インフィニット・ストラトス ~迷い込んだイレギュラー~   作:S-MIST

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今回はタイトル通り。
第9回外宇宙ミッションの結果として起きるアレコレについてです。



第251話 第9回外宇宙ミッション後のアレコレ(IS学園卒業5年目の6月)(イラスト有り)

  

 月の衛星軌道にある“獣の眷属”の大使館は、とある惑星の島1つを丸々浮上させた浮島だ。

 直径約8キロ。完全な気象コントロールと高度なシールド制御技術により、島全体を覆い密閉するような外壁が無いにも関わらず、人が普通の服で生活出来る環境が維持されている。しかも、豊かな自然と一緒に。空は青く、鳥が自由に飛び、広大で波打つ池には魚がおり、森には豊かな恵みまであるのだ。

 そんな大使館の庭をスノーは散策していた。

 開拓船団救出ミッションの事が気になり、他の仕事が手につかなかったからだ。

 軍部に行えるだけの情報提供は行ったが、どうなっただろうか? 船団は無事だろうか? 軍部の被害はどうだろうか? 様々な考えが脳裏に浮かんでは消えていく。

 落ち着かない中で歩き続け、川辺に差し掛かったところで部下から連絡が入った。

 空間ウインドウを展開して応じる。

 

『スノー様。軍部より連絡が入りました。救出ミッションは成功。船団の者もかなり衰弱していますが、始めの奇襲で撃沈された者達以外は無事、ということでした』

『そうですか。最悪は、免れたようですね』

 

 犠牲者が出たのは痛ましい事だが、多くの者が助かって本当に良かった。

 

『はい。軍部が相当に頑張ってくれたようで――――――少々お待ちください』

 

 会話中に、何か連絡が入ったようだった。部下が短く応答し、再び口を開く。

 

『スノー様。現場の指揮をとったトイテリア艦隊司令から通信が入っています。如何致しますか?』

 

 面識がある人物ではない。恐らく今回の一件に関する事だろうが、何だろうか?

 

『受けます。繋いで下さい』

『分かりました』

 

 空間ウインドウがもう1つ開かれ、屈強な体躯を持つ犬耳の艦隊司令トイテリアが映し出された。大柄だが粗野という雰囲気ではなく、武人という雰囲気だ。

 

『お初にお目にかかります。第105辺境警備艦隊司令のトイテリアと言います。お忙しい中、通信を受けてくれてありがとうございます』

『いいえ。そしてお礼を言うべきはこちらの方です。開拓船団を無事救出されたと、たった今聞きました。大変に困難な状況だったと思いますが、よくぞ成功させてくれました。あなたの、いえあなた方の頑張りのお陰で、多くの者が助かりました。ありがとうございます』

 

 掛け値なしの誉め言葉だが、トイテリアは少し微妙な顔をした。

 

『今回通信をしたのは、まさにその事についてです。カラード潜行戦隊の助けが無ければ、船団の救出は叶いませんでした。恐らく今後、大使とカラードとの間でやり取りがあるでしょう。その時に、現場の者達が大変に感謝していたと、一緒にお伝え頂ければと思いまして』

『分かりました。必ず伝えます。あと、これからカラードと話すにあたって教えて欲しいのですが、お伝えした情報はどの程度役に立ちましたか? 現場の実感が分かると、私としても話し易いのですが』

 

 するとトイテリアは一瞬キョトンとして、すぐに納得したような顔をした。

 

『ああ、なるほど。大使が知っているのは、あちらが情報提供をしてくれたところまででしたね』

『その言い方ですと、ミッション中に何かあったのですか?』

『あったどころか………そうですね。ここからは、ミッション情報を共有して話した方が良いでしょう。暫しお待ちを』

 

 トイテリアが手元のコンソールを操作すると、スノーの元にミッション中に起こった出来事の概要情報が送られてきた。

 サッと目を通すと――――――。

 

『………あの、これ本当でしょうか? いえ、そちらのお話を疑っている訳では無いのですが、あの、本当に?』

 

 トイテリアは大きく肯いて答えた。

 

『信じられないのも無理は無いかもしれませんが、事実です』

 

 カラードは宇宙戦において、少なくとも多数の船が同時に動く艦隊戦において、決定的な影響力を持たない。言葉を選ばずに言えば、弱小だ。

 先日行われた“獣の眷属”との艦隊戦シミュレーションでは、そういう結果が出ていた。当人達もそれを認識していて、束博士から『この前ウチの艦隊をボッコボコにしてくれた軍人さん達に、「ありがとう」って言っておいて下さい』と言われたくらいだ*1

 なのに、これはなんだろうか?

 敵のステルス艦を発見して味方に伝達。これは行えなくもないかもしれない。

 惑星裏側に陣取っていたスナイパー艦隊の座標を特定して伝達。これも頑張れば出来るかもしれない。

 だが、軽空母の砲撃射線に割り込んで、開拓船団の盾になった? 下手をすれば、戦艦級ですら沈む攻撃の?

 ワープ不可能領域ギリギリでスターゲートを開いて、艦隊を呼び寄せて軽空母の逃亡を阻止した? どうやって? ロープデスマッチ? 錨で引っ掛けて軸線を無理矢理傾けてワープ演算を破綻させた? そして撃沈した? 地球の打撃力でどうやって? 核ミサイル500発以上? 水爆6発? 訳が分からない。

 だがこれが事実なら、カラードは開拓船団の救出に命懸けで協力してくれた、ということだ。

 相応の礼が必要になるだろう。

 

『なるほど。教えてくれて、ありがとうございます。知らずに話していたら、恥知らずになるところでした』

『いえいえ。役に立ったなら何よりです。では、大使のお時間を余り頂くのも心苦しいので、このへんで失礼させて頂きます』

『こちらこそ、連絡ありがとうございました』

 

 こうして通信が終わった後、スノーは思った。

 

(本当に、謝礼どうしましょう?)

 

 王家が後押ししている開拓船団を助けてくれた。

 この事実は重い。だが、同時に思ってしまう。カラードが欲しがるものは、なんだろうか?

 これまでの行動を見る限り、地球文明の発展に役立つもの、という方向性なのは間違いないだろう。だが今の地球文明のレベルを考えれば、候補があり過ぎて絞りこめない。

 暫し考えこんでいると、通信が繋がりっぱなしになっていた部下が言ってきた。

 

『スノー様。なんだか楽しそうですね』

『そうですか? いえ、そうかもしれませんね。あの2人は聖人君子ではありませんが、文明の為という意味ではとても真面目です。なのでどんな要求をしてくるか想像すると、なんだか楽しくて』

 

 この言葉は、スノーの本心を正確に言い表している訳ではなかった。

 地球人に分かり易いく例えるなら、ストラテジーゲームの選択肢を前にした時の思考時間だろうか。想像を膨らませてワクワクする。あの感覚に近い。

                               

 ―――何故か楽しそうなスノー大使―――

                               

 

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 ―――何故か楽しそうなスノー大使―――

                               

『御戯れを。単純にお金で済ませるのは駄目なのですか?』

 

 するとスノーは言った。

 

『言ったでしょう。あの2人は、文明の為という意味ではとても真面目です。だからお金で買える完成品のような何かではなく、地球文明の足腰を強くできる何かを要求してくるでしょう。ただ問題は今の地球文明のレベルだと、予想出来るものが多すぎて絞りこめないという事ですが』

 

 部下が答えた。

 

『分かりました。では宇宙進出過渡期にあった他の文明の歴史を調べて、優先されたものをリストアップしてみます』

『いえ。不要です。あちらの2人は腹の探り合いなんて、面倒と考えていますから。スパッと要求が出てくるでしょう』

『政治家としては、どうかと思いますが』

『私は好ましく思っていますよ。話が早くて良いではありませんか』

 

 言いながらスノーは思った。あの2人とのやり取りに慣れてしまうと、他で話す時に話の進みが遅く感じてしまう。

 特に本国の俗ぶ………これ以上はいけない。

 ちょっと漏れ出そうになった本心に蓋をして、部下に伝える。

 

『救出ミッション成功の報をカラードに入れて、あちらの都合の良い時間を確認して下さい。正式なお礼の話は、その時に』

『分かりました。では、すぐに』

 

 こうして部下との通信が切れた後、スノーは軽い足取りで大使館へと戻って行ったのだった。

 

 

 

 ◇

 

 

 

 少しだけ時間が経ち、スノーは束と晶を前にしていた。非公開通信だ。

 今回の一件が公開予定なのは共通認識だが、擦り合わせも無しで出して良い出来事ではない、というのも共通認識だったからた。

 

『まずは、お礼を言わせて下さい。そちらが自主的に、そして早期に動いてくれたお陰で、開拓船団を救出する事が出来ました』

 

 束博士が答える。

 

『ん~。今回の一件、私は殆どというか、全く関わってないんだよね。だから晶。任せた』

『おい。いきなりブン投げるな』

『だって関わってないし。カラードの事は晶に任せてるし。お礼の言葉は貰ったし。後は実際の謝礼を貰って終わりでしょ。長々とする話しでもないし』

 

 スノーの外交的常識を、色々とすっ飛ばした発言だった。

 確かに話が早くて良いと先程思ったが、色々と、本当に色々とすっ飛ばし過ぎでしょう。

 そんな事を思っていると、晶が口を開いた。

 

『じゃあ、早いとこ話を進めるか。こっちとしては、協力出来そうな事があったから協力した。今後も仲良くやっていきたいというのもある。でもタダ働きで、都合良く動くと思われるのも困る。なので、何か適当な報酬が欲しい。気に入らなければ受け取りは断る』

 

 思いっきりストレートだったので、スノーも思わずストレートに聞いてしまった。

 

『そういう事でしたら、欲しいものを言ってくれた方が間違いが無いかと。出来る出来ないは別として、どんなものをご希望ですか?』

『お? 話が通じるね。なら遠慮なく。こちらが欲しいのは宇宙船の竜骨と装甲材の製造方法が欲しい。別に最新じゃなくても構わない。ただ少なくとも、実用レベルのものは欲しいかな』

 

 スノーは思った。

 数世代前の規格なら、本国も渋ったりしないだろう。

 

『分かりました。渡せそうなものに心当たりがあります。ただ本国の許可が必要なので、一度持ち帰らせて下さい』

『構わない。駄目だったらまた別のものを考えるさ。――――――ああ、そうだ。もし今の要望が通るんだったら、生産設備の購入も考えているんだ。運用する場合に、必要となるものも一緒に教えてくれると助かる』

『そちらも分かりました。確約は出来ませんが、話すだけ話してみようと思います』

 

 スノーは通るだろうと思いながら答え、約束を伝える事にした。

 

『あと今回協力して頂いた現場の者達が、大変に感謝していました。私にミッション情報まで渡して、ハッキリと口にしていたくらいです』

『なるほど』

 

 その言葉を聞いた晶は少しばかリ考え、ニヤッと笑った。

 スノーにも分かる。絶対碌でもない事を考えている悪ガキの笑みだ。

 

『なら、その感謝を形にして貰おうかな。もう一回、艦隊戦のシミュレーションをお願いしたい。そして、もう一回ボッコボコにして欲しい』

『慢心を引き締める意図は理解しますが、自信をつけさせてあげる事も大事では?』

 

 この辺りの匙加減は難しいものだが、今回に限って言うなら後者でも良いと思った次第だ。

 だが、武力を商品と言い切る男は違うらしい。

 

『戦果がもう少し小さかったらそれでも良かったんですが、流石に軽空母撃沈は出来過ぎです。現場での行動そのものは私も評価していますが、ソレはソレ、コレはコレです。現場で起きる多くの事については、まだまだでしょう。だから、それをしっかりと分かって貰わないと』

『厳しいのですね』

『現場では、予想もしていなかったような事が簡単に起こります。だから先に経験させておくんですよ。じゃないと理不尽に遭遇した時に固まって、判断が遅れる。結果として多くの者が死ぬ』

『今の言葉、シミュレーション相手にも伝えておきましょう。全力で相手をしてくれると思います』

『お願いします』

 

 こうして3人は、今回の一件に対する擦り合わせを続けていったのだった。

 

 

 

 ◇

 

 

 3人が会談を行った僅か数時間後。

 地球文明圏には少々の緊張が走っていた。

 民間の観測情報で、明らかに損傷しているゴースロスが確認されたからだ。

 遠距離からの光学望遠映像なので詳細は不明だが、船体前部~中部付近の装甲はほぼ完全溶解。前方4門の主砲も同じだ。後部の損傷は若干軽度に見えるが、団栗の背比べだろう。完全溶解か8割溶解程度の差でしかない。

 分かり易く言ってしまえば、素人目にも大破寸前に見える。

 そんな状態の船が月の整備艦に入って行ったとなれば、一般人が不安に思うのも無理はないだろう。

 このため戦闘部門長のラウラが、いつものホテルで会見を開いていた。

 

「まず皆さんにお伝えするのは、事態は既に収束している、ということです。そしてゴースロスの乗員も全員無事という事です。正確に言えば怪我人はいますが、治療で問題無く治癒する範囲です」

 

 気の早いメディアの1人が質問してきた。

 

「どのような経緯で戦闘になったのでしょうか?」

「早く聞きたいというのは理解しますが、質問は後ほどまとめて。――――――話を続けます。相手がいる事であって現在調整中の事もありますので、申し訳ありませんが、今この場で皆さんが知りたいと思う事を十分にお話しする事は出来ません。ただ内容としては、人助けの類です。地球が狙われているのを察知して緊急出動したとか、そういうものではありません。では、質問をどうぞ」

 

 多くのメディアが一斉に挙手する中、適当に当てられた者が質問してきた。

 

「あの損傷を見ると相当に激しい戦闘だったと思うのですが、どうなのでしょうか?」

「かなり激しい戦闘だったのは事実です。そして先ほど経緯について質問された方がいましたが、参戦しなければその場にいる者達の全滅が見える状況だった、という事です」

 

 余りにも簡単に出てきた全滅という言葉に、会場内が一瞬静まり返る。

 

「相当の被害を負ってでも助けなければいけない相手だった、という事でしょうか?」

 

 ラウラの返答は、随分と社長の色()に染まったものだった。

 

「組織が大きくなると何事にも損得勘定が働くようになりますが、手を伸ばせば助けられるから助けた、という事があっても良いでしょう。無論、どんな時もという訳にはいきませんが」

「一般市民の1人として共感はしますが、地球の組織なのだから、地球の事を最優先に考えて欲しいとも思います」

「カラードの基本方針は、仲良く出来る隣人とは仲良くする、です。そして聞きましょう。生きるか死ぬかの瀬戸際にいる時に、アレコレ理由をつけて助けてくれない隣人を、あなたは信用しますか? 勿論仲良くやっていく方法はこれだけではありません。色々な方法があります。ですが見捨てられた者は、忘れませんよ。絶対に」

「少し意地悪な聞き方をしましょう。その言い方ですと、あらゆる時、あらゆる場面で必ず助けると言っているようにも聞こえますが?」

「我々のリソースは有限なので、どんな時でも必ずなんて事は言えません。またカラードにはカラードの都合があるのも事実です。ですがそれは、何処の誰が今の我々の立場に立っても同じでしょう。なので持っている力をどのように使うか。それだけの事です。そして我々はその時に振り分けられる力を、今回のように使う方針です」

「分かりました。ありがとうございます」

 

 次の者が質問してきた。

 

「相手があって調整中という事ですが、どの程度で言えるようになるか、目安くらいでも教えて貰えればと思うのですが」

「事態が収束してからまだ間もありませんので、今は何とも。ただ今のところ、交渉は順調なようです」

 

 ラウラは晶から直接状況を聞いているので、話そうと思えばもう少し詳しい話も可能だ。しかし現時点で順調だから、結果も順調に出るとは限らない。現時点では順調、という程度に止めておいた方が良いだろう。

 

「そうですか。では次の発表に期待したいと思います」

「ええ。そうして下さい」

 

 こうしてラウラは詳しい事が言えない中で、事態は既に収束していること、地球が直接狙われた訳ではない、という事を公式発表としてメディアに伝えていったのだった。

 

 

 

 ◇

 

 

 

 ラウラの会見の翌日。

 再びカラードから発表があった。2日後に束博士と晶が、スノー大使と会談を行うというものだ。これまでに行われてきた数々の会談のように、リアルタイム配信される事も明言されている。

 現在の状況下でこんな予告が出れば、助けた相手を想像するのは容易いだろう。

 このため予告された日まで、地球文明内部は色々な意味で盛り上がっていた。

 ゴースロスはどんな任務に就いていたのか? どんな人を助けたのか? どのような戦闘が行われたのか? 軍事のプロからヲタクまで様々な者達が想像力を働かせ、実に様々な予想が出されていたのだ。

 そうして訪れた会談の日。スノー大使が語った内容は、多くの者の想像を遥かに超えるスケールであった。

 赤色巨星と白色矮星の連星という、超高熱と超重力環境。正体不明の襲撃者達。天然のワープ妨害フィールドに捕らわれた開拓船団。環境ダメージによる船団生存のタイムリミット。潜行戦隊の情報収集。獣の眷属の救出艦隊が行ったホットドロップ。

 これだけでも相当だが、話には続きがあった。

 カラードの協力は情報面のみで、武力面での協力予定は無かった。しかし襲撃者が軽空母を投入してきた事で状況が一変した為、武力介入を決断。カラード宇宙艦隊をホットドロップさせて、全長19キロの軽空母と戦闘。撃破に成功するも大破寸前のダメージを負った、というものだった。

 地球人に熱狂するな、という方が無理だろう。

 何せ文字通りのジャイアントキリング。戦闘情報の詳細は伏せられていたが、格上の文明が態々助けられたと公式に認める程だ。相当な激戦であった事は想像に難くない。

 また続けて発表された謝礼の内容も、地球人を大いに喜ばせるものだった。

 宇宙船の竜骨と装甲材の製造方法だ。完成品を渡されるのではなく、自らの手で作れるようになる製造方法。無論、最新ではない。何世代も前の枯れた技術だ。生産設備を自前で作らなければならない手間もある。しかし地球単独では何百年かかったか分からないような、確立された製造方法だ。

 そうして擦り合わせていた内容を一通り公表し終えて、会談が終わった後のこと。

 通信が秘匿回線に切り替わったところで、スノーが口を開いた。

 

『束博士。少し薙原社長とお話しさせて頂いても宜しいでしょうか』

『ん? 良いけど、どうしたの?』

『軍部の者が潜行戦隊を、そしてカラード宇宙艦隊の事を大層誉めていました。その話の中で、どのような訓練を行っているのか、という話題になりまして。束博士はカラードの全てを社長に任せているというので、少し聞いてみようかと』

『なるほどね』

 

 肯いた束が晶を見ると、晶は何でもない事のように答えた。

 

『難しい事はしていません。少し想像力を働かせた訓練をしているだけです。まぁ細かい内容までは言いませんが、高い練度と強力な装備を持つ側が100%勝てるなら、苦労は無いという事です。弱者が強者を打倒しようと思ったら、あらゆる手段、あらゆる状況、使えるものは全て使わないと勝てない。装備の限界性能を知り自由に扱えるなど最低条件。そしてどれほど優勢であっても、ひっくり返される時は一瞬です。このあたりの事を、しっかりと分かって貰えるような訓練ですね』

 

 スノーは返答を聞いて思った。

 この方針の場合、質と数のバランスは質に傾く。人員の育成に時間が掛かるのは避けられないからだ。

 つまり少数精鋭。しかし地球文明の現状を考えれば、数も欲しいに違いない。

 だが薙原晶は以前から、「武力は商品」と言っていた。妥協するだろうか? 組織運営の常として妥協案は探るだろうが、カラードの「人材は人財」という方針を見る限り、やはり質を重視するだろう。

 数瞬考え、尋ねてみた。

 

『質を確保するのは大事ですが、数も欲しいのではありませんか?』

『それは勿論ですが、十分な教育なくして数だけ増やしても事故の元ですからね。暫くは不自由な状態が続くでしょう』

 

 スノーは提案してみた。

 

『もしそちらが良ければ、定期的な交流戦でもしてみませんか。そちらは貴重な知見を得つつ練度を早く上げられる。人員の育成も多少は早くなるでしょう。こちらの者も定期的に他文明と演習を行うとなれば、訓練に身が入ると思います

 

 スノーは自文明の利点をもっともらしく言ったが、武力を扱う者にとっては当たり前のことだ。なのでこれは、本国の政治的な意向であった。銀河辺境という手の届き辛い場所に、実行力があって信用できる組織があれば、“獣の眷属”にとっても都合が良いのだ。

 

『こちらとしては嬉しい限りですが、良いのですか?』

『構いません。ボッコボコにして差し上げます』

 

 外交儀礼的には正しくないが、スノーは数日間に晶が言ったのと同じ言葉で答えた。

 すると晶はニヤッと笑って言った。

 

『なら、頑張って鍛えようかな。いずれボッコボコにする側になれるように』

『先は長いと思いますよ』

『地球には「千里の道も一歩から」という言葉がありまして。どんなに遠く果てしない道のりや高い目標も、まずは身近な足元の一歩から着実に始めることが大切という意味です。まさに、それかな』

『良い言葉ですね』

『組織運営なんてやっていると、この言葉が本当に染みます。いきなり凄い事なんて出来ません』

 

 やれやれとばかりに肩をすくめる姿は、気さくな友人のようであった。

 そしてこの後3人は暫くの間、政治の場とは思えない程に砕けた雰囲気で話し続けたのだった。

 

 

 

 ◇

 

 

 

 1週間程が経って、ジャイアントキリングの余韻が落ち着きを見せ始めた頃。

 メディアが再び今回の一件を取り上げ始めた。

 プラチナ・ドロップスや月の積み替え用ステーションというカラードの情報統制が利き辛い場所から、妙に解像度の高い情報が入ってきたからた。しかも訪れた宇宙船パイロットや観光客など、全く関係のない多くの者達が揃って同じような事を言っているとなれば、信憑性は高いだろう。

 このため多くのメディアが人を派遣し、その中にはアースレポート・コーポレーションの名物リポーター、ケイト・マークソンの姿もあった。

 

『テレビの前の皆さん。こんにちは。私は今、月の積み替え用ステーションのエントランスフロアに来ています。これから宇宙(そら)で流れている噂話について、宇宙人さんに突撃インタビューしてみようと思います。宇宙人さんへのインタビューは初めてなのでちょードキドキしていますが、女は度胸という事で行ってみようと思います!!』

                               

 ―――ケイトの突撃インタビュー―――

                               

 

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 ―――ケイトの突撃インタビュー―――

                               

 此処は入港してきた船の乗員が、飲食店やビジネスフロアに行く為には必ず通らなければならない場所だ。また地球の歴史・文化が展示されている場所でもある。

 ケイトは早速、近くにいた“獣の眷属”に話し掛けた。

 

『すいません。私、地球のアースレポート・コーポレーションという会社のケイトと言います。少しお話しを伺いたいのですが、宜しいでしょうか?』

 

 マイクを向けた相手は、ピンク髪のロングヘアにケモミミ+ボディスーツという如何にもSFな服装をした女性だった。

 

『アースレポート? ………ああ、あの会社の。はい。何ですか?』

 

 アースレポート・コーポレーションに反応した? 社が宇宙人さん向けに構築したデータベース、地球の地域ごとの一般常識や文化といったもの見てくれた、という事だろうか?

 内心でそんな事を思いながら質問する。

 

『最近ステーションを訪れる方々から、カラードの噂話がよく流れてくるのですが、何か御存じありませんか?』

『噂話ですか? うーん………あ、もしかしてアレかな?』

 

 ピンク髪の女性は少しだけ考えこんだ後、気さくに答えてくれた。

 どうやら、良い人を引き当てられたらしい。

                               

 ―――通りすがりの“獣の眷属”モブA―――

                               

 

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 ―――通りすがりの“獣の眷属”モブA―――

                               

『開拓船団の人が助けられたっていうお話しはありましたね』

『内容を詳しく伺っても良いですか?』

『良いですよ。とは言っても、私もそんなに知ってる訳じゃないんです。開拓船団の人達が、近隣惑星のローカルネットに映像をアップしてるってだけですから』

『映像ですか?』

 

 ケイトは思った。

 宇宙(そら)の戦闘距離は長い。光学映像で詳細に観測出来るようなものではない筈だが?

 するとピンク髪の女性は空間ウインドウを展開して、端末にダウンロードしていた映像を見せてくれた。

 まず映像の冒頭にテロップが入る。

 

「本映像は船団のセンサーで得た情報を元にした合成映像です。詳細を知りたい方は、公式情報を参照して下さい」

 

 そうして始まった映像は、束・晶・スノーが会談で濁していた部分がハッキリと再生されていた。

 アリコーンが射線に割り込んで盾となったこと。軽空母のワープ演算をロープデスマッチで破綻させて逃走を防いだこと。極短時間、一瞬の隙を逃さずに飽和攻撃を仕掛けて軽空母のシールドを破り、無防備な船体に反応兵器と思われる攻撃をブチ込んだこと。

 再生が終わった後、“獣の眷属”の女性は言った。

 

『何度見ても凄いですけど、本当なのかな? そっちの政府は何か言ってるんですか?』

『いえ、特になにも。こっちの公式発表はコレですから』

 

 今度はケイトがビジフォンで空間ウインドウを展開して、束・晶・スノーの会談を見せた。

 因みにビジフォンとはスマートフォンの次世代機と言われる物で、単純な電話としての機能は勿論、空間ウインドウを展開してのテレビ電話、インターネット接続、メール、情報検索、電子決済など、スマートフォンで行える事は全て行える物だ。

 

『へぇ。という事は、本当なのかな? 嘘かもしれないけど、助けられたのは本当っぽいし。――――――あ、もう行かないと。じゃあねぇ』

 

 手をヒラヒラと振りながら、ピンク髪の女性は行ってしまった。

 ケイトはお礼を言って、次の者を探し始める。

 こうして結構な人数に話を聞いてみたところ、この件について知っていた者達の反応は概ね同じようなものであった。

 

 

 

 ◇

 

 

 

 次の日。

 ケイトはプラチナ・ドロップスに派遣されていた。

 今回は観光客に話を聞いてみようという企画だ。

                               

 ―――プラチナ・ドロップスで取材中のケイト―――

                               

 

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 ―――プラチナ・ドロップスで取材中のケイト―――

                               

『テレビの前の皆さん。こんにちは。今日はプラチナ・ドロップスで、宇宙(そら)で流れている噂話について聞いてみたいと思います。積み替え用ステーションでは知っている人がそれなりにいましたが、観光客の場合はどうでしょうか? では、今日もイケイケゴーゴーで行ってみたいと思います』

 

 スタイルに自信が無いと着れない水着だが、ケイトなら全く問題無かった。むしろ似合い過ぎてて視聴者から「もっと水着企画を!!」という声が熱烈に届いていたが、残念な事に極まれにしか企画されなかった。

 

 ―――閑話休題。

 

 少し浜辺を歩くと、“獣の眷属”の女性がいた。これ幸い(?)と声をかけてみる。

 

『すいません。私、地球のアースレポート・コーポレーションという会社のケイトと言います。少しお話しを伺いたいのですが、宜しいでしょうか?』

 

 マイクを向けた相手は、銀髪ショートヘアーに青い目という女性だった。色々と破壊力のあるボディラインで、なにが、とは言わないが、若干ケイトより大きい。

                               

 ―――通りすがりの“獣の眷属”モブB―――

                               

 

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 ―――通りすがりの“獣の眷属”モブB―――

                               

『地球? アースレポート? ああ、あの会社の。なんでしょうか?』

 

 昨日もそうだったが、今日もアースレポート・コーポレーションに反応した。これは社の知名度が、着実に上がっているという事だろう。良い事だ。

 内心でそんな事を思いながら質問する。

 

『最近プラチナ・ドロップスを訪れる方々から、カラードの噂話がよく流れてくるのですが、何か御存じありませんか?』

 

 女性は少しだけ考える仕草を見せ、何かを思い出したようだった。

 

『確かニュースで王家の公式発表をやってて、その中にカラードっていう言葉あった気がします。もしかしたらそれかもしれませんが、すいません。詳しい事は』

『なるほど。ありがとうございます』

 

 何か知っているという訳では無さそうだ。

 ケイトはお礼を言ってその場を離れようとしたが、その前に逆に質問された。

 

『因みに、どんなお話なんですか?』

『カラードが“獣の眷属”の開拓船団を助けたっていうお話しです』

『助けた? あ、もしかして、この映像のお話ですか?』

 

 水着美女がブレスレットを操作すると空間ウインドウが開かれ、昨日のインタビューの時と同じ映像が再生された。

 

『そうです。このお話です』

『映像見ましたけど、凄いですね。本当なんですか?』

 

 ケイトは昨日と同じように、束・晶・スノーの会談映像を見せた。

 

『スノー大使がここまでハッキリ言われるという事は、多分本当なんですね』

 

 スノー大使に対して敬意を抱いているような口調だったので、尋ねてみた。

 

『スノー大使は、そちらでは有名なのですか?』

『他ではどうか知りませんが、私が住んでいる星では有名です。公明正大な方ですし、スターゲート送電を持ってきてくれた人ですから。あれのお陰で色々な整備が早く進んで、こうして旅行にも来れるくらいです』*2

 

 意外なところで意外な話が出てきた。

 束博士がスノー大使にスターゲート送電の中継衛星を送ったのは、もう3年近くも前だ。

 それが他の文明で、しっかりと役に立っている。

 思わず嬉しくなってしまったケイトは、今日の企画そっちのけで中継衛星の事を聞き始めてしまった。

 すると、色々と答えてくれた。

 故障知らずで安定稼働を続けていること。入植初期のエネルギーインフラとして大変に役立っていたこと。初期拠点のインフラが完成した後は、同じ惑星内の別の開発地域にエネルギーを供給することで、スムーズな開発が行えていること。安定かつ莫大なエネルギー供給のお陰で、当初の予想よりも発展が早いこと。

 一般人なので詳細な情報という訳ではないが、逆に一般人目線でも恩恵を感じられる位に役立っている、という事が分かる話であった。

 なお随分長い時間話していたので、時折豊かな果実がプルンと揺れて、地球の紳士諸君の目を釘付けにしていたという。

 こうして横道に逸れつつも企画が進められた結果、映像情報は―――少なくともインタビューをした範囲では―――“獣の眷属”の一般人にも認知されている、という事が分かったのだった。

 因みに余談ではあるが、インタビューした人達がアースレポートに反応したのは、ケイトが予想したのとは違う理由だった。いや、正確に言えば半分と言うべきか。

 アースレポート・コーポレーションが提供しているデータベースは、当然の事ながらアースレポート・コーポレーションのホームページにある。そしてホームページなので、当然他のページへのリンクが張られている。その中に、こんな見出しのページがあったのだ。

 

 ―――ケイト・マークソンのやらかしアーカイブ集!!

 

 後日、真実を知ったケイトはその場で真っ白になっていたという。

 

 

 

 第252話に続く

 

 

 

 

*1
第246話にて。

*2
第209話及び番外編第12話にて。




ミッション後のアレコレ終了。
カラードはまた1つ成果を積み重ねる事が出来ました。
そしてケイトさん。リポーターという立場なので使い易いこと使い易いこと。
色々なシーンに違和感なく登場させられる。
アーカイブについては………ドンマイ。
あと、ケモミミ美女!!
地球の野郎共は画面の前に釘付けになっていたでしょう。
強化処置希望者が増えると良いなぁ。
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