インフィニット・ストラトス ~迷い込んだイレギュラー~ 作:S-MIST
でもちょっと毛色が違う感じです。
話中のイラストはXINN様から頂いたものです。ありがとうございます!!
追記:外宇宙ミッションの通し番号が間違っていたのでタイトルを修正致しました。
地球で移民に向けての準備が進んでいる頃。
“首座の眷属”は“翼の眷属”の動きに目を光らせていた。
どうにも、おかしいのだ。
強硬派がクーデターを成功させて政権を握った後、領域外縁部の治安が安定していない。海賊の活動を許してしまっている。
これを政権移行に伴う不手際、と考える事は簡単だ。クーデターによる政権奪取は多くの混乱を生みやすいため、分からない考えではない。だがそう考えた場合、クーデター側主要人物の人物像が、クーデターの前後で一致しなくなる。もっと言ってしまえば、穏健派筆頭のカルレス・イル・ディアニス・カルニアを辺境惑星に軟禁するまでの手腕は実に見事だった。なのに、政府や軍の掌握に失敗した? このあたりの速やかな掌握がどれほど大事かは、只の一般人であっても分かるだろう。穏健派筆頭をあれほど鮮やかに軟禁した者達が、分からない筈がない。にも関わらず、外縁部の不安定化という不手際を晒している。
また外縁部の不安定化に伴い、周囲にある複数の非ヒューマノイド系文明の動きが活発化していた。中には前大戦で“翼の眷属”と戦火を交え、強い遺恨が残っている文明もある。政権を奪取した強硬派がその後の掌握に手間取っているとなれば、どんな行動を起こすか分かったものではない。
「………いや、まてよ?」
“首座の眷属”情報部の軍人は、様々な情報を検討していく中でふと思った。
むしろ、事を起こして貰うための不安定化ではないだろうか? 裏付ける情報は何も無い。しかしそう考えると、妙な違和感が消えるのだ。だが今度は、まさかという考えが過る。何故なら銀河系に存在するどんな文明のどんな歴史でも、クーデター後の治安維持は最重要と言って良いからだ。これに失敗したら民衆からの強烈な突き上げや反発で、その後が立ち行かなくなる。デメリットしかないのだ。仮に何らかの策があるとしても、治安をかけるのはリスクが大き過ぎる。
デメリットしかない事を意図的に起こす意味はないから、やはり政権移行に伴う不手際だろうか?
そうだという思いが強くなるが、最後に仮定に仮定を重ねて考えてみる事にした。
どんなリターンがあれば、これだけのリスクを呑み込めるだろうか?
“翼の眷属”の情報を思い出してみる。
文明はランクB。かつてはランクAだったが、大規模内戦で勢力を減退させてしまったためだ。しかし今では随分と勢力を回復させている。
地政学的な環境はどうだろうか? 良いとは言えない。周辺にある非ヒューマノイド系文明とは過去の大戦で戦火を交えており、今も解決していない遺恨があるからだ。そういう意味で、穏健派筆頭のカルレスは上手く舵取りをしていたと言えるだろう。
時系列で整理すると、大戦は優勢のまま終戦を迎えたので自領域は拡大していたが、その後に起きた大規模内線の隙を突かれ、拡大した領域を敵対していた非ヒューマノイド系文明に奪われた、正確に言えば奪還されたという順番だ。
“翼の眷属”にしてみれば、悔やんでも悔やみきれない失態だろう。どうにかして取り戻したいと思っていても不思議ではない。仮に取り戻せるとしたら、どの程度までのリスクなら呑み込めるだろうか? リスクに見合うリターンのラインをどの程度に設定する? どれほどの下準備が必要となる?
こんなものは只の思考遊戯。そんな思いが脳裏を過るが、軍人は止められなかった。
これまでに入手した情報を総合的に考えれば、こんなゲームみたいな可能性は無い。それが理性的かつ合理的な判断だ。他にもやらなければならない仕事はあるのだから、時間は有効に使うべきだ。
そんな思いとは裏腹に、思考トリガーで体内にあるサイバーウェアを起動。ネットワークにアクセス。情報を拾い、検討し、出てきた推論を補完する情報をまた探し、得られた情報を元に検討を重ねていく。
アラライルと繋がりのある情報部の軍人は、そうして深い深い思考の海に潜っていったのだった。
◇
地球時間で数日が経過した頃。
アラライルは訪ねてきた友人を、大使館の応接室で迎えていた。
辺境議員の時から付き合いのある奴で、現場が良いと言って昇進を蹴り続けている変わり者だ。
「久しぶりだな。しかしお前、アポ無しで突撃してきて私がいなかったらどうする気だったんだ?」
「地球は今色々と面白いからな。いると思ってたよ。ま、仮にいなくてもお前の部下だったら、ちゃんと真面目に取り次いでくれただろうさ」
「部下を信じてくれて何よりだ。で、どんな要件で来たんだ?」
「最近なにかと話題になってるレジャー施設で遊んでみようと思ってな。通り道だから、ついでに顔を出してみた。そしてついでのついでに、これ。スタンドアロンの端末で読んでくれ」
ポケットから取り出されたデータチップが無造作に投げ渡される。通信機能の無い、データストレージとしての機能しかないものだ。
「………お前、何に関わってる?」
「そういうのじゃない。気になって調べた事があるんだが、出てきた結論が正直なところ、荒唐無稽過ぎて自分でも信じられん。そして本当なら上司に先に言うのが筋なんだが、その前にお前の意見を聞きたいんだ。政治の天才であるお前のな」
「ふむ………」
アラライルは取り合えず、言われた通りに見てみる事にした。
スタンドアロン端末にデータチップを取り付けてロード。
表示された内容を読み込んでいく。応接室に静かな時間が流れ、暫くしてアラライルが口を開いた。
「確かにお前の言う通り穏健派筆頭を軟禁するまでの手際と、その後の手際を比べると見劣りする、というのは理解出来る。だから何らかの目的を達成する為の意図的な動きではないか、という考えも分からなくはない。しかしクーデター後に自領域外縁部の不安定化を演出するのは、流石にリスクが高すぎる」
「聞きたいのは、まさにそこなのさ。仮にお前が“翼の眷属”強硬派のトップだったとして、どれほどのリターンがあれば、自領域外縁部の不安定化なんていうリスクを呑み込める? 生半可なリターンではないだろうが、俺にはちょっと想像出来なかった」
アラライルは少しだけ考えてから答えた。
「かつての内戦が原因で失った自領域を全て取り戻し、更に広げ、遺恨のある非ヒューマノイド系文明をやりこめる。これの具体的な目算があるなら、呑めなくもない」
「障害というか、問題になる事は?」
「当然、我々だ」
“首座の眷属”は
そして厳然たる事実として、“首座の眷属”と“翼の眷属”の差は途轍もなく大きい。極々単純に基礎基盤の桁が違うのだ。分かり易いところでは、保有している恒星系の数だろうか。“首座の眷属”が保有している恒星系が2600なのに対して、“翼の眷属”が保有している恒星系は153程度でしかない。
無論、恒星系の保有数がイコール勢力の差となる訳ではないが、“首座の眷属”は“翼の眷属”以上の開発力を持っている文明だ。基礎基盤の差が大きな差となるのは道理だろう。
「だろうな。なら、もう1つ質問だ。“翼の眷属”が非ヒューマノイド系文明に先制攻撃されたとして、カウンターで電撃侵攻作戦をした場合は、こちらが仲裁に入るまでどれくらいだと思う?」
「侵攻作戦に使われた戦力次第だな。単独で対処出来そうなら、様子見という選択もあるだろう」
「お前が言った事を行うに足る十分な戦力が投入されたとしてだ」
アラライルは歴史を思い出した。
“翼の眷属”が大規模内戦で喪失した―――敵対していた非ヒューマノイド系文明に奪還された―――星系は17。当時保有していた星系数の実に1/10だ。しかも喪失した星系の中には、大戦で甚大な被害を出してまで確保した貴重な資源惑星、テラフォーミングに適した星、産業用のコロニー群など、今後の発展を見込んで投じた様々なものが含まれていた。大打撃という言葉では足りない程の大打撃だっただろう。
それでも“翼の眷属”はランクAと言える程の勢力を維持していたが、当時の“首座の眷属”は銀河惑星連合の盟主として、大規模内戦に対して懲罰を発議していた。
内容は文明ランクのAからBへの格下げと、17星系全てを非ヒューマノイド系文明の領域として認める、というものだった。
理由は2つ。
1つは大戦後の安定が必要な時期に大規模内戦を勃発させて周辺の安定を損なった。
1つは該当星系は元々非ヒューマノイド系文明の領域で、大戦で勝ち取った領域とは言え、内戦の隙を突かれて失う程度の統治しか出来ないなら、元に戻したところで何ら問題ないと判断出来る。
当然、“翼の眷属”からは相当に強い反対があった。勝ち取った領域と認めてくれているなら、攻め込んできた非ヒューマノイド系文明の方が悪いという主張もされた。しかし大戦と内戦による疲弊で跳ね除ける力は残っておらず、以降ランクBとして扱われていく事となる。
大戦の勝者の側にいた筈なのに、最後の最後で
因みに当時の“首座の眷属”の判断として、ここで甘い判断を下せば落ち着き始めた情勢が再び荒れる可能性が相当に高かったため、強い反対が出るのを承知で、該当星系全てを非ヒューマノイド系文明の領域としていた。
少しばかり逸れた思考を元に戻す。
つまり最低ラインが、17の星系を奪還出来る戦力という訳だ。
全ての星系に強力な防衛戦力がある訳ではないが、カウンターで電撃侵攻作戦をやるなら、旗艦級や母艦級を含んだ正規艦隊でのホットドロップ―――スターゲートを使った直接の戦力投射―――しかないだろう。
“翼の眷属”の軍編成を思い出す。
自領域を12方面に分けて、各方面の定数は約1800隻。つまり総艦艇数は約22000隻。
17の星系を攻略するのに抽出出来る戦力はどれ程だろうか?
仮に外縁部の不安定化が自作自演だったとしても、不安定化させたくない地域もあるだろう。となれば全軍の動員は現実的ではない。1/3か。いや1/4の5500隻動員できれば相当に頑張った方だろう。
では仮に5500隻動員されたとして、“首座の眷属”中央はどう考えるだろうか?
注視はするだろうが、いきなり艦隊を派遣したりはしないだろう。隣接する非ヒューマノイド系文明にも対処能力はあるからだ。なので押し込まれるようであれば援軍を派遣する、くらいが妥当だろうか。
アラライルは答えた。
「十分な戦力とは言うが、“翼の眷属”の軍編成を考えれば、動員できるのは5000隻程度だろう。多くても6000隻には届かない筈だ。それで17星系を電撃的に攻略するのは、中々難しいと思うぞ」
「仮定の話だ。まぁ考えづらいというなら、1万隻くらい何処かに隠していた、というならどうだ?」
「計16000隻か。なら、そうだな」
この数を確実に殲滅出来るだけの戦力を集結させて送り込むとなれば、どの程度の時間が必要だろうか?
方面軍司令部直轄の緊急即応艦隊1万隻を中核として他の部隊を終結させて………考えを纏めたアラライルは答えた。
「確実に対処出来るだけの戦力を集めてとなれば、
「17の星系をその程度の時間で、か。流石に無理か」
50キロメートルサイズの旗艦級には、艦隊を他星系に直接送り込めるスターゲート機能が標準搭載されている。だがそれでも、時間的制約が厳しい。極々単純な計算だ。
仮に16000隻の艦艇を準備出来て、旗艦級も4隻準備出来たとしよう。これを4つの艦隊に編成すれば、1個艦隊あたり4000隻。17の星系を
全ての星系に十分な防衛戦力がある訳ではないし、有人惑星は制宙権さえ押さえてしまえばどうとでも出来るとは言え、流石に強行軍が過ぎる。
「私もそう思う。だが、隠しているはあり得るかもしれんな」
友人は意外そうな顔をして尋ねた。
「何となく言っただけなんだが、どうしてそう思うんだ?」
「強硬派がクーデターをして終わり、という事は無いだろう。なら、何かしらの隠し玉があっても不思議ではない。武力というのは安心材料でもあるからな。何処に、どうやって、とまでなると流石に出てこないが、可能性の1つとしては有りだろう」
アラライルは一度言葉を区切ってから続けた。
「だが有り得るというだけで、大規模な調査リソースを投入出来る訳じゃない」
「我々のリソースは、な」
「………考えたじゃないか」
「そりゃ多少はな。で、どうだ?」
「不確定要素が多過ぎるからな。相手次第だ」
「そうか。まぁ、確証がある訳でもないしな。ところで話は変わるんだが、レジャー施設のオススメアトラクションってなんだ?」
「随分急な話題転換だな」
「あのな、俺は有給で来てるんだ。むしろ今までの話がついで。本命はこっち」
「大使に聞く話か、それ」
「招待されて遊びに行ったんだろ。ケチケチしないで教えてくれ。同僚からも感想聞かせてくれって言われてるんだ」
「分かった分かった。じゃあまずは――――――」
こうしてアラライルはレジャー施設の事を伝えていったのだが、変わり者の友人は何かにつけて可愛い子がいるお店を聞いては熱心にメモしていた。
その姿を見て思う。
もしかしてこいつが現場から離れない理由は、気軽にそういうお店に行くためではないだろうか?
まぁ、確認はしなかったが。
◇
後日に行われたいつもの会談は、アラライルの希望で非公開となっていた。
事前に束と晶、スノーには変わり者の友人が持ってきた推測が伝えられ、大使権限で入手した情報が補足として加えられている。
『事前に情報を頂いたので、こちらでも少し調べてみました』
スノーが新たな空間ウインドウを展開して、“翼の眷属”が取り扱っている幾つかの品物の取引量を表示させた。
表示期間はクーデターの1年程前から現在に至るまで。他文明の事なので誤差はあるだろうが、“獣の眷属”の大使が調べた情報なら、相応の裏付けがあるデータだろう。
束の斜め後方に立つ晶が尋ねた。
『これは、軍事行動の際に消費されやすい品物ですか?』
『そうです。ですがクーデター前後で殆ど取引量が変わっていないのです』
『では過去10年分、と言っては分かりづらいですね。87600時間程前からではどうでしょうか?』
『お気遣いありがとうございます。10年でも分かりますので、大丈夫です』
データの表示期間が切り替わる。増加傾向にあるが、これだけで差分を軍事用品として保管していると考えるのは早計だろう。人口増加率を加味すると、不自然な増加には見えないからだ。
他のデータに対しても幾つかの条件を加えて多角的に見てみるが、おかしな変化は見られない。
晶が続けて尋ねた。
『アラライルさん。“首座の眷属”から見ても、この変化は概ね同じですか?』
『その通りだ』
『なら、取引量から追うのは無理だと思います。仮に何か考えているのだとしても、ここまで物資の流れに気を使っているなら、暴くのは至難の業かと。時間と労力を掛ければやれるかもしれませんが、どちらも浪費できるものではないでしょう』
アラライルが尋ねた。
『では、君ならどうする?』
晶は少しばかり考えて返答した。
『答える前に確認したいのですが、“翼の眷属”の領域内に船やコロニーの処分場みたいなところはありませんか? 適度に汚れていて、沢山の物が乱雑に散らばっていて、人の出入りが多い。そんな場所です』
『そういう場所が怪しいと?』
『只の想像です。そういう場所ならゴミと偽って大量の物資を持ち込んでも、ある程度の人が出入りしても誰も不思議に思わない。それに物を隠すのに、完全に密閉して隠す必要なんてありません。その場所に何かがあると意識されなければ良いんです。意識させない事こそが、最高の隠蔽方法なんですから』
この意見にアラライルとスノーは同時に、“翼の眷属”の領域図を思い浮かべた。該当するのが6ヶ所ある。所謂ジャンクヤードと呼ばれる場所だ。場所によって規模は様々だが、小さいところでも数万隻、大きいところなら十数万隻の廃船が漂っている。回収されたパーツが安価に取引されているので、人の出入りも多い。
しかも業者が使っている拡張に拡張を重ねたコロニーに、同じように拡張を重ねた雑多な港。人や物を隠しやすい条件が揃っている。更に言えば遠距離から調査しようとしても、恒星から放射される強烈な電磁波が、並大抵の遠距離調査など無効化してしまう。
アラライルが言った。
『なるほど。着眼点としてはありですね』
スノーも続いた。
『ええ。確かに、その方法なら隠せますね』
この反応に、晶は尋ねた。
『あるのですか?』
『あります』
スノーは答えた後に新たな空間ウインドウを展開して、“翼の眷属”の領域図を表示させた。その中で、6ヶ所の星系がマークされる。
『この6ヶ所は“翼の眷属”の中でも有名なジャンクヤードで、今貴方が言った条件を全て満たす場所です』
『なるほど』
晶は肯いてから、全然関係ない事を思った。
『少し、調査してみても良いかもしれませんね』
『何か手があるのですか?』
スノーの問いに、束はニッコリと笑いながら答えた。
『方法は秘密ですが、そう難しいものではありません』
『では、カラードが動くと?』
『先に言っておきますが、結果は期待しないで下さい。晶が言った通り只の想像で、確証がある訳ではありませんので』
『これまでの外宇宙ミッションの成果を知っていれば、期待するなという方が無理でしょう』
『あくまで只の調査です。幾つかのミッションであった、華々しい成果が出るようなものではありません』
『分かりました。そういう事にしておきます』
表情と言葉が全く一致していない返答に束は説得を諦め、アラライルの方を見た。
すると彼は彼で、期待している様子だった。
『どんな調査をするのかは興味の尽きないところですが、まぁ終わった後の楽しみに取っておきましょうか。ああ、でもそうですね。何か手伝える事はありませんか?』
『特にありません。少しばかり繊細でデリケートな方法なので、独力で行いたく思います』
『そうですか。では何か予定外や想定外の事が起きて、力が必要になったらいつでも言って下さい』
『ありがとうございます』
『こちらでもですよ。束博士』
『スノーさんも、ありがとうございます』
この後も4人の話は続き、様々な情報が共有・検討されていったのだった。
◇
非公開の会談を終えた後のこと。カラード本社社長室。
晶は応接用ソファに座る束の隣に座りながら、ものすっっっっっごい嫌な予感を覚えていた。
今のニッコニコな表情と、先ほどの「少しばかり繊細でデリケートな方法」という言葉。考えれば考える程嫌な予感しかしない。しかし、聞かない訳にもいかない。
「なぁ束」
「なぁに、晶」
ちょーニッコニコ。
「さっきの少しばかり繊細でデリケートな方法って、まさか?」
「うん。あんなの建て前だよ。
寄りかかってきた束が、上目遣いで見てくる。ただし全く色っぽくない。言うなればお小遣いをねだる子供。あげないって言ったら100%癇癪を起こすアレだ。
「いや、でもな。お前………」
「ダメ? ダメなの? 晶が一緒にいてもダメなの? 私、ずっと家に居なきゃいけないの?」
「うぐ、だ、だがな………」
こっそり何処かの宙域に行くならまだしも、ジャンクヤードに行って色々見るとなると、流石に。束はもう“天才”篠ノ之束博士として名も顔も知られているのだ。
色々考えている間に、束はいつの間にか晶の膝の上に乗り、両手で自分の男をガッチリホールドしていた。
そして一言。
「い・い・よ・ね?」
ここまで行きたがっている束を、止められる筈もない。
晶は降参とばかりに言った。
「分かった。一緒に行こうか。でも流石に、他に何人か連れていくぞ」
その場に存在する全てを殲滅するだけなら1人で事足りるが、真っ当に調査するなら人手も必要だ。仲間に経験を積ませたいという理由もある。
「良いよ。誰を連れていくの?」
「こういう時に鼻が利きそうなハウンドと、後は
「なるほどね。もう連絡する?」
「ああ。もうしておく」
すると束は晶の膝の上から降りて、隣に座りなおした。
その後に晶は、コアネットワークでハウンドチームを呼び出す。空間ウインドウが展開されて、3人の姿が映し出された。
―――ハウンドチームのISスーツ姿―――
―――ハウンドチームのISスーツ姿―――
左にいるのがネージュ・フリーウェイ。腰まであるストレートブロンドに蒼い瞳。清楚な顔立ちでお嬢様とも言える雰囲気だが、3人の中では一番腹黒い。チーム内の策謀担当だ。
右にいるのがユーリア・フランソワ。腰まである燃えるような赤髪で、昔の性格は勝ち気で高飛車。男は自分に貢ぐ為に存在すると思っている女王様だったが、今では構って欲しいとじゃれつく可愛いワンコになっていた。
真ん中にいるのがエリザ・エクレール。クセの無い銀髪のセミロングに切れ長の瞳。チームリーダーであり見る者にどこか冷たい印象を与えるが、腹黒とワンコに挟まれる苦労人でもあった。
そして彼女達のISスーツは中々肌色面積の多いデザインだが、与えたISはアーマードコアを模した全身装甲型だ。このためこの姿を直接見れる者は、極めて限られていた。
エリザが3人を代表して答える。
(社長。それに奥様。如何されましたか?)
(仕事だ。ミッションを中止して戻れ)
行わせていたのはアリコーン用装備の試験だが、急ぎという訳ではない。
(了解しました。戻るまでに検討しておく事はありますでしょうか?)
(検討というよりは、お前達の嗅覚を期待してだな。詳しくは帰って来てから話すが、取り合えずコレを見ておけ)
いつもの会談で話された内容を送ると、3人は思考加速で内容を一瞬で把握。清楚で腹黒なネージュが口を開いた。
(確かにコレは、私達向きですね)
続いてワンコなユーリアが喋った。
(社長。ぶっ壊すのは無しですか?)
(万一の可能性も無くはないが、恐らくは無しかな)
(つまんなーい。そんなの腹黒ネージュに任せて、私とイイコトして遊びませんか?)
するとゴンッという鈍い音が響いた。
隣に立っていたエリザが笑顔のまま、グーでユーリアの後頭部をドついたのだ。パーではなく、グーである。
(申し訳ありません社長。何か雑音が聞こえましたが、気にしないで下さい。奥様も、後からしっかり言って聞かせますので)
すると束が笑いながら答えた。
(程々にね)
(ほらぁ。奥様も良いって言ってるじゃない)
(言ってないでしょ。お情けに決まってるでしょ。分かりなさいよこの脳筋)
今度は晶が笑いだしてしまった。
(お前ら本当に面白いな。まぁそんな訳だ。さっさと帰ってこい)
(了解です)
(了解しました)
(了解でーす)
ゴンッ!!
(いったいわね。何度も――――――)
通信が切れる直前の光景に、2人は揃って笑いだしてしまう。
もう随分と前の事だが、あいつらを押し付けられた時は、こうなるとは思ってもいなかった。
そうして笑い終えた後、晶はコアネットワークで
―――
別の回でも掲載させて頂きましたが再掲載。
―――
その姿を見て、美女と思わない男はいないだろう。しかもタイプが違う美女だ。
長い赤髪をポニーテールにしている
―――
―――
青紫髪をショートボブにしている
ISスーツは2人とも何度か新調しているようだが、同じようなデザインの物を選んでいる事が多かった。
あかりんが紅を基調としたフライバックタイプで、肩甲骨から腕の付け根付近にかけて布地がかなり少ない。そして学生の時より成長している胸部装甲が、見事な曲線を描いていた。加えてVラインも鼠径部より上という中々に攻めたものだ。
かなりんが蒼を基調としたモノキニタイプで、肩周辺や脚の付け根付近は随分と大人しい。しかしモノキニタイプだけあって背中は大きく開かれており、臀部の割れ目が見えそうなギリギリのラインまでカットされている。更に胸部装甲の中央付近が縦にカットされているため、学生の時よりも成長している谷間が見えていた。
昔エリザからプレゼントされた時は恥ずかしがっていたのに、すっかりそのデザインが気に入ってしまったらしい。
そして2人は専用機を、随分と渋い方向でカスタムしていた。外見をIS学園の練習機である打鉄に似せているのだ。何故か? 以前理由を聞いたところ、思考が狩人のそれだった。犯罪者に侮って貰う為である。何故ならISは超兵器として広く認識されているが、それと同じくらい打鉄は練習機として広く認識されているのだ。つまり練習機を使っているパイロット=雑魚と思ってくれる事を期待してのことだ。
大好きなアーマードコアに例えると、外見は初期パーツ。でも中身は最高峰のハイエンドパーツで固めた高性能機という奴だ。因みにクラスメイト達の機体には例外無く束の手が入っているので、本当に外見詐欺である。
(晶くんどうしたの?)
あかりんが尋ねてきた。
(ミッションで2人を連れていきたいところがあってね。戻ってこれるか?)
(今仕事片付いたところだから大丈夫。どんなミッションなの?)
いつもの会談で話された内容を送ると、2人は思考加速で内容を一瞬で把握。今度はかなりんが口を開いた。
(なるほど。でもこの内容だと、私達で役に立てるかな?)
(今はスターゲートハイウェイが活動の中心だけど、今後もしかしたら遠出する事もあるかもしれないだろ。そういう時に、こういう色々な場所の事を知っておけば役に立つと思ってさ)
(ありがとう。じゃあ、しっかり勉強させてもらうね)
(ああ。そうしてくれ。じゃあ2人とも、待ってる)
こうして連絡した晶は、社長室で束と今後の事について話し始めたのだった。
第240話に続く
束さんは宇宙のジャンクヤードに興味津々のようです。
一応いつもの会談で話された事は覚えていると思いますが、調べ物はついでに、というところでしょうか。
あとISスーツ姿の美女達を見て思いました。晶くん羨まし過ぎです。