インフィニット・ストラトス ~迷い込んだイレギュラー~ 作:S-MIST
とある日のこと。
月の積み替え用ステーションから、シャルロットに緊急案件が上がってきた。
現場では判断しかねるので、判断が欲しいというのだ。
内容は水の緊急かつ大量購入に加えて輸送艦のレンタル。
相手が“獣の眷属”だったので、シャルロットは“獣の眷属”側の社会支援制度を使うのが筋と思うと同時に、前科があるからこちらで買おうとしている、という可能性にも思い至っていた。
しかし上がってきた情報を読み進めていくと、地理的要因に絡む時間の問題から、こちらを選んだように思える。
真偽の判断は必要だが、まず積み替え用ステーションに入港してきた船は、“獣の眷属”の開拓船団所属となっていた。活動しているのは自領域外縁部の更に外側で、スターゲートネットワークが通じていない場所だ。
因みにスターゲートネットワークとは、ヒューマノイド系と非ヒューマノイド系文明が入植している全ての星系を繋いでいるスターゲート網の事で、どのように繋がっているのかは公共情報として公開され、スターゲートマップと呼ばれている。
そして開拓地から最も近い星系には、2つのスターゲートがあった。
1つは地球のスターゲートハイウェイに向かうスターゲート。
1つは“獣の眷属”側の他の星系に向かうスターゲート。
つまり現時点において開拓地と行き来する為には、高性能ワープドライブ艦かスターゲート艦が必須ということ。
このような条件で水の購入を考えた場合、すぐに水を用意出来るのはどちらだろうか? “獣の眷属”は
つまり純粋な移動時間、水を入手する手間暇や量といった観点で見た場合、月の積み替え用ステーションが最有力候補なのだ。
なお“獣の眷属”の領域には複数のスターゲートの出口が設置されているが、内1つが領域外縁部に設置された理由は、“獣の眷属”王家の意向にある。
調整を担当したスノー大使によれば、元々開発計画は上がっていたが、必要となる開拓用物資や船団規模の関係で優先順位を下げざるを得ず、棚上げになっていたらしい。しかしスターゲートハイウェイの開通で、これらの問題がクリアされたのでGOサインが出た、という事だった。
―――閑話休題。
だがここまでなら、緊急案件になどならない。
問題は入港してきた船の状態で、シールド全損、物理装甲半壊、生命維持系にもダメージが入っている。
もし売れば、この者達は明確に敵性存在の疑われる宙域に戻るだろう。言ってみれば自殺の手助けと同じだ。
よって積み替え用ステーションのスタッフは尋ねた。
その状態で戻っても撃沈されるだけでは、と。
すると乗員はこう答えた。
同じように離脱出来た艦が、救助艦隊を呼びに行っているはず。そして此処で水を頼んだ理由は、どうあっても水を届けなければ仲間が蒸し焼きになるからだ、と。
この会話の後に提供されたデータは、船団のギリギリの決断を表すものだった。
ワープはその仕様上、進行方向に艦首を向けなければいけない。強襲されて多数のワープ妨害フィールドを展開された時、悠長に艦首の向きを変えている余裕は無かった。即座にワープドライブ起動。詰みになると分かっていても、前方にワープするしかなかった。
何故ならその時前方にあったのは、赤色巨星と
またワープアウトのランディングポイントは、高重力場に引き寄せられるという特性がある。この場でワープしたら、ワープアウトするのは間違いなく天然のワープ妨害フィールドの中だ。
しかし今という1秒を生き残る為に、護衛艦隊が命がけで作ってくれた時間を使って、自ら逃げ場の無い檻の中に飛び込まなければならなかった。無念という以外にない。だが、その時その瞬間の決断として、今ワープしなければ全滅。選択の余地などなかったのだ。
そして飛び込んだ先は、灼熱地獄だった。
何故なら赤色巨星は表面温度こそ約2500~4000℃程度と低いが、表面積が太陽の数十倍~数百倍に達するため、星全体が放つエネルギー(光度)は太陽の何百~何万倍にも達する。このため周囲の環境は、強い恒星風による熱や重力の影響を直接的に受ける過酷なものだ。
特殊装備の無い船が耐えられる環境ではない。
また
この環境に耐える為に開拓船団は、主機関、推進機関、重力制御機関、冷却システム、その他関連システムをフルドライブさせ続けなければならなかった。凄まじい過負荷にシステムが悲鳴を上げていくが、特に危険だったのが冷却システムだった。船の耐熱限界を遥かに超える環境だったため、瞬く間にレッドアラート。開拓用に大量に準備されていた水を冷却用の触媒として使う事で、どうにか凌いでいたが時間の問題でしかなかった。
そして襲撃者は、こんな危険な環境に飛び込んでくる必要など全くない。安全圏ギリギリで待ち構えて、開拓船団が根を上げて出てきたところを、再度ワープ妨害装置で捕獲してやれば良いだけだ。
あらゆる意味で詰み。
―――に見えるだろう。
しかし、一般人だから諦めが良いという訳ではない。
開拓船団のバイタリティ舐めんな。
冷静に状況を分析する。襲撃者が突っ込んで来ないのは、赤色巨星と
通常通信は連星の凶悪な環境下のお陰で殆ど通じない。超光速通信は基本的にスターゲートを経由するため、スターゲートネットワークに接続されていないこの星系では使えない。スターゲートを経由しない超光速通信もあるが、非常に高価なため普通の船には搭載されていない。開拓船団とその護衛艦隊に1つずつの計2つしかなかった。その2つも、襲撃者のファーストアタックで船ごと破壊されていた。
つまり直接助けを呼びに行く以外に、助かる術は無い。
このため開拓船団の者達は、賭けに出た。
ワープ不能領域を抜けた瞬間、或いは離脱の動きを見せたら攻撃してくるのは分かってる。だが極々単純な物理法則として、どれだけ強力な攻撃も当たらなければ意味がない。
なら、船を極限まで加速させてやれば良い。
幸い此処には、高重力を発生させている
だが問題もあった。スターゲートが接続されていないこの星系から飛んで助けを呼びに行くには、高性能ワープドライブ艦でなければならない。そして実用的な性能を持つ高性能ワープドライブ艦は、基本的に巡洋戦艦級。つまり全長300~600メートル。加速力が何よりも大事なこの場面で、この巨体はデッドウェイトでしかなかった。
シミュレーションで弾き出された成功率は、当然のように低い。しかし、待っていても死ぬだけ。
よって2隻の船が選ばれ、決行された。1隻は自分達が所属する“獣の眷属”側へ。もう1隻は最も近い地球側へ。
その結果が今で、こちら側に辿り着いた船は積み替え用ステーションに入港するまでの間に、“獣の眷属”大使館に事情を伝えたという事だった。
もしこれらの情報が正しくて、介入がカラードの為になるなら、急ぐ必要がある。
情報の裏取り、準備、全てを同時進行で進めないと、恐らく間に合わない。
シャルロットは晶とラウラにコアネットワークを繋いだ。緊急案件として、今現在分かっている情報を全て送る。
先に反応があったのは晶だ。
(潜行戦隊第1戦隊が1時間以内に出れる。まずは偵察だな。そしてラウラ。艦隊は?)
(使える)
(出撃準備を進めておいてくれ)
(分かった)
(シャル。入港してきた人達に、レンタル輸送艦を準備中と伝えてくれ。ただ水に関しては、この前決めた購入制限があるだろう。そのあたりの事情を話して、取り敢えず限界量ギリギリを準備。それ以上は大使館経由の確認待ちと説明してくれ)
今現在カラードは個人購入や団体購入別に、
(了解)
ラウラが尋ねた。
(どの程度介入する気なんだ?)
(スノーさんに偵察情報を渡すだけでも、それなりの協力にはなるだろう。ただ相手の規模によっては、艦隊に実戦を経験させたい。偵察情報次第だな)
(了解した)
こうしてカラードは緊急案件に対して、行動を起こし始めたのだった。
◇
2時間後。
カラード潜行戦隊第1戦隊、アリコーン1番艦は当該星系に到着していた。
ステルス艦であると同時にスターゲート艦でもあるアリコーンは、既存のスターゲートネットワークに捉われない超高速展開が可能なのだ。
無論、星系内に直接スターゲートを開くような真似はしていない。敵性存在が疑われる場所への偵察なのだ。探知を避ける為に星系最外縁部の更に外側に開いた後、アクティブステルスと光学迷彩で姿を消した上で、空間的な痕跡を残さない特殊なワープで星系内に進入している。
そして観測方法にも、細心の注意が払われていた。
船体は空間潜行で別次元に隠しつつ、有線接続された球体状の観測ユニットを通常空間に放出する、という形だ。この方法なら全長495メートルの巨体を、通常空間に一切晒さないで済む*2。
こうして収集された情報を確認した艦長の静寐は、隣にいた清香に言った。
「宇宙の常識がどんなものは知らないけど、単なる無法者じゃなさそうだね」
「そうだね。始めから殺る気じゃないと、こんな編成にはならないよね」
ワープが発達している
このため戦闘を目的としたほぼ全ての編成に、フリゲート級や駆逐艦級のという小型で足の速い高速艦がタックル役として組み込まれていた。速度全振り。シールド防御は紙。ワープの基本原則として質量が重い程に遅いというのがあるため、本体が到着するまでの間、敵をその場に釘付けにする役割だ。
当然のように死亡率が高いポジションだが、
そして後から到着する本体にも様々な役割が存在する。まず沈められやすいタックル役からワープ妨害を引き継ぐセカンドタックル役。これはある程度の万能性を持つ巡洋艦級が引き継ぐ事が多い。
次に敵の索敵能力等を妨害する電子戦役。余り目立たないポジションだが、
ダメージを負った味方のシールドを回復させる回復役。
最後に敵のシールドをブチ抜いて沈める為の火力役。
この他にも状況によっては、超遠距離から敵を攻撃するスナイパー艦。一撃離脱を旨とするステルス爆撃艦などがある。
これらを踏まえて、アリコーンから観測出来た40隻あまりの正体不明艦を分析する。
データベースに無い艦種なので大きさから推測するしかないが、大きさと速力は反比例するので、ある程度の推測は可能だ。
全長100メートル以下のフリゲート級は6隻。100~200メートルの駆逐艦級が4隻。200~300メートルの巡洋艦級が25隻。300~600メートルの巡洋戦艦級が5隻。
フリゲートと駆逐艦はタックル役だろう。数が多い巡洋艦は、恐らく妨害役・回復役・攻撃役と役割分担しているのだろうか? 全て攻撃役というのは、バランスを考えれば少し考え辛い。巡洋戦艦級が火力役なのは間違いないだろう。
ここで静寐と清香はすぐに気付いた。
スターゲートネットワークに接続されていないこの星系で戦力を展開する為には、絶対に存在していなければおかしい筈の艦種がいない。
母艦だ。
星系間を飛び越える高性能ワープドライブは、船への負荷が非常に大きい為、フリゲート級や駆逐艦級には搭載出来ない。船体側が耐えられないのだ。巡洋艦級なら辛うじて搭載可能だが、船としての性能は劣悪極まりないものになる。巡洋戦艦級以上なら船として使える程度の性能低下で済むが、同クラスの非搭載型と比べれば、明らかに性能が劣る。
「何処にいると思う?」
「
「なるほど。確かに」
清香の言葉に静寐は肯きつつ、見るデータを切り替えた。
ワープ不可能領域にいる開拓船団だ。
一目で、かなり拙いと分かる。
赤色巨星の強烈なエネルギー放射から身を守る為に、惑星に対して一直線に並んだ縦列陣形をとっている。惑星側の1隻の負担が増えるが、他の船の負担は減る。これをローテーションする事で冷却システムがクールダウンする時間を稼いでいた。しかし、それも程度の問題だ。そもそもの外部温度が高過ぎるため、どの船もシールド表面の温度が極めて高い。加えてエネルギー放射の直撃を受ける惑星側の船は、水を放出していた。シャルロットからの情報通り、冷却用の触媒として使っているのだろう。
後は、単純な引き算だ。
水を冷却用の触媒として使わなければ現状を維持できない。現状、水の補給は出来ない。つまり水の無くなった時が、船団の命運が尽きるときだ。
助けてあげたいが、アリコーンの性能を以てしてもあの座標にスターゲートは開けない。
清香はコアネットワークで、晶に観測データを送ったのだった。
◇
観測データを受け取った晶は、秘匿回線で“獣の眷属”のスノー大使をコールした。
時間が勝負の事態だけに、前置きはしない。
『まずは、送ったデータを見て下さい』
内容を確認したスノーの顔色が変わる。
『これは………』
『こちらの積み替え用ステーションに入港した者から色々聞きまして。確認してみたら、事実だったのでそちらに伝えました。光学観測とパッシブデータだけですから、正確性に多少の難はあると思います。でもそちらなら、もう少し細かい分析が出来るでしょう。ただ、先に言っておきたいと思います。現時点で母艦の存在が確認出来ていません。1隻か複数かも分からない。もし艦隊を派遣するなら、そこは留意しておいた方が良いと思います。経験豊富なそちらにとっては、無用な言葉かもしれませんが』
『そんな事は。他に何かありますか?』
『いいえ。ありません』
『分かりました。ありがとうございます。このお礼は、後ほど必ず』
こうしてアリコーンの観測情報は、スノー経由で“獣の眷属”辺境警備艦隊へと送られたのだった。
◇
一方その頃の地球。
アリコーンからの観測情報を受け取ったカラード宇宙艦隊では、今後の予想が行われていた。
場合によっては実戦経験を積む為の出撃が有り得ると伝えられていたが、この規模の中に突っ込んでは無駄死にだ。しかしアリコーンがステルス状態で現場にいるため、状況の推移をつぶさに観察できる。宇宙戦の経験値が絶対的に不足しているカラード宇宙艦隊にとっては、貴重な教材と言えた。
オンラインで繋がっているのは4人。
カラード戦闘部門部門長のラウラ。
カラード宇宙艦隊の3人の艦長達。
1人は日本人女性で、名前は
1人はドイツ人女性で、名前はセーナ・ネアデス。美人と言って差し支えない容姿の持ち主だが、剣呑という言葉を付けたくなるほどに鋭い目つきをしている。元々の所属はカラード戦闘部門の作戦参謀。可能か不可能かの見極めが上手い。指揮を取る艦は
1人はフランス人女性で、名前はソフィ・シャリング。真っ当な正義感を持ち併せている元気印な娘っ子でムードメーカー気質。ついで胸部装甲も大変大きい。元々の所属はカラード戦闘部門のパワードスーツパイロット。元パワードスーツパイロットだけに、本当の鉄火場というものを知っている。指揮を取る艦は
艦長の3人は全員が20代と若い。普通なら、この若さで艦長に求められる多くのものを兼ね備えるのは難しいだろう。しかし、カラードでは違っていた。基礎的な身体能力は強化処置でどうとでもなるし、求められる膨大な知識だって、強化された神経系なら素早く吸収できる。このため重視されたのは性格や人間性に加え、教科書的な知識に固執する事無く、柔軟に物事を考えられる思考力といった部分であった。
―――オンラインで繋がっている4人―――
ラウラ・ボーデヴィッヒ
セーナ・ネアデス
ソフィ・シャリング
―――オンラインで繋がっている4人―――
ラウラがいるのはカラード本社。
他の3人がいるのは、それぞれが任されている艦の艦長室だ。
なおカラード宇宙艦隊の制服デザインは基本的に地上と同じだが、スカートだと中身が丸見えになってしまうため、スカートの下に着用可能なロングスパッツやズボンが別途支給されていた。無論、パンツスタイルの制服もある。どれを着用するかは、当人達に任されていた。
また全体的な雰囲気を損なわない範囲で、制服には幾つかのデザインが存在していた。誰の趣味かは、言うまでも無いだろう。カラードの社長は自他共に認める趣味人なのだ。
―――閑話休題。
ラウラが口を開いた。
『“獣の眷属”は、どう動くかな?』
これにセーナは尋ねた。
『確認ですが、観測情報はあちらに渡っているのですよね?』
『つい先ほど晶が渡した』
『襲撃者の展開状況が分かっているなら、直上か直下からの奇襲ではないでしょうか。形状から見て船には前後があって、後方と思われる場所には推進機関と思われる物がある。なら上か下が対応し辛い方向でしょう』
対応し辛いという意味では後方からでも同じだが、万一攻撃を外した場合、前方の開拓船団に流れ弾が当たる、という可能性もゼロではない。距離的に相当に低い確率だが、ゼロではないのだ。
このため後方からの奇襲は、全員が第一選択から外していた。
ソフィが続く。
『確実に先手を取れるなら、時間差もありじゃないかな。直上から攻撃を仕掛けて、対応の為に艦首が上に向いた瞬間に下から。これなら最も脆い後方から奇襲をかけるのと変わらないよ』
鉄火場を知る者らしい予想に、美津が更に付け加えた。
『攻撃を仕掛けると同時に、別動隊が開拓船団の護衛と救助に向かうっていう可能性もあるわね』
扱う道具が進化して舞台が宇宙になろうと、救出対象がいる、というシチュエーションなら行動の基本方針は変わらない。如何に素早く救助対象の下に辿り着き、如何に早く危険な要素を排除するかだ。そういう意味で、3人の予想はどれも正解と言えるだろう。
しかし、同時にラウラは思った。
思考が既存の戦術に引っ張られ過ぎている。この星系が何処にあるのか、という事が考慮されていない。
気付くだろうか? もう少し様子を見るべきか? 今言ってしまうべきか? 考えていると元作戦参謀のセーナが、何かに気付いたかのように表情を変えた。そのまま数秒考えた後に、口を開く。
『2人とも、ちょっと待って。私達、大事な事を見落としているわ。この星系、スターゲートネットワークに接続されていないじゃない』
ラウラは様子を見る事にした。
セーナの言葉が続く。
『そして小型で高速な船、フリゲート級や駆逐艦級に高性能ワープドライブは搭載出来ない。巡洋艦級は搭載出来ても船としての性能は劣悪。実用的な性能を求めるなら、基本的に巡洋戦艦級。これを踏まえると、私達が今言った戦術は実行し辛いわ。不可能ではないけど、巨大母艦で戦力を運んで来て、展開させて、それからスタートっていう手間が必要になる。下手をすると展開段階で、いえ、巨大母艦が星系内にワープアウトした段階で襲撃者達に気付かれて、開拓船団が危険に晒されるわ。だから最も安全な方法を考えるなら、スターゲートを開いてのホットドロップじゃないかしら?』
地球人にとってホットドロップ戦術は、スターゲートを惑星表面に開いて強襲すること、というイメージが強い。カラードが第3回外宇宙ミッション*3で行ったからだ。
しかし、正しくは違う。スターゲートを使う事で距離という概念を無視して、ピンポイントで戦力を投射することだ。惑星表面や
そして仮に“獣の眷属”がホットドロップを選択した場合、最大効率で奇襲するには精密観測情報が必要になる。最も効率的に40隻を撃破できる場所に、スターゲートを開く必要があるからだ。
状況的に、“獣の眷属”単独では無理だっただろう。“獣の眷属”にもステルス型の偵察艦は有るだろうが、送り込んで偵察をしている間に、開拓船団側のタイムリットになってしまう可能性が高い。だが、今回は違う。現地にはアリコーンが潜伏していて、観測情報を入手出来るからだ。
恐らく開始前に、もう一度現地の情報を提供して欲しいと言ってくるだろう。
セーナがこんな事を思っていると、美津が言った。
『確かにそうね』
美津は自身の考慮不足や新しい考え方を認めた上で、更に続けた。
『私も、潜伏しているかもしれない母艦の存在について意見があるわ。疑わしいのは、此処じゃないかしら』
手元のコンソールを操作して、赤色巨星と
美津が指し示したのは2ヶ所。
これを見たソフィーが口を開く。
『なるほど。なら………。うーん。ラウラ部門長。確認しても良いですか』
『何をだ?』
『確認したいのは2つです。まずは大前提の方針。仮に母艦を発見したとして、私達だけが撃破出来る状況だった場合、どうしますか? 撃破しますか? それとも見過ごしますか?』
『この連星系の領有権は、厳密な意味では確定していない。だが“獣の眷属”が単独で開拓していた、という事実を踏まえるなら、その場で武力を振るうか否かの判断は晶が行うべきだろうな。少し待て』
ラウラはコアネットワークで晶を呼び出し、今の件について確認してみた。
すると判断はGO。ただしこちらが弱いという事実を踏まえて、確実に勝てる時のみ許可という条件付きだった。イチかバチかのギャンブルはするな、という訳だ。
それを伝えられたソフィは言った。
『社長らしいです。ではもう1つ。母艦の性能は分かりませんが、
ゴースロスの主砲は前4門と後ろ2門の電磁投射砲。使用弾頭は純粋核融合弾。一昔前の地球で言えば、間違いなく戦略核弾頭級の代物だ。しかし、
またソフィが使用を申請したミミックボックスに搭載されているSDBMミサイル*4は小型核弾頭程度の威力だが、こちらは1隻あたり240発が搭載されている。
3人の艦長達がそれぞれ使えるように、カラード宇宙艦隊には3隻が配備されていた。
『確実にやれると判断したなら使うと良い』
『ありがとうございます』
返事を聞いたラウラは、全員に言った。
『始めは既存の戦術に考えが引っ張られていて、どうかと思ったが悪くない。
因みに言葉にはされなかったがアリコーンは、美津が指し示した2ヶ所を観測し易い位置に移動し始めていた。
ステルス性維持の為に観測用衛星やドローンを放出出来ないという悪条件だが、優先順位の1番を
こうしてラウラと3人の艦長達は、現場で起こり得る状況を予想していったのだった。
第250話に続く
いつもより若干短いですが、戦闘シーンに入ると長くなり過ぎると思うので一度区切ろうと思います。
あと、ラウラがちょー美人に出来て嬉しい作者です。
他の3人も良い感じに出来ました。