インフィニット・ストラトス ~迷い込んだイレギュラー~ 作:S-MIST
彼女が電子ネットワークを使って暴れるとこうなります。
無法で無双で理不尽で天災。
誰にも止められないのです。
追記:外宇宙ミッションの通し番号が間違っていたのでタイトルを修正致しました。
ジャンクヤードコロニーの中央管制室は、前代未聞の事態に対処中であった。
非常灯が灯るという非日常的な光景が、否応なくスタッフの緊張感を高めていく。
―――
そこへ放たれる追い打ちのような一手に、オペレーター達が悲鳴のような報告を次々と上げ始める。
「市街地へエネルギー供給量65%に低下。更に低下中。このままでは都市機能を維持できません」
「重力機関の出力低下。市街地の重力が0.75Gに低下。更に低下中」
「大気循環システム稼働率72%に低下。予備機を非常用電源で稼働中。現状維持です」
何処の誰かは知らないが、舐めた真似を――――――と管制室の室長が思った時、更なる報告が飛び込んできた。
「こ、コロニーの軌道管理プログラムにアクセス!! フェイクネット展開。遮蔽実行。ダメです。回避されました!!」
「手動でラインを切断。やらせるな」
「了解」
オペレーターが手元のコンソールを操作。誤作動防止用の安全コードを入力。スイッチON。
コロニーの何処かで物理ラインが切断されてアクセスがストップ――――――しない!? 即座に迂回ルートが構築され、恐ろしい勢いで軌道計算が書き換えられていく。
この軌道計算が実行された場合、48時間で恒星の重力に捕まって墜ちる。
室長は決断した。
「
そして言うまでもなく、全システムのシャットダウンはコロニーに住む者達にとって非常に危険な判断だ。普通なら、許される事ではない。しかし、このままではジリ貧。最低限の機能は、コロニー各部の非常用電源で維持される。故に室長は復旧を一区画ごとにする事で、相手の居場所を探って行く気だった。無論、最善手ではない。だが他に取れる手がない。だから場所を見つけて人を送り込んで直接押さえる。
まずまずの判断能力と言えるだろう。
束の狙いが、シャットダウン“させる事”でなかったのなら。
そもそも論として、束は何故コロニーのライフラインにハッキングを仕掛けたのだろうか? お目当てはジャンクヤードで取り扱われている商品情報の筈だ。なのに、何故? 答えはジャンクヤードコロニーが行っている商品データの管理方法にあった。
極々簡単に言えば商品管理用システムのセキュリティは、コロニーのメインフレームが担っていたからだ。コロニーという超巨大物体を運用する為のメインフレームは、言うまでもなく演算能力の桁が違う。莫大な演算能力に裏打ちされたセキュリティは、並大抵の事では揺るがない。
無論、それは一般人が攻略しようとした場合であり、束なら攻略自体は何ら問題ない。なので当初は直接攻略する気だったのだが、ふと思ったのだ。
―――最短最速で攻略したら、住人に少なくない被害が出る。
速さと繊細さはトレードオフの関係なのだ。ライフラインや生命維持系に一切影響が出ないように、かつ素早く攻略するには下準備が足りない。なので束は、次善策として一手間かける事にしたのだ。
ライフラインや生命維持系を“ゆっくり”攻略して、相手が分かるように適度にハッキングする。恐らくある程度ハッキングして色々弄ってやれば、バックアップから復旧させようとするだろう。どんな手順で行われるだろうか? これまでに狩った海賊拠点や船のシステムを色々弄った結果として分かっているのは、
そして思っていた通りの動きを察知した束は、ニヤリと笑って言った。
「さぁ~、いってみようか。ムフフフフフフフフ、楽しみぃ♪」
束の周囲に展開されていた数十の空間ウインドウが瞬く間に百を越え、マルチタスクで一斉にアクセスを開始。サブシステムで運用されていた攻性防壁を片っ端から解体して、ジャンクヤードで取り扱っている全ての情報を瞬く間に引き出していく。勿論、バックドアを作っておく事も忘れない。
同時進行で奪った管理者権限を使い、廃船に取り付けられているビーコンタグを操作する。入力した命令は、位置情報の全方位発信。
これをアリコーン0番艦が受信すると、システムが自動的に位置情報をマップに落とし込んでいく。
そして出来上がったマップデータを、ハウンド共が猟犬の嗅覚で確認していくと………やはりだ。
配置の中に、所々妙な空白がある。いや、動線と言うべきか。客が購入を決めたジャンク品を運ぶ経路があるのは当然だが、それとは別の道に見える。見えるだけで違う可能性もあるが、悪党としての経験、猟犬としての経験、そのどちらもが怪しいと言っている。
ハウンドからコロニー内にいる4人―――束・晶・
(怪しいと思われる場所を送りました。ご確認を)
束は言葉ではなく、行動で答えた。
ジャンクパーツをコロニーに持ってくる為の無人作業艇を幾つかハック。束の周囲に展開された空間ウインドウに、船外カメラ映像が映し出される。そうして怪しいと思われる座標に向かわせると――――――突如として映像が途絶えた。コントロールが奪われた訳ではない。信号そのものが途絶えた。爆散?
束はコアネットワークでハウンドに尋ねた。
(何か見えた?)
(不自然な速度でデブリが衝突しました。恐らく妨害用として、火器ではなくデブリの射出装置があると思います。この程度ならそのあたりのメカニックでも自作出来ますし、万一何かあっても事故で済ませやすいでしょうから)
晶が束に尋ねた。
(無人作業艇、後どれくらいある?)
(まだまだ沢山あるよ)
(なら構う事はない。どうせ俺たちのじゃないんだ。どんどん突っ込ませて、無理矢理進ませよう)
ハウンドの面々に行かせるという手も無くはないが、万一活動を見られたら大変面倒な事になる。また無人作業艇という幾ら壊れても、自分たちの懐が痛まない便利な道具があるのだ。なら、先にそちらを使うべきだろう。
(オッケー)
束も同意見だった。このジャンクヤードコロニーが保有している全ての無人作業艇がハックされ、隊列を成して進んで行く。途中で“何故か”向かってきたデブリに、少なくない数が撃墜されていくが関係ない。そして物量で圧される事は考えていなかったのだろう。幾つかの無人作業艇が、怪しいと睨んだ座標に到達した。
そこには――――――。
(流石だ。ハウンド共)
晶は素直に誉めた。
発見したのは20キロメートル級の超大型艦が計5隻。いずれも前後に長い流線形で、数万隻という廃船の中に分散配置されている。これまでの活動で得た
束は試しに無人作業艇を経由して、超大型輸送艦にアクセスする。しかし、予想通り回線は繋がらなかった。星々の海を行く船は外部からのコントロールに対して、安全上の理由から大まかに2つの対策が施されているからだ。
1つは物理的な直接結線。1つはブリッジ側からの承認操作。理由は言うまでもない。
尤もこれは、束も晶も既に知っている事であった。むしろあって当然の安全対策と言えるだろう。だから、対抗策はしっかりと準備されていた。下手をすれば足跡を残す事になりかねないので使いたくなかったが、明らかに怪しい超大型輸送艦なのだ。調べる価値はあるだろう。
そして対抗策はハウンドの乗艦、アリコーン0番艦に装備されていた。
使う前に、晶が確認する。
(お前達、周囲に艦影やセンサー類は無いか?)
アリコーン0番艦は現在次元潜航中だ。
(センサーに感なし。光学映像にも異常ありません)
晶は命令を下した。
(VLS1番から10番を電子戦用弾頭に変更。11番から48番をSDBM*1に変更)
電子戦用弾頭とは、
尤もランクA文明クラスの船になると、自己修復用ナノマシンの働きで排除されてしまうため長くは持たない。
(変更完了)
(以降、超大型輸送艦を発見順に1番から5番艦とする。ターゲット1~5にVLS1~10を2発ずつ。SDBMは廃船を退かせて、電子戦用ミサイルの射線を通す為に使う。弾道計算は任せる)
超大型輸送艦は数多の廃船の奥に隠されている。電子戦用ミサイルを届かせるには邪魔なのだ。
(任されました)
(出ました。いつでも行けます)
(アリコーン浮上。同時にアクティブステルス・光学迷彩実行。デコイを6機射出)
晶の言葉が続く。
(攻撃開始)
(了解しました)
アリコーンのVLSハッチが全門展開。SDBMミサイルが
―――煌めく爆光。
大気という媒介が無い
そうして射線が通った後に放たれた電子戦用ミサイルが、5隻の超大型輸送艦に着弾。
束が再び動き始めた。
(さぁ、中身を見せてもらおうかな)
回線さえ繋がってしまえば、“天災”に解体出来ない防壁などない。
―――防壁解体開始。
―――下位権限掌握完了。
―――上位権限掌握完了。
―――最上位権限掌握完了。
―――全システムへのフルアクセス権限掌握完了。
―――全権限情報の書き換え実行。
―――全情報のコピー実行。
こうして暴かれた超大型輸送艦の腹の中は、食料、弾薬、エネルギーカートリッジなど、実に様々な物があった。今の一行では分からない物も多数あったが、これまでの活動で得た各種のデータに照らし合わせれば、戦闘を強く意識した積み荷なのは間違いない。実弾には反応兵器もあり、核融合弾より更に上、本物の反物質兵器もある。エネルギーカートリッジも個人用から戦闘艦用まで色々あるが、エネルギー兵器を稼働できる高出力品という意味では同じだ。食料は何十万人分だ? 下手をしたら百万人に届くのではないか? 用途が不明な工作機械らしき物もある。全長数百メートル。キロメートルに届く物もある。
(束。もしかして俺達、当たりを引いたんじゃないか?)
(そうっぽいね。でも、これだけじゃちょっと足りないよね)
(だな)
今の状況を整理すると、“翼の眷属”領域内に超大型輸送艦が存在していた、というだけに過ぎない。発見場所が相当に怪しいが、これだけでは怪しい止まりなのだ。今後を考えるなら、より確定的な情報を入手しておきたい。なので束は、既に検索プログラムを走らせていた。まず掌握した5隻の超大型輸送艦のメインシステム、最上位権限でのみアクセス可能な領域を虱潰しに洗っている最中だ。
因みに束は同時進行で艦内のシステムを操作して、乗員を脱出艇に追い込んでいた。隔壁を操作して一本道で駆け込めるようにしてあげたり、セキュリティ用のドローンやドロイドで追い立ててあげたり、立ち向かってくる強者には、格納庫にあった戦闘用ドロイドでお尻ペンペンしてあげたり。虐殺をする気は無いので武装はロックしてあるが、艦内という閉鎖空間で軽火器しか使えない一般兵士に勝ち目など無い。
そうしている間に実行していた検索プログラムが、幾つかのデータを洗いだしていた。検索条件は“翼の眷属”で使われている暦、座標、今現在分かっている艦種名等。システム内の全データをこの条件で検索したら膨大な量がヒットしてしまっただろうが、最上位権限でのみアクセス可能な領域と限定していたお陰で、思っていたほど多くはない。
ヒットしたデータが、空間ウインドウに表示される。
―――検索結果―――
所属
第13艦隊
編成
アーマゲドン級旗艦×1
アイオン級大型母艦×10
レベレ級攻城艦×15
アポラエ級整備艦×20
クーア級超大型輸送艦×10
リディ級秘密工作艦×10
アープ級戦艦×500
モル級巡洋艦×2500
ディポス級ワープ妨害巡洋艦×300
ピリム級偵察用巡洋艦×400
サクジ級強襲型巡洋艦×400
ヘレス級ワープ妨害型駆逐艦×500
ピュリファ級ステルス爆撃フリゲート×400
集結星系
LB418-2050-552 マグネター星系
物資補充率
98.4%
作戦進捗状況
フェイズ1:クリア*2
フェイズ2:クリア*3
フェイズ3:クリア*4
フェイズ4:クリア*5
フェイズ5:クリア*6
フェイズ6:進行中*7
フェイズ7:待機中*8
―――検索結果―――
晶は言った。
(フェイズ1から7までに関する情報があれば確定出来るんだが、流石に無いか)
(うん。ちょっと見当たらないね。どうする?)
(確定は出来なくても、何かしようとしているのは確実だからな。星系外にワープさせて、そこで自沈させよう)
(オッケー)
この場で自沈させない理由は、超大型輸送艦の中に反応兵器があるからだった。今の位置で自沈させたら、自分達のいるコロニーまで吹き飛んでしまう可能性がある。
火事場泥棒のように持ち帰る事も一瞬考えたが、持ち帰っても使い道が無い。正確に言えば使えば何処かで足がついて“翼の眷属”にこちらの関与を悟られる。よって却下であった。
束が超大型輸送艦の自動航行システムにアクセス。ワープドライブを起動して、ワープアウト後に自爆するようにセットした。
(これで良しっと。じゃあ、帰ろうか)
この場にいる面々が普通のエージェントであれば、ここから脱出するまで一大スペクタルの大冒険活劇になっただろう。なにせこのコロニーには今、
コロニー内の移動や港から船を出すなど、その最たるものだ。よって普通なら呑気に帰るなど不可能だが、この場にいるのは“天才”にして“天災”篠ノ之束なのだ。しっかりと仕込みがされていた。
―――思考トリガー。
コロニーのメインフレームが復旧の為に隔離モードとなっているのを逆手に、監視の目が緩んでいる周辺サブシステム群を掌握。メインフレームが復旧したと誤認させる。次いでサブシステム群配下にある各種システムに状態復旧を通達。コロニー内部を平時の状況に戻していく。
これによりコロニー内部のブロック間の移動を妨げていた隔壁が解放され、港も自己診断プログラムが走り、各種システムに異常無しと判定され、徐々に交通が回復していく。
そうして束達一行は、何ら疑われる事無くコロニーを後にしたのだった。
◇
時間は少しだけ遡る。
“翼の眷属”総司令部では、オペレーターが方面軍からの連絡を伝えていた。
「第3方面軍より入電。奴らの領域侵犯を確認した、とのことです」
「ようやくか。奴ら、随分と用心深かったな」
階段状になっている総司令部内の一番高い場所。
総司令の席に座る者の言葉に、隣に立つ副官が答えた。
「奴らも奴らなりに、色々と考えていたんでしょう」
「だろうな」
“翼の眷属”と近隣の非ヒューマノイド系文明との間には遺恨がある。そして激戦を繰り広げた関係だけに、クーデター後に領域外縁部が不安定化していても、慎重にこちらの様子を窺っていた。不安定化そのものが罠ではないかと疑っていたのだ。武力に関わる者なら、極々当たり前の判断だろう。
だから始めは、海賊とも言えない犯罪者で様子を見て、次に海賊で荒らし、こちらの正規軍の動きが鈍いと分かると傭兵で、それでも尚動きが鈍いと分かると、相手も徐々に動きを隠さなくなってきた。
そうして今、非ヒューマノイド系文明の正規軍が動いたのを確認した。これで逆侵攻しても大義名分が立つ。銀河惑星連合憲章は反撃を認めているからだ。やり過ぎたり時間をかけ過ぎれば他からの介入もあるだろうが、少なくとも反撃の最初期において、最も介入して欲しくない“首座の眷属”の介入はこれでない。明確にこちら側が、先制攻撃を受けた側だからだ。
総司令は命令を下した。
「第13、14、15、16艦隊に通達。作戦開始だ」
“翼の眷属”が表向きに公表している艦隊は全12艦隊。
自領域を12分割して、それぞれに1艦隊ずつ配備している。総数は約22200隻。各方面の定数は約1800隻で、通常の常備軍として活動するのが1500隻。緊急即応艦隊が100隻。独自行動を許された遊撃艦隊が200隻。これに各艦隊が活動する領域に合わせた、自由採用枠によって構成されていた。
つまり総司令が命令を下した第13、14、15、16艦隊は、番号が示す通り公表されていない艦隊だ。1艦隊あたり、約5000隻で編成されている。この時の為に6つあるジャンクヤード、天体活動で生じる光学的電波的死角、自領域内に存在するあらゆるものを使って隠匿されてきた。
しかし一般的な常識に照らし合わせて、公開情報の約2倍にも及ぶ艦艇数を隠匿出来るものだろうか?
誰もが思うだろう。そしてこれを可能としたのが、“翼の眷属”の社会体制であった。“翼の眷属”は寡頭制、所謂貴族色が非常に強い社会体制なのだ。このため表向きは穏健派、裏では強硬派を支持する者が隠匿に協力した場合、本当の建造数を知る事やその後の追跡調査が中々に難しくなる。一昔前の地球のように1つの惑星で全てが完結しているなら手の打ちようもあるが、星々の海を越える程に広大な領域で全ての情報の裏取りをしようとしたら、途轍もない労力が必要になってしまう。尤もこれは寡頭制だとやり易いというだけで、どんな社会体制であっても同じである。青臭い話だが真っ当で健全な社会を実現したいなら、必要なのは真っ当な教育によって培われた真っ当な人間性という、最も近道が存在しない地道な方法しかないのだ。
―――閑話休題。
総司令の命令によって、隠匿されていた艦が一斉に行動を起こし始めた。第13~16艦隊に配備されている艦種の中で、スターゲート機能を有しているものは旗艦級、大型母艦、攻城艦、整備艦、超大型輸送艦、秘密工作艦の6種。秘密工作艦は700メートル級という戦艦サイズだが、他は何れも数十キロサイズの超大型艦だ。それらが一斉にスターゲートを展開して、他の味方艦と共に集結座標へ向かっていく。
なお非戦闘艦であり狙われたら撃沈される可能性が高い超大型輸送艦にスターゲート機能が搭載されている理由は、迅速な物資移動や補給を実現する為に開発された艦種だからだった。例えばの話、既存の常設型スターゲートを使って補給線を構築した場合、艦隊の進軍速度を殺してしまう可能性が高い上に、補給物資を強奪される可能性も考慮しなくてはならない。鈍重な超大型輸送艦にスターゲート機能を持たせてしまえば、これらの問題に割く労力を大幅に軽減できる。
特に“首座の眷属”の介入が実質的なタイミリミットとなる本作戦において、のんびり補給線を構築して物資が届くのを待つ事など出来ない。どんなに遅くても
束達一行によって超大型輸送艦5隻が、ワープ後に自沈させられたのはこのタイミングであった。
突如飛び込んできた報告に、総司令の顔色が変わる。
消し飛ばされた物資量は、第13艦隊が予想していた物資消費量の実に50%相当なのだ。不測の事態を想定してかなり多めに用意していたとは言え、50%も消し飛ばされては何処かで息切れしてしまう。
何という悪魔的なタイミングか。早ければ補充してからの作戦開始で良かった。遅ければ既に行動中で狙われなかった。しかし、このタイミングではどうしようもない。既に隠蔽を解除して動き出しているのだ。今中止したら隠蔽していた艦隊を晒しただけ、全容ではないにしても、存在を知られただけという結果になってしまう。何という最悪のタイミングか!!
総司令は表情を変えずに、次の命令を下した。
「作戦は予定通り進める。あと、補充計画を前倒しさせろ」
「了解しました」
こうして“翼の眷属”強硬派は非ヒューマノイド系文明からの先制攻撃を誘導し、それを理由として戦端を開いたのだった。
◇
1週間後の地球。いつもの会談が非公開で行われていた。
アラライルが苦笑しながら言う。
『博士は確か行動する前に、少しばかり繊細でデリケートな方法と言っていましたが………繊細、ですか? 未確認情報ですがジャンクヤードコロニーの1つで、
レベル1が検知や警報といったもので、センサーが異常や原因不明の何かを検知した、という段階だ。
レベル2が状況評価や分析といったもので、異常の脅威度判定が行われる段階だ。天災か技術的トラブルかの判断も行われ、場合によっては侵入者警報なども行われる。
レベル3が緊急事態宣言といったもので、 脅威が確実となり、避難や防衛行動が命じられる段階だ。戦闘配置や緊急閉鎖が行われたりもする。シェルターへの避難警報などもこの段階で発令される。
レベル4が防御や対抗策といったもので、 回避行動やシールド展開など、生き残りを賭けた対策が行われる段階だ。所謂国民の権利的なものは著しく制限される。
レベル5が最終手段で、もはや危険回避が不可能。或いは被害の拡大を防ぐ為の緊急手段が適用される。自爆コードの使用や緊急脱出、惑星遭難コールもこれに該当する。
束はニコニコと笑いながら答えた。
『いやぁ~、怖かったですよ。買い物中に色々な所の隔壁が閉じだしてアタフタしちゃいました。でも貴重な経験でしたね。地球でコロニーを造って運用する時の参考させて貰おうと思います』
『で、そのアタフタしている最中に、何故か、偶然、あの情報を手に入れたと?』
『はい。何か随分混乱していたみたいですから、回線が混線したんでしょうね。ネットワークアクセスが急に乱れて、何かへんな情報が見えたんで、取り合えずコピーして保存しておいたんです』
話を聞いていたアラライルもスノーも苦笑するしかなかった。有り得ない。そんな事で超大型輸送艦の腹の中身や艦隊編成情報が出てくる訳が無い。何かやったという事を隠す気も無い明らかな嘘。だが悪びれた様子もなく言うという事は、何をしたのか言う気は無いということだ。
尤も2人にしてみれば、今更という気がしないでもない。地球では聖母とすら言われる篠ノ之束博士だが、暴力を嫌う非暴力主義者という訳ではないのだ。むしろやると決めたらあらゆる手段を使ってやる。分かり易いのは海賊狩りだろう。時折大きな情報を持ってくる事があるが、大きな情報を持ってきた後は、大体どこかの海賊活動が“とても”静かになっている事が多い。
なのでアラライルは、束の戯言に付き合う事にした。
『そうでしたか。ですが単なる幸運にせよ、貴女が持ち帰ってくれた情報は大変に役立ちました。あちらの外交担当が今度お礼をしたいと言っていたので、多少吹っ掛けても良いかもしれませんね』
『そんな事を言ったら、本当に吹っ掛けてしまいますよ』
『それだけ価値ある情報だった、という事です』
アラライルは穏やかな表情から一転、真面目な表情で続けた。
『恐らくあの情報が無ければ、14星系の陥落では済まなかったでしょう』
“翼の眷属”は相当入念に準備していたようで、進軍速度は電光石火と言って良かった。
相手が準備を整える前に最大火力をぶつけて叩くという、基本を押さえたお手本のような攻撃で、僅か
“翼の眷属”の側に立って考えれば、領域外縁部を不安定化させたという悪評を補って余りある大戦果だ。クーデター政権は大いに求心力を高めたに違いない。
因みに歴史にifはつきものだが、もしも束達一行が超大型輸送艦を発見できずに合流を許していたなら、“翼の眷属”は17星系全ての奪還に成功していた。あの5隻分の補充物資が無かったお陰で、最後の一押しが出来なかったのだ。
スノーは両文明の今後の動向を予想して、口を開いた。火を見るより明らかな予想しか出てこないが………。
『これからあの地域は、荒れますね。他に波及しなければ良いのですが』
全員が荒れて波及すると思ったが、敢えて言葉にする者はいなかった。
言った当人も分かっていたので、誰の返答を待つ事もなく話題を変えた。
『それはそうと、ジャンクヤードへ行ったついでに随分と大きい買い物をしたようですね。何を買ったのですか?』
晶が買ったゴースロスの全長は1282メートル*9。全長180メートルのレビヤタン級駆逐艦で運べる大きさではない。このためスターゲートハイウェイで仕事をしている“獣の眷属”の輸送業者に、仕事を依頼して運んできて貰っていた。
『ちょっとフィーリングにビビッと来る船があったので、勢いで買ってしまったものです。一応戦闘艦ですが、性能は、まぁ、判断に悩む程度のものでしょうか』
『束博士が戦闘の全てを任せる貴方が何かを感じたという事は、それなりに潜在能力のある船、という事でしょうか?』
晶は100%衝動買いと答えそうになったが、大好きな船なので理由をこじつける事にした。如何にもそれっぽく答える。
『今の地球の技術力で運用し易い、というところでしょうか。主砲が電磁投射砲なので継戦能力の問題はありますが、大きさがありますので威力面での問題はある程度どうにかなります。機雷も搭載数こそ少ないですが面白い使い方が出来ますし、何よりジェネレーターブロックが4つあるので、1基あたりの出力の小ささをある程度カバー出来るのが良いですね』
『今後同型艦を揃えて運用する、という事ですか?』
『現時点では何とも。使えそうと実際に使えるは別物ですから』
控え目な返答だが、趣味人なこの男がそんなに殊勝な訳がない。頭の中では色々なプランが浮かんでは消えてまた練り直して………を繰り返していた。どうせなら戦列艦が欲しいなぁ~と思っていたりするが、こちらは以前試作した“ミミックボックス”を流用出来そうだ。
脳裏に大量の機雷による飽和攻撃シーンが蘇る。いずれやってみたい光景だ。
晶がそんな事を思っていると、スノーから思わぬ申し出があった。
『確かにそうですね。では、練習相手などは必要ありませんか? 良い点を知る。悪い点を洗いだす。どちらにせよ、得るものはあると思いますが』
これは今回調査に動いてくれた一行へのお礼でもあった。お金で支払っても良かったのだが、時間と手間のかかるところに協力した方が喜んでくれるだろう、という判断からだ。
晶もそれは何となく分かったので受けたかったが、今のカラード宇宙軍に、
ハッキリ言ってしまえば、人的練度も武装の性能も船の性能も、全てが足りない。そんな状態で練習相手になって貰っても、相手に失礼なだけだろう。
『非常に嬉しいお話しで受けたいのですが、今のこちらに、そちらの練習に耐えられるだけの練度があるとは思えません』
すると、かなり大盤振る舞いな返答が返ってきた。
『ご心配なく。ええっと確かそちらのパワードスーツで使っている演習用のシステム、
普通ならこちらの船の性能がバレてしまうので考えるところだが、数世代では利かない程の性能差があるのだ。なら人材を育成出来るこのチャンスを逃す手は無い。
晶は素直に感謝を示した。
『部下達に学ぶ場を与えてくれて、ありがとうございます』
こうしてカラード宇宙軍は社長夫妻の働きにより、
これがどれほど得難く恵まれたものであるかは、少しでも異文化交流の歴史を知る者なら想像に難くないだろう。
第242話に続く
束さんという大駒が暴れるとどうなるか、という回でした。
マジ無法で無双で理不尽です。
コロニーの皆さんご愁傷様。
でもちゃんとシステムは復旧してあげたから許してね♪
という感じでしょうか。
あとゴースロスはしっかり入手。今後どう使うか考えるのが楽しみぃな作者です。
そしてカラード宇宙軍にテコ入れ。
以前出た艦長三人娘には頑張って貰いましょう。