インフィニット・ストラトス ~迷い込んだイレギュラー~   作:S-MIST

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タイトル通りメイド姉妹のお話です。


番外編第16話 とある日のメイド姉妹(時系列:第252話の後)(イラスト有り)

  

 セシリア・オルコット。

 今や統一政府とも言えるカラードの副社長にして、オルコット大公国の君主。

 そんな彼女には、全幅の信頼を置くメイドが2人いる。

 1人はチェルシー・ブランケット。

 1人はエクシア・ブランケット。

 姓が示す通り姉妹で、姉がチェルシー、妹がエクシアだ。

 主な仕事はオルコット邸を、セシリアが快適に過ごせるように維持すること。

 メイドの仕事としては、極々普通と言えるだろう。

 だが最近、ちょっと面倒な仕事が1つ増えた。

 発端はイギリス国王がセシリアに、名誉を送りたいと言い出した事だ。この結果として大公という称号が送られ、イギリス最西端のランズ・エンド(Land's End)から半径10キロが、オルコット大公国となった*1

 普通なら大変な名誉と思い、イギリス国王に一層の忠誠を誓うところだろう。

 しかしカラードの副社長として、地球内部の全権を任されている今の彼女は違っていた。貰ったところで扱いに困る。自分の領土だけを見ていられる立場ではないのだ。またセシリアは過去の一件*2から、イギリス(母国)を余り信用していなかった。無論、イギリスだけが汚い訳ではない。他の国が清廉潔白と思っている訳でもない。あの一件を起こした者達が既に追われ、関係改善を考える者が多数派になっている事も知っている。だが心に刺さった棘というのは、簡単に抜けるものではないのだ。カラード副社長として必要なら関わるが、そうでないなら自発的に関わりたいとは思わなくなっていた。

 だから国王相手に、こんな言葉が出た。

 

「――――――簡単に言いますと、領地を貰ったところで私は管理する気などありません。なので、そちらが管理して下さい。その発展具合をもって、私への名誉とさせて頂きます。ただ、まぁ、一から行うのは大変でしょうから、領地が確定したならレクテナ施設を1つ設置します。私が行うのは、それだけです。後は全て、そちらでどうぞ」

 

 これに加えて、以下8つの内容を文章化させて遵守する事を確約させた。

 

 1.イギリス王室はオルコット大公国領の管理人であると明言すること。

 2.イギリス王室はオルコット大公国領でノブリス・オブリージュを実践すること。

 3.イギリス王室はオルコット大公国領に人々が暮らしやすく学びやすい環境をつくること。

 4.イギリス王室はオルコット大公国領で犯罪の抑止に努めること。

 5.オルコット大公国領管理の最終責任はイギリス王室にあること。

 6.イギリス王室はオルコット大公国領管理の報酬として、領内の税収の5%を得る。

 7.税収の95%は、大公国領内に還元して発展に努めること。

 8.オルコット大公国領の君主は、領内で得られた収益を受け取らない。

 

 これを切っ掛けとしてイギリス王家は、オルコット大公国のグランドデザインを行い始めた。が、いきなり問題が起きた。オルコット大公国というどう見ても金の成る木に、国内外の者達が一斉に群がり始めたのだ。

 当たり前と言えば当たり前だろう。

 何せランズ・エンド(Land's End)という何も無い場所に、レクテナ施設という強力なエネルギーインフラがポツンとあるだけ。観光地の1つではあるが、開発の邪魔になるようなものは何も無い。しかも事前の取り決めで、ここの発展具合がイギリス王家からセシリアに贈られる名誉、という扱いなのだ。

投資額が青天井なのは容易に予想出来る。

 そして金が動くなら企業が動く。青天井なら、動く企業は世界の名だたるコングロマリット(巨大複合企業)だ。様々な開発案がイギリス王家に出され、どれも検討に値する素晴らしい案だったが、王家の者達は逆に困ってしまった。

 どれがセシリア大公の意向に最も沿うものか分からないのだ。

 レクテナ施設を置く以外は何もしないと言っている以上、好き勝手に開発し始めても良いのかもしれない。しかし万一開発が始まってから、セシリアの意向に沿わない案だった、なんて話が出てきたら色々とダメージが大きい。リスク管理の一環として、意向確認はしておきたい。だが何度連絡しても返答は、先の言葉通りというものだった。

 このままでは埒が明かない。そこで白羽の矢が立ったのが、セシリアに仕えるメイド姉妹だった。彼女らなら、恐らくセシリアの意向、統治における好み、そう言ったものを理解しているはず。立場的にもメイドなので、カラード上層部に意向確認するよりも幾分かやり易い。

 こんな考えからイギリス王家は、週1回30分だけという時間制限付きで、メイド姉妹とコンタクトする時間を確保したのだった。

 因みに時間制限を設けたのは、長い時間を確保しようとして警戒されるよりも、時間制限付きにしても回数を重ねられる方が、最終的なメリットは大きいという考えだ。相手に対する配慮が伺えるので、もしかしたら執事あたりから出た案かもしれない。王族から出た考えではあるまい。

 尤もここまでなら、メイド姉妹の面倒な仕事にはならなかっただろう。

 週1回30分適当に話を聞くだけだからだ。

 しかしちょっと小生意気なエクシアが、王家からデザイン案を持って来た者に言ってしまったのだ。

 

『あら、王族の方ではないのですか? 管理人として誰よりも大公国領の事を理解していなければならない王族が、その説明を他人に任せるのですね』

 

 無論、案を持ってきた者にそんなつもりは無かっただろう。しかしオルコット公国領管理の最終責任が王家にあると明文化されている以上、全くの間違いという訳でもない。技術的な事は技術屋に任せれば良いが、グランドデザインや開発の方向性に関しては、トップが明確なビジョンを持っていなければ迷走してしまう。いや、迷走では済まないだろう。コングロマリット(巨大複合企業)によって、利権の巣窟と化す事は想像に難くない。

 このため2回目以降は王子が説明するようになったのだが、これがメイド姉妹の苦労の始まりだった。

 尊敬の念など欠片も無いが、流石に王子が出てきたなら、相応に真面目に対応しなければならない。相手の言っている事を正しく理解して、セシリアの意に沿わない内容にはNOを突きつけないといけない。良いか悪いか判断出来ないなら、疑問点として確認しないといけない。その為には知識が必要。

 という訳で2人は日々メイドの仕事をこなしつつ、都市開発や運営に関する知識の習得という、完全に専門外で今まで触れた事もない分野の知識を習得しなければならなくなった。

 幸い諸事情から2人は専用機持ちなので、思考加速で基礎知識を詰め込む事は出来る。が、知識の使い方には経験が必要なのだ。

 このため2人は対面やオンライン等の方法で、セシリア、シャルロット、或いは宇宙開発部門で都市建造に関わる者達から、毎日少しずつ知識の使い方を教わり始めたのだった。

                               

 ―――お勉強中のメイド姉妹―――

                               

 チェルシー

 

【挿絵表示】

 

 エクシア

 

【挿絵表示】

 

                               

 ―――お勉強中のメイド姉妹―――

                               

「お姉ちゃん。訳分かんない」

「私もよ。でもセシリア様のメイドとして、恥ずかしい姿は見せられないもの。やるしかないわ」

「お姉ちゃんに任せちゃだめ?」

「放りだしたら、旦那様に言いつけるからね。エクシアは全部放り出して、私にぜーーーーーーーんぶ押し付けましたって」

「ちょっと。そこで何で旦那様なの? ここは普通、セシリア様じゃないの?」

「あなた、旦那様大好きでしょ。サボリ魔と思われるくらいなら、頑張るわよね?」

 

 疑問形だが、確信に満ちた問いであった。

 

「ふーんだ。じゃあ、お姉ちゃんなんてけちょんけちょんに出来るくらい頑張っちゃうんだから」

「やってみなさい。私だって頑張るんだから」

 

 こうして2人は全く専門外の事を、互いに教え合い首をひねりちょっと現実逃避しつつ、一歩ずつ学び始めたのだった。

 尤もISの思考加速という反則技のお陰で、常人の一歩ずつよりも相当に早い一歩ずつであったが。

 

 

 

 ◇

 

 

 

 学習の成果は着実に現れ始めていた。

 元々の基礎学力がそれなりにあったというのもあるが、意外とメイドの考え方に通じるところがあったのだ。それは「他人が快適過ごせるように配慮すること」「その為の下準備を考えておくこと」「考えていた案が駄目だった時の予備案を考えておくこと」の3つ。無論規模はまるで違うが、これらを基本として考えていくと、思いのほか色々なものが見えてくるようになったのだ。

 だから説明を聞いた時に、こんな質問も出てくる。

 チェルシーと第一王子が、オンラインで話している時のことだ。

 

『――――――今の内容ですと景観ばかりが優先されて、実際に住んだ時の混雑状況、買い物、ゴミ出し、そういった生活動線への考えが甘いのではないでしょうか?』

『これは原案ですから、そういうものはこれから練り込んでいきます』

 

 チェルシーの言葉に、王子が答えた。少し不満そうに見えるあたり、王子である自分が何故、とでも思っているのだろうか?

 

『分かっていたのなら、持ってくる時点で練り込んでおいて下さい。お互い、時間のある身ではないでしょう』

 

 王子はイラッとした。メイド風情が!!

 チェルシーは思った。外見は好青年風ですが、メッキが剥がれ易い。感情が顔に出ている。これが王子で将来王室は大丈夫でしょうか?

 

『メイドと違って、色々考える事が多い身なので』

『では王家の方に、第一王子は忙しくて大公国の事など考えられないと言っていた、と伝えておきますね。これで次からは、貴方が説明に寄こされる事は無いでしょう。良かったですね』

『待て。何もそこまで忙しいとは言っていない』

『そうなのですか? でも、今仰いましたよね。メイドと違って色々考える事が多い身だと』

『言葉の綾だ』

『そうですか。言葉の綾ですか。ですがこちらとしては、オルコット大公国の事をちゃんと考えてくれる人に説明して欲しいと思います。内心でどう思おうと御自由ですが、少なくとも言葉遣いには気をつけて欲しいと思います。なので今言った通り、王家には伝えさせて貰います。――――――では、本日はお疲れ様でした』

 

 チェルシーはメイドらしい穏やかな笑みを浮かべて、通信を切ったのだった。

 

 

 

 ◇

 

 

 

 別の日。

 今度はエクシアが説明を受けていた。

 相手は第二王子。聞こえてくる噂はチャラ男。

 

『――――――という感じなんだけど、エクシアちゃん的にはどうかな? これなら住んだ人たちも生活し易いと思うんだ』

 

 言葉からして軽い。が、お姉ちゃんがぶった切った第一王子よりは好感が持てた。話している内容自体は的を得ているのだ。ちゃんと大公国の事を考えている。しかし王子という立場にある者が、一般人の生活事情の詳細を知っているとは思えない。だが彼は自分の言葉で説明していた。ということは、部下や友人に聞いたのだろうか? 意外とマメ。或いは意外と努力家。エクシアはそんな印象を受けたのだった。

 そしてエクシアの予想は概ね当たっていた。この第二王子、美人の前では良い恰好をしたいだけという健全な意味での尻軽男なのだ。馬鹿兄貴が失敗してくれたので、これ幸いと立候補。友人部下家庭教師使えるコネクションは全部使って美人メイド姉妹の前で良い恰好をするために、寝る間も惜しんで必要な知識を詰め込んだお馬鹿である。前日はしっかり休んでお肌ツヤツヤにして、ナイスガイに見せるのも忘れないおバカである。

 

『悪くは無いと思いますが、ランズ・エンド(Land's End)周辺は風が強くて天気が変わり易いです。その辺りはどう考えていますか』

 

 第二王子は数瞬考えて、天気に関する情報収集がスッポリと抜けていた事に気付いた。

 

『………すっかり忘れてた。次までには纏めてくるから、ごめん。ホンットこのとーり。ついでに、今思いつく疑問とか確認したいところとかも教えてくれないかな。そしたら二度手間にならないでしょ』

 

 転んでもタダでは起きないおバカである。

 エクシアは溜息をついて答えてあげた。

 

『じゃあ幾つか言いますから、ちゃんとメモしておいて下さい』

『勿論』

 

 準備万端とばかりにペンとメモを見せるおバカ(第二王子)

 意地悪してちょっと早口で言ってあげると、『待って。早いからもう一回』とストップをかけて聞き直してくる。王子様っぽくない。だが、ちゃんとやろうという意思は伝わってくる。

 こうしておバカ(第二王子)は必死にメモした内容を王家に持ち帰り、また必死に検討するのだった。

 全ては美人の前で良い恰好をする為に!!

 ブレないおバカ(第二王子)である。

 

 

 

 ◇

 

 

 

 数週間が過ぎた頃。

 オルコット大公国の開発方針が決まった。国土がランズ・エンド(Land's End)を中心として半径10キロしかないため、地下都市を基本として地下に造れない物を地上に造る、というものだ。加えて言えばグレートブリテン島最西端であるため、西側に大地は無い。海だ。国として必要な施設を全て地上に建造したら、あっという間に使い切ってしまう。

 だが地下都市なら階層構造にする事で、ある程度の自由度を確保できる。災害にも強くできる。開発の初期コストは高くなってしまうが、この開発においてコスト制限など無いに等しい。

 次に考えられたのが、開発する為の人や物の流れだ。必要なのは港と空港と街道。

 港についてはランズ・エンド(Land's End)周辺に直接造る案も検討されたが、外洋に直接面しているため波が高い上に、周辺海域の水深が深いため防波堤を非常に造り辛いという問題から、大公国領近郊にあるペンザンスという港町を大規模再開発して使う事となった。

 空港については大公国領内にランズ・エンド空港という小型機用の空港が元々存在していたため、こちらを大規模拡張して使う事となった。

 街道も予想される巨大な物流量に耐えるため、大規模整備が行われる事となった。

 これらは順番に行われるのではない。全て同時進行である。単独でも巨額の資金が動く大規模プロジェクトが、相互に影響しあって同時進行していく規模感は、国家事業という言葉が相応しいだろう。

 そんな状況下のとある日。

 メイド姉妹はロンドン・ヒースロー空港にいた。オルコット大公国領やペンザンス視察の為だ。チャーター機から出てタラップ最上段から下を見れば、王室メンバーや政府のお偉いさんがズラリと並んでいる。

 

「ねぇお姉ちゃん。なんでこんなに人がいるのかな?」

「さぁ?」

 

 来ている人達の思惑は、分からないでもない。でも真面目に考えると面倒なので、チェルシーは言葉を濁した。恐らく聞いたエクシアも同じだろう。

 メイド服の2人がタラップから降りると、早速と第一王子と第二王子が近づいてきた。

 対面で直接会うのは初めてなので改めて自己紹介されるが、これまで行ってきたオンラインのやり取りで、好感度には随分と差が出来ていた。

 第一王子はプライドが高くて傲慢。優秀と言える程度の能力はあるが、未だに言葉の端々に傲慢な本性が好けて見える。あと、バレていないと思っているのだろうか? 偶に視線が厭らしい。

 第二王子は愛嬌のあるおバカ。能力は並でチャラ男だが、オルコット大公国に対する姿勢は良い。そしてチャラ男とは言っても、女性を食い物にする類の下衆ではなかった。旦那様の部下(カラード秘書課)が調べてくれた情報によれば、行動原理が非常に単純なのだ。美人に良い恰好をしたい。仲良くしたい。これだけ。ただ一点だけ評価して良いのは、良い恰好をするイコール格好良い言葉を吐くではなく、結果という形にする為に友人部下家庭教師使えるコネクションは全部使って、必要な情報をかき集めて検討して形にしてくるところ。言葉尻は軽いが、これは評価しても良いところだった。

 なのでチェルシーとエクシアは、第二王子をオルコット大公国の管理人に指名しようと考えていた。セシリア様が「何もしない」と言っている以上、指名も明文化されたルールではないが、イギリス王家にこちらの希望を跳ね除ける気概など無いだろう。

 こうして始まった視察は、第三者から見れば少しだけ奇妙に見えたかもしれない。

 集団の中心にいるのが、2人のメイドなのだ。

 第一王子や第二王子、或いはコングロマリット(巨大複合企業)最高経営責任者(CEO)が横に並び、アレコレ説明しながら歩いている。

 ペンザンスの再開発計画、ランズ・エンド(Land's End)空港の拡張計画、地下都市計画等々。かなり専門的な用語や説明もあったが、思考加速で必要な知識を詰め込んでいたメイド姉妹は、最高経営責任者(CEO)相手にも堂々と言葉を返して、様々な確認や調整を行っていた。

 これに今までメイド姉妹と話した事のない企業側の面々は、少なくない衝撃を受けていた。極々当然の心理として、如何にセシリア・オルコットのメイドと言えども所詮は只のメイドでしかない。多少難しい話をすれば、幾らでも煙に巻くことが出来ると思っていたからだ。しかし、この堂々とした対応はどうだ? 無論、粗探しをすれば突っ込めるだろう。だが今は視察という友好的な意見交換をする場で、相手に十分に話せるだけの知識的土台がある。となれば企業の面々が考えるのは1つだ。

 当たり障りのない話が、徐々に突っ込んだ話になっていく。

 ここで、第一王子と第二王子の差が如実に出た。

 第一王子は優秀と言える程度の能力は持っているが、オルコット大公国が地下都市に求める条件、港町の再開発に伴う問題点、空港拡張に伴う問題点、街道整備に伴う問題点、これらの相互影響を加味した上でデザイン案の話をするには、少しばかり能力が足りなかった。言葉を濁すシーンが多かったのだ。

 だが第二王子は違っていた。美人に良い恰好をしたいという不純な動機だが、それだけに寝る間も惜しんで知識を詰め込み、頼れるコネクションは全部使って貪欲に情報を集め続けた結果が今出ていた。

 メイド姉妹は元よりコングロマリット(巨大複合企業)最高経営責任者(CEO)達を相手に、堂々と問題提起、改善案、修正した場合のメリット・デメリット等を話せているのだ。

 また純粋なコミュニケーション技術でも差が出ていた。

 視察先の一般人と話す時の事だ。第一王子が王族故の硬い口調であるのに対して、第二王子は王族らしからぬ軽快なトークで場を和ませていく。威厳など遠いお空にポイッと投げ捨てたような軽さだが、話した一般人はいつの間にか色々と喋っていた。

 その光景を見ていたメイド姉妹は、コアネットワークで話していた。

 

(決まりじゃない)

(決まりね)

 

 セシリア様がオルコット大公国の管理に口を出す事は無い。だが仕える者の当然の心情として、オルコット大公国の管理人が無能など冗談ではない。そして第二王子は優秀ではないかもしれないが、意見を広く聞くという謙虚な姿勢は持ち合わせている。動機が若干(?)不純だが、他人の意見に耳を傾けられるのは間違いない。

 後はいつ伝えるかだが、幸いにして第一王子と第二王子から連名でパーティのお誘いがある。

 第一王子にとっては残念だろうが、チャンスは平等にあったのだ。

 メイド姉妹はこんな事を思いながら、視察を続けたのだった。

 

 

 

 ◇

 

 

 

 数日に渡る視察が終わった後のこと。

 メイド姉妹が帰る前日に、ささやかな宴が開かれていた。

 尤も規模として小さいというだけで、場所はバッキンガム宮殿。参加者は王室メンバーに加え、視察に同行していたコングロマリット(巨大複合企業)最高経営責任者(CEO)達だ。

 揃って会場に入ってきた姉妹を見て、参加者達が感嘆の溜息をもらす。

                               

 ―――メイド姉妹ドレスコード―――

                               

 チェルシー

 

【挿絵表示】

 

 エクシア

 

【挿絵表示】

 

                               

 ―――メイド姉妹ドレスコード―――

                               

「おおぉ」

「美しいとは思っていたが、あれ程とは………」

 

 服装自体はマナー通りの装いだ。決して主催者である王族より、華美という訳はない。しかし、着ている人間のスペックが違い過ぎた。会場中の視線が吸い寄せられていく。同時にこの場にいる者全てが2人を欲しいと思ったが、無理という事も分かっていた。彼女らはセシリア・オルコットのメイド。カラード副社長が全幅の信頼を置く者であり、カラードの社長(薙原晶)に近い人物でもある。なにせカラードの社長が出席するパーティというのは少ないが、その数少ないパーティに同席を許されているメイドなのだ*3。あの社長が、手放す筈もない。

 そしてこれほどの視線が集中する中でも、2人は自然体だった。緊張からくる硬さなど微塵もない。一挙手一投足が自然で、ただのメイドとは思えない程に洗練された所作であった。

 これでは、どちらが王族か分からない。

 自然とメイド姉妹の周囲には人が集まり、様々な話がされていく。話す者達も、彼女らがただのメイドという事は分かっている。だが視察中に見せた確かな見識は、主であるセシリア、更にはその上にいるカラード社長にまで話を伝えられるものレベルのものだと、この場にいる者達は分かったのだ。

 

「チェルシー様。ペンザンスの再開発についてですが――――――」

「エクシア様。ランズ・エンド(Land's End)空港の拡張についてですが――――――」

 

 ただのメイド相手に、この場にいる者達は自然と様付けで呼ぶようになっていた。

 尤も2人は、こういう場で丁寧に接される意味を良く分かっていた。自分達が偉くなった訳ではない。偉いのはセシリア様であり、旦那様なのだ。背後に2人の姿を見るからこそ、この場にいる人達は丁寧に接してくる。

 そうして暫しの時間が経った頃、チェルシーは世間話でもするかのように第二王子に言った。周囲に人がいる中で。

 

「大公国の管理人は、貴方のような人がなってくれればと思います。色々な事、無理難題と思われるような事もお話しましたが、真面目に向き合ってくれましたから」

「え?」

 

 第二王子は一瞬キョトンとした顔をした後、自身を指差して言った。

 

「わたしで、良いのですか?」

「はい」

「えっと、わたし自分で言うのもアレですが、軽いですよ」

「そうですね。言葉は軽いです。ですが貴方はこちらの話に真摯に耳を傾け、情報を集めて、検討して、ちゃんとした案を持ってきた。それは正しく評価されるべきだと思います」

 

 これに近くにいた第一王子が割って入ってきた。

 

「そういう意味なら、私にだって管理人の資格がある筈です」

 

 これにはエクシアが答えた。

 

「あら、この場で全部言わなければ分かりませんか?

「なに?」

「視察中、私達は貴方の言葉をずっと聞いていました。でも貴方の言葉はいつも抽象的で、何一つ自分の言葉で語っていなかったでしょう。もっと言ってしまえば、いつでも他人の責任に出来る言葉でしか喋っていない。セシリア様のお言葉、お忘れですか? オルコット大公国の管理人はイギリス王室であり、最終責任もイギリス王室です。責任を他者のせいに出来ると思っているような輩に、セシリア様の国をお任せしたくはありません」

 

 チェルシーが言葉を引き継いだ。

 

「勿論、これはただの希望でしかありません。明文化されたルールではありませんから。ですが私達は仕える主に、どちらが相応しいか、というお話はしようと思っています」

 

 決定的な一言であった。

 

「こ、この――――――」

 

 第一王子の表情が歪む。メイド如きが。辛うじて言葉を呑み込む。言ってしまえば終わりだと分かったからだ。しかし踏み止まれただけであって、第一王子の状況が良くなった訳ではない。取り巻き達が静かに、だが確実に少しずつ離れ始める。

 そんな中で第二王子は、空気を読まないかのように言った。

 

「兄貴。ランズ・エンド(Land's End)の西側の海域にさ、完全潜水型の養殖場と洋上風力発電を一体化させたマルチプラットフォームを造る計画があっただろ。それ、任せて良いかな」

 

 イギリス西側の海域は栄養塩が豊富で複雑な潮流が交わるため、多彩な魚種が集まる好漁場だが、外洋に面している為に波や潮流が非常に厳しく、漁獲量が安定しないという問題があった。

 そこで考えられたのが、完全潜水型の養殖場と洋上風力発電を一体化させたマルチプラットフォームだ。海面の波や潮流が厳しくても、水深が深くなれば穏やかで、安定的な運用が可能という目算があったからだ。また養殖場で使う各種機器の電力は、洋上発電で賄うという考えだ。一般的に知られているプロペラ型だと暴風で破損の可能性があるが、日本企業が開発した垂直軸型マグナス式(円柱回転型)風力発電機*4なら、破損の可能性はかなり低い。

 何をどう考えてもイギリスの為になるこの計画を、第一王子に任せるというのだ。自身の手柄にする事も出来たのに。アッサリと。

 後にこの一手は、名君の一手と言われる。

 王族同士の決定的な仲違いを防ぎ、かつイギリスの食糧事情にも多大な貢献をする事になるからだ。加えて、王家の直接収入という点も無視出来なかった。何故ならセシリアとの取り決めで、オルコット大公国の領内の税収の5%は王家の直接収入になるのだ。つまり養殖場が完全稼働して魚介類を販売出来るようになった場合、その収入の5%が持続的に王家に入る事になる。無論運用費用等で出費はあるが、十二分に黒字を見込めるだろう。

 更に、この言葉である。

 

「管理人が、誰に、何を任せようと、裁量の範囲内でしょ」

 

 メイド姉妹は互いを見て苦笑し、チェルシーがこう答えた。

 

「主には、とても見どころがある、と併せて伝えさせて頂きます」

「流石。美人は心も広い」

「家族思いなのですね」

「兄貴は器用そうに見えるけど、ムッツリで不器用なの。だから不愉快な視線は許してあげてほしいな」

「それは許しません」

「御二人みたいな美人に、何も思わない男なんていないって」

「心の中でどう思おうと勝手ですが、せめて隠して下さい」

「えっ、兄貴、隠してなかったの?」

 

 ここで第一王子に話を振る第二王子。

 

「ば、馬鹿を言うな。そんなこと――――――」

 

 ある訳が無い、と言おうとしたところで第二王子が言葉を被せた。

 

「兄貴。もうバレてるんだからさ。こういう時は、余りの美しさにジロジロ見てしまいました。ごめんなさい。って言った方が許してくれると思うよ」

「だから、見て――――――」

 

 第二王子が、もう一回言葉を被せた。

 

「チャラ男の俺にバレるくらいだよ。数多の男に見られている彼女達が気付かないとでも?」

 

 第一王子の心情はさておき、第二王子はこうやって暫し第一王子を弄り続けた。

 これによって第一王子は決定的な破滅から逃れ、なし崩し的にやり直しのチャンスを得たのだった。

 活かせるかどうかは、本人次第であるが。

 

 

 

 ◇

 

 

 

 視察から戻ったメイド姉妹は、事の顛末をセシリアに報告していた。

 場所は屋敷のリビング。

 2人はいつものメイド服で、主は蒼を基調として白がアクセントのキャミソールワンピースだ。

 

「――――――なるほど。分かりました。2人とも。ありがとう」

 

 紅茶を一口飲んだ主に、チェルシーが尋ねた。

 

「ところでセシリア様。なし崩し的に私達が窓口にみたいになっていますが、このままで良いんでしょうか?」

「構わないわ。そして2人には、このまま学んで欲しいの」

「何をですか?」

 

 エクシアが尋ねた。

 

「都市を動かすという事が、どういう事なのか。もしかしたら2人には必要無い学習になるかもしれないけど、一応理由は話しておくわね。――――――カラードはこれから、もっと大きくなるわ。そして宇宙(そら)の開発が進めば、プラチナ・ドロップスのようなコロニーが増えたり、テラフォーミングした惑星に都市が造られたりもするでしょう。その時に私が最も信頼を置くメイドとして、2人を連れて視察に行くかもしれない。そんな時に都市の事が何も分かりませんでは、貴女達が恥ずかしい思いをしてしまうかもしれない。かもしれないばかりだけど、全く有り得ない訳でもないと思うの。だから今の内に、少しずつでも学んで欲しいと思って」

 

 すると2人は姿勢を正して答えた。

 

「そういう事でしたら、喜んで」

「はい。頑張ります。――――――あ、でも。旦那様をお世話する時間は減らしたくないです」

 

 エクシアの言葉に、セシリアは苦笑しながら言った。

 

「そこは私に仕える時間を減らしたくない、と言って欲しいのだけど」

「旦那様に仕えるイコール、セシリア様に仕えるなので問題無いと思います」

 

 とてもイイ笑顔で堂々と言うエクシア。

 セシリアがチェルシーを見ると、チェルシーはスーーーッと視線を横に逸らした。

 

「私の大事な大事な2人が、取られてしまいましたわ。後で文句を言いに行きませんと。2人も、一緒に行きますわよ」

 

 連れて行く理由など、1つしかない。

 今日も平和なオルコット家であった。

 ちゃんちゃん。

                               

 ―――オマケ:紅茶を飲むセシリア―――

                               

 

【挿絵表示】

 

                               

 ―――オマケ:紅茶を飲むセシリア―――

                               

 

 

 

*1
第244話にて。IS学園卒業4年目の年始~1月

*2
第125話の一件

*3
第151話にて「姉共々イギリス関連のパーティでは晶の傍らに控える事が多くなっていった」との記述あり。

*4
実在する発電方法です。




メイド姉妹の事が書きたくて見切り発車したら、いつの間にかオルコット大公国のデザイン案の話になっていました。
ブーメランが直撃したエクシアちゃん可愛い。
そして最後にちょっとだけ出てきたセッシーちゃん。
昔は単なるプライド高いお嬢様だったのに、今ではメイドの事までしっかり気に掛ける淑女に育ちました。
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