インフィニット・ストラトス ~迷い込んだイレギュラー~ 作:S-MIST
恩はしっかり着せておきましょう。
そしてちょっとした(?)おもてなし。
追記
XINN様よりイラストを頂けました。ありがとうございます!!
第8回外宇宙ミッションで得られた情報はカラードで詳細に分析され、結果として怪しいと思える情報が多々見つかっていた。しかし、怪しいイコール使える情報ではない。こちらの常識では黒でも、“翼の眷属”では白な事もあるだろう。地球文明の中ですら、国々によって事情は色々と異なるのだ。こちらの常識だけで判断しては、足をすくわれかねない。
なので、晶は考えた。自分達で上手く使えないなら、上手く使ってくれそうな相手に渡せば良い。脳裏に浮かんだのは、以前保護した“翼の眷属”の2人だ。
1人はクラレス・イル・ディアニス・カルニア。“翼の眷属”穏健派筆頭の孫娘で、故郷でクーデターが無ければ、お姫様の扱いを受けていたであろう人物だ。尤も良い意味でも悪い意味でもお転婆さんだったようで、豪勢な旅行で大金を溶かしたと思えば、ボランティアで誰かに献身してみたり、辺境宇宙を飛び回って冒険者紛いのことをしてみたり、興味のある事は何でもやってみる、という性格らしい。だがシャルロットと仲良く出来るあたり、性格は悪くないのだろう。
1人はレイシー。ファーストネームやミドルネームは無く、只のレイシー。“翼の眷族”穏健派筆頭が最も信頼を寄せる私兵の内の1人で、電子戦のエキスパートだ。
2人の保護されてからの経緯は少々複雑で、まず始めは外宇宙探査を行って貰っていた*1。切っ掛けはレイシーからの雇って欲しいという言葉だが、生い立ちや背景を考えれば、他に有効な使い道は幾らでもあっただろう。だが、晶はそういう判断をしなかった。クラレスの「色々な物を見るのが大好きで、色々な所に行っていました」という言葉を最大限尊重した結果だ。無論、上流階級出身とは言え一般人に過ぎない彼女に、専門的なスキルは無い。このため教師役を“首座の眷属”や“獣の眷属”に手配してもらい、100%実地研修で学んで貰いながらだ。
そして晶はこの時点では、クラレスを将来的にカラードの外宇宙探査要員にしようと考えていた。クーデターの起きた“翼の眷属”に戻す、という考えは無かったのだ。またレイシーにネットワーク系の仕事を頼む気も無かった。穏健派筆頭の私兵であり、いずれいなくなる可能性のある相手に、その手の仕事を頼むはリスクが高いという判断からだ。
これが変わり始めたのは3ヶ月程前、外宇宙探査で鉱脈が発見されてからだ*2。採掘される鉱石は銀河系に広く分布しているもので、コロニーや艦艇建造などに使われている事が多い。
本当ならカラードで有効活用したかったが、採掘・製錬・精錬・加工・販売にかかる労力を捻出するのは不可能だった。このため晶は2人に鉱脈をあげて資金も渡して、企業として好きに活動させ始めていた。2人が会社的な実務を行える必要なんてない。代表として名前を公開する必要も無い。しかし上手くやれば、そのあたりはどうにかなると思ってのことだ。
狙いは2つ。1つは将来的に“翼の眷属”に干渉する必要が出てきた時に役立つかもしれないということ。1つはもしも2人が“翼の眷属”に戻る事が出来た時、地球にとって友好的な存在になってくれれば良いと思って。友好的な政権になってくれれば御の字で、資源で金稼ぎよりも、その為の投資として鉱脈という資源を使う、という判断だ。
まだ鉱脈と資金を渡してから余り日が経っていないが………さて、現状はどんな感じだろうか? シャルロットから定期的に報告を受けているので心配はしていないし、これまでに何度か話して悪い感じはしていないが、だからと言って全くコミュニケーションが無くて良い訳でもない。投資をする相手なのだ。適度にコミュニケーションをとって、人間関係を作っておくのは大事だろう。
晶は月の衛星軌道にある積み替え用ステーションの1つ、事務所として貸し出している部屋に通信を繋いだ。
数回のコールの後、空間ウインドウにクラレスとレイシーが映し出される。
以前見たドレスのような姿ではなく、白を基調としたパンツスーツ姿だ。
―――クラレス&レイシーの白スーツ姿―――
―――クラレス&レイシーの白スーツ姿―――
確かシャルが幾つか送った服のうちの一着で、切っ掛けはサブカルチャー談義と言っていた。地球の服のアレコレで大変に盛り上がったらしい。後で感想を聞いてみようと思っていると、クラレスが口を開いた。
『社長。お久しぶりです。今日はどうしたんですか?』
すぐに聞きたいところをグッと我慢して、取り合えず普通の会話を始める。
『そちらの様子はどうかと思ってね』
『初めての事が多くて大変ですが、レイシーが手伝ってくれるので何とか、というところです』
声に力はあるし、顔色も良さそうだ。服もデスマーチの時にありがちな、ヨレヨレの感じではない。大変とは言っているが、この分なら恐らく大丈夫だろう。そう判断して、ついでにプレゼントも込みで答える。
『それは良かった。まぁ、一歩ずつ確実にやっていけば良いさ。あと役に立つかどうかは分からないが、情報の目利きを鍛えるのに使えそうな教材を見つけたんだ。渡しておこう。レイシーさんと一緒に見れば、色々勉強になるかもしれない』
ジャンクヤードコロニーで得た情報を送ると、内容を確認したレイシーが驚きの表情で言った。結構な量があった筈だが、束のテストに合格出来るくらいだ*3。ISの思考加速と同じような能力か機能があるのだろう。
『これを、何処で?』
『耳にはしているかもしれないが、先日ちょっとした所用で向こうまで行ってね。その時に色々あって入手したんだ』
レイシーの反応は、思っていた以上に大げさなものだった。
深々と頭を下げてきたのだ。
『格別の御配慮、感謝致します。―――クラレスも、ここはお礼を言うべきところですよ』
『あの、そんなに凄い情報なんですか?』
『これ程の活きた情報を教材として与えられるなど、例えその道のプロや工作員であっても、まずありません』
束がジャンクヤードコロニーでハッキングして得たデータは多岐に渡る。主に狙った商品情報システムには顧客情報も紐づいていたので、丸ごと頂いてきたのだ。誰が、何を予約して、何を買い、どのように入金されているか。商品売買に関わる全てだ。
これに加えてコロニーのメインフレームをハッキングしたお陰で、登録されている住人の数と実際に活動している人数の差分、本来人がいない筈の区画に供給されているエネルギー等々。非常に面白い情報が多々あった。
活用出来る者が見れば、お宝の山だろう。
レイシーがこれらを簡単に説明すると、クラレスも分かったのだろう。素直に頭を下げて、お礼の言葉を口にした。
『ありがとうございます。このお礼は、いつか必ずします』
『こちらとしては、そちらがちゃんと成長してくれる事が大事だと思ってる。そして幸いにも、貴女の傍らにはプロがいる。しっかり学んでいって欲しい』
これは掛け値なしの本心だった。組織運営なんてやっていると、人材が如何に大事な財産かというのが良く分かる。そんな事を思っていると、クラレスがはにかみながら言った。
『社長は、優しい人ですね』
『下心あってのことさ。無条件じゃない』
『では言い直します。随分と良心的です』
『一方的な搾取は短期的な利益にはなるでしょうが、長期的には歪みが大きくなって、結果的に不利益の方が大きくなる。地球の歴史には、同じような事が沢山ありまして。そちらにも同じような事はありませんか?』
『残念な事にあります。でも全ての人が歴史に学べる訳ではありませんし、他人に優しく出来る訳でもありません。そういう意味で社長は、やっぱり優しいと思います』
『さっきも言ったが、下心あっての優しさだ』
晶は一度言葉を区切り、レイシーに言った。
『このお転婆で世間知らずなお姫様が悪い人に騙されないように、しっかりと教育しておいてくれ』
するとレイシーはクスクスと笑いながら答えた。
『分かりました。騙される相手は選ぶように教えておきます』
『俺は騙されないように、と言ったんだが』
『本人が騙されていないと思っていれば同じことでしょう』
屁理屈も良いところな上に、2人ともニコニコ笑っている。晶は説得を諦めて、話題を変える事にした。こういうのは、リップサービスくらいに思っておけば良いだろう。
『分かった。好きにすると良い。ところで話は変わるんだが、その服ってもしかして、シャルロットから送られたものかな?』
『はい。地球の服を着てみたいと言ったら、背中のところを少し加工して色々用意してくれたんです』
『俺の目から見ると大変似合っているように見えるんだが、そちらの感覚的にはどうなのかな?』
『私も良いと思ってます。それにこういう服って着た事がないので新鮮で』
気に入ってくれたみたいで良かった。
ここで晶は、何故か彼女達のスーツ姿で自分の秘書さん達を思い出した。そして秘書さん達が年末の準備を徐々に始めているが、“翼の眷属”に年末や年越しに何かをする、という概念はあるんだろうか? なんていう疑問に発展する。知らない事なので、素直に聞いてみた。
『なぁクラレスさん。レイシーさんでも良いんだが、“翼の眷属”に公転周期の終わりに何かをする、という概念というかイベントはあるのかな?』
これにはレイシーが答えてくれた。
『地球のネットワークで年末とか年越しという言葉が最近出てきましたが、それと同じような事はあります。多星間文明の場合は主星系が基準になりますが、星系ごとに公転周期は違いますから、地球風に言えば星系ごとの差は時差のような扱いでしょうか』
『なるほど。あるのか』
返答を聞いて、更に思う。
今の彼女達に、こういうイベントはあるだろうか? 恐らく無いだろう。何せ生まれ育った文明から遠く離れ、遠い辺境で過ごしている状態だ。個人レベルのちょっとした事は行っているかもしれないが、十分な気分転換にはならないだろう。ストレスが溜まらないように居住環境には気を使っているつもりだが、それでも息が詰まるのではないだろうか? 息抜き出来る場所は用意してやれるが、押し付けるものでもないのでストレートに尋ねてみた。
『嫌だったらハッキリ断ってくれた方が有り難いんだが、2人ともレジャー施設に興味はあるかな?』
クラレスが確認してきた。
『レジャー施設って、カラードが最近オープンさせた
『そうだ』
『正直に言えば、行ってみたいとは思ってます。でも、流石に無理でしょう』
『レイシーさんは?』
『興味はありますが、現状では行けないでしょう』
今の2人は秘密裏に保護されている立場だ。不特定多数の目があるレジャー施設など行ける訳がない。多少の常識があれば、誰でも同じ考えに行きつくだろう。だがレジャー施設の持ち主が協力するのなら話は別だ。
『何事も、適度な気分転換は大事だろう。少し待っててくれ』
晶はそう言って、レジャー施設の責任者ナユをコールした。新たに展開された空間ウインドウに、白スーツ姿の彼女が映し出される。クラレスもレイシーもナユも白。面白い偶然もあったものだ。そしてレジャー施設はドーム型コロニーという閉鎖空間だが、映し出されている背景は地球の空と見間違うばかりの鮮やかな夕焼けだった。
―――ナユの白スーツ姿―――
―――ナユの白スーツ姿―――
『社長。お久しぶりです』
『久しぶりだな。早速だが、1つ頼まれて欲しい』
『何なりと』
『2人、息抜きをさせたい者がいる。ただし人目には触れさせたくない。出来るか?』
ナユは少しだけ考えてから答えた。
『行動範囲がホテル内だけで良いのでしたら、すぐにでも可能です。アトラクション用の周辺施設を丸ごと貸し切りにするのでしたら、少しお時間を頂きたく思います。オーダーを聞く限りは違うと思うのですが、如何致しましょうか?』
『取り敢えずはホテル内だけで良いんだが、どんな事が出来そうなんだ?』
『ホテルの内の1つ。最上階フロアを丸ごと押さえますので、そのフロアにあるものは全てご自由にお使い頂けます。室内プール、バー、ちょっとした運動が出来るエクササイズルーム、お食事も全て運ばせて頂きます。あとは息抜きという事なので、私が会っても良いというのでしたら、直接おもてなしさせて頂きたいと思います』
彼女の前職は夜の蝶。お友達が多くて情報通。接待は得意分野と言えるだろう。
『口外しないのであれば別に構わない。“翼の眷属”だ』
『社長直々の案件に、そのような事は致しません』
『なら任せる。情報が漏れないのであれば、後はお前の裁量で好きにして構わない』
『ありがとうございます。では、その御二人に関する情報を頂きたく思います』
『直接話して貰った方が早いな。今、回線を繋ぐ』
そうしてナユの前に新たな空間ウインドウが展開され、クラレスとレイシーが映し出された。
『えっと、私はクラレスと言います。宜しくお願いします』
『レイシーと言います。宜しくお願いします』
この時ナユは表情こそ変えなかったものの、まさかと思った。
“翼の眷属”。あちらが今、どういう状況なのかは知っている。本社が以前から注目していて、情報収集の指示が出ていたからだ。無論諜報組織ではないので一般に流れている以上の情報は分からなかったが、強硬派のクーデター政権がかつて奪われた―――と主張している―――17星系の内の14星系を瞬く間に奪還して、求心力を大いに高めたという話は聞こえてきていた。
また穏健派筆頭のカルレス・イル・ディアニス・カルニアが辺境惑星に軟禁されているという確定情報があったため、家族、親類、側近、盟友などの名前と
確かその中に、クラレスという名前があった。穏健派筆頭の孫娘の名前だ。隣にいるレイシーという女性の情報は無かったが、一緒にいるところを見るに重要人物なのだろう。
そして強硬派のクーデター政権が大いに求心力を高めたこのタイミングで、穏健派筆頭の孫娘を連れてきた。強硬派に渡せば高く売れるだろうに、それをしないで息抜きをさせるという。
ナユは自身が助け出された時の事を思い出し、
ニッコリとした笑みを浮かべて答える。
『こちらこそ、宜しくお願いします』
挨拶が終わったところで、晶は言った。
『ナユさん。後は任せる』
『任されました』
こうしてクラレスとレイシーは制限付きではあるが、思いがけずレジャー施設を体験する事になったのだった。
◇
数日後、クラレスとレイシーはとあるホテルの最上階にいた。
此処に来るまで、第三者には一切見られていない。入港した港はVIP用で、船から降りる時も徒歩ではなくエアカー。ホテルに入る時も正面ロビーからではなく地下駐車場から。エレベーターも直通だ。
「こちらが用意させて頂いた部屋になります」
「うわぁ」
「これはまた、中々………」
2人は案内された部屋に喜びの声を漏らした。広く落ち着いた雰囲気の内装に加えて、窓から見える景色はコロニーの中とは思えない。水平線の彼方まで広がる海だ。静かな波が、浜辺に打ち寄せては引いている。高精度スクリーンで映し出されている空も、地上の夕焼けと見間違うばかりの美しさだ。
―――案内された部屋と景色―――
―――案内された部屋と景色―――
良さそうな反応を見て、ナユは続けた。
「私のお仕事は御二人に日常を忘れて楽しんで頂く事なので、まずは形から入りましょうか」
ブレスレット型の端末を操作すると、部屋に自律移動型のクローゼットが入ってきた。
ホテルの雰囲気に合わせた流麗な外見だが、クローゼットに自律型フロートシステムをくっつけただけの品だ。
2人の前まで移動してきた自律移動型クローゼットが開く。中身は“翼の眷属”用のドレスだった。装飾品もセットである。しかも安物ではない。穏健派筆頭の孫娘であるクラレスをして、数回しか袖を通した事のない、身に着けた事がない装飾品の品々だ。
「着飾らないで軽い夕食というのも考えたのですが、非日常をプレゼントするなら正式なディナーの方が良いと思いまして」
「あの、いいんですか。これ?」
珍しく躊躇しているクラレスを見て、レイシーが尋ねた。
「どうしたのですか?」
「だってこれ、全部ハイブランドだよ」
「ええ。そうですね。でも、使って良いと言って出してくれたのでしょう。なら使わない方が失礼じゃないですか」
そう言ってレイシーは遠慮なくドレスを選び始めたが、クラレスはまだ躊躇していた。
「いや、そうだけど。でも汚しちゃったらとか考えない?」
「その時はその時です。それにあの社長なら、故意に汚したとかそういうのでなければ、笑って済ませそうな気がします」
レイシーは話しながら、着ていた服を脱いで下着姿になった。性格が出ているのか、飾り気のない白ブラとショーツだ。
そして躊躇するクラレスに、ナユが言った。
「レイシーさんの言う通りです。我が社の社長は、この程度の事など気にしません。むしろ気に入ったのがあれば、そのままお持ち帰り頂いて結構です。全部でも構いません。ホテルに置いておいても仕方がありませんので」
この言葉で、クラレスもようやく着替え始めた。服を脱いで下着姿になる。ブラもショーツもレイシーと同じ白だが、デザインは少しおしゃれでセクシー系だった。具体的にはすこーしだけ肌が透けているシースルータイプ。勿論大事部分はしっかり隠れている真っ当なものだが、中々に魅力的な姿と言えた。
そうして色々選んでいる中で、クラレスが何となく思った事を尋ねた。
「ところで、ナユさんは着替えないんですか?」
「勿論、この後に着替えさせて頂きます」
今の白スーツも失礼な姿ではないが、2人に非日常をプレゼントするという意味では不適切だろう。なので元々着替える気だったが、クラレスが先手を打ってきた。
「もしも、おもてなしの為に執事とか従者とか、そんな感じの服装を考えているんでしたら、1つ希望を言っても良いですか」
「何なりと」
「ナユさんもドレス姿で、一緒にテーブルについて貰っても良いですか。どうせなら、話し相手になって下さい」
「分かりました。では、私も此処で着替えて良いでしょうか」
「どうぞ」
そうしてナユも白スーツを脱いで下着姿になった。清楚な白でありながら女を魅せるデザインで、胸の頂きが見えそうなハーフカップブラに、ショーツも下着のラインが目立たないマイクロタイプだ。
―――美女3人の下着姿―――
―――美女3人の下着姿―――
今まで身近にいなかった大人な姿に、思わず視線が吸い寄せられてしまう。するとナユが言った。
「クラレスさんは素材が良いので、似合うと思いますよ。――――――そうだ。どうせなら、少し冒険してみませんか?」
「え?」
「この場に殿方はいませんし、こういうドレスなんてどうでしょうか?」
ナユがクローゼットから取り出したドレスは、側腹部の布地が大胆にカットされ、スカートのスリットも足の付け根付近まであるものだった。かなり大人なデザインにクラレスが躊躇していると、ナユは自分用にもっと大胆なドレスを取り出していた。前側は真ん中が縦に大きく、お臍の下あたりまでカットされている。背中と側腹部は丸見え、スカートも右側のスリットがとても深い。
そして自律移動型クローゼットに備え付けられていた姿見で簡単に合わせたナユは、ドレスに合わせてブラを外して着替えていた。形の良い胸の大部分が露わになる大胆なデザインだが、こういうのを着慣れているのか堂々としていて似合っている。
この余りに堂々とした態度に、クラレスは釣られてしまった。せっかく非日常をプレゼントしてくれると言っているのだ。しかもこの場に殿方はいない。なら、確かにちょっと冒険しても良いだろう。
思い切ってブラを外して着替える。アクセサリーも身に着けて姿見で見てみれば、いつもの自分と違う自分がいた。思わず見入ってしまう。それくらいに別人な自分だ。
ふと思う。ドレスもパーティも楽しめなくなったのは、いつの頃からだろうか? 寄ってくる笑顔を貼り付けた人達が気持ち悪い、と思うようになってからだ。確かその頃から、お転婆と言われるようになった気がする。この場にはそういう人達がいなくて、気分が良いのもあるかもしれない。
因みにレイシーは空気を読んで、クラレスと同じ程度の露出度のドレスを選んでいた。同じようにブラは着けないタイプで、胸の下からお臍あたりまでの布地がカットされている。スカートの左右にあるスリットもかなり深い。
2人が着替え終わるとナユが言った。
「大変お似合いです。では、夜景を見ながら夕食を楽しみましょうか。こちらへどうぞ」
このホテルの最上階フロアは、VIPが余人に邪魔される事無く優雅な時間を過ごせるように作られている。今いる部屋は寛ぐ為の部屋だが、別の部屋に行けば、コロニー内の夜景を一望しながら過ごせる部屋があるのだ。
―――ナユ・クラレス・レイシーのドレス姿と夜景―――
―――ナユ・クラレス・レイシーのドレス姿と夜景―――
「うわぁ」
クラレスは部屋に入るなり感嘆の声をあげたが、その意味は単なる喜びとは少し違っていた。何故なら彼女は、その生まれ故に相応の贅沢というのを知っている。この場に用意された以上の贅沢も知っている。だが
一文明の指導者とは言え、
「お気に召して頂けたようで何よりです。ですが、まだまだ続きがありますので」
ナユが部屋の端末を操作すると、執事服のようなペイントをされた複数のテックボット*4が、料理用カートを押して部屋に入ってきた。テックボットにもカートにはフロートシステムが組み込まれているため、料理には移動にまつわる一切の振動が伝わっていない。
因みに
―――閑話休題。
3人が着席すると、執事テックボット達が料理をテーブルに並べ始める。ホテル用に改良されたバージョンだけに、その動きは淀みない。
ナユが口を開こうとした矢先、クラレスが話し始めた。
「料理も“翼の眷属”由来のものばかり。ありがとうござます」
「中々帰れない立場にあると聞きましたので、せめて食事はと思って用意させて頂きました」
なお“翼の眷属”と“首座の眷属”の付き合いはそれなりに長いため、両文明の者が同じテーブルで食事を味わえる料理、というのは既に広く知られていた。尤も地球の強化処置と同じような技術が発達しているため、大きな問題となる事は殆ど無いのだが。
ナユの返答に、レイシーもお礼の言葉を口にした。
「まさか遠く離れた地で、このようにもてなして頂けるとは思ってもいませんでした。ありがとうございます」
「喜んで頂けたなら何よりです」
答えながらナユは思った。喜んでくれてはいるが、会話が少し硬い。社長のオーダーは息抜きなのだ。なのでもう少し砕けた会話にしたい。素早く考えを纏めて、少しばかり方向性を変える事にした。
「そう言えばクラレスさんはお転婆という話を聞きましたが、実は私も前職というのがありまして。何だと思いますか?」
ニッコリと笑いながら尋ねてみれば、クラレスもレイシーも首を傾げた。2人から見たナユは、才女という以外にないのだ。“首座の眷属”出身で、カラード保有のレジャー施設“プラチナ・ドロップス”の総責任者。しかも一文明の指導者から直接オーダーを受けられる立場にいる。
余程完璧な経歴に違いない――――――と思っていただけに、ナユの言葉は信じられないものだった。
「実は私、元々夜の街の女なんです」
「「え?」」
クラレスとレイシーの声が見事に重なる。表情が「嘘でしょう?」と言っているが、本当の事なのだ。
ナユは話を続けた。
「とある星の夜の街で働いていたんですが、いつの間にか誰かの恨みでも買っていたんでしょうね。呼び出されて行った場所で海賊に攫われまして。で、色々あった後に救出されたんです。カラードの第3回外宇宙ミッション。数光年先の彼方から、惑星表面へのホットドロップ戦術。銀河最高難易度の強襲戦術で、海賊基地ごと消滅させてくれたんです。多くの人が助けられて、私もその1人でした」
これに反応したのは、私兵として戦闘経験のあるレイシーだった。
「あれ、本当だったんですか。誇張でもなんでもなく?」
「はい。探せば救出された人達が作った自作映像も見つかると思いますが、概ね事実です。あの時の光景は、生涯忘れないでしょう」
一般人であるクラレスがレイシーに尋ねた。
「それって、そんなに凄い事なんですか?」
「“翼の眷属”でも行えるのは、極々限られた最高の装備を有する最精鋭部隊だけ、と言えばどれ程の難易度か想像出来ますか。それを
ナユが答えた。
「はい。その通りです。あれは本当に奇跡のような光景でした。――――――っと、少し話が逸れてしまいましたね。その後色々あってカラードが社員を募集しているのを知って応募して、とある会議でレジャー施設の提案をしたんです。そしたら社長に、責任者をやって欲しいと言われまして。そのまま今です」
2人が想像していたより何倍も波乱万丈な人生だった。そしてお転婆と言われていたクラレスにとって、ナユの過去は非常に興味を引くものだった。またレイシーも私兵としての経験から、職業的な貴賤を意識する方ではない。世間一般的に素晴らしいと言われている者が実は………なんて事は良くある事で、その逆もまた然りだからだ。
こうして場の雰囲気が少し和んだのを切っ掛けに、3人の会話は徐々に弾み始めたのだった。
◇
晶はクラレスとレイシーの息抜きに関して、特に政治的な意味を持たせる気は全く無かった。秘密保持が必要という大前提はあるが、2人の精神的な安定を考えた結果に過ぎない。
しかし、この対応を知ったアラライルとスノーは思った。
“翼の眷属”強硬派のクーデター政権が大いに求心力を高めた後に、政権を追われた穏健派筆頭の孫娘をしっかりともてなす。穏健派を見捨てる気は無い、という何よりも強いメッセージに思えたのだ。
そして時を同じくして“翼の眷属”で、2つの新しい企業が本格的な活動を始めていた。
1つは鉱石の採掘と製錬及び精錬を行い、資材供給を行う企業。取り扱っている鉱石は銀河系に広く分布している一般的なもので、コロニーや艦艇建造などの分野で多く使われているものだ。広く分布しているイコール供給元が多いという事でもあるため、独占的に扱って影響力を及ぼせるようなものではない。しかし需要が多い物でもあるため、大手の利権が及んでいない辺境では売り込みやすい資材であった。
1つは速力のある船を使った配送屋。人や物をすぐに移動させたい、或いは届けて欲しいというニッチな需要に対応したものだ。
一見するとこれらは全く関係無いものであったが、設立の目的は次のようなものであった。
穏健派に属する者達に良い資材を安く供給する事で、財政面での負担を減らして力を蓄えやすくする。
配送屋を使う事で、穏健派同士で人や物を直接やり取り出来るようにする。機密保持の観点から、通信そのものを避けたい場合というのは
そしてクラレスの立ち位置はこれらの出資者で、レイシーは護衛兼秘書。企業の経営責任者となる社長は別に用意されていた。これなら調べられてもクラレスとレイシーの名前は出てこない。登録書類の何処をどう探しても出てこない。しかし実態としては、全ての情報は2人に集約されるようになっていた。
お転婆なお姫様と私兵は故郷から遠く離れた地で、思いもよらなかった道を歩み始めたのである。
第243話に続く
クラレス&レイシーのお話しでした。
半分くらいの量でサクッと終わらせるつもりが、書いていたら長くなってしまったので1話丸々使う形に。
3人の美女が着用しているドレスは作者の趣味が全開でございます。
セクシーで綺麗なんて最高ではないですか。