インフィニット・ストラトス ~迷い込んだイレギュラー~   作:S-MIST

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しばらーーーーく放置していた(リャン)白麗(パイリー)さんのお話。
クーデターで国家主席となった彼女の今は………。


番外編第17話 とある日の売国皇帝(時系列:第252話の後)(イラスト有り)

  

 (リャン)白麗(パイリー)

 今の中国の国家主席。20台中盤程度の若い女で、外見だけを見れば旧特権階級の爺どもが好きそうな良い外見をしている。

 整った鼻梁が形作る凛とした容姿。艶やかな黒髪をアップにして見えるうなじ。均整の取れた四肢と起伏に富んだ豊かなボディライン。

 誰が見ても良い女で、以前は中国軍所属のISパイロットで専用機持ちだった。軍服という体型がある程度画一化される服を着て、なお色香が滲み出ていた事もあり、お偉方の身辺警護をしていた事もあった。――――――が、この女の背景は黒である。黒も黒。真っ黒である。本当の所属は亡国機業で、ISを使うエージェントだったのだ。真面目にお偉方の身辺警護など、する筈が無いだろう。

 本当の目的はクーデター。地球文明史上最悪と言われるタイミングで行われた、絶対天敵(イマージュ・オリジス)の第二次来襲直前に起きたクーデターの中心人物だ。命令系統上の中心人物は別にいたが、そそのかして実行させたという意味で、間違いなく中心人物である。

 そんな極上の悪党で理不尽を与える側の存在だった彼女だが、この世には更なる理不尽がいた。最強の単体戦力にして、カラードの社長である薙原晶だ。彼が別件で捕らえた亡国機業の元最高幹部連中から、エージェントとしての活動内容が全て漏れたのだ。これは亡国機業の組織力に翳りが見えた事とイコールであり、焦った彼女は強力な後ろ盾を求めて薙原晶にコンタクトを取ったのだが、これが彼女のその後を決定づけた。

 晶の信用を得る為に“Raven's Nest(レイヴンズネスト)”に登録して、悪党狩りをする事になってしまったのだ*1。無論、元々悪党側の人間だった彼女が、本気で狩りをする訳がない。そこそこ程度の適当な獲物を狩るだけで、大御所からの恨みは買わないようにしていた。しかし時が進み、危機的な中国国内の状況に危機感を抱いた晶によって、大御所狩りをせざるを得ない状況に追い込まれてしまう。

 具体的に言えば更識家の力によって巧妙に擬装された賞金首狩りの依頼で、本人の意図とは全く関係無く、黒社会やお金大好きな汚職役人の大物に天誅を下してしまい、その様子を偶々現場に居合わせて色々な事を聞いてしまった一般人がSNSで拡散した結果、彼女は本来同じ穴の狢(おなじあなのむじな)*2であった者達を狩り続けなければならなくなった。

 こうして彼女は黒社会に正面から喧嘩を売り、お金大好き汚職役人にも正面から喧嘩を売り、仕返しを跳ね除ければ跳ね除けるほど泥沼に嵌っていく負の無限ループに叩き落された。本人の意思など関係無い。他の選択肢を選んだら破滅が超特急で迫ってくるだけのこと。

 結果として一般市民の不満を解消する、偽りの英雄が出来上がっていった*3

 これだけでも十分に激動の人生だろう。だが、彼女には続きがあった。新たな命令が下されたのだ。

 

 ―――誰の目にも明らかな形で中国を生まれ変わらせろ*4

 

 この背景には、当時の中国の荒んだ状況があった。

 何故なら絶対天敵(イマージュ・オリジス)戦で地球を危険に晒した責任追求で、人・資金・技術、多くのものが引き上げられた上で、各種利権を毟り取られ、中国製というだけで輸出も拒否され、仮に輸出出来たとしても足元を見られて買い叩かれるという酷い状況だったのだ。

 また環境汚染も深刻で、国内を乱開発してきた悪影響が如実に現れ始めていた。水源や土地の汚染が急拡大して食料自給率が激減、更に病人が急速に増え始めていたのである。

 これらの状況は民心を不安にさせ、治安を直撃していた。国内に残る少ない食料を奪い合う暴動が発生。不安につけ込んだ詐欺の多発。軍人が野盗化して市民から搾取や略奪。不安要素をあげればきりがなく、紛争地域も斯くやという程に乱れていた。

 このまま国家機能が失われれば、億人規模の難民が出て周辺地域の安定が脅かされるだろう。海を越えて、カラード本社のある日本も巻き込まれる可能性が高かったためだ。

 普通なら、困難を通り越して無理な命令だ。もしやるとしたら、とても長い時間をかけるしかない。だが命令を受けた(リャン)白麗(パイリー)は違っていた。大事なのは自分であって、有象無象の愚図どもではない。自身の決断で見知らぬ誰かが不幸になろうと知った事ではない。だから、逆にチャンスと思ったほどだ。手駒として使えるところを見せられれば、少なくとも絶対的な強者から狙われる事は無くなる。扱いも今よりは良くなるだろう。

 故に(リャン)白麗(パイリー)は、二度目のクーデターを決断する。

 旧指導部連中を軟禁して財産の差し押さえ、国庫に入れ、他国の視察団を受け入れ、各種資料を残らず提出し、政治的に都合が良くて助命したい人間がいるなら言えと国際会議の場で言った上で、何も無ければ1週間以内に処分(処刑)した。

 これと併せて、次のような改革内容が発表されていた。

 

 ・旧指導部連中の全員逮捕及び処罰。(処刑含む)

 ・旧指導部連中の資産没収及び内容公開。

 ・軍縮

   陸 軍:定数を1/5へ削減。

   海 軍:外洋展開能力の削除。

   空 軍:定数を1/5へ削減。

   宇宙軍:定数を1/5へ削減。

 ・全国のインフラストラクチャーの造り直し。

 ・国内の自然環境の再生。

 ・保険医療制度の充実

 ・国民に文化人としての教育。

 

 国の要である軍の大幅軍縮。しかも中国の悲願であった外洋展開能力の削除という、売国とも言える内容だ。だが本当の売国は、インフラの作り直しと政策決定にあった。

 原子力発電を全廃し、電力供給をカラードのレクテナ施設に頼る形へ。上下水道の管理も外国企業へ移管。戸籍管理をカラードのサービスに切り替え。政策の叩き台もカラードの政策提案サービスをベースとする形に。

 国が国としてあるために必要な中核を、全て他に譲ったのだ。これが売国でなくて何だと言うのか。

 このため付けられた渾名が売国皇帝。

 だから多くの者が彼女を悪と断じ、排除しようと毎日のように刺客が送り込まれていた。しかし、彼女は専用機持ちである。ISが非展開状態であっても、対人兵器程度の火力ではお話にならない。重火器や爆弾を使われた事もあったが、専用機持ちをその程度で殺れるなら苦労は無い。

 彼女はその全てを跳ね除け、逆にストレス発散も兼ねて丁寧にすり潰し続けたら、今度は食事に毒が盛られるようになった。青酸カリ、ヒ素、ストリキニーネetcetc。軍で保管していた毒ガスを使われた事もあったが、ISの生命維持機能は並大抵の毒物を無力化できる。もっと言ってしまえば、体内に入ってからでも無力化出来る上に、体が吸収する前に弾く事もできる。歴史上の数多の権力者が最も恐れた毒殺が効かないのだ。

 となれば次に考えられるのは専用機への細工だが、メンテナンスはカラード本社で行われている。定期メンテナンスは月に1回だが、契約により回数制限なく行えるようになっていた。つまり中国の工作員が入り込む余地など無い。

 一方で、彼女の行いを認めている者達もいた。

 軍縮で浮いた莫大な予算を、自然環境の再生、医療保険、教育などに振り分けていたからだ。尤も明確な結果として見えづらい部分だけに少数派だったのだが………最近、支持者が増え始めていた。何故か? (リャン)白麗(パイリー)が冷え切った中国経済を動かす特需を持ってきたからだ。

 それは広大な国土の中に数ヶ所の演習場を作り、企業相手に演習場として貸し出すというもの。この背景にはカラードの政策があった。パワードスーツを普及させ、かつ高性能化させる為に、企業に開発を奨励していたのだ。宇宙で使える物を作れるのは一握りだが、裾野が広がれば全体的な底上げに繋がる。延いては一握りの数も増える、という考えからだ。

 しかし開発力を持つ企業にとって、1つ面倒な事があった。それは商品化する前に行う耐久試験や様々な問題点の洗い出しだ。過酷な環境で試験するのが一番だが、その環境を自前で用意出来る企業は少ない。

 白麗(パイリー)は、其処に目をつけた。

 国内に格安で使える演習場を作り、オプションとして再編した中国軍を敵役として貸し出す。オプションも幾つかのコースがあり、単なる歩兵から巨大兵器まで様々だ。当然反対意見は多々あったが、抑え込むのは簡単だった。良い敵役として評価された部隊には、タップリとボーナスを弾んだのだ。多少の不満など、収入という飴でどうとでも出来る。プライドで腹は膨れないのだ。

 これに加えて、演習場の近くには歓楽街も作ってやった。懐が潤えば、酒と女に使いたくなるだろう。全ての者がそうではないが、元軍属の脳筋どもはこの傾向が強い。だから用意してやった。目論見通り大量の金を歓楽街に落してくれたお陰で経済が回り始め、また敵役として貸し出した中国軍が良い感じに装備品を壊してくれるので、修理やパーツ製造業者にも仕事が回り始めた。冷え切っていた中国経済に、金が回り始めたのである。

 そして金の循環が雇用を生み出し、軍の大量に削減した人員(4/5の人員。約160万人)の受け皿としても機能していた。無論、全てを吸収できた訳ではないが、削減した軍人が野盗化して治安が悪化するという最悪の事態は回避出来ていた。

 このような成功が、白麗(パイリー)の支持者を生み出したのである。

 お陰で最近は刺客も減ってきた。完全に無くなった訳では無いが。

 そんなとある日のこと。中国国家主席の執務室。

 部屋の主である白麗(パイリー)は、椅子に座って空間ウインドウに表示される各種データを見ていた。

                               

 ―――お仕事中の(リャン)白麗(パイリー)―――

                               

 

【挿絵表示】

 

                               

 ―――お仕事中の(リャン)白麗(パイリー)―――

                               

 第三者が見れば、些か以上に煽情的な姿だろう。

 基本は黒を基調として金の刺繍が施されたチャイナドレスだが、胸元の布地がカットされて豊かな谷間が見えている上に、スカートの両サイドにあるスリットが深く、ショーツのサイドが見えてしまっている。否、見せていた。

 口の悪い者からは娼婦や淫売とすら言われるような姿だが、彼女は意図的にこの服装を選んでいた。

 敢えてこの服装をする事で「男の視線が気持ち悪い」と言って配置転換し、側近に女性を採用する。そんな恰好をするのが悪いという言葉は聞かない。彼女は売国皇帝。暴君なのだ。また側近に採用した女性はいずれも見目麗しいが、背景は中国の愛国者にしてみれば真っ黒であった。何せ更識なのだ。尤も本家の者ではない。だが十分に使えるレベルの者であった。

 そしてこの側近の存在は、あの方()が方針を変えた事を意味していた。何故なら当初は、「命令をやり切ればそのまま中国をくれてやるが、力尽きたらそれまで」という考えだったからだ。しかし時間が経ち一定の成果を見せた事で、「使える」という判断に傾き、サポート要員として送り込まれたのだった。つまりあの方()の意向に忠実である限り、ある程度の支援は受けられるということだ。

 

 ―――閑話休題。

 

 暫し静かな時間が流れた後、執務室のドアがノックされた。

 

白麗(パイリー)様。入っても宜しいでしょうか」

 

 側近の1人だ。

 

「入りなさい」

 

 ドアが開かれ入ってきた女性もチャイナドレスだった。白麗(パイリー)が着ている物よりは大人しいデザインだが、スタイルの良さは全く隠されていない。

 

「どうしたの?」

「まずはこれを」

 

 差し出されたタブレットを受け取る。

 表示されているのは、不穏分子の行動計画だった。

 内容を見て、頭が痛くなる。こちらの足を引っ張る為に、ここまでするか。

 

「これ、本当?」

 

 願望混じりに尋ねてみる。

 

「冗談だとお思いでしたら、このまま様子を見ていますか?」

「そんな訳ないでしょ。面倒だから、私が直接行ってくるわ」

「宜しいのですか?」

「白々しい。これを見せたら、私が直接行くと分かってて持って来たんでしょう」

「はい」

 

 側近がニッコリと笑う。

 不穏分子の計画は、川の上流にあるダムを爆破して、下流にある演習場と演習場を使っている外国企業の開発部隊にダメージを与える事だった。現段階で分かっている爆弾は8個。起爆方式はリモコンとタイマーのハイブリット。タイマーはアナログの機械式。演習場が中国経済のエンジンになっている以上、もし本当に実行されたら被害が洒落にならない。そして本来なら再編した軍を使って対処させるべき案件だが、内通者の可能性を排除出来ない。友人が人員削減の対象になって、不穏分子に協力的な者も多いのだ。

 また爆弾を発見したのは側近の子飼いの部下達だが、露見リスクは最小化するように厳命されている。人を動かしていると知られて、良い事など何一つ無いからだ。つまり裏方として動く事は出来ても、爆弾解除という直接的な行動は行えない。解除の為に近づくという事は、現場を監視しているであろう仕掛けた側に発見されるリスクが高いからだ。

 白麗(パイリー)もその辺りは理解しているため、少しばかり考えて口を開いた。

 

「急に地方の視察をしたくなったわ。飛行機を準備して」

 

 勿論、目的地に向かう為のものではない。カモフラージュ用だ。

 

「国家主席のいつ如何なる要望にも答えられるように、空港には常に待機させています」

「そう。じゃあ、早速行くわよ」

 

 こうして椅子から立ち上がった白麗(パイリー)は、側近を伴って行動し始めたのだった。

 

 

 

 ◇

 

 

 

 1時間後、白麗(パイリー)はダミーとして国家主席専用の飛行機を飛ばして、本人はRAIJINの中にいた。

 全長50.7m、全幅180.8m、全高30.5m。米軍のステルス戦略爆撃機(B-2)を2段重ねにしたような、航空機としては歪な姿。

 搭載兵器は大型プラズマ砲×1、近接防護用レーザー砲多数、ミサイルコンテナ多数。航空機というよりは航空要塞とでも言うべき重装備だ。だがこれに加え、亡国機業の開発部門が仕事をした結果、更に3つの装備が追加されていた。

 1つはこの巨体をほぼ完全に覆い隠せる光学迷彩。偵察衛星の高密度探査やISのセンサーを誤魔化せるほどではないが、既存兵器の通常索敵程度なら、まずすり抜けられる。

 1つはType-D No.5に搭載されていた、シールドシステムの小型軽量化。ある程度耐久限界が下がってしまったが、これにより航空ユニットとしては破格の防御性能を会得している。

 1つはBTシステムを応用したビット兵器の搭載。これにより、巨大兵器の弱点でもある死角の多さ・小回りの利かなさをカバーしている。

 側近というサポート要員が派遣された時に、一緒に貸与されたのだ。

 尤も、今回は脚として使っているに過ぎない。これの火力を使ったら、不届き者がいるダムまで破壊してしまう。

 そんな機の後部デッキに、白麗(パイリー)は黒いISスーツ姿でいた。かなり大胆なデザインだ。

                               

 ―――ISスーツ姿の(リャン)白麗(パイリー)―――

                               

 

【挿絵表示】

 

                               

 ―――ISスーツ姿の(リャン)白麗(パイリー)―――

                               

 側近から通信が入る。

 

『追加情報です。爆弾が更に4つ発見されました』

 

 これで計12個だ。

 

『起爆方式は同じ?』

『同じです』

『なら作戦に変更無し。広域EMP兵器でリモコンの電子機器を焼いて、タイマーは私が解除するわ』

 

 元々この手の活動を行う側にいたのだ。解除スキルも当然のように持ち合わせている。

 そして広域EMP兵器ではダム制御用の電子機器も破壊してしまうが、老朽化して設備更新の予定だったのだ。むしろ丁度良い。

 

『了解しました』

『ところで、1つ良いかしら』

『何でしょうか?』

『貴女も、貴女の子飼いも優秀よね。もっと活躍したいし、させたいとは思わないの?』

 

 意訳すると、人手が足りないからもっと働け、だ。

 

『当主様が「もっと支援して良い」、と我々に命令して下されば可能です』

 

 白麗(パイリー)は少しばかり考えた。並の男なら色仕掛けで幾らでも骨抜きに出来るのだが、あの方に仕掛けたら逆に自分が骨抜きにされてしまう。これまで幾度となく仕掛けたが、全敗なのだ。毎回毎回いつのまにか、好き放題に鳴かされてしまっている。

 それはそれでとても気持ち良いのだが………。

 横道に逸れた思考を元に戻す。

 

『分かったわ。ならもっと良いところを見せて、そういう命令を出して貰えるようにしましょうか』

『先は長いと思いますが、頑張って下さい』

『微妙に腹立つ言い方ね』

『私達の本当の主は、当主様なので』

『ちゃんと働いてくれたら、頑張ってくれているって伝えてあげる』

『御心配なく。自分達で報告書を送っていますので』

『可愛げが無いわね』

『可愛い部下がお望みですか?』

『いいえ。今の方が良いわ。貴女に可愛くされたら、気持ち悪くて仕方がないわ』

『ではこのままという事で。――――――そろそろ作戦領域です。準備は?』

『問題無いわ』

『では後部ハッチを開きます。失敗しないで下さいね』

『誰に言ってるのよ』

 

 こうして白麗(パイリー)は自身の専用ISを展開して、数機のUNAC(ユーナック)と共に夜のダムに降下していったのだった。

 

 

 

 ◇

 

 

 

 ミッションは何ら問題無く終了した。山も谷もありはしない。

 但し翌日の昼前に、ちょっとしたニュースが流れた。

 

『次のニュースです。先程、軍の広報から発表がありました。それによると昨日、国内でダムを爆破しようとしたテロリストが専用機持ちによって鎮圧された、という事です』

 

 今の中国に、専用機持ちは2人しかいない。内1人が白麗(パイリー)で、もう1人は所在地がハッキリしている。つまり遠回しに、誰が鎮圧したか言っているも同じなのだ。

 そして白麗(パイリー)は昨日の一件を、軍に伝えていない。

 別件で執務室に来た側近に尋ねてみる。

 

「貴女、何をしたのかしら?」

 

 何についての事か、相手もすぐに分かったようだった。

 随分と良い笑顔で答えてくれる。

 

「売国皇帝という悪名はとても良いのですが、真っ当な支持層を増やすには、こういう小細工も必要でしょう」

「何が支持層よ。他人の言葉でコロコロ意見を変えるような輩なんて、いらないのだけど」

「世の中の殆どはそういう輩ですし、敵であるよりは良いでしょう」

 

 尤もな言葉だが、これはこれで注意しなければならない事がある。

 

「この手の事は程々にしておきなさい。やり過ぎると逆効果よ」

「他人が行ったならそうでしょう。ですが貴女には、悪徳商人や汚職役人を物理的に処理してきた過去があります。今更でしょう。むしろ国民は望んでいると思いますが」

「売国皇帝と言われているのに?」

「それはそれ。これはこれです。法が処理してくれない悪党の処理は、お行儀の良い為政者には出来ないでしょう」

「普通こういうのって私は命令を下すだけで、処理は部下がするものだと思うのだけど」

「では、そういう部下をご自身で作って下さい。私達(更識)は裏方なので」

「随分都合の良い裏方ね」

 

 更識から派遣されたこの側近が現在の立場を最大限利用して、中国国内に人的ネットワークを作っているのは知っていた。

 政府内の重要ポジションに息の掛かった者を就け、インフラ発注も息の掛かった企業が優先されている。他にも社会の様々なところに、息の掛かった者達がいる。

 中国を愛する者達にとっては、許し難い行いだろう。

 しかし白麗(パイリー)にとっては全く関係無かった。

 自分はこのまま支配する側に立つ。有象無象の考えなど知ったことか。この中国を、あの方の望む形に生まれ変わらせる。

 そう思うからこその先の言葉だ。あの方の手足なのだから、もっと働きなさいという意味だ。

 尤もこれが、単なる悪態という事も分かっていた。あの方は更識が表に出る事を望んでいない。表の事は表の者に処理させた方が、物事は上手く回るからだ。裏の者が出ても良い事は無い。

 だから返答も、予想通りだった。

 

「当たり前じゃないですか。それとも、当主様の意向に反して私達を使いますか?」

「そんな訳無いじゃない。というか貴女達、私がそういう命令をしても動かないでしょ」

「勿論です」

 

 ニッコリと良い笑顔で答えた側近に、白麗(パイリー)は言った。

 

「有能と分かっている手駒が目の前にいるのに、あの方の命令で使用制限があるんですもの。悪態の一つもつきたくなるわ」

「高評価、ありがとうございます」

 

 側近は全く敬意のこもっていない、それでいて礼儀正しい一礼をした。

 平たく言えば慇懃無礼というやつだ。

 尤も腹が立つという程でもない。ちょっとしたじゃれ合いみたいなもので、区切りも良いので白麗(パイリー)は話題を変えた。

 

「ところで明日と明後日だけと、予定は入れてないわよね?」

 

 専用ISの定期メンテナンスで日本に行く日だ。メンテナンス自体は1日もかからないが、最近は一泊してくる事が多い。

 

「空けてあります。どうぞ、日頃の疲れをゆっくりと取ってきて下さい」

「只のメンテナンスよ」

「ええ。そうですね。専用機のメンテナンスと、貴女様ご自身のリラクゼーションの日ですね。当主様に――――――」

 

 執務室という場所には相応しくない、エロティックかつ文学的な表現でリラクゼーションの事を口にする側近に、白麗(パイリー)は思わず考えてしまった。一緒に連れて行って、一緒にシて貰うのもアリだろうか? で、一緒に連れて行く代わりに、もっと私の命令を聞くように………秒で却下。一緒に連れて行ったら私の時間が減る。何よりあの方にトロトロにされてもっと私の言う事を聞かなくなる可能性の方が遥かに高い。いや、可能性ではなく確定した未来だろう。

 なら自慢してみる? 拗ねて微妙に言葉がトゲトゲしてくるかもしれない。それはそれで楽しいが、常日頃からやられると面倒だ。

 結論。取り合わないでサラッと流す。

 

「ま、そうね。リラックスしてくるわ」

 

 答えた直後に、ふと思った。やっぱり連れて行こう。

 あの方に会わせる云々ではなく、カラード城下街は今や世界の中心地。単純な気分転換という意味で、悪くないと思ったからだ。

 言葉を続ける。

 

「貴女も一緒に来なさい。いえ、これから定期メンテナンスの度に子飼いも連れて行くから、班分けでもしておきなさい」

 

 これに側近は、とても驚いた顔をして尋ねた。

 

「どういう風の吹き回しですか?」

「暴君の気紛れよ。有難く思いなさい」

「では暴君の気が変わらない内に、可及的速やかに明日と明後日分の仕事を片付けてきます。では、失礼致します」

 

 側近は礼儀正しく、かつ素早く退室していった。

 余程嬉しかったらしい。

 こうして白麗(パイリー)は定期メンテナンスに、側近及びその子飼い連中を連れていく事になったのだった。

 

 

 

 ◇

 

 

 

 (リャン)白麗(パイリー)はカラード本社で専用ISがメンテナンスされている最中、決して部屋から出てこない。ISという命綱が無い状態では、いつ暗殺されるか分からないからだ。

 カラード側もそれは理解しているため、彼女の為に外部から完全に隔離された部屋を用意していた。逆説的に、中で何があろうと決して外部には伝わらない部屋だ。

 そして完璧な安全が確保された部屋だけに、彼女はとてもリラックスした姿で過ごすようになっていた。

                               

 ―――リラックスしている(リャン)白麗(パイリー)―――

                               

 

【挿絵表示】

 

                               

 ―――リラックスしている(リャン)白麗(パイリー)―――

                               

 余りにもリラックス出来るので、メンテナンスにもう少し時間をかけて欲しいと思う程だ。

 どうせならもう一泊して………いや、流石に二泊三日はやり過ぎか。あの方に怒られてしまう。

 白麗(パイリー)はそんな事を思いながら、この後のリラクゼーションで心身共にリフレッシュしたのだった。

 

 

 

 ◇

 

 

 

 オマケ

 

 白麗(パイリー)の側近はカラードの城下街で、久しぶりの買い物を楽しんでいた。

 中国で売国皇帝の側近なんてしていると、気軽に買い物も出来ないからだ。だけど、此処なら違う。当主様の足元だけに、都市のセキュリティは異様な程に硬い。但し、威圧感を与えるようなセキュリティではない。

 監視カメラや追跡用の各種機器は、景色に紛れるように配置されているからだ。しかしカメラや追跡用の機器だけでは、不慮の事故や突発的な事態に対応できない。

 このためカラードの城下街には交番という古典的システムの他に、UNAC(ユーナック)を搭載した車両が巡回していた。警察車両のように分かり易くされているものから、覆面パトカーのように一般に紛れるものまで様々なタイプがある。だが更識である彼女は、ある程度知っていた。また今の自分が、護衛対象になっている事も理解していた。道を歩いて周囲を見てみれば、一般車両に紛れるタイプのUNAC(ユーナック)搭載車両が何度も見えていたからだ。

 建物の中でも、お掃除ロボットに良く似せた防犯ロボットがいたりする。

 側近は街を歩きながら、思わず考えてしまった。これだけのセキュリティを維持するのに、どれだけの予算を投じているのだろうか? 尤も、深く考えたりはしない。今は休暇中なのだ。目の前のお買い物を楽しもう。

 適当に店を梯子してウインドウショッピング。良い物が沢山ある。中国みたいに安い偽物なんて置いてない。

 そうして暫く歩いた後に入ったハイクラス向けの店で、良さそうな服を見つけた。

 幾つか手に取って試着室に入る。

                               

 ―――買い物で試着を楽しむ側近―――

                               

 チャイナドレス

 

【挿絵表示】

 

 水着

 

【挿絵表示】

 

 下着

 

【挿絵表示】

 

                               

 ―――買い物で試着を楽しむ側近―――

                               

 こうして白麗(パイリー)の側近は、カラードの城下街で買い物を楽しんでいたのだった。

 ちゃんちゃん。

 

 

 

 

*1
第166話にて。

*2
一見関係がないようでも実は同類・仲間であることのたとえ。

*3
第195話にて。

*4
第211話にて。




どうやら何とか上手くやって、ある程度は認めて貰えて、支援も受けれるようになった様子でした。
更識から送り込まれた側近さんとも気が合いそう(?)で、このまま頑張って欲しいところです。
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