インフィニット・ストラトス ~迷い込んだイレギュラー~ 作:S-MIST
そしてオマケでアンドロイド姉妹。
晶はカラードの社長室で考えていた。
義妹達から受け取った、アースレポート・コーポレーションのデータベースについてだ。
内容は地球の地域ごとの一般常識や文化といったもので、各国の挨拶から買い物、ビジネス的な場面まで広く網羅した様々なシーンが、解説と共に動画化されて収められている。
今ではビジネス界隈で重宝されている上に、“首座の眷属”や“獣の眷属”の人達も見てくれるようになっていた。テラフォーミング先の異文化交流用の都市建造に、協力要員として派遣されている人達だ。
そして義妹達から、これを発展させて文明間の行動相互表にしよう、という話が持ち上がった。
例えば人類のAという行動が、“首座の眷属”ではBという行動に相当する。或いは“獣の眷属”ではCという行動に相当すると分かれば、“首座の眷属”のBという行動と、“獣の眷属”のCという行動は概ねイコールと出来る。これを更に発展させれば、未知の種族とのコンタクトにも応用出来る。例えば人類にとっては未知の種族でも、“首座の眷属”のBという行動が未知の種族のDという行動とイコールだと分かれば、コンタクトの難易度を大きく下げられる。
言いに来たクロエの言葉を借りるなら、国策として行うべき、という事だ。異論は無い。単純に異文明とコミュニケーションを行い易くなる、というメリット自体も大きいが、こういうデータベースを自主的に作り運用していること自体が、カラードの方針を内外に示してくれるだろう。所謂、ソフト的な力というやつだ。
では実際にどういう形で運用していくか、という話になる訳だが………。考えを整理する為に空間ウインドウを開いて、メモ帳アプリを起動。思いついた事や検討項目をざっくりと書き出してみる。
―――メモされた内容―――
1.データベースサーバーの設置場所は?
2.これまで関わっていたアースレポート社の人員はどうする?
3.カラードの何処の者を関わらせる?
4.出向させる? それとも出向する?
5.アースレポート社の人員のセキュリティをどうする?
―――メモされた内容―――
順番に考えていく。
1については、カラード本社で良いだろう。データの損壊などあってはならないのだから、最も安全な場所に置くのが道理だ。
2はどうするのが良いだろうか? データベースを育ててくれた者達から、「今日からカラードで管理するから、お前達は要らない」と言って取り上げる? 悪手以外の何ものでもない。不要な軋轢を防ぐという意味でも、モチベーションという意味でも、運用の継続性という意味でも、引き続き関わって貰うのが良いだろう。
3はどうしようか? 国策として行うなら本社の人間を関わらせるべきだが、誰でも良いという訳ではない。やはり情報の取り扱いに長けている方が良い。そしてこの手の情報を扱うなら、広報企画室が適任だろう。
4はアースレポート社の人間に、カラードに出向して貰うのが良いだろうか? しかし、ふと思う。あのデータベースはアースレポート社という環境があってこそ出来たようなものだ。なら取り扱う人員だけをカラードに呼び寄せるのは違う気がする。加えて言えばカラードの管轄になったからと言って、「お前達がこっちに来い」というのは、育ててくれたあちらの人員に失礼だろう。またアースレポート本社と物理的な距離が遠い訳でもないのだ。こちらから出向させよう。つまりサーバーは本社にあるが、作業場所はアースレポート社だ。
5はどうしようか? サーバーは本社に置くから幾らでも護れるが、アクセスする人員のセキュリティも高めておかないと、第三者から工作され易くなってしまう。うーん。暫し考え、正攻法で行く事にした。アースレポートの本社ビルを、大改修してしまえば良い。義妹達が行く事も多いだろうから、しっかりとやっておこう。
考えた内容を纏めてみる。
―――纏めた内容―――
1.データベースサーバーの設置場所は?
→カラード本社。
2.これまで関わっていたアースレポート社の人員はどうする?
→継続して関わって貰う。
3.カラードの何処の者を関わらせる?
→広報企画室から選ぶ。
4.出向させる? それとも出向する?
→カラードからアースレポート社に出向させる。
5.アースレポート社の人員のセキュリティをどうする?
→アースレポートの本社ビルを大改修する。
―――纏めた内容―――
大まかな方針はこんなところだろうか。もう少し細かいところは、
晶は2人の予定を確認して、1時間後に社長室に来るように伝えたのだった。
◇
1時間後。
広報企画室室長の
応接用ソファに座って貰い、経緯と今後の展望を伝える。
―――社長室に来た2人―――
マリー・インテル
―――社長室に来た2人―――
話を聞き終えた2人は少しだけ思案して、
「分かりました。ただ、幾つか確認させて下さい」
「良いぞ」
「異なる組織で共同作業をする場合、共通のルールが不可欠です。そして良い事をした場合の対応は所属元に任せて良いと思うのですが、何かしらの違反した場合の対処はしっかり決めておかないと必ず揉めます。如何に力関係がハッキリしているとは言え、避けられる摩擦は避けるべきでしょう。何処まで行いますか?」
「国策として動かす以上、守秘義務その他諸々必要な事は守って貰うし相応の責任も負って貰う。で、背景を洗うのは当然として、必要な事は説明して契約書にサインして貰う。説明している様子も、相手に撮影していると知らせた上で残しておくように。後で聞いてないなんてゴネられても困るからな」
この返答に
トップがこう言ってくれるなら、何も迷わずに済む。
「了解しました。では2つ目です。出向要員は広報企画室から出すという事ですが、何名くらいをお考えでしょうか?」
「まずは1~2名かな。あと、これはお前達の部下なら問題無いと思うが、もしかしたら内部工作をされるかもしれないからな。そちらを防ぐのも頼む」
「お任せ下さい」
マリーが口を開いた。
「社長。そういう目的込みでしたら、推したい者がいます」
「ほぅ?」
空間ウインドウが展開され、2名のプロフィールが表示される。
ああ、こいつらか。広報企画室に顔を出した時の様子を思い出す。
―――記憶にある2人―――
モブA
モブB
―――記憶にある2人―――
続けて、更に昔の事を思い出した。随分前だが広報企画室に顔を出した時に、ダークグレーの髪の子が自分のスカートをめくって中身を真理に見せていた。確かピンクのハイレグだったな*3。
思わず本音が漏れる。
「大丈夫か?」
「多少ネジが緩くておバカなところはありますが、鼻が利きます。送り込むには最適でしょう」
「分かった。もう一人は?」
「所謂凸凹コンビと思って頂ければと」
「オーケー。じゃあ、この2人にしよう」
こうして出向させる人間が決まったところで、
「アースレポート本社ビルの改修ですが、どこまで行われるのでしょうか?」
「相応に金をかけて構わない。あ、そうだ。さっき言った契約に含めておいて欲しい事がある。時折抜き打ちで査察するから、その時に不備があったら、程度によって1~数か月の減給ありって。ただ鞭ばかりだとモチベーションに関わるから、給料と定期ボーナスには少し上乗せしておこうか」
「妥当な判断かと思います」
こうして
◇
また別の日。
カラード戦闘部門長のラウラは、自身の執務室で苦笑いしていた。
先日、宇宙軍で行われたアンケートの集計結果が出たのだ。学園用コロニーの卒業試験のネタ集めで、お題は「やられたらイヤなこと」というもの。
形式はWebページ上で行う簡単なものだったが………どういう訳か作戦立案書類(電子版)として送ってくる者が多数いた。しかも、だ。どうみてもお遊びじゃない。本物の作戦並みに作り込んでいる。
アンケートには「自分達で行う事を考慮して記入するように」という但し書きを付けていたのだが、逆効果だったようだ。恐らく自分達でやるからこそ、色々な案が出てきたのだろう。十分に時間と資材がある時の本気Ver。時間も資材も無い時の簡易Ver。或いはその複合案。
何となく適当な立案データを選んで、空間ウインドウに表示させてみる。
―――ミッションプランA―――
導入
簡単なお使いミッション。
木星調査チームから、追加機材の要求が来たので運べ。
実際
調査チームは第三者に既に制圧されている。
相手の目的は派遣されてきた者達の装備。
つまり乗っ取り。
但し機材要請に使われた通信コードは正規のもの。
機材を運搬してきたチームの通信要請にも応える。
応答画面にもおかしな点は見受けられない。
攻略方法
調査チームの木星周回軌道が予定と少しだけ違う。
調査の為に軌道遷移したと言われればそれまでだが………。
調査チームの派遣目的を正しく理解していたなら気付ける筈。
定点観測用衛星の設置をしているのに軌道遷移? ニヤニヤ。
―――ミッションプランA―――
これは調査チームが制圧された際のゴタゴタで軌道が変わってしまったor調査チームが軌道を変えて、気付いてくれる事に一縷の望みをかけた想定か。有り得るな。
別のものを見てみる。次はパワードスーツパイロット向けか。
―――ミッションプランB―――
導入
先に惑星降下したチームが、大量の現地生物に襲われている。
至急オービットダイブで救援に向かえ。
実際
既に乱戦状態であるため、船からの援護砲撃無し。
作戦領域内の戦力差100倍。
領域外から殲滅不可能な物量で持続的に増援が到着。
攻略方法
同時に、船の降下ポイントを選ぶセンスも問われる。
―――ミッションプランB―――
真っ当ではないが、有り得るミッションだろう。
他にも色々あって見ていくが、実際に有りそうな状況想定で作ってくれている。
幾つか選んで、晶に送ってみた。急ぎでもないので普通のメールだ。が、すぐに返答が返ってきた。幾つかのプランに修正案が添付されている。あいつヒマなのか? いや、違うな。嬉々として修正したに違いない。わるーーーーい笑みを浮かべてニヤニヤしている様が、ありありと想像できる。
こうして学園用コロニー卒業試験の準備が進められていったのだった。
◇
1週間程が過ぎた学園用コロニー。
此処にいる学生達は、まっさらな学生ではない。元軍人、医者、メカニックetcetc。色々な経験を持っている者達だ。そんな者達が学生用の食堂で、思いつく限りの悪態をついていた。
「ふざけんなぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」
叫んでいる学生は、先日ラウラが見ていたミッションプランAで見事に騙され全滅判定をくらっていた。自分だけが死亡判定をくらったなら、まだ良かったかもしれない。自身の判断ミスで装備一式を全部強奪され、チーム全員仲良く亀甲縛りで倉庫にポイッと捨てられたのだ。発見された時の羞恥心は推して知るべし。因みに男女の区別はなく、顔面に油性ペンで落書きもされた。
「まぁまぁ。ククッ、これも経験だと、アハハハ、思って」
対処に成功した別チームの1人が、笑いを押し殺しながら宥める。顔にちょーーーっと恥ずかしい落書きが残っているのだ。
「てめぇ。成功したからって!!」
「まぁな。俺様優秀だから」
難しいミッションに成功したこの男は、すっかり忘れていた。卒業試験のミッションは1つではない。複数のミッションを期間内に終わらせる複合ミッションだ。つまり他のミッションで失敗して、同じ目に遭う可能性があるということ。しかし他のチームが悉く失敗したミッションを成功させた嬉しさで、ちょーーっと調子に乗ってしまったのだ。
「ケッ。精々言ってろ。どうせお前もいずれ同じ目に遭うんだからな」
「ふふん。全部華麗にクリアしてやるさ」
本当にそう思っている訳ではない。何処かで失敗するだろう。だが全て成功させる気でやるのは当たり前のことだ。だから、ちょっと大風呂敷を広げてしまった。
そしてこういうのは、エスカレートするのである。
「ほほぅ。言うじゃないか。じゃあ、最終成功率でどっちが上か賭けないか。お前が勝ったら秘蔵のアレをくれてやる」
「大きく出たな。良いだろう。じゃあ、俺もアレを賭けてやる」
両者の視線が交わりバチッと火花が散る。
因みにアレとは、ISパイロットの写真集だった。
年度毎に出ている限定品で、お互いに買いそびれた物を持っていたのだ。
そして今の会話を聞きつけた、他のチームの面々が寄ってきた。
「面白そうな話をしてるな。俺も混ぜてくれよ」
「お前は何を賭けるんだ?」
「フッフッフッ。聞いて驚け。去年の忘年会の写真集だ」
「「なっ!?」」
因みに正規品ではない。有志がTV放送されていたシーンを編集して写真集にした同人本だ。数が少なくて超プレミア価格がついていたはず。
そんな話をしている野郎共の近くで、女性陣が同じような話をしていた。
「じゃーん。レスキューチーム一夏くんの写真集」
これも正規品ではなく、有志がTV放送されていたシーンを編集して写真集にしたものだ。
「うそ!? 高かったんじゃないの!?」
「高かった。お陰でサイフが軽い軽い。でも良いの。格好良いお姿を拝見できたから」
今の一夏は名実共に、レスキュー部門のエースとして活躍していた。
救助要請があれば世界中の何処にでも駆けつけ、一切合切の困難を排して救助する。
まるで古き良き物語に出てくる騎士のように。そんな彼がリーダーを務めるチームcharleyには、多くの指名依頼が入るようになっていた。しかし、それらが受託される事は殆ど無い。VIPからの依頼を成功させれば、少なくない報酬が支払われるにも関わらず、だ。
理由は一切公開されていないが、本当の理由は驚くほど青臭いものだった。
一夏が「誰かを、何かを、守るれるようになりたい」と憧れ願い実力を磨き続けたから、晶がそれをやれる環境を用意した。金払いの良いブタを助ける為ではなく、本当に困っている誰かを助けられるように。それだけである
このような背景から一夏は、今や白騎士と呼ばれていた。かつて起きた「白騎士事件」*4の白騎士ではなく、人々を守る騎士に、白式・雪羅の機体カラーを合わせた呼び名だ。
「良いなぁ。白騎士様のお姿。ねぇ。ちょっと見せて」
「良いよ。はい」
今時珍しい紙媒体の本が渡され、ページがパラパラと捲られる。そこには格好良いとセクシーが同居する、良い男に成長した一夏の姿があった。こんな良い男に絶体絶命の窮地を救われたら、確かにキュンキュンしてしまう。
こうして学園用コロニーの生徒達は、意地悪い卒業試験の間も適度に気分転換が行えていたのだった。難しいミッションを行う時のメンタルヘルスは非常に大事だが、意図せずメンタルケアを行えていたのである。
◇
また別の日。
「ほぇぇぇぇ」
ちょっと馬鹿っぽくておのぼりさんみたいな声を出しているのは、アースレポート・コーポレーション本社勤務の名物アナウンサー、ケイト・マークソン。世間には完全に秘匿されているが、正体は束博士が作り上げた完全自律型AIの第2号だ。因みに第1号はラナ・ニールセン。
1週間ほど出張している間に本社ビルの改修が決まり、戻ってみれば予想以上の規模に思わず声が出てしまったのだ。何せ右を見ても左を見ても上を見ても、工事用にアセンブルされた
突っ立っていても仕方がないので入っていくと、同僚が次々と挨拶してくる。
「あ、おはようございます」
「ケイトさんおはよう」
「おはようございます。出張お疲れ様でした」
一人一人に挨拶を返しながらオフィスに入ると、チーフに声をかけられた。
ナイスミドルなおじさんで、偏向報道ばかりの報道業界に嫌気がさしていたところを、アースレポートにスカウトされた人だ。
「おはようケイト。出張はどうだった?」
「色々なものが見れて面白かったですよ。それよりも、思ってた以上に大規模改修なんですね」
「俺も驚いてる。まさか、ここまでやるとは」
「ですよねぇ」
アースレポート・コーポレーションの本社ビルは、元々地下1階、地上10階建ての普通のビルだった。
会社設立時に
なのでアースレポート上層部でも、本社ビルの拡張や移転を検討する話が出ていた。そこに共同管理の話が出てきたので、恐らく何らかの話し合いがあって、大改修に踏み切ったのだろう。
公開されている改修情報を思い浮かべてみる。
地下10階の地上30階という大きさだ。
―――アースレポート本社改修後の各階層機能―――
地下10階
第1非常用貯水槽・第1上下水道用設備
第1消火用水槽・第1消火ポンプ設備
中水処理設備(雨水や手洗い水などを浄化して再利用する設備)
地下9階
非常用電源設備・
地下8階
空調・熱源・換気設備
排煙専用設備
地下7階
防災センター(中央監視室)
サーバールーム・主配線盤・通信機械室
地下6階
アースレポート・データベース管理室
(共同管理となったデータベースチームが働く場所)
地下5階~地下1階:テクノロジー・バックオフィス部門
技術・システム部門
マーケティング・プロモーション部門
コーポレート部門(総務・人事・経理)
地上1階~地上3階:飲食店
吹き抜けで開放的な雰囲気
地上4階
第2非常用貯水槽・第2上下水道用設備
第2消火用水槽・第2消火ポンプ設備
地上5階~地上9階:コンテンツ制作・コンプライアンス部門
編集・制作部門
報道・取材部門
編成・進行部門
校閲・ファクトチェック部門
トラスト&セーフティ(信頼・安全)部門
地上10階
第3非常用貯水槽・第3上下水道用設備
第3消火用水槽・第3消火ポンプ設備
地上11階~地上15階:ビジネス・収益化部門
広告営業部門
販売・サブスクリプション部門
イベント・事業開発部門
地上16階~地上19階
新規事業開発・投資部門
非メディア事業
地上20階
第4非常用貯水槽・第4上下水道用設備
第4消火用水槽・第4消火ポンプ設備
地上21階
撮影用機材庫
地上22階~地上25階
撮影用のスタジオ多数
地上26階
社長・重役室
地上27階~地上29階
職員用のリラクゼーション施設
(サウナ・シャワー室等も完備)
地上30階
第5非常用貯水槽・第5上下水道用設備
第5消火用水槽・第5消火ポンプ設備
屋上
ヘリポート
―――アースレポート本社改修後の各階層機能―――
思わず改修という言葉の定義を考えてしまうが、建物の古くなった部分を直したり、性能や機能、安全性を向上させたりする事を言うので間違ってはいない。だがここまで行うなら、立て直しという言葉の方が正しいのでは?
そんなどうでも良い事を思っていると、チーフが別の話題を振ってきた。
「そうだケイト。この後、1人インタビューしてくれないか」
「えー。出張から帰ってきたばかりなんですよ。他の人を行かせて下さいよ」
「取材を申し込んだら、相手がお前さんなら受けるって言うんだ。頼む」
「そういう事なら仕方ないですね。誰ですか」
「ラナ・ニールセンだ」
ケイトは笑顔を貼り付けながら内心でイラッとした。絶対、今日出張から帰ってくると分かってて言ったに違いない。なんて嫌がらせ。妹を仕事漬けにして楽しむなんて。日頃の関係性が見える思考だが、本気で怒ったり嫌ったりしている訳ではない。軽いジャブでじゃれ合うようなものだ。
「分かりました。何時からですか?」
「1時間後」
「了解。準備しまーす」
「頼むな~」
そうして瞬く間に1時間後。
2人はインタビュー用に用意された個室で、適当に記事用の会話をしつつ、コアネットワークでお喋りしていた。
(お姉ちゃん。私が今日出張から帰ってくるって分かってて指名入れたでしょ。余計な仕事増やすなんてサイテー)
(久しぶりに妹と話したいと思っただけですよ)
(世間話ならコアネットワークで済むでしょ。で、実際のところ何考えてるの?)
2人とも超高性能アンドロイドなのだ。並大抵の事は電子情報のやり取りで簡単に片付く。対面でなければ片付けられない用事など殆どないのだ。
(いえ、アリバイというか、既成事実を作っておこうと思いまして)
(どういうこと?)
(貴女が傭兵のラナ・ニールセン、或いはモデルのラナ・ニールセンと繋がっていると周囲が認識すれば、お互いに社会生活の中でメリットがあるでしょう)
2人がアンドロイド姉妹だというのは、世間一般には秘匿されている。何も知らない第三者から見れば、仕事以外は接点の無い赤の他人なのだ。そして今までは、それで問題無いと思っていた。コアネットワークを使えば、どんな情報だって一切の痕跡を残さずにやり取りできる。しかし人の中で生活している最中に、ふと思ったのだ。赤の他人を装い続けるより、人間社会の生活で築かれた関係性を隠れ蓑にした方が、少ない労力で自然に秘匿出来て、お互いの社会的立場も活用し易いのではないか、と。
ケイトはラナの考えを、すぐに察したようだった。
(なるほど。確かに仕事上の付き合いしかない人間を演じるより良いかも。仲良くなったお友達なら、ちょっと融通を利かせたり出来るもんね)
(そういうこと)
ここでケイトは、ラナの考えを実行するのに丁度良いイベントがあるのを思い出した。
コアネットワークを中断して、言葉で話し始める。
「ところでラナさん。少し別の話題なのですが、サイバーフォーミュラはお好きですか?」
「サイバーですか? 特に何処のチームが好きという訳ではありませんが、あのデザイン、ただ速く、何よりも速くを追及したデザインは好きですね」
「それは良かったです。実はレースクイーンが1人足りないという話を聞いてまして、もしサイバーが好きならどうでしょうか?」
普通なら、ラナ程の人物が受けるような仕事ではない。
しかしケイトの考えが分かったラナは、乗る事にした。
「終わった後にサイバーマシンを見せてくれるのでしたら」
「しっかりと交渉しておきますね」
これを切っ掛けにアンドロイド姉妹は、仕事で知り合って意気投合した仲の良い友人、というカバーを手に入れたのだった。
―――オマケ:レースクイーンな2人―――
しっかりと仕事をするラナ
ラナの口車に乗せられたケイト
―――オマケ:レースクイーンな2人―――
第255話に続く
ケイトさん。自分はレースクイーンなんてやる気無かったのに、お姉ちゃんの口車に乗せられて何故か自分もやるハメに………。(笑)
あと原作主人公の一夏くん。彼は彼でしっかり、そして着々と、かつて憧れ願った目標に進んでいるようです。