頭注意くらいはしてやれ。それで止めるなら良し。それで止めないなら幾ら言っても止めないさ」
「了解しました。もしそういう者がいたら、数回の口頭注意くらいはしてあげようと思います。後は、指示通りに」
「それで良い」
次いで、ナユが口を開いた。
「社長。交流に向けた準備として、本社側で進めて欲しい事があります」
「なんだ?」
「食への理解を深めて貰う事です。同じヒューマノイドタイプなので口から食べるというのは一緒ですが、地球の方々にとって、他文明の食事を食べるというのはまだハードルが高いでしょう。なので、そのあたりの理解を深めて貰えれば、より交流もし易くなるのではないかと思います」
「確かにそうだな。そしてそれをやるなら、此処の方が良いな。強化処置が前提にはなるが、食の研究要員を派遣して、まずはレジャー施設で出されている物を調べて、理解を深めて貰って、地球から来る人達に食べて貰おうか。それを突破口に徐々に広げていく感じかな。追加スペースの確保は大丈夫か?」
「勿論です」
「なら頼む」
「分かりました」
ここで晶は話題を変えた。
伝えたい事を伝えたというのもあるが、今日は視察目的でもあるのだ。
窓際に移動して、眼下の街並みを見ながら素直な感想を口にする。
「それにしても、随分と人が来てくれているな」
通りには“首座の眷属”と“獣の眷属”の一般人が沢山いた。カップルもいれば家族連れもいる。まだ稼働して間もないが、出だしは順調なようだ。
ナユが答えた。
「アラライル大使とスノー大使が、色々なところで話題にしてくれましたので。後は、私と同じように救出された人達にも此処の事を伝えました。思っていたよりも、ずっと良い反応を返してくれる人が多かったです」
「有り難いな」
「カラードのこれまでの行動があってこそだと思います」
「なら、今後もそう言って貰えるようにしないとな。ところで街中を見て歩いてみたいんだが、何処かオススメの場所はあるかな?」
「オススメの場所ならありますが、その、歩いてというのはオススメしません」
「え?」
「社長の顔は既に知られていますので、もし誰かが気づいたら身動きが取れなくなります」
「そんなにか? 地球ならまだしも、此処で?」
「社長はもう少し、ご自身の知名度を認識されるべきかと」
晶は思った。他文明の一般人が他文明の要人の顔など覚えているだろうか?
ナユはそんな声が聞こえたかのように、分かりやすい証拠を出した。
空間ウインドウが2つ展開され、それぞれに別の映像が流れる。
「これは?」
「1つは私達を助けてくれた後に、こちらで流れたニュースのもの。もう1つが惑星遭難コールで対処してくれた時の映像です。そして御覧の通り、社長と束博士の顔がしっかりと出ています」
前者の第3回外宇宙ミッションは約2年前。後者の第5回外宇宙ミッションは約1年前だ。それほど経っていないから、確かに覚えている者がいるかもしれない。
ナユは更に続けた。
「これにスターゲートハイウェイの話題性が加わりますから、この手のニュースに興味を持っている人なら、社長と束博士の顔を覚えている事もあるかと思います」
また言葉にはしなかったが、レジャー施設の責任者が直接案内する男。しかもカラードの制服を着ているとなれば、多くの者はストレートに社長を想像するだろう。
これに対して晶は変装して出歩こうかな、と思ったが止めておいた。地球ではないのだ。頑張ってくれている異星人の部下達に迷惑をかけるものではない。
珍しく(?)自重していると、隣にいたシャルロットが尋ねた。
「なら、車に乗って街を回る事はできますか」
「勿論です。今、行かれますか?」
答えたナユの視線が、晶へと向けられる。
「ああ。実際のところを見てみたい」
「分かりました。社用のエアカーがありますので、こちらに」
こうして晶とシャルロットはナユとアキの案内で、実際に動き始めている
―――魔法戦士シノに登場する人気の脇役―――
脇役なナユさんのイラストを頂けました。
諸事情により途中挿入だと都合が悪いので、
一番最後に追加してます。
―――魔法戦士シノに登場する人気の脇役―――
第239話に続く
入植先の持続的な発展について考えていたら、文化の交わるところは発展し易い、というのを思い出して今回のような形となりました。
舵取りは大変(主にシャルロット)ですが、地球文明に多くのものをもたらしてくれると思います。
目に見える形となるのはまだ何年も先ですが、こういう仕込みをしておかないと後がもっと大変に………。
あと大事な事を1つ。
ヲタク文化の中毒性&汚染力は宇宙いちぃぃぃぃぃ!! ジャパニーズヲタク文化が
すいません。何か変な電波を受信したようです。